特別支援教育の現状と課題

発達障害のある生徒の理解と対応
長崎県教育センター
特別支援教育の対象となる児童生徒とは
障害のある子どもに関する教育制度の流れ
昭和22年~平成18年
特殊教育 障害の種類や程度に応じて特別な場を用意してきめ細かな指導
→ 盲・聾・養護学校、特殊学級、通級による指導(H5~)
平成18年度の対象者:1.9%
※義務教育段階における全児童生徒数に対する盲・聾・養護学校及び特殊学級在籍者並びに通級による指導対象者数の割合
平成19年~
障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに応じた適切な指導と必要な
支援
→ 特別支援学校、特別支援学級、通級による指導、通常の学級
特別支援教育
平成23年度の対象者:2.7%+6.5%+α
2.7% ※義務教育段階における全児童生徒数に対する特別支援学校及び特別支援学級在籍者並びに通級による指導対象者
数の割合
6.5% ※通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある児童生徒の割合、αは通常の学級に在籍する学校教育法施行令
第22条の3に該当する児童生徒等
今後
インクルーシブ人間の多様性の尊重強化、障害者の能力の最大限の発達等を目指した
教育システム共に学ぶ仕組み ※特別支援教育の推進が重要
→ 特別支援学校、特別支援学級、通級による指導、通常の学級といった
全ての子ども
連続性のある「多様な学びの場」を整備
※参照:「インクルーシブ教育システムにおける特別支援学校の未来~子ども・保護者・地域~」(全国心身障害児福祉財団)
小・中学校における状況
○通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある
特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関す
る調査結果(H24.12月公表)
※(小・中)学習面又は行動面で著しい困難を示す
推定値(95%信頼区間)
6.5% H14:6.3%
▼学習面・・・「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」
の一つあるいは複数に困難のある場合
▼行動面・・・「不注意」「多動性-衝動性」あるいは「対人関係やこだわり
等」の一つあるいは複数で問題を示す場合
高等学校における現状と課題
○特別支援教育の推進に関する調査研究協力者
会議 -高等学校WG報告-(H21.8月公表)
・高校進学者の約2%が支援を要する状況
・全日制に比べ定時制・通信制で相対的に高い
全日制1.8%、定時制14.1%、通信制15.7%
①入口側の支援・・・入試における配慮・支援、中高連携
②高校の内容(体制・指導)充実
体制充実・・・管理職・教職員や生徒・保護者の理解 など
指導充実・・・障害特性に応じた教科指導
多様な評価方法(レポート指導等)
など
③出口側の支援・・・キャリア教育・就労支援
特別な教育的支援を要する児童生徒の特性等
発達障害 - LD、ADHD、高機能自閉症等
○原因は不明
○中枢神経系に何らかの※機能不全があると
推定されている(脳機能の障害)
※機能不全→思うように働いてくれない。
→発達の偏りや特異な認知特性
として現れる。
特別な教育的支援を要する児童生徒の特性等
○生徒のつまずきや困っている事実を
共感的に理解する
※どの生徒も(多かれ少なかれ)得意・不得意
がある
※発達障害のある生徒の場合、それが顕著に現れ
る
※本人の得意な分野や良さを生かす
生徒がつまずいたり、困ったりすることが想定される場面
における対処の仕方を教える → 本人の自己理解
(例)テストにおける要領
◆得点アップの方法(ノウハウ)
○○科 中間テスト
1
/////////////////////////////////
(1) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
①
(2) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
①
○○科 中間テスト
1
//////////////////////////////////
(1) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
①
(2) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
①
2
2
3
3
まずは問題用紙をチェック
して、○・×・△をつける
※全体(俯瞰) → 部分 → 全体
○ ← 解ける問題
× ← 解けない問題
△ ← 時間があれば
チャレンジする問題
(例)その場面における適切な言動
◆教師の発問に対して答えるときは、
教師の方を見て手を挙げること!
(学習規律の形成)
○できて当たり前ではなくて、その都度確認
することが大切(実態の把握)
※授業中に何回も質問(挙手)があり、授業
進行の妨げになる
◆授業中に質問するときは、原則3回までとする
あとは放課後に職員室へ来ること
(許容と制限のバランス)
LD(学習障害)であれば・・・
読字障害(読めない)
書字障害(書けない)
算数障害(計算ができない)
→ みんなと同じようにやってるのに…
なぜ、自分だけできないの?!
→ 中・高校生の場合、周りとの比較のなかで
取り残され感や落ちこぼれ感も?
→ 自尊感情の低下、意欲の減退
ADHDであれば・・・
注意や集中の維持が難しい。
よく忘れる。
すぐにカッとなる、衝動的に動いてしまう。
→ よかれと思ってしたのに…
→ 叱責されることが多く、自分がしたこと
を冷静に振り返る機会や改善のための方
法が提供されにくい。
→ 同じ間違い(失敗)を繰り返してしまう。
高機能自閉症等であれば・・・
感覚的に過敏さ等がある。不器用。
集団になじめない。自分のことが最優先。
目に見えないもの(他者の気持ち等)や視覚的に
イメージできないものは理解が難しい。
→ 周囲の理解がないと、変わった児童生徒に見
られいじめやからかいの対象となりやすい。
→ パターン化した言動等が多く、周囲の人と
のコミュニケーションが難しい。
具体的対応
授業づくり
指導・支援の前提条件
○いつでも
○どこでも
○だれでも
できる
※この条件が揃えば
指導・支援を継続できる
指導・支援を行う際のキーワード
Simple
(簡潔)
Clear
(明確)
Visible
(可視)
学習指導における指導・支援を考える際の
4STEP
一斉指導における
実態(取組状況、理解度)の把握
誰にでも分かりやすい授業の展開
工夫や配慮等に関する情報共有
学習を補完する個別的対応
誰にでも分かりやすい授業づくり
学習
環境
授業
展開
指示
発問
個別
の対応
• 音や照明、掲示物等へ
の配慮
• 集中しやすい座席配置
• 本時(全体)の事前説明
• 授業展開のパターン化
• 体験的な活動等の導入
• 相手を意識した指示の出
し方
• 応答可能な発問(精選)
• 追加質問等の検討
・形成的評価(過程 の評価)
による習得度等の確認
発表等
ノート
指導
• 発表の仕方等の統一化
• 発表者への肯定的対応
• ノートのとり方の統一化
• 時間の設定
板書
• 板書事項の構造化
• チョークの色や文字の
大きさへの配慮
教材
・五感を刺激する教材や ICT
教具
の有効活用
学習環境 ・・・ 黒板周辺の不要な刺激等を排除することで、教師や黒板に集中できる
学習環境 ・・・ 教室内にある不要な刺激等を少なくすることで、注意の転導を抑える
学習環境 ・・・ 私物の整理整頓等が苦手な生徒のために ※整理の仕方を教える
学習環境 ・・・ 組織的対応の一例<校内における掲示物の取扱ルール(共通)>
校内で共通仕様として対応す
る部分については、校内委員
会で検討した上で、職員会議
において説明・周知します!
「まずは、取り組みやすいとこ
ろから」という視点も大切です
このような指示では、戸惑う生徒がいるかも・・・
選択で、数学をとった生徒で、
基礎コースは○教室、応用コース
は△教室です。応用コースの人は
先に□先生のところへ行ってプリ
ントをもらってから・・・・・
指示の出し方 ・・・ 聞き取ること、聞いて覚えることが苦手な生徒(相手)のために
基礎コース → ○教室へ
応用コース → □先生からプリントを
もらって △教室へ
指示の出し方 ・・・ さらに支援が必要な生徒のために(無理のない個別の対応)
発表等 ・・・ 自分の行動等をコントロールすることが苦手な生徒のために
はじめに、基本(原則)論を
教えること。※型を教える
そこでの規準が、場に応じた言
動や立ち居振舞い(SS)の理解
と定着につながっていく!
授業展開 ・・・ 抽象的な概念を理解することが苦手な生徒のために
そこにある情報(内容)
を、図や表等で示した
りするなど、分かりやす
く整理してあげること
○内容の精選
○必要最小限
※量的、質的コントロール
※量的、質的コントロール
つまずきを予測した指導・支援の工夫
ーある中学校の授業実践からー
○対 象: A中学校第2学年
○教科名: 数学科
○単元名:
「4章 平行と合同(東京書籍:新編 新しい数学2)」
○本 時: 「1節 平行線と角」(3/3時間)
○本時の目標
多角形の内角の和や外角の和の性質を理解し、
それを利用して図形のいろいろな角について、
その大きさを求めることができる
○本時の学習内容
・多角形の内角の和の性質をもとに外角の和
の
性質を考える
・多角形の外角の和の性質をもとに角の大きさ
を求める
外角
内角
つまずきを予測した指導・支援の工夫
ーある中学校の授業実践からー
外角を赤で表示
→ 図と地の強調、弁別のしやすさ
360°
「外角の和」の意味を動画で説明
→形の操作を動作化・視覚化することでイメージを持たせる
→「部分」と「全体」を関連付けるための配慮
つまずきを予測した指導・支援の工夫
ーある中学校の授業実践からー
外角赤と内角青のまとまりが5つあることを示
しながら、段階的に外角の和を求める
→ 図と地の強調、弁別のしやすさ
→ 視覚化による見る視点と言語化による考え
る
順序の提供、「部分」と「全体」を関連付ける
ための配慮
授業展開 ・・・ 授業開始冒頭に、本時の授業の概要を説明する
今日は何を学習するの?どこまで進むの?
見通しを持って臨める授業 → 生徒の安心感
例題
本時の活動
教科書 P20~25
1
2
3
4
先生の話を聞く ①
例題を解く
⑩
質問タイム
⑤
練習問題を解く ⑮
(10問)
5 答合せをする ⑧
6 板書タイム
⑩
7 先生の話を聞く ①
1
2
3
個別の対応
宿題・・・日割り方式はいかが?
 ある生徒(アスペルガー症候群)の事例から
まとめてドバっと出された夏休みの宿題!
何から手を付けていいのか、毎日、どの程度までやればよいの
か分からない。
日割り方式の導入(日付けの欄を設ける)
はじめとおわり
平成25年 月
日(
)
(1) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日はここまで、よく頑張ったね。
今日は、ここまでという
ゴールを先に教えること
で見通しを持つことがで
きます。それは、生徒の
安心感にも通じます!
特別支援教育の校内体制の整備と充実について
特COを中心とした校内委員
会を適切に機能させていくこ
とが大切です!
研修
現状
把握
校内
委員会
相談・
連携
指導・
支援
学校評価のなかに、特別支援
教育に関する評価項目を位置
付けることで、組織的対応が
可能になります!
個別の
教育支
援計画
最後に、一言
○児童生徒が困っていること(事実)、その事実の背景にある
もの(要因)をしっかりと見極めることが大切です。
まずは、どの場面で、どのような状態になるのか等、児童生
徒の現状(困っていること)を把握しましょう。
複数の教師の目で見ることで、その精度は高まります
チーム援助や組織的対応の重要性が叫ばれるゆえんです
○「分かりやすい授業」とは単に「難易度を下げること」では
ありません。取組の手段や方法を分かりやすくしたり、取組
の過程を細分化したりして、共通のゴールを目指すような支
援であることを確認しましょう
※参考・引用文献
 国立特別支援教育総合研究所( 2012 )、「発達障害のある子どもへの
学校教育における支援の在り方に関する実際的研究-幼児教育から
後期中等教育への支援の連続性-」
 鳥居深雪(2010)、思春期から自立期の特別支援教育 「人間理解」の
ためのヒント集、明治図書
 別府哲 小島道生編(2010)、「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理
解と支援、有斐閣選書
 月森久江(2012)、「教室でできる特別支援教育のアイデア 中学校・高
等学校編」
 岡山県総合教育センター(2008)、「高等学校における発達障害のある
生徒の支援に関する研究」
 岩手県立総合教育センター(2011)、「すべての生徒が輝く指導・支援の
すすめ」
 国立特別支援教育総合研究所( 2009 )、「特別支援教育の基礎・基本」
 長崎県教育委員会(2012)、「高等学校における特別支援教育ガイド
ブック~実践編~」