議員NAVI Vol.33

議員活動のための
ソーシャルメディア講座
第
2 回 Facebookが変える、政治と市民の距離
〜 Co-Create Tsukuba、つくば災害情報/ボランティア等共有グループ〜
チュニジアやエジプトの政変においてFacebookが活躍したというニュースが世界を駆け巡って久しい。
今やFacebookは、一国の政治すらも変えてしまうほどの影響力を持ちつつあることは証明されている。
とはいえ、日本においてFacebookは政治を変えたのか? と聞かれれば、なかなか実感には乏しいところ。
しかし、今すでに地方行政の場でFacebookが政治のあり方を変えようとしている。
何とFacebookに集められた市民のアイデアが、そのまま議会で提案されているというのだ。
今回はソーシャルメディアを使った実際の議員活動の事例をつくば市議会議員、五十嵐立青議員に聞きつつ、
(編集部)
その手法をFacebookの機能と合わせて解説する。
Facebook上の
次世代型タウンミーティング
2011年7月21日、五十嵐議員は『Co-Create Tsukuba』
る。まさにインターネット上の次世代型タウンミーティング
を思わせる。五十嵐議員は、こうしてアイデアが積極的に市
民間で交換され、政治に反映されることによって、政治と市
民の間で対話が生まれると考えている。
というFacebookページを立ち上げた。今は五十嵐議員は
パートナー議員としてかかわり、社団法人として活動してい
五十嵐 市役所の職員は、つくば市では正規職員で約1,800
るプロジェクトだが、この『Co-Create Tsukuba』では、市
人、臨時や嘱託職員を合わせても約3,000人。1担当課で数
民からつくばのまちづくりのアイデアがどんどん投稿され、
人から十数人、担当政策レベルでは1人から多くて数人とい
活発に意見交換が行われているとともに、Facebookの投票
う規模になってしまう。どれだけその担当者が優秀で情熱的
機能「クエスチョン」でトップになったものをパートナー議
であったとしても、クリエイティビティには限界があり、本
員が実際の議会で提案しているという。
当に民意を反映した政策提案は難しいといえるでしょう。し
かし、Facebookであれば21万人いるつくば市民の知恵を
五十嵐 議会の“応答義務”、つまり市民からの声に対して議
最大限に使うことが可能になります。
会が制度という形にして“応答”するための仕組みづくりの
つくば市には様々な人たちがいます。学生もいれば学者も
一環として、私はFacebookを活用しています。手法として
いるし、外国人だっている。その多様性の中で生まれたアイ
は、まずFacebookの『Co-Create Tsukuba』ページ上で3
デアというのは、非常に新鮮に感じますし、何よりも「市民」
か月に一度の議会ごとにアイデア募集の告知を行います。そ
と「政治家」という分かれ方ではなくて、一緒に未来を目指
して、集まったアイデアにディスカッションの期間を設け、
すパートナーとして対話ができる。こうした場は、ソーシャ
最後に投票機能「クエスチョン」を使って投票を行い、トッ
ルメディア上以外ではなかなかつくりにくい。
プになったものを議会で提案する、という流れです。
確かにこうした取組を通し、市民は、市民請願等の現行の
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『Co-Create Tsukuba』上では、活発に議論がされ、実際
制度ではできない政治参加が可能になる。とはいえ、オープ
に市民同士が協調しながらアイデアの採決にまで至ってい
ンな参加の場だと、出てくるアイデアの質を一定に保つのは
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Facebookが変える、政治と市民の距離
【投票機能の使い方①】
「クエスチョン」をクリックすると、近況アップデートで
あれば「今なにしてる?」となる投稿欄が「質問する…」に変わる。ここに政策ア
イデア等を書き込んでいけば、投票が可能な投稿を作成できる。
【Facebookページとは?】 企業や著名人、同好会などが、ユーザーとの交流の
ために作成・公開したページをFacebookページという。このFacebookページ
の「いいね!」を押してファンになると、そのFacebookページに関する情報が
自分のウォールにも流れてきて、更新情報を得ることができる。
難しいのではないだろうか?
【投票機能の使い方②】
「クエスチョン」で投稿が作成されると、
『Co-Create
Tsukuba』のFacebookページを「いいね!」している人全員に共有され、投票
可能になる。リアルタイムで投票数が表示され、得票数が多い順に並ぶ。
な人間かをそのまま見てもらうつもりでやっています。議員
としての人格ではなく、
一人間の人格として使っていますね。
五十嵐 アイデアの質の担保は現状課題でもあります。確か
だから自分の仕事のことも書くし、子どもの写真も投稿して
に議会で提案できないものもたくさんありますし、今は会員
いる。
制度の導入を検討したりして、質の確保を目指しています。
ソーシャルメディア以前では、
私たち議員と市民の接点は、
とはいえ、まちづくりに役立つのであれば、雑多なアイデ
マスメディアの報道や演説だけでした。演説には場所の制約
アすべてを排除する必要はない。例えば「市民と学生が交流
があるし、報道はメディアによって情報が曲げられて伝わる
するカフェをつくりたい」というアイデアであれば、広報の
ことも多い。しかし今、ソーシャルメディアを使えば、自分
支援をすることもできるし、内容によって関係各所に紹介す
で出す情報を選んで発信することができます。しかも双方向
ることも可能になる。
『Co-Create Tsukuba』は、
「つくばを
性もあるので、市民と互いに人間同士として分かり合える。
世界一住みたい町にする」という目標を掲げています。その
こうして生まれる信頼関係は、今までの議員と市民の関係性
ためのアイデアが市民から集められることがまず大切です。
にはなかったものだと思いますね。
運営サイドは、集まったアイデアリソースを適切な場所に割
り振りしていけばいい。そのひとつとして、投票1位のもの
確かにソーシャルメディア以前は、報道や演説によって、
は議会に提案するということを行っています。
いわば
“下馬評”
的に市民が議員を判断する仕組みしかなかっ
た。ソーシャルメディアの浸透によって、この仕組みは変わ
ソーシャルメディアは
議員と市民の距離感を縮めてくれる
りつつあるだろう。しかし、私生活を露出しすぎると炎上の
危険性もまた、高まるのではないだろうか?
『Co-Create Tsukuba』はFacebookページ。では、五十
五十嵐 私は炎上に対して特別な対策はせず、一般人として
嵐議員は自分のFacebookアカウントではどんなアクション
の心がけ程度ですが、これまで炎上したことはありません。
を起こしているのだろう?
リアルの場面で言わないようなことはSNS上でも言わない、
といった当たり前のことだけを意識すれば十分で、特に議員
五十嵐 自分のアカウントでは、市民の皆さんに、私がどん
だからといって警戒すべきことでもないと考えています。こ
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れからの時代は、もっとオープンであることが当たり前に
なってくるでしょう。言い換えれば、オープンな個人発信が
前提になってきているので、変に選挙等を意識した不自然な
情報や、不透明なヤラセのような情報は見抜かれやすくなっ
てきています。あるいは、デマを流してもその大元を探り当
てることが容易になってきていますので、広がりも速いけれ
ども収束も速い。よって、おかしなものは、それこそ民主主
義的に炎上してくるわけです。むしろ政治としては、いい時
代になってくるのではないでしょうか。
Facebookグループが可能にした
高効率の災害時プラットフォーム
東日本大震災が起こったとき、五十嵐議員は福島からつく
ばに殺到した被災者のために毛布などの支援をTwitterで呼
びかけた。すると、2時間で250人分が集まり、話題となった。
【グループ機能】
「グループを作成」をクリックすると、グループが作成でき、即
座にメンバーを追加できる。また、誰にでもグループのすべてが公開される「公
開」
、グループと参加メンバーだけが公開され、投稿はメンバーだけに表示される
「非公開」
。グループの参加メンバー以外には何も公開されない「秘密」から公開
設定ができる。
そして五十嵐議員は今年の5月6日に発生した竜巻の災害
時にも、
『つくば災害情報/ボランティア等共有グループ』を
Facebookのグループ機能を使って立ち上げ、円滑な情報共
有に貢献した。
五十嵐 発災時にすぐに立ち上げ、100人くらいの友人をグ
ループに入れ、情報と人材のマッチングを行っていきました。
これによって、今どこでどんな状況になっているか、ボラン
ティアがどれだけ必要かが素早く共有されていきました。
大きな成果はボランティア人材の円滑な準備・配置ができ
たことでした。例えば災害時にボランティアを募るとなると、
電話対応が一般的ですが、少ない電話回線に多くの通話が殺
到するため、即座につながらなくなって混乱します。さらに
【イベント機能】
「イベントを作成」をクリックすると、グループ内に共有できる
イベント情報ページを作成できる。グループメンバー全員に通知されるほか、誰
が参加するか、誰が来ないかも一目瞭然。
『つくば災害情報/ボランティア等共有
グループ』では、これによってボランティアの管理が行われた。
電話番号の情報も広まりにくい。それがFacebookであれば、
既存の友人ネットワーク内に情報が拡散して、ボランティア
害時でも既存の友人ネットワークが使えるところがFace
志望者がこのグループに自働的に集約されるので、スムーズ
bookの強み。これからの危機対応における情報共有はソー
です。実際に、深夜の11時に「明日朝8時までに安全靴など
シャルメディアが主流になっていくのだろうか?
万全な装備を持っているボランティアを10人集めてくれ」
という依頼が来たときも、即座にこのグループで共有したと
五十嵐 災害時には現場で動ける人々が自律的に情報交換を
ころ、2時間後には集まりました。
しないと間に合いません。誰かの司令下に情報を集約しよう
さらにはイベント機能を使って、
「何時にどこに集合か」と
とすると、圧倒的に伝播の初速が遅くなって致命的な展開に
いう日時情報も簡単に共有できるため、電話やメールと違っ
なります。本来であれば東日本大震災の教訓を生かして、行
て、人材を配置する際のコストも大幅に低減されます。
政内にソーシャルメディアでの災害プラットフォームがきち
んと整備されるべきだったのですが、今回の竜巻災害にはま
東日本大震災でソーシャルメディアが活躍したように、災
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だ間に合っていませんでした。
Facebookが変える、政治と市民の距離
だから私はあえて竜巻発災時において『つくば災害情報/
ボランティア等共有グループ』というグループ名にしたので
す。ここに情報が集約されているということを災害を通じて
知っていれば、今後災害が起こったときも役立てることがで
きます。今やメンバーは1,300人を超えていますね。
もちろん災害が起こらないことを願うばかりですが、願い
が届かなかったときのために、ずっと使える緊急時・防災対
応のプラットフォームを生み出せたと思っています。大事に
していきたいと思っていますね。
これからの政治は“実名対実名”の時代
Facebookを通し、新しい試みをしてきた五十嵐議員だが、
実際にソーシャルメディアは日本の政治を変えるのだろう
か? 議員としての実感を聞いた。
五十嵐 ソーシャルメディアによって変化が生まれているこ
五十嵐立青議員(つくば市内「アトリエバーもじゃーる」にて)
とは確かです。民主主義は、結局、情報がどのように市民に
共有されているかがそのあり方を決めると思います。そして
だと思います。
情報という観点から見れば、一般的な報道もそうですし、例
えば政党というものも、情報の集約機能のひとつです。議員
情報という観点から見たとき、
ソーシャルメディア以前は、
の所属政党によって主義主張の方向性がある程度理解できる
一議員の考えていることにコメントするには、陳情、請願の
から、選挙の際、初めて選ぶことができる。選択の指針にな
形をとる、実際に会う等のアクションが必要だった。しかし
るわけです。
ソーシャルメディア以降では、手元のスマートフォンからで
しかし報道はもちろん、この政党による情報の集約機能に
もそれが可能になっている。
は、同時に情報の不完全性、つまりメディアや政党のバイア
こうした政治家と市民が実名対実名で結ばれ、互いに対等
スがかかっているわけですから、正しい情報を手に入れにく
に対話ができる時代の先で、新しい民主主義が生まれる可能
いという弊害も招いていることは事実でしょう。
性は、どんどん高まっていくだろう。
一方、ソーシャルメディアはあくまで個人の発信、そして
その個人の周囲の政治家・市民を含むネットワークも開示さ
れた上で発信されています。もちろん受け取る側のリテラ
シーにも依存しますが、操作された情報かどうかが見えやす
い環境ではあると思います。少なくとも、数あるメディアの
中で、議員の考えていることが最も分かりやすいメディアで
あることは確かでしょう。
今まで私たち議員と市民は、実名対匿名で情報を交換して
いた。これをソーシャルメディアは実名対実名にできる仕組
みを持っていて、そしてそれが多くの人々に浸透してきてい
る。
情報のあり方が変わりつつあるわけですから、それによっ
て民主主義、つまり政治が変わる可能性は否定できないこと
Profile
五十嵐 立青(いがらし・たつお)
つくば市議会議員。1978年つくば市(桜村)生まれ。2002年筑波大
学第三学群国際総合学類卒業、2003年ロンドン大学UCL公共政策研
究所にて公共政策学修士号を取得後、現職。2007年筑波大学大学院
人文社会科学研究科博士課程修了、国際政治経済学博士。同年地域の
経営者を中心にマネジャー、政治家等にエグゼクティブコーチング
を提供する「いがらしコーチングオフィス」を設立。2010年には働
く場所がない障害者の雇用創出と、担い手不足の農業経営を両立さ
せるための「特定非営利活動法人つくばアグリチャレンジ」を設立し
たりと精力的に活動中。
Facebook:五十嵐 立青
Twitter:@igarashitatsuo
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