禁煙ガイドライン解説

日本学術会議シンポジウム
「脱タバコ社会の実現のために
-エビデンスに基づく対策の提言-」
開催趣旨
兵庫県立尼崎病院 院長
藤原久義
日本学術会議シンポジウム「脱タバコ社会の実現のため
に-エビデンスに基づく対策の提言-」
開催主旨
I.日本学術会議「脱タバコ社会の実現分
科会」とは?
II.なぜ本シンポジウムでは、特に3つの対策を取り上げるの
か?
III.喫煙の健康障害
日本学術会議:約80万人の科学者の内
外に対する代表機関
• 行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させる
ことを目的
• 内閣総理大臣が所轄する (総理府)団体
• 政府に対して政策提言や科学に関する審議
健康・生活科学委員会:脱タバコ社会の実現分科会
(会長:大野竜三)
• 科学者コミュニティーの連携
• 科学に関する国際交流
• 社会とのコミュニケーション
喫煙は趣味・嗜好から病気(依存症+喫煙
関連疾患)へ
タバコ許容社会から脱タバコ社会へ
2000年: 健康日本21
各医学学会の禁煙宣言
2003年: 健康増進法25条の受動喫煙防止法
2005年: タバコ警告表示の改変
喫煙疾患関連9医学会の合同「禁煙
ガイドライン」
「たばこの規制に関する世界保健機
関(WHO)枠組条約(FCTC)」の締結
2006年: 禁煙指導・ニコチン代替療法の保険適応
ー医学関連各学会・団体の禁煙宣言は遅れたー
学会の禁煙宣言
日本呼吸器学会
日本小児科学会
日本肺癌学会
日本公衆衛生学会
日本学校保健学会
喫煙に関する勧告
小児期からの喫煙予防に関する提言
「禁煙宣言」
「たばこのない社会」の実現に向けて
青少年の喫煙防止に関する提言
(1997年)
(1999年)
(2000年)
(2000年)
(2001年)
日本循環器学会
「禁煙宣言」
(2002年)
日本口腔衛生学会
日本小児科学会
日本気管支学会
日本呼吸器学会
日本癌学会
日本口腔外科学会
日本公衆衛生学会
日本歯周病学会
「たばこのない世界」を目指して
子供の受動喫煙を減らすための提言
「禁煙活動宣言」
「禁煙宣言」
「禁煙宣言」
「禁煙推進宣言」
「たばこのない社会」の実現に向けた行動宣言
「禁煙宣言」
(2002年)
(2002年)
(2002年)
(2003年)
(2003年)
(2003年)
(2003年)
(2004年)
団体の禁煙宣言
日本看護協会
日本医師会
日本小児科医会
日本医師会
日本薬剤師会
日本歯科医師会
日本栄養士会
看護職のたばこ対策宣言
日本医師会禁煙キャンペーン
「日本小児科医会宣誓」
禁煙推進に関する日本医師会宣言
「禁煙運動宣言」
「禁煙宣言」
「たばこ対策宣言」
(2001年)
(2001年)
(2003年)
(2003年)
(2003年)
(2005年)
(2005年)
ー現実には、受動喫煙防止は守られていないー
健康増進法 (平成15年5月1日施行)
★第25条
受動喫煙防止法
学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示会、
百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が
利用する施設を管理する者は、これらを利用するものに
ついて、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずる
よう努めなければならない
★受動喫煙とは:
室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙
を吸わされること
ー我が国の警告表示は改訂されたが、国際標準以下ー
日本
シンガポール
E U 諸国
ー「喫煙は病気、喫煙者は患者」ー
喫煙障害関連9学会合同
「禁煙ガイドライン」
委員長:藤原久義:2005
日本口腔衛生学会
日本公衆衛生学会
日本産科婦人科学会
日本小児科学会
日本肺癌学会
日本口腔外科学会
日本呼吸器学会
日本循環器学会
日本心臓病学会
(50音順)
●各診療科の患者に対応したガイドライン
●禁煙治療と喫煙防止には専門性を越えて喫
煙による健康被害全体の防止が必要
ー我が国政府は条約を履行する義務があるー
たばこ規制に関する世界保健機関(WH0)
枠組条約(FCTC ) 2005
目的
タバコの消費および受動喫煙が健康・社会・環境・経済に
及ぼす破壊的影響から現在・将来の世代の保護
主要な条項
●タバコ需要の低下のための価格・課税措置
●職場・交通機関・屋内公共の場所等の受動喫煙防止
●タバコ製品の含有物の規制
●タバコ製品の警告表示の強化(30-50%)
●喫煙の健康障害の教育・情報の伝達・訓練・啓発
●タバコの広告・販売・後援の最大限の規制
●未成年者へのタバコ販売の禁止、特に自動販売器の規制
ー多くの問題点を含むが、第一歩ー
禁煙保険治療のスタート
2005年6月:禁煙ガイドラインを作成した9学会(日
本循環器学会、日本肺癌学会、日本呼吸器
学会等) が厚生労働省に禁煙保険治療の
ための医療技術評価希望書提出
2006年2月:中央社会保険医療協議会総会において、
「ニコチン依存症管理料」の新設
2006年4月:禁煙保険治療の開始
6月:ニコチンパッチの保険適応
禁煙治療の手順書(日本循環器学会、日本肺
癌学会、日本癌学会、第3次対がん総合戦略
研究班)
我が国のタバコ対策の現状
ー禁煙保険治療以外では、欧米先進国の中で
最悪の禁煙後進国ー
•
•
•
•
•
「たばこ事業法」で生産・販売を国家が保護・管理
タバコの価格が異常に安い
自動販売機で自由に買える
警告表示は改訂後も国際水準に達していない
レストラン、公的施設等での受動喫煙防止は守られて
いない
たばこ事業法 (昭和59年発令)
タバコの生産・販売を国家が保護・管理する法律
専売制度の廃止に伴い、製造たばこに係る租税が財政収
入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用
としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造た
ばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うこと
により、 我が国たばこ産業の健全な発展を図り、も
つて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全
な発展に資することを目的とする
たばこ対策採点表
Tobacco Control Scale
<Tobacco Control 15:247-253, 2006>
●たばこ価格/GDP per capita・・・・・・・・・・・・・・・・最低
●職場・レストラン・交通機関・公の場での禁煙 ・・・最低
●政府の禁煙対策予算/GDP per capita・・・・・・・・最低
●たばこ広告や販売促進の禁止 ・・・・・・・・・・・・・・・最低
テレビ; 戸外(ポスターなど) ; 新聞、雑誌など;
売り場; スポンサー; インターネット; ラジオ
●たばこ箱の大きな直接的警告表示・・・・・・・・・・・・最低
●喫煙者の禁煙指導・診療:・・・・・・・・・・・・・・・・・・高得点
たばこ対策採点表:国際比較で日本は最低
Tobacco Control Scale <Tobacco Control, 2006>
1位 アイルランド
2位 英国
3位 ノルウエー
4位 アイスランド
・
・
26位 スペイン・オーストリア
28位 ラトビア
29位 ルーマニア
30位 ルクセンブルグ
•
日本
74点 (100点満点中)
73点
71点
70点
31点
29点
27点
26点
26点
日本学術会議「脱タバコ社会の実現分科会」
脱タバコ社会を目指した7つの提言
1. タバコの直接的・間接的傷害につき尚一層教育・啓蒙
2. 喫煙率削減の数値目標の設定
3. 公共の場での喫煙禁止
4. 未成年者喫煙禁止法の遵守
5. タバコの自動販売機の設置禁止、タバコ箱の警告文を
EU並に
6. タバコ税の大幅に引き上げ
7. タバコ (含ガム) 規制を厚生労働省の管轄に移し、禁
煙診療も含め、国民をタバコ被害より守る
日本学術会議シンポジウム「脱タバコ社会の実現のために-
エビデンスに基づく対策の提言-」
開催主旨
I.日本学術会議とは?
II.なぜ本シンポジウムでは、特に3つの対策を
取り上げるのか?
III.喫煙の健康障害
日本学術会議シンポジウム
「脱タバコ社会の実現のために-エビデンスに基づく対策の提言-」
なぜ本シンポジウムでは、特に3つの対策を
取り上げるのか?
シンポジウム1:喫煙者に対する禁煙支援・禁煙治療の推進
・・・・・・・・・・・・・・・保険禁煙診療+エビデンス
シンポジウム2:喫煙率の低下を目標とした受動喫煙対策の推進
・・・・・・・・・・・・・・・受動喫煙防止法+エビデンス
シンポジウム3:タバコ価格・税の大幅引き上げ
・・・・・・・・・・・・・・・・最も有効な禁煙対策+エビデンス
日本学術会議シンポジウム「脱タバコ社会の実現のた
めに-エビデンスに基づく対策の提言-」
開催主旨
I.日本学術会議とは?
II.なぜ本シンポジウムでは、特に3つの対策を
取り上げるのか?
III.喫煙の健康障害
ー我が国の特殊性ー
<膨大な喫煙者、特に我が国男性の異常
に高い喫煙率>
世界の喫煙者
12億5、000万人(男性約10億人、 女性約2億5,000万人)、
15歳以上の紙巻タバコ使用本数は約1700本/年/人
我が国の喫煙者
3、400万人
男性/女性の喫煙率は1966年の84%/18%から2005年には
39%/11%へと減少、
男性:喫煙率は欧米先進国と比較し異常に高い(欧米の約2倍)
女性:欧米先進国の約1/2、若い女性の喫煙が増加。
ニコチン依存症患者:約1,800万人
15歳以上の国民の紙巻タバコ使用本数:3、200本/年/人
我が国男性の喫煙率は低下しつつあるが、
欧米に比べて異常に高い
WHO: Tobacco Atlas (2002)
男性
女性
80
70
66.9
65.1
63.2
60
52.8
喫 50
煙
率 40
(%) 30
27 26
20
10
25.7
23
21.5
19 19
13.4
9.7
4.8
4.2
27
ン
ス
ウ
ェ
ア
メ
ー
リ
デ
カ
ダ
カ
リ
ギ
2005年喫煙率:男39.4%, 女11.3%
ナ
ス
本
日
イ
ロ
シ
ア
国
韓
中
国
0
我が国男性医師の喫煙率は低下しているが、
なお異常に高い
(%)30
27.1
25
20
21.5
15
10
6.8
5
0
6
5.4
男 女
5
5
3.3
男女
4.2
1.6
男女
男 女
日本
米国 スウェ ニュージー
ランド
2000年 1991年 ーデン
2001年 1996年
↓
2004年
2.4
男 女
男女
1996年
2000年
オーストラ 英国
リア
<依存症という病気>
ーニコチン依存症+心理的依存症ー
• 短期的禁煙はそれほど困難でないため、
タバコはいつでも止められると錯覚している人が多い
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・喫煙は趣味・嗜好X
• 本人のみの努力による長期禁煙成功率:5%
専門的治療による長期禁煙成功率:30-40%
約60%の喫煙者は禁煙の意志を持ち医師の治療にも
かかわらず長期禁煙できない・・・・・・・難治性の喫煙依存症
• ニコチン依存症という保険病名
2006年厚生労働省も正式に認め、保険治療の開始
・ 新規治療薬の保険適応の要望:
ニコチン受容体阻害剤バレニクリン
<全身性の喫煙関連疾患・病気>
ー甚大な健康被害ー
急性障害
能動・受動喫煙時に生ずる咳、目の痛み、嫌な臭い、
狭心症や喘息の発作等
慢性障害
何十年という期間で徐々に進行するため危険を自覚できない
ニトロソアミン等の60種類以上の発ガン物質の吸引によるガン:
肺癌・喉頭ガン・口腔ガン等
CO・活性酸素等の血液・血管障害物質の吸引による動脈硬化
と虚血:脳卒中、心筋梗塞・狭心症、閉塞性動脈硬化症
その他:閉塞性肺疾患、歯周病、タバコ色素沈着、低体重児出産
卵巣機能異常、皮膚の老化、乳幼児突然死症候群
<禁煙煙により減少・消失>
オーストラリアのタバコ箱の警告表示
表面の30%,裏面の90%に
写真入りの警告表示
(2004年発表)
(http://www.ashaust.org.au)
SMOKING CAUSES
MOUTH AND
THROAT CANCER
DON'T LET CHILDREN
BREATHE YOUR SMOKE
SMOKING CAUSES
LUNG CANCER
TOBACCO SMOKE
IS TOXIC
ブラジルのタバコ箱の警告表示
包装の表側全面(100%)を用いた写真入りの
警告表示を2001年から実施
(タバコブランド名などは裏面に表示) 閉塞性動脈
肺ガン
硬化症
2004年から使用されている新しい表示例
(http://www.fctc.org/tobtopics)
●
肺癌・心臓病はタバコの量に相関し
て増大する
●
喫煙者の心臓病発生リスクは3倍
●タバコの本数が多くなればリスクは増大(右図)
●禁煙すればリスクは低下(左図の真ん中)
Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2006 Apr;13(2):207-213.
Hisayoshi Fujiwara, 2nd Department of Medicine,Gifu University School of Medicine
<広汎かつ甚大な健康被害>
ー喫煙は病気:依存症+喫煙関連疾患ー
喫煙者の平均寿命:非喫煙者より10年も短い
受動喫煙による障害:急性障害・慢性障害
副流煙:発ガン物質は主流煙より多い
1983年平山雄
2000年健康日本21(厚生労働省)
2002年喫煙と健康(新版、厚生労働省)
2004年WHO
2005年カリフォルニア州環境局
2006年アメリカ合衆国厚生衛生局
英国医師の喫煙量別生存率
%
100
非喫煙者と比較し、喫煙者の寿命は10年短い
80
生存率
非喫煙者
60
喫煙者 (15-24本)
喫煙者 (25本以上)
40
20
0
40
50
60
70
80
90
100 歳
年齢
(R.Doll et al. Brit Med J 1994;309:901)
●
<喫煙由来疾患による死亡数>
ー今後、禁煙先進国である欧米では減少、禁煙後進
国である 我が国や発達途上国では増大ー
喫煙による死亡数/年:我が国で11万人以上/年
(交通事故による死者約7千人/年)
世界で500万人以上/年(WHO)
死因:肺ガン等の癌、心筋梗塞、脳卒中、閉塞性肺疾患等
喫煙による死者の今後の見通し
(国際対ガン連合の2006年7月の報告)
20年後には1、000万人/年
21世紀中に約10億人(20世紀の10倍)
肺癌死亡は米国では低下、我が国では増加
男性(人口10万対)
肺癌(米国)
肺癌(日本)
(American Cancer Society 2007)
女性肺癌死亡:米国では横這い、我が国では増加
(人口10万対)
肺癌(米国)
肺癌(日本)
(American Cancer Society 2007)
<税収の2倍という、膨大な損失コスト:
禁煙は健康増進に寄与する最大のもの>
医療費等の損失コスト:約5.6兆円/年
タバコ関連税収(1兆9000億円)を含めた収益:
約2.8兆円/年
タバコ病は予防可能な単一疾患としては最大の病気
禁煙は今日最も確実に大量の重篤な疾病を劇的に減ら
し、健康の維持と莫大な保険財政を節約し、社会全体
の健康増進に寄与する最大のもの。
WHO(世界保健機関)
<「喫煙は病気、喫煙者は患者」のメリット>
喫煙者
・「喫煙は趣味ではなく病気」と理解してはじめて、ニコチンを
欲しているのは「自分」でなく「依存した脳」と理解でき、日々
肺、心臓、脳、動脈等の全身が侵されてゆくという実感を持
てる。
・医師の助けを求め、禁煙外来を受診する。
・病気なら喫煙の責任は喫煙者にはない。
非喫煙者
・喫煙者や管理者に受動喫煙防止を訴えることができる。
・能動喫煙者に対しては、「病気で困っている人を助ける」とい
う気持ちで、病院に行き禁煙治療を受けるように勧めること
ができる 。
<「喫煙は病気、喫煙者は患者」のメリット>
医師&医療関係者:
・「病気」なら高血圧症等生活習慣病に対するのと同様の意識を
期待できる
・「患者」なら患者側に立ち、治そうとするのが“医者の本能”
禁煙推進を非難する患者・再喫煙患者に対しても不愉快な感
情を持たず、治療できる
国&行政:
・喫煙患者の診断・治療の保険適応の拡大
・禁煙推進の法的ならびに行政指導
・タバコ生産・販売の規制
・日本たばこ産業株式会社(JT)・タバコ小売業・喫煙者からの圧
力の排除
・JTの完全民営化
・たばこ事業法の廃止
終わりに
ー時代は今、大きく変わりつつあるー
喫煙は趣味・嗜好から病気へ
タバコ許容社会から脱タバコ社会へ
ーFCTCの条項に基づきタバコ
コントロールの強化ー