無機低次元化合物のナノ構造制御 応用ナノ化学部門 黒田 一幸 【研究背景と目的】 組成・構造が制御されたナノ構造体の創製は、ナノテクノロジーの中核技術の一つと位置づけ られ、学術的関心のみならず産業界からも期待の大きい課題である。なかでも、ナノレベルの細 孔を有するメソポーラス材料や二次元のナノ空間を有する層状無機化合物は、その構造の異方性 にもとづく様々な応用が期待できることから重要である。しかしながら、これまでに、ナノ構造 に起因する独特の機能発現を示した例は少なく、基礎的な検討をふまえつつ実用レベルに向けて の展開が望まれている。本研究では主にメソポーラスシリカおよび無機層状物質を中心として、 組成・構造・マクロ形態の精密制御や有機化合物との複合組織化について検討し、さらにその応 用を探ることを目的としている。 【メソポーラスシリカ薄膜中におけるシアニン色素の一軸配向制御】 我々は、既にメソポーラスシリカ薄膜中のメソ孔の配向を一方向に制御することに成功し、さ らにメソ孔径の制御が可能であることを報告した。このような一軸配向性メソポーラスシリカ薄 膜のメソ孔中に有機ゲスト分子を導入することにより、ゲスト分子の高度な配向制御が期待され る。そこで、メソ孔にシアニン色素を取り込み、分光学的に色素配向の程度について検討した2。 色素導入後の薄膜の可視吸収スペクトルにはシアニン色素の単量体の吸収ピークのみが観測さ れたことから、色素分子は単量体で存在していることが確認された。可視吸収による偏向スペク トル測定を行った結果、薄膜に入射する偏光の 偏向角の変化にともなって吸光度の変化が観 測された(図 1)。細孔の配向方向に平行な偏 向成分を入射した場合に吸収が最大、垂直な偏 向成分を入射した場合に吸収が最小となり、導 入されたシアニン色素分子が配向しているこ とがわかった。このような、有機分子の一方向 への高度な配列は、光の損失を伴う偏光板を用 いることなく偏光を得られる重要な光デバイ ス技術となり得る。 【新規メソポーラスシリカ KSW-2 のシリル化による細孔径および疎水・親水性の制御】 層状ケイ酸塩カネマイトと界面活性剤(C16TMA)との反応により得られる層状複合体の酸処理に より、ケイ酸塩シートの折れ曲がりが生じ、焼成による有機成分の除去により格子状のメソ細孔 を有する新規メソポーラスシリカ(KSW-2)が生成する2。 焼成前のメソ構造体はカネマイトに由来する周期構造を部 分的に保持していることから、従来の非晶質シリカ壁からな るメソポーラスシリカと比べて、高規則性のメソ孔内表面構 造を形成すると考えられる。そこで我々は、細孔表面修飾に よる新しい機能・物性の付与を目指し、メソ構造体のオクチ ルジメチルクロロシラン、トリメチルクロロシランによる直 接シリル化を試みた3。シリル化反応の進行は IR, 29 Si MAS NMR により確認した。また、窒素吸着測定より、シリル化に よる細孔径および細孔容積の減少が示された。さらに、水蒸 気吸着測定から、シリル基の導入により表面が疎水的に改質 されたことが示された。これらの結果は、メソポーラス物質を利用した有機分子の吸着・分離の みならず、高度な分子認識機能の発現、高機能触媒への道を拓くものである。 【K4Nb6O17 単結晶の薄離による面方向のサイズが極めて大きいナノシートの調製】 無機層状物質を剥離して得られるナノシートは、ナノ材料 を合成する際のビルディングブロックとして利用できるた め多くの研究が行われているが、従来法では数十 nm∼数µm のナノシートしか得られなかった。我々は、剥離に用いる有 機カチオン及び反応条件を検討した結果、剥離時の結晶の微 細化を抑制し、K4Nb6O17 単結晶から直接ナノシートが得られ ることを報告した(図 3)4。この方法は従来法よりも少ない 工程で、大きなナノシート(500 µm 以上)が得られるため、 ナノシートの応用化に大きく貢献すると思われる。 【参考文献】 (1) A. Fukuoka, H. Miyata, K. Kuroda, “Alignment Control of a Cyanine Dye Using a Mesoporous Silica Film with Uniaxially Aligned Mesochannels”, Chem. Commun., 284–285 (2003). (2) T. Kimura, K. Kamata, M. Fuziwara, Y. Takano, M. Kaneda, Y. Sakamoto, O. Terasaki, Y. Sugahara, K. Kuroda, “Formation of Novel Ordered Mesoporous Silicas with Square Channels and the Direct TEM Observation”, Angew. Chem., Int. Ed., 39, 3855–3859 (2000). (3) T. Shigeno, M. Nagao, T. Kimura, K. Kuroda, “Direct Silylation of a Mesostructured Precursor for Novel Mesoporous Silica KSW-2”, Langmuir, 18, 8102–8107 (2002). (4) N. Miyamoto, H. Yamamoto, R. Kaito, K. Kuroda, “Formation of Extraordinarily Large Nanosheets from K4Nb6O17 Crystals”, Chem. Commun., 2378–2379 (2002). [論文] (1) A. Fukuoka, H. Miyata, K. Kuroda, “Alignment control of a cyanine dye using a mesoporous silica film with uniaxially aligned mesochannels”, Chem. Commun., 284-285 (2003). (2) N. Mizukami, M. Tsujimura, K. Kuroda, M. Ogawa, “Preparation and characterization of Eu-magadiite intercalation compounds”, Clays Clay Miner., 50, 799-806 (2002). (3) R. Kaito, N. Miyamoto, K. Kuroda, M. Ogawa, “Intercalation of cationic phthalocyanines into layered titanates and control of the microstructures”, J. Mater. Chem., 12, 3463-3468 (2002). (4) T. Kimura, D. Itoh, T. Shigeno, K. Kuroda, “Transformation of layered docosyltrimethyl- and docosyltriethylammonium silicates derived from kanemite into precursors for ordered mesoporous silicas”, Langmuir, 18, 9574-9577 (2002). (5) T. Shigeno, M. Nagao, T. Kimura, K. Kuroda K, “Direct silylation of a mesostructured precursor for novel mesoporous silica KSW-2”, Langmuir, 18, 8102-8107 (2002). (6) N. Miyamoto, H. Yamamoto, R. Kaito, K. Kuroda, “Formation of extraordinarily large nanosheets from K4Nb6O17 crystals”, Chem. Commun., 2378-2379 (2002). (7) D. Mochizuki, A. Shimojima, K. Kuroda, “Formation of a new crystalline silicate structure by grafting dialkoxysilyl groups on layered octosilicate”, J. Am. Chem. Soc., 124, 12082-12083 (2002). (8) N. Khaorapapong, K. Kuroda, M. Ogawa, “Intercalation of 8-hydroxyquinoline into Al-smectites by solid-solid reactions”, Clays Clay Miner., 50, 428-434 (2002). (9) W. Sugimoto, M. Shirata, K. Kuroda, Y. Sugahara, “Conversion of Aurivillius phases Bi2ANaNb3O12 (A = Sr or Ca) into the protonated forms of layered perovskite via acid treatment”, Chem. Mater., 14, 2946-2952 (2002). (10) M. Ogawa, K. Kuroda, T. Nakamura, “Surface modification of mesoporous silica to control the states of tris(2,2'-bipyridine)ruthenium(II) cations”, Chem. Lett., 632-633 (2002). (11) A. Shimojima, K. Kuroda, “Structural control of multilayered inorganic-organic hybrids derived from mixtures of alkyltriethoxysilane and tetraethoxysilane”, Langmuir, 18, 1144-1149 (2002). (12) H. Miyata, T. Noma, M. Watanabe, K. Kuroda, “Preparation of mesoporous silica films with fully aligned large mesochannels using nonionic surfactants”, Chem. Mater., 14, 766-772 (2002). (13) M. Ogawa, K. Kuroda, J. Mori, “Preparation of aluminum-containing mesoporous silica films”, Langmuir, 18, 744-749 (2002). (14) H. Nakashima, S. Koyama, K. Kuroda, Y. Sugahara, “Conversion of a precursor derived from cage-type and cyclic molecular building blocks into Al-Si-N-C ceramic composites”, J. Am. Ceram. Soc., 59-64 (2002). [著書] (1) 黒田一幸, “グリーンマテリアルテクノロジー”,(工藤徹一・御園生誠編), 講談社サイエンテ ィフィク, 東京都文京区音羽2-12-21, (2003) ページ [特許] (1) 特願出2003-54382,“メソポーラス金属の製造方法”,黒田一幸、逢坂哲弥、門間聰之、横島時 彦 滋野哲郎(2003年2月) [招待講演] (1) “層状ケイ酸塩と両親媒性分子との相互作用”,ソフト溶液プロセス研究会,2003年3月7日,(東 京工業大学すずかけ台キャンパス). [その他] (1) “ナノテクで新産業革命 先端研究室の挑戦33 メソポーラス物質/材料・部品に期待”, 日刊工業 新聞, (2002, 4, 25). (2) “21世紀の化学の潮流を探る 無機固体化学① 材料創製へ無限の多様性”, 化学工業日報 (2002, 5, 20). (3) “新規メソポーラスシリカ創製”, 化学工業日報 (2002,6,3). (4) “21世紀の化学の潮流を探る 無機固体化学②「すき間」に物質設計の妙”, 化学工業日報 (2002, 6, 4).
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