テレビ時代の記憶 ーテレビ世代の少女たちー

テレビ時代の記憶
ーテレビ世代の少女たちー
1.はじめに
2.テレビ視聴行動の特徴
3.幼児期と児童期に視聴していた
番組に関する記憶と評価
4.社会的出来事の記憶と
テレビの報道機能に対する評価
5.子育て世代にとってのテレビ
1.はじめに
「テレビ世代」の少女たち
・1960年代後半~1970年第前半に誕生。
・生まれた時から自宅にテレビ受像機がある最初の世
代。
・「テレビ全盛(安定)期」=1970年代に幼児期・児童期。
・1970年代には、男の子向けアニメ・女の子向けアニメ
が数多く放送された。
・1970年代後半は幼児向けテレビ番組の黄金期。
表1 世代的特徴
年号 年齢
1966
1969
1973
1986
1991
1995
1997
2001
2003
2011
0歳
2歳
7歳
20歳
25歳
29歳
31歳
35歳
37歳
45歳
社会的出来事など
3C(車、クーラー、カラーテレビ)の普及が始まる
テレビ普及率9割を超える 経済成長期かつ政
治の安定期に成長
第1次オイルショック
男女雇用機会均等用志向 バブル経済期の売り
手市場時に社会人に
湾岸戦争
結婚もしくは出
阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件
産を機に退職
神戸児童連続殺傷事件
混沌とした政治・経
附属池田小事件、米同時多発テロ事件
済、大規模な事件、
イラク戦争
災害の中での子育
東日本大震災
て
2.テレビ視聴行動の特徴
調査概要
調査協力者 小学生の子どものいる母親13名。
1963~1972年生まれ。
手続き 2009年6月~9月に3~4名ずつのグループインタ
ビューを実施。
質問項目 子供時代のテレビ環境(自宅にいつからテレ
ビがあったか)
テレビ視聴の思い出(幼児期、児童期、青年
期、結婚後など)
幼児期・児童期
専念視聴←テレビの魅力
中学入学後
ながら視聴(細切れ視聴、つきあい視聴)
←生活時間の変化、家族視聴の居心地の悪さ(心理的要因)
最近(結婚後、子育て期)
ながら視聴←子育て中の母親(年齢効果×性役割)
テレビ世代の少女たち(=40代半ばの母親たち)にとっての
テレビ視聴とは・・・・・・
 あくまでも「専念視聴」
 「ながら視聴」
×青年期に見たことがある番組
×『おかあさんといっしょ』 ×ニュース番組
 テレビを多岐にわたる目的で使用
「ニュース提供」機能・「報道」機能
「娯楽」機能
「気晴らし」機能
「子守」機能
「教養」機能
テレビ世代の少女たちの
テレビ視聴経験の思い出の想起量
◎幼児期と児童期に視聴した娯楽番組
←テレビへの関与度(熱心にテレビを見ていた)
◎最近十数年の間に起きた社会的出来事<新近性効果>
←社会的出来事の持つインパクト
×レミニセス・バンプ
3.幼児期と児童期に視聴していた
番組に関する記憶と評価
幼児期と児童期に視聴していた番組
番組ジャンル
幼児向け番組
番組名
『おかあさんといっしょ』(NHK)
『ロンパールーム』(日テレ)★
(http://www.youtube.com/watch?v=BYalcst7SVo)
『ひみつのアッコちゃん』(NET)
(http://www.youtube.com/watch?v=KykhC2-WP7s)
アニメ
『まんが日本昔話』(NET→TBS)
『世界名作劇場』(フジ)★
(http://www.youtube.com/watch?v=t-IypcVaF_4)
バラエティ番組
『8時だヨ!全員集合』(TBS)★
各ジャンルの番組に関する記憶の構築プロセス
テレビ番組の疑似体験
• 出演者への同一視⇒出演者の行為の模倣
• 感情の疑似体験⇒熱心な視聴
• 茶の間と劇場を一体化させる装置⇒“お茶の間劇場”
パーソナル・ネットワークでの番組内容の共有
• 親の奨励⇒「テレビ的教養」(佐藤, 2008)
• リアルタイムで世代を超えて番組内容を共有⇒家族団欒
• 学校集団でのギャグやパフォーマンスの共有
幼児期・児童期に視聴した番組に対する評価
1960年代以降、テレビの娯楽番組が子供たちへ負の影響
を及ぼすとされてきた。
・学力低下(Shin, 2004)
・思春期の社会的・心理的不適応(角谷・無藤, 2010)
しかし、
調査協力者たちは、幼児期・児童期に視聴したテレビ番組
を肯定的に評価。
←肯定的な感情体験
←昨今のバラエティ番組との違い
一方で、母親として子どもに及ぼす番組の負の影響に懸念
=当時のPTAによる番組批判
4.社会的出来事の記憶と
テレビの報道機能に対する評価
テレビから入手した社会的出来事
発生年
予定されて
いた出来事
出来事
2008
北京オリンピック女子ソフト決勝戦
1972
あさま山荘事件
1991
1995
2001
2005
湾岸戦争
象徴的映像が存在
地下鉄サリン事件、阪神・淡路大震災
米同時多発テロ事件
JR福知山線脱線事故
2001
2008
秋葉原通り魔事件
被害者になる可能性
附属池田小事件
パーソナル・ネットワークでの共有
象徴的な映像が存在する場合
ある事件を象徴する決定的な映像はすべての世代の集
合的記憶を構築する。
ex.「あさま山荘事件」の鉄球の映像
しばしば放送されることで世代を超えて共有
「米同時多発テロ事件」の二機目の飛行機がビ
ルに激突する映像
繰り返し放送されることで目に焼き付く
〃
矛盾した気持ちになる
象徴的な映像が存在しない場合
・無防備な一般市民が無差別に殺戮
・被害の規模が大きいほど、事件の特異性が高いほど報
道量が多い
パーソナル・ネット
ワークでの共有
恐怖心の高まり
過度な情報収集
社会的出来事について新近性効果が認められた理由
年齢効果と性役割の相互作用効果
• 母親として家事と育児に多忙→テレビ視聴行動
• 手軽にニュースを入手できるテレビを重宝
年代効果(1980年代半ば以降のニュース番組の変化)
• 報道番組の刷新
• インパクトのある世界的規模の出来事の発生
5.子育て世代にとってのテレビ
幼児期と児童期にテレビに
おける娯楽を享受した経験
・社会的出来事の情報源としてテレビを利用
・さまざまな機能がテレビに備わっていることを熟知し、
テレビを便利な道具とみなししている。
アニメ番組=娯楽、気晴らし、子守り、教育
バラエティ番組=娯楽、気晴らし、一家団欒
報道番組、情報番組=情報、教育
幼児期と児童期にテレビに
おける娯楽を享受した経験
・娯楽としてのテレビ視聴は、小学校卒業までの通過儀礼
⇒テレビの子どもへの負の影響を懸念することは少ない
⇒小学生の子供たちが見る番組をあまり制限しない
・子どもが視聴する番組の良し悪しを自ら視聴していた類似
の番組と比較し判断
内面化された
母親役割
・バラエティ番組に「一家団欒」機能を見い出していない
←母親役割に忙しくテレビを楽しむ余裕がない
母親として
「つき合い視聴」をし、
「一家団欒」の場を演出
参考文献
有馬明恵 (2012). 均等法世代の主婦にとってのテレビ視聴
メ ディア・コミュニケーション, 62, 121-134.
太田省一 (2007). 開拓者の時代―70年代のバラエティという
フロンティア 長谷正人・太田省一(編著) テレビだョ!
全員集合 青弓社 pp.28-54.
佐藤竹己 (2008). テレビ的教養―一億総博知化への系譜
NTT出版
Shin, N. (2004). Exploring pathways from television viewing to
academic achievement in school age children. The Journal
of Genetic Psychology, 165, 367-381.
角谷詩織・無藤隆 (2010). 児童期にドラマ、お笑いのバラエティ、
トーク番組、音楽番組をよく見ることが、思春期の子供の
社会的・心理的不適応に及ぼす縦断的影響 上越教育大
学研究紀要, 29, 101-112.