税務調査対策 税理士 田添 正寿 税務調査とは 税務署は、個々の納税者に対して、申告 内容の正誤を調査します これがいわゆる事後調査で、納税者と税 務署員が争う場となります 国税局・税務署の機構 国税局調査部門 ・査察部(マル査) ・資料調査課(料調) ・調査部 税務署調査部門 ・特別国税調査官 ・個人課税○ ○部門 ・法人課税○ ○部門 税務調査の種類 犯則事件のための調査 脱税者に対して行われる脱税行為に関する捜索のため の税務調査 ↓ この調査は脱税者に対して行われることを前提としていま すので、調査官は脱税容疑の嫌疑者又は参考人に対し て、単なる質問検査権の範囲だけでなく、臨検・捜索・差 押え等、非常に強力な権限を持って臨むことができます。 そのため、この調査は原則としてあらかじめ裁判所の許可 を得てから行われます。 税務調査の種類 徴収処分のための調査 税の滞納者に、その租税債権を確保する ために行われる調査 税務調査の種類 課税処分のための調査 税務署の調査官が行う通常の調査 この調査は、納税者が提出した申告書の 内容が正しいかどうか、その確認のために 行われる調査であり、あくまで任意調査で す。 税務調査の種類 税務署個人、法人課税部門の調査 通常1日~2日程度の調査 特別国税調査官調査 高額所得者対象 日数をかける 定期的接触 資料調査課調査 任意調査であるが、マル査まがいの調査を行い、 納税者を犯罪人扱いしたり、基本的人権の侵害 など問題がおきた事例がある。 現況調査 現況調査とはまだ確定申告をしていない年分(進行中の年)について調 べる調査をいいます ①現金管理の状況 ・手元有り高と帳簿残高の照合および伝 票などによる証明 ・患者名と内容をメモして、原価(ラボ、薬 品、検査等)との流れをつかむ ・不一致がある場合、青色申告の取り消 しや推計課税の可能性あり 金庫や机の中の調査 ・個人別(家族)名義の区分整理と入金・出金の検 討をする ・机の中の現金について入金理由を確認し、帳簿と 照合する ・机やタンスの中に定期預金の証書や株券はない か、銀行との取引関係のわかるメモがないか チェックする ・メモや雑記帳を重視し、その内容を検討する 固定資産の検討 ・診療用機器、設備の取得年月日と金額を 聞き、その出所を確認する ・資産の経費算入を調べる 特定経費の内容検討 ・青色専従者給与(又は理事報酬)及び人件 費について、その実態と内容、支給金額の 検討 ・接待交際費、研究費、福利厚生費の収益 性について検討 ・薬品、検査、ラボの主要経費について納品 書、請求書を検討する 経営概況と会計帳簿の調査 ・経営者と同族関係者の医院へのかかわりについ て調べる。とくに預金と医院からの支出状況 ・収入、経費の決済方式、特に現金の状況につい て、その理由と記帳方法 ・出納責任者が同族関係者の場合は、不正が生じ やすいので、その事実と記帳の流れを十分検討 する ・経理用の印鑑を架空領収書等に使用していない か、また経理用印鑑以外の印鑑を置いていない かチェックする 一般的な税務調査 ・医業収入 ①社会保険診療収入 患者の一部負担金等の窓口収入の除 外や、収入金額の集計計算に間違いは ないかを調べる 一般的な税務調査 ②自由診療収入 自由診療比率の高い病・医院の調査は、 現場確認調査と原始記録が把握され、労 災、自賠責保険など振込み入金について は、病・医院の預金口座だけでなく、個人 口座まで調査しようとする 一般的な税務調査 ③その他の現金収入 ・外国人旅行者等の保険未加入者からの 自費診療収入はないか ・室料差額はないか ・休診日に急患から領収した収入の漏れは ないか ・企業の健康診断収入に漏れはないか ・月中退院者からの収入の漏れはないか 一般的な税務調査 振込収入 ・医師会や損害保険会社などからの入金の 漏れはないか ・老人保健事業委託料は漏れていないか ・労災保険収入が漏れていないか 一般的な税務調査 診療付帯収入と雑収入 ・関連業者からのリベート収入のチェック 医薬品卸会社や医薬品機器会社から のリベート収入のチェック 調剤薬局からのリベート、コンタクトレン ズ等の紹介手数料 一般的な税務調査 ・患者の負担金収入 おむつ代、テレビの使用料 入院患者の付添人の給食代、貸寝具料 ・公衆電話、自動販売機の手数料収入 ・売店収入、各種証明書の発行手数料 一般的な税務調査 ・補装具(松葉杖等)のリース収入 ・余った医薬品を卸し会社に引取らせた収入 や製薬会社からの委託研究費は漏れてい ないか 一般的な税務調査 仕入れ 仕入れの大部分が医薬品であり、特に医 薬品依存度が高い病・医院では納品書、 請求書医薬受払い簿等、医薬品管理には 注意する。 調査時には、架空仕入や水増し仕入れ がないか調べます 一般的な税務調査 人件費 ・医師や看護師の定員数合わせのための 名義借りに便乗した架空人件費はないか ・中途就退職者の勤務期間延長による架 空人件費はないか ・理事長(院長)等の家事使用人に対する 人件費のつけ込みはないか 一般的な税務調査 人件費 ・看護学校等に通学しながら勤務する学生 の人件費の水増しはないか ・勤務実績のない代表者(院長)の家族や 親族に対する理事報酬は適正か ・非常勤医師の架空謝礼金はないか 一般的な税務調査 たな卸 ・決算期直前の仕入れ医薬品やX線室の 医薬品は適正に管理されているか ・特定医薬品や高額医薬品が適正に管理 されているか 個人診療所特有の調査着眼点 ①青色専従者給与の基準指導と実地調査 ・金額の適正 ・届出の有無 ・勤務実態 等 ②資産関連の調査 ・研究機材 ・消耗品費 ・修繕費 等 個人診療所特有の調査着眼点 ③接待交際費の実態調査と個別認定(家事 分否認) ・ゴルフ、飲食、会費等の家事・趣味扱い の認否 ④家事関連費 ・支払利息(建物、住宅割合で否認) ・減価償却費(車両、建物) 個人診療所特有の調査着眼点 ④家事関連費 ・消耗品費(家事消耗品分) ・福利厚生費(昼食は給与加算) ・旅費、交通費、宿泊費に個人の旅行費 が含まれていないか ・水道光熱費、通信費、賃借料、修繕費、 保険料、租税公課等について家事関連費の 割合で按分されているか 源泉所得税の調査 病・医院の医師、看護師等勤務者に対する 各種手当てや福利厚生面のチェック 代診医師や、勤務医の源泉所得税が正し く徴収されているか、現物給与の課税漏れ がないかチェックされます 源泉所得税の調査 ① 給与関係 ・非常勤医師等に対する源泉徴収の不履行 ・非常勤医師の給与の支払いが他の経費に紛れ込 んでいないか ・本来乙欄で徴収すべきところを一律のパーセンテー ジで源泉徴収していないか ・日払い給与は日額表を適用すべきなのに月額表に より徴収していないか 源泉所得税の調査 ①給与関係 ・非常勤の放射線技師の給与を請負契約 と称して、源泉徴収の不履行がないか ・高い税率を逃れるための名義の分散をし ていないか 源泉所得税の調査 ②現物給与・諸手当 ・医師等に支給した食事手当、渡しきり交 際費、研究費等の計上漏れはないか 医師・歯科医師の税務調査事例 事例1 A歯科医師(青色申告者) ①調査内容 ・診療行為と経理処理の流れの確認 ・歯科技工発注書と自費に関する患者 名との突合(日計表) ・雑収入(歯ブラシ、レントゲン廃液など)の経 理状況確認 医師・歯科医師の税務調査事例 事例1 A歯科医師 ②争点 調査官が日計表の自費患者の欄を透かし てみて、一度書いて消した後がある。 過去の日計表も同様である。 日計表は奥さんが記帳しており、鉛筆書き である。 医師・歯科医師の税務調査事例 事例1 A歯科医師 ③結末 奥さんが一部自費に関して収入の 除外があることを認識していたため、確認 できるものについて修正申告を行った。 医師・歯科医師の税務調査事例 事例2 B内科医師(白色申告) ①調査内容 地域がら労災、公害などの自費収入に該 当するものが多かったため、これらの収入 に関して調査が行われた 医師・歯科医師の税務調査事例 事例2 B内科医師(白色申告) ②争点 医業収入については、B医師が明細な記 録を作成していたため、問題なかった しかし、生命保険満期返戻金の支払調書 を提示し、通帳の確認。 医師・歯科医師の税務調査事例 事例2 B内科医師(白色申告) ③ 結末 B医師は、このようなものまで申告する必 要はないものと思っていたため、この一時 所得についてのみ修正申告を行った。 医師・歯科医師の税務調査事例 事例3 C歯科医師(青色申告) ①調査内容 C医師は引退された歯科医師の医院を引 き継ぎ開業した。 その際、権利の譲渡として医療機器、内装 等の費用のほかに暖簾代として1,000万 円を支払い、営業権として資産に計上して いた。 医師・歯科医師の税務調査事例 事例3 C歯科医師(青色申告) ②争点 税務署側は、営業権は個人の場合ほとん ど認めていないため、借家権として経理す べきというものであった。 医師・歯科医師の税務調査事例 事例3 C歯科医師(青色申告) ③結末 ・カルテによって患者が引継がれていること ・医院のスタッフが引継がれていること ・医院自体に相当の実績があり、その存在が周囲に 知られていること ・既存の歯科医院であるため、新たに歯科医師会に 入会が不要であること を主張し、営業権としての税務処理は認められ申 告は是認された。 医師・歯科医師の税務調査事例 事例4 D歯科医師(青色申告者) ①調査内容 ・診療行為と経理処理の流れの確認 ・自費に関する患者名との突合(日計表) ・窓口収入の確認 医師・歯科医師の税務調査事例 事例4 D歯科医師(青色申告者) ②争点 ・医師会費として経理されているものの中に保険 積立金に該当するものがあった ・窓口収入についてサービスとして、現金の受取 をしていない場合があった ・年度をまたがった自費治療について、前年にま とめて領収書を発行しているにもかかわらず、翌 年に収入を計上していた 医師・歯科医師の税務調査事例 事例4 D歯科医師(青色申告者) ③結末 争点の内容についてすべて間違いがな かったため、修正申告に応じた 医師・歯科医師の税務調査事例 事例5 E眼科医師(青色申告者) ①調査内容 通常の調査の手順のほか、関連法人とし て眼鏡、コンタクトレンズの販売、医療サー ビスを行う営利法人との取引関係を調査し た 医師・歯科医師の税務調査事例 事例5 E歯科医師(青色申告者) ②争点 ・関連法人に対する事務手数料の支払額 の算定基準の適否が問題とされた ・ゴルフ会員権の借入金取得に対する利息 の必要経費性について 医師・歯科医師の税務調査事例 事例5 E歯科医師(青色申告者) ③結末 ・関連法人との間に締結された契約書、及 び料金の算定基準書を示し、認められた。 ・ゴルフ会員権は、医師会等のコンペ、他 の眼科医との情報、意見交換の場として 活用しているとして、一部認められ、一部 否認し修正申告を行った。 医師・歯科医師の税務調査事例 事例6 F泌尿器科医師(青色申告者) ①調査内容 接待交際費、会議費、福利厚生費の内容 について領収書等を綿密に調査 医師・歯科医師の税務調査事例 事例6 F泌尿器科医師(青色申告者) ②争点 税務署側は、接待交際費、会議費、福利厚 生費の金額が大きく、家事費も混在してい るため、一部否認するよう要求 医師・歯科医師の税務調査事例 事例6 F泌尿器科医師(青色申告者) ③結末 税務署側が、寿司店、バー等へ反面調査を行い、 レジ売上げ等の確認 ↓ 確実な証拠がないため、税務署側に否認根拠 がなかったが、調査が長引いたため、数パーセ ントを否認することで和解となり、一部修正申告 行った 医師・歯科医師の税務調査事例 事例7 G眼科医師(青色申告者) ①調査内容 MS法人との関連取引について調査 窓口収入について調査 専従者給与(内科医師)について調査 医師・歯科医師の税務調査事例 事例7 G眼科医師(青色申告者) ②争点 ・専従者給与の届出額以上の支給がなされてい るのではないか ・手術を行った際に患者さんから徴収していた手 術用パックをMS法人の収入として申告していた が、この金額は手術に付随して発生する収入で あるから、本来眼科医師の所得として申告すべ きではないか 医師・歯科医師の税務調査事例 事例7 G眼科医師(青色申告者) ③結末 ・専従者給与の届出以上に支給されてい た額について修正申告書を提出した。 ・手術用パックに関する収入の帰属の問題 は、見解の相違があったため修正申告せ ず。 医師・歯科医師の税務調査事例 事例7 G眼科医師(青色申告者) ③結末 税務署より、手術用パックの収入帰属に ついて更正決定通知 ↓ 国税不服審判所へ不服申立 税務調査Q&A Q1.事前通知なしに税務職員がきたがどうす ればよいか A1.あくまで税務調査は原則的に任意調査 であるため、突然の調査官の来院に対し ては理由を述べた上で、調査の延期を申 出てください 税務調査Q&A Q2.調査日時の連絡があったとき、都合の悪 い場合には、調査の延期ができるでしょう か? A2.調査の延期は、調査拒否ではないため、 その日の都合が悪ければ調査の延期を申 出ることは何ら問題ありません。 税務調査Q&A Q3. 税務調査において、青色専従者給与 の額が高額であると指摘されたのですが。 A3. 青色専従者が、もっぱら医業に従事し ていること、その労務の質が他の使用人と まったく異なること、そして医師の収益の状 況等を根拠としてその給与の妥当性を主 張してください。 税務調査Q&A Q4. 調査官の態度が威圧的なのですが、ど う対処したらよいでしょうか A4. 調査官に権力的な言動があった場合 には、注意を促して是正を求めるべきです。 それでも、悪質な言動がみられる場合には、 税務署長に連絡して、是正を求めるべきで す。 税務調査Q&A Q5. 納税者の許可がなくても、金庫や引き出し、 家計簿を調べられるのでしょうか? A5. 一般の税務調査は任意調査ですから、納税 者の承諾がなければ金庫や引き出しを開いたり、 家計簿をみたり、現金や預金等の検査をするこ とはできません。 もし、調査官が納税者の承諾なしに金庫や引き 出しを調べようとしたら抗議して下さい。 税務調査Q&A Q6.税務調査官から、カルテの開示を求めら れたのですが、拒否していいのでしょう か? A6. 医師には、刑法及び他の法律により厳 重な守秘義務が課されており、カルテの開 示には応じてはならず、拒否すべきです。 税務調査Q&A Q7.修正申告書をだすように慫慂され(すす められ)ましたが、どうすればよいのでしょ うか? A7.修正の内容に不服があれば、納税者が 不服申立ての機会を奪われるような修正 申告の慫慂には応じるべきではありませ ん。
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