放電プラズマ焼結法による Cr Mg N O 焼結体の作製

日本金属学会誌 第 79 巻 第 4 号(2015)215219
放電プラズマ焼結法による CrMgNO 焼結体の作製
浅見廣樹
松 本 康 平
高澤幸治
岩橋 優
池田慎一
苫小牧工業高等専門学校機械工学科
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 79, No. 4 (2015), pp. 215
219
 2015 The Japan Institute of Metals and Materials
Preparation of Cr
Mg
N
O Ceramics by Spark Plasma Sintering
Hiroki Asami, Kohei Matsumoto
, Koji Takazawa, Yu Iwahashi and Shinichi Ikeda
Department of Mechanical Engineering, National Institute of Technology, Tomakomai College, Tomakomai 0591275
Cr1-xMgxNO powders, with Mg content in metallic elements (x=Mg/Cr+Mg) ranging from 0 to 0.5, were synthesized
from CrN and MgO powders using mechanical alloying under nitrogen atmosphere. Densification of these original powders is carried out by the spark plasma sintering is performed under a 70 MPa pressure and at 1200°
C. The result of Xray diffraction
(XRD) indicated that (Cr, Mg)(N, O) phase with NaCl (B1) structure was synthesized in all the CrMgNO powders. The
MgO phase exists in the CrMgNO ceramics for the higher Mg content of x=0.2, whereas the diffraction peaks attributed to
MgO were not observed in the ceramics with x=0.1. The maximum Vickers hardness of HV 2050 was obtained for Cr1-xMgx
NO ceramics with x=0.1, and was HV of approximately 500 higher than CrN ceramics(x=0). Moreover, the result of nano
indentation test showed that the Young's modulus of Cr1-xMgxNO ceramics increase from 398 GPa to 418 GPa in the x range
0 to 0.1. [doi:10.2320/jinstmet.JBW201404]
(Received October 21, 2014; Accepted January 19, 2015; Published April 1, 2015)
Keywords: hard ceramics, chromium magnesium oxynitride, mechanical alloying, spark plasma sintering
一般的に, CrN を含めた非酸化物系セラミックスは,共
1.
緒
言
有結合性の割合が高いことより自己拡散係数が小さく,難焼
結性材料とされている.これに加えて CrN は,大気圧下で
窒化クロム(chromium nitrideCrN)は,高硬度(HV 2000
高温に加熱すると Cr2N へ分解してしまうことより高温焼結
程度)で耐摩耗性に優れる他,特に耐酸化性,耐食性に優れ
が不可能であり1114) ,緻密体の焼結が非常に難しいことが
ることから主に切削工具などのコーティング材料として利用
知られている.一方,Cr(N, O)あるいは(Cr, Me)(N, O)で
されている1).また,近年の高速加工化,ドライ・セミドラ
は,結晶中に O2- が多数存在することにより, CrN と比較
イ加工化の流れもあり,1990 年代後半より,この CrN や窒
して共有結合性の割合が低下していると考えられ, CrN よ
化チタン(titanium nitrideTiN)へ様々な金属元素を添加さ
りも焼結性において優れていると予測される.また一方で
せた薄膜についての研究開発が盛んに行われてきた.この結
Jin らは,放電プラズマ焼結(spark plasma sintering: SPS)法
果,これまでに固溶硬化,あるいはナノコンポジット化によ
により,わずかながら Cr2N 相を含むものの,ほぼ単相かつ
る高硬度化などを中心に,薄膜の特性改善については様々な
緻密な CrN 焼結体の作製に成功した事を報告している15) .
報告がなされてきている14) .一方,添加元素として非金属
これらのことより, SPS 法を用いることで(Cr, Me)(N, O)
元素を選択した研究報告例も多数ある.その中でも特に,
焼結体の作製も可能ではないかと考えた.また,もしこの焼
CrN に酸素( oxygen  O )を置換型に固溶させた酸窒化クロ
結体の作製が可能であれば,耐摩耗性,耐酸化性,耐食性に
ム(chromium oxynitride: Cr(N, O))薄膜では,酸素の固溶に
優れ,なおかつ超硬合金などと比較して軽量であること等の
より CrN の硬度が大きく向上するとともに(最大硬度 HV
利点により,切削工具等への応用の他にも機械部品設計に多
3000 以 上 ) , 耐 酸 化 性 も 改 善 さ れ る こ と が 報 告 さ れ て い
くの利点を提供することが可能であると思われる.
る57) .また,この Cr ( N, O )に対して金属元素 Me ( Me =
Al 8),
Mg 9),
Cu 10))を添加した(Cr,
本研究では,酸素と共に添加する金属元素 Me として Mg
Me)(N, O)薄膜では,さ
を選択し,(Cr, Mg)(N, O )焼結体の作製を目的に研究を進
らに高硬度化(最大硬度 HV 3500 以上)が可能であることが
めた.この( Cr, Mg )( N, O )は,同じ NaCl 型構造を有する
明らかとなっている.本研究では,この( Cr, Me )(N, O)を
CrN と MgO の固溶体であると考えられ,薄膜においては全
焼結体として作製することを考えた.
率固溶に近い形で固溶することが分かっている8).まず,こ
の固溶体粉末の合成を,CrN 粉末と MgO 粉末をメカニカル
苫 小 牧 工 業 高 等 専 門 学 校 専 攻 科 学 生 ( Graduate Student,
National Institute of Technology, Tomakomai College)
アロイング( mechanical alloying: MA )処理することにより
試みた.次に,合成した粉末の焼結体を SPS 法により作製
216
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
第
79
巻
し,その結晶構造,組織,硬度・弾性率について調査したの
/min,スキャンステップ幅 0.01°
で u/2u 法により結晶相
10°
で,その報告を行う.
を同定した.焼結体破断面の観察には,JEOL 製 JCM5100
型走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope: SEM)を
2.
実 験
方 法
用い,加速電圧 20 kV で観察を行った.薄膜の硬度の測定
は,Akashi 製 HM101 ビッカース硬さ試験機を用いて行っ
株 ,~10
原料粉末には,市販の CrN 粉末(三津和化学薬品
た.測定は,7 回測定した値について,最大値と最小値を除
株 ,純度 99.99 ,~ 300
mm )と MgO 粉末(フルウチ化学
いた 5 回の平均値を硬度とした.測定時の押し込み荷重は
mesh )を用いた. Fig. 1 に,原料粉末の X 線回折( X ray
1.96 N とし,荷重保持時間を 10 s とし測定した.また弾性
diffraction: XRD )図形を示す.また同図下部には,比較と
率 の 評 価 は , Agilent Technologies 社 製 Nano Indenter
して CrN, Cr2N および MgO の ICDD カードデータを示し
G200 ナノインデンテーション試験機により行った.測定
た1618). Fig. 1 から分かるように, MgO 粉末はほぼ単相粉
は,測定荷重 5 mN で各試料につき 50 回行い,各測定で得
末であるが,CrN 粉末は Cr2N 相を多く含む粉末となってい
られた平均の値を測定値とした.
る.原料粉末は,金属元素のモル比 x(x=Mg/(Cr+Mg))が
x= 0~0.5 と変化するよう秤量した後,粉砕ボール(WCCo
製,q15 mm)とともに粉砕容器(WCCo 製,45
3.
結 果 と 考 察
cm3)中に投
入した.この時,ボールと粉末の質量比は 25  1 とした.
Fig. 2 に,MA 法により合成した Cr1-xMgxNO 粉末(x
粉砕容器は, SUS 製の雰囲気制御容器内に収め,ロータ
= 0 ~ 0.5 )の XRD 図形を示す.また同図下部には,比較と
リーポンプにより真空引き後,高純度 N2 ガスを導入し雰囲
して CrN, Cr2N, MgO および WC の ICDD カードデータを
気 N2 ガス圧 0.7 MPa となるように調整した.MA 処理には,
示した.Fig. 2 より,すべての粉末の XRD 図形には WC 相
Fritsch 社製の遊星型ボールミル P 5 を用い,公転回転数
に起因するピークが確認された.これは,粉砕ボールおよび
400 rpm, MA 時間 60 h として粉末の合成を行った.SPS 法
粉砕容器からの混入物であると考えられる.なお, MA 処
株 住友石炭鉱業製 SPS 515S を用
による粉末の焼結には,
理後の粉末の質量が 3~ 5 程度増加したことより, WC 相
いた.試料充填部は,q30(内径 q10.4)×30 mm の黒鉛ダイ
の混入量は 3 ~ 5 mass 程度ではないかと予想される.一
および q10 × 20 mm の黒鉛パンチにより構成し,黒鉛ダイ
方,原料粉末として用いた CrN 粉末は Cr2N 相を多分に含
中への粉末充填量は 2.5 g とした.また離形のために,黒鉛
ん で い た が , Fig. 2 に 示 し た x = 0 の 粉 末 ( CrN 粉 末 ) の
型と黒鉛パンチの隙間および黒鉛パンチと試料粉末の間に
XRD 図形中には,Cr2N 相に起因するピークは確認されなか
は,厚さ 0.2 mm の黒鉛シートを挟んだ.焼結時は,まずチ
った.これまでに Real らは, Cr 粉末を同様に N2 雰囲気下
ャンバー内を 4 Pa 以下まで排気し,加圧力が 70 MPa とな
で MA 処理することで,周囲の窒素を Cr 中に取り込ませた
るように負荷を調整した.その後,直流パルス電流を印加し
CrN 相の合成に成功している19).今回の結果は, Real らの
て 1200°
C まで 100°
C /min で加熱し, 5 min 保持した後,通
結果と同様に,Cr2N 相が MA 処理時に雰囲気の窒素を取り
電・加圧を止め,自然冷却により室温まで冷却させた.
合成した粉末と焼結体の結晶相同定には,BRUKER AXS
込みながら CrN 相へと相変態したためであると考えられ
る.また,x=0 以上におけるすべての Cr1-xMgxNO 粉末
社製 New D8 ADVANCE ECOTM XRD 装置を用いた.計測
には,入射 X 線として波長 l= 0.15418 nm の CuKa 線を使
用 し , 管 電 圧 40 kV , 管 電 流 30 mA , ス キ ャ ン ス ピ ー ド
Fig. 1
XRD patterns of CrN and MgO raw powders.
Fig. 2 XRD patterns of Cr1-xMgxNO powders (x=0~0.5)
synthesized by mechanical alloying method.
第
4
号
放電プラズマ焼結法による CrMg
N
O 焼結体の作製
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の XRD 図形において,主相として CrN もしくは MgO の
て CrN の NaCl 型構造に起因したピークが確認された.し
NaCl 型構造に起因したピークのみが観察された.加えて,
か し 一 方 で , す べ て の XRD 図 形 中 に は , わ ず か な が ら
これらのピーク位置が x の増加に伴い低角度側にシフトして
Cr2N 相に起因したピークが観察された.また,x= 0.2 以上
いる事が確認された. Fig. 3 に, Cr1-xMgxN O 粉末にお
の Cr1-x Mgx N O 焼結体の XRD 図形中には, MgO 相に
ける主相の格子定数を(200)のピーク位置より算出した結果
起因するピークが確認された.上述の点に加えて,主相の
を示す.Fig. 3 の結果より,x の値の増加に伴い格子定数は
ピーク位置が粉末時と比較して変化していたため格子定数の
a = 0.412 ~ 0.419 nm とほぼ比例的に増加していることが分
算出を行った. Fig. 3 に, Cr1-xMgxN O 焼結体の主相の
かった.これまでの Cr(N, O)薄膜の作製報告例において,
格子定数を示す. x = 0 において,焼結体の格子定数が粉末
CrN 中へ O が固溶するのに伴い格子状数が大きくなること
時よりも大きくなったのは,Cr2N 相の析出に伴うものであ
が確認されている7).このことより,MA 処理した粉末にお
ると推測する. x = 0 の CrN 粉末格子定数は, ICDD のカー
いても CrN 中に O が固溶して,格子状数が大きくなったと
ドデータに示される CrN の格子状数に対して小さい値とな
推測される.また仮に, CrN 格子中に Mg と O が固溶し
っている.これは,MA 処理によって Cr2N 相から相変態し
Mg2+ O2-
て生じた CrN 相の結晶格子中には,窒素サイトに空孔が数
という結合が結晶中に形成された場合,格子定
数は CrN の格子定数(a=0.414 nm)から MgO の格子定数(a
= 0.421 nm )に近づくように変化すると考えられる. Fig. 2
の結果より,Mg の金属相に起因すると考えられるピークは
確認されておらず,格子定数が上述した推測に従うように変
化 し てい るこ とよ り, 本 研究 の目 的の 一 つで あっ た( Cr,
Mg)(N, O)粉末の合成に成功したものと推測する.
Fig. 4 に,SPS 焼結時における Cr1-xMgxNO 粉末の収
縮曲線を示す.図は,横軸を測定温度とし,縦軸に加圧プレ
スの変位量をプロットしたものである. Fig. 4 より, x = 0
の CrN 粉末では, 900 °
C 程度から変位量が大きく増加し始
め, 1150°
C 程度において最大変位量に到達していることが
観察された.一方, x = 0.4 の Cr1-x Mgx N O 粉末では,
800°
C 程度から変位量が大きく増加し始め,保持温度到達後
にも変位が増加しているのが確認された.また一方で, x=
0.1 の Cr1-xMgxNO 粉末の収縮曲線の挙動は,x=0 の収
縮曲線の挙動に近いと考えられる.しかし, x = 0.4 の場合
と同様に,変位量が保持温度到達後にも増加しているのが確
認された.
Fig. 5 に,SPS 法により作製した Cr1-xMgxNO 焼結体
Fig. 4 Shrinkage curve of Cr1-xMgxNO powders during
spark plasma sintering.
( x = 0 ~ 0.5 )の XRD 図形を示す.同図下部にも,比較とし
て CrN, Cr2N, MgO および WC の ICDD カードデータを示
した.Fig. 5 の結果より,すべての焼結体において主相とし
Fig. 3 Lattice constant of main phase in Cr1-xMgxNO
powders and ceramics calculated from (200) peaks.
Fig. 5 XRD patterns of Cr1-xMgxNO ceramics (x=0~
0.5) prepared by spark plasma sintering method.
218
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
多く形成されているためであると予想される.また,このよ
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79
巻
が進行したのではないかと推測する.
うな結晶格子の一部が,焼結時の加熱により再び相変態し
Fig. 7 に,SPS 法により作製した Cr1-xMgxNO 焼結体
Cr2N 相として析出したと思われ,結果として格子内の歪み
のビッカース硬さと密度の x 依存性を示す.なお密度につい
が解消されたのではないかと考える.また, x = 0.2 以上の
ては,アルキメデス法により測定した見かけ密度を示した.
Cr1-xMgxN O 焼結体の格子定数が,粉末時と比較して,
Fig. 7 より,焼結体の密度は x = 0 で 6.33 g / cm3 となり,
MgO 側から CrN 側に近づくように小さくなっていることが
ICDD に示された CrN の理論密度( 6.12 g / cm3 )よりも高い
確認された.前述した結果と合わせて考えると, x = 0.2 以
結果となった.これは,粉末合成時より混入している WC
上の焼結体においては,焼結時の加熱により( Cr, Mg )( N,
相(15.52 g/cm3)の影響が大きいと思われる.x = 0.1 以上の
O )相から Mg と O が MgO 相として析出してしまったと考
焼結体の密度は,x の増加に伴い減少し,x=0.5 の焼結体で
えられる.一方, x = 0.1 の焼結体では,上述した格子定数
4.68 g / cm3 となった.ビッカース硬さ試験の結果, x = 0 の
変化や MgO 相の存在が確認されなかった. MgO 相の析出
CrN 焼結体はビッカース硬さ HV 1580 を示した.この結果
量が XRD の検出限界能以下である可能性は否定できない
は,Jin らが SPS 法により作製した CrN 焼結体の硬度(15.1
が,これらの結果より著者らは,少なくとも x = 0.1 の粉末
GPa )15) と非常に近い値である.本研究において作製した
において,( Cr, Mg )(N, O)相を有する焼結体の作製に成功
Cr1-xMgxNO 焼結体の最大硬さは x=0.1 で得られ,その
しているのではないかと予想する.なお, MA 処理時に過
硬さは HV 2080 と x=0 の焼結体にと比較して HV 500 程度
飽和的に固溶した Mg と O が加熱により MgO として析出
高い値を示した.また, x = 0.2 以上の焼結体の硬さは x の
していると考えれば,x=0.2 以上の焼結体中にも一部の(Cr,
Mg )( N, O )相が分解されずに残されている可能性もあると
思われる.
Fig. 6 に,( a ) x = 0 ,( b ) x = 0.1 の焼結体破断面の SEM
像を示す.Fig. 6 より, x= 0 の CrN 焼結体の破断面中には
多数の空隙が存在しているのが確認された.これに対して x
= 0.1 の Cr1-xMgx N O 焼結体の破断面中には,目立った
空隙の存在が確認されず,焼結状態が大きく改善されている
様子が観察された.この結果と Fig. 4 に示した焼結挙動の
結果を合わせて考えると,x=0 の CrN 粉末に対して Cr1-x
MgxNO 粉末では,焼結の後期段階における緻密化が促進
されるようになったのではないかと考えられる.一般的に,
共有結合性化合物の拡散速度は温度が上がっても大きく増加
せず,温度エネルギーは結合の一部を切断し気相を生成する
のに消費されるようになることが知られている.また前述し
たように, CrN は高温に熱すると Cr2N と N2 に分解される
ことが知られており,本研究で合成した焼結体においても
Fig. 7 Vickers Hardness and density for Cr1-xMgxNO
ceramics as a function of x.
Cr2N 相が確認されている.以上のようなことにより, x= 0
の CrN 粉 末 の 焼 結 で は , 高 い 緻 密 度 を 得 ら れ な い ま ま
1150°
C 程度において変位の収縮が終了してしまったのでは
ないかと考えられる.一方,本研究で合成されたと考えられ
る( Cr, Mg )(N, O)粉末は,共有結合性の割合の低下により
CrN と比較して焼結時に拡散が生じやすくなっていると考
えられる.またこれにより, 1150 °
C 以上においても緻密化
Fig. 6 SEM image of fracture surface in Cr1-xMgxNO
ceramics with (a) x=0 and (b) x=0.1.
Fig. 8 Load versus indenter displacement curves of Cr1-x
MgxNO ceramics (x=0, 0.1).
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4
号
放電プラズマ焼結法による CrMg
N
O 焼結体の作製
219
増加に伴い緩やかに減少する傾向を示し, x = 0.5 の焼結体
を試み,その結晶構造,機械的性質について調査を行い,以
の硬さは HV 1750 程度となった.高硬度化の要因には,元
下のような結果を得た.


素固溶,微構造変化,ナノ複合化など複数の可能性が考えら
XRD の結果より, CrN 粉末と MgO 粉末を窒素雰囲
れる.Fig. 5 に示した XRD 図形の結果と合わせて考えると,
気下で MA することにより(Cr, Mg)(N, O)粉末の合成に成
CrN 中へ Mg と O が固溶した(Cr, Mg)(N, O)相が主相とし
功した.また, x = 0.1 の焼結体においては,焼結後にも
て形成されたことが,高硬度化の要因の一つとして考えられ
MgO 相を析出させずに主相として(Cr, Mg)(N, O)相を維持
る.また, x = 0.1 以上における硬度の減少は, CrN に対し
している.


て低硬度である MgO 相の析出に伴うものであると推測され
焼結体破断面の SEM 像観察の結果,x=0.1 の Cr1-x
る.一方,高硬度化の一因としては,粉末合成時に混入した
MgxNO 焼結体では,x=0 の焼結体に対して空隙の数およ
WC 相の析出・分散による高硬度化も考えられる.しかし,
び大きさが減少していた.
MA 処理により粉末中に混入した WC 相の混入量が 3 ~ 5
mass 程度であると予想されることより,この影響は小さ


ビッカース硬さ試験の結果, x = 0 の焼結体と比較し
て,x=0.1 の焼結体は HV 500 程度硬さが向上し,最大硬さ
いものと思われる.例えば Sharma らは,SiC に対して WC
HV 2070 を示した.また,ナノインデンテーション試験の
を添加しナノ複合化させた SiC WC 焼結体において,添加
結果からも,5 GPa の硬さ向上と 20 GPa の弾性率向上が確
量が 30 massの場合には約 HV 250 程度の高硬度化が得ら
認された.
れたが,10 massの場合には大きな硬度変化が得られなか
ったことを報告している20) .基材の硬さが異なることもあ
り単純な比較は難しいが,少なくとも WC 相の析出・分散
この研究の一部は,科学研究費補助金(課題番号
24750211)の援助により行われた.
が高硬度化の主要因とはなっていないと考える.また一方で,
Fig. 6 で観察された結晶組織の緻密化が,ビッカース硬度の
文
献
向上に寄与していることも予測される.特に, x = 0.5 の焼
結体においても HV 1750 程度の硬度が維持されているの
は,結晶組織の緻密化がによる影響が大きいのではないかと
思われる.
Fig. 8 に,ナノインデンテーション試験により得られた
Cr1-xMgxN O 焼結体( x = 0, 0.1)の圧し込み深さ加重曲
線を示す.また,図中には圧し込み深さ加重曲線から得ら
れた硬さと弾性率の結果を併記した. Fig. 8 より, x = 0 の
CrN 焼結体において硬さ 19 GPa,弾性率 398 GPa という値
が得られた.これに対して x = 0.1 の焼結体では,硬さ 24
GPa ,弾性率 418 GPa と,いずれも増加した値を示した.
今回の測定では,測定荷重が 5 mN と極低荷重であったた
め,硬さ,弾性率とも過大評価されていると考えられるが,
Fig. 7 と同様に硬さが大きく向上することが確認された.ま
た,今回の結果において弾性率の向上が確認されたことよ
り,少なからず( Cr, Mg )( N, O)固溶体の形成がなされてお
り,これが高硬度化の要因の一つになっていると考えられ
る.また特に,組織の緻密化への影響を含めて,O の固溶の
影響が大きいのではないかと思われる.今後,粉末中により
多くの酸素を固溶させた状態で焼結体を作製することができ
れば,より高硬度な焼結体が得られるのではないかと予想さ
れる.
4.
結
言
窒素雰囲気下での MA 法による Cr1-xMgxNO 粉末の合
成,ならびに SPS 法による Cr1-x Mgx N O 焼結体の作製
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