論文テーマの選定と書き方 北京外国語大学 日本語学部 于日平 論文とはなにか • 論文の定義 • ある事柄に疑問を抱くようになり、その疑問をデータ 分析や推論などを通じて解決したということを文章 に書き記したのは論文である。つまり、論文は研究 活動の現れであり、結果である。 • A)疑問を問題点として取り上げられていること; • B)それに関する必要なデータがあり、問題解決の ために筋道の通った分析や推論が行われているこ と; • C)結論があり、それによって疑問が解決されること になること。 論文のテーマについて 日本語学と漢日対照研究 • • • • • • • • • • • • 言語学の研究分野: 音韻論:意味の弁別に関する最小単位である音素の特定やその分布の 研究を行う。 形態論:意味を持つ最小単位である形態素の特定や分布を行う。(語彙 研究が入る) 統語論:文の構成要素である語の配列に関する問題を研究する。 意味論:語や文が持つ意味に関する問題を扱う。 運用論(語用論):文が実際の状況下でどう使われるかを研究する。 社会言語学:言語活動の参加者間の社会的属性(性、年齢、出身地な ど)と言語の関係を論ずる。 類型論:世界の諸言語の持つさまざまな性質を幾つかの観点(語順や文 構造など)から観察し、その類似・相違について論じる。 • 漢日対照研究:上記のすべてが対照研究のテーマになる。 論文テーマの選定について • 論文の価値や将来性について • 日本語の特徴を明らかにすることや一般言語学に 寄与すること、中国語と日本語の相違を明らかにす ること、日本語教育に役立つことなどが研究する価 値ありとされ、将来性があると考えられるであろう。 • 客観条件や個人能力について • テーマがいいが、問題解決のために必要な資料や データ、時間が不足していること、先行研究がすば らしくて、それを越えられそうもないこと、そのような テーマを扱うには今の所自分の研究能力にあまる こと、などである。 論文のテーマの種類について • 研究のホットテーマ • 「~ている」についての研究 • 助動詞「れる/られる」に見られる日本人的思考のパターン • 発展性のあるテーマ • 当為表現における形式の相補関係 • 主題についての対照研究 • まとまった話題になりやすいテーマ • 「寒い」と「冷たい」の使い分け • 「どうしても」「なんとか」と「ぜひ」の異同 論文の価値について • これまで誰も研究していない新しい課題 や発見 • これまでの研究とは異なった内容を持っ ている どのように論文を書くのか • 論文は大きく分けて、問題提起、問題解決の 結論、結論を導き出す証明のプロセスという 三つの部分から構成されている。2)の「これ までの研究と異なった内容を持つ」オリジナリ ティを出すためには、次のような作業が必要 となるのではないかと思う。 • 1)先行研究に対する再検討: • A)データや説明できる範囲が十分であるかどうか; • B)推論や証明のポロセスには問題がないのか; • C)結論は問題を解決したのだろうか; • D)結論を導き出すのにはこじつけや無理がないのか、 • など。 • 2)問題提起についての再検討: • オリジナリティが出にくいやりかた: • A)データの補足によって問題の範囲を拡大したり、 • 結論を修正したりする; • B)推論や証明ポロセスにある無理を解消する; • オリジナリティを出しやすいやりかた: • C)問題に対して異なる角度から取り上げて論ずる方 • 法; • D)先行研究の結論を覆して新しい結論を出す方法; • E)学際的に研究をやり直す。 実例を考えよう • 次は因果関係表現について日本語学と漢日 対照研究の二つの角度から論文のテーマ選 定と書き方を考えていることにする。 意味表出の体系化と 表現形式の関係について • 日本語の因果関係表現: 「ので/から/ために/~て」というよく使われる四 つの形式 • それ以外の因果関係表現: 「からには/からは/以上(は)/うえは/かぎり (は)/だけに/だけあって/ばかりに/もので/も のだから/ものを/おかげで/せいか/に従い/ に従って/につれ(て)」という16種の形式がある。 (森田良行の『日本語表現文型』p.99) 日本語学的な研究 • 相補関係をテーマとする論文(静的側面 と動的側面) • ⅰ)類似表現の使い分け(静的側面) • ⅱ)形式の機能変化(動的側面) 漢日対照研究 • 中国語には因果関係を表す形式は7つあると言わ れている。 • 一般因果関係表現: • “因为”“因而”“因此”“以致于”“由于”“所以”など。 • 推論因果関係表現: • “既~就”“既然~那么”など。 • 目的因果関係表現: • “以”“以便”“以免”“为的是”“为了”など。 (范晓1998的《汉语的句子类型》) 対照研究の二つの方法 ⅰ)個別の形式についての対照研究 1)日本語の「から」と中国語の「因為」 ⅱ)カテゴリカルな対照研究 対照研究は結局のところ、日本語の一形式と中国 語の一形式を比較するだけでは不十分で、意味表 出の体系に立ってカテゴリカルに進めなければなら ない。これは、日本語も中国語もそれぞれ意味表出 の体系を持っており、その意味表出の体系がカテゴ リに分けられて、様々な形式が条件付きでそのカテ ゴリに加わりながら相補関係という内部構造を形 作っているからである。 カテゴリカルな対照研究について • ①分類の仕方が違う→中国語では目的表現は因果関係表 • 現のカテゴリに入れている。 • ②概念説明の違い →日本語=客観と主観 中国語=原因強調と結論強調 • →日本語=主文の性格 中国語=有標と無標の対立 • カテゴリカルな対照研究は、つまり一般言語学的研究によっ て提起されるカテゴリーと、個別言語学的研究によって示さ れる言語の意味表出の体系を頼りにし、概念化プロセスの 普遍性と特殊性を体系的に捉えて両者の相違を明らかにし ようとするものである。 日本語教育への 対照研究成果の応用 • 日本語教育に現れる問題が様々であるが、概念化プロセス や相補関係の形成といった体系的な把握をしてはじめて、根 本的に解決される問題は多くあると思う。対照研究は初期の 用法や用例の対照研究から概念化プロセスや相補関係の 形成の相違を究明することへと目標を改めなければならない。 対照研究成果は個別的な用法として利用されて日本語教育 に役立つだけではなく、言語に対する体系的な把握をしたう えで、両者の相違を明らかにしなければならない。そうすれ ば、体系的に日本語を理解し、中国語と日本語の異同を理 解し、それを踏まえた上で個別問題をもっと科学的に解決す ることができよう。 ご清聴ありがとうございます 謝 謝
© Copyright 2024 ExpyDoc