Page 1 Page 2 っている紫外域高出力レーザーと して, KrF (248nm) ゃ

石英ガラスにおける真空紫外レーザー照射損傷
(406)
平成2年6月
レーザーオリジナル
石英ガラスにおける真空紫外レーザー照射損傷
黒澤宏*・瀧川靖雄**・佐々木亘***・奥田昌宏*
藤原閲夫†・吉田国雄†・加藤義章†・井上能英‡
(1990年1月29日 受理)
Vacuum Ultraviolet Laser Induced Damage in Silica Glass
Kou KUROSAWA*,Yasuo TAKIGAWA**,Wataru SASAKI***,Masa薮iro OKUDA*,
Ets琶o FUJIWARA†,Kunio YOSHIDA†,Yoshiaki KATO†and Yos舳ide INOUE‡
(ReceivedJanuary29,1990)
An Ar(126nm)or a Kr(146nm)excimer laser,once used as a cavity reflector,has been found
to cause serious surface(lamage−to silica glass.The(iamage was observed with an optical profi蓋e−
meter an(l a selected−area X−ray photoelectron spectrometer.Transmission and reflectance spec−
tra were also taken at the UVSOR facility.Si isolation in the surface layer is caused by Ar excim−
er laser irra(liation,but not by Kr excimer laser irradiation.Excitons generate(i by Ar excimer
laser photons via an e{ficient one photon process are considered to play a fund.amental role in the
Si isolation.
Key words:Rare gas excimer laser,Laser damage,Silica glass,Reflectance spectra,Transmis−
sion spectra,Photoelectron spctra,Exciton。
複屈折を利用した波長板や補償板として有用で
1.はじめに
ある。この様な石英ガラスは,本質的にはその
石英ガラスは,240nmから2μmの広い波長範
囲にわたって90%以上の透過率を示すことか
基礎吸収端の140nmまでの波長であれば吸収を
示さないはずであるが,不純物,構造欠陥など
ら,可視から紫外の広い波長範囲におけるレン
ズやミラー,あるいはミラー基板材料として広
により,240nm以下の波長域で,わずかではあ
るが吸収を示すようになる。最近,リソグラ
く使われている。また,その結晶である水晶は
フィー,光化学反応,計測などへの応用が広ま
*大阪府立大学工学部電子工学科(〒591堺市百舌鳥梅町)
**大阪電気通信大学工学部電子物性工学科(〒572寝屋川市初町)
***宮崎大学工学部電気工学科(〒889−21宮崎市学園木花台西)
†大阪大学レーザー核融合研究センター(〒565吹田市山田丘)
‡島津製作所第二科学計測事業部技術部(〒604 京都市中京区西の京桑原町)
*Department of Electronics,University of Osaka Prefecture(Sakai,Osaka591)
**Department of Solid State Electronics,Osaka Electro−Communication University(Neyagawa,Osaka572)
***Department ofElectrical Engineering,Miyazaki University(Miyazaki889−21)
†lnstitute・fLaserEngineering,OsakaUniversity(Suita,Osaka565)
‡R/D Engineering Department,Scientific Equipment Division,Shimadzu Corporation(Kyoto604)
一14一
第18巻第6号
レーザー研究
(407)
キシマレーザーおよびKrエキシマレーザーの
光子エネルギーは石英のバンドギャップの上下
っている紫外域高出力レーザーとして,KrF
(248nm)やArF(193nm)などの希ガスハライド
レーザー用ミラー,窓材としてだけでなく,ビ
にあり,しかもその出力エネルギーは数百
mJ/cm2(ピークパワーは数十MW/cm2)と非
ーム伝送用の反射ミラーおよびステッパー用光
常蕉強力である。したがって,これらのレーザー
エキシマレーザーの開発が進んでいる。その際,
学素子として広く用いられている石英ガラスの
を石英に照射した際に生じる光損傷の様子を詳
光損傷が注目を集め,光学素子の寿命に関連し
細に調べることは,短波長光による石英の光損
て,品質の向上とともに,損傷の機構解明に努
傷機構を解明する上で重要な知見が得られるも
力が払われている1−4)。
のと思われる。
石英ガラスのバンドギャップは大きく,した
本論文は,石英ガラスをArエキシマレーザ」
がって吸収波長域に適当な光源が無い。このた
とKrエキシマレーザーの共振器反射鏡として
め,これまでの照射効果に関する実験の多くは,
用いた時に見られる照射損傷の観測結果につい
イオン化するに十分なエネルギーを持つ,電子
線,X線,γ線などによって行われてきた。こ
れらの電離放射線で形成される欠陥の代表的な
てまとめたものである。観測には,表面トポグ
ものとして,E’中心5’6),Non−BridgingOxygen
ラフィー,シンクロトロン放射光を用いた反射
率・透過率スペクトル,そしてX線光電子分光
法を用いた。両エキシマレーザーの光子エネル
HoleCenter(NBOHC)7’8),パーオキシラジカ
ギーの差異に基づく結果の違いに注目して,損
ル(02〉9’10)などがあり,それぞれの特性および
傷機構について考察を行った。
生成機構については,多くの議論が展開されて
2.レーザー照射条件
おり,かなり解明されてきた。
最近,石英ガラスにおけるこの種の欠陥が希
希ガスエキシマレーザーに関しては,放電励
ガスハライドエキシマレーザーの照射によって
起方式は発振基礎実験が極く最近始められたと
ころで,まだ開発段階にあり18),電子ビーム
も形成されることが報告されている。7.9eVの
F2エキシマレーザー,6.4eVのArFエキシマ
レーザー,5.OeVのKrFエキシマレーザーでは
で励起する形式が最も一般的である16’17)。我々
効率よくE’中心が形成されるのに反し,4.OeV
ルス発生機と,ブルームライン型波形整形回路
のXeClエキシマレーザーでは形成されない。
を通して得られたピーク電圧700kV,全持続時
さらに,E’中心の密度が入射レーザー光のパ
問200nsの電圧パルスで電子を加速するもので
ある。厚さ80μm,外径5mm,長さ80cmのステ
ワーの2乗に比例して増加することから,これ
らの場合には,2光子吸収によって励起子が形
成されることが,欠陥形成の基本であると報告
されている11−13)。
が用いた電子ビーム装置は,マルクス型電圧パ
ンレス管を陽極に,そしてそれを同心円状にと
りまくTa薄板を陰極にして,その間に電圧が
印加される。励起長さは40cmである。陰極か
石英ガラスのバンドギャップは9eVであ
OUTPUT M匿RROR
る14)。9eVを越えるエネルギーを持つArエキシ
Wl紀DOW
REFしECTOR
マレーザー(126nm:9.8eV)では,最も効率
冒
よく欠陥が形成され,一方バンドギャップ以下
CATHODE
ANODE一
のエネルギーのKrエキシマレーザー(146nm l
8.5eV〉では欠陥の形成が起こりにくいことが
RARE GAS INLET
不可能であったが,上述のように我々のArエ
LASER OUTPUT
一
EXHAUST
一700kV
予想される。従来,このような実験は適当な光
子エネルギーを持つ強力な光源が無かったため
電
團
Fig.1Electron
laser.
一15一
beam pumpe(l rare gas excimer
(408〉
石英ガラスにおける真空紫外レーザー照射損傷
平成2年6月
ら放出された電子が陽極管の中に充填された希
て石英ガラス表面上の単位面積あたりのエネル
ガスを励起し,エキシマを生成する。充填され
ステンレス管の両端に置かれている。出力ビー
ギー,すなわちフルエンスとした。代表的な1
パルス当りのレーザー出力エネルギーは,Ar
エキシマレーザーの場合は約10mJ,Krエキシ
マレーザーの場合は約25而であった。出力パ
ルスの半値幅は約5nsで,出力パルスのピーク
る希ガスの圧力は,Arガスでは30∼40気圧,Kr
ガスでは15∼25気圧であった。レーザー共振
器鏡は,Fig.1に示すように,この陽極である
ムを厚さ5mmのMgF2単結晶板圧力窓を通して
パワーは2MWと5MWであった。さらに,これ
真空中に取り出して,ジュールメータ(Gen Tec,
らのエネルギーから計算した石英ガラス表面上
ED−200)でパルスエネルギーを,そして高速
光電管(浜松ホトニクス,R−1328U−04)で波形
のフルエンスは,Arエキシマレーザーの場合
が125mJ/cm2で,Krエキシマレーザーの場合が
を観測した。
300mJ/cm2であった。ちなみに,石英ガラスを
このレーザーの出力鏡として,厚さ5mmの
MgF2単結晶板を用いた。この波長域における
透過材料としては,他にLiFがあるが,LiFは
容易に着色し透過率が低下すると予想されたの
反射鏡として用いた時のArエキシマレーザー
の最高出力は,22mJであり,また表面に損傷
が見られた最低のエネルギーはほぼ5mJであっ
で,我々はもっぱらMgF2を用いた。圧力窓な
らびに出力鏡として用いたMgF2板は同種のも
のであり,Arエキシマレーザーに対する透過
ターは,波長が短くなると感度の低下があるが,
193nm以下の波長域における感度較正は行われ
率は63%,反射率は8%,そしてKrエキシマレー
た。したがって,レーザー出力エネルギーの絶
ザーに対する透過率は70%,反射率は8%であっ
対値は上記の値よりも幾分大きいと考えられ,
た。一方,最もポピュラーな光学材料である石
英ガラスを反射鏡に用いたところ,その表面に
さらにArエキシマレーザーとKrエキシマレー
ザーのエネルギーの値を直接比較することはで
直径5mmのビームパターン(損傷パターン)が
きない。
た。ただし,エネルギー計測用のジュールメー
ておらず,ここでは,可視域の較正感度を用い
観察された。本報告は,この石英ガラスの表面
3.表面観察
にできたビームパターンに関する観測結果とそ
レーザー開発の主目的の一つが高出力化にある
3.1表面状態
ビームパターンは肉眼ではっきりみることが
ので,反射鏡として石英以外にも種々の材料を
できるが,顕微鏡写真はコントラストが低く,
テストしたが,本論文の主題と離れるので,他
明瞭な像を撮ることができなかった。肉眼で見
の報告にゆずる19−21)。
える理由は,パターンの部分の表面が粗くなっ
ところで,このレーザーの共振器内モードお
ていて,それによる散乱のためであると考えら
よび空間分布は,正確には分かっていない。し
かし,利得が10%cm−1以上と非常に高いうえ,
れる。Fig.2は石英ガラスにおいて見られた
ビームパターンの一部を含む領域の表面凹凸
平面一平面共振器を用いているので,陽極管の
を,表面粗さ計(Wayko Co.,NCP−1000−type
の生成機構に関するものである。なお,我々の
直径5mmいっぱいに広がる多数の横モードで発
profilemeter)で観測した結果である。(a)には
振していると考えている。したがって,反射鏡
Arエキシマレーザー照射によるビームパター
表面上の照射エネルギー密度を見積るにあたっ
ンを,そして(b)にはKrエキシマレーザーによ
て,簡単のため,ビーム径内の強度を均一と仮
るものを示す。いずれの場合も,ビームパター
定した。取り出した全ビームエネルギーの値を
基に,圧力窓と出力鏡の透過率を考慮して,共
ンの端に盛り上がった部分があることがわか
る。これは,レーザー光が当たった部分が融け
振器内エネルギー密度を計算し,その値をもっ
た状態にあり,それが周辺に向かって膨張しよ
一16一
第18巻第6号
(40◎)
レーザー研究
RMS=11.1nm P備V=77.4論m
PHOTON ENERGY(oV》
2015 109 8 7 6
承
(100
a
1.0
四
ロ
5
1
……
E50
誘
i…
0.5
3
2
E
O
60 100 150 200 250
0 0.5 1.O
0
WAVEしENGTH《nml
Fig.3Transmission spectra of a SiO2mirror taken
by us圭ng synchrotron radiation of the
DISTANCE(mm》
UVSOR facihty.Curve1,from unirradiated
part;curve2,from a beam pattern induced
by an Ar excimer laser;curve3,from a
RMS=13.1nm P−V=85.9nm
b
beam pattern induced by a Kr excimer laser.
射率の測定を行った22)。Fig.3に石英ガラスに
1.0
対する透過率スペクトルを示す。曲線1は未照
射部分のスペクトルであり,この石英ガラスの
光学的吸収端は7.5eVにあることがわかる。石
0.5
英ガラスのバンドギャップの9eVに比べて,著
0 0.5 1、O
0
しく低い。これは,欠陥や不純物,そして構造
不整によってバンドギャップ内にできた欠陥準
DISTANCE(mm》
Fig。2Surface topograp短c images of a SiO2mirror
taken with an optical interferometric pro.
filemeter.In(a)iS inclu(le(i unirra(iiated part
and a beam pattem in(iuced by an Ar excim−
erlaserandin(b)unirradiatedpartanda
beam pattem induced by a Kr excimer laser.
位による吸収と考えられる。次に,Arエキシ
マレーザー照射部分とKrエキシマレーザー照
射部分のスペクトルを曲線2と3に示す。エキ
シマレーザー照射によって,特に吸収端から
5eVの領域の透過率が大幅に減少していること
がわかる。しかも,その低下の程度はArエキ
シマレーザー照射の場合の方がKrエキシマ
うとして,溶融していない固体の部分にぶつ
レーザー照射の場合に比べて甚だしいことがわ
かってしわとなって盛り上がったものと推測さ
かる。この透過率の低下は,一部は表面凹凸に
れる。この盛り上がりは,レーザーの波長には
よる散乱に起因するが,大部分はレーザー照射
依存せず,いずれの場合でも同様のことが起
によってバンドギャップ内にエネルギー準位を
こっていることがわかる。さらに,ビームパター
もつ欠陥が形成され,それによる吸収と想像さ
ンの内部は,レーザーが当たっていない部分に
れる。しかし,これだけでは欠陥の種類を類推
比べて,大幅に表面が粗くなっていることがわ
することは出来ない。
かる。
石英ガラスの厚さが5mmであり,一方レー
ザー照射による変質層の厚さは高々100nmであ
3.2透過・反射スペクトル
るので,透過率の測定では,変質層の種類を同
分子科学研究所の極端紫外放射光施設
定することが難しい。反射率スペクトルには損
(UVSOR)におけるシンクロトロン放射光を用
傷による変化がより顕著に現れることが期待さ
いて,可視から極端紫外域における透過率と反
れる。Fig.4に反射率の測定結果を示す。石英
一17一
平成2年6月
石英ガラスにおける真空紫外レーザー照射損傷
(410)
凹凸の増加による反射率の減少を示すことが予
PHOマON ENERGY{eV》
109 8 7 6
20 20 15
訴
想されたが,実際には反射率の増加を示すとい
5
う結果となった。しかもそのスペクトルは
2
6.5eV付近で最大反射率を持っている。一方,
>
ト
≧
←10
0田
1
四・
3
一
臨
【
o
60
Krエキシマレーザー照射による変化は,予想
通り,波長域全域にわたってわずかな減少と
なった。すなわち,反射率スペクトルはArエ
璽00 150 200
キシマレーザー照射の場合にのみ大きく変化し
250
WAVEしENGTH(nm》
たことになった。スペクトルを注意深く観察す
by using synchrotron racliation of the
ると,6.5eV付近にピークを持つ反射率スペク
トルはSi単結晶のスペクトルやPhilippが報告し
UVSOR facility.Curve1,from unirradiate(i
ているSioのスペクトル23〉に良く似ているの
part;curve2,from a beam pattem in(iuced
で,SiとOの結合が切れて,SiやSioが析出した
Fig.4Reflectance spectra of a S孟02mirror taken
by an Ar excimer玉aser;curve3,from a
beam pattern in(luce(l by a Kr excimer
と思われる。これらの結合状態の変化を調べる
ことは,損傷機構の解明に非常に重要と考えら
laser.
れる。
ガラスには,特有の4つのピークが極端紫外域
の反射率スペクトルに現れることが報告されて
いる23)。実際我々の測定した石英ガラスの反
射率スペクトルにも,Fig.4の曲線1に示すよ
うに,10.4eVはじめ高エネルギー側に4つの
ピークが見られた。これらのピークに起源につ
3.3光電子スペクトル
結合状態の変化を調べるために,X線光電子
分光法を用いて,レーザー照射した部分と照射
しない部分とを区別して分析した。制限視野X
線光電子分析装置(島津製作所,ESCA400024))
いては,まだ議論の対象となっている部分も残
はこの目的の為に最適の機能を有しており,し
されているが,一応Siとoの結合に起因すると
されている23)。曲線2はArエキシマレーザー
かも精密並進ステージを装着することによっ
て,線上分析あるいは特定のエネルギーを持つ
光電子スペクトル強度に対する二次元像を作成
照射部分の測定値を示しているが,曲線1とは
大きく異なるスペクトルとなっている。表面の
することが出来る。この装置では,励起用X線
C
a
慧
=
3
づ
お
>
ト
ω
z四
ト
z
110
100
110 100
BINDING ENERGY《eV》
110 100
Fig.5 X−ray photoelectron spectra taken from unirradiated part of a SiO2mirror(a)・from a
beam pattem induced by an Ar excimer laser(b),an(i from a beam pattem induced by
aKrexcimerlaser(c)。
一18一
第18巻第6号
(41王)
レーザー研究
(ここではMgKα:1253.8eVを用いた)を試料
表面に一様に照射し,特別に設計した静電レン
ズ系を用いて,試料表面の微少部分から放出さ
れた光電子を効率よく集めることできるように
設計されている。試料表面上での最小分析面積
は直径0.2mmの部分である。Fig.5に,この装
羅饗鵜
置を用いて,未照射部分(a)とArエキシマレー
ザーで照射したビームパターン(b)とKrエキシ
マレーザーで照射したビームパターン(c)の各点
一
におけるXPSスペクトルを示す。いずれのスペ
クトルにおいても,103.4eVに主たるピークが
あり,これはSio2の中のSi−2p準位に相当する。
(a)
図中(b〉のスペクトルには,この主ピークに加
えて,これより4eV低エネルギー側にサブピー
クが見られる。この99eVピークは固体S沖の
Si−2p準位に対応する。この結果から,Arエキ
シマレーザー照射部分にはバルクにSiが析出し
ており,一方Krエキシマレーザー照射部分に
は,結合状態の変化は無かった。同様に,0−
ls準位のスペクトル強度を調べてみると,この
Arエキシマレーザー照射部分では他の部分に
比べて低くなっていた。従って,Arエキシマ
レーザー照射によって,酸素が抜けてバルクSi
が巨視的な領域にわたって析出したことがわか
(b)
る。
次に,Siの析出状況を分析するために,各エ
Fig.6Two−dimensional images of the SiO2mirror
ネルギー値の光電子の2次元分布像を作成し
surface,including two beam pattems in−
た。Fig.6(a/に,slo2のsi−2p準位に対応する
duce(i by the Ar an(i Kr excimer lasers,
103.4eV光電子を用いて作成したものを示す。
taken with Si−2p emission of103.4eV∫rom
SiO2(a)and with Si−2p emission of99eV
図では,明るい方が光電子が多く,暗い部分は
from Si(b).
少ないことを示している。図中の左側の円形の
黒い部分は,信号電子が放出されていないこと
内に一様に存在していることがわかる。一方,
を示しており,Arエキシマレーザー照射のビー
(a)と(b)のいずれにも,図の右側にあるはずで
ムパターンにはSiO2が欠落していることがわか
あるKrエキシマレーザーのビームパターンを
示す像は得られなかった。すなわち,Krエキ
る。同図(b)には,バルクSiのSi−2pに対応する
光電子を用いて測定した2次元像であり,さき
ほどのArエキシマレーザービームパターンの
部分からのみ信号光電子が放出されており,そ
れ以外の部分からは,このエネルギー値をもつ
シマレーザー照射によっては,Arエキシマレー
ザー照射によって生成されたようなSiは析出し
ないことがわかる。
光電子は放出されていないことがわかる。さら
に,Siの析出状況を見ると,ビームパターン
一19一
4、考察
光学素子のレーザー誘起損傷はレーザーの発
(412)
石英ガラスにおける真空紫外レーザー照射損傷
平成2年6月
達とともに広く研究されてきた。損傷を起こす’
ザー照射後の石英ガラスの表面状態を見ると,
機構としては,個々の物質について種々のモデ
ArエキシマレーザーとKrエキシマレーザーの
ルが提唱されているが,その中で物質によらず
基本的なものとして,熱効果と電子効果がある。
場合で大差ない。しかも透過率(Fig.3,曲線1)
熱効果は,吸収係数の大きな金属や吸収領域に
にあり,ここで用いた石英ガラスに関する限り
の測定結果から見ると,146nmでも完全吸収域
ある物質において顕著である。石英ガラスの
では,Krエキシマレーザーに対する吸収係数
126nmにおける吸収係数(1.9×105cm−115)〉か
は,上記の値より大きな値であると予想される。
ら計算した侵入深さは52nmであり,125mJ/cm2
その結果,いずれのレーザーを照射した場合で
のフルエンスのうち表面で反射された残りがこ
も,石英ガラス反射鏡の表面は融点を越えてい
の薄い表面層に吸収されると,表面温度が上昇
るものと考えられ,石英の表面層が一度溶融状
する。石英ガラスの126nmにおける反射率は
14%であり,表面粗さによるわずかな散乱損失
態になったことが結論できる。
一方,電子効果は誘電体における絶縁破壊に
を無視すれば,86%が吸収される。熱の流れと
似た現象で,伝導帯に励起された電子が外部電
してはガス中への熱伝導と輻射および石英ガラ
ス内部への熱伝導が考えられる。主たる熱流は,
界によって加速され,電子なだれが起こる結果,
損傷となるものと考えられている25’26〉。電子
石英ガラス中への熱伝導だけであるので,これ
効果に関しては,もう一つの損傷発生機構が考
だけを考えることにする。ビーム径が5mmであ
るのに比べて,レーザー光の侵入深さは52nm
であるので,表面に平行な方向への熱流は,垂
えられている。すなわち,価電子帯から伝導帯
に直接電子が励起され,励起子を形成すること
直方向へのものに比べて無視できる。さらに,
によってある種の欠陥が作られることが,石英
ガラスなどの物質において見い出されている27
簡単にするために,レーザー出力パルスの半値
∼29)。この場合には,バンドギャップエネルギー
幅に相当する時問幅をもつ矩形パルスが入力し
と光子エネルギーの大小関係が欠陥生成効率と
たと仮定する。このような簡単なモデルに対し
て,熱拡散方程式を解き,125mJ/cm2のフル
密接に関係する。前述したように,ArFやKrF
エキシマレーザーを照射することによって石英
エンスにおける石英ガラス表面の温度上昇を計
ガラス中にE’中心が形成されること,およびこ
算すると,10,000℃となった。これは石英ガラ
の過程には2光子吸収によって起こることが報
スの融点1720℃をはるかに越えており,明らか
告されている12’13)。
に表面は溶融状態にあるものと考えることが出
Arエキシマレーザー照射の場合にだけ,Si
来る。一方,Krエキシマレーザー照射の場合
の遊離が見られたことから,本論文で観測され
には,この波長における石英ガラスの吸収係数
た石英中のSi析出機構としては,単なる熱効果
は,文献15)によれば4.7×103cm−1と極めて小さ
だけではなく,電子効果が働いた結果であると
い値を示すはずである。この値をそのまま用い
考えられる。Arエキシマレーザーのエネルギー
れば,Krエキシマレーザーの場合には,
300mJ/cm2のフルエンスに対する表面温度は
が石英ガラスのバンドギャップエネルギーの
9eVを丁度越えたところにあり,一方Krエキシ
800℃となる。しかしながら,吸収波長域にお
マレーザーのエネルギーはバンドギャップエネ
ける石英ガラスの吸収係数の値は文献によって
大きく異なる30)。これは,石英ガラスの製造
ルギーよりわずかに小さい。すなわち,価電子
帯から直接伝導帯への電子励起,いいかえると
内に多数の電子準位を作り,この密度が製造方
励起子の生成がS卜o結合の切断とそれによる
Si遊離に最も重要な役割を果たしていることを
法や条件によって大きく左右されるとして理解
示唆している。Arエキシマレーザーでは1光
できる。ところで,我々の実験において,レー
子過程によって効率よく価電子帯から伝導帯に
時に入った不純物や構造欠陥がバンドギャップ
一20一
第18巻第6号
レーザー研究
(413)
電子が励起され,その結果Si遊離が起こったも
果バルクSiの析出がみられたことについて述べ
のと考えられる。
た。また,このSiの析出が,励起子の形成に深
レーザー光に含まれる光子数を計算すると,
く関係しているとの考えに達した。石英ガラス
Arエキシマレーザーで125mJ/cm2のフルエン
表面は明らかに溶融状態にあったことも分かっ
スには,7.5×1016個の光子が含まれている。
ており,Si析出が,電子励起が単独で働いた結
石英ガラスの吸収係数から算出したArエキシ
マレーザー光の侵入深さは52nmとなり,この
微小体積中で全レーザー光が吸収されると仮定
果生じたものであるか,または溶融状態の共存
すると,∼1022光子/cm3の高密度となる。Krエ
プロセッシングの立場から見ると,Sio2膜上に
キシマレーザーの場合でも,2.2×1017個の光
Siを光によって生成することが出来,新しい半
導体プロセッシングとして非常に興味深い。ま
子が2.1μmの深さの領域に集中し,∼1021光子
が必要なのかは,ここでは明らかにならなかっ
た。一方,Si析出の現象を,観点を変えて物質
/cm3の高密度となる。いずれの場合でも,電
子励起の量子効率を1と仮定すると,1021∼
た,もし電子励起が効率良く起こることによっ
1022個/cm3の高密度の電子が励起されることに
れば,レーザーやシンクロトロン放射光におけ
なり,結合が弱くなって脱離や欠陥が生じても
良さそうである31)。ところが,Arエキシマレー
る石英ガラスの使用には問題があることになる
ザーの場合にだけSiの遊離が見られていたこと
や太陽電池の光劣化の機構にも関与する可能性
て,ここで述べたような光分解が生じるのであ
し,さらに半導体,特に半導体レーザーの劣化
は,このような高密度の電子励起のみではSiの
があり,さらに詳細な研究を行ってSi析出の機
遊離は生じないと考えるべきであろう。
構を明らかにすることが重要である。
以上の観測結果から,石英ガラス鏡をArエ
キシマレーザー用共振器反射鏡として用いた
時,表面溶融と励起子形成に伴うSi析出が同時
に生じたことがわかる。レーザー共振器鏡とし
ての特性は,反射率を見る限りにおいては,表
面粗さの増加にもかかわらず,損傷を受けた結
参 考 文 献
1)G.C.Escher:SPIE Proc.998 (1988)30.
2)M.Dum,JJ.Nemechek an(i C、T、Tienvieri:Las−
ers and Optronics,April1989,p.59.
3) G.H.Sige1.Jr。l J.Non−Crsyt.Soli(is,i3 (ま973)
果増加していた。しかしながら,酸素原子ない
しは分子の放出はレーザー光の吸収を意昧し,
372.
したがって,共振器反射鏡として石英ガラスを
(1984)481.
用いた時には,共振器損失の増大となる。この
現象は,希ガスエキシマレーザーにおいて一般
的に見られる,パルスショートニング32〉,す
なわち励起が続いているにもかかわらず,レー
ザーパルスは極めて短時間の内に終了してしま
う現象の一因となっているものと思われる。し
かしながら,この現象については本論文の範囲
から離れるので,別に報告する。
4)D.L.Griscom:SPIE Proc.,541 (1985)38.
5)D.L.Griscom:Nucl.Instrum.and Metho(is B1
6)FJ.Feigl,W.B.Fowler and K.L.Yip:Solid State
Commun.14 (1974)225.
7)A。R.Silin an(l L.N.Skula:Phys.Stat.SoL(a)70
(1982)43.
8)M.Stapelbroek,et a1.:J,Non−Cryst.Solids32
(1979)313.
9) EJ.Friebele,et al.:Phys.Rev.Lett.42 (1979)
1346.
10)A.H。Edwards and W.B.Fowler:Phys.Rev。B26
(1981)6649.
11)」.H.Stathis and M.A,Kastner:Phys.Rev.B29
5.おわりに
(1984)7079.
12)T.E.Tsai,D.L.Griscom and EJ.Friebele:Phys.
本論文では,石英ガラスにバンドギャップを
越えたエネルギーを持つArエキシマレーザー
照射によって,S卜o結合が切断され,その結
Rev.Lett.61 (1988) 444.
13)K.Arai,H.lmai,H.Hosono,Y.Abe and H.lmaga−
wa:AppL Phys.Lett.53 (1988)1891.
一21一
(414)
平成2年6月
石英ガラスにおける真空紫外レーザー照射損傷
14) T.H,Distefano and D.E.Eastman l Solid State
Commun。9 (1971)2259.
24)山口道生,後藤宝裕,三田村茂宏,加藤勲,服
部健,清水治二,.梶川鉄夫,長曽哲夫:島津
15) H.R.Phil玉pp:in‘丑α%4わoo彦(ゾ0,あoα1Cos渉α物孟εげ
科学計測ジャーナル,1(1989)62.
So磁s” (ed.byF E.D。Palik,Academic Press,
25)R.Kelly:SurfaceScience,90(1979)280.
Orlan(lo,1985)p.749.
26)」.E.Rothenberg and R.Ke至ly:Nucl.Instrum.
16)佐々木 亘,黒澤 宏:レーザー研究,16
and Methods,B1(1984)291.
27)伊藤憲昭,谷村克己,伊東千尋:固体物理,2盆
(1988)200.
17)W.Sasaki,K.Kurosawa,P.R.Heman,K.Yoshida
(1987)1000.
and Y.Kato :in “Shloア‘ 四α泥」飢8渉h、Co肋兜窺
28)N.Itoh an(i T.Nakayama:Nucl.Instrum.an(i
1∼α4づα瓦o%:Gθπ67α瓦()π α冗4 /1ρ1)瓦oαあ(罵s”,(e(1.by
R.W.Falcone and J.Kirz,Optical Society of
Methods,B13(1986)550.
29) N.ltoh:Nucl.Instrum.and Methods,B27
America,Washington,D.C。,1988)p.184.
(1987)155.
18)T.Efthimiopoulos,B.P.Stoicheff and R.1.Thomp−
30)工藤恵栄:基礎物性図表(共立出版,1972)
s・n:Opt.Lett.14(1989)624.
p.283.
19)瀧川靖雄,黒澤 宏,佐々木亘,藤原閲夫,
吉田国雄,加藤義章:レーザー研究(投稿予
本文献によれば,126nmにおける石英ガラス
の吸収係数α=1.1×106cm4,146nmではα=
2.1×105cm冊1である。我々が用いた石英ガラ
スはどちらの値を持つ石英ガラスであるのか
不明である。本論文では,表面温度と光子密
度の過大評価を避けるため,小さい吸収係数
(文献15)を採用した。
31)
J.A.Van
Vechten:Solid State Commun.39
定).
20)K.Kurosawa,Y.Takigawa,W.Sasaki,M.Okuda,
E.Fujiwara,K.Yoshida and Y.Kato:Rev.Scient.
Instrum.61 (1990)no.2.
21)K.Kurosawa,W.Sasaki,Y.Takigawa,M.O−
ku(la, E.Fu3iwara, K.Yoshid灸and Y.Kato:
IEEEJ.Quantum.Electron.(to be submitted).
22)この研究は分子科学研究所との共同研究とし
て行われたものであり,ご協力下さった極端
(1981)867.
32)
紫外光施設の皆様に感謝致します。
K.Kurosawa, W.Sasaki,E.Fuliwara and
Y.Kato: 1EEE
(1988)1908.
23)H.R.Philipp:」.Phys.Chem Soli(is,32(1971)
1935.
一22一
J. Quantum Electron. 24