Occupational Safety & Health Management 労働安全衛生活動 企業が事業活動を円滑に遂行するためには、そこで働く人々 の一環として、安全衛生を脅かすリスクを事前に把握し対応す にとって安全でかつ健康的な働きやすい職場環境を形成し、 る、 プロアクティブな取り組みが求められています。 維持することが必要です。さらに最近では、 リスクマネジメント 製薬協 では 工場、 研究所だけではなく、 すべての従業員が心身ともに健康で安全に仕事に取り組んでいける環境づくりを目指し、 労働安全および営業車両事故に関する調査と情報提供を行うとともに、 オフィスにおけるエルゴノミクスの研究を開始 しました。 1. 労働安全衛生マネジメントシステムと労働災害発生率の関係 2008年度の労働災害に関する調査では55社から298事業所 昨年度の事例と合わせて製薬協労働災害事例集を作成して、 についての回答を得ました。全体の度数率は0.86で、 2006年度 会員企業にフィードバックし、災害防止に役立てたいと考えて (1.22)、 2007年度(1.01)と比較し年々改善しています。労働安全 います。 衛生マネジメントに関し何らかのシステムを導入している事業 工場・研究所 労働災害度数率 所は90ヶ所(30%)で、 ここ数年大きな変化はありません。 マネジメントシステム導入事業所 マネジメントシステム非導入事業所 2.5 工場系事業所ではマネジメントシステム導入事業所で度数率 2.0 が0.75、非導入事業所で1.57、 また研究所系事業所でも導入事 業所で0.8、 非導入事業所で1.09と明らかにマネジメントシステ 1.5 ム導入の効果が見られました。反面、 オフィス系事業所ではその 1.0 ような傾向は見られませんでした。 0.5 なお、 昨年度に引き続き会員企業における労働災害事例に関 0.0 2006 2007 する調査も実施し、 42社から80例の事例の提供がありました。 2008 工場 2006 2007 2008(年度) 研究所 2. 環境安全等の監査 会員企業における監査の実情を知るため、 各社の監査実施方 査に加え独自に国内監査も実施していました。以下に、 これら 法、内容等に関する調査を行い、国内企業40社、外資企業16社 25社を対象にした集計結果の抜粋を報告します。なお、国内 から回答を得ました。国内企業の内、 約半数に当る21社(53%) 企業21社の内、海外事業所も監査対象にしている企業は6社 が監査を実施し、 また外資企業の内4社(25%)が本国からの受 (29%)でした。 Q 環境安全監査の種類は? (企業数) 【監査の種類】 30 環境(25社100%)はすべての会員企業が対象項目としてい 25 ます。その他、 労働安全(20社 80%)、 化学物質管理(17社 68%)、 20 防災(16社 64%)、 衛生・健康(14社 56%)など多様な傾向が見ら 15 れました。 10 25 25 20 17 16 14 5 0 回 答 会 社 数 15 日本製薬工業協会 環境報告書 2009 労 働 安 全 衛 生 ・ 健 康 防 災 環 境 化 学 物 質 管 理 Environmental Report 2009 【国内監査の対象事業所】 25社すべてが工場・研究所を監査対象とし、 他に本社・営業所 などのオフィス系事業所を対象にしている企業が13社(52%)、 物流部門も対象にしている企業が11社(44%)ありました。 Q 国内の監査対象は? (企業数) 30 25 25 25 20 15 13 10 11 5 0 研工 究場 所 回 答 会 社 数 【国内事業所への監査頻度】 オ営 フ業 ィ所 ス 物 流 Q 国内主要事業所の監査頻度は? 監査対象となる事業所の数は10ヶ所未満(14社)の企業か ら51ヶ所以上(3社)の企業まで企業規模により異なり、一律 2年に1回 4 に比較はできませんが、 25社中、 20社(80%)が毎年、主要事 3年に1回 1 業所の監査を実施しています。 毎年 20 回答企業数 25 【監査内容】 概ね、すべての企業が監査規定(22社88%)、 年間監査計画 (24社 96%)を策定し、 これらに基づき監査を実施していました。 法遵守状況(25社 100%)を最重点項目とし、その他、管理 体制、 教育・意識向上(22社 88%)、 活動方針・計画の推進、 事故 発生状況、 現場巡視(20社 80%)も重要視されています。 (企業数) Q 主にどのような内容の監査を実施していますか? 30 25 25 25 22 20 22 20 20 20 計環 画境 の安 進全 捗活 状動 況方 針 の環労 把境働 握関災 と連害 是事 正故 状等 況 改リ現 善ス場 指ク巡 導の視 抽に 出よ とる 15 10 5 0 回 答 企 業 数 【監査の実施方法】 監査の手法として、 チェックリスト(23社 92%)をもとに、 書面 調査(23社 92%)、 インタビュー、 資料・記録の閲覧、 現場巡視(い ずれも25社 100%)などにより監査を実施しています。 監査に要する日数は、 対象事業所の規模・リスクによって差を つけている企業が多く、 1日(16社)、 2日(9社)、 半日(8社)の順で、 3日以上かけている企業も4社ありました。 体環 制境 の安 構全 築管 状理 況 法 遵 守 状 況 意環 識境 の安 向全 上教 育 等 Q 事業所の監査日数は? (企業数) 30 25 25 20 15 16 10 9 8 5 4 0 回 答 企 業 半 日 1 日 2 日 3 日 以 上 【監査報告】 監査結果は当該事業所(25社 100%)以外に、内部監査部門 (7社 28%)や監査役(4社 16%)にも報告されています。 報告内容は、概括コメント(25社100%)、改善指示・要望 いる企業もあります。監査報告書のボリュームとしては、 5ページ 以内(19社 76%)が大部分でしたが、 11ページ以上の企業も2社 ありました。 (25社 100%)の他に、 評価点数・ランク付け(11社 44%)をして 日本製薬工業協会 環境報告書 2009 16 Occupational Safety & Health Management 労働安全衛生活動 3. 営業車両の交通事故 MR活動に不可欠な自動車の運転について、今年度は4回目 となる調査を行い、回答のあった47社(4万7千台強)の取り組 みを分析しました。 2006年度 事故率 2007年度 30.0% 2008年度 25.0% 20.0% 15.0% 【事故状況】 10.0% 有責事故率平均(事故件数/車両台数)は、 20.3%となり、過 5.0% 去3年で増加傾向にあります。人身事故率は2.4%で、 2005年 0.0% 全車両 度とほぼ同水準でした。 事故の増加原因として、 多くの会社が若手MR (特に新人MR) の増加を挙げています。特にここ数年の傾向として、就職前に 自動車の運転をほとんどしていないというケースが増えており、 リース車 借上げ車 2006年度 人身事故率 2007年度 3.0% 2008年度 2.5% 2.0% 運転技術の未熟さが目立ちます。それに対して、各社とも導入 1.5% 教育時の指導を強化していますが、事故率は51.26%と2006 1.0% 年度を若干下回る数値となりました。各社とも事故率の増加 0.5% 傾向を憂慮しており、今年度から開催している「営業車両事故 0.0% 全車両 リース車 借上げ車 防止研究会」でも事故防止対策について活発な議論が行われ ています。 新人MR事故率 新人MR事故率 60% 55% 事故の内容は、 例年と同様、 駐車場内での軽微なものが半数 50% 近くで、 次いで交差点での追突等となっています。 45% 40% 2006年度 事故傾向(前年度比較) 減少 11 大幅減少 13 変化なし 28 17 日本製薬工業協会 環境報告書 2009 2008年度 事故発生場所 直線 18 大幅増加 32 増加 17 2007年度 カーブ 4 その他 10 駐車場 44 交差点 24 Environmental Report 2009 【安全対策の取り組み】 各社が取り組んでいる新入MR対策と赴任時・異動時の特別 昨年の調査で有効性が認められた、 コーナーセンサーとドラ 講習に加え、直属上司による面談指導も多くの会社が実施し、 イブレコーダーについて、導入する会社および検討している会 効果をあげています。またMRの事故情報や運転記録を分析 社が増えてきており、 今後の効果が期待されます。 しフィードバックする仕組みを構築した会社は、事故防止効果 を実感しています。各MRの状況に合わせた地道できめ細や かな取り組みを積み上げることが、事故防止には有効です。 2008年度導入 導入検討中 2008年度合計 2007年度導入 ドライブレコーダー (ドライブビデオカメラ) 6 12 18 5 コーナーセンサー (駐車場での事故防止) 14 6 20 11 0% 20% 40% 60% 80% 100% 新卒MRの内定者に対し、入社前に運転能力判定や講習 新卒MRに、入社後、研修期間に運転能力判定や講習 新卒MRに、赴任地で、運転実車訓練や講習 事故多発者への特別講習 赴任時/異動時に、雪道講習などの特別講習 自己啓発用の机上(Eラーニング)講習やビデオ資材を提供 直属上司による指導面談 直属上司以外に、指導面談 事故後のメンタルケア(カウンセリングなど) 有責事故の度合いによって、ペナルティを課す 業績評価への反映 個人単位での表彰 部門単位での表彰 営業社員別の運転情報のデータマネジメントシステム 本社(本部)で、会社全体の事故報告等のデータ管理 部門・支店で、車両や事故報告等のデータ管理 定期的に、車両監査(少なくても年に1回以上) 定期的に、運転免許の確認(少なくても年に1回以上) 全社レベルでの、法令違反件数を把握 全社レベルでの、法令違反内容を管理 法令違反者に対する、本社管理部門での指導 ドライブレコーダー(ドライブビデオカメラ) セーフティーレコーダー(運転特性把握) コーナーセンサー(駐車場での事故防止) ナビ(不慣れな地域での運転を助ける) 導入会社の割合 効果有りの会社割合 日本製薬工業協会 環境報告書 2009 18 労働安全衛生 研究会 活動 営業車両事故防止研究会 2008年度の製薬協アンケート調査で、営業車両事故率(2007年度有責車両事故件数/車両台数: 54社回答結果) 19.3%でした。 この数値は産業界全ての業種での有責車両事故率を、大きく超えていると言われます。またここ数年は若者の自動車離れを反映 して、新人MRはペーパードライバーが増え、事故率は増加傾向にあります。このような中、各社の車両管理担当者はそれぞれ事故 防止策を検討実施していますが、なかなか事故防止効果が上がらず苦慮しているのが現実です。 これをふまえ、安全衛生部会では営業車両事故防止研究会を立ち上げ、 2009年度より活動を開始しており、現在17社24名が参 加しています。これまでに実施した主な内容は以下のとおりです。 ・2008年度アンケート内容と結果(成果集レポート)詳細検討 ・2009年度アンケートの実施と結果解析 ・各社事例発表(事故防止対策・事故事例と対応・今後の対策案 等) ・事故防止管理対策提案の紹介(コンサルタント会社の発表) ・ドライブレコーダー活用事例紹介(ドライブレコーダー販売会社の発表) ・安全運転技術の体験(ホンダ鈴鹿サーキットでの研修へ参加) 上記の研究会では、各回とも参加各社の議論が活発に行われ、事故防止に関する情報を共有することができました。各社の事 故防止に有効な施策のうち、各々自社に生かせる部分は今後取り入れ、 これからの安全対策につなげられると考えています。また、 ここで議論された内容は、今年度の成果集レポートにも記載し、製薬協会員各社に発信する予定です。 MRの営業車両事故の防止は、現状を鑑みると短期間で大きく減らすことは困難かと思われますが、事故の発生は被害者のみ ならず、当事者と会社に、金銭面だけでなく精神面・肉体面でも大きな損失をもたらします。研究会での活動が、 このような不幸な 事態を避けるために、微力ながらも役立てられればと考えています。 TOPICS オフィス・エルゴノミクス(人間工学)のすすめ 製薬協・環境安全委員会は、製薬企業で働く人々にとって安全で健康な職場環境づくりの一助となる情報提供を目的に、会員企業 における社員の健康診断実施状況やメンタルヘルス・ケアへの取り組み等、 これまで様々な研究調査を行ってきました。 昨年より開始された特定健康診断および特定保健指導により、生活習慣病予防のための取り組みは進んでいますが、適正な労働 環境を維持するためには、健康診断の結果に現れるとは限らない仕事上の疲労やストレスにも目を向けていく必要があります。 先頃、厚生労働省は「平成20年技術革新と労働に関する実態調査結果の概況」を発表しました。この調査は5年毎に実施されて おり、職場におけるコンピュータ機器の使用状況や導入による労働面への影響を調べています。調査結果によると、 コンピュータ 機器を使用している労働者(生産工程・労務作業者以外)の割合は9割弱と高く、パソコン等のVDT (Visual Display Terminals) 機器による作業が4時間以上に亘るケースも半数近くを占めました。また、目の疲れ・痛みや首・肩のこり等の身体的な疲労や症状 を感じている労働者が7割弱、精神的な疲労やストレスを感じるとする労働者は3割強となっています。さらに、「十分な作業空間 の確保やレイアウトの適正化」「机、いす、床の改善(機器の配線整備)」等の作業環境改善を求める労働者は7割近くにも上ります。 これらの結果は平成10年の調査からほとんど改善されておらず、厚生労働省は平成14年に「VDT作業における労働衛生管理の ためのガイドライン」を策定しましたが、広く活用されているとは言えない状況が続いています。 このような背景から、今年度、製薬協・環境安全委員会安全 衛生部会は、人体の自然な動きに器具や作業環境を適応さ せるエルゴノミクス(人間工学)に着目し、 VDT機器の配置・ 照明・机やいすの高さ・作業者の姿勢等の適切化を通して作 業環境の改善提案に取り組むことに致しました。具体的には、 上記ガイドラインに準拠した形で解説や問題点の解決策を盛 込み、実際にオフィスで活用できるチェックリストを成果物と して加盟各社に提供する予定です。今やコンピュータは事務 作業になくてはならない機器となっていますので、社員の快 適な職場環境を構築していく上でも、オフィス・エルゴノミク スの考え方を導入する必要があります。 19 日本製薬工業協会 環境報告書 2009 パソコン使用時の正しい姿勢
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