スライド 1

Case
53歳男性。健康診断にて高血圧、高脂血症を指摘され、精
査のため来院。
所見:身長162㎝、体重92㎏、血圧 168/108、脈拍106/分、
そのほかの理学所見では異常なし。
検査所見:末梢血異常なし、肝機能、腎機能異常なし。LDLcholesterol 178mg/dl。
高血圧や高脂血症は自覚症状を訴える場合が少なく、ほ
とんど検診などで偶然発見されることが多い。このような
患者が来院したら、まずどのような検査をするか?
初診時の高血圧の治療指針
血圧測定、病歴、身体所見、検査所見
2次性高血圧を除外
危険因子、臓器障害、心血管病、合併症を評価
生活習慣の修正を指導
低リスク群
3か月以内の指導で
140/90mmHg
以上なら降圧剤治療
中等リスク群
1か月以内の指導で
140/90mmHg
以上なら降圧剤治療
高リスク群
直ちに降圧剤治療
高血圧症の定義を述べよ!
高血圧症の定義
血圧について説明せよ!
血管系の構造と働き
全身に張り巡らされた血管網を(動
脈も静脈も)きちんとイメージする。
動脈と静脈の間には上図のような毛細血管網が存
在しており、全身くまなく血管が通っていることをイ
メージする。
一人の体には地球2周半の血管網(約10万km)が存在する。心臓のポンプの働きは、石の水
への落下でできる波が遠ざかるにつれて小さくなって行くように、心臓から遠ざかるにつれて小
さくなることをイメージする。静脈側では、筋肉のポンプ作用が大きな働き。
心臓のポンプ機能と血圧
心臓のポンプ作用と血圧
心臓から1分間に約5リットルの血液が
送り出される。心臓の収縮期には流出
する血液の勢いが良くなるために血管
壁にかかる圧力が高くなる。(収縮期
血圧)
拡張期には血管の弾力性のために血
管が収縮して一定の圧力が保たれる。
(拡張期血圧)
血圧測定
毛細血管では脈圧0
血液の循環は心臓の収縮によって維持されている。
収縮期の圧力を最大血圧といい、拡張期の血圧を
最小血圧という。この脈圧が血液を押し進める原動
力となっている。
高血圧が健康に良くない理由を述べよ!
血圧階層別の累積生存率
血圧が高い順に長期追跡時の心血管疾患による生存率が低下する。
(島本ら、端野・壮瞥町研究より)
高血圧症
高血圧で何が悪いのか?
1.動脈硬化が原因で脳や心臓の
血管障害がおこる。
2.動脈硬化が原因で腎硬化症が
起こる。
3.高血圧の人は2-3倍糖尿病に
なりやすい。
動脈硬化症のモデル
LDLコレステロールが高くなると、高
血圧や糖尿病で傷害された血管内
皮細胞の下に沈着しやすくなり、マク
ロファージも侵入してくる。
侵入したマクロファージが酸化LDLを
貪食し泡沫細胞になり、血管壁が肥
厚してくる。これが動脈硬化のプラー
クと呼ばれるものである。
血管内日に傷がつくと、プラークが破
れ、血小板が凝集し、血液凝固によ
る決選形成が始まる。
診察室高血圧に基づいた脳心血管リスク
正常高値血圧
130-139/
85-89 mmHg
リスク第一層
(危険因子がない)
リスク第二層
(糖尿病以外の1-2個の危
険因子、メタボリックシンド
ロームあり)
リスク第三層
(糖尿病、CKD、臓器障害
/心血管病、3個のうち危険
因子のうちいずれかがある。
I度高血圧
140-159/
90-99 mmHg
II度高血圧
III度高血圧
≧180/
160-179/
10-109 mmHg ≧110mmHg
付加リスクなし
低リスク
中等リスク
高リスク
中等リスク
中等リスク
高リスク
高リスク
高リスク
高リスク
高リスク
高リスク
1.主な降圧剤をあげよ。
2.主な降圧剤の適応と禁忌について述べよ。
主要降圧剤の積極的適応
左室肥大
Ca拮抗薬
ARB/ACE
阻害薬
○
○
心不全
○
心房細動(予防)
○
利尿薬
B遮断
薬
○
○
頻脈
○
○
狭心症
○
○
心筋梗塞後
○
蛋白尿
○
腎不全
○
○
○
○
脳血管障害慢性期
○
糖尿病
高齢者
○
○
○
○
○
主要降圧剤の禁忌もしくは慎重使用例
禁忌
慎重使用例
Ca拮抗薬
徐脈
心不全
ARB
妊娠
高K血症
腎動脈狭窄症
ACE阻害薬
妊娠
血管神経性浮腫
高K血症
腎動脈狭窄症
利尿薬
(サイアザイド系)
痛風
低K血症
妊娠
耐糖能異常
b遮断薬
喘息
高度徐脈
耐糖能異常
閉塞性肺疾患
末梢動脈疾患
1.心疾患を合併する高血圧症の治療法は?
2.慢性腎疾患を合併する高血圧の治療法は?
3.糖尿病を合併する高血圧の治療法は?
4.高齢者の高血圧の治療法は?
5.メタボリックシンドロームを合併した高血圧の治療は?
6.パニック発作を伴う高血圧の治療は?
心疾患を合併する高血圧の治療
狭心症
・器質的冠動脈狭窄
・冠攣縮
・降圧が不十分
心筋梗塞後
β遮断薬、長時間作用型Ca拮抗薬
長時間作用型Ca拮抗薬
RA系阻害薬の追加
・慎重に130/80mmHg未満に降圧を図る
・RA系阻害薬、b遮断薬が第一選択
・高圧が不十分な場合
・低心機能症例
心不全
心肥大
長時間作用型Ca拮抗薬、利尿薬の追加
アルドステロン拮抗薬の追加
・標準的治療
RA系阻害薬*2+β遮断薬*2+利尿薬
・重症例
アルドステロン拮抗薬の追加
・降圧が不十分な場合
長時間作用型Ca拮抗薬の追加
・持続的かつ十分な降圧を図る
・RA系阻害薬/長時間作用型Ca拮抗薬が第一選択薬
心房細動
・予防の観点からRA系阻害薬を中心とした十分な降圧が勧められる
(特に、発作性心房細動や心不全合併症例、左室肥大や左房拡大が明ら
かな症例)
・慢性心房細動患者では、心拍数コントロールのためにβ遮断薬やジヒドロ
ピリジン系Ca拮抗薬を考慮する
1.心疾患を合併する高血圧症の治療法は?
2.慢性腎疾患を合併する高血圧の治療法は?
3.糖尿病を合併する高血圧の治療法は?
4.高齢者の高血圧の治療法は?
5.メタボリックシンドロームを合併した高血圧の治療は?
6.パニック発作を伴う高血圧の治療は?
慢性腎疾患(CKD)を合併する高血圧の治療
継続
・原疾患の治療
・生活習慣の改善
腎機能、血清電解質、尿検査 、尿のAlb/Crの測定*1
ACE阻害薬またはARB
・ACE阻害薬またはARBの継続
・降圧不十分であれば、利尿薬、
Ca拮抗薬の併用、用量の調
節、他薬の併用
腎機能、血清電解質、尿の定期的検査
no
目標
血圧:130/80mmHg未満
尿のAlb/Cr:30 mg/g未満
300 mg/g未満
・Scr 30%以上の上昇
・血清K 5.5mEq/l以上
・急激な血圧低下
yes
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1.心疾患を合併する高血圧症の治療法は?
2.慢性腎疾患を合併する高血圧の治療法は?
3.糖尿病を合併する高血圧の治療法は?
4.高齢者の高血圧の治療法は?
5.メタボリックシンドロームを合併した高血圧の治療は?
6.パニック発作を伴う高血圧の治療は?
Case 56歳、男性 会社員(管理職)
主訴 糖尿病の疑い
家族歴 父、姉に糖尿病
生活習慣 【 飲酒 】3回/週、宴会の機会多い、喫煙:20本/日
特に運動はしておらず、1ヵ月に2回ほどゴルフをする程度。
現病歴 【 高血圧 】
7年前に健診にて高血圧を指摘され、Ca拮抗薬(中心用量)の
投与を受けていた。
健診にて、随時血糖値212mg/dL、HbA1C6.2%と糖尿病の可
能性を指摘され、精密検査のため受診。 検査の結果糖尿病と診
断された。
現治療 高血圧:Ca拮抗薬(中心用量)
1.新たに糖尿病と診断された本症例に対して、どのような検査を実施すべきか?
2.本症例に対して生活習慣の改善(食事・運動療法)を指導した結果、半年後の血
圧は136/86mmHgでした。本症例において降圧薬治療の変更を考えますか?
高血圧患者に糖尿病の合併を発見した時の検査
新規糖尿病例に対しては、糖尿病の合
併症がどの程度進行しているかを正確
に評価しておくことが必要である。眼底
検査は糖尿病性網膜症の診断だけでな
く、全身の細小血管障害の程度を把握
するためにも重要な検査で、糖尿病診断
時にはできる限り実施することが必要で
あり、できれば眼科医にも診察を依頼す
ることが望ましい。
尿中アルブミン測定も糖尿病診療に不
可欠の検査である。尿中アルブミン値は
糖尿病性腎症を発見するための鋭敏な
指標であり、その上昇は早期腎症の診
断に必須である。
A
B
C
D
E
F
G
75g経口ブドウ糖負荷試験(血糖値・インスリン値)
眼底検査
頸部エコー
心電図
尿中アルブミン
上記以外の検査を実施
特に新たな検査を実施しない
糖尿病合併高血圧の心血管イベントの増加
新たに糖尿病と
診断された症例
といえども既に
心血管疾患は進
行している可能
性があり、心筋
梗塞などの発症
リスクが高い。
糖尿病性腎症の早期診断
糖尿病を合併する高血圧の治療
治療開始時130/80 mmHg以上
生活習慣の修正・血糖管理と同時に薬物治療
ARBあるいはACE阻害薬が第1選択
効果不十分
用量を増加
Ca拮抗剤、利尿薬を併用
効果不十分
3剤併用:ARBあるいはACE阻害薬、 Ca拮抗剤、利尿薬
降圧目標: 130/80 mmHg未満
1.心疾患を合併する高血圧症の治療法は?
2.慢性腎疾患を合併する高血圧の治療法は?
3.糖尿病を合併する高血圧の治療法は?
4.高齢者の高血圧の治療法は?
5.メタボリックシンドロームを合併した高血圧の治療は?
6.パニック発作を伴う高血圧の治療は?
Case 68歳 男性
現病歴: 妻が使用している家庭血圧計を使用したところ、血圧
が高値に推移していることに不安を感じ受診。
各種検査を行い家庭血圧記録、食事・運動療法を指示した。
1ヵ月目の再診外来受診時のデータを下記に示す。
体重68.5㎏、BMI: 24.7、初診時血圧:162/102、家庭血圧:
160/100程度。
検査所見:Cr 1.0mg/dl、尿酸6.7mg/dl、心電図:左室高電位
1.この症例について、降圧治療を開始するにあたり最も重視する指標は何ですか。
2.この症例について、降圧治療に選択する薬剤は何ですか。
9545人の医師の回答
A 外来血圧を重視する
B 早朝血圧(家庭血圧値)を重
視する
C 腎機能の評価を重視する
(血清クレアチニン値)
D 心機能の評価を重視する
(心電図、BNP)
E その他
■Ca拮抗薬
■RA系抑制薬
■少量の利尿薬
■β遮断薬
■α遮断薬
本症例の治療で注意すべき点
1.本症例は生活習慣修正後も外来血圧が156/100mmHg以上であり、家庭血
圧測定によると早朝血圧も高値である。年齢を考慮して血清クレアチニン値から
推定糸球体濾過率(eGFR)を計算すると55ml/min/1.73m2となり、血清クレアチ
ニン値の値が3ヵ月後もこの状態であれば慢性腎臓病(CKD)も疑われる。さらに、
心電図左室高電位が指摘されているため、これらをふまえた上で、治療方針を立
ていく必要がある。
2.腎機能(血清クレアチニン)
本症例は初診でeGFR=55ml/min/1.73m2であり、CKDの可能性も考えられる。
現状で蛋白尿は(-)であるが、十分な経過観察が求められる。蛋白尿が(+)の場
合にはRA系抑制薬の投与を念頭に降圧治療を進めていく。
3.心機能(心電図・BNP)
本症例では心電図検査の結果より左室肥大が疑われることから、可能であれば
心エコー等で確認しておくことも、今後の方針を決定していく上で大切であろう。
高齢者の高血圧
高齢者高血圧の特徴
1.太い血管も動脈硬化が認められ、収縮期血圧の上昇があ
るが、拡張期血圧はむしろ低下する。
2.全身的な動脈硬化により脳、心臓、腎臓などの主要臓器の
血流量は低下傾向を示す。
3.起立性低血圧が多い。
4.夜間高血圧、総長高血圧が多い。
高齢者高血圧の治療の原則
1.急速な降圧は臓器の血流障害をもたらすので、緩徐に降
圧を図る。
2.生活習慣の改善をまず第一に図る。
3.140/90未満位を目標にあまり下げすぎない。
生活習慣の修正項目(JSH2004より)
1)食塩制限6g/日未満
2)野菜・果物の積極的摂取*
コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える
3)適正体重の維持:BMI(体重(kg)÷[身長(m)×身長(m)])で25
を超えない
4)運動療法:心血管病のない高血圧患者が対象で、有酸素運動を
毎日30分以上を目標に定期的に行う
5)アルコール制限:エタノールで男性20~30mL/日以下、女性は
10~20mL/日以下
6)禁煙
生活習慣の複合的な修正はより効果的である
高齢者の高血圧治療
1.心疾患を合併する高血圧症の治療法は?
2.慢性腎疾患を合併する高血圧の治療法は?
3.糖尿病を合併する高血圧の治療法は?
4.高齢者の高血圧の治療法は?
5.メタボリックシンドロームを合併した高血圧の治療は?
6.パニック発作を伴う高血圧の治療は?
Case 50歳男性
現病歴:健康診断で高血圧と腹部肥満を指摘されたが、当院来院ま
では循環器系疾患の受診歴はなし。
ビール 350mL缶、1日2缶。接待や飲食の付き合いも週に1、2回
ある。20-48歳、1日20本
血圧 160/92mmHg、心拍数 86/分
心電図:正常洞調律、心拍数 86/分、QRS高振幅、ST-T変化なし
身長171㎝、体重75.6㎏、BMI 26.1、ウエスト90㎝
1.この患者の高血圧治療のベース薬と考えられる薬剤を1つ選べ。
2.ベース薬で血圧コントロールが不十分だった場合、併用薬として考え
られる薬剤を1つ選べ。
本症例に対する第一選択薬
■ ACE-I
■ ARB
■ β遮断薬
■ Ca拮抗薬(DHP系)
■ Ca拮抗薬(非DHP系)
■ 利尿薬
降圧効果を期待した薬剤選択、またはメタボリックシンド
ロームを意識してRA系阻害薬を選択するのも一つの考
え方だが、頻脈を考えるとbeta阻害剤も選択肢の一つ。
脈拍数の多い高血圧症に対する薬剤の選択
メタボリックシンドローム予備軍で心拍
数が高い患者は、3年後にメタボリック
シンドロームになる確率が3~4倍高い
JSH2009では、頻脈合併例にはβ遮断薬
および非DHP系Ca拮抗薬が推奨されて
いる。
1.心疾患を合併する高血圧症の治療法は?
2.慢性腎疾患を合併する高血圧の治療法は?
3.糖尿病を合併する高血圧の治療法は?
4.高齢者の高血圧の治療法は?
5.メタボリックシンドロームを合併した高血圧の治療は?
6.パニック発作を伴う高血圧の治療は?
Case
77歳男性
血圧が高い(心配)
近医で高血圧で通院中。現在、ARB単剤が処方されている。一人暮らし。すで
に妻は半年前に他界している。妻他界の直後に当院に一度近医からの紹介で
入院し、高血圧の精査を循環器科で行ったばかりである。二次性高血圧は否定
的と判断されている。最近、顔のほてりとともに、急に血圧が上がった感じを自
覚するようになり、手元の血圧計で測ると230もあるので、どうしようもない不安
感に襲われ、救急車を呼んでしまうことが、この3ヶ月間で4,5回も繰り返されて
いる。救急外来につくと、血圧は150くらいにいつも落ち着いている。 最初のこ
ろは、血液や心電図、頭のCTなどをチェックしてくれて、異常がないと言ってくれ
たが、ここ1,2回は、医師は検査もしてくれなくなった。それどころか、これぐらい
で救急車を呼んではいけないと医師側から諭されることもあったという。 最近の
記載には、「不安神経症?」「心因性?」「精神科へ紹介の必要かも?」などと書
かれている。 そんな患者が、また救急車でやってきた。
何を考えてどうすべきか?
日常診療において、上記のような、動悸、手のしびれ等の身体症状と、急な血圧の
上昇を訴えて受診する患者さんがいる。家庭血圧計が普及し、血圧の上昇と身体
症状を訴えるこのような患者さんの中に、パニック発作が含まれていることがある。
パニック発作と高血圧
高血圧の背後にあるパニック発作
がみつかりにくい理由として、患者さ
んは、気分が悪い、何かおかしいと
感じると血圧を測り、血圧が高いの
で、血圧上昇が身体症状の原因と
考えてしまう為、医師への訴えも血
圧に集中してしまうことなどが考えら
れる
本態性高血圧として治療中に、発作性の血圧上昇で救急外来受診を繰り返した症
例に対し、2次性の血圧上昇でないことを確認し、STAI不安得点が高いこと等より、
パニック障害を考え、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、SSRIの治療で症状の安定が
みられた。