三重ABAセミナーQ&A - つみきの会

三重ABAセミナーQ&A
2011/06/26 三重県教育文化会館
NPO法人つみきの会代表
藤坂龍司
先日、三重県津市で講演した際、受講者の皆さんからたくさんの質問をいただきました。そのときに
お答えする時間がなかったので、この場を借りて、お答えさせていただきます。時間がなくて、ここで
もすべてのご質問にお答えすることはできなかったのですが、ご容赦ください。
質問は、お子さんとの関係別に分類しました。
<当事者家族>
Q.自分の世界に入って、ぶつぶつ独り言を言っている。どうやってやめさせたらよいか。
A.日頃から簡単なご用事をいいつけて、それができたらほめたり、その他の軽いごほうびを与えるよ
うにします。ごほうびは毎回でなくても、何回かに一回でもいいです。その上で、一人の世界に入って
いるときに、同じようにご用事を言いつけて、できたら強化します。
本格的にセラピーをして、動作模倣とか音声指示とか、できることが増えると、ぼおっとしていたら
それをやらせればいいので、もっとやりやすくなります。
Q.つまみ食いをする。
「だめ」と言ってもすぐつまむ。毎日話して、
「もうしない」と約束するが、ま
た繰り返す。
A.
「だめ」に、もっと権威を持たせましょう。そのためには「だめ」と言ったのにしたら、そのままに
しておかずに必ず何かペナルティを与えることです。ただし軽い罰に留めます。例えばセミナーで紹介
したようなタイムアウト。つまみ食いをしたら、すぐに捕まえて、後ろから体を抱いて 1 分間じっとし
ておきます。壁に向かって立たせなくても、その場でもいいです。嫌がっても離しません。1 分経ったら、
何事もなかったように離します。
「だめ」を無視するたびに同じ対応を繰り返します。その代り、
「だめ」
でストップできたら、おやつをちょっと分けてあげるなどしてそれを強化するといいです。
Q.始終手をべろべろなめる。
A.会場でお話したように、余暇スキルを増やしてあげることが大切です。パズルでも音楽を聞くでも
かまいません。とにかく他のことで忙しくさせます。
手をなめる行動と両立できない別の行動をさせて強化することができれば、それが一番です。これを
「DRI」といいます。
「問題行動と対立する別の行動を選んで強化する」という意味です。例えばもや
しの先をちぎったり、ミカンの皮向きを頼んだりして、できるたびに強化するようにします。そうすれ
ば、その時だけでも手をなめないですよね。
Q.言葉が全くない 4 才の男の子がいます。このままコトバって出ないのでしょうか。家でできる取り
組みがあればぜひ教えて下さい。
A.このままコトバが全く出ない可能性は十分にあります。6歳までに出ない場合、それ以降に言葉が
出る可能性はさらに小さくなります。本気で取り組むのならいまのうちでしょう。
やり方はABAが一番いいと思っています(当たり前ですが)。ぜひつみきの会に入会して、家庭療育
に取り組んで下さい。それがベストです。七田に通っておられるようですが、あまりお勧めしません。
Q.テレビを一年以上見せていません。見ると止まらなくなり、消すとかんしゃくだったので。家事の
合間にでもテレビを見てくれると助かるのに、と思うこともあります。
A.テレビを見ないと、家族も不便ですよね。テレビはおっしゃる通り、お子さんの退屈しのぎにもな
ります。要はこっちが「消すよ」と言ってもかんしゃくを起こさなくなればいいのですよね。これにぜ
ひ取り組んで下さい。要はこちらが絶対に動じないこと。いったん消したら、お子さんがどんなに騒い
でも譲歩しないことです。リモコンは隠してしまいます。それでもメインスイッチをつけようとしたら、
テレビの前にすわりこんで、体で止めて下さい。
最初の一週間は大変だと思います。でも一週間頑張れば、効果が出てくるはずです。いったん消して
も平気になれば、あとは一生、テレビのある暮らしが楽しめます。
Q.今まで大好きだった遊びや本、おもちゃを急に拒否するようになりました。無理のないようにさせ
るのか、全くさせないのか、どうすればいいですか。
A.拒否するものを無理にさせても仕方ないですから、無理強いはしない方がいいと思います。ただ、
余暇スキルがどんどん尐なくなってしまってはいけませんので、できればABA療育を通じて、意にそ
わないことでも大人の指示に従い、しぶしぶでも受け入れる、という姿勢を育てた方がいいと思います。
子どもが拒否する本やおもちゃも積極的に教材として使い、例えばこちらがおもちゃを動かしたら、そ
れをまねすることを教えて強化します。拒否行動は阻止して、手を添えてでもさせることで消去します。
そうすれば、こだわりも徐々に弱くなり、また好きだったものを受け入れられるようになると思います。
<学校教員>
Q.私は高等部の生徒さんの担当をしております。知的障害を伴っている生徒さんが多く、小学生の児
童に接するように、つい上から目線でほめるような声かけをしてしまうことが多かったです。ところが
親御さんの方から、一緒にできたことを喜ぶようにしてほしいと言われました。もっともだと思ったの
ですが、このABAの方法は早期療育だけに有効で、青年期に入っての、知的に重い自閉症の方には有
効ではないのでしょうか。
A.ご質問は次元の異なる二つのことを混同されていると思います。ABA的に考えると、その子ども
が喜ぶようにほめてあげること、強化してあげることがすべてであって、それを親御さんが気にいるか
どうか、その子の人格を尊重していると言えるかどうかは、問題ではありません。そのお子さんが高等
部であろうと、小学生と同じようにほめてあげれば喜ぶのであれば、そうしてあげればいいのです。
ただそれは純粋にこちらから見てその子どもの何らかの行動を増やすためにはどうしたらいいか、と
いうことであって、そのことと、ほうびの与え方が倫理的・社会的に妥当かどうか、ということは別問
題です。そしてABAを現実に用いるためには、当然そのことも考慮に入れなければいけません。
先生が、上から目線でほめるより、共に喜ぶようにしてほしい、という親御さんの希望をもっともだ
と思われたのであれば、そうされればいいと思います。それでもお子さんが喜んで、強化としての効き
目があるのであれば、お子さんの行動も改善すると思います。
Q.周りが騒がしいときに、大きな声で泣くことがあります。好きな歌を歌ってあげるとパニックが収
まるのですが、それを続けることはあまりよくないのでしょうか。
A.基本的にはあまり好ましくありません。例えばスーパーでお菓子を買ってもらえないときにパニッ
クを起こしたとして、お菓子を買ってあげれば収まりますよね。しかしそれでは問題を克服したことに
はなりません。それと同じことです。尐々騒がしくても我慢できるようにするために、泣いても無視す
る方がいいと思います。
ただ本当に怖いことがあるときに泣くのは情動反応と言って、セミナーで説明した強化、消去、罰と
は別の原理に従って増減します。これは後の健康診断の恐怖のところで説明するように、リラックスさ
せながら徐々に慣れさせていくのがよいとされているので、好きな歌を歌うのもあり、ということにな
ります。本当に怖がって、しがみついてくるようであれば、一種の恐怖反応と考えて、後者の対応を取
られたらいいでしょう。そうでなければ、単なる不快な事態からの回避によって強化された行動と考え
て、無視して消去するといいと思います。
Q.中学生であってもABAは可能か。そうであれば、どのように。
A.もちろん可能ですが、小さいお子さんよりも、もっと慎重にしないといけないでしょう。小さいお
子さんならデモで見ていただいたように、抱き上げていすに座らせる、ということもできますが、中学
生ではそうはいかないですからね。
しかし基本的なやり方は同じです。適当なごほうびを用意して、お子さんが何か望ましい行動を取る
たびにそれを与えます。最初は毎回強化子を与えますが、徐々に間引いて行きます。
まずはいすに座る行動自体を強化するといいでしょう。いすに誘導して、すわったらただちに、例え
ばクッキーを一かけら与えて立たせます。すわらなければ、いすから1m以内に近づいたところで強化
して、徐々にいすへの距離を近づけていきます。
いすに座れるようになったら、セミナーでお見せしたような簡単な手作業課題から始めて、マッチン
グ、動作模倣、音声指示と進んでいくといいです。動作模倣もできないお子さんに、中学生だからと言
っていきなり書字を教えようとしてもうまく行きません。細かな動作の前に大きな動作を教えます。
Q.セラピーの場面だけでなく、日常の場面(電車の中、街中など)ではどのようにABAを応用して
いくのか。
A.例えば手をつなごうとしても振りほどく、というお子さんに、手をつなぐ行動を教えます。このと
き、手をつなぐのは不快なのですから、それを逆手に取ります。街を歩いているときに手をつないで、
振りほどこうとしたら、強く握って絶対に離しません。あきらめて振りほどこうとしなくなったら、こ
ちらも力をゆるめます。振りほどこうとしたらまた強く握ります。お子さんは手を強く握られることが
一種の罰となって、徐々に手を振りほどこうとしなくなるはずです。手を振りほどかなくなったら、ご
ほうびとして安全なところでは手を離してあげます。
電車の中でうるさい子がいるとします。その子がDSが好きだとすると、静かにしているときはDS
を与えます。奇声や大声を上げたら、DSを取り上げます。あまりにうるさければ、次の駅でいったん
おります。静かになったらまた乗ります。静かなら、DSを与えます。
このように電車の中や街中でも使えるちょっとしたほうびや不快刺激を使って、お子さんの行動を
徐々に好ましい方向に誘導して行くことができます。
<幼稚園教諭・保育園保育士>
Q.園内の健康診断で受け入れらずにパニックになりました。家でも病院に連れて行くときは大泣きす
るそうです。園では遊戯室で受診した後、その部屋への入室を拒みます。どう克服するか悩んでいます。
A.このお子さんはおそらく病院での診察、治療で怖い体験をしたのだと思います。それが健康診断に
対する恐怖となり、さらにはそれが行なわれた遊戯室にまで恐怖の対象が拡大したものと思われます。
恐怖の克服のためには、その恐怖の対象になるべく頻繁に、しかも長い時間晒して、恐怖が収まるの
を待つのが一番有効です。これを「エクスポージャー(曝露)法」と言い、確立した心理療法の一つで
す。
本当に苦痛を伴うこと、例えば病院での注射に対する恐怖はなかなか克服しにくいですが、痛みを伴
わない、単なる健診や、それが行なわれた部屋に対する恐怖は比較的取り除きやすいです。ですからま
ず遊戯室に対する恐怖の克服から取り組みましょう。
やり方は簡単で、全体集会などで機会があるたびに、そのお子さんを遊戯室に連れてきます。そして
どんなに泣き叫んでも、終わるまで部屋の中にいさせます。20分以上いさせることが望ましいです。
安心させるために教師の体の一部に触れさせているといいでしょう。ただし言葉かけは尐なめにします。
安心できるものを持たせてもいいです。先ほど書いたように、恐怖を克服するにはある程度長い時間そ
こにいる必要があるので、集会の時間では不十分かもしれませんが、とにかく半年くらい、試してみて
下さい。だめなら当面はあきらめるしかないでしょう。
健康診断そのものの恐怖の克服は園では機会が尐なすぎるので難しいでしょう。ご家庭がお子さんを
病院に連れて行く機会を利用して、気長に慣れさせていくしかないと思います。痛みがない方がいいの
で、例えば1カ月に一度、行きつけの歯医者さんに定期的に歯のチェックをしてもらうようにしてはど
うでしょうか。
<医療・療育関係者・その他>
Q.1 対 1 で課題に取り組む際の導入はどのようにしているのでしょう。いすに座ることすら難しい子ど
もさんはどうしていますか?
A.会場でお話したように、最初はいすに座らせず、部屋の中で自由にさせます。ただし周囲に楽しい
ものはおかないようにし、セラピストの背後におもちゃやお菓子などを集めておきます。子どもが近く
に寄ってきたら、ごほうびを一個与えます。子どもがもう一つほしがったら、両手で子どもの右手につ
みきを持たせてから、あなたの左手をしっかり子どもの手に添えて、その間に右手に持ったおわんにそ
れを入れさせます。入れることができたら、ごほうびを一個与えます。これを繰り返し、
「指示に応えた
らごほうび」という関係に慣れさせてから、そっといすに誘導します。
最初はいすに座らせたら、すぐにつみきを持たせておわんに入れさせ、一回で立たせます。子どもが
抵抗なくいすに座るようになったら、立たせる前に数試行させてから立たせるようにします。このよう
にして、いすでの学習に誘導して行くのです。
Q.こだわりとして紹介されたエピソードで、強迫的と思われるものがある気がします。素人が強迫を
消去しようとするのは、危険ではないでしょうか。
A.強迫って強迫神経症の「強迫」でしょうか。ABAでは強迫神経症も強迫行動をさせないことで新
しい事態に慣れさせていきます。素人がやったら危険、といわれれば、それは自閉症児の療育も同じこ
とでしょう。本質的な違いはありません。
Q.1対1で課題に取り組む時に、足を伸ばしてすわるのには、理由があるのですか。
A.二つ理由があります。一つはいすを足で挟むことによって、子どもが簡単に逃げだせないようにす
るためです。もう一つは大人の視線の位置を下げることによって、子どもに大人の笑顔がよく見えるよ
うにするためです。
Q.視覚刺激に弱い子どもへの強化子の出し方。他の物を机の向こうに出したままでもよいのは?
A.デモのときは時間がなくてあわてていたこともあって、床に強化子が散乱していましたよね。本当
はあれは望ましくありません。気が散るものはなるべく片づけて、強化子はセラピストの背後など、見
えにくい位置にまとめておきます。私は片づけるのが苦手で、日頃でもつい散らかしたままでセラピー
をしてしまうのですが。
Q.
「非自閉症圏に移行する」とはどう言った状態ですか?
A.オンタリオ州の報告のことですね。あれはCARSというテストに基づいて、一定点数より低いと
「非自閉症圏」とされるようです。私はCARSは使ったことがないのでよくわからないのですが、私
がよく使っているPARSというテストだと、8点以下で、PDD(広汎性発達障害)の可能性は低い、
とされます。それと似たようなものと考えられたらいいと思います。必ずしも、自閉症の行動特徴がゼ
ロになる、という意味ではありません。
Q.高等部以上の方にも有効ですか。
Q.成人になってから始めてもいいのか。
A.ABAは幼児から成人まで、対象年齢の限定はありません。いつからでも始められます。ただやり
方は多尐変えなければいけません。中学生に関するご質問への回答でも書きましたが、小さいお子さん
なら抱っこしていすに座らせてもいいですが、大人ではそうはいきませんからね。
でも基本的なやり方は同じです。成人向け施設に入所している成人の方を例にとりましょう。その方
にABAを使うとき、まずその方にとっての強化子を探します。その方が喜ぶもの、そしてそこで簡単
に与えられるものが条件です。例えば小休憩、音楽、その人の好きなグッズ(ひらひらするものなど)
などが考えられるでしょう。次に何をターゲット(標的行動)にするかを決めます。その方が作業に従
事しなかったり、すぐにその場を離れたりする場合は、作業に一定時間取り組むことをターゲットにし
て、それができた時に強化子を与えます。例えばひらひらするひもが好きな方なら、最初は作業室に入
っただけでひもを与えます。途中でひもを取り上げるのが難しければ、この日はこれでおしまいにしま
す。次の日は作業の机の前に着いたところでひもを与えます。次の日は作業にスタッフの援助で 10 秒間
従事できたところでひもを与えます。このようにしてスモールステップで徐々に作業に取り組める時間
を長くしていきます。
一方問題行動に対しては、講演でご説明したように、基本的に消去+DROや先行条件操作で対処しま
す。それでだめなときにタイムアウトなどの軽度の罰を用います。くれぐれも罰がエスカレートしない
ように気をつけて下さい。感情的にならず、冷静に与えることが大切です。
Q.音声模倣をスタートする目安の段階ってありますか。理解言語が育っていないのに表出言語の訓練
をしても、コミュニケーションとしての言葉は発達しないと思うのですが。
A.ロバース法では、まず動作模倣や音声指示を教えます。音声指示は言葉の指示に応える、というこ
とで、理解言語にあたります。その後で音声模倣と物の名付け(受容的命名)をほぼ同時並行でスター
トさせます。最初は単なるエコーですが、そこに物の名前の理解が加わることで、意味のある言葉の表
出につなげることができます。
Q.現在の先生の娘さんの状態を教えて下さい。
A.いま娘は県立特別支援学校高等部の 1 年生です。バス停まで親が付き添い、後は一人でスクールバ
スに乗って、元気に登校しています。学校では家庭科の調理実習や裁縫、グループ学習の算数や国語に
比較的積極的に取り組んでいるようです。ただ先生がいないとふらふらとその場を立ち去ることがある、
と連絡帳に書いてありました。言葉は、自分の意思を伝える程度には使えます。最近は自分の内心の状
態も言えるようになりました。先日、風邪をひいて熱っぽかった時は、自分のあごのところをさして、
「こ
こが痛い。最近、インフルエンザが流行ってる」と妻に言ったそうです。きっと自分の体調が悪いこと
から、どこかで聞きかじったインフルエンザのことを連想したのでしょう。
知的にはいまでも遅れがありますし、自閉症の特徴もしっかり備えているのですが、小さいときから
問題行動にABA的に対処してきたので、どこに連れて行っても恥ずかしい思いをすることは(あまり)
ありません。フレンチレストランで食事をしても大丈夫です。学校も大好きで、自己効力感も高いです。
ABAをやってきてよかったと思っています。