特別支援教育時代の連携を考える - 北海道大学大学院教育学研究院

特別支援教育時代の連携を考える
北海道大学大学院教育学研究院
附属子ども発達臨床研究センター
田中康雄
いつも思うことは,保護者も関係者も一生懸
命であるということ,そして子どもたちは,常に
必死に頑張っているということです。まずそのこ
とに敬意を表したいと思います。
そのうえで,これから述べることは,医療現場
で保護者や子どもたちとの出会いから得た事
柄と,教育現場に足を運び,自分の目と耳で感
じ,現場の方々と話をし続けたことを背景にして,
考えた個人的な意見であることを,ご理解くださ
い。
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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発達障害について
発達の障害を定義すると・・
発達障害とは,人間の一生涯にわたって身・知・
心の面に現れてくる成長・変容の過程において,
なにかしら「負の様相」が人生の早期に現れ,そ
れが一過性でなく,その後の成長・変容に何かし
らの影響を持続的に与えている状態
持続的な負の様相とは,脳機能と,心理・社会・
文化的価値観に関連している
2008年12月 06日
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Child Development
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発達障害の内容と出現率(1)
脳性麻痺(CP) 0.5%
関連した課題
MR,視覚・聴覚障害
聴覚障害
1%(重度:0.
2%)
MR,視覚障害,過活動,
言語障害
視覚障害
斜視:2%
視力障害:0.0
6%
2.5%
MR(48−75%)
知的障害
( MR )
2008年12月 06日
脳性麻痺,聴覚・視覚障
害,PDD,てんかん,
ADHD,言語障害
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Child Development
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発達障害の内容と出現率(2)
学習障害(LD)
2−10%
注意欠陥多動性障 3−10%
害(ADHD)
0.05%
広汎性発達障害
(PDD)
(2%以上へ)
コミュニケーション 3−10%
障害
発達性協調運動障 2−6%
害
2008年12月 06日
関連した課題
言語障害(70-80%),協
調運動,行動障害
LD(50-60%)
MR(40-66%),行動障
害
(表出および受容言語
発達障害)
言語障害,音韻障害
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Child Development
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軽度な発達障害のある子どもに関
わる保育・教育関係者の現状
子どものことは,だれよりも理解し,正しく導きた
いという強い思いはある!!
しかし,なにが悪いのだろう・・・
この子の問題は発達障害なのか,ただの「わがまま」
「甘やかし」の結果なのか・・・『分からない』
もし,発達障害としても対応が・・『分からない』
もしかしたら,自分の指導・教授力に問題があるのか
もしれない・・・『誰も助言してくれない』『自信がない』
途方に暮れ,孤立し,自信とやりがい感を喪失し
ている
2008年12月 06日
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Child Development
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軽度な発達障害のある子どもの養
育者の現状
わが子のことは,だれよりも理解している!!
しかし,なにが悪いのだろう・・・
この子の「育てにくさ」について,誰も理解してくれない
この子の言動(落ち着きのなさ,一方的でわがままに
見える言動,やる気のなさ)は,皆親である私の育て
方のせいだという
もしかしたら,本当にただ「親としての役割」をきちんと
示していない私のせいかもしれない
気分は落ち込み,自分を責め,孤立し,自信を
喪失している
2008年12月 06日
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Child Development
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軽度な発達障害のある子どもの現
状
僕(わたし)は,一生懸命にがんばっている!!
しかし,なにが悪いのだろう・・・
また,遠足の連絡をお母さんに伝えるのを忘れてし
まった。気をつけているのだけど,どうして忘れてしま
うのだろう・・
じっとしているように,ちゃんと話を聞くようにといわれ
ても,がんばっても3分も持たない。ウルトラマンみた
いだ・・
漢字がかけない。いいや,もう,きっと僕がバカだから
さ・・
もうどうでもいいやと投げやりになり,自信や将来に対する希
Research and Clinical Center for
望がもてない。生きている充実感もない
9
2008年12月
06日
Child Development
軽度な発達障害が抱える困難性
この障害がないと想定される子どもたちとの連続性のなかに存在し,加齢,発達,
教育的介入により状態像が著しく変化する.
診断,判断の難しさ
視点の異なりから診断が相違してしまう.
診察室で見せる子どもの言動は,その子どもの特性のすべてを物語っている
わけではない
診断は横断面ではなく,縦断面(時間的推移)で判断する
理解不足による介入の誤りが生じ安い
他の障害との見誤り
親のしつけのせい
関係者の指導力不足
心配のし過ぎ,様子を見ましょう
二次的情緒・行動障害の問題が生まれやすい
基本症状よりも大きな課題となりやすい
2008年12月 06日
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広汎性発達障害の特徴
(自閉症・アスペルガー症候群など)
特徴
1)社会性の障害
2)コミュニケーションの障害
3)想像力の障害とそれに基づく行動の障害
4)感覚の過敏さ
基盤
「わからない!」という恐怖に近い強い不安
親の苦労
早期の信頼関係樹立が困難・理解してもらえない
ことの憤り
キビキビしたものの言い方・硬い印象を与える
視覚入力を生かす構造化
強制しない一貫性のある対応で安全性の提供を
対応
2008年12月 06日
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Child Development
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注意欠陥多動性障害 (ADHD) の特徴
Attention Deficit / Hyperactivity Disorder
特徴
基盤
親の苦
労
対応
2008年12月 06日
1)多動
2)注意散漫
3)衝動性
「わかっている」のに,自己制御不能,うまくできない
ことのもどかしさ
常にイライラした関係性・周囲から非難を受けやすい
自責と子への攻撃性
行動統制のための表の利用
自己評価を落とさないため「良い」評価とできることを
保証
親のサポート・薬物の使用
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学習障害(読字障害,書字障害,算数障害)の特徴
Learning Disability,Disorder : LD
特徴
1)読み,2)書き,3)計算
基盤
「なぜできないのだろう」,「どうやらこれがバカという
ことらしい」
親の苦
労
わからない相手への関わり方にジレンマ(なにが分
からないかが分かり得ない)
対応
疑似体験で関与する側の理解力のアップとわかるこ
とへの接近
1)わかりやすい指導
2)身体バランスの強化
3)感情の表現と理解を促す
2008年12月 06日
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知的障害(精神遅滞)の特徴
80(85)∼71:境界線
70∼50:軽度
49∼35:中度
34∼20:重度
19以下:最重度
特徴
知的機能の遅れ
IQ(知能指数)で換
算
社会不適応
基盤
なぜうまくいかないのか,わからない
親の苦
労
対応
漠然とした希望と不安・焦りと強制
その子の「今の力」を正しく評価する
出来ること,興味があることからはじめる
次のステップを願う
生活のまとまりをつけることも大切にする
Research and Clinical Center for
2008年12月 06日
Child Development
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コミュニケーション障害の特徴
特徴
基盤
表出・受容言語の発達の遅れ
吃音
構音障害など
思うように表現できないことでのイライラ、恥ずかしさ
親の苦
労
対応
いらいらと焦り,怒りや不安,不憫さ,申し訳なさ,
聞き返しをしない(苦手意識,恥ずかしさを作らない)
加齢により改善する可能性があるので焦らない
2008年12月 06日
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Child Development
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発達性協調運動障害の特徴
特徴
運動面の不器用,協調運動の拙さ
基盤
皆ができるように,体が動いてくれない不自由
さ
親の苦 いらいらと焦り,怒りや不安,不憫さ,申し訳
労
なさ,
対応
競争的競技に無理に参加しない
適切な手助けを遠慮しない
時間がかかるが克服できる範囲もある
2008年12月 06日
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虐待・ネグレクトを受けた子どもた
ち:身体面の特徴
低身長・低体重・成長
障害
皮膚外傷
骨折・脱臼・骨端破壊
火傷
頭部外傷
内臓損傷
脊椎損傷・麻痺
2008年12月 06日
網膜剥離などの眼症
状
栄養障害・飢餓
けいれん・てんかん
下痢・嘔吐・消化不良
循環障害
凍傷
歯牙脱落・舌損傷
死亡
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虐待・ネグレクトを受けた子どもた
ち:行動面の特徴
過食・盗食・異食・食
欲不振
便尿失禁
常同運動
自傷行為
緘黙
虚言
盗み・万引き
2008年12月 06日
いやがらせ
集団不適応
火遊び・放火
だらしなさ
いじめ
器物破損・暴力
性的逸脱行動
自殺企図
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虐待・ネグレクトを受けた子どもた
ち:精神面の特徴
運動・情緒・言語発達
の遅れ
抑うつ
不眠
過敏
体が硬い
無表情
無気力
気分易変
2008年12月 06日
おちつきがない
人との距離がない
大人の顔色をうかが
う
転換・乖離現象
パニック
心因性疼痛
チック
不定愁訴
希死念慮
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for
Child Development
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虐待と発達障害の関係
虐待が発達に与える影響
慢性の免疫力の低下
成長障害
運動,言語,認知力の遅れ
不注意,多動性
社交性の欠如
愛着障害
自閉症類似の言動
ADHD類似の言動
2008年12月 06日
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Child Development
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学校で生きる子どもたち
医学的に対応?された子どもたち(1)
自閉症と診断されている小学4年生・男児
音楽の授業中にパニックを起こした
担任の言葉
この子は自閉症と診断されているので,パニックのときは介入
するとよけい悪くなります。だからだれも見て見ぬふりをします
同級生の女の子の関わり
近づいて「席に座ろう」と声をかけたところ,パニックはぴたっと
止まり,彼は席に着くことが出来た
2008年12月 06日
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Development
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医学的に対応?された子どもたち(2)
注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断されている
小学3年生・男児
国語の授業中,絶えず立ち歩きしている
校長の言葉
この子はADHDという病気です。この病気は,じっとしていられ
ない病気なので,歩かせています。注意はしません
同級生の態度
ちょっかいかけられても,知らん顔で授業に参加している
2008年12月 06日
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配慮?ある対応をされた子ども
バスケットボール部の顧問に呼び止められ,次のような
ことを言われた学習障害(LD)のある女子高校生
勉強は大変?あなた職業という漢字わかる?業くらい簡単で
しょ
先生はLDの勉強をしているの。あなたみたいな子を助けてあ
げられるのよ。あなたは高校をやめて,ほかの道に進んだほう
がいい。ここにいても友だちできないし,出来たとしても漢字が
読めないことを知ったらみんな逃げていくわよ。あなたと一緒に
いるとイチイチ気を遣うから疲れるの。わかる?
(品川裕香,怠けてなんかない!ディスレクシア,岩崎書店から)
2008年12月 06日
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Development
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大人の都合が優先されそうになった子ども
ネグレクトを受け続け,身体症状も認められるようになっ
た中学3年生,男子
軽度の知的障害があり,生活全般のネグレクトと医療ネグレク
トもあり,本人がひじょうに困っている。
登校だけは出来ており,助けて欲しいと訴えた
児童相談所,保健所,学校で協議したところ,「ネグレクトの客
観的事実に欠けるため,通報,介入の時期ではない」と判断さ
れ,3ヶ月後に再検討となる
身体不調は,僕から母親に言います。でもその時期はあと2,3
年かかります,と本人の弁
再度,緊急会議を開いてもらい,「ネグレクトを判断したので,通
報してほしい」と児童相談所から回答を得る
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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医療化を求められる子どもたち
診断がつけば,対応出来ます,という学校長の
言葉
ADHDだと思うのですが,一度病院に行って診
てもらってください,という担任の言葉
特殊学級にいったほうが,この子は伸びると思
いますが,親が納得していないでの,病院のほう
で話してもらえませんか,という担任と学校長の
言葉
この子の言動は「障害」からですか?わがまま
からですか? などなど
2008年12月 06日
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Development
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教育現場で問題視されやすい事柄への
疑義
(軽度)発達障害
虐待・ネグレクト
不登校・ひきこもり
いじめ・校内暴力
さまざまな心身症状(神経症圏)
精神病圏
教育の役割は,「診断」をつけることではなく,個々の子
どもの「生きづらさ」に寄り添い,その範囲で精一杯の励
ましと生きる力を一緒に探し続けることではないだろう
か?(ではなかったのだろうか?)
2008年12月 06日
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Development
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なぜ,連携が求められるのか
子どもの「わからなさ」への不安解消に
向けて(1)
落ち着きを欠く,じっとしていない子どもたち
話がかみ合わなく,対応が難しい子どもたち
軽度発達障害の台頭
特別支援教育へ
衝動的,短絡的に暴力を振るう子どもたち
容易に凶悪,残酷な犯行に走る子どもたち
少年非行への注目
少年法の改正へ
「特別な子ども」という枠組みの要求
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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子どもの「わからなさ」への不安解消に
向けて(2)
社会の不安と,学校への過剰期待
不確実なまま,わからないままにしておけない
子どもに関わる大人,専門職を持つ大人として,子ども
のことは理解しておかないといけない
問題発生時に責任の所在が「個々に小さく」請求される
いじめの事実を知っていましたか・・・
この子が辛い気持ちでいたことを,どうして誰も気づけなかったの
でしょう・・・
放っておいたのですか・・
本来,人の心を全て理解することなど無理,という事実は棚上
げされる
社会の不安解消のために「犠牲になる教育現場」
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
30
解決を急ぐ姿勢
わからないままにしておけないので,その問題
の発生機序を探ろうとする
子どもの問題
その子にある特性の有無
養育者の問題
養育態度の点検
担当者の問題
関与の実態の点検
どこかに回答(犯人)がある,という信念
問題の個人化という「過ち」を侵し続ける
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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対策としての「学校の医療化」
医学的問題の所在を探る傾向の増強
特別支援教育の功罪
軽度発達障害ブーム
医学的尺度で子どもを測定することで,一見「説明し
やすい」,「わかりやすい」
生徒の「問題」であれば学校の責任,「病気」で
あれば医療の責任とでもいうような雰囲気
(青木省三,僕のこころを病名で呼ばないで,岩波書店)
これは,連携ではない!
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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児童精神医学の役割
児童精神医学の役割 (1)
WHY:診断(見立て)
どうしてうまくいかないのか:なぜへの回答
犯人捜し的な誤解を解く
HOW:評価
どうしたらうまくいくのか:方法・手段への回答
環境調整(生活モデル)の提案
SUPPORT:見通し
これからどうなるのか:安心の保証
LIFE:二次障害の予防と治療
生き生きとした充実感をもって生活したい
子どもたちは,障害で困っているのではなく,社会でみんなと安
全に楽しく生活することに困っている:共生社会の構築
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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実践するうえで必要な3つの枠組み
3つの枠組み
意味
教師
医師
修辞学的枠組
み
問題の表象
生徒理解
教育目標
診断(名付け)
活動の枠組み
関わり
教授方法
(経験,学校の慣例
や教師文化)
教育哲学
(個人の歴史,無意
識)
治療行為
(訓練,学習,伝承)
治療哲学
(個人の歴史,無意
識)
状況的枠組み
時間,空間,
環境
時間割,段階的カリ 診察室
キュラム,机,椅子 スタッフとの関係
の位置,チャイムの 周囲の評価
有無
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for佐藤学1998,田中康雄2005
Child
Development
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連携するために枠組みを重ね合う・理解し合う
子どもの生きにくさに気づいたとき,活動の枠組
みに立ち,教師は対応する
子どもの心の痛みに接近する
情,感性が問われる(人となりが出る)
同時に問題を認識して表象するのは,修辞学的
枠組みである
問題の個人化から外在化する知識が必要
しかし,知識だけが先行すると,心がおきざりになる
そのバランス感覚が重要となる
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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問題の個人化からの脱却(1)
問題への着目点のパラダイム的転回
問題はその子個人にあるのではなく,その子を含むク
ラス全体の関係性にある。問題視される子どもがいる
とすれば,その子にそうした位置を提供した状況があ
る。
その子の現在の状況は,そうしたその子を含む人間
関係の歪みの現れとして理解する。
問題を「どうしたら解決できるか」という問いから「なぜ
問題に見えるのか」,「誰にとって問題なのか」へ
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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問題の個人化からの脱却(2)
子どもは人間関係の歪みから受けた生きにくさを,別の
言動(情緒的症状)で示そうとするためその意味を探る
努力をする
入場券としての症状
危険信号としての症状
問題解決の企図としての症状
迷惑事としての症状
気づきのセンスを向上する
子どもの心にあくまでも近づくことで,障害の有無を探索・発見
することを第一にしない
2008年12月 06日
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Development
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問題の個人化からの脱却(3)
個人を規定する特性のひとつの情報としての医学的知
識を提供する
奇異でも特別でもなく,「存在すること」を前提にした特徴を知る
ことで,その人の一部の行動が説明しやすくなる
その医学的事実(あるいは診断)を活用することで,その子の
全体像の理解が深まる
この修辞学的枠組みを共有するためには,活動の枠組
みを共有する必要がある
クラス,学校で,この子に何が出来るか,周囲の子どもたちにど
のような関与が可能か,の話し合い
そのためには,状況の枠組みを共有する必要がある
「現場」に足を運び,実際に見て話し合い,情報を共有する
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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対応の障壁となるもの
ハード・システム面の課題
人材・機関の不足
個々の忙しさ
役割が明確に分担できないため,個々の負担に不都合さが生
じやすい
情緒面の課題
それぞれの枠組みの変更への抵抗
枠組みの修正には「批判」が同居し,耐え難いこともある
批判は理解を深める行為であり,否定,拒否ではないことを熟知
する
2008年12月 06日
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Development
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枠組みの共有の難しさ
学校の枠組み (1)
学校には「秩序」がある
教師が黒板に書かれた文字を黙ってノートに写す
教師が話しているときは,黙って聞く
整列して立って校長の訓辞を黙って聞く
職員室という教師の領域には許可なく立ち入らない
むやみに立ち歩かない
自分の望む学習スタイルはなかなか認められな
い・・・
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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学校の枠組み (2)
教室での学習は「暗黙の了解と意味理解」を前提にして
いる
教室での過ごし方は「指示に従うこと」を前提にしている
子どもへのまなざしは教師の個人的「経験」が優先され
る(スーパーバイザーの不在)
教室での学習方法と過ごし方は、個人の事情に合わせ
てない(個別でなく集団として扱われる)
大集団から中・小集団への分派するが複数構成が主で
ある
2008年12月 06日
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Development
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学校の枠組みの成立過程 (1)
寺子屋時代
個々に進度まちまちの子どもが混在
公教育の制度化(明治期)
効率よく,少数の教師が大量の生徒を教育するシス
テム
システムを稼働するために「ルール」が細分化され,
生徒への関与はマニュアル化(手引き化)された
個人の成長をその時代の社会が,その時代の価値
観に添って規制・統制する手立てのために・・
2008年12月 06日
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Development
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学校の枠組みの成立過程 (2)
「学校の秩序」を護る理由
役立つ教育という認識,流布
立身出世(学歴)
生活保障
学校の秩序を保障する装置
家庭・家族,特に親が望む「子どもの出世」
子どもへの躾(基本的生活態度)の協同
先生の言うことを聞きなさい
ちゃんとやりなさい
あとで後悔するから
家庭と教育の連動があって初めて成立する
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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学校の枠組みのゆらぎ (1)
近代において「勝利を収めたのは個人主義では
なく家庭であった。子どもは近代において家族と
学校に囲い込まれる存在と化した」
(Philippe Aries,1960)
世の中の弱点がますます露呈していけばいくほ
ど,教育機関は道徳的に病気の子どもたちを毎
日監視するところとして病院と変わらないものに
なっていく
(Gottlieb Schlegel,1783)
2008年12月 06日
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Development
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学校の枠組みのゆらぎ (2)
「壊れはじめた囲い込む社会」から放逐されはじ
めた子どもたち
60年代:非行,校内暴力の嚆矢
70年代:学園紛争
80年代:校内暴力∼いじめ
90年代:キレる子どもたち,学級崩壊
2000年代:軽度発達障害
だからこそ,「子どもを護る」という連携のまなざ
しが求められる
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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児童精神医学にある「枠組み」
発達・成長という視点が求められる
サブクリニカル,あるいは境界線上の病理が
検討される
単に個人に還元できる問題ではなく,家庭,学
校,地域社会,国の(発達性の)病理として検
討する
医療・保健・教育・福祉という場での連携が求
められる
人権問題がより強調される
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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求められる,真の連携
連携する
学際的・分野横断的視点
子どもの一部を切り取って,医学的あるいは心理学
的に理論的に説明することだけでは,現場の全体像
に近づけない
連携とは 「チーム・アプローチ」である
一人で解決できない多面的・複層的な課題に対
処しなければならない
人をつなぎ止め,増やし,助け合う
対話から相互批判を繰り返すことのできる
連携,あるいは連帯,連携という繋がりが求められる
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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トランスディスシプナリィ・チーム・アプローチ
職種間の役割が重複し,それぞれの専門職種が持つ共
有部分を大きくし,その場の構成員で,現場のニードを
満たすために役割を柔軟に変えていく交換性の高い
チーム
一緒に行動を起こす,合同チームであること
連帯
各チームメンバーの専門的技術は価値あるものとして尊重され,
かつ他のメンバーと共有し柔軟に対応する
相互成長と柔軟性
メンバーの役割と責任は,メンバー間で共有すること
共同体
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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児童精神医学の役割 (2)
教育と家庭の橋渡し:調停役
養育者への支援
学校現場との折り合いに介入
チームメンバーとコーディネータの乖離
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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日常の子どもを巡る様子
責任の追及(しつけ,養育姿勢批判,学習指導の徹底した要請)
疾病性としての認識(医療,その他へ速やかに相談に行くように指示)
相談機関への期待と失望,偏見(専門機関の少なさ,予想外の展開,衝突)
保育・教育側
養育者側
責任の追及(専門的立場からの指導力の要請)
事例性としての認識(機関内での調整を指示)
相談機関への期待と失望,偏見(専門機関の少なさ,期待はずれ,障害観)
衝突・悪循環からの打開を求めて!
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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コーディネーターの視点
コーディネーター
ポジティブな評価
疾病性の解説
情報提供
戦略の企画
事例性の理解
機関組織の凝集性の促進
橋渡しの要請を受ける
ねぎらい
事例性の支持
情報提供
疾病性の説明
対応のヒント
子ども
医療機関
との連携
橋渡しの要請を受ける
子ども理解からの
対応・戦略
保育・教育側
2008年12月 06日
養育者側
Research and Clinical Center for Child
Development
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連携を定義する
連携は,非力さに気づいたものが必要とする
連携とは,複数の者(機関)が,対等な立場での対応を
求めて,同じ目的を持ち,連絡をとりながら,協力し合い,
それぞれの者(機関の専門性)の役割を遂行する,対等
に近い関係が生じた時点で,多くの課題は消滅する
(田中,2005)
対等性が保証されている場合は, 3つの枠組みが共有
出来た時である
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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親の困り感
親は子どもにある「発達障害」に困っているので
はない
親は,自分の対応がどうしようもなくうまくいかな
いこと,親として子どもを従わせることができない
ことに,悩んでいる
このままで,親なき後,どのように生きていける
というのだろうと,心配している
支援者は「親」ではない,という事実を常に確認
し,親を労い・敬う
2008年12月 06日
Research and Clinical Center for Child
Development
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親の心情(1)
障害に対する向き合い方
ショック
否認・拒否
怒りと哀しみ
原因の究明と解決策探し
抑うつ状態
障害受容という言葉を「支援者」は放棄する
2008年12月 06日
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Development
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親の心情(2)
この子を残しては死ねない
親が先にいなくなるとき,この子はどうやって生
きていけるのか
だれがこの子を支えてくれるというのか
親の心情に「ゴールはない」
2008年12月 06日
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本人への説明,告知について(1)
診断名告知は医学教育の一環である
具体的な困難に対応する技術を持つ
自分の特性には名前が付くことを知る
手に入れた知識を主体的に活用する
他の同じ障害のある子どもを知る
改めて自分自身を肯定的にとらえ直す
告知の適応判断
子どもの状況
安定した適応状態
理解力
自己への気づき
秘密を保持できる能力
(吉田友子)
2008年12月 06日
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本人への説明,告知について(2)
告知の適応判断
親の状況
子どもへ伝えたいと実感している
親の支援技術力と家庭における具体的支援力
両親の告知における意見の一致
親を支援する場所の確保
子どもの周囲
学校環境
専門機関の利用の確保
子どもが知ることの社会的メリット
地域社会の啓発度具合
(吉田友子)
2008年12月 06日
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本人への説明,告知について(3)
課題
告知を阻む風土
社会の理解度
障害観
医療,療育,教育のサービスの貧困さ
家族内の意見の不一致
合併症,診断確定の困難さ
専門家同士の情報交換,共有の程度
この国が持つ,被害者,弱者,貧困,障害といった分野
への暖かくないまなざし,排除しようとする風土
2008年12月 06日
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立場を知りつつ越えられない境界
それぞれは,ぴったりとは重ならないが,混じり合うことは出来る
子ども
親
教育関係者
疲れてもいて,傷ついてもいて,感謝もされない
疲れているが,傷付くことはなく,時に感謝される
医療関係者
2008年12月 06日
福祉行政関係者
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よりよい連携を目指して
互いの専門性を尊重し,役割分
担を明確にする
互いの職場,職業を知ること
現場の動きを体験すること
共通言語で話が出来るよう,対
話に気を配る
各々の現場でしか通用しない言
葉は世界を広げない,理解を深
めない
例:児相,校務分掌,加配,ASな
ど
批判するまえに,まず「大変だね,
ご苦労様」と声をかけあう(意見
はぶつけ合っても,決別しない)
連携は、自分自身のために始ま
り,互いに支え合いことで,当事
者の支えに繋がる
2008年12月 06日
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最後に
教育現場に登場した「特別支援教育」について,教育に
携わる実践者として,「どのような問題で困っているの
か」,それは,特別支援教育が登場する前は,どのよう
に解決していたのか,あるいは,登場したことで,「よう
やく議論し,考えることができる機会」を得たという点で,
喜ばしいことなのか?
私が議論あるいは自問自答すべきことは,「システム」
の構築の前に,「教師の哲学」,教育者の魂についてで
はないだろうか,と門外漢として思う・・・
誰のための「教育」であるのか・・・・・
教えてほしい,と思う
2008年12月 06日
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