Tohoku Recovery Next-generation Energy Research and Development Project 2014 平成26年度東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト 研究成果報告書 Tohoku Recovery Next-generation Energy Research and Development Project 平成26年度東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト 研究成果報告書 東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト (NET) 東北大学大学院環境科学研究科 〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-20 Tel 022-795-7408 Fax 022-795-7392 E-mail [email protected] URL http://www.kankyo.tohoku.ac.jp/net/index.html 平成26年度 東北復興次世代エネルギー 研究開発 プ ロ ジ ェクト 研究成果報告書 本報告書は、平成26年4月から平成27年3月までの主な成果をまとめたものです。 平成27年度は、これらの成果をさらに発展させ、スピード感を持って震災被災地の復興に寄与したいと考えます。 これからも皆さまの御支援と御鞭撻をお願い申し上げます。 はじめに 文部科学省東北復興次世代エネルギー研究開発プロ 研究代表 東北大学大学院環境科学研究科 教授 田 路 和 幸 ジェクトでは、関係する国公私立大学と被災自治体と がコンソーシアムを組織し、東北復興のためのクリー ンエネルギー研究開発推進事業をスタートして早3年 が経過し、折り返しを迎えている。 一方、被災地に目を向けると広大な空き地が展開し ており、被災者の高台移転もままならない状況をみる と、未だ普及・復興が道半ばのように見受けられる。 このような状況下において本プロジェクトでは、再 生可能エネルギーを中心に復興への貢献と安全・安心 な “ まちづくり ” の一役を担うものとして取り組んで きた。その一つは、海洋再生可能エネルギーを活用して、 被災地である岩手県久慈市での波力発電と宮城県塩釜 市での潮流発電である。26年度の潮流発電においては、 既に新聞等で報道されたように塩釜市の浦戸諸島にあ る寒風沢水道への設置が進んでおり、新年度から試験 発電及び送電が予定されており、社会実装のみならず 協力企業での事業化も予定されており、塩釜市の復興 のシンボルとして、また、漁業振興、観光資源、環境教 育教材としても大きな役割を担うものである。 4 二つ目は、微細藻類のエネルギー利用である。この リズムや環境教育にも期待されている。また、石巻市 課題では、仙台市の南蒲生浄化センターにおいて、下 田代島においては、太陽光発電システムの導入ととも 水を用いて微細藻類を培養し、オイル生産と下水処理 に、電動自転車及び EV を併せて導入し、離島を利用し を並行して行う世界初の画期的な試みであり、LCA を た EMIMS 試験に着手したところである。 モデルにより10ha の培養スペースで70t の藻類炭化水 以上のことから、地域のクリーンエネルギーを活用 素生産が期待されるほか、下水処理コストの低減にも したエネルギー管理システムを東北復興の牽引として、 大いに期待されるところである。なお、既に屋内プラ また、社会基盤として普及・定着させることが重要で ントにより実験を進めており、27年度の屋外実験での あり、そのためには、これまで同様に地域社会との連 成果が期待される。 携・協力により、所期の目的を達成して行く所存である。 三つ目は、再生可能エネルギーを中心としたモビリ また、本年度は文部科学省環境エネルギー科学技術委 ティを含む総合的なエネルギー管理システムの構築で 員会での中間評価結果及び本プロジェクトの事業推進 ある。この課題では被災地の石巻市及び大崎市を中心 委員会の提言等を踏まえ、事業計画の見直しを積極的 に太陽光、バイオマス、地中熱、温泉熱等の地域の自然 に行い、研究開発成果の社会実装及び事業化を通じて、 エネルギーを活用した地域エネルギーマネジメントシ 着実に被災地の復興に貢献するものである。 ステムとモビリティとの融合によるエネルギー・モビ リティ統合マネジメントシステム(EMIMS)の構築を 目指している。特に26年度のバイオマス関連では、既 に報道されているように大崎市鳴子温泉において、温 泉熱を活用した小型高効率メタン発酵システムを開発 し、メタンガスを活用したカフェをオープン、エネツー 5 6 はじめに ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 中核機関 ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 課題1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 三陸沿岸へ導入可能な 波力等の海洋再生可能エネルギーの研究開発 課題2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発 課題3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 再生可能エネルギーを中心とし、 人・車等のモビリティ(移動体)の視点を加えた 都市の総合的なエネルギー管理システムの構築のための研究開発 3-1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 公共施設用 EMS の研究開発 3-2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 ヒューマンインターフェースとしての アクティヴ・サイネージの研究 3-3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 エネルギー & モビリティ統合インターフェースの研究開発 3-4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 エネルギーモビリティマネジメントシステムの研究開発 3-5 (1)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44 EMS 制御バイオマスエネルギーシステムの研究開発 3-5 (2)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49 EMS 制御複合型微細藻バイオマス生産システムの研究開発 3-6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53 EMS 制御地中熱エネルギーシステムの研究開発 3-7 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 EMS 制御温泉熱利用 バイナリー発電エネルギー活用システムの研究開発 7 中核機関 概 要 中核機関では、プロジェクト全体の進捗の把握や執行に関わる公的書類の準備、関連省庁への対応、研究開発に 関わる各種調査といった運営に関する様々な事柄を司ると共に、シンポジウムの開催や次世代エネルギー関連展 示会への出展、広報物の発行やウェブサイトなどでの研究成果の広報活動を通じて、プロジェクトの研究開発状況 を発信しており、計画が被災地域に受け入れられる形で円滑に実施されるよう務めている。平成26年度は、各課題 の進捗を把握し、運営上の問題点について協議する運営委員会を2回開催したことに加え、研究マネジメント体制 の強化を図るため、外部有識者から各課題の研究開発に対する評価と助言を頂く事業推進委員会を2回開催したほか、 新たに総合企画室を設け、プロジェクト運営上の諸課題の迅速解決を図っている。また、プロジェクトの実施内容 を被災地の市民を中心に周知するとともに、再生可能エネルギー関連の研究開発を国内外に発信するため、国際シ ンポジウムを1回、市民向けフォーラムを2回実施し、環境系・産業系展示会に2回出展した。さらに、情報発信のた めに各課題の進捗状況の映像による記録化を進めると共に、ウェブ更新管理、報道情報の収集、予算執行管理を日 常的に行い、プロジェクトの進行を支えている。 担当者 実施内容 東北大学大学院 環境科学研究科 事業の円滑な運営のため、運営体制の強化と各課題 教 授 田路 和幸 (兼務) の参画機関や自治体との協働体制強化に努めると共 特 任 教 授 霜山 忠男 に、課題間の連携に努めている。また、シンポジウムや 准 教 授 木下 睦 フォーラムの開催、記録動画制作配信、パンフレット 助 教 梅木 千真 (兼務) 制作、ウェブサイトの運営、展示会への出展等を通じ、 吉田 友美 事業を国内外に発信すると共に、連携自治体住民の理 室 長 熊谷 功 解と参加を得ることで進めることとし、平成26年度の 助 手 三ケ田 伸也 主な活動は以下のとおりである。 物部 朋子 研究支援者 早川 昌子 1.広報活動 事務補佐員 日下 房子 平成26年度は、 「次世代エネルギーフォーラム in 石 齋藤 智子 巻~石巻の復興に向けて~」 「 東北復興次世代エネル 吉田 和美 ギー研究開発プロジェクト第3回国際シンポジウム」 を開催した。 8 一方、本プロジェクトは東北大学復興アクションの一つ としても位置付けられており、12月4日に開催された東北 大学主催の「東北大学イノベーションフェア2014 Dec.」 において、特別展示をするとともに、プロジェクトの活動 等についてプレゼンテーションを行った。また、3月14日 ~18日に仙台市内で開催予定の「国連防災世界会議」本 会議 (国連加盟国、国際機関、NGO 等から、首脳、閣僚級 を含む政府関係者など約5,000人の参加が想定されて いる) を中心に、宮城県内市町村・東北被災4県において フォーラム、セミナー、展示会等の関連事業が開催される 予定であり、本プロジェクトの成果をパネル展示やデモン Fig.1 次世代エネルギーフォーラム in 石巻 パネルディスカッション の様子 ストレーション等で積極的に発表することとしている。 また、本プロジェクトで実施する研究開発の内容を よりわかりやすく公開するため、自治体、地元企業、市 民等と連携・協力のもと、実証フィールドへの設置を 進めている装置等の状況もついても映像化して、ウェ ブを通じて公開した。 2.運営関係・調査事業 文部科学省環境エネルギー科学技術委員会での中間 Fig.2 次世代エネルギーフォーラム in 石巻 パネル展示の様子 評価結果及び本プロジェクトの事業推進委員会の提言 等を踏まえ、事業計画の見直しを積極的に行った。ま 2)太陽光発電システム等設置披露式 た、新たに設けた総合企画室にて、プロジェクト運営 課題 3-1「公共施設用 EMS の研究開発」 、課題 3-4「エ 上の諸課題の迅速解決を図っている (内容は「3.」参照) 。 ネルギーモビリティマネジメントシステ ムの研究開発」 では、石巻市と連携し、田代島の開発総合センターに太 3. シンポジウム等実施内容 陽光発電設備と蓄電池を設置し、有事の際の非常用電 1)次世代エネルギーフォーラムin 石巻 源を確保できるようにするほか、電気自動車や電気自転 ~石巻の復興に向けて~ 車の利用も進めていくこととしており、田代島開発総合 石巻市において再生可能エネルギーの研究開発に先 センターに太陽光発電システム等の設置が完了したため、 進的に取り組んでいる大学、自治体、民間企業が、震災 石巻市とともに現地見学会及び披露式を開催した。 復興と地域の産業振興に貢献することを目指し、その 研究活動内容や石巻市の構想等について紹介する講演 とパネルディスカッションを行った。また、パネル展 示も行った。 開催日時:平成26年8月8日㈮ 13:00~16:30 開催場所:石巻グランドホテル 2階 天翔の間(A) 主 催:東北復興次世代エネルギー研究開発コン ソーシアム 参 加 者:約150名 Fig.3 披露式 9 4)東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト 第3回国際シンポジウム 開催日時:平成26年11月28日㈮ 13:00~17:00 開催場所:ホテルメトロポリタン仙台 3階 曙 主 催:東北復興次世代エネルギー研究開発コン ソーシアム 参 加 者:計130名 Fig.4見学会 開催日時:平成26年10月11日㈯ 11:00~11:30 開催場所:田代島開発総合センター 大ホール 主 催:東北復興次世代エネルギー研究開発コン ソーシアム、石巻市 参 加 者:約40名 3)おおさき産業フェア2014(ブース出展) 「おおさき」でつくられた製品・技術・商品・特産品を 広く市内外に宣伝紹介し、出展者相互の連携を深め産 業の活性化を図るためのフェア。当プロジェクトが大 崎市の協力のもと、鳴子地区や中山平地区において進 めている温泉熱等を利用した再生可能エネルギーの研 究開発について紹介するために参加。 開催日時:平成26年10月24日㈮ 10:00~16:00、 25日㈯ 10:00~15:00 開催場所:大崎市古川総合体育館 Fig.6、Fig.7 第3回国際シンポジウム 主 催:おおさき産業フェア実行委員会 参 加 者:24日1,200名、25日4,000名 5)東北大学イノベーションフェア2014Dec. 東北大学の最先端研究シーズと社会のニーズの出会 いの場の構築のため地域に密着した産学連携研究・開 発の推進と成果還元による地域貢献・震災復興の実現 を目指すとともに、社会に開かれ、親しみやすい科学・ 技術の交流の場の提供と研究への理解醸成を行う。当 プロジェクトは東北大学復興アクション8プロジェク トの一つ「環境エネルギープロジェクト」として参加し、 来場者に対し活動状況や進捗について報告した。 開催日時:平成26年12月4日㈭ 10:00~17:00 開催場所:仙台国際センター 2階 橘・萩、3階 白橿 Fig.5 おおさき産業フェア2014での展示ブース 10 主 催:東北大学 共 催: (公財) みやぎ産業振興機構 第1回事業推進委員会 後 援:東北経済産業局、宮城県、仙台市、 (独)科 開催日時:平成26年10月17日㈮ 13:00~17:00 学技術振興機構、 (独)産業技術総合研究 開催場所:ホテルメトロポリタン仙台 4階 芙蓉 所、 ( 独 )新 エ ネ ル ギ ー・産業技術総合開 発機構、 ( 一社 )東北経済連合会、 ( 株 )イ 第2回事業推進委員会 ンテリジェント・コスモス研究機構、 (株) 開催日時:平成26年12月3日㈬ 13:30~16:30 七十七銀行、 (株)河北新報社、 (株)東北テ 開催場所:東北大学東京分室 クノアーチ、 (一社) みやぎ工業会 参 加 者:計約500名 総合企画室会議 開催日時:平成26年10月2日㈭ 15:00~ 平成26年11月6日㈭ 15:00~ 平成27年1月16日㈮ 15:00~ 開催場所:東北大青葉山キャンパス 機械・知能系共 同棟 次年度以降への課題 これまでのマネジメント体制に加え、課題間のシナ ジー効果等をより一層高めるため、また、法規制や社 会実装などの諸課題の解決を迅速に処理するため、中 核機関に研究代表、課題代表等による総合企画室を設 け、マネジメント体制の強化を図ることとした。また、 事業の評価・助言を一層強化する観点から、事業推進 委員会の開催を年1回から複数回に強化した。 次年度以降は、本事業のより良い成果・効果を導き 出すため、PDCA サイクルを中心とする研究開発マネ ジメント体制を進める。 Fig.8、Fig9 東北大学イノベーションフェア2014 Dec. さらに、総合企画室及び運営委員会並びに事業推進 委員会において、地域住民のニーズや関係自治体及び 6) その他 協力企業との連携を図りながら、研究開発成果の被災 第5回運営委員会 地での社会実装及び技術移転による事業化・商品化を 開催日時:平成26年7月2日㈬ 13:30~15:30 すすめることとしており、その方策等について迅速に 開催場所:東北大学大学院工学研究科 機械・知能 対応する。 系共同棟 第6回運営委員会 開催日時:平成27年2月27日㈮ 開催場所:東北大学大学院工学研究科 機械・知能 系共同棟 11 課 題 1 三陸沿岸へ導入可能な 波力等の海洋再生可能エネルギーの研究開発 概 要 産学官の協力により、新しい海洋再生可能エネルギー発電システム (波力発電、潮流発電) を開発し、久慈市、塩竈 市の地元企業等により製作し、発電した電力を地元に供給する(地産地消)。これにより、新ビジネスを育成し、東 北復興に貢献することを目的とする。本課題の東北復興への貢献ポイントは以下の通り。 ① 新技術開発によるブレークスルー ② 社会実装 (規制、制度) 上の諸問題のブレークスルー ③ 技術・ノウハウの地元企業への移転 ④ 新ビジネス展開への支援 東北地域では、復旧・復興関係の公共工事費の高騰、人材不足の影響が顕著なため、一層のコスト抑制を図った結 果、潮流発電装置はほぼ計画通りに海域に設置できた。しかし、波力発電装置では計画の一部 (部品製作、海域設置等) を平成27年度以降に延期する等の見直しを行った。具体的には、平成26年度には以下を実施した。 ・波力発電 ベンチ試験装置により試験を実施し、定格出力(43kW)まで発電できること、変換効率70%を達成できることを 確認した。さらに、波力発電装置の効率・信頼性向上のための改良を行い、ベンチ試験を行い、発電制御ロジックの 開発を行った。波力発電用の海洋構造物の詳細設計図を完成させ、現地設置状況 (完成予想図) の3次元 CG を作成し た。これらをもとに、各種の手続きを行った。また、詳細設計図をもとに、海洋構造物の一部 (上部構造物、手すり等) を製作した。 ・潮流発電 潮流発電装置(5kW)を完成させるため、油圧発電装置の様々な部品(油圧ポンプ、油圧タンク、発電機、海洋構造 物用部材、ロータ、鉛直軸、フロート、アクセス桟橋等)を製作し、塩竈市の地元企業に搬送した。大型クレーンを備 えた地元企業の工場内において、搬送された海洋構造物部材を組立て、主要部品を艤装した。経産省の工事計画認 可申請書等の必要な手続きを行い、認可を得た後、潮流発電装置一式を塩竈市・浦戸諸島・寒風沢水道へ作業船にて 運搬し、海域に設置した。東北電力との系統連系申込等の諸手続きを行い、受電・送電(逆潮流)作業等を行った。電 気事業法の定める保安規定の提出、東北電気保安協会との契約(電気主任技術者)等を行い、日本初となる潮流発電 の試験送電を行った。 12 担当者 た結果、潮流発電装置はほぼ計画通りに海域に設置で 東京大学 生産技術研究所 海域設置等)を平成27年度以降に延期する等の見直し 教 授 林 昌奎 を行った。平成26年度は、岩手県、久慈市、宮城県塩竃 特 任 教 授 丸山 康樹 市の協力を得て、以下を実施した。 きた。しかし、波力発電装置では計画の一部 (部品製作、 名 誉 教 授 木下 健 特 任 研 究 員 小林 豪毅、永田 隆一、広部 智之 規制・制度等への対応 シニア協力研究員 高橋 毅、瓦谷ロバート孝一、広瀬 学 ・電気事業法の定める工事計画認可申請書(経産大臣 承認)の申請(潮流発電)。 (寒風沢潮流発電装置で は平成26年9月29日に認可を得る。) 研究計画 ・潮流発電装置については、電気事業法の定める保 5カ年の研究計画(表1)に従い、波力発電装置、潮流 安規定の提出、電気主任技術者の外部委託を実施。 発電装置の開発を進める。波力発電装置については、 ・公有水面利用申請(塩竃市)を実施、認可を得る。 平成27年度の夏期(予算制約から28年度に延期の可能 ・海上保安庁への説明(宮城海上保安部、八戸海上保安部)。 性あり) の静穏時に、久慈市の玉の脇漁港外側に設置し、 ・東北電力との系統接続協議(潮流発電、波力発電) 発電した電力を地元 (玉の脇漁協組合) に試験供給する を実施。 (寒風沢潮流発電では平成27年1月19日に (地産地消)。潮流発電装置については、平成26年度に、 系統接続許可を得る。) 防潮堤等の復旧工事の邪魔にならない工夫を行い、塩 竈市・寒風沢水道に設置し、発電した電力を地元(浦戸 波力発電 東部漁協) に試験供給 (地産地消) する。 ◯波力発電装置の部品の改良、性能評価 ベンチ試験装置により、波力発電装置の性能評価試 平成26年度の実施内容 験を行い、定格出力(43kW)まで発電できること、変換 東北地域では、復旧・復興関係の公共工事費の高騰、 ルギーが小さい場合、畜圧器1本(設定圧10MPa)では、 人材不足の影響が顕著なため、一層のコスト抑制を図っ 油圧変動の平滑化が不十分なことが分かった(図1) 。 H24年度(2012) 効率70%を達成できること等を確認した。入射波エネ H25年度(2013) H26年度 (2014) H27年度 (2015) H28年度 (2016) 波力発電システム実証試験(久慈市) 43kW 発電装置 工場テスト 波浪レーダ設置 水深測量 玉の脇漁港 周辺調査 要素技術開発(43kW) : 陸上ベンチ試験、simulation 等 43kW 構造物 製作 夏期の静穏時 43kW 海域設置 (28年度延期 可能性あり) 電力試験供給 総合性能評価 潮流発電システム実証試験(塩竈市) 流速・深浅測量調査 5kW 1台製作 要素技術開発 (水槽実験、陸上ベンチ試験等) 5kW 海域設置 電力試験供給 11月海域設置 年度内試験送電 総合性能評価 表1 海洋再生可能エネルギー研究開発(波力、潮流)概略スケジュール:コンセプト実証 13 (若干の脈動あり) 図1 畜圧器(1本、設定圧10MPa)によるオイルの平滑化 このため、波力発電装置の効率・信頼性向上のため、蓄 た。これらをもとに、各種の手続き(工事計画認可申請 圧器の増強(低圧、中圧、高圧) 、海水冷却オイルクーラ 書、公用水面利用申請、八戸海上保安部へ事前説明等) への変更、発電機出力超過防止(インバータ設定を見 を進めた。詳細設計図をもとに、海洋構造物の一部(上 直し45kW で解列)等の改良を行った(図2) 。ベンチ試 部海洋構造物、手すり等)を製作した。残りの部品(防 験装置については、パワコン(逆変換装置)からの出力 水キャビン、アクセス桟橋、下部海洋構造物、ラダー等) 電力を系統に送電(逆潮流)せず、加振器用の電力とし の製作・組立は、予算制約から平成27年度に延期した。 て再利用する配線(系統保護のため絶縁遮断器50kVA を追加)を行い、現地に近い条件で、改良した波力発電 潮流発電 装置のベンチ試験を行った。さらに、波高計の不規則 ◯潮流発電装置の部品の改良・調整 波データから波エネルギーを推定し(図3) 、その信号 塩竈市・浦戸諸島・寒風沢水道に設置する潮流発電装 を用いて発電装置を最適制御するロジックを開発した。 置 (5kW)を完成させるため、油圧発電装置の部品 (油圧 ◯波力発電用海洋構造物の製作・部品の艤装 ポンプ、油圧タンク、発電機等) 、陸上サブステーション 波力発電用海洋構造物の詳細設計図(図4)を完成さ せ、設置状況(完成予想図)の3次元 CG(図5)を作成し 取外した空冷式 オイルクーラの 冷却ファン (パワコン、配電盤等を艤装) 一式を塩竈市の地元企業の 工場に搬送した。 海水冷却式 オイルクーラ の採用 増設した畜圧器 (2、5、 10MPa) 図2 油圧発電システムの改良 14 図3 現地波浪データ (不規則波)の処理方法 ◯潮流発電装置の組立・据付・調整 大型クレーンを備えた工場内において、搬送され た海洋構造物部材を組立て、主要部品(油圧ポンプ、 油圧タンク、発電機、鉛直軸、ロータ、航路標識等)を 艤装した(図6)。完成した潮流発電装置一式を大型ク レーンにより作業船上に積出し(図7)、寒風沢水道に 作業船にて運搬した(図8)。発電装置の固定用として 8本の杭を打設し、潮流発電装置(2セット)をクレー ンにて据付け調整した(図9)。アクセス桟橋を発電装 置と既設の物揚げ場(寒風沢水道の旧浮桟橋跡)の間 に据付けた(図10)。 図4 波力発電設備全体配置図 S =1:100 ◯潮流発電装置の送電システムの製作・設置・調整 ◯アクセス桟橋等部品の製作・調整 流発電装置の水路での据付け、陸上サブステーショ 潮流発電装置の部品としてアクセス桟橋等の部品を ンの陸上での据付けが完了した段階で、海上の潮流発 製作し、平成25年度に製作・保管 (東京大学千葉実験所) 電装置から陸上サブステーションまでの配線を行った した部品2セット(海洋構造物用部材、ロータ、鉛直軸、 (図11) 。また、東北電力からの受電・送電ケーブルを陸 フロート等)と合わせて塩竈市の地元企業の工場に搬 上サブステーションへ配線した (図12) 。浦戸東部漁協 送した。東北地域の資材費高騰・人材不足等の影響の に設置した冷凍冷蔵庫は、陸上サブステーション内に ため、2セット(当初計画では3セット)に計画を縮小し 移動仮置きし、配線完了後、電気事業法の定める各種の たが、発電出力は当初計画通り5kW を維持できた(た 試験 (発電機耐圧試験、接地抵抗試験等) 、使用前検査を だし、発電電力量は若干低下する見込み) 。 実施し、日本初となる潮流発電の試験送電を行った。 アクセス桟橋(点検・保守) 航路標識 最大発電量制御用の波高計 図5 波力発電完成予想図(3次元 CG) 15 図6 塩竈市ー東京大学合同記者発表:潮流発電装置を公開 (2014年11月12日、18日) 塩竈市の地元企業(東北ドック鉄工)で組立 東北復興のため、技術・ノウハウの地元企業への技術移転 図8 作業船による寒風沢水道へ輸送 図7 地元企業の工場におけるクレーン積出し 図9 クレーン船による据付け・調整(設置中) 図10 クレーン船による据付け・調整(設置後) 16 東北電力 既設配電柱 200V 動力線(受電、送電) 100V 電灯線(受電) PF保護管 (信号線、温度センサー、 100V単相電力供給線) アクセス桟橋上の配線 電磁波防止チューブ (200V 三相パワーケーブル) 図11 送電ケーブル、信号線等の配線・調整 陸上サブステーション (パワコン、制御装置等) 図12 陸上サブステーションへ受電・送電線の配線 その他 次年度以降への課題 ・課題1の活動報告ウエッブサイトの運営 波力発電装置、潮流発電装置について、5年間の研究 ・波力、潮流発電に関する最新海外情報の収集分析 計画(表1)に基づき、以下を実施する。 ・運営委員会の開催:第1回 (東大駒場キャンパス) :6月16 ・電気事業法の定める工事計画認可申請書(経産大臣 日、第2回:2月26日 (寒風沢予定) ・広報活動:塩竈市・東京大学合同記者発表(第1回目: 11月12日、第2回目:11月18日) 第1回目 (東北ドック鉄工にて) :マスコミ報道 (11社) 承認)の作成(波力発電) ・電気事業法の定める保安規定の提出、電気主任技術 者の外部委託手続き(波力発電) ・東北電力との系統接続協議等(波力発電) 【新聞社】河北新報社、共同通信社、読売新聞社、毎日 新聞社 ■波力発電 【テレビ局】NHK、宮城テレビ(日本テレビ系) 、東北 波力発電装置の部品(防水キャビン等)を製作し、久 放送株式会社 (TBS 系) 、仙台放送 (フジテレビ系) 、東 慈市の工場に運搬し、下部海洋構造物等を製作して部 日本放送 (テレビ朝日系) 品を艤装し、装置を完成させる。海域設置までの期間、 【その他】 アリTV(プロジェクト記録) 、塩竈市役所広報 保管する。また、陸上サブステーション(A、B の2個)を 第2回目( 寒風沢島、地元浦戸第2小 の 生徒17名参 現地に設置し、既設の東北電力配電柱からの配線を行 加) :マスコミ報道 (7社) 【新聞社】 河北新報社、共同通信社、産経新聞社 う。なお、海域設置は、予算制約から平成28年度に延 期の見込み。 【テレビ局】宮城ケーブルテレビ(塩竈の地元局) 、宮 城テレビ、東日本放送 【その他】アリ TV(東北復興カレンダー:2015年1月 13日) http://www.re-tohoku.jp/movie/29587 ■潮流発電 地産地消のための冷凍冷蔵庫を保管する簡易なコン テナを新設し、電力供給システムを完成させ、潮流エネ ルギーで発電した電力を冷凍冷蔵庫に試験供給する。 現地 (寒風沢) にて発電効率等の集中観測を行う。塩竈市 と協力し、防潮堤復旧工事の期間中、工事の障害になる 部品 (アクセス桟橋、陸上サブステーション等) を移設し、 保管する。防潮堤の復旧工事の完成後、部品を元の位置 に戻し、配線等の再設置を行い、電力供給を再開する。 17 課 題 2 微細藻類のエネルギー利用に関する研究開発 概 要 水処理は下水に含まれる固形有機物の除去、有機物の活性汚泥によるCO2への分解、有機窒素やリン酸などの分解、 除去により行われている。微生物群集である活性汚泥は、沈殿濃縮され産業廃棄物として多量の化石燃料を消費し て処理されている。有機物を利用して増殖するAurantiochytrium などのオイル産生従属栄養性藻類と、窒素・リン 酸等の富栄養化因子を利用して増殖するBotryococcus などのオイル産生独立栄養性藻類とを、組み合わせて用い ることにより、新エネルギーを創生する技術を東日本大震災により甚大な影響を受けた仙台市の南蒲生処理施設 において確立する。ラボスケールでの実験により、藻類バイオマス生産に関する基礎的知見と個別基盤技術を開発 するとともに、南蒲生浄化センターにおいてパイロットプラントを建設して、将来的に仙台市の下水処理場で活用 可能な実規模プラント設計の基盤技術を確立する。具体的には、実用化に向けて、以下の研究項目を実施する。 ⑴ ラボスケールでの基礎研究および基盤の整備 ⑵ 屋内ベンチプラントによる藻類バイオマス生産システムの開発に不可欠な要素技術・システムの開発 ⑶ 屋外パイロットプラントの設計・構築・運転 担当者 筑波大学 生命環境系 東北大学大学院 東北大学大学院 工学研究科附属 教 授 渡邉 信 工学研究科 超臨界溶媒工学研究センター 井上 勲 教 授 青木 秀之 教 授 猪股 宏 白岩 善博 冨重 圭一 准教授 佐藤 善之 石田 健一郎 准教授 中川 善直 福島 康裕 鈴木 石根 松下 洋介 助 教 大田 昌樹 准教授 田辺 雄彦 助 教 齋藤 泰洋 研究員 野中 利之 助 教 吉田 昌樹 田村 正純 宇敷 育男 研究教育支援者 小野 巧 出村 幹英 研究員 福田 真也 東北大学大学院 恵良田 真由美 環境科学研究科 甲斐 厚 教 授 スミス リチャード Jr. 渡辺 秀夫 助 教 相田 卓 多田 清志 18 用化の観点からも有意義である。また、連続培養にお 研究計画 H24年度 (2012) ける培地の灌流速度を変化させることにより、炭化水 H25年度 (2013) 培養・抽出・利用の最適化 H26年度 (2014) H27年度 (2015) H28年度 (2016) 高次システム構築に向けての基礎実験 藻類オイル生産利用の 大規模化のための基礎実験 野外施設 の設計 エネルギー効率化の データ取得 素とトリグリセリドの生産比率が変化し、連続培養に おいては炭化水素産生能を最大化するための下水灌流 速度の極大値が存在することが示唆された(図2)。 下水中で良好に増殖し、かつ付加価値として高脂質 生産能を有する株を選抜するため、昨年度までに独自 藻類オイル生産の最適化 のためのデータ取得 に確立した全855株のうちナイルレッド染色により細 LCAモデルの精緻化 生センターにて採取した処理途中の下水(最初沈砂池 胞内に脂質の蓄積が確認された153株について、南蒲 越流水)自体を培地として培養し、増殖特性の確認、藻 実施内容 体からの脂質抽出および TLC・GC により分析した。ま 2-1) ラボスケールでの基礎研究および基盤の整備 らの株は下水中で概ね良好に生育し、半数以上で藻体 2-1-1)藻類生産への処理水の利用性の評価と 乾燥重量が500mg/L を上回ったことから、その栄養塩 安価な補助培養液成分の探索 た、32株について脂肪酸組成の分析が終了した。これ 除去(すなわち水質浄化)能力についてはそれなりに 平 成 25 年 度 か ら 引 き 続 き、下 水 か ら 富 栄 養 化 有効であることが示唆された。総脂質含量は、1.9%~ 因子 と な る 無機窒素 や リ ン 酸 を 除去 し、安定的 に 42.9%で株によってかなり差異がみられた。さらにこ Botryococcus braunii BOT-22を培養できる連続培養を れらの株について TLC 分析を行ったところ、6株にお 行った (図1) 。B. braunii BOT-22は下水で良好に生育す いてスクアレン様炭化水素をもつ可能性が示唆された。 るだけでなく、長期間安定的に継続的な培養できるこ 2-1-2)固形有機成分の可溶化技術の開発、評価 とを示しており、持続可能な藻類バイオマス生産の実 本年度は筑波大学から提供されたB. braunii BOT-22 とAurantiochytrium の脂質抽出残渣に加え、仙台市南 蒲生浄化センターから提供された下水汚泥など、様々 な固形有機成分の可溶化実験を東北大学で行った。脱 水汚泥 (乾燥紛体) の可溶化においては窒素、リン、多糖、 図1 下水(南蒲生浄化センター流入水)および 人工合成培地(AF-6)による連続培養 図1 下水(南蒲生浄化センター流入水)および人工合成培地(AF-6)による連続培養 図2 下水による連続培養の滞留時間と炭化水素産生量の相関 図3 脱水汚泥の可溶化 (A)脱水汚泥の可溶化率の反応時間依存性 (B)熱水処理後の窒素およびリン収率 (C)熱水処理における残渣中の多糖残存率 図2 下水による連続培養の滞留時間と炭化水素産生量の相関 19 A B 図4 下水からのAurantiochytrium 培地調整工程(A) と汚泥可溶化液を用いた培養(B) 図4 下水からのAurantiochytrium培地調整工程(A)と汚泥可溶化液を用いた培養(B) 単糖収率の反応条件依存性に関する検討を行った。 熱 2-1-3)下水処理施設に適した品種改良 水処理による脱水汚泥の可溶化率は27~67%であり、 南蒲生において B. braunii の野外大量培養を実施す 処理温度が高温、反応が長時間ほど増大した(図3A) 。 る場合、培養水温が本藻類の増殖最適温度である25℃ 可溶化液の窒素収率はおおよそ50~65% (図3B) であり、 を夏季には上回り、冬季には下回ることが予想される。 高温において反応時間の増大とともに減少することが 冬季は焼却炉からの排熱水によって水温をコントロー 明らかとなった。リン収率は、5~20%(図3B)であり、 ルすることが可能であるが、夏季の温度上昇を制御す 熱水処理が低温ほど増大する傾向を示した。熱水処理 るにはチラーを培養槽に付置する必要があり、これに 後の残渣における多糖含有率は、処理温度、時間の増大 は相応の運転コストがかかる。夏季にも低コストで安 にともない減少した(図3C) 。これは、脱水汚泥中の多 定したバイオマスを確保するシステムを構築するため、 糖が加水分解し、熱水中に可溶化したことを示してい (ボ 筑波大学において維持しているB. braunii の Race B る。一般に、多糖の加水分解は単糖を生成するが、いず トリオコッセン系炭化水素を産生するグループ)に属 れの熱水処理条件においても単糖収率が1%未満であっ する63株を用いて35℃で増殖する株の高温耐性株選 た。このことから、脱水汚泥に含まれる多糖は、熱水処 抜試験を行った。その結果、この温度下では当プロジェ 理により単糖を生成する一方で、その過分解も進行し クトの指標株である BOT-22の増殖を上回る株(IKU-8 たことが示唆された。以上の検討より、汚泥の熱水処 株)を見出した(図5)。この結果は、本株を BOT-22と共 理を低温 (225℃、15分)で行うことで、汚泥に含まれる 存させる野外大量培養システムを構築することにより、 窒素、リンを可溶化することで水溶液中に回収し、多糖 を残渣中に残すことで各成分の分離・回収が可能であ ると思われた。そこで、上記熱水処理可溶化液 (225℃、 15分) と、同じく汚泥を硫酸加水分解する事によって得 られる酸糖化液を別々に作製して混合し培地とするこ とを試みた (図4) 。その結果、Aurantiochytrium の細胞 濁度(OD660)が26程度にまで到達した(図4B) 。今後は この培地を上記の淡水順化株培養に適用するための検 討と大規模化に向けた研究を行う予定である。本成果 は、汚泥の熱水可溶化と培養システムに関する特許と して申請し、本年度、特許査定をした。 20 図5 各種B. braunii 株の高温条件での増殖 夏季にも低エネルギーでバイオマスを取得できること 2-1-4)藻類オイル等有用成分の特定と を示唆するものである。一方、低温培養(10℃)におい 抽出技術の開発 て増殖するスクリーニングも行ったが、現時点でこの B. braunii の連続培養系を考慮に入れた場合、生細胞 温度で良好な増殖を示す株は見つかっていない。 を連続使用しながら炭化水素を回収可能なプロセスが Aurantiochytrium は汽水域より単離された株で、安 構築できれば有用である。このような目的のもと種々 定的に増殖・物質生産するためには海水の50%程度の 抽出実験を検討した結果、液液抽出実験よりヘプタン: 濃度の NaCl を含む培地で培養する必要がある。そこ 培養液 =2:1[v/v]、抽出時間を5min とした場合に細胞 で我々は、淡水で生育可能な Aurantiochytrium 18W- の増殖に甚大な影響を与えず油分を抽出できること 13株の作出を目指した。長時間かけて塩分濃度を漸 がわかった。次に、連続培養系の培養周期を検討した 次減少させ低塩濃度環境に順化させた結果、海水の ところ、脂質含有率は培養周期5日間で抽出前の約9割 1/6,400の塩濃度においても良好な生育を示す淡水順 まで回復したことからこの間隔を採用した。このミル 化株を得ている。さらにこれを受けて本プロジェクト キング培養法を30日間繰り返した結果を図6A ならび の舞台となる仙台市の南蒲生浄化センターより下水 に図6B に示す。図6A より、各回細胞濃度の到達平均は (二次処理水)を取り寄せ、実際の下水での淡水順化株 1.1g/L とコントロール試料とほぼ同様であったにも関 の生育を試験した。その結果、淡水株は培養で野生型 わらず、炭化水素は多少ばらつきがあったものの図6B よりも最終到達濁度で2.9倍、比増殖速度においては1.5 に示すように各回5wt%程度抽出された。このミルキ 倍優越した。 ング培養法の構築により、B. braunii において合目的的 Aurantiochytrium のスクワレン合成はメバロン酸経 な循環利用の可能性と効率的な炭化水素回収の可能性 路と呼ばれる脂質代謝経路を介して行われる。この経 が示唆された。 路の律速酵素としてヒドロキシメチルグルタリル CoA 2-1-5) オイルおよびオイル抽出残渣の レダクターゼ(HMG-CoA 還元酵素)が知られており、 A 我々はこの酵素活性の発現とスクワレン蓄積量の関係 前年度までにスクアランの水素化分解による低分子 を調べている。その結果、18W-13a 株は、これまで報 化に有効であることを明らかにしていたRu 触媒を用い、 告されている他の生物がもつ活性と比較して約100倍 高い HMG-CoA 還元酵素活性を有し、この高い活性が A B プロジェクトで生産したボトリオコッセンの水素化分 解を行った。Ru/SiO2触媒を用い、約60%のガソリン留 スクワレンの蓄積に寄与している可能性を示唆した。 分収率を得た。得られた生成混合物は、2,3- ジメチル 現在、スクワレンの蓄積は培養時期に依存しているが、 ブタン(RON 104; 収率7.1%)や2,3- ジメチルペンタン 今後は本酵素が常に発現するような変異体を得ること (RON 91; 収率6.1%)といった高オクタン価成分を比 により、安定した生産が可能となると予想された。 B A 有効利用システムの開発 A 細胞濃度 [g/L] 較的多く含んでいた(図7)。低融点ジェット燃料成分 B B 抽出率 含有率 [wt%] 図6 B. braunii の細胞濁度の変化(A)、抽出率、炭化水素含有率の変化(B) 図6 B. brauniiの細胞濁度の変化(A)、抽出率、炭化水素含有率の変化(B) 図6 B. brauniiの細胞濁度の変化(A)、抽出率、炭化水素含有率の変化(B) 21 の合成に適していたスクアランと比較し、良質のガソ しい。そこで本研究では、タンパク質のアミノ酸組成 リンを得る原料としてボトリオコッセンが利用可能に 分析に常用される塩酸加水分解による残渣から有用 なることが示唆された。一方、Ru/C 触媒や、スクアラ 成分・元素回収を試みた。残渣バイオマス(n -hexane ン基質で特に位置選択性が高かった Ru/CeO2触媒では、 に よ る 抽出後 )10g を6N 塩酸200mL で18h 煮沸還流 C=C 二重結合の水素化のみが進行し、水素化分解によ した場合、バイオマスの可溶化率は~35wt%、元素 る低分子化は全く進行しなかった。ボトリオコッセン 収率は炭素ベースで23.6%、窒素ベースで73.4%であ をまず Pd 触媒を用いて C=C 二重結合の水素化をあら り、特に窒素(を含む成分)が高い回収率で分解液に かじめ行っておいてから Ru/CeO2触媒の水素化分解に 可溶化されている事が示された。この可溶化液の分 適用してもやはり反応は進行しなかった。スクアラン 析結果より、残渣の塩酸分解物中の全有機炭素およ に限らず n - ヘキサデカンやヘキサン類でも Ru/CeO2 び全窒素は、大部分がアミノ酸由来であることが示 は活性を示していることから、藻類から抽出したボト された。また、全アミノ酸含有率は40%弱であり、こ リオコッセンは何らかの触媒毒となる物質を含んでい れは Aurantiochytrium の培養に際して窒素源として ると考えられる。Ru/CeO2は Ru/SiO2に比べオクタン価 通常用いるトリプトンや酵母抽出物よりも高い。ま の高い分岐炭化水素を得やすい位置選択性を有するた た、ア ミ ノ 酸組成 の 結果 よ り、残渣 の 塩酸加水分解 め、抽出したボトリオコッセン中の触媒毒物質を適切 物のアミノ酸組成は酵母抽出物のそれと良く類似し に除去できればさらにオクタン価に優れたガソリンを ていることが示された。以上より、B. braunii のオイ 製造できることが期待される。 ル抽出残渣バイオマスの塩酸加水分解により高効率 B. braunii BOT-22のオイル抽出残渣バイオマスは、 でアミノ酸を可溶化・回収可能であり、従属栄養性の 陸生バイオマスや他の藻類バイオマスに比して非常 Aurantiochytrium の培養培地成分(窒素源)として援 に C・H 含有率が高く(その分 O 含有率が低く)固体燃 用できる可能性が示された。 料(石炭)に匹敵する高い発熱量を有しており、熱分解 2-1-6)南蒲生浄化センターにおける やガス化などの化学変換を通じたバイオ燃料生産の 藻類バイオマス研究基盤の整備 原料として有力である。他方、この残渣には、タンパ 平成27年度のシステム設置にむけ、計画を一部前倒 ク質や多糖などの炭水化物が含まれており、これらを しして南蒲生浄化センター内にビニールハウスを設置 過分解することなく回収し有効利用することが望ま し、小型レースウェイ培養槽6台の導入を行った。 Gasoline Jet Diesel 重質分 メシチレン (回収溶媒) 7.1% 6.1% Botryococcene 水素化体 C34H70 n-C28 (Internal standard) 0 30 60 90 Retention time [min] 120 150 Reaction conditions: Wbotryococcene = 1.16 g (2.5 mmol); Wcat. = 100 mg (5 wt% Ru/SiO2); H2 6 MPa; T = 513 K; t = 6 h; 450 rpm. 図7 Ru/SiO2によるボトリオコッセン水素化分解 図7 Ru/SiO2によるボトリオコッセン水素化分解 22 2-2)屋内ベンチプラントによる 要素技術を研究する研究者が、各操作に使用するエネ 藻類バイオマス生産システムの開発に ルギーに意識を払い、いかに削減できるように試みる 不可欠な要素技術・システムの開発 かを意識することが今後必要である。 2-2-1) Aurantiochytrium などの 培養槽内に設置する熱交換器の概念設計を行うた 従属栄養性藻類ベンチプラント培養実験に めに、気象データに基づいて熱交換器の負荷容量を算 不可欠な基盤技術開発 出し、必要となる冷熱および温熱を評価した。さらに、 ラボスケールの大型ジャーファーメンターを用いた 系全体の伝熱量を算出し、チラーの夏季および冬季の Aurantiochytrium の培養システムでは、投入するエネ 負荷容量を算出した。その結果、培養面積約1m2あた ルギー量が回収できるエネルギー量に比べて大きく上 り夏季は320W、冬季は600W の負荷が掛かることを 回ってしまうため、濾過滅菌により滅菌のエネルギー 示した。また、南蒲生浄化センターを想定した名取実 コストを抑制し、撹拌も通気による混合に置き換える 験施設において小型レースウェイにおける温度制御 ための培養槽の形状の検討と試験を行っている。 が可能であるかを調査した。平成26年9月9日快晴時 2-2-2)低温地域におけるBotryococcusなどの に培養液を模した約150L の水道水を入れた小型レー 独立栄養性藻類の スウェイ(面積約1m2)に伝熱面積約0.25m2 の熱交換 屋外大量培養システム構築に向けた検討 器を埋没させ、EYELA 社製チラー(冷凍能力600W)を これまでの培地の供給、培養から抽出、改質までの 用いて気温および日射量の上昇に伴う培養液相の温 各工程 の 要素技術 に 基 づ き、Life Cycle Assessment 度変化を調査した。その結果、設定温度5℃、冷媒相流 (LCA)を行った。特に Aurantiochytrium の培養にかか 量11.0L/min の運転の場合に培養液相の温度が低下傾 る蒸気滅菌、撹拌、制御等に膨大な電力を必要とする 向を示し、夏場の太陽熱による影響を制御可能である こと、B. braunii の培養においても撹拌にかかるエネル ことを示した。 ギーが大きいことがわかった。Aurantiochytrium の培 2-2-3)大量処理に向けた藻類オイル等の抽出および 養については新規な培養システムの構築を目指し、電 有効利用システム構築 力の消費を低減させる見込みであり、B. braunii の培養 藻類の高濃度収穫法の確立を目指して、藻類培養液 に関しては将来的にスペースの拡大により相対的に使 の連続的な脱水処理が可能な膜分離装置として中空 用電力量を抑制できると見込まれている。それぞれの 糸膜モジュールおよびシリコンカーバイド膜を選定し、 A B C D 図8 ビーズミルおよびジェットペースターを用いた場合のオイル抽出率 (A,B) と消費エネルギー (C,D) 。 図8 ビーズミルおよびジェットペースターを用いた場合のオイル抽出率(A,B)と消費エネルギー (C,D)。ビーズミル ビーズミル (A,C) 、ジェットペースター (B,D) (A,C),ジェットペースター(B,D) 23 B. braunii を対象とした実験装置を製作した。膜分離 のろ過性能を評価するための指標として透過流束を 次年度以降への課題 評価しており、その評価法の妥当性を検討している。 B. braunii の連続培養における滞留時間と炭化水素 機械的な抽出分離法の確立を目指して、前年度ま 産生性を検討し最適条件を見出す。並行して高温条 でに高圧ホモジナイザーを用いて微細藻類を破砕し、 件で増殖性の高い IKU-8株の炭化水素産生性の検討、 オイル抽出率を検討した。今年度はこれに加えて破 および重イオンビーム照射を用いた変異体作成に基 砕装置としてビーズミルおよびジェットペースター づく品種改良による低温・高温耐性炭化水素高産生株 を選定し、その評価を行った。それぞれの装置の操作 の探索を行う。新たに単離を進めている株について 条件を変化させ、オイル抽出率を算出した。どちらの 下水での生産性、生産物の特殊性を考慮して有望株 装置も未処理試料と比較してオイル抽出率が10倍以 を選定する。特にスクアレン様の炭化水素を蓄積し 上高いことを示した(図8AB)。前年度および今年度 ている株については同定を行う。Aurantiochytrium の結果から B. braunii の細胞を破砕する手法はオイル については、低塩濃度順化株を活用し、下水有機物を 抽出率を向上させる方法として適していることが示 利用した簡便な培養法を構築する。下水有機物の可 唆された。さらに、電力計によりこれらの装置の電力 溶化において、塩酸以外の酸やアルカリ(固体酸・ア 量を計測し、破砕に必要なエネルギーを算出した(図 ルカリを含む)を用いた残渣の分解処理の最適化を 8CD)。その結果、連続処理するビーズミルのほうが 試みる。 回分処理するジェットペースターよりも消費電力量 B. braunii の ミ ル キ ン グ 培養法 に お け る LCA を 行 が小さいことを示した。 い、エ ネ ル ギ ー 的 に も 最適 な 手法 を 見出 す。ま た、 2-3)屋外パイロットプラントの設計・構築・運転 Aurantiochytrium からの炭化水素抽出条件の最適化 これまで得られている各要素技術にもとづいて、屋 に取り組む。 外パイロットプラントの設計を仙台市南蒲生浄化セ B. braunii から抽出したボトリオコッセンに含まれ ンターの設計にも関わった専門業者に依頼し、詳細な ると推測される触媒毒物質の除去方法の確立が早期に 設計を行った。 望まれる。また、Aurantiochytrium 由来スクアレンの 分解についても実施し、触媒の活性や位置選択性のさ らなる向上にも取り組む必要がある。 熱交換器の概念設計を行うための伝熱計算において いくつかの仮定をおいた計算を実施したため、実際の 場合と異なることが予想される。そこで、実験データ を取得しながら、伝熱計算の確度を高める。 今年度実施した LCA で得られた知見を各研究者がそ れぞれの要素技術において意識し、エネルギーの低減 に繋がる手法技術の検討を試み、全体としてエネルギー 収支がプラスとなる条件を見出すよう努力を続ける。 藻類の高濃度収穫法の検討において、ろ過膜の孔径 および材質がろ過膜の透過流束に及ぼす影響を定量的 に評価し、高濃度に藻類を収穫可能な方法を選定する。 機械的な抽出分離法の検討において、各種装置の消 費電力量を可能な限り揃えて実験を行い、最小の消費 電力量でオイル抽出率が最大となる装置を選定する。 24 課 題 3-1 公共施設用EMSの研究開発 概 要 本課題では H25年度までに非常時も再生可能エネルギーにより電源供給可能な太陽光発電・蓄電システムを石巻 市立鹿妻小学校、仙台市内住宅展示場、鳴子中山平実験サイト、石巻ひがし保育園に設置すると共に、その機能の 一部に焦点を当て、より効率良くより使いやすい電源供給システムの開発を行ってきた。今年度はその太陽光発電・ 蓄電システムの設置場所に石巻市田代島を選んだ。 石巻市田代島は東日本大震災の津波により、送電用海底ケーブルが壊滅的な打撃を受け、離島の住民は不自由な 生活を強いられた。この事例により公共施設に太陽光発電と蓄電池を一括管理する EMS、エネルギーの移動体とし ての EV と電動自転車の導入が必要と考え、これらを統合管理するエネルギー・モビリティ統合マネジメントシステ ムの設計・制作・実証を石巻市田代島で行った。 そしてこの3つの拠点の発電量・蓄電池残量などのエネルギー状況を監視・制御、さらにモビリティの位置情報、 蓄電池残量情報を監視し、拠点情報とモビリティ情報を一括管理し遠隔監視する EMIMS の設計・制作と実証試験 を行った。 また、再生可能エネルギーにより蓄電池に充電された直流電力をノート型パソコンや携帯端末などへ電源供 給する方策として、非接触型二次元電力供給システム用インバータ電源装置を試作し、最低限の照明しか点灯 されない災害時においてもケーブル等の接続が不要な非接触方式による電力供給が行えることの可能性を実証 評価した。 担当者 東北大学大学院 環境科学研究科 教 授 田路 和幸 准教授 馬奈木 俊介 古川 柳蔵 高橋 英志 佐藤 義倫 助 教 梅木 千真 吉田 友美 助 手 三ケ田 伸也 研究計画 平成27年度からは課題3-a「EMIMS の創出」へ統合 H24年度 (2012) H25年度 (2013) H26年度 (2014) 学校向け EMS シス テムの開発とモデ ル校への設置 EMS 制 御 エ ネ ル ギーの複数住宅共 有システムの研究 開発 離島用エネルギー マネジメント太陽 光発電・蓄電システ ムの設置 公共施設用 EMS 制 御太陽光発電・蓄 電システム設置 エネルギーシェアシ ステムの研究開発 非接触認証型直流 コンセントシステ ムの研究開発 H27年度 (2015) H28年度 (2016) モビリティ・エネルギー拠点情報の統合・見える化 非接触型二次元電 力供給システム用イ ンバータ電源の試作 ・モビリティ・エネルギー拠点の情報を統合 ・公 共施設用多目的給電ステーションの 設置 多目的給電ステーションの試作・設置 25 実施内容 実際には非常時に避難場所になり得るのは田代島開発 1.離島用 EMS 制御太陽光発電・蓄電システム 室を石巻市漁業協同組合に貸し出しているため、一定 本課題では H24年度に石巻市立鹿妻小学校、H25年 の負荷が期待出来る。さらに、今年度中には女川原発 度に仙台市内住宅展示場、石巻ひがし保育園、鳴子中 向けの核シェルターを田代島開発総合センター大集会 山平実験サイトに非常時も再生可能エネルギーで電源 室に設置予定との事で、田代島開発総合センターを設 供給可能、かつ平時も蓄電池制御により再生可能エネ 置場所に選択した。 ルギーを有効利用出来る公共施設用太陽光発電・蓄電 屋上に太陽光パネル4kWを設置し、蓄電池 (4.5kWh) 、 システムを設置してきたが、今年度はこのシステムの パワーコンディショナー、切替盤、EMS を2F 倉庫に設 設置場所に石巻市田代島を選んだ。 置した。また、蓄電池からの供給により点灯させるこ 石巻市田代島は東日本大震災の津波により、送電用海 とが可能な LED を屋外の道路沿いに3本、1F ロビー2本、 底ケーブルが壊滅的な打撃を受け、離島の住民は不自 大集会室1本、事務室1本、1F トイレに計3本、2F 倉庫に 由な生活を強いられた。この事例により公共施設に太陽 1本設置した。また、100V コンセントを大集会室と事 光発電と蓄電池を一括管理するEMS、エネルギーの移 務室に設置した。EV 充電用100V コンセントは屋外に1 動体としての EVと電動自転車の導入が必要と考え、これ 点設置した。 らを統合管理するエネルギー・モビリティ統合マネジメ これにより非常時は蓄電池供給による最低限の明る ントシステムの設計・制作・実証を石巻市田代島で行った。 さを確保しながら携帯電話やラジオ、TV 等の通信機器 田代島にはマンガアイランドという公共の宿泊施設 の充電を可能にし、非常時の生活や情報収集等に活用 がある。そこには震災後寄付により大規模な太陽光発 できるものとなった。 電装置と蓄電池が設置されたが、実際には負荷はそこ また、田代島開発総合センター隣にあるプレハブを まで大きくなく、発電量のほとんどが売電されている。 お借りし、電動アシストつき自転車と充電システム、 総合センターであり、市の職員は常駐していないが一 LED 照明を設置した。猫島とも呼ばれる田代島は観光 客が多い。ほとんどは徒歩で散策するが、マンガアイ ランドでも電動アシストつき自転車を貸し出している ため、利用する人は少なくない。しかし、経年劣化によ り蓄電池がすぐなくなってしまうなどの問題があるそ うだ。港にも近い田代島開発総合センターで再生可能 エネルギーにより充電可能な電動アシストつき自転車 田代島開発総合センター Fig.1 田代島マップ 26 Fig.2 田代島開発総合センター Fig.3 プレハブ内非常用コンセント&EV 充電コンセント Fig.4 屋外 LED 照明 の貸し出しがあればぜひ利用したいという声が多く、 見える化が可能となっている。 一般向けへの貸し出しを検討している。 今年度は最終目標であるエネルギー・モビリティ統 田代島には EV の導入も検討している。まずは田代 合マネジメントシステム (EMIMS) の実現に向けて課題 島の住民に EV の利便性や走り心地などを体感して頂 3-4の EV 管理サーバーとの連携を見据えてサーバー構 くためにシステム設置前の住民説明会の中で EV 乗車 成を再構築した。EV 管理サーバーとの連携はタイミン 体験を行い、かなり良い評判を得た。EV 自体は今のと グ的に来年度以降になるが、先駆けて EV 管理サーバー ころ大学の資産であるため、住民や観光客への貸し出 から統合管理サーバーへアップロードするためのイン しは保険や管理方法、管理団体などが決まれば実現す ターフェースを開発した。また、電力管理サーバーと ると考えている。 EV 管理サーバーの役割を切り分けるため、電力管理サー バーと EV 管理サーバーの親サーバーとして統合管理 2.EMS 統合化システム サーバーを設置し、電力管理サーバーとEV 管理サーバー H24年度の石巻市立鹿妻小学校、H25年度の仙台市 からデータを受け取る構成とした。これにより、拠点 内住宅展示場、石巻ひがし保育園、鳴子中山平実験サ 情報を確認するときも、モビリティ情報を確認すると イト、H26年度の石巻市田代島開発総合センターの発 きも統合管理サーバーへアクセスすれば見える化可能 電量、蓄電池残量、消費量等のデータは現在電力管理 ということになる。また、仙台市内の重要なエネルギー サーバーへアップロードされ、管理されている。この 拠点となり得る東北大学大学院環境科学研究科本館の サーバーは Web サーバーとしても機能し、外部からこ DC/ACハイブリッドシステムの情報も統合管理サーバー のサーバーが持つ URL にアクセスすることで各拠点の 経由で見える化可能にした。 Fig.5 サーバー構成 27 3.非接触型二次元電力供給システム用 生活に深く浸透しており、直流化を進めることは容易 でない。そこで、直流送電を用いてロスを最小限に抑 インバータ電源の試作 直流送電は、実行電圧が同じ交流よりも最高電圧が えつつも利便性の高い電源供給システムは不可欠と考 小さく絶縁が容易であり、表皮効果を生じないため導 え、非接触型二次元電力供給システム用インバータ電 体利用率がよく、電力あたりの電流が小さいため電圧 源を試作することとした。 降下・電力損失が小さい等の利点がある。 今回試作したシステムの伝送効率は、Table.1に示 一方、太陽電池、蓄電池等の電力側、PC、テレビ等 す、直流間の伝送効率(伝送効率 A)と、これからイン の負荷側も直流で動作するものが多く、交流に変換 バータ伝送効率を差し引いた高周波と直流間伝送効 する必要は無い。加えて、これらを結びつける直流電 率(伝送効率 B)である。従来システムが30〜50%の 圧変換素子である DC/DC 変換器は高効率で低コスト 変換効率であったことを考えると今回の計測結果は 化しており、直流の使い勝手が向上してきている。に 送電最小エリアで76.2%(伝送効率 B)が得られている もかかわらず配線にはアダプタが氾濫しており、変 ことは大きな改善が出来たことになる。これはコスト 換ロスが無視できない。UPS を用いる場合には AC/ 面などの問題がクリア出来れば十分に実用可能な値 DC 変換、DC/AC 変換が必要になるため、さらに損失 である。 が大きくなる。 このため、交流配線方式に代わって直流電力線方式 4.多目的給電ステーション の必要性が叫ばれている、だが、交流配線方式は社会 これまで石巻市立鹿妻小学校、仙台市内の住宅展 Fig.6 非接触型二次元電力供給システム 測定範囲 直流 入力電圧 [V] 直流 入力電流 [A] 入力 [W] 直流 出力電圧 [V] 直流 出力電流 [A] 出力 [W] 送電最少 エリア 41.8 1.09 45.6 29.1 0.737 21.4 47.0 54.7 全エリア 41.7 1.56 65.5 29.0 0.689 20.0 30.5 35.8 Table.1 受電体の伝送効率計測結果 28 送受間 伝送効率 A 伝送効率 B [%] [%] Fig.7 多目的給電ステーション全体図 示場、石巻ひがし保育園、鳴子中山平実験サイト、田 代島開発総合センターに設置してきた太陽光発電・蓄 次年度以降への課題 電システムは太陽光パネルが4kW 以上という大規模 次年度以降は本プロジェクトのメインテーマであ なものであったが、地域にはもう少し小規模なシス るエネルギー・モビリティ統合マネジメントシステ テムが望ましい場合がある。そういった状況には省 ムの基本システムの完成を目指し、課題3-4で行って スペースであり、また移動が出来るシステムが不可 いる EV 関連の研究開発データサーバと連携し EV と 欠であると考え、多目的給電ステーションを試作す エネルギー拠点の情報を一括管理するデータベース ることとした。 やインターフェース等を確立する。また、最終年度に 本システムは屋根に太陽光パネルを1kW 程度搭載し、 は各地域で生産されるエネルギーの情報も取り込み、 蓄電池は1.2kWh とこれまで設置済のシステムの約1/4 被災地域全体のエネルギー管理システムとして機能 程度の規模となっている。また、系統電力による EV 充 させる。 電コンセントを備え、平時は EV の充電にも使用可能 それに加えて本プロジェクトメインの研究開発拠 となっている。また、平時・非常時には再生可能エネル 点となっている大崎市と石巻市を EV で往復できる ギーと蓄電池により USB 電源への供給が可能となっ よう、EV 中速充電器と非常時に再生可能エネルギー ており、非常時には携帯端末やラジオなどの通信機器 による電源供給が可能な小規模の多目的電源供給ス の充電に使用可能となっている。 テーションを設置してインフラを整備し、震災復興 また、夜間には LED 照明を点灯させ、系統停電によ に貢献する。 り外灯が消灯してしまった場合でもこの多目的給電ス テーションの場所が確認できるようになっている。見 える化ディスプレイも備えており、発電量や蓄電池残 量等が確認できるようになっている。 29 課 題 3-2 ヒューマンインターフェースとしてのアクティヴ・サイネージの研究 概 要 本課題では次年度以降の被災地域におけるエネルギーサイネージの設置にむけたヒューマン・インターフェース の最適なハード・ソフトウェア・デザインについて検証を行い、被災地域においても関心が高まっている再生可能 エネルギーに関する有用情報の表示手法や利用者との各種インターフェースの最適化を主なターゲットとして制作・ 実証を進めている。 エネルギーの「見える化」は多様性・個別性の尊重が進む今後の社会において、新しい都市のエネルギー需給の在 り方の提示と共に、多面的な低炭素型社会と次世代のライフスタイルを牽引するための学習コンテンツとしても 期待される。テクノロジーの効用が上位の技術開発や一部の利用者への限定的な恩恵に留まらず、広く人々の暮ら しに豊かさを与えるための新たな展開・きっかけであることを示すことは、広範な意味での我が国における再生可 能エネルギーの発展的活用に寄与すると考える。 本年度は、次年度以降、被災地域に設置予定の統合型サイネージの制作にむけた検証の最終段階として、リアル タイムのモニタリングデーターの見える化画面のコンテンツ制作の他に、コントローラーや画面展開をソフト・ハー ド両面で利用者視点から検証し、制作を行った。 担当者 東北大学大学院 工学研究科 教授 石田 壽一 助手 藤山 真美子 井上 宗則 研究計画 平成27年度からは課題3-a「EMIMS の創出」へ統合 H24年度 (2012) H25年度 (2013) 統合型サイネージの開発 蓄電池・機器制御ルームによる コアセンター版サイネージ開発 ハード環境整備 H26年度 (2014) チャージ、スポットと のリンクプログラム・ コンテンツ整備 ソフト環境整備 分散型サイネージの開発 東北大学キャンパス内における チャージスポット開発 チャージスポットA整備 H27年度 (2015) H28年度 (2016) 統合型サイネージの 被災地への展開 統合型 サイネージの プロトタイプ化 チャージスポットB整備 先進事例調査と研究情報発信 エネルギーの「見える化」 ・被災地への 実地展開に関するサンプリングリサーチ SWWスマートウィークの展開(研究情報発信および 専門家と被災地住民によるワークショップなど) 30 被災地への 実地展開にあたって の現地リサーチ 実施内容 グで自動的に照明が落ち、同時にサイネージコンテン 実施プロジェクト1 へ誘導するための一連のアクティビティを構成した。ま ○東北大学大学院環境科学研究科蓄電池・ た、昨年度制作したコンテンツに個別の効果音を加え ツが立ち上がるプログラムとし、利用者をサイネージ ることで、よりアンビエント性を高めることができ、利用 機器制御ルーム コントローラーコンテンツ等制作 者のサイネージに対する没入感を強化することができた。 東北大学大学院環境科学研究科研究棟/蓄電池・機 ナレーションの制作では、音声に合わせてシステムの 器制御ルームをフィールドとし、前年度のサイネージ 説明図におけるアイコンにフェードや点滅等の動作を コンテンツの制作整備に引き続き、利用者とのインター 加えるとともに、コントローラーでは英語表記を行うなど、 フェースについて、コントローラー筐体及びコントロー 複数のインターフェースを用いて広範の情報が複雑化 ラーソフトウェアとネットワークの制作・室内人感セン することなく、簡潔に情報の相互のフォローを行う為の サーとの連動・ナレーションおよび音響の制作を行った。 各種インターフェースの特異性を検証することができた。 本設備は、来年度以降、展開を進める被災地域でのサ また、床置の蓄電池制御盤のゾーニングごとの機能 イネージ設置において、複数のエネルギー情報を統合・ 解説にコントローラーの操作によってアクセスすること 発信する統合型サイネージコンテンツを想定した実証 のできるインタラクティブなコンテンツ、サイネージコ として制作を進めてきた。複数のコンテンツを一連の ンテンツをリアルタイムデータとの連動と切り離して、 グラフィックスに取りまとめストーリー性ともたせる 天候や利用状況によって様々に変化する画面の推移を とともに、利用者が恣意的に個別情報へアクセスする際 利用者にデモンストレーションとして理解・体験してもら の視認性・操作の直感性を検証した画面構成及びコント うことを目的として編集したデモコンテンツ、本設備以 ローラーの操作展開を実現し、一定の完成物が出来た。 外に昨年度設置を行ったチャージスポットの位置情報 蓄電池室内に初年度設置を行った人感センサー及 や施設情報を取り入れたサブコンテンツも合わせて制 び照明器具との連動では、プロジェクターの起動時間 作を行い、様々な角度から情報伝達手法の可能性を探 をフォローする為に、利用者が入場し蓄電池室内を一 ることができ、次年度以降の被災地域における統合型 瞥するための照明を立ち上げた後、一定時間タイミン サイネージへの展開に有用な検証を行うことができた。 図1. 蓄電池・機器制御ルームにおけるサイネージ完成写真 31 実施プロジェクト2 ○東北大学大学院工学研究科 チャージスポットサイネージ筐体とコンテンツ制作 本プロジェクトでは、東北大学大学院工学研究科の 屋外空間をフィールドとして、自然エネルギーの利用 を広く一般に無料開放するための屋外チャージスポッ トと屋外型サイネージの一体的な制作・実証を進めて いる。工学研究科では青葉山キャンパスの南側斜面を 用いた太陽光発電を行っており、隣接するホール内に 供給している。同施設で発電した自然エネルギーをベー スに、発電と消費を身近に体験できる本フィールドを ベースとして、リアルタイムデータと連動したサイネー ジ筐体及びコンテンツの整備を行う。 東北大学大学院環境科学研究科研究棟/蓄電池・機 器制御ルームの実証では、アンビエント性の高いインター フェースの在り方を検証するため、プロジェクションマッ ピングによる特注型のディスプレイ形態を用いた。一方 図2. 蓄電池・機器制御ルームにおけるコンテンツ で今年度までの経緯から、次年度以降に展開を進める このことから、蓄電池・機器制御ルームの実証で未 被災地域でのサイネージ設置において、複数のエネル 検証となっている汎用的な液晶ディスプレイを用いた ギー情報を統合・発信するサイネージコンテンツが想定 サイネージ筐体の制作およびサイネージコンテンツを されており、リンク先のローカルサイネージについても 整備することで、次年度以降の実装へのサイネージコ 一般的な画角サイズの液晶ディスプレイへの投影を前 ンテンツ画面の構成及びデザインの汎用性の検証を行 提としたサイネージコンテンツの制作が進んでいる。 うことを目的としている。 図3. 蓄電池・機器制御ルームにおけるコントローラーとチャージスポット 32 図4. 東北大学大学院工学研究科チャージスポットサイネージコンテンツ検討案 また合わせて次年度以降の統合型サイネージコン 一貫して伝えることを目的とする。3.11以降、被災地 テンツの検証として、地図情報への導入部構成や蓄電 においては再生可能エネルギーの有効的な利用に対す 池・機器制御ルームのようなコンテンツサイズがディ る関心が高まっているが、実際に利用を行っている現 スプレイと異なる場合のサブウィンドウの取り扱い、 場でもあっても対外的に見学可能でない場合や、身近 コントローラーを用いない自動での画面展開の可能 な環境に事例となる施設が見つからないなど、再生可 性、周辺照度の高い環境に設置されたディスプレイに 能エネルギー設備を実装した施設のリアルタイムでの 最適なカラースキームなど、利用者の多様な公共空間 エネルギー状況と施設情報を同時に知ることのできる における統合型サイネージを取り扱うことで課題と 機会は少ない。 なるであろう、細かな項目の表現についても検証を進 そのような状況の中、誰でも簡易に立ち寄ることの めている。 できる市役所で、遠方も含めた複数のプロジェクトデー タを得ることの出来る統合型サイネージによる俯瞰的 次年度以降の課題 な情報閲覧機能を最大限化するため、複数プロジェク 本年度までのデモプロジェクトで得られた成果を元 各種情報へのスムーズな導入を実現するため、利用者 に、次年度は石巻市役所に設置予定の統合型サイネー とのインターフェースを詳細に検証し、最適デザイン ジコンテンツについて、複数箇所のサイネージ情報を の制作を進めていく予定である。 トの位置関係やバックグラウンドを直感的に提示し、 どのように効果的に市民に情報提供するかという点を 課題とし、主に画面のデザインを静止画像データの検 討をベースとして提案・制作を行う。 具体的には、画面の展開構成およびトップ画面・サ ブ画面の基本デザインを行い、統一的なカラーやロゴ 等のフレーム明示を通して、複数箇所のサイネージを 33 課 題 3-3 エネルギー&モビリティ統合インターフェースの研究開発 概 要 本研究開発は、地域の多様なニーズに対応できる EMIMS 開発に必要な直流配電技術の基本的な構成要素の技 術確立が目的である。商用電力のみならず、太陽光発電やリチウムイオン電池などの直流電源を入力として、汎 用 AC / DC 電力装置の多様な出力形式に対応できる電力給電装置用の直流配電デバイスを小型で効率よく安全 に使用できる技術の開発が目的である。直流配電でのアーク放電対策を重要課題として取り上げた。本プロジェ クトでは、提案した過渡電流スイッチ回路により種々の配電デバイスのアークフリー化を実現した。しかし提 案回路には同期動作する付加スイッチが必要で、小形化に限界があった。今回、付加スイッチをダイオードと抵 抗で置換する回路を提案し、実験的に動作を確認し特許提案した。デバイスの小型化と設計の単純化を実現し た。新回路により電磁リレー、スイッチ、ヒューズのアークフリー化と小型化できる。それらを組み込んだ E&M 統合インターフェースとして、石巻市の(有)尾張技研が『ユニバーサル モバイルコンセント』を試作した。AC / DC の広範囲な入力に対応し、リチウムイオン2次電池3kW を具備し、出力として DC300V、AC100V、USB、シュ ガーソッケットに対応できる。研究成果は、2014年8月8日に石巻市で開催された『次世代エネルギーフォーラ ム in 石巻』で披露した。 担当者 石巻専修大学 理工学部 教 授 若月 昇 研究計画 平成27年度からは課題3-a「EMIMS の創出」へ統合 H24年度 (2012) H25年度 (2013) H26年度 (2014) H27年度 (2015) H28年度 (2016) 工藤 すばる 准 教 授 佐々木 慶文 水野 純 直流高電圧大電流 の実験環境の整備 無アーク放電配電用スイッチング デバイスの設計試作 非常勤職員 斎藤 孝志 配電デバイスの安全・ 信頼性向上設計と試作 E&M 統合インターフェース機能確認試作 (ユニバーサル モバイルコンセント試作) 34 EMIMS 対応の E&M 統合インターフェース試作 (2) 開閉電気接点の信頼性に関する研究 実施内容 従来、開閉接点 の 電流遮断時 の 現象 は、接触抵抗 エネルギー&モビリティ統合インターフェース(E 増加→接点金属溶融→金属蒸発→アーク放電の過程 & M インターフェース)の研究開発は、EMIMS 開発に と考えられてきた。過渡電流スイッチ回路の適用で、 必要なターミナル装置用の直流配電技術にかかわる。 金属溶融現象とアーク放電現象を分離した測定が実 AC、DC の多様な入力と、使いやすい汎用の出力形態に 現できた。溶融現象は、開閉電気接点の信頼性の向 柔軟に対応でき、小型で安全と信頼性を確保できる直 上に深くかかわる。図2に示す汎用電磁リレーを改造 流配電を実現できる基本的な構成手法の確立が目的で した機構で Ag クロスロッドでの接点開離時の電流 ある。種々の配電デバイスで電流遮断時に発生するアー 電圧特性を精確に測定した結果が図3である。接点 ク放電を抑止のための過渡電流スイッチ回路を基本技 が開離する直前の接点電流と接点間電圧波形は独特 術として、以下のようなデバイスと装置の研究開発を な応答を示す。この複雑な電圧応答解析に、金属の 行った。 溶融エネルギー(僭熱)に対応した溶融電圧 Ulh の概 念を導入して、特異な挙動の物理現象を解析できた。 (1) 直流配電デバイスの安全性と 小型化に関する研究 融点における固相と液相の繰り返しが、電気的特性 に大きな影響を与える。その現象解析の説明を図4に 直流電流遮断時に発生するアーク放電を抑止する手 示す。同一温度(融点)における抵抗率の異なる固相・ 法として、過渡電流スイッチ回路を提案してきた。アー 液相の状態変化が図3に示す特異な電気的で特性を ク放電抑止によって、安全性が確保され、交流用汎用 示すことがわかった。 デバイスの直流大電流高電圧使用などを可能にした。 本年度の電磁リレー試作品は、10万回の開閉実験後 しかし、従来回路では2個のスイッチの動作に時間差 の動作は正常だったが、電極金属の数十μ m の正極の を設定するので、試作メーカから設計・製造の煩雑さ 凹化、陰極の凸化が観察された。次年度は上記の解析 を指摘された。この対策として、図1の新回路を提案し 結果などをふまえ高信頼化の検討を行う。 た。本回路は、付加スイッチの代わりにダイオードと 抵抗によって、電流遮断時の過渡電流を蓄積するコン デンサの放電を対象とするスイッチ自身の次回の通電 動作時に行う。通電電流の開閉に加え、コンデンサの 放電をスイッチ自身が行うので、付加スイッチが不要 となった。なお、回路の電気的絶縁はコンデンサが担う。 平成26年7月に特許出願した。本回路は、電磁リレー、 スイッチ、サーマルスイッチに適用でき、300V / 30A 対 応デバイスでのアークフリー電流遮断を実現した。 図1 新アーク放電抑止用 過渡電流スイッチ回路 図2 電気接点の開離時溶融現象の測定機構 図3 接点開離直前の電流 ( 青 ) 電圧 ( 赤 ) 波形 35 図4 開閉電気接点の溶融現象解析に融点での固相と液相の抵抗率変化を導入した説明図 (3) 装置の安全性に関する研究 多様な入力条件に対応して、多種の出力形式のコン (4) E&Mインターフェースとしての 『ユニバーサル モバイルコンセント』試作 セントを具備するために、多ルートの配電路が必要と 直流配電デバイスとしてアークフリーを実現した なる。それらの安全性を確保するための最も単純なデ DC300V、30A 対応のスイッチ、電磁リレー、ヒューズ バイスはヒューズである。しかし、直流配電では、ヒュー などを組み込んで、ユニバーサル モバイルコンセント ズは溶断時のアーク放電発生や、寿命があるという点 (緊急電源つなぐ君)を試作した。2014年8月8日に石巻 が課題である。まず、過渡電流スイッチ回路を適用して、 市における『次世代エネルギーフォーラム in 石巻』で アークフリー化を行った。亜鉛細線をガラス管に装着 市民に披露した。その時の会場での撮影写真およびパ した定格10A ヒューズは図5のような溶断特性を示し ンフレットの一部 (製作仕様と製品コンセプト) を示す。 た。過電流に対してはアークフリーでの安定な応答を 示し、直流用で簡易なガラス管ヒューズが適用できる。 なお、短絡電流を想定した100A 以上では、数百μ s の 短時間放電後に溶断し安定な電流遮断を実現した。 図5 アークフリーヒューズの溶断電流と溶断時間 36 図6 石巻フォーラムでの試作品展示の様子 ユニバーサル モバイル コンセントの製作仕様 図7 試作したユニバーサル モバイルコンセントの製品コンセプト 次年度以降への課題 る直流の蓄電・配電制御・分配などにユニット化した機 EMIMS を実現するために、各種の再生可能エネル 必要である。これまで研究開発したアークフリー電流 ギーの取り込みが可能で、不足分を商用電力で賄う EV 遮断技術の信頼性と寿命を確認し、装置の安全性を担 ステーションを構成に寄与する技術開発を目指す。関 保する回路プロテクター(ブレーカ機能やヒューズ機 連機能をユニット化して、地域ニーズに対応させて組 能の集積)技術を開発し、試作装置の地域自治体など み合わせたユニバーサル・モバイルコンセント(UMC) での実証実験を行い、地域企業へ技術移転が可能なレ を試作する。EMIMS 開発での EV ステーションにおけ ベルに高めることが課題である。 能で対応できる小形で安全性・信頼性に優れた技術が 37 課 題 3-4 エネルギーモビリティマネジメントシステムの研究開発 概 要 本課題では、エネルギーマネジメントシステムの開発に留まらず、EV などに代表されるモビリティの要素を取り 込み、エネルギーマネジメントシステムが活用される具体的な技術開発を行い、エネルギー・モビリティ統合マネ ジメントシステムの創出に向けて取り組んでいる。小課題「エネルギー・モビリティマネジメントシステムの研究 開発」では、都市圏レベルでの交通状況や電力消費状況を再現する EV 交通シミュレーションの開発、スマートフォ ンアプリの交通行動モニタリング検証を行った。また、システムの実装に際しての事前評価として青葉山フィール ドにて EV、給電ステーションの運用に関する評価実験も行った。小課題「表現・情報提供システムの研究開発」では、 EV 車内に表示する情報のインタフェース開発ならびにシステム実装後のビジョン化のための仮想化都市空間の構 築を行った。小課題「先進モビリティにおける人間行動解析システムの研究開発」では、運転中に災害に際した時 のドライバの運転・挙動をシミュレータにて計測し、避難行動の把握を行った。さらに EV のエネルギー動特性のモ デリングも行い、i-MiEV 車両の実走行データとの比較から、シミュレータで実験する上で十分な精度が得られた。 担当者 東京大学 次世代モビリティ研究センター 教 授 須田 義大 助 教 平沢 隆之 特 任 助 教 WANG Zhipeng 池内 克史 特 任 助 教 鄭 仁成 杉町 敏之 大口 敬 林 世彬 タン ジェフリー トゥ チュアン 准 教 授 中野 公彦 MIN Lu 特任研究員 佐藤 啓宏 大石 岳史 藤原 研人 鎌倉 真音 特任准教授 小野 晋太郎 岡本 泰英 ZHENG Bo HUANG XiangQi 東北大学 未来科学技術共同研究センター 38 教 授 長谷川 史彦 教 授 一ノ倉 理 客員准教授 西澤 真裕 桑原 雅夫 青木 孝文 助 教 原 祐輔 鈴木 高宏 内田 龍男 三谷 卓摩 松木 英敏 小菅 一弘 助 手 片岡 源宗 内山 勝 准 教 授 大野 和則 田所 諭 山邉 茂之 研究計画 平成27年度からは課題3-a「EMIMS の創出」及び課題3-b「モビリティ関連技術開発」へ統合 H24年度(2012) ・移動型計測システム設計 ・フィールド選定 ・移動型計測システム設計 ・フィールド選定 ・エネルギー・モビリティ車両 の動特性計測・解析およびシ ミュレータの策定 H25年度(2013) ・DB の構築 ・TSの開発(EV機能) ・エネルギーモビリティマネジ メントシステム機能の開発(充 電行動分析) ・移動型計測システム設計 ・フィールド計測 ・MRシステム試作 ・エネルギー・モビリティ車両 の動特性を実現可能なシミュ レータの構築 H26年度 (2014) H27年度 (2015) H28年度 (2016) エネルギー・モビリティ 統合システム エネルギー・モビリティ 統合システム エネルギー・モビリティ 統合システム ・統合 DB 構築 ・交通シミュレーション開発 ・青葉山地区での実証実験 表現情報提供システム 研究開発 ・DS 用実時間表示手法開発 ・MR システム構築・MR システ ム試作 人間行動解析システム 研究開発 ・仮想化都市空間の実装 ・DSシナリオ作成 ・人間行動解析 DS 実験 ・EV 交通シミュレーションの拡張 ・交通モニタシステム構築・検証 ・石巻市での統合実証 表現情報提供システム ・EV 車運転システム開発 ・被災地域の4D 仮想化空間の 構築・公開 人間行動解析システム ・人間行動 パターン の EMIMS への組み込み ・被災地域への社会実装 表現情報提供システム ・各システムの改良 ・実運用検討 ・他地域展開検討 人間行動解析システム ・社会実験における効果評価 実施内容 ●エネルギー・モビリティ統合マネジメントシステムの 研究開発 都市圏レベルでの EV 交通シミュレーションの開発 では、将来の EV 普及率および給電 STN の配置を考慮し、 EV 交通シミュレーションを実行(図1)することで、電 力消費量や旅行時間の変動を把握し、シナリオ間の評 価を行うことが可能となった。これにより、仙台・石巻 都市圏を対象範囲、カーナビによる給電アドバイス機 能やピークカットによる電力平準化といったマネジメ ントシナリオを設定した場合のシミュレーション結果 を図2に示す。給電アドバイス機能の利用 (ナビ利用) や、 図1 仙台・石巻都市圏の EV 交通シミュレーション実行画面 ピークカット (電力平準化) といったマネジメントに対 する電力需要量の変動を把握し、その効果について評 価可能なシステムを構築することができた。 スマートフォンアプリの交通モニタリング検証では、 Flowsアプリ (図3)を利用した交通行動モニタリング検 証を実施した。Flowsアプリは、スマートフォンの GPS 機 能を用いることで交通情報を収集することが可能であ り、その検証は、青葉山および仙台都市圏で移動する50 名を対象に、6か月にわたりおこなった。スマートフォン 図2 充電ステーションでのシナリオ別時間帯別電力量 アプリを利用した位置データの収集状況を図4に示す。 さらに、実装に向けた実証実験では、仙台市青葉山 Flowsアプリにより被験者に負担なく、長期にわたるEV モデル地区(東北大学青葉山キャンパス内及びその周 に関する情報収集が可能であること示すことができた。 辺道路) における EV 実証試験において、充電ステーショ 39 図4 スマートフォンアプリを利用した 位置データの収集状況 図3 スマートフォンによる車両位置情報の収集例 ン側からの充電制御の実証試験を行った。実証試験は、 行った。連絡船による積載輸送や起伏が強い狭幅道 充電にあたってステーションと EV との間の物理的な 路が多い島内の移動手段として、小型 EV の有用性を 接続を必要としないことから充電開始・終了時期や充 現地にて検証した。また次年度の連携統合実証とプロ 電継続時間をステーション側から任意に制御できる利 ジェクト後も持続可能なモデル構築に向けて、島内に 点がある非接触充電ステーションを使用して行った。 おける小型 EV の実運用に向けた体制づくりの協議を 送電装置にあたる非接触充電ステーションを東北大学 行なった。 青葉山キャンパス内の屋外駐車場に設置し、小型 EV に 被災地域に広く普及展開可能なモデル構築のため、 は受電装置を取り付け、ステーション側に充電開始・ これまでの研究開発や実証実験の成果、および国内外 終了ならびに充電継続時間を設定できるようにし、充 各地域での先行事例等を踏まえ、EV 活用を含めた地域 電を含めた EV 走行試験を行った。 型交通システムにおける持続可能なビジネスモデルを 被災地域での本格的実証試験に向けた小規模実証 検討し、プロジェクト後も地域主体で持続性を有しうる 試験として、石巻市田代島内で小型 EV の試験走行を 体制づくりを含めたモデル整備とその展開を進めている。 図5 非接触充電ステーション (左)送電装置 (右)充電時の様子 図6 充電継続時間の設定パネル (左)充電率 (右)送電時間 40 図7 石巻市田代島による EV 試験走行 ●表現・情報提供システムの研究開発 およびデジタルサイネージ向けの表示においては、同 被災地の実空間の計測データを実時間表示する手 一の仕組みで平時向け・非常時向けどちらのコンテン 法の開発では、前年度までに開発した車載型三次元計 ツも提供できるよう、システムのアップグレードを行っ 測システムを改良するとともに、得られた被災地の計 た。表示プログラムに商用システムである Unity を導 測データを実時間表示する手法を開発した。精細な三 入し、ネットワーク通信や画像処理モジュールを組み 次元データについては、クラウドサーバによる描画シ 込んだシステムを開発した。これにより、ネットワーク ステムを開発した。多重解像度構造に変換したデータ を介したデータ取得などの独自機能を実現しつつ、広 をサーバ上に保持し、ユーザの操作に応じてクライア 範な形式のデータの読み込みや映像効果の実装、デバ ントから閲覧リクエストを送ると、必要最小限のデー イスごとの実行プログラムの最適化を低コストで行う タが送信され、それらを再構成することにより、低ネッ ことが可能となった。計測により取得した3次元建造物 トワーク負荷・リアルタイムに表示を行う仕組みであ データ、市街地の全方位映像、可視化された各種交通 る。これらは後述の MR システムにおけるコンテンツ データなどをシームレスに切り替えを実現している。 への活用が考えられる。また、連続的な二次元映像に エネルギー・モビリティ統合マネジメントシステム ついては、ドライビングシミュレータ(DS)の運転映 における情報提供については、平時においてはエネル 像として活用するため、データ計測時および DS 自車 ギー・交通情報や地域活性化のための情報が、非常時 の位置・姿勢情報に応じて適切な方向の見えを提示す においては想定される被害状況や避難情報などが提供 る仕組みを構築した。課題3-4-3と連携し、この仕組み され、課題3-4内の各課題で開発が進められている。そ を東京大学生産技術研究所および東北大学多賀城拠 のシステムの公開デモンストレーションの一環として、 点の DS に実装し、石巻市などのシナリオを稼働でき MR(複合現実感)技術を用いた可視化表示システムを る環境を構築した。 用いて、過去の災害状況や沿道状況を電気自動車の乗 表示システムにおける平時・非常時の切替機能の実 車中に提示するデモンストレーションを行い、動作検 現では、MR ( 複合現実感)による可視化表示システム、 証や実運用への課題を整理した。 図8 石巻市田代島の 三次元計測データの例 図9 クラウド型表示システム 図10 平時・非常時など様々な コンテンツをサポートする表示システム 41 ●先進モビリティにおける人間行動解析システムの 災害時では、倒壊や停電などの影響により信号が滅 研究開発 灯する可能性が高い。そこで、安全かつ効果的な避難 本研究開発では、ドライビングシミュレータ(DS)を 誘導の実現のために、ヘッドアップディスプレイ (以下: 用いて平時だけでなく災害時を含めた人間行動の解析 HUD)を表示装置とした新たな車内信号モードを提案 を行うとともに、適切な避難誘導や情報提示の方法の するとともに、DS 上での実現を行った。また、石巻市 評価や本システムの人への受容性など必要となる要素 石巻駅付近の実在する道路を対象として DS による被 について評価、解析を実施している。まず、DS を用い 験者実験を実施し、HUD による車内信号表示の有効性 たヒューマンファクタの解析のために必要となる EV について評価を行った。車内信号は運転への支障は見 のエネルギー動特性のモデリングを行った。EV 車両モ られないことと地上信号機滅灯時に有効であることが デル作成のために正確な初期 SOC を計測可能である 確認できた。 ことと、計測期間が短いために電池の劣化などは考慮 災害時の避難方法の検討として、東日本大震災時に が難しいため、クーロンカウント法を用いて EV のエネ 車で避難された方に協力いただき、石巻市を対象とし ルギー動特性のモデリングを行った。また、i-MiEV 車 て DS の被験者実験を行った。DS 実験では、東日本大 両の実走行データとの比較から DS で実験する上で十 震災で実際に行われた避難の1つとして対向車線走行 分な精度が得られていることが確認できた。 による避難方法の有効性の確認と避難をドライバに 図11 EV のエネルギー動特性のモデリング 図12 HUD を利用した車内信号 42 行ってもらうための情報提示による行動への影響、な 向けてモビリティマネジメントシステムの展開を図る。 らびに平時から地震による災害時に変化する際のドラ また、モビリティマネジメントシステムと EMS( エ イバ行動の計測を行った。その結果、3つの実験パター ネルギーマネジメントシステム)との連携統合のため、 ンから有効性を示した。何も情報提示なし、または他 石巻市田代島における小型電動モビリティの実運用下 車両である先行者が対向車線を走行するだけでは、対 での連携統合実証実験を行なうとともに、他地域への 向車線を走行していち早く逃げるという発想を誘発さ 展開を考慮したモデル化を含め、プロジェクト後も持 せることが震災を経験している方でも難しく、車内信 続可能な体制の整備を進める。 号機など情報提示をすることで対向車線を走行して避 表現・情報提供システムの研究開発では、表現・情報 難が行えることが分かり、情報提示により車による避 提供システムの実運用を想定して対象フィールドを調 難誘導が行えることが明らかになった。 整し、被災地域の広域四次元仮想化空間を生成する。 また、エネルギー・モビリティ統合マネジメントを構 成する他の課題との連携動作に必要なユーザインタ フェースを開発する。MR 表示システムの評価を行い、 将来的、システムを運用する際の課題を抽出し、運用 方法を検討する。 先進モビリティにおける人間行動解析システムの 研究開発では、EV のエネルギー動特性のモデルの高 度化を行うとともに DS への組み込みを行い、平時に おける EV を運転するドライバに対するヒューマンファ クタの解析を行うことが課題である。また、災害時の 図13 実験シナリオ(石巻市) 避難誘導およびドライバ・アウェアネスを考慮した HMI についても本年度で得られた知見をもとに高度 化を行う。 次年度以降への課題 エネルギー・モビリティマネジメントシステムの研 究開発においては、EV 交通シミュレーションの開発は、 改良の最終段階として、対象エリアの拡大(大崎市)や マネジメントに影響を与える要素をさらに組み込んだ 上で、EV 交通シミュレーションの精緻化を行い、平時 の省エネルギー化への貢献を定量的に明らかにするた めの施策シミュレーションを実施する。 交通モニタリングのためのスマートフォンアプリの 開発においては、広く地域への普及展開を可能とする ために、ユーザの能動的な協力による移動情報のモニ タリングが可能となるようにアプリの改修を行い、青 葉山地区で検証を行い、リアルタイムに活用可能な交 通解析システムの構築を進める。それとともに、石巻市・ 大崎市のエリアへそれらアプリを適用し、最終年度に 43 課 題 3-5(1) EMS制御バイオマスエネルギーシステムの研究開発 概 要 東日本大震災による被害は未だ甚大で、津波被害の大きかった沿岸地域のみならず、内陸部に対しても復興支 援が必要である。宮城県大崎市は豊富なバイオマスや有名な鳴子温泉など、再生可能エネルギーが豊富に存在す る地域であり、災害時に備えて地域自立型のエネルギー安定供給システムが強く求められている。本課題では内 陸部における地域に密着した高効率的バイオマスエネルギーの産出を目指し、EMS 制御ハイブリッドメタン発酵 システムおよび、温泉熱を利用した小型・高効率のメタン発酵システムの開発を目指す。 まず EMS 制御ハイブリッドメタン発酵の開発では、牛ルーメン液の持つセルロース分解能に着目し、これまで 未利用であった草本木質系バイオマスからのエネルギー生産とその効率化を目指す。また鳴子温泉の温泉熱活用 メタン発酵システムの開発では温泉地を活用したエネルギー生産と省エネルギー化を目指し、温泉熱を利用した 小規模メタン発酵槽を用いて、旅館からでる生ゴミをエネルギー化することで、観光客・地域住民参加型エネルギー 生産による地域経済の活性化を目指す。 担当者 東北大学大学院 農学研究科 東北大学大学院 環境科学研究科 秋田県立大学 生物資源科学部 教 授 中井 裕 准 教 授 李 玉友 教 授 稲元 民夫 准 教 授 多田 千佳 岩手大学 農学部 志村 洋一郎 助 教 福田 康弘 教 授 佐野 宏明 研究支援者 鈴木 崇司 佐藤 繁 研究計画 平成27年度からは課題3-c「EMSと地域エネルギー関連技術開発」へ統合 H24年度(2012) H26年度 (2014) H27年度 (2015) H28年度 (2016) EMS ハイブリッドメタン発酵システムの草本系 バイオマス分解特性の把握と最適化 EMS ハイブリッドメタン 発酵システムの実証試験 EMS ハイブリッドメタン発酵システム内の 微生物叢解析と機能性植物の検討による最適化 実証プラント内の微生物叢解析と 機能性植物の実証試験 温泉熱メタン発酵の 温度特性の解明 44 H25年度(2013) 温泉メタン発酵システムの 作成と立ち上げ 温泉メタン発酵システムの実証試験と高効率化 実施内容 たうち4種で約90%を占めた(図2) 。セルロースを内側 EMS 制御ハイブリッドメタン発酵システムの開発 されたうち2種で全体の約90%を占めた(図3)。 植物バイオマスの発酵利用には、主成分であるセル バイオガス生産に役立つ細菌叢を明らかにすること ロースおよびヘミセルロースの加水分解が重要である。 を目的として、木質バイオマス利用の観点から樹皮等 昨年度までに、われわれはルーメン処理6時間目に、セ の木質を食するエゾシカのルーメン細菌叢の網羅的解 ルラーゼおよびヘミセルラーゼ活性が高まることを見い 析を行った。 だした。6時間目の微生物群集構造を明らかにするため、 ウシルーメン液で確立した DNA 抽出方法(IV 法、MIV 16SrRNA 遺伝子の V3-V4領域(460bp)を標的とし、次世 法)は、エゾシカルーメン液ではそのままでは適用でき 代シーケンサー Miseq を使用してメタゲノムシーケンス ない事が判明したため、DNA 抽出方法の再検討を行っ 解析を行った。各サンプルから50〜100万リードが得ら た結果、ルーメン液の懸濁・洗浄に使う緩衝液濃度を変 れ、群集構造解析に十分な情報が得られた。これらの 更する事によりIV 法で適用できることが分かった。これ 配列を、イルミナ社のパイプライン BaseSpace を使用し により獲得した菌体を用いて IV 法を含む抽出対象や溶 て、RDP classiferアルゴリズムに従い、GreenGenes デー 菌方法の異なる7方法で DNA を抽出後、細菌とメタン タベースを参照して同定を行った。まず、門レベルの比 菌の16Sリボソーム RNA 遺伝子を用いた変性剤濃度勾 較をしたところ、ルーメン処理0時間目と6時間目では最 配ゲル電気泳動(PCR-DGGE)により細菌叢解析を行っ 優占門は異なることが判明した(図1) 。ウシルーメン内 た。細菌のバンドパターンは類似していたがバンド濃 (in vivo )では、植物細胞壁分解産物(有機酸)は胃壁か 淡の異なるものがあり、抽出法による違いが明確になっ ら吸収されるため、恒常性が保たれる。一方、本研究(in た(図4) 。メタン菌の場合にはバンドパターン及びバン は、有機酸が蓄積し続けるため pH が低下するなど、 vitro ) ド強度ともほぼ同じであった。 in vivo とは環境が大きく異なった。このため、in vitro 詳細な細菌叢解析における機器変更の必要性から、 独自の微生物群集構造を有していることが考えられた。 新たな機器(MiSeq、イルミナ社)にてルーメン細菌叢 つぎに、植物バイオマスの分解過程を担う微生物を の網羅的解析を行った。門レベルの解析において、キッ 酵素活性ごとに分類した。ルーメン処理0時間目と比 ト使用の場合には Bacteroidetes が多く検出され、IV 法 較して、6時間目において菌叢は特定の種に偏る傾向 では Proteobacteria が多く見られた(図5)。いずれの がみられた。すなわち、ヘミセルロース (主成分キシラン) 方法においてもウシでは3.5%程度そしてエゾシカで を分解するキシラナーゼ生産微生物は、10種検出され は0.07%程度メタン菌の配列が検出された。ウシルー 図1 ルーメン処理の0時間目と6時間目における門レベルの推移 から切断するエンドセルラーゼ生産微生物は6種検出 図2 ルーメン処理の0時間目と6時間目における キシラナーゼ生産細菌の推移 45 メン液では約55%が、抽出方法により若干の差は見ら 平成26年度に導入したメタン分析器(VA-3000A、堀 れたもののエゾシカルーメン液では65〜75%が未分 場製) の性能調査と給与飼料の影響を明らかにするため、 類の配列であり、遺伝子増幅、配列解析、宿主やエサ由 ヒツジ6頭を用い開放型ガス交換法により延べ28日間(う 来の配列、そしてデータベース検索などの条件を再確 ち14日間連続的測定) メタン放出量を測定した。運転の 認している。今後、このようなバイアスを加味して抽 間、メタン分析器は順調に作動したが、吸気口の直径が 出方法を選択する必要のあることが確認された。 小さく、吸気のため機器に負荷が掛かるため、吸気口に エゾシカルーメン液を利用したメタン生産および菌 接続するホースの直径を大きくするなどの改善を行った。 株のスクリーニング方法の検討を行った。 給与飼料の影響を観察するために、ヒツジ6頭を用いて、 ヒツジにおけるメタン放出量に及ぼす給与飼料の影 解析を行った。乾草のみを給与するR100%区、濃厚飼料 響の検討を行った。 と粗飼料を6:4で給与するC60%区を設定した。実験は1 期21日間のクロスオーバー法により実施し、飼料給与量 は維持量とした。実験21日目にルーメン発酵性状 (pHア ンモニア、揮発性脂肪酸 (VFA) ) を測定した。メタン放出 量の測定は開放型ガス交換法を用い、動物の頭部を覆 うアクリル製フード (700x350x50mm) を用い、2日間にわ たり連続的 (1秒毎)に測定した。ポンプを用いてルーメ ン内ガスを含むフードからの呼気を吸引し (50L/min)、 呼気中メタン濃度はメタン分析器を用いて測定した。 ルーメン発酵性状を表1に示した。ルーメン pH は R100%区よりもC60%区が低かったが (P <0.001) 、アン 図3 ルーメン処理の0時間目と6時間目における セルラーゼ生産細菌の推移 モニア、VFA 濃度は飼料間に差はなかった。メタン放出 量は、ヒツジ1頭あたり24時間で約30ℓであり、飼料間 に差はなかった(表2) 。従来、反芻家畜のメタン放出量 は給与飼料によって影響され、粗飼料多給時は濃厚飼 料多給時よりも多いことが報告されている。ルーメン発 酵性状は従来の報告と同様であったが、メタン放出量の 結果は異なり、相違の原因を解明する必要がある。 図4 DNA 抽出方法の再検討 表1 体重およびルーメン発酵性状に及ぼす給与飼料の影響 飼料区 粗飼料区 濃厚飼料多給区 SEM P-value 体重 55.5 52.7 2.2 <0.001 pH 6.9 6.4 0.04 <0.001 アンモニア(mg/dl) 26.6 27.8 0.05 0.08 VFA(mmol/l) 76.7 77.8 2.3 0.65 ルーメン 表2 メタン放出量に及ぼす給与飼料の影響 飼料区 図5 DNA 抽出における抽出方法の影響 (門レベルでの菌叢比較) 46 粗飼料区 濃厚飼料多給区 SEM P-value メタン放出量(l/ 日) 32.3 34.4 1.4 0.21 濃厚飼料多給牛におけるルーメン微生物叢の解析を メタン発酵の効率効率化のためには、供試するルー 行った。前年度に引き続き、ホルスタイン種去勢育成 メン液に含まれる微生物が、高いセルラーゼおよびヘ 牛4頭を供試し、濃厚飼料を多給 (粗濃比2:8)あるいは ミセルラーゼ活性を有することが重要であることが、 乾草を多給する飼養試験を1週間隔で2回反復実施し これらの研究で示されている。今後は、高い活性を得 てルーメン液 pH を連続測定するとともに、各7日目に ることを目的として、供試動物種および給与する飼料 ルーメン液を採取し、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法 成分の検討を進める。 (DGGE 法) により細菌叢構成を解析した。その結果、細 一方、現地においてメタン発酵プラントの一部機器 菌叢構成は濃厚飼料多給時と乾草給与時で大きく、ま の設置を行った。また、周辺農家の調査を行った結果、 た、1回目と2回目でわずかに異なり、濃厚飼料多給時に 牛舎の敷料にワラを使っていることが多いことが明ら はルーメン液の細菌叢が単純化する傾向が認められた。 かとなった。ワラをそのまま投入すると、攪拌機やポ 牛個体ごとの系統樹解析では各飼料給与時とも類似し ンプなどに悪影響が予想されたため、牛ふん搬入予定 ていたが、2回目には1回目に比べてわずかに異なる傾 農家に対しては、敷料をオガ粉に変更することを打診 向を示した。なお、ルーメン液 pH の1日平均値と1時間 し、変更が可能であるとの返答を得た。また、メタン発 平均値(日内変動)の推移は、いずれも濃厚飼料多給時 酵槽への投入時には、加水を行うことなど、具体的な に乾草多給時に比べて低値で推移する傾向が認められ 発酵原料の調製法の検討を行った。 た。これらのことから、ルーメン液の細菌叢構成は、濃 厚飼料多給時に単純化するが、濃厚飼料の給与量ばか 温泉熱を活用した りでなく給与期間も影響することが示唆された (図6、7) 。 EMS 制御小型・高効率メタン発酵システムの開発 1.4m3の小型メタン発酵システムを温泉の廃湯を用 いて加温し、地域住民から持ち寄られた生ゴミのメタ ン発酵を行った。季節変動におけるタンク内の加温状 況をモニタリングし、夏や冬によって湯量調整が必要 であることがわかった。また、タンク内温度が35℃で 安定することにより、メタン生産率も安定する事が明 らかになった。生ゴミ負荷量を徐々に増加させた結果、 最も多い負荷では、生ゴミ負荷3.9kgCOD/m3でメタン 収率87%を達成した。消化液は N 0.15-0.3%、P 0.02%、 K 0.04-0.08%となり、液肥利用が可能であった。実際 図6 にプチトマトを液肥のみを使用して栽培した結果、通 常の園芸用肥料を用いたものとほぼ同様にトマトの収 穫が可能であった。また、液肥利用者も募り、最終的に はのべ465名の人に液肥を使用していただけた。利用 者は、トマト、茄子、ピーマン、花壇の花等に、液肥を 利用しており、良好な生産があったとのことであった。 生ゴミも地域住民から自然に集まるようになり、これ らの事から、地域の生活の中にバイオマスエネルギー と資源循環が受け入れられたことが明らかとなった。 さらに、本システムができたことによって、得られた 図7 エネルギーでお茶を提供するカフェの形にしたことで、 47 半年で800名のシステム見学客があった。また、その他、 ら、MiSeq における多検体同時解析に用いるタグ配列 多くの企業や各種団体の見学も増え、地域の活性化に の影響を検討した。タグ配列の影響はほぼ確認されな つながっている。本システムの導入に関する問い合わ かった。エゾシカの春ルーメン液は芝のような草本が せも増え、コンビニエンスストアからのゴミをメタン 多く含まれ、ルーメン液が緑色であった事から細菌以 発酵するといった新しい事業化に向けた共同研究も開 外の植物や藻類などの色素由来 DNA の存在が疑われ 始された。 る。今後、葉緑体やミトコンドリア、そして宿主由来の 遺伝子情報を加味して評価する必要がある。 次年度以降への課題 給与飼料の影響に関する実験において、DGGE 法を EMS 制御ハイブリッドメタン発酵システムの開発 飼料原料および野草等給与時におけるルーメン内メタ 植物バイオマスの発酵利用に重要なセルラーゼおよ ン産生量を in vitro 条件下で測定する。得られた結果 びヘミセルラーゼ生産微生物は、in vitro という特殊な をもとにヒツジのルーメン発酵性状、微生物叢および 環境において、特定の種に偏ることが明らかとなった。 メタン産生量を in vivo 条件下で測定する。 よって、明らかになった優占種の分離菌株を使用して、 今年度の試験においても、濃厚飼料多給時には粗飼 酵素活性がより高まる条件を見いだすことができれば、 料多給時に比べて牛ルーメン液の細菌叢構成が単純化 ルーメン処理の効率化に対しても寄与することが期待 することが示唆された。次年度には、濃厚飼料多給牛 される。 でメタン産生量が低下するか否かを明らかにするため 一方、メタン発酵プラントの建設については、早期 に、定量的 PCR 法によってメタン産生菌数を検討する の降雪などにより、工期が遅れているが、プラントの 必要がある。 早期稼働に向けて進める予定である。 これら、ルーメン微生物群集の解析および給与飼料 エゾシカは季節により食物が変わりそれに伴いルー の試験結果を、メタン発酵の効率向上に繋げるよう、 メン細菌叢も変化すると考えられているため、セル 検討を深める予定である。 用いてヒツジのルーメン内微生物叢を測定する。また、 ロース系のバイオマスを利用するには都合のよい試 料と考え、食餌成分の異なる春(5月)と秋(11月)のエ 温泉熱を活用した ゾシカルーメン細菌叢を比較する事を計画したが、 EMS 制御小型・高効率メタン発酵システムの開発 野生シカのルーメンの安定した確保が課題となる。 より効率を高めるために、タンク内の微生物担体の 本年度、北海道斜里町の野生エゾシカ肉加工会社に 増量、また、粉砕生ゴミによる効率の検証も行う。消化 ルーメンサンプルを依頼し、春サンプルは確保でき 液の窒素、リン、カリウム、重金属以外の他の成分の分 たが、秋サンプルは確保できなかった。特に今年度は 析、また、液肥としての利用について、地域住民との情 10月下旬から急激に季節変化し降雪したため確保す 報交換のプラットホーム化を行い、地域の中でのエネ ることは出来なかった。来年度は安定的にサンプル ルギー生産と資源循環をより促進するための方法を構 を確保するため、同業者に依頼するとともに以前に 築する。これまでのメンテナンス費の試算、メタン発 連絡をとった別の業者にも依頼する予定である。エ 酵システム利用のマニュアルづくりを行い、今後、本 ゾシカに関わらず同地域内で得られるシカルーメン システムの地域内の定着、また、他の地域等への導入 について食餌成分の変化による細菌叢変化をとらえ に向けてソフト面の整備も行う。 て、セルロース系バイオマスの利用に有用な細菌叢 を考察したい。 網羅的解析に用いる機器が GS Junior(ロシュ社)か ら MiSeq(イルミナ社)へ変更する必要性があることか 48 課 題 3-5(2) EMS制御複合型微細藻バイオマス生産システムの研究開発 概 要 今年度(H26年度)においては、H24、25年度に得られた小容量(<250mL)培養実験結果をもとに中容量(>35L) 培養実験及び微細藻から脂質を抽出するための予備実験が実施された。 ①年間を通した微細藻の中容量培養(>35L)試験 年間を通した安定的大量培養(>1t)法を確立するために、中容量のフォトバイオリアクター(PBR, >35L)を用 いて培養試験を継続した結果、変動はあるものの年間を通した培養が可能であることが確認された。使用した微 細藻の株はナンノクロロプシス(Nannochloropsis )の野生株、低温耐性株および高温耐性株である。夏季におい て一部の高温耐性株の増殖が認められており、低温耐性株は、現在も培養試験を継続中である。添加栄養塩として 食品工場廃液再生培地を使用した中容量 PBR 培養試験の結果、増殖促進効果が確認された。 ②マイクロ波照射法による微細藻脂質成分の抽出試験 PBR 培養により収穫された微細藻生産物は濃縮後、マイクロ波照射法による脂質成分の抽出試験に供された。 その結果、粗バイオディーゼル燃料油(BDF)の抽出に成功した。さらに夾雑物を除去し精製することにより BDF の生成が可能であることが確認された。 担当者 石巻専修大学 教 授 佐々木 洋 准 教 授 太田 尚志 ポストドクター 真壁 竜介 野坂 裕一 研究計画 平成27年度からは課題3-c「EMSと地域エネルギー関連技術開発」へ統合 H24年度 (2012) H25年度 (2013) H26年度 (2014) コンテナ実験棟の 設置 H27年度 (2015) H28年度 (2016) コンテナ実験棟の 整備・使用 基礎培養実験、 耐性株作成試験 PBRの試作、改良、 予備培養試験 PBRを利用して、野生株と温度耐性株を用いた 廃液処理再生培地による大量培養 廃液処理水を用いた 培養試験 マイクロ波照射法による微細藻生産物の 分離・抽出法の開発 49 実施内容 添加栄養塩として食品工場廃液再生培地を使用し ①年間を通した微細藻の 工場廃液は石巻市内、及び女川町内の食品加工工場 中容量培養(>35L)試験 から提供された鮮魚体洗浄後の一次廃液である。廃 年間を通した安定的大量培養(>1t)法を確立するた 液の原液を200L 容器に入れ、約3-4週間外気温環境下 めに、中容量のフォトバイオリアクター(PBR, >35L) でマイクロバブル通気法により栄養塩類を再生させ、 を用いて培養試験を継続した。PBR はコンテナ実験棟 その濾過溶液を使用した。再生培地を用いた PBR 培 内に設置され(図1) 、エアコンを使用せず、室温は半自 養試験の結果、人工強化培地(f/2)とほぼ同等の増殖 然条件を維持させた。1日の平均水温は冬季の約8℃か 促進効果が確認された(図4)。しかし、食品工場の違 ら夏季の約36℃の範囲で変動した。栄養塩として人工 い(魚種の違い)によって増殖促進効果に差が生じる 強化倍地(f/2)を使用し、CO2はマイクロバブル空気を ことが分かった。実用化のためには、廃液を供給する 供給した。天然光に加えて24時間 LED 光源による照射 工場との事前打ち合わせや再生培地作成時の栄養塩 を行った。培養に使用した微細藻の株はナンノクロロ 濃度などの調整が必要である。 た PBR による中容量の培養試験を行った。使用した プシス(Nannochloropsis sp.)の野生株、低温耐性株お 50 よび高温耐性株である。その結果、増殖速度を小容量 ②マイクロ波照射法による 培養と比較すると、PBR を用いた培養微細藻の増殖速 微細藻脂質成分の抽出試験 度に変動はあるものの、ほぼ同等であることが確認さ PBR 培養により得られた微細藻生産物は、高速遠 れた(図2)。高温期において行われた N. salina の高温 心機によりペースト状に濃縮され、これらから脂質 耐性株の培養試験の結果、野生株よりもやや増殖速度 成分の分離・抽出試験を行った。試みた抽出法は、 (1) は速いが、野生株のN. oceanica とほぼ同等の増殖速度 有機溶媒抽出法、 (2)亜臨界水抽出法、 (3)マ イ クロ を示した(図3) 。季節ごとに適する培養株を選択する 波抽出法である。 (1)法は有機溶媒としてメタノー ことにより、より安定的な PBR 継続培養が可能になる ル + クロロフォルム混液を使用する通常の化学的手 ことが示唆された。低温耐性株については、現在も培 法である。 (2)法は容量約20ml の圧力容器内で濃縮 養実験を継続中である。 試料溶液を約180℃の高温高圧下で処理した。 (3)法 図1. 円筒型の35L フォトバイオリアクター(PBR)を用いた微細 藻培養。左側には LED 人工光源を設置した。 図2. ナンノクロロプシス(N. salina )を用いて行った、PBR(35L) による中容量培養実験(■)、およびフラスコ(250mL)を用 いた小容量培養(▲)実験における増殖速度と水温の関係を 比較した。PBR 培養の水温は実験期間中の平均値である。フ ラスコ培養の水温は設定されたインキュベーター内の気温 である。PBR を使用した場合においても、小規模培養で得ら れた増殖速度とほぼ同等の増殖速度が得られた。 は微細藻濃縮試料に有機溶媒と触媒を混合した溶液 数%以下であった。一方、 (3)法により(図5) 、比較的 を細管に流してマイクロ波を照射する方法であるが、 簡便な操作を通して粗 BDF の抽出に成功した。同抽出 プロトタイプの照射装置は独自に設計し組み立てた 効率は30-40%であった。さらに夾雑物を分離、除去す ものである。 ることにより BDF の生成が可能であることが確認さ バイオ燃料の一つであるバイオディーゼル燃料油 れた。この方法を旧来の(1) 、 (2)法と比較すると、総 (BDF)を生産する場合、 (1)法による総脂質抽出効率は 合的な効率性において優れるため実用化の可能性が示 高いが、BDF への化学的変換(メチルエステル化)のた 唆された。しかし使用したプロトタイプ装置は小規模 めに操作が追加される。微細藻試料の乾燥重量当たり 実験用であり、またポンプなどの部品の性能が十分で の粗 BDF( 色素などの夾雑物も含む)への抽出効率は はなかった。実用化のためには、より多量の試料の処 30-40%であった。 (2) 法は粗 BDF への抽出効率は低く、 理が可能な装置に改良する必要がある。 図3. PBR を使用して行った高温耐性突然変異株(N. salina )の増 殖特性。比較のために、野生株2種(N. salina と N. oceanica ) の増殖曲線も示した。実験期間中の平均水温は約30℃で あったが、実験後半には最高水温は40ºC に達した。高温下 においてN. salina の耐性株は野生株より増殖能は高いが、N. oceanica の野生株も高温下で増殖した。 図4. PBR を使用し、食品工場廃液再生培地による N. salina の増 殖曲線(●)。比較のために人口強化培地(f/2)による同種の 増殖曲線 (◆) を示した。廃液再生培地使用時においては、人 工培地使用時とほぼ同等の増殖促進効果を示した。 図5. 微細藻の脂質成分抽出用のマイクロ波照射装置プロトタイプ の概略図。微細藻濃縮試料は有機溶媒に懸濁させガラス細 管を通して①、ポンプによりマイクロ波照射部②に流される。 照射後、粗 BDF に返還され③、外部の保存容器に戻される。 51 研究成果報告 成功した。しかしこれは小規模試験用であるため、試 原著論文 各部品の性能不足のために実験回数が限られた。より 1. 有用海産微細藻類 Nannochloropsis の大量培養法に 効率的抽出法を開発するためには実験を積み重ねて 関する基礎研究Ⅲ:突然変異誘導法による低温およ 知見を蓄積することが必要である。そのために H27年 び高温耐性株作製の試み、2015、真壁竜介、臼井利 度は、改良されたより大型のマイクロ波抽出装置を製 典、竹谷聡、野坂裕一、太田尚志、佐々木洋、石巻専 作して BDF 抽出実験を行う予定である。 修大学紀要 (印刷中) 。 学会発表 1. 有用微細藻培養における水産食品工場廃液利用の試 み、2015、真壁竜介、臼井利典、太田尚志、佐々木洋、 平成26年度日本マリンバイオテクノロジー学会、三 重大学、津。 次年度以降への課題 1.年間を通した微細藻の中容量培養(>35L)法の 効率化 PBR(35L 培養装置)を用いて、微細藻ナンノクロロ プシスの野生株と温度耐性株を使用した培養試験を 継続する。H26年度においても同様の PBR 培養実験が 実施されたが、その結果は使用した複数の株が季節に より異なる増殖特性を示したことである。つまり、年 間を通して微細藻類の収量効率を高めるためには、異 なる水温環境に対して、最適な株を選択する必要があ ることが分かった。H27年度の実験の目的は、季節ご との最適株を選別して PBR 培養をより効率化するこ とである。 PBR 培養用の添加栄養塩として工場廃液再生培地が 適用可能であることはほぼ確認されたので、上記の実 験と並行して、季節ごとに最適な株との組み合わせを 調べる予定である。また、廃液を供給する工場に隣接 して設置可能な廃液処理装置の実用化を検討する。 2.マイクロ波照射法による微細藻脂質成分の 抽出法の開発 H26年度において、小規模のマイクロ波照射装置プ ロトタイプによる微細藻脂質(粗 BDF)の抽出試験に 52 験試料も少量に制限され、また使用したポンプなどの 課 題 3-6 EMS制御地中熱エネルギーシステムの研究開発 概 要 地中熱利用ヒートポンプシステムは、地中を熱源として熱交換を行うことで省エネルギーを実現するシステム である。図のように、本システムは熱交換を行うための井 (熱交換井) と、ヒートポンプ、熱供給を行うための装置 (本 研究では、室内に設置したファンコイル)で構成される(図1) 。このシステムの特徴としては、 (大気を熱源として いるシステムに比較して)システムが高効率(熱源の温度がほぼ一定)であること、ヒートアイランド現象に代表さ れる環境影響が小さいということがあげられる。 しかしながら、熱交換を行うための井戸(熱交換井)の掘削コストが導入コストを押し上げる原因となっている。この コストを下げるために、地下水流を活用した高効率の熱交換井を開発した(青葉山地区(平成19年))、本プロジェクトで は、この高効率の熱交換井を石巻地域に設置・実証試験を行い、本システムの他地域での設置可能性を探るものである。 担当者 東北大学 教 授 長谷川 史彦 新堀 雄一 技術専門職員 前田 桂史 研究計画 平成27年度からは課題3-c「EMSと地域エネルギー関連技術開発」へ統合 H24年度 (2012) H25年度 (2013) 地中熱利用 ヒート ポンプシステムの 設置 H26年度 (2014) H27年度 (2015) H28年度 (2016) 地中熱利用ヒートポンプシステムの 稼働データ収集及び定期点検 実施内容 本課題で実証試験を行っている地中熱利用ヒートポ ンプシステムは、平成24年度に石巻実証サイト(石巻 市中島)に設置し、平成25年度から稼働を開始した。概 要でも触れたが、本システムは①熱交換を行うための 井(熱交換井)と、②ヒートポンプ、③熱供給を行うた めの装置(本研究では、室内に設置したファンコイル) で構成される (図1) 。 本研究グループでは、熱交換井に着目して実証研究 をすすめている。この熱交換井は、様々な構造が提案 図1 地中熱利用ヒートポンプシステム 53 されているが、この実証研究では、①地中へ熱交換用 換井は、通常、掘削抗の中に、U チューブ(不凍液など、 の配管を埋設し、その中に循環流体(不凍液)を回しそ 熱を移動させるための流体を循環させるパイプ) を入れ、 の循環流体をヒートポンプで熱交換する方式(以下、 周囲に埋め戻し材を入れる。この埋め戻し材に、ある ブライン方式)、②地中へ銅管を埋設しその中に冷媒 程度の透水性をもたせたものを選択することで(周囲 ガスを入れ、直接地中と熱交換を行う方式(以下、直膨 に比較して透水性が良好な)周囲の地下水を呼び込み、 方式) の2つの方式で行っている。 この地下水が流れることで熱を運ぶ効果が起きる。す また、これらの熱交換井が地下に与える温度影響を なわち、冷房期・暖房期のバランスが良くない運転状 モニタリングしている。そのほか、機器の各部に温度・ 態でも、極端に地中温度が上がったり下がったりはせ 流量・圧力センサを設置している。ヒートポンプの制 ず、安定した運転が行え、システム寿命を長くするこ 御は、一般的な事業所の空調負荷を考慮し、週5日(8: とが出来るものである。ただし、透水性を良くしすぎ 00~20:00)稼働させ、これらの地下影響を確認してい ると、地下水流れが少ない時期に、埋め戻し材に空隙 る。また、必要に応じて、遠隔地からの発停を行うシス が発生し、断熱効果によって熱伝導性が悪くなるとも テムも組み込んでおり、連続負荷試験などを行う事が 考えており、保水性も考慮した、最適な埋め戻し材の 出来るようになっている。 選択も重要な項目となっている。 ここで、本研究グループが実証試験を行っている熱 本年度は冷房期・暖房期の期間中、2種類のヒートポ 交換井を紹介する(図2)クローズドループ方式の熱交 ンプ方式(ブライン方式、全直膨方式)と接続している 図2 熱交換井の構造 54 熱交換井(25m ×2、50m ×1)を週替わりで切り替え、 最終的にはシステムの稼働が出来なくなるほど地中温 その制御・熱交換井の違いが、どのような影響を及ぼ 度が低下する可能性が高くなる。寿命の短いシステム すかを確認している。そのほか、初年度に熱交換井の になり、初期導入コストを回収する前にシステムが停 上部に埋めておいた銅管を電子顕微鏡で観察し、1年 止してしまう事も考えられる。このことから、同じよう 経過後の銅管の表面状態を確認した (後述する)。 な条件下では、周囲からの地下水の移流効果を積極的 今年度の運用実績としては、ブライン方式(ヒート に活用した熱交換井の設計が重要であることがわかる。 ポンプ性能10kW。熱交換井25mx2,50mx1:Double-U) この2年間稼働して、この実証サイトにおける地下 では、冷房期 (7~9月) 、暖房期 (11~3月) の地下に与え 温度がどのように推移しているかは、図3、4のとおり る負荷は、おおよそ冷房期で31kWh/ 日(8:00~18:00 である。先に述べたように、この実証サイトでの運転は、 まで稼働。1ヶ月20日稼働で期間合計1.86MWh) 、暖房 冷房期負荷に比較して暖房期負荷のほうが過大である 期で50kWh/ 日(冷房期と同じ条件で期間合計 5MWh) ものの、運転が停止すると速やかに地中温度が回復し と見積もられる。このように、冷房負荷より暖房負荷 安定している。 が2.6倍程度の負荷がかかっている。 また、参考まで仙台市青葉区(青葉山)での実証試験 そのため、当該地域では蓄熱(冷房期は地下に放熱 のデータも図5示す。こちらも、石巻の実証試験に先ん し、それを冬期に回収する) 効果に期待した熱交換井の じて同じような構造の熱交換井を実証試験している 設計を行うと暖房期の負荷が過大で地中温度が低下し、 (2007.11~)が、約8年間の稼働においても大きな温度 図3 地中温度(ブライン方式) 図4 地中温度(直膨方式) 55 の変化は無い。システム寿命を検討するうえで重要な されるところがあり、今年度はこの点も評価した。初 データである。 年度に熱交換井に銅管を埋めておき、約1年間経過後 また、システム寿命に関わる部分で特記すべき点が に取り出したものを電子顕微鏡の観察およびエネル ある。今回の実証試験では、直膨式といわれる地中熱 ギー分散型 X 線による元素分析を行った。図6にその ヒートポンプシステムも対象としている。これは、地 結果を示す。この図から分かるように銅管表面には銅 中に銅管を入れ、ここに冷媒ガスをとおすこことで、 に加え、炭酸と酸素が分布していることが確認された。 ヒートポンプが直接地中と熱交換を行うシステムで また、各元素のモル比より、これら生成物は炭酸銅 ある。冷媒ガスを熱媒体とすることで、ブライン方式 CuCO3あるいは塩基性炭酸銅 CuCO3・Cu(OH) (緑青) 2 に比較して熱交換能力が大きくなり、急激な熱負荷に であることが示唆された。これらは、湿った条件下で 対しても対応が可能なシステムである。しかしなが 酸素、二酸化炭素および水分が銅と反応することに ら、地中に銅管を埋設するため、銅管の腐食が発生し より生成する結晶性の錆であり、銅管の腐食は、これ ガスリークが起きることでシステム寿命の点で懸念 ら炭酸銅が抑えている可能性が示唆される。なお、試 図5 地中温度(青葉山) 図6 錆(緑青) 56 験に用いた銅管の重量は埋設前では35.3g、埋設後取 り出した際には35.0g であり、Cu の溶出は現段階で は顕著でない。 また、実証サイトの地下水の状況については昨年度 の報告書にも記載したが(図7)実証サイト付近でも複 数の帯水層がある事が分かっており、最も深い位置に ある帯水層については、河川の水位とほぼ近いことか 図8 雨水浸透枡 ら関係性があると考えている。こちらも昨年度の報告 書にも報告したが、帯水層付近では、みかけの熱伝導 率が大きくなることから地下水流れは熱交換井の効率 次年度以降への課題 に大きく影響を与えることが分かっている。そのため、 このように、本研究グループが狙っていた地下水利 本年度は地表からの雨水の流入が熱交換井に与える影 用の高効率地中熱利用ヒートポンプシステムについて 響を検討するため、図8のように熱交換に地表から水 は、システムは完成し情報を蓄積している段階である。 の流入が少なくなるよう雨水浸透枡に蓋をし、同じよ 現段階では、良好なデータが取れており、今後のデー うな条件で稼働させる熱交換井の地中温度がどのよう タ蓄積と解析を継続して行う事でこの地域での熱交換 に変わっていくかをモニタリングしている。この温度 井のモデル化が可能になってくると考えている。現段 変化については、現在データの蓄積中である。雨水浸 階でも、石巻地域でも本研究プロジェクトの目指して 透枡が熱交換井にどのように影響を与えているのかが いる高効率の熱交換井の導入可能性は十分に高いもの 分かれば、熱交換井の設計についてあらたな知見を得 と考えている。最終的には、標準的なモデル化ができ、 られるものと考えている。 簡単な熱設計が出来るようにすることで、この地域で の地中熱利用を積極的に行われるようにしていきたい。 実証試験場所 (ログハウス) 0m 風化帯 10m 湧水による池 地下水位 20m 帯水層 30m 粘板岩・ 砂岩の互層 (古生層) 帯水層 40m 河川 or 海水面と予想される場所 図7 実証サイト付近の地下水の流れ 50m 57 課 題 3-7 EMS制御温泉熱利用 バイナリー発電エネルギー活用システムの研究開発 概 要 宮城県大崎市鳴子温泉地区において、高温の温泉源泉を利用し、熱エネルギーをまず発電に用い、さらにカスケー ド利用を行って付加価値の高い農産品の生産や加工食品の製造にも利用することで温泉の魅力を損なうことなく 鳴子温泉の対外的な発信力を強化し地域の活力を高めようとするものである。 一方で、このような地産エネルギーは非常時のエネルギー不足解決策の一つとして再生可能エネルギーを中心 とした、人・車等のモビリティ(移動体)の視点を加えた地域のエネルギー管理システムを構築するために有効利用 できる。本課題では、鳴子地域の特色を活かし温泉熱利用バイナリー発電方式の開発を行う。同時に、いくつかの 方法で生成された再生可能エネルギーを EMS で制御/管理し、利用先に供給することを目的とし、下記の3項目に ついて研究開発を進める。 ①温泉熱マイクロ発電システムを中心としたエネルギー供給系の構築に関する研究 ②エネルギー供給多様性システム開発 ③ EMS 制御温泉エネルギーカスケード利用研究開発 26年度は、25年度に引き続き、①のバイナリー発電システムを実用レベルで利用するための装置開発を行った。 ②③については、最終的に①の主たるエネルギー供給先となる予定のスマートアグリシステムについては、温泉熱 を利用して小規模の熱帯植物の園芸栽培を行っている企業の事例を調査し、これらを参考に設置した。 担当者 東北大学 多元物質科学研究所 教 授 村松 淳司 研究計画 平成27年度からは課題3-c「EMSと地域エネルギー関連技術開発」へ統合 H24年度 (2012) H25年度 (2013) バイナリー発電実証機の製作 東北大学大学院 環境科学研究科 特任教授 霜山 忠男 准 教 授 木下 睦 助 教 梅木 千真 助 手 三ケ田 伸也 物部 朋子 58 太陽電池 パネル設置 EV 充電器 設置 マイクロ水力発電 試験機の設計 マイクロ水力発電 試験機の製作 および発電試験 H26年度 (2014) スケール抑制等 温泉熱利用 周辺技術の開発 H27年度 (2015) H28年度 (2016) バイナリー発電の移設・改造 全体システムへの 統合とEMS 制御 並びに見える化 スマートアグリ システムの 設計製作 果樹等の試験栽培 実施内容 当初計画していた3本の井戸を統合して発電量を確保 ①温泉熱発電システムを中心とした 熱量で発電できる小型のユニット開発に切り替えた。こ エネルギー供給系の構築に関する研究 のため、発電機を駆動する回転機構を小型化したこと バイナリー発電システムは、アンモニア・水混合媒 で変換効率が上がらない軸流タービン形式からスクロー 体による熱機関を採用する。アンモニア・水混合物か ル膨張器形式に変更し、1台で5〜7kWクラスの発電機 らなる熱媒体は、既存の有機ランキンサイル式バイナ 1台を駆動するシステムとした。これにより、システムと リー発電で多く採用されている代替フロン等の低沸点 して発電出力の設計段階での弾力性が生じ、利用でき 溶媒に比べ地球温暖化係数が低くオゾン層破壊にも寄 る温泉井の湧出条件が低湧出量サイドに緩和された。 することよりもローテーションで使用し、温泉井1本分の 与しないので地球環境保全の面からも優れている。 宮城県大崎市鳴子温泉の㈱鳴子ラドン温泉殿が所有 ②エネルギー供給多様性システム開発 する温泉井 G1号、G2号、G3号から湧出する温泉熱水 温泉からの湧水による発電形態では、常時一定の発 を熱源とした小型バイナリー発電実証設装置を製作し、 電量となることが予想される。そこで、様々な形態の 実用レベルに向けた開発を行った。 発電システムと組み合わせ、エネルギー供給の最適化 これまでの試験により、本試験で利用する温泉井から を図るための多様化の検討を行うことと、将来的に、 湧出する温泉熱水は、各井戸の1本毎の湧出量でも約 これらを統合したエネルギーシステムを中心に体験型 120kW の交換熱量が得られることがわかっているが、 エネルギーパーク(仮称)とする設備、システムの構築 その反面、井戸配管内で析出し附着する無機物(スケー を行う。パークの全体イメージを図1に示す。26年度 ル)により、放置すると1〜数か月で閉塞に至る。このこ までには、予定地に、太陽光発電設備、EV 充電器、園芸 とから、本研究では発電の継続性を確保するために、 栽培用温室を設置した。 図1 体験型エネルギーパーク (仮称)のイメージ 59 図2 ㈱ FRUSIC のドラゴンフルーツ温室 ③ EMS 制御温泉エネルギーカスケード利用研究開発 部に設けた樋に温泉水を流しており、樋の上部を開放 スマートアグリシステムの開発 することで加温すると同時に湿度を保持することも <先進進事例調査> 目的としている。温泉水は、温室入口で60℃以上あり、 岐阜県高山市の奥飛騨温泉郷栃尾温泉で行われてい 出口側でも40℃程度まで低下するが、室内は一年を通 る、㈱ FRUSIC によるドラゴンフルーツ等、同地区で㈱ じて25℃以上に保たれているとのことである。 奥飛騨ファームが行っているバナナの温室栽培施設を いずれの温室も冬期は最低気温が -15℃を下まわり、 見学し、それぞれ運営担当者との意見交換・情報収集 真冬日が1ヶ月近く続くこともある寒冷地に設置され を行った。 ているが、生育には平均21℃以上が望ましいとされて ㈱ FRUSIC は、主にドラゴンフルーツを栽培し、果実 いるバナナを始め種々の熱帯植物の育成に成功してお および加工品の販売と温暖な環境を要する植物の受託 り、温泉水を利用することにより、低コストで商品を 栽培を行っている。温室内の床面はコンクリートで、 生産することを可能にした事例である。 ポット状に設けた孔にドラゴンフルー ツの株が植えられている。コンクリート 部分には加温用のチューブが多数埋設 され、温泉水から熱交換で加温した浄水 が循環して植物の根の部分を温めてい るが、ドラゴンフルーツは比較的乾燥を 好む植物であるため、適度に外気との交 換で換気しているのみで湿度のコント ロールは不要とのこと。 図3、4は温室内でバナナを栽培し苗 木の販売を主としている㈱奥飛騨ファー ムの温室である。こちらは、常時温室内 60 図3 ㈱奥飛騨ファームのバナナ栽培温室外観 図4 温室内部の様子 <園芸栽培用温室の設置> 宮城県大崎市鳴子温泉の体験型エネルギーパーク (仮称)予定地に、面積100m2 の温室を設置した。図5 に温室の外観を示す。ここでは、発電に利用した温排水 を利用して暖房等の熱源に利用し、熱帯/亜熱帯系植 物の園芸栽培や、冬季にも収穫ができる作物の栽培を 目指す。上記の調査を参考に、将来的に対象作物のフ レキシビリティを持たせるため、室内の加温は土間に 温水を通水するチューブをコイル状に配置し、その上 にシート養生を行うのみとし、基本的には、鉢植えによ るポット栽培や、棚型の水耕栽培システムを導入するこ とを想定している。さらに、室内の加温に使った温排水 図5 スマートアグリシステム温室外観 を温室周囲に埋設して巡らせたパイプに通水して冬季 の融雪に利用する。実際に温泉と加温用設備との接続 は27年度を予定しているが、現状でも屋根部分の積雪 次年度以降への課題 はほとんど滑り落ちて残らず、特別豪雪地帯である鳴子 バイナリー発電システムの実用性を高めるための実 温泉地区であっても維持管理可能な設備となっている。 証運転試験を進めるとともに、システム統合に向けた また、自動運転設備としては、特に夏季の利用が想 EMS による各設備の統合、エネルギーの負荷として予 定される換気のためのフィルム巻き上げモーターおよ 定しているスマートアグリシステムでの果樹栽培を進 び夜間の電照用 LED 照明が設置されており、電源には、 める。また、最終的な全体システム構築のためのバイ 温泉熱発電および太陽電池により生成された電力が ナリー発電システム移設を始めとして、地域との協力 EMS で制御され静置型あるいは移動体ストレージを介 およびシステムの統合による社会実装を進め、EMS 制 して供給される予定である。 御と画像情報等の見える化を行う。 61 本研究は文部科学省 「東北復興のためのクリーンエネルギー研究開発推進事業」の 支援を受けて実施されたものです。 平成26年度 東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト 研究成果報告書 平成27年3月 Tohoku Recovery Next-generation Energy Research and Development Project 平成26年度東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト 研究成果報告書 Tohoku Recovery Next-generation Energy Research and Development Project 2014 平成26年度東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト 研究成果報告書 東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト (NET) 東北大学大学院環境科学研究科 〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-20 Tel 022-795-7408 Fax 022-795-7392 E-mail [email protected] URL http://www.kankyo.tohoku.ac.jp/net/index.html
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