「アニマルウェルフェア畜産フォーラム」報告(『北方

〝農と食〟
北の大地から
連載第 138 回
「アニマルウェルフェア畜産」の今(その 6)
──現場に学ぶフォーラムの報告から──
昨年5月に研究会を設立
見学や認証制度の学習会も
1970年代以降、酩農・畜産の
規模拡大が急速に進んだ。その結果、
多くの畜産製品が食卓に上るように
なり、消費生活に物質的な充足を与
えてきた半面、生産性の向上に偏重
した家畜改良や効率優先の飼養管理
価法をまとめるなどの動きがある。
術協会がアニマルウェルフェアの評
策 定 し た り、( 公 益 社 団 法 人 )畜 産 技
も、農林水産省が「飼養管理指針」を
福祉基準の作成作業が進む。国内で
日 本 政 府 も 加 盟 す る O I E( 世 界
動 物 保 健 機 関 )に よ る 国 際 的 な 家 畜
いている実態がある。
員、消費者・動物保護団体の会員ら
の畜産農家や獣医師、研究者、会社
究 会 」だ。 現 在 の メ ン バ ー は、 道 内
し た「 北 海 道・ 農 業 と 動 物 福 祉 の 研
月に発足したのがフォーラムを主催
性を提案していこう──と、昨年5
そんな状況に一石を投じ、家畜福
祉について学ぶなかで、今後の方向
外に伝わっていない。
ルフェア畜産製品を認証・販売する
また、EU(欧州連合)加盟国やア
メリカなどで盛んな、アニマルウェ
してきた。
内にある屠畜場の見学会などを実施
市の「クリーマリー農夢」や、帯広市
乳製品の製造や販売も手がける旭川
研究会はこれまで、ストレスのな
い環境で数頭の乳牛を飼い、牛乳・
担当している。
◀旭川市の「クリーマリー農夢」の見学会では、製
造された牛乳の試飲も(昨年6月7日)
人。わたしは同研究会の事務局を
▲「北海道・農業と動物福祉の研究会」の屠畜場見
学会で、職員たちを囲んでやり取り(昨年 11 月 21
日、帯広市内で)
しかし、家畜福祉の認知度はまだ
まだ低く、国内外の動きは関係者以
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牛や豚、鶏などが生まれてから死を迎えるまでの間、
ストレスのない環境で健康的に飼養する──という
日、「
『現場の今』から家畜福祉の未来を
のがアニマルウェルフェア
(家畜福祉)の基本的な考
え 方。 1 月
3つの報告を中心に紹介する。
か ら 随 時 掲 載 し て き た 家 畜 福 祉 シ リ ー ズ の 第 6 回 は、
やり取りなどを通して今後の方向を探った。一昨年
それぞれの実践をもとに報告を行ない、参加者との
む 酪 農 家、 放 牧 養 豚 を 手 が け る レ ス ト ラ ン 経 営 者 が、
学 講 師 )。 ベ テ ラ ン の 臨 床 獣 医 師 と チ ー ズ 工 房 も 営
と 動 物 福 祉 の 研 究 会 」( 代 表・ 瀬 尾 哲 也 帯 広 畜 産 大
れ た。 主 催 し た の は 昨 年 設 立 さ れ た
「 北 海 道・ 農 業
探 る 」を テ ー マ に し た フ ォ ー ラ ム が 札 幌 市 内 で 開 か
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いま、日本ならではの
〝家畜福祉〟を
獣医師、生産者の貴重な経験に注目
滝川 康治
などによって、畜産動物に苦痛を強
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ルポライター
取り組みなどについて勉強会も続け
やさしい飼い方をする酪農家の乳価
現場からの報告では、十勝で酪農
や チ ー ズ 工 房 を 営 む 半 田 司 さ ん( 大
を高くするよう提案した。
で 生 産 さ れ る 牛 乳 や 肉、 卵 な ど を
樹 町 在 住 )と、 千 頭 規 模 の 放 牧 養 豚
て き た。 将 来 的 に は、 家 畜 福 祉 に
使った製品を独自に認証していくシ
に 取 り 組 ん で い る 平 林 英 明 さ ん( 帯
適った畜産を実践する農場や、そこ
ステムの構築をめざしている。
広市在住)が語った。
人のスタッフで150頭規模の
牧場を切り盛りする半田さんは、
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知ることが今回のフォーラムの主旨。
家畜福祉の考え方を普及するとき
に欠かせない、畜産の現場について
飲水設備、排水処理などの取り組み
パ ド ッ ク( 運 動 場 )で の 放 牧 や 敷 料、
の 欠 点 を 改 善 し て き た 経 緯 を 紹 介。
約
す い 飼 養 形 態 」と 前 置 き し て、 北 海
は家畜福祉の概念を最も受け入れや
診療を続けるベテラン獣医師。「酪農
した経験を持つ、半世紀近く乳牛の
肉を求めるなかで放牧養豚に行き着
などを製造・販売する。こだわりの
仕事のかたわら、手作りソーセージ
年代に米国で放牧養豚を体験し
た平林さんは帰国後、レストランの
農家がいることを紹介。これまでの
正規模を守って健全経営を続ける酪
が増えてきた実態を示す一方で、適
牛の第4胃変位や脂肪肝などの疾病
を率直に語ってくれた。
だという。そうした試行錯誤の日々
良質の食肉の形で応えてくれるから
それでも放牧をやめないのは、自
然な環境でやさしく育てると、豚は
や穀物給与の上限を設けたり、牛に
家畜福祉の考え方に加え、飼養頭数
気などのリスクも背負った。
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次ページ以降に3つの報告の要旨
を掲載したので、ご一読を。
年代以降、大量の輸入穀物を与
え て 高 泌 乳 化 が 進 ん だ。 そ の 結 果、
くが、自然のなかで豚を飼うには病
畜福祉について語った。
を通じた、半田ファームが考える家
人の参加者のなかには、さまざ
年前に自作したフリーストール牛舎
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道酪農の変遷について語った。
基調講演を行なった岡井健さんは、
根室地方で長く農業共済組合に勤務
まな形で畜産に関わる人が目立った。
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「畜産現場の今」から学び
北海道で取り組みを広げる
「『現場の今』から家畜福祉の未来を探る」をテーマにしたフォーラムでは、獣医師と酪農家、レストラン経営者の3人が報告を行ない、参加者との質
疑などを通してアニマルウェルフェア畜産の可能性を考えた。東京や宮城から参加した人もおり、少しずつ関心が広がっている
(1月 31 日、北海道クリスチャンセンターで)
ん。放牧形態を維持していたら、こ
均だと1万キロ超が珍しくありませ
すが、今は8千キロを超え、牛群平
する「第4胃変位」という病気があり、
ストレスを受けやすい。4胃が弛緩
けが人間と同じように消化液を出し、
牛には4つの胃があり、1〜3胃
は食道が変化したものです。4胃だ
のは、圧倒的な量の輸入穀物です。
うした乳量は稼げないのです。
分娩後の高泌乳牛に多く発生します。
年ほど前
「北海道牛乳」と名付けた商品のほと
僕 は 学 生 時 代、 こ の 病 気 に つ い て
乳量は伸びてきました。
んどに放牧風景が描かれていますが、
習ったことがありません。今は4〜
の泌乳量は年間4千キロ/頭程度で
も家畜のために碑を建てる──こう
これは食品偽装なんじゃないか。粗
基調講演 「岡井家畜診療所」
代表 岡井 健さん
した農家は今でも散見されます。
5%が罹っています。
乳牛の疾病から見える
アニマルウェルフェア
穀物の飽食で増える内臓疾患
飼料主体で昔の形態の酪農家は全体
%はいるけれど、頭数が少
僕はこれまでに2千頭以上の乳牛
の腹を切りましたが、衝撃的だった
の5〜
ないので量的には「北海道牛乳」の2
のは分娩直前に消化性の潰瘍で胃に
しかし、多頭化・高泌乳化が進み、
そ う し た 気 持 ち が 薄 く な っ て き た。
〜3%しかないでしょう。閉塞され
穴が開いていたケース。共済組合時
家畜福祉は、西欧の人たちの考え
方が中心になっていますが、仏教国
由化です。乳牛の値段が一気に下が
た空間で飼われる牛が圧倒的に多く、
代の最後にいた診療所では、年間8
年代の牛肉の輸入自
生きとし生けるものと捉え、治療中
り、農家の手取りが減っただけでな
放牧酪農でもさまざまな形で高泌乳
大きな転機は
に牛が死んだりすると一家総出で悲
く、牛を丁寧に扱わなくなりました。
の日本では違っていました。家畜を
しみ、近所の農家が見舞いに集まっ
頭ほどいました。
ン弱を占めます。人の消費量は3分
日本では毎年、約4千万トンの穀
物を消費し、うち輸入分が3千万ト
きい酪農家は苦しんでいます。
円安になり、餌代はむしろ上がり大
がってきましたが、アベノミクスで
界の穀物生産量が伸び取引価格も下
くする働きをしています。去年は世
からず、酪農の規模をどんどん大き
罹っています。体中に貯め込んだ脂
で牛が飽食になり、多くが脂肪肝に
家 畜 福 祉 で は「 動 物 を 飢 餓 か ら 救
い な さ い 」と 言 う け れ ど、 近 代 酪 農
いか、と考えます。
をやりすぎたために起きるのではな
死する牛もいる。こうした病気は餌
し、時には胃潰瘍になったり、突然
す。それを第4胃変位という形で表
牛は、泌乳や飼養管理、飼料、環
境変化によるストレスを受けていま
胃潰瘍の牛が
00 頭 く ら い 開 腹 手 術 を し た う ち、
た。農家は家畜を慈しみ、ねぎらい、
半世紀前に全国に 万戸ほどあっ
た酪農家数は今、3万戸を切ってい
の 1 程 度 で、 残 り は 家 畜 が 食 べ る。
肪を肝臓で処理しきれず、オーバー
大量に購入する輸入穀物の多くは
米国産トウモロコシです。関税がか
を追求しています。
感謝しました。公共牧場には牛魂碑
ます。しかし、飼養頭数は変わらず、
大規模化による高生産を支えている
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を設置し、牛舎を建てたばかりの人
1943 年、東京生まれ。帯広畜産大学卒業。臨床
獣医師として根室管内の農業共済組合に勤務し、
2004 年に退職。岡井家畜診療所を開業して現在
に至る。別海町在住。本誌 14 年1月号に詳細イ
ンタビューを掲載
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“農と食”
フローしてしまうとパンパンに腫れ、
て、本当にかわいそうです。
て作るTMR(混合飼料)
が全然出ていません。配
ものといえます。高能力牛では、こ
た十分すぎる飼料の給与に起因する
第4胃変位などは、穀物を主体にし
起立不能や、脂肪肝などの代謝器病、
乳牛の病気のほとんどは分娩後に
起きます。ミネラル代謝に起因する
ほ ど が 共 済 組 合 の 収 入 に な り ま す。
起き、治療すると1頭あたり8万円
家は5%くらいの牛に第4胃変位が
は儲かりません。一方、大きな酪農
の年間診療代は
万円で、獣医さん
型は5%ほど。僕が行っている農家
マイペース型の人たちは、
く ら い し か 持 ち ま せ ん。
でも、牛は平均2・5産
でやるとたくさん飼える。
&ミルキングパーラー
を与え、フリーストール
合飼料と草を一緒に混ぜ
黄色く変質してしまうのです。
大きいところは事故による淘汰率
が %を超えるけれど、マイペース
れらのすべてが治り難く、長期で高
共済の収入の半分くらいは開腹手術
病院では医者の数によってベッド
数を決めますが、それと同じように
る。生産量は上がらないけれど、経
費が少なくて済み、健全な牛乳を消
頭搾乳くらいを飼
頭数の上限を設けてはどうか。「成人
男子1人あたり
ではないでしょうか。これまでの考
たものをつくるのが本来の家畜福祉
にもやさしく無理がない──そうし
も、草にも、酪農家にも、生きもの
ただ可愛がるんじゃなくて、土壌に
源的なもの。動物だけに一極化して
今年は国際土壌年です。健全な土
壌は食の安全と環境に欠かせない根
も必要だと考えます。
差 を つ け て 酪 農 家 を 支 援 す る 」こ と
また、家畜福祉の評価基準に3〜
5段階のグレードをつくり、「乳価に
決する方向につながります。
世界的な穀物価格を下げ、飢餓を解
る の を 1 ト ン 以 下 に す る 」こ と で す。
2番目は、穀物給与量の上限を設
け、「平均3トン/年くらい与えてい
育の上限にする」を提案したい。
え方だけではいけない、と思います。
家畜福祉へ3つの提言
費者に提供することができます。
り、きちんと応えてくれ
人間や土地にも無理を
しなければ牛は健康にな
います。
(注=搾乳のための施設)
額な治療をしなければなりません。
その何倍もの期間飼って
土・牛・人にやさしい酪農を
によるものでした。
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大 き な フ リ ー ス ト ー ル 牛 舎 で は、
糞尿はきちんと処理され、外には牛
消化性の潰瘍で胃に穴が開いた乳牛の事例
( 土・ 草・ 牛 の 循 環
別海町などで
を基本に適性規模で牛を飼う)「マイ
ペ ー ス 酪 農 」の 集 ま り が 続 い て い ま
す。表は、マイペース型の酪農家8
戸と道東あさひ農協の酪農家
(同型
を 含 む )な ど の 平 均 的 な 数 値 を 比 較
したものです。草地面積はそう変わ
らないのに、経産牛の頭数や年間乳
量、飼料代、肥料代などに大きな差
があることが分かります。
し か し、 実 質 的 な 所 得 は 同 等 か、
たくさん搾っている農家のほうが悪
かったりします。大規模農家は、大
きなフリーストール牛舎
(注=繋留
食べさせ、コンピューターの前で個
体管理…と、朝から晩まで働いてい
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し な い タ イ プ の 牛 舎 )を 造 り、 餌 を
北の大地から
現場報告その1 「半田ファーム」代表 半田 司さん
は 1 ヘ ク タ ー ル ほ ど で、( 牛 舎 側 の )
いことをしていることになります。
その後、できるだけ棟を高くして
牛が寝られるようにしました。餌箱
と通路、寝るところの位置関係を変
え、牛にも人間にとってもいいシス
テムにしています。
「人間の福祉」も必要では
家畜福祉に対し、ヒューマンウェ
ルフェア(人間の福祉)も必要だと思
にもう1〜2カ所(飲水設備を)設置
行けます。妊娠初〜末期の育成牛用
半田ファームの考える
アニマルウェルフェア
快適な牛舎へ試行錯誤
カウンタースロープのほうから自由
います。
わたしの牧場は、全部放牧でやっ
ているわけではありません。パドッ
に動けるようにしています。パドッ
ク
(注=牛舎に付設した運動場)
の状
ます。排水を浄化しており、糞尿の
毎 日、( 冬 場 は )朝 4 時 こ ろ か ら 除
雪をして、5時から5時半に搾乳が
特性を失わないように自然流下方式
す る 予 定 で す。 パ ー ラ ー の 排 水 は、
態に近く、土を踏んで自由に動ける
フリーストール牛舎は 年前に自
分たちですべて手作りしました。当
スカム(浮き滓)が入ると容量が増え
始まり、同時に生乳をチーズ工房に
クのまわりは林です。
といった意味合いのほうが強いもの
時はまだ、この方式を採用するのは
ポンプで送れなくなるので、スコッ
浄化槽できれいにしています。
です。
珍しかったのです。ミルキングパー
送 り ま す。( 生 乳 の 移 送 は )物 理 的 な
(パーラーは)人間が動くところがフ
を採用してきました。午前8時くら
頭搾
ラットになっていて、牛は一段高い
いに生乳の殺菌が終わり、乳酸菌の
〜
ところに入ります。施設を造った当
培 養 を し て、 牛 舎 の 仕 事 も 終 わ る、
(給水などのための)水槽は電気を一
エーを買ってくれます。それを飲ん
地 元 の 豚 屋 さ ん が 取 り に 来 て、 ホ
キロ/日く
らいの乳量で設計しています。
時は、パーラーから牛が落ちる夢を
という流れです。
切使わず、地熱を使って年間凍らな
どなく、人間と牛との距離感が少な
くなっている、と感じます。
だ ブ ー ち ゃ ん が「 ホ エ ー 豚 」と し て、
くわけです。
食肉などに加工し、製品化されてい
いようにしています。コストは少し
せん。今後は方式を変え、牛舎の外
年経っても壊れま
高いけれど、何
〜
牛舎の欠点はたくさんありまし
た。 コ ン ク リ ー ト の 通 路 に は 溝 が
よく見ました。実際には、初産の牛
( チ ー ズ 製 造 の 過 程 で 出 て く る )ホ
乳で、1頭あたり
掘っていないので滑り、「どう乗り越
もいますが、前の牛をちゃんと見て、
エー(乳清)をタンクに戻しておくと、
ラーの能力は、1時間に
由に草架
(注=牧草を置く設備)
まで
え る か 」を め ぐ っ て 議 論 し た も の で
スムーズに入ってきます。
乾乳牛で1ヘクタール、搾乳牛は
3ヘクタールほどの広さがあり、自
プで片付け終わりにします。
ミルキングパーラーは冬の間、で
きるだけ水洗いしないようにしてい
冬の半田ファームのチーズ工房(1階部分)
と直売店(2階)
す。結果的には、トラブルはほとん
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人間側に問題があるわけで、牛に悪
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通路で牛が転んで立てなくなるの
は、前兆がある。それを見ていない
1949 年、大樹町生まれ。酪農学園短期大学を卒
業後、雄武町で人工授精師歴が8年。78 年にU
ターン就農し、酪農業に従事。96 年からチーズ
製造も手がける。大樹町在住
現場報告その2 ㈱エルパソ代表取締役 平林 英明さん
エルパソ牧場の
環境ではないか。だんだんアニマル
ウェルフェアらしくなっています。
高品質の豚肉を追求する
一般の養豚場より2カ月長く飼う
ので、うちの豚は枝肉で130キロ
う や っ て 豚 を 飼 い た い 」と い う 強 い
るため、市場では安い値段でしか売
ます。脂の厚さが3〜4センチにな
と、よそよりも倍近い大きさになり
思いがありました。
えば、豚丹毒という病気が3年前か
は多くのリスクを背負います。たと
てある。その後、放牧します。
トルと、一般の豚よりかなり広くし
飼育面積は0・4〜1・8平方メー
日まで小屋飼いします。1頭あたり
購入し、3段階に分けて生後110
世 界 で は 近 年、 脂 肪 酸 の 含 有 量 に
酸の測定器を導入しました。牛肉の
その良さを証明するため最近、東
京のメーカーから食肉中のオレイン
持ってくれます。
たくさんいて、僕の放牧豚に興味を
や大阪には外国経験のあるシェフが
こうした飼い方で豚の肉質が変わる
も高く売りたいのは正直な話ですが、
ルフェアを認知してもらい、少しで
れる良い例でしょう。アニマルウェ
これは、動物にやさしい飼い方を
することで、豚がちゃんと返してく
はならないのです。
乗るまで育てないと美味しいお肉に
れません。そこで、自分でお客さん
を見つけて販売してきました。東京
放牧養豚
病気などリスクもあるが…
「放牧養豚で健康な豚が育つ」
と皆さ
うちの牧場は繁殖はやっていませ
ん。生後 日の子豚を180頭ずつ
頭になった時期もあります。自然な
密飼いすると豚にストレスがたま
り、尻尾のかじり合いが始まる。う
よってプレミアムを付けた肉をつく
ことが確かならば、多くの人がやり
んは想像されるでしょうが、現実に
状態で飼うことと、どうしたら病気
ちの豚はすべて尻尾がついています
る動きが始まっています。うちの豚
を 抱 え て い ま す。 で も、 僕 に は
「こ
ら発生し、1カ月に廃棄する豚が
を避けられるか──そこにジレンマ
が、移動時期を間違えると尻尾をか
たいと思うのではないか。
生後8カ月で出荷しますが、集荷時
600〜700頭ほど飼っています。
2カ月ほど長く飼育していることで
も普通の配合飼料を使う。違うのは、
僕は、広い牧場に豚を放しただけ
で、特別なことはしていません。餌
─その両方があると、誰にでもアニ
負担が少なく、いいものができる─
動物とともに生きる実感を味わえる。
と い う 作 業 も ほ と ん ど あ り ま せ ん。
という高い数値も出ました。
には一切、電気のムチで追いかけた
す。豚はもともと美味しいものだっ
マルウェルフェアの必要性を説得で
量
りしません。丘の上は見晴らしが良
たにも係わらず、人間の都合で決め
きるのではないでしょうか。
ヘクタールの牧場では、生後7
カ月以前と以後の2グループに分け、
く、豚はとてもリラックスして騒が
た基準で出荷している。本当は脂が
また、放牧をすることで生産者の
負担も少なくなります。汚い、臭い
肉を測ってみると、オレイン酸の含
ホウレンソウを食べるエルパソ牧場の豚たち
じる現象が起きたりします。
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ない。臭いもせず、豚にとって良い
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1945 年、帯広市生まれ。米国で放牧養豚を経験後、
71 年に帯広でレストラン「ランチョ・エルパソ」を
開業。10 年前から放牧養豚を実践する一方、
「どろ
ぶた」のブランドで食肉加工や販売も。帯広市在住
※筆者のHP
「滝川康治の見聞録」takikawa.essay.jp/ に本シリーズの過去記事を収録しています。ご参照ください。