東日本大震災による 不動産市場への 影響と見通し - ジョーンズ ラング

July 2011
東日本大震災による
不動産市場への
影響と見通し
2 Advance
震災の概観・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
不動産市場への影響 ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
オフィス・セクター
東京市場
大阪市場
レジデンシャル・セクター
リテール・セクター
ロジスティクス・セクター
ホテル・セクター
不動産投資市場 ・
・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
投資家
国内投資家 (J-REIT、
デベロッパー、保険会社)
海外投資家
資金調達環境
今後の見通し・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
エグゼクティブサマリー
2011年3月11日、東北地方の太平洋沖約
130km付近でM9.0の地震が発生した。
この
ロジスティクス・セクター
災害に耐えうる最新型物流施設への見直しが
M9.0という地震は、国内史上最大、世界でも観
高まっており、今後は物流倉庫においても免震・
測史上4番目の規模であった 。
制震機能を備えた近代的な施設への需要が高
不動産市場への影響
オフィス・セクター 東 京 市 場 で は 2 0 1 1
年 中の賃 料 水 準は弱 含みが 予 想されるが 、
まることが予想される。
ホテル・セクター
需要減少は一時的なものであり、比較的短期
テナント需要の回復は2012年以降に本格化す
で回復すると考えられる。回復基調は様々だ
ると考える。大阪市場では全体的な賃料水準は
が、1-2年で回復するという見方が優勢である。
2 0 1 3 年の大 量 供 給を消 化して底を打つと
考える。従って2011年、2012年は下落が続く
ものの、2013年末には横ばいになると予想して
いる 。
レジデンシャル・セクター
高級賃貸住宅市場はエクスパットの海外逃避に
より大きな影響を受けているものの一般賃貸住
宅市場は大きな影響を受けておらず賃料収入も
安定して推移している。
リテール・セクター
百貨店やショッピングセンターにおいては震災
の影響は一時的だが、外国人観光客に下支えさ
れてきた銀座や表参道に代表される高級リテー
ルについては暫く弱含むことが予想される。
不動産投資市場
国内投資家には大きな変化はなく、海外投資家
も長期的には楽観しているがドイツの投資家が
一部例外である。
見通し
震災直後は総悲観に傾いた日本経済及び不動
産市場であるが、その回復は当初の予想よりも
早いペースで進むことが十分考えられ、
ひとたび
回復に向かえば急カーブを描いて加速度的とな
る可能性もある。
4 Advance
震災の概観
今回の波は堤防の倍近くの高さがあったとされ、
2 0 1 1 年 3月1 1日、東 北 地 方の太 平 洋 沖 約
130km付近でM9.0の地震が発生した。
この
M9.0という地震は、1923年の関東大震災の
M7.9や1995年の阪神淡路大震災のM7.3を
上回る国内史上最大、世界でも観測史上4番目
の規模であった。
これまでの経験、想定していたリスクを遥かに上
回る規模であった。
東京は震源地から離れていたため、地震による
建物の倒壊や津波による被害は軽微であった。
しかし津波によって原子力発電所や製油所が被
害を受け、放射能問題や大規模停電、ガソリン
不足などの問題を引き起こし日本経済にも大き
1. チリ地震 M9.5 1960年
な影響を及ぼした。
2. アラスカ地震 M9.2 1964年
経済への影響
3. スマトラ島沖地震 M9.1 2004年
4. 東北地方太平洋沖地震 M9.0 2011年
地震による直接的な被害のほか、
その後の津波
によって様々な二次災害が発生した。岩手県宮
古市には日本最大の防潮堤が築かれていたが、
当日14時46分に発生した地震直後から日経平
均は急落し、15日の最安値8,227.63円を付け
るまで実に10日の終値10,434.38から21%の
下落となった。また、震災復興のために国外に
滞留している日本円が国内に還流する、
いわゆ
図1. 東日本大震災と阪神淡路大震災の震源地
仙台
福岡
大阪
阪神淡路大震災
東京
東日本大震災
東日本大震災による不動産市場への影響と見通し 5
るリパトリエーションが起きるという思惑から、
図2. 日経平均と為替相場
当時すでに円高水準であった為替相場はさらに
円高が進み、対ドルでは17日の最高値で76円
台と歴史的最高値に達した。
しかしその後の各
国の協調介入によって85円台まで戻し、6月時
円/米ドル
円
78
12,000
11,500
79
80
10,500
81
9,800円まで回復しており、当初の混乱は徐々
10,000
82
9,500
83
9,000
84
8,500
85
8,000
86
に落ち着きを見せている
(図2)。
6月の日銀短観では、大企業製造業の業況判断
はマイナス9ポイントとなったものの先行き3ヶ
月の業況判断は2ポイントとなっており、原子力
発電所による放射能の影響や電力不足による経
済活動への圧迫は今夏がピークとなると予想さ
れる
(図3)。
またIHSグローバルインサイトによると震災以
前は日本のGDP成長を2011年に1.3%、2012
図3. 日銀短観 大企業製造業DI
30
2011年はマイナス0.9%に下方修正され、
また
20
復興を伴う反動で2012年は4.4%と大きな成
10
-20
今回の震 災によって不 動 産 市 場の需 要は大
きな転 換 期を迎えることとなった。これには
to
Quality」
のみならず
「Flight
0
-10
不動産市場への影響
「Flight
アメリカドル
日経平均
(日経平均左軸、為替は逆目盛で右軸それぞれ終値)
出典 : 日本経済新聞社
年は1.8%と予想されていたが、震災の影響で
長が予想されている
(図4)。
1/4
1/12
1/19
1/26
2/2
2/9
2/17
2/24
3/3
3/10
3/17
3/25
4/1
4/8
4/15
4/22
5/2
5/12
5/19
5/26
6/2
11,000
点では80円台で推移している。
また日経平均も
to
Safety」
といったエリアの再考や建物の安全
性に対する認識も大幅に高まった。具体的な動
-30
-40
-50
-60
2006
2007
2008
2009
2010
2011
出典 : 日本銀行
きとしては高層階から低層階、湾岸部から内陸
前年比 (%)
6.0
4.0
2.0
0.0
-2.0
-4.0
出典 : IHS グローバルインサイト
2015予
2014予
2013予
2012予
2010
2009
2008
2007
2006
2005
震災前
2011予
震災後
2004
-8.0
2003
-6.0
2002
様の傾向が見られている。
図4. GDPの予測
2001
が挙げられ、後述する各セクターほぼ全てに同
2000
部、低クオリティから高クオリティといった変化
6 Advance
オフィス・セクター
ルはより一層テナント誘致が困難になるという2
東京市場(CBD)
極化が進むことが予想される。
東京CBD*のAグレードオフィス市場では震災
今後5年間の新規供給を見てみると、震災の影
による直接的な被害は見られなかったが、テナ
ントは耐震性を再認識しつつある。特に最新の
建築技術を用いた大型ビルへの需要が増えてお
り、
これによって建築年数が古く、耐震性の劣る
ビルはさらにテナントから敬遠されつつある。
ま
た、今夏予想されている本格的な電力不足によ
って電力の使用量が制限される見込みである。
従って自家発電設備を持つ一部競争力を有する
ビルはますますテナントを集め、競争力の劣るビ
響で需要が落ち込むと予想される2011年は極
めて限定的である。
その後の回復期には過去10
年平均とほぼ同等の供給が計画されているた
め、需給バランスにおいて懸念材料は見当たら
ない。
また、震災復興のために政府は建設業界
に支援を呼びかけており、建設資材が被災地へ
優先されることで今後Aグレードビルの竣工時
期に影響が出る可能性もある。
しかしながら市
場への供給量が絞られることは需給バランスの
視点からはむしろプラス材料といえる。
図5. 福島と東京の位置
また、海外企業・投資家の最大の懸念は未だに
事故の収拾が見えない原子力発電所の問題で
ある。
しかし福島から東京都心部は200km以
上も離れており
(図5)、
このまま大きな事故も無
岩手
く冷却装置の復旧が進めば、
さらなる放射性物
質の拡散リスクはひとまずの落ち着きを見せる。
その後の土壌汚染、海洋調査等、安全確保への
課題は山積しているが、不動産市場への物理的
宫城
な影響は底を打つこととなる。
震災、電力不足、原発の懸念とテナント需要を押
仙台
し下げる要因は様々であるが、東京Aグレードオ
フィス市場には、賃料下落余地はあまり残され
福島第一原発
福島
福島第二原発
ていない。震災前には回復の兆しが見えていた
東京市場であるが
(図6-1)、震災によってテナン
トの動きに鈍化が見られたため今回、賃料サイ
クルにおける東京の位置の見直しを行った(図
6-2)。
しかしながら現状の賃料水準はマーケッ
茨城
トサイクルでもほぼ底値圏で推移しており、大量
供給を経験した2003年の賃料水準に近づいて
いる。
当時と現在のビルのクオリティ、
スペックを
考慮すると賃料が同程度というのは明らかに割
東京
安水準といえる。
千葉
0
200KM
*CBD = Central Business District、ジョーンズ ラング ラサールでは千代田・
中央・港区の3区を定義している。
東日本大震災による不動産市場への影響と見通し 7
図6-1. プロパティクロック 2010年第4四半期
図6-2. プロパティクロック 2011年第1四半期
広州
広州
賃料上昇の減速
賃料下落の加速
賃料上昇の加速
賃料下落の減速
香港
北京
シンガポール、メルボルン
上海、アデレード
シドニー、マニラ
ムンバイ、バンガロール
クアラランプール
賃料上昇の減速
賃料下落の加速
賃料上昇の加速
賃料下落の減速
北京、香港
大阪、
ホーチミンシティ
ソウル
バンコク
キャンベラ
オークランド
ブリスベン
ソウル、
ホーチミンシティ
シンガポール、メルボルン
上海、アデレード
シドニー、マニラ
バンガロール
東京、ジャカルタ、パース、デリー ハイデラバード、タイペイ
ムンバイ、パース タイペイ、 ジャカルタ
^ CBD & SBD
大阪、バンコク
キャンベラ
オークランド、クアラランプール、東京
チェンナイ、ブリスベン、デリー
^ CBD & SBD
出典 : ジョーンズ ラング ラサール
復興に向けて互助の機運が高まる現在の状況
下では、オーナーも露骨な賃料引き上げを行
うことは賢明な選択ではなく、むしろ中長期的
な観点でテナントと友好な関係を築くチャンス
といえる。従って2011年中の賃料水準は弱含
みが予想されるが、
ひとたび上昇に転じれば継
図7. 東京市場の供給と賃料
新規供給 (m2)
60,000
600,000
50,000
500,000
続的な回復が期待され、
テナント需要の回復も
400,000
2012年以降に本格化すると考える。
ジョーンズ
300,000
ラング ラサールでは、2011年は3-5%程度の
200,000
下落はあるものの、2012年には5-10%の上昇
100,000
を見せると予想している
(図7)。
また、売買市場においては震災によって東京の
不動産市場にはむしろ逆にリスク・プレミアムが
月額賃料 (坪/円)
700,000
0
40,000
過去10年平均の
供給レベル
重要性も再確認されている。
また貸し手である
国内金融機関においても貸出金利にプレミアム
を上乗せすることもなく、外資系レンダーも現在
のところこの動きに追随している。従ってキャッ
プレートは2012年の市場回復期には低下する
ことを見込んでいる。
大阪市場(CBD)
大阪CBD* 1のAグレードオフィス市場におい
ては震災の被害は皆無といえる。割安となっ
*1 ジョーンズ ラング ラサールでは中央・北区の2区を定義している。
*2 Business Continuity Plan (BCP) = 事業継続計画
20,000
10,000
'03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 11予 12予 13予 14予 15予
供給
賃料
出典 : ジョーンズ ラング ラサール
乗るとの議論もあるが、現状では投資家のスタ
ンスは変わっておらず、国際的な投資先としての
30,000
たAグレードビルにテナントが移転・拡張する
動きは以前から継続していたが、今後もこのよ
うな需要が加速することが予想される。
ビジネ
スにおいてはこれまで東京一極集中が続いてい
たが、今回の震災後はBusiness
Continuity
このため、東京
Plan(BCP)* が見直されている。
2
一極化から東京プラス1という戦略を取る企業
も現れており、
その中でも真っ先に候補に挙がっ
てくるのが大阪である。
0
8 Advance
福島原発からの逃避に加えて、企業が西日本へ
供給面では2011年、2012年はごく限られてお
移転を進める理由として、東西日本の発電所の
り、テナントによる現在の大阪市場への見直し
周波数の相異が挙げられる。首都圏を管内に
が今後も継続するようであれば2013年の大量
持つ東京電力が所在する東日本一帯は50Hz、
供給の影響も軽減されるであろう。従って今後5
西日本では60Hzの電気が供給されている
(図
年間の空室率は2012年末にピークを迎えるこ
8)。今回の津波で福島原子力発電所が停止
とに変化はないものの、
これまで予測していた程
したことで東京電力の供給能力は大幅に低下
の空室率の上昇には至らないと見ている。
し、50Hzの電気を使用するエリアでは低下した
大阪駅南北の通行はこれまでアクセスが不便だ
電力をまかなうために計画停電や節電等の対応
ったが、再開発の一環として新しい連絡橋が設
に迫られている。そのため金融機関やIT企業と
けられることで利便性が格段に向上した。
そして
いった、停電で業務が滞るような業種の一部で
2013年に竣工のグランドフロント大阪(大阪北
はいち早く西日本、特に大阪のAグレードオフィ
ヤード)が一体となることで大阪のオフィスエリ
スビルへと移転先を求める動きが見られた。
アの魅力が向上することが期待される。
さらに、
図8. 電力周波数の境界
60Hz
地区
50Hz
地区
福島
新潟
栃木
富山
群馬
石川
茨城
長野
埼玉
福井
岐阜
山梨
東京
神奈川
滋賀
愛知
三重
静岡
千葉
東日本大震災による不動産市場への影響と見通し 9
グランドフロント大阪のホテル部分には関西初
るなど、地震による直接的な被害を受けた地域
進出となるインターコンチネンタルの入居も決
もあった。
そのため、震災後は内陸部の地盤の良
定しており、外資系企業を呼び込むインフラは
いエリアが選好されるといった傾向が見られて
着々と進みつつある。
いる。
2007-2008年の賃料サイクルのピークに満室
供給面においては復興によって建設資材が高騰
稼動で竣工した物件は、現在も賃料が高止まり
しており、住宅市場にもこれらのコスト高を加味
しており下落余地が残っている。需要面では押
した価格が反映されつつある。
このためデベロッ
し上げ要素があるものの、全体的な賃料水準
パーによる土地取得も震災以後は慎重になって
は2013年の大量供給を消化して底を打つと
おり、
また資材調達難による工事期間の遅れで
考える。従ってジョーンズ ラング ラサール
供給が減少することで一時的な値上がりのバイ
では、2011年には3-5%の下落、2012年には
アスがかかることが予想される。
5-10%の下落が続くものの、2013年末には横
ばいになると予想している
(図9)。
レジデンシャル・セクター
賃貸市場
原発リスクによってエクスパットが国外へ退避し
たため、東京の高級賃貸市場は大きな影響を受
けている。
これらの市場は主に外資系企業に勤
務する海外エクスパット及びその家族によって
需要が支えられているため、
外資系企業の復帰、
すなわちAグレードオフィス市場が回復するに
従って同市場の回復も期待される。
一方で一般賃貸市場は大きな影響を受けてい
ない。同市場においては大きな動きは見られて
おらず、
そのため賃料収入も安定して推移してい
図9. 大阪市場の供給と賃料
月額賃料 (坪/円)
新規供給 (m2)
200,000
180,000
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
25,000
20,000
15,000
過去5年平均の
10,000
供給レベル
5,000
'04
'05
供給
'06
'07
'08
賃料
'09
出典 : ジョーンズ ラング ラサール
る。震災後も国内投資家が継続して取得してい
ることからも裏付けられるように、震災前後にお
いて賃貸市場に大きな変化は見られていない。
むしろ被災地に近い東北地方の中核都市であ
る仙台では、被災したエリアからの移転需要が
集中しており需給が逼迫している。
分譲市場
エンドユーザーの動向は震災前後で大きな変
化はない(図10)。ただし震災後は需要の変化
図10. 新築マンションの契約率(月次)
マンション契約率
90%
80%
70%
60%
50%
が観察されている。
これまで都心部へのアクセ
40%
スや眺望の良さから人気の高かった湾岸エリア
30%
では、一部で液状化が観測されており、地盤沈
下や水道、
ガスといったライフラインが遮断され
首都圏
出典 : 不動産経済研究所
近畿圏
'10 11予 12予 13予 14予 15予
0
10 Advance
き上げ前の駆け込み需要の反動の1998年3月
リテール・セクター
東日本では節電、自粛の動きが高まったことで
確実に消費は落ち込んだ。今後の焦点はこの傾
向が持続的なものなのか、一時的なものなのか
であるが、直近のデータを見ると震災による落
ち込みは一部を除いて一時的なものであると考
えられる。
例えば、3月の全国百貨店売上高は4,624億円
となり
(日本百貨店協会、既存店ベース)、前年
同月比14.7%減となった。減少幅は消費税率引
の20.8%減に次ぐ過去2番目の大きさで、金融
危機直後の落ち込みを上回った。
しかしながら4
月の売上高は4,750億円と前年同月比-1.5%、
5月は4,820億円の前年同月比-2.4%と大幅に
改善し、
ほぼ前年並みの水準にまで回復している
(図11)。一方で震災前まで伸びていた外国人
観光客の売上高は3月は47.8%減、4月は76.8
%と激減しており、5月も46%減と未だに回復の
兆しは見られていない
(図12)。
従って、国内消費者に需要が支えられている百
貨店やショッピングセンターにおいては震災の
影響は一時的なものだが、外国人観光客に下支
図11. 百貨店、
ショッピングセンター(SC)
の売上(前年同月比)
えされてきた銀座や表参道に代表される高級リ
テールについては暫く弱含むことが予想される。
売上高前年対比
しかしながら現状では投資家の意欲に大きな影
響を与えるほどではないためリテール・セクター
においては期待利回りの上昇は観測されてい
ない。
ロジスティクス・セクター
日本の生産拠点である東北エリアが震災の影
11年5月
11年4月
11年3月
11年2月
11年1月
10年12月
10年11月
10年9月
10年8月
10年7月
10年6月
SC
10年10月
百貨店
10年5月
10年4月
10年3月
10年2月
響を受けたため、製造業には深刻なダメージが
10年1月
4%
2%
0%
-2%
-4%
-6%
-8%
-10%
-12%
-14%
-16%
出典 : 日本百貨店協会、
日本ショッピングセンター協会
残っている。
また震災の影響を直接受けなかっ
たエリアでも電力不足のために通常稼動できな
い工場も多分に存在する。
3月の鉱工業生産指数(経済産業省2005年
=100、季節調整済み)
は82.7と前月比15.5%
図12. 外国人観光客の売上前年比
の低下となった。低下幅は金融危機後の2009
年2月の8.6%を上回り過去最大である。震災や
売上高前年対比
計画停電の影響により、
自動車や電機など日本
250%
の経済を牽引する業界の生産ラインが大きな打
200%
撃を受けた
(図13)。
150%
製造業の落ち込みは物流セクターにもマイナス
100%
の影響を与えている。
しかし今回の震災を受け、
50%
回の地震によって倉庫内に保管されていた物品
物流施設にも質への逃避が観測されている。今
が散乱し、被害を被ったテナントには建物の耐
出典 : 日本百貨店協会
11年5月
11年4月
11年3月
11年2月
11年1月
10年12月
10年11月
10年10月
10年9月
10年8月
10年7月
10年6月
10年5月
10年4月
10年3月
10年2月
10年1月
0%
震構造にも関心が及んでいる。
これまでは古い
東日本大震災による不動産市場への影響と見通し 11
倉庫での保管目的が主だったテナントにも、災
害に耐えうる最新設備の物流施設への見直し
が高まっており、今後は物流倉庫においても免
震・制震機能を備えた近代的な施設への需要が
高まることが予想される。
また、湾岸部において
は震災による液状化は深刻な問題となっている
ため、羽田空港や東京湾といった国内主要イン
フラに密接な関わりのないテナントにおいては
内陸部への移動が見られており、今後もこのよ
うな動きが継続すると考えられる。
図13. 鉱工業生産指数
2005年=100 季節調整済指数
100
95
90
85
80
旅行需要が極端に減少した。例えば、東京のシ
11年5月
11年4月
11年3月
11年2月
11年1月
10年12月
10年11月
10年10月
10年9月
10年8月
10年7月
10年6月
10年5月
10年4月
10年3月
震災から約1ヶ月間は、
ビジネス・レジャーとも
10年2月
ホテル・セクター
10年1月
75
出典 : 経済産業省
ティホテルの1日1室当り客室売上は前年同月
漏洩問題には各国とも神経を尖らせており、訪
5,000
日レジャー需要の本格回復の目処はまだ立って
0
いない。一方、国内法人需要は復興需要もあり
回復をみせているほか、
ゴールデンウィーク前に
再開した東京ディズニーリゾートに象徴される
ように国内レジャー需要も回復の兆しをみせて
2007
2008
出典: STR Global / ジョーンズ ラング ラサール ホテルズ
いる。
2008年9月のリーマンショック後に計画が頓挫
したホテル開発案件は多いが、被災地周辺のプ
ロジェクトを除くと今回の震災を理由として中
止された案件はあまりない。
これは、総じて震災
によるホテル需要減少は一時的なものであり、
比較的短期的に回復すると考えられているため
である。顧客セグメントによって需要回復基調は
様々だが、
1-2年で回復するという見方が優勢で
ある。
震災後に合意をみたホテル売買取引はまだない
と見られるが、
ジョーンズ ラング ラサール ホテ
ルズが投資家にヒアリングをした限りにおいて
は、震災が起きたことによるキャップレート上昇
はあまりなく、需要減少に伴う向こう1-2年間の
キャッシュフロー減少がホテル資産価値を引き
下げる要因となる模様である。
2009
2010
12月
10,000
11月
自粛勧告を解除しているが、福島原発の放射能
10月
15,000
1月
月末現在では主要国全てが東京への渡航延期・
9月
20,000
航延期勧告を発した影響が大きい。2011年5
8月
25,000
たほか、各国外務省や国際企業が日本への渡
7月
直後に鉄道や高速道路が十分に機能しなかっ
6月
30,000
5月
とやや持ち直してきている
(図14)。
これは、震災
4月
図14. 東京シティホテルにおける1日1室当り客室売上高の推移
3月
去最大の落ち込みをみせたが、5月は37.0%減
2月
比で3月は38.0%減、4月は56.8%減となり、過
2011
12 Advance
不動産投資市場
デベロッパー
投資家
日本の投資市場に大きな影響力を持つ国内デ
国内投資家
ベロッパーの投資姿勢も震災後は大きく変わっ
ていない。
もともと長期的視点に基づいて土地
J-REIT
2011年に入ってからJ-REITの取引は活発に
なっており、
日本銀行による市場の下支えの効
果が現れ始めたところであった。
また1物件あた
りの取得価格も例年よりも高額になっており、
J-REITによるAグレードビルの取得も見られて
いた
(図15)。震災直後は投資口価格も一時低
迷したものの、
日銀の買い入れ増額の発表や各
社が被害状況を開示したという対応の早さ、透
明度の高さが効果を示し同市場の回復は株式
市場よりも早かった
(図16)。
海外投資家が様子見、
もしくは取得を先送りし
ている現状の市場では、震災以前と比べて明ら
かに物件取得競争率は下がっており、既存の国
内プレイヤーにとっては有利な状況である。国内
を取得し、物件保有を目的としているため、震災
によってこれらのビジネスモデルが影響されるこ
とはなかった。
また、資金調達も企業の信用力に
基づくコーポレートローンに拠る所が大きいた
め資金繰りに窮する懸念も見当たらない。
保険会社
国内では主要な買い手である保険会社は支払
い金の準備のために新規投資を検討できる状
況ではなく、暫くは震災による保険金の申請処
理でむしろ資金は流出している。
このため海外資
産を国内に還流させる動きは増加することが予
想されるが、海外への投資に目を向ける保険会
社はほぼ皆無といえる。
で継続的に物件取得・運営を行うJ-REITにとっ
海外投資家
てはチャンスであり、今後もJ-REITが市場を牽
海外投資家は注意深くなっており、少なくとも
引して回復期を形成することが期待される。
地震や液状化リスクを解明するための追加調査
によって投資活動が減速するのは当然である。
しかしながらRCAのデータによると4月1日から
日本国内のオフィス、
リテール、
ホテル、
インダス
図16. 株式市場の推移
トリアル・セクターでの投資用不動産の取引総
額は10億ドルに及んでおり、
さらにレジデンシャ
3/11を100とした指数
110
ル、開発用地の取引を含めると総額は遥かに大
TOPIX
出典 : 東京証券取引所
日経平均
J-REIT インデックス
6月21日
6月7日
5月24日
5月15日
欧米の投資家の意見とも一致する。
しかし注意
4月26日
これは弊社がヒアリングを行っているアジアや
80
4月12日
85
3月29日
家間で行われたことである。
3月15日
90
3月1日
資ではなく、売り手、買い手の双方が国内投資
2月15日
95
2月1日
いるが、特筆すべきはほとんどの取引が海外投
1月18日
きくなる。
この大部分が東京の取引で占められて
100
1月4日
105
深いことと悲観的なこととは別である。
アジア・
パシフィック地域へ膨大な投資資金を継続的に
投下するグローバルな投資家は、市場の規模、
流動性、相対的な透明度からも日本への割り当
てが必要である。
さらに震災や原発の問題にも
関わらず多くの投資家は日本の長期的な見通し
には依然として楽観的である。
東日本大震災による不動産市場への影響と見通し 13
一部の例外は国民感情やメディアが原子力に対
地震と津波によって最も被害を受けた地域は海
して激しく反対している国である。
フクシマの危
外投資家がポートフォリオを集中させていたエ
機によって予測できない問題にドイツのエネル
リアではなかったため震災による東京への経済
ギー政策の大転換が挙げられる。
これによって
的な影響を最も懸念している。具体的には今夏
ドイツに所在する投資家は日本での不動産取得
に想定されている電力不足や今後の地震や液
に対しては十分な考慮が必要となってくる。
この
状化、
さらには復興による政府借入金の増加に
ような主張が台頭している間は、
ドイツはしばら
よる影響などが挙げられるが、
これらは短期的
く例外国となるであろう。
な注意を要するものであり長期的に渡る悲観的
な見方ではない。
図15. J-REITによる主な取引
不動産
延床面積
(m2)
取得価格
(百万円)
売主
買主
キャップレート
三菱重工ビル
67,124
60,500
三菱重工
日本ビルファンド投資法人、
その他
4.3
平河町森タワー
9,818
(NLA)
18,200
森ビル
グローバル・ワン不動産投資法人
4.5
リバーシティ M-SQUARE
26,439
13,350
三井不動産
日本ビルファンド投資法人
5.5
大崎フロントタワー
23,674
12,300
三菱地所
ジャパンリアルエステイト投資法人
7.0
ゲートシティ 大崎
NA
11,650
住友生命保険
日本ビルファンド投資法人
4.5
台場ガーデンシティビル
NA
11,000
積水ハウス
ジャパンエクセレント投資法人
5.4
箱根強羅温泉 季の湯
雪月花
10,655
3,550
有限会社スプリン
グ・プロパティー
ジャパン・ホテル・アンド・リゾート
投資法人
5.9
アーク森ビル
4,343
(NLA)
9,770
森ビル
森ヒルズリート投資法人
4.5
調布サウスゲートビル
11,613
(NLA)
9,320
清水建設
日本ビルファンド投資法人
6.0
IIF 名古屋ロジスティ
クスセンター
8,721
1,050
太平洋セメント
IF 産業ファンド投資法人
7.9
(%)
14 Advance
資金調達環境
外資系金融機関によってはリスク・プレミアムを
上乗せしようと試みる動きも見られるが、実際に
金利を引き上げると借り手が付かなくなるため
に行えていない。従って実質的にはスプレッドや
LTV*への影響も震災以前と変化はない。
国内金融機関においても、抱えている不良債権
の処理を現在のような混乱した市場で行うのは
適切な時期ではなく、市場の落ち着きを計みて
処理を検討するといったリファイナンスに柔軟
な動きが見られている。
CMBSの新規発行は金融危機以降からもと
もと低迷していたため今回の地震による影響は
ほとんどなかった。
シニア部分に大きな影響はな
かったが、金融危機以降の不動産市場の落ち込
実際、国内の主要産業である自動車メーカーや
半導体メーカーにおいては当初の予定よりも早
く生産ラインを震災前の水準に戻すという発表
がされており、
これを受け6月の日銀による金融
経済月報の景気判断も上方修正されている。震
災直後は総悲観に傾いた日本経済及び不動産
市場であるが、その回復は当初の予想よりも早
いペースで進むことが十分考えられ、
ひとたび回
復に向かえば急カーブを描いて加速度的となる
可能性もある。
図17. 兵庫県の新設住宅着工戸数
戸
140,000
120,000
みで毀損していたジュニア部分においては買い
100,000
手が減少し流動性も低下している。
このためリス
80,000
クが高いほど買い手がつかなくなっており、一部
60,000
においては毀損部分の拡大に繋がっている。
ま
40,000
た、特に大型案件についてはメザニンレンダーが
つかないことで案件がまとまらない事例も見ら
20,000
れている。従って市場の回復はメザニンレンダー
0
の動きが鍵となるであろう。
今後の見通し
以 上の考 察から不 動 産 市 場において需 要の
減 退は一 時 的なものにとどまると考える。実
際、2011年に入って日本の不動産市場は回復
の兆しを見せ始めていたところであり、今回の
震災によって本格的な回復が2012年に先送り
されるにとどまると考える。
また過去を振り返る
と、1995年1月に阪神大震災が起きた年と翌
年に被災地の中心であった兵庫県の住宅の着
工数は復興需要により大幅に増加した
(図17)。
これによって不動産市場が活気付くのは勿論
の事、GDPの押し上げ要因にもなった。同様の
傾向が今回の震災復興にも考えられることから
2012年は経済回復とともに日本の不動産市場
も回復するであろう。
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000
出典 : 兵庫県
東日本大震災による不動産市場への影響と見通し 15
大東雄人
リサーチ&アドバイザリー
マネージャー
ボストン大学大学院卒業後、米国にて不動産賃貸仲介に従事。帰国後、国内事業会社で企業財務
分析・株式市場調査業務を経て、現在ジョーンズ ラング ラサールで不動産市場の調査・分析及び情
報提供サービスを行っている。
犬間由博
リサーチ&アドバイザリー
アソシエイトダイレクター
不動産鑑定事務所および不動産アセットマネジメント会社における評価業務を経て、現在ジョーンズ
ラングラサールで不動産リサーチ業務の中心的役割を担っている。
また、不動産鑑定士と一級建築士
の資格を保有。
赤城威志
リサーチ&アドバイザリー
ローカルダイレクター
ジョーンズ ラング ラサール株式会社のリサーチ・アンド・アドバイザリー部門の部門長として、
日本に
おける同社のリサーチ業務、不動産鑑定評価及びコンサルティング業務を統括している。
沢柳知彦 ジョーンズラングラサールホテルズ ホテル・セクター
ポールゲスト グローバルキャピタルマーケッツリサーチ 投資家 –海外投資家
ジョーンズ ラング ラサール株式会社
本社所在地:
インベスターサービス事業部:
関西支社所在地:
北海道支社所在地:
〒100-0014
〒102-0075東京都千代田区
〒541-0053 〒060-0061
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三番町5-7
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forward projections involves assumptions regarding numerous variables which are acutely sensitive to changing conditions, variations in any one of which may significantly affect the outcome,
and we draw your attention to this factor.