日本映画とメディアミックス

日本映画とメディアミックス
平成19年度 卒業論文
東洋大学 社会学部 メディアコミュニケーション学科 4年
1540040046 田中 綾子
問題意識
 近年原作があるものを映
画化するいわゆるメディ
アミックス作品が増えてき
ていると思われる(表1)。
 これは近年特有の傾向
であるのか、そうではな
いのか。
 近年特にどんなメディア
が映画化されているのか。
表1 2006年公開の邦画ヒット作品のタイトル、興行
収入及び原作メディア
作品名
興行収入
原作メディア
ゲド戦記
76億5千万円
小説
LIMIT OF LOVE
海猿
71億円
漫画
THE 有頂天ホテ
ル
60億8千万円
デスノート the
Last name
55億円
漫画
日本沈没
53億4千万円
小説
男たちの大和/
YAMATO
51億円
ノンフィクション
メディアミックス作品の増加は近年特有の傾向か
(本)
120
100
80
60
40
20
0
1945年 1950年 1955年 1960年 1965年 1970年 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年
図1 1945年以降に制作されたメディアミックス作品数の推移
メディアミックス作品の増加は近年特有の傾向か
 1960年前後にもメディアミックス作品は多い
→1960年前後は日本映画業界の第2黄金期
当時日本映画は映画会社によって作られて
いた。映画会社は大衆向けの映画を量産し
ていた時期であり、この時期のメディアミック
ス作品は映画の量産期を支えた存在であっ
たと考えられる。
メディアミックス作品減少の背景
 テレビの普及・娯楽の多様化
映画館への入場者数の減少
↓
映画会社の業績悪化
↓
映画の制作本数減少
↓
メディアミックス作品減少
近年のメディアミックス作品増加の背景1
 テレビ局の存在
テレビ局が映画製作に本格的に参入したのが
1980年代、それ以降持ち前の宣伝力で映画を
ヒットにつなげている。映画を作るにあたってテレ
ビ局が目をつけるのは、すでに話題になった原作
である。 2000万部売れた漫画や100万部売れた
小説、あるいはだれもが知っているテレビドラマで
ないとテレビ局は映画化しない。まずはヒットする
原作を探すことから始めるのである(李,2007)。
近年のメディアミックス作品増加の背景2
 近年主流の製作委員会方式による製作
製作委員会方式とはコンテンツとして映画を確保
する必要のあるメディア企業複数社で1本の映画
に出資し、著作権を分有すること。
複数の企業が集まるので、ヒットするか判らない
オリジナルの脚本を映画化するよりはすでに世に
でている原作ものの映画化の方が確実に観客動
員を見込める安全策だと捉えられると思われる。
近年のメディアミックス作品増加の背景3
シネマコンプレックスの普及
スクリーン数の増加で上映する作品自体が必要と
なり、一から作品を作るよりも既にストーリーの出来
上がっている原作ものの方が重宝されているので
はないかと考えられる。
複数の作品を扱うシネマコンプレックスにおいて「自
分の身近なレベルで話題になった作品」に関する
安心感、親近感が観客の意思決定を促すという心
理に基づいて原作ものを積極的に映画化している。
原作ジャンルの分析
(%)
70
63.1
60
50
40
30
16.6
20
10
11.9
1.9
1.8
0.7
0.8
0.4
0.4
0.4
0.3
0.3
0.3
0.5
0.9
戯
曲
ノ
ン
フ
ィ
ク
シ
ョ
ン
随
筆
ラ
ジ
オ
ド
ラ
マ
舞
台
劇
自
伝
テ
レ
ビ
ド
ラ
マ
手
記
浄
瑠
璃
歌
舞
伎
テ
レ
ビ
ア
ニ
メ
そ
の
他
0
小
説
漫
画
・
劇
画
・
体
験
記
図2 原作メディアのジャンル別の割合
不
明
映画化される割合が高い原作メディア
 小説
高度経済成長時代と歩調を合わせて一大
ブームを築いた小説に映画会社が眼をつけて
以降、映画会社は人気作家の作品の映画化
を積極的におこなった。
しかし、現在では作家より内容が重視される
傾向にあるため、かつてに比べ小説が映画化
される割合は減少傾向にある。
メディアミックス作品における小説原作の割合
(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1951年1955年1959年1963年1967年1971年1975年1979年1983年1987年1991年1995年1999年2003年
図3 メディアミックス作品における小説原作の割合
増加傾向にある原作メディア
 漫画・劇画
近年漫画・劇画は小説に迫るような勢いで増加傾向にある。
(本)
小説
漫画・劇画
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1945年1950年 1955年1960年 1965年1970年 1975年1980年1985年 1990年1995年 2000年2005年
図4 小説原作作品数と漫画・劇画原作作品数の推移
増加傾向にある漫画・劇画の映画化
 1994年以降漫画・劇画原作の映画化が急激に増えている。
特に1995年は多く、メディアミックス作品数78作品のうち漫
画・劇画原作の数は36作品であった。その割合は制作され
たメディアミックス作品数に対し、46.2%となっている。
(%)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
46.2
1945年 1950年 1955年 1960年 1965年 1970年 1975年 1980年 1985年 1990年 1995年 2000年 2005年
図5 作品数に対する漫画、劇画の割合
なぜ1994年以降漫画・劇画の
映画化が増えたのか1
 入場者数を増やすための手段
1995年前後は入場者数が戦後最も少ない時期で
あった。
一方、漫画市場は上向きで、1994年週刊少年
ジャンプが最高発行部数653万部を記録している。
↓
入場者数を増やすための手段として好調であっ
た漫画・劇画を原作として積極的に映画化して
いったのではないかと思われる。
なぜ1994年以降漫画・劇画の
映画化が増えたのか2
 テレビ局の影響
当初、テレビ局の制作する映画の中に漫画や劇
画を原作としている作品はこの分析をした過程で
あまり見受けられないが、1991年フジテレビの柴
門ふみ原作によるドラマ「東京ラブストーリー」の
ヒット以降各局が柴門ふみの漫画を次々とドラマ
化していったことから、テレビ局は漫画原作の映
像化に確信をもったのではないだろうか。
1995年以降テレビ局は漫画原作の映画化に積極
的になっていっているように思われる。
日本映画とメディアミックス
日本映画においてメディアミックス作品は昔から使
われている手法であった。また、最近は漫画・劇画
の映画化が増加傾向にある。
映画にメディアミックスの手法を用いるということは、
原作のファンを取り込み、観客動員数を増やすため
の手段として昔も今も共通である。さらに近年にお
いては、小説以上にファンのつきやすい漫画・劇画
を映画化し、より一層の観客動員を目指す動きが
顕著である。その裏にはテレビ局の存在があり、日
本映画は今、テレビ局というかつてのライバルなし
には成立し得なくなっていると思われる。