大気および室内環境中の粒子状汚染物質を対象とした バイオ

大気および室内環境中の粒子状汚染物質を対象とした
バイオモニタリング手法に関する研究
8ASKM004
池 田 四 郎
指 導 教 員
関 根 嘉 香
[Introduction]
わが国では 2009 年に微小粒子状物質 PM2.5 に対する環境基準が定められるなど 1)、微粒子の健康への影響
に対する関心が高まっている。粒子状物質のモニタリングには主として物理・化学的手法が用いられている
が、未知物質の存在や化学物質同士のシナジー効果を考慮した総合的な評価も重要である。
バイオアッセイは未知・未確認の有害物質を含む環境試料に対する複合的な有害性評価法であり、大きく
in vivo と in vitro に二分される(Fig.1)
。発光性バク
In vivo
テリアを用いた生物発光試験は両者の中間に位置し、
各々の問題点を補完した定量的な有害性評価法とし
In vitro
Luminescent bacterium assay
Vibrio harveyi
Mouse assay
Vibrio fischeri
umu assay
Lichen, moss
Yeast assay
て期待されている。本研究では、発光バクテリア
Vibrio fischeri の生物発光性を利用した大気中微粒子
の有害性評価法を確立し、さらに屋外からの移流や
ハウスダストの再飛散による室内空気の微粒子汚染
Taking place in the
living test organisms
のモニタリングに適用することを目的に、大気中お
Assessment in controlled
experimental condition
よび室内浮遊粉じんの生物発光阻害性を検討した。
Fig.1 Luminescent bacterium assay taken in
a controlled apparatus using a living organism.
[Bioassay methodology]
エアサンプラ法にて捕集した浮遊粉じん(Total
1,170 mm
Suspended Particles, TSP)は粒子としての回収ができ
ないため、溶媒抽出を行う。しかし TSP は、水溶性
3,500 mm
成分や重金属、有機化合物から構成されるため、各々
を対象とした抽出法が必要である。そこで水抽出
( Leachable )、 酸 抽 出 ( Metals )、 有 機 溶 媒 抽 出
Bath
Kitchen
Toilet
(Organics)の 3 つの抽出モードがある ROTASTM キ
Closet
ットを利用し、本研究に際しては Leachable を用いた。
3,500 mm
[Experimental]
室内外浮遊粉じんの同時捕集:2008 年の 6 月、
7 月、
10 月、11 月の計 4 回、平塚市内の居住住宅(1K ア
930 mm
パート, 1 階)
のリビングルームとベランダにおいて、
通気流量 23.5 L/min のローボリウムエアサンプラを
用い石英繊維製フィルター上に室内、室外の浮遊粒
Living room
Passive sampler (height=1.8 m)
Terrace
子状物質 TSP を捕集した(Fig.2)
。捕集時間は 7 日
3,040 mm
における居室内の換気回数を PFT 法により測定した。
相対発光強度の測定:各試料を 25 mmΦ にカットし、
10 mL の滅菌蒸留水で 90 分間振とう抽出後、孔径
0.45 μm のフィルターでろ過し、ろ液を得た。凍結乾
燥保存されたバクテリアに再活性化溶液を加え、50
分間静置することで再活性化させた。24 ウェルプレ
ート内でバクテリア溶液にろ液を作用させ、ルミノ
メーターにより BLI(%)を測定した(Fig.3)
。得られ
た BLI か ら 通 気 量 あ た り の 生 物 発 光 阻 害 度
INH/V(%/m3)を(1)式により算出した。
100 - BLI
Air volume (m 3 )
Low volume air sampler
Fig.2 Layout of the sampling location at an
apartment house in Kanagawa, Japan.
間で分級はしていない。また、サンプリング期間中
INH / V =
Tracer gas generator
1mL of
extract
25mmΦ
0.45μm
Millipore®
Sampled
Extraction with
filter
filter
sterilized DW
Rehydration
Transfer
medium
1mL to each
Add 1mL to
each well
well
Freeze-dried
bacteria
Stand for
50min
24-well plate
Luminometer
Fig.3 Flowchart of the BLI measurement for the
water extracts of samples using ROTASTM kits.
(1)
4
[Result and discussion]
100
Fig.4 に TSP サンプルの水抽出液を発光性バクテリア
80
に作用させたときの、相対発光強度 BLI の経時変化の
BLI (%)
一例を示した。トラベルブランク(○)では測定開始直後
から終了時まで高い BLI を維持した一方、ポジティブ
コントロール(◆)として 40 mg/L 硫酸銅水溶液を作用
60
Blank
Aerosol sample
Positive control
40
させると、BLI が著しく減尐 V. fischeri に対して急性毒
20
性を示した。実試料(●)は室内 TSP サンプルの水抽出
0
物であり、測定開始後ただちに BLI が低下しているこ
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112131415
とから、TSP サンプルの水抽出液には発光性バクテリ
Time (min)
アに対して毒性を示す成分が含まれることがわかった。
Fig.4 Typical time-courses of bioluminescence
intensity (BLI) in cases of travel blank (○), indoor
aerosol sample (●) and positive control (◆).
Table1 に各月における換気回数、室内外の TSP サン
プルについて測定した BLI
(測定開始時を 100 とする)
、
浮遊粉じんの毒性指標とみなすことのできる INH/V お
よび INH/W、さらに室内外の TSP 濃度およびその I/O
Table1 Results of measurements of toxicity of indoor
and outdoor aerosol samples.
を示した。
N が増えると TSP 濃度の Indoor-Outdoor
(I/O)
Month
比が小さくなっていることから、換気によって外部か
N
BLI
Site
(/h)
(%)
I
O
I
Jul. 0.51
O
I
Oct. 1.2
O
I
Nov. 0.18
O
Jun. 0.12
ら流入する粒子状物質の量が増えることがわかる。室
内と室外の微粒子について比較するため、各月の
INH/V および TSP 濃度の平均値と標準偏差を示すと
(Fig.5)
、
室内に比して室外 TSP の INH/V 値が大きく、
TSP 濃度に応答的であった。
一方、粒子状物質の質に着目したパラメータである
0.06
0.18
0.18
0.24
0.17
0.26
0.12
0.23
3.5
4.3
6.4
3.9
9.8
5.3
4.2
3.6
17.3
42.2
28.3
61.2
17.3
49.4
28.7
63.7
0.41
0.46
0.35
0.45
70
60
TSP conc. (μg/m3 )
INH/V を TSP 濃度で割ることにより定義し、室内外の
TSP サンプルについて比較した(Fig.6)
。室外の INH/W
においては各サンプリングで大きな差はなく、バクテ
リアの生物発光量に影響する成分の組成はあまり変化
しないと考えられる。室内では換気回数が多くなるほ
ど INH/W が増大したが、換気回数の増加に伴い外気か
TSP conc.
INH/V
0.30
50
40
0.20
30
20
0.10
10
ら流入する TSP 量が増加し、室内の INH/W は室外の値
0
に漸近すると思われた。しかし実際は異なり、INH/W
0
Indoor
Outdoor
Fig.5 TSP concentration and Inhibition per
volume of indoor and outdoor suspended
particles in Hiratsuka, Kanagawa, Japan.
は室内>室外となった。
なおこの現象の要因を検討するため、同じ居住住宅
において同様の換気条件を再現し、換気量の変化によ
10
気流の発生によって、室内のハウスダストの再飛散が
8
INH/W (%/mg)
る粒径分布の変動を実測した。その結果、換気による
起こり浮遊粉じんの生物発光阻害性に影響を及ぼした
2)
。今後は、ハウスダストの有害性
に着目し、室内空気質に与える影響について検討して
いく必要があることが明らかとなった。
[引用] 1) Pope C.A. et al., Environ. Health Persp., 112(3), 339-345(2004)
2) 池田ほか, 室内環境学会総会講演集, 174-175(2009)
[本研究と関連する既発表文献] 1) 池田, 関根, 大気環境学会誌, 44(1),
16-23(2009) 2) Ikeda, Oikawa and Sekine, ICROS-SICE International
Joint Conference 2009, 4486-4489(2009) 3) 池田, 及川, 関根, 室内環
境, 12(2), 133-141(2009)
[謝辞] 本研究に際し ROTASTM キットをご提供頂いた、日立化成工業株式
会社機能性材料事業部ライフサイエンス部門に深謝いたします。
5
6
4
2
0
Indoor
Outdoor
Fig.6 Inhibition per weight of indoor and
outdoor aerosols. Indoor INH/W was larger
than outdoor one.
INH/V (%/m3)
単位重量あたりの毒性指標である INH/W (%/mg)を、
ことが見出された
84.6
56.8
58.0
42.0
60.2
38.6
72.0
44.4
INH/V INH/W TSP conc. I/O of
(%/m3) (%/mg) (μg/m3) TSP conc.