臨床試験

新薬承認と臨床試験
原野 悟
社会医学系公衆衛生学分野
なぜ新薬承認に臨床試験が必要か?

効果
その薬には治療効果があるか?
服薬量や回数は減らせるか?
治療費は安くできるか?
etc.,etc.

安全性
副作用は少ないか?
指示どおりに服用できるか?
体内残留は影響ないか?
etc.,etc.
3E

Efficacy 効能
• 能力があるか

Effectiveness 効果
• 実用的に役立つか

Efficiency 効率
• かかった資源に見合う
効果があるか
新薬開発のステップ
許認可段階
研究・開発段階
基
礎
調
査
基礎試験
(非臨床試験)
薬理研究
物
質
創
製
研
究
臨
床
研
製剤化研究
究
毒性研究
製
造
(
輸
入
)
承
認
申
請
・
審
査
承
認
市販後
市
販
後
調
査
再
審
査
・
承
認
基礎試験

薬理研究
• 薬物動態(吸収・分布・
代謝・排泄)
• 一般薬理研究
• 効力薬理

製剤化研究
• 規格・試験方法
• 安全性

毒性研究
• 一般毒性



急性毒性
亜急性毒性
慢性毒性
• 特殊毒性




生殖試験
抗原性
変異原性
Etc.
GCP(Good Clinical Practice)


ICH(The International Conference on
Harmonization of Technical
Requirements for Registration of
Pharmaceuticals for Human Use)
医薬品の臨床試験の実施基準(新GCP)
• 薬事法、省令


GMP(Good Manufacturing Practice)
GLP(Good Laboratory Practice)
新GCPの特徴

役割、責任体制の明確化
• 治験総括医師の廃止、治験依頼者の責任強化、
治験責任医制度の確立

厳密なインフォームドコンセント
• 文書による同意、説明事項拡大、非治療的・救命
的治験

管理システムの明確化
• SOP、モニタリング、監査、閲覧

強力なIRB(治験審査委員会)
• 設置者、構成メンバー、運営手順、治験調整医師、
実施計画書
IRB(Independent Review Board)

構成
• 倫理的・科学的審査が可能
• 5名以上
• 少なくとも1名は医学・歯学・薬学など医療系以外
の専門の者
• 実施医療機関と利害関係を有しない者

審議事項
• 新規・継続治験の適否
• 実施医療機関の長より尋ねられた事項
• 治験の監視、その他
治験責任医師

要件
• 治験についての充分な教育と訓練、充分な臨床
経験
• 治験実施計画書、治験薬概要書、治験薬の適切
な使用方法に精通
• 治験を行うのに必要な時間的余裕
治験責任医師(続き)

責務
• 被験者の選定
• 被験者に対する責務
• 実施計画書よりの逸脱の報告
• 症例報告書
• 治験中の副作用等の報告
• 治験の中断や中止等の報告
被験者に対する責務




治験薬の適正な使用方法の説明と確認
他の医師により治療を受けている場合に
通知の義務(被験者の同意のもと)
事前に有害事象に対する必要措置
有害事象により治療が必要な場合には被
験者に通知
治験分担医師


治験責任医師の業務を分担
実際の投薬や症例報告書の作成
治験調整医師
多施設共同治験を行う場合、当該治験
に係わる業務等を調整
ただし、全体を統括する権限や責任は
持たない
治験コーディネーター(CRC)

職務
• 治験準備
• 治験審査委員会との連絡協議
• インフォームドコンセント
• 治験薬の管理
• 患者の相談業務
• 治験実施時の強力
• 治験実施(臨床検査)
• 有害事象関連
臨床試験(治験)
GPMP
契約
臨床試験
第Ⅰ相試験
治験実施
計画書
第Ⅱ相試験
治験計画届
第Ⅲ相試験
承
第Ⅳ相試験
認
・
市
OR
販
市販後
サーベイランス
臨床試験

第Ⅰ相試験
• 吸収・代謝・妊孕性、安全性
• 対象:健常ボランティア(通常成人男性)
10~20名以上

第Ⅱ相試験
• 用量設定
• 対象:患者 50~100名以上
臨床試験(続き)

第Ⅲ相試験
• 効能・効果比較
• 代替エンドポイント
• 対象:患者 200~1,000名以上

第Ⅳ相試験
• 市販後調査
• 患者アウトカム、副反応、費用分析
• 対象:患者 5,000~10,000名以上
患者アウトカム
Patient-oriented Outcomes

臨床的
• 死亡
• 病理的変化
• 非致死的な臨床上の転帰
• 再入院
• 疾患や治療の合併症
• 生理学的検査
• 検体検査
• 症状
患者アウトカム(続き)

患者申告
• 健康関連QOL
• 治療の満足度

費用
• 健康サービスの利用度
• 直接的費用(治療費など)
• 間接的費用(損失労働日など)
詳しくはCecilの内科書を参照
無作為化比較対照試験のデザイン
研
究
対
象
集
団
無
作
為
割
付
介新
入し
群い
薬
対既
照存
群の
薬
改善(+)
改善(-)
改善(+)
改善(-)
処置の比較

治療あり 対 治療なし

治療A(新薬) 対 治療B(既存薬)

治療あり 対 プラセーボ(偽薬)
RCTの設定要素と手順

被験者の選択
RCTの設定要素と手順


被験者の選択
被験者の治療群(介入群)への割付
• 治療群だけを見るのか?
RCTの設定要素と手順


被験者の選択
被験者の治療群(介入群)への割付
a. 無作為化
どの群になるのか予測できないように偶然
によりそれぞれの群へ割り付ける過程
無作為化 Randomization

目的
• 介入群へ被験者を割り付ける際のバイアスを
防ぐ
• 予測可能性を避ける

副産物
• 群間の比較同質性 comparability を達成
する(ただし、保証なし)
RCTの設定要素と手順


被験者の選択
被験者の治療群(介入群)への割付
a. 無作為化
b. 層別化と無作為化
RCTの設定要素と手順



被験者の選択
被験者の治療群(介入群)への割付
被験者のデータ収集
a. 処置(割り付けと実際受けたもの)
b. 結果(有益な効果と不利な効果を含む)
c. 参入時の予後的側面(危険因子)
RCTの設定要素と手順




被験者の選択
被験者の治療群(介入群)への割付
被験者のデータ収集
マスキング(「盲検化」)
a. 被験者
b. データ収集者
c. データ解析者
RCTの設定要素と手順





被験者の選択
被験者の治療群(介入群)への割付
被験者のデータ収集
マスキング(「盲検化」)
偽薬(プラセーボ Placebo)
• 割り付け結果を隠すため
• 副作用や副反応の率を調べるため
RCTの設定要素と手順






被験者の選択
被験者の治療群(介入群)への割付
被験者のデータ収集
マスキング(「盲検化」)
偽薬(プラセーボ Placebo)
コンプライアンス Compliance(遵守)
• 設定された計画どおりの手順を遂行する参
加者の意志
無作為化臨床試験の種類





単純、非交差 Simple, non-crossover
計画的交差比較 Planned crossover
非計画的交差比較 Unplanned
crossover
多元配置(要因デザイン) Factorial
治療する意図の分析(治療本意の分析)
Intention to treat analysis
本来の無作為化臨床試験
(per protocol)
無作為化
介入群
対照群
継続
拒否・中断
継続
拒否・中断
結果
(除外)
結果
(除外)
Intention to treat analysis
無作為化
介入群
拒否
中断
継続
結果
対照群
拒否
中断
継続
結果
Per protocolとIntention to treatの比較
Per protocol
Intention to treat
解明的
実用的
主目的
仮説検定
最適治療の選択
指示治療拒否例
原則除外
解析に含める
治療条件の調整
同一条件下で比較
実用条件下で比較
効果の評価
客観的で特定の効果
(効能)
包括的実用的評価
(主観的効果も加味)
エンドポイント
関心のある事象
(検査値、症状など)
患者の利害に直結する
事象(患者アウトカム)
あり
比較的少ない
倫理的問題
参考
原野悟:
研究の質を評価する;
解析:intention to treat と per protocol
血圧 10(12), 1287-1291
高久文麿(編):
臨床試験のABC
医学書院