Pilot Frixion

SINCE 1975~
Pilot Frixion
VOL.78
失敗とはその価値が実現されて
いない将来の財産である︱︱
ポラロイドカメラを発明した
エドウィン・ランド博士の言葉だ。
温度で変化する
メタモインキ︵メタモカラー︶
を開発した
パイロットの技術者が、
そのインクを使った筆記具、
という自社の最も基本的な
製品を開発するまでに直面した、
数えきれないほどの
トライ&エラー。
約 年に及んだ難局の期間、
彼らは開発と失敗の連続の中に
きっとモノになるはずだ、
と信じる〝将来の財産〟を
夢見ていたはずだ。
こすると消せるボールペンは
筆記具の歴史に残る発明であり
世界累計 億本を超えて
いまなお売れ続ける。
同社による国産初の万年筆
製造時から、
魔法の筆記具
﹃フリクション﹄
はその誕生を
約束されていたのかもしれない。
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165
フリクションシリーズに使われる
フリクションインキは開発当初、
一夜にして変わる紅葉の色変わりを
ビーカーの中で再現したい、
という
技術者の発想から誕生した。
形態変化の意味があるメタモルフォーゼ
から
“メタモカラー”
と命名された。
mono
●
[パイロット フリクション]
Photo / Tomoaki Tsuruda
(WPP)
Pilot Co.
Text / Teruhiko Doi
(WPP)
30
10
フリクションインキは特殊な
マイクロカプセルが
色素の役割を果たしている。
そのカプセルの中には
3種類の成分が含まれており、
これが ℃以上の摩擦熱に反応し
無色透明に変化する。
温度変化でインキが
無色になるために、
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消しカスが出ないという特徴があり、
また何度でも書き・消しが可能となる。
このマイクロカプセルの大きさは
2∼3ミクロン。
今後は更なる研究開発が続けられ、
写真印刷で使用される色素など
より広汎な分野での活用を
目指している。
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フリクションインキのマイクロカプセルに
含まれる 3 種類の成分は、
発色剤、
発色させる成分、
変色温度調整剤。
常温時は発色成分が結合して発色し、
熱を加えると
発色成分の結合が阻害され、
色が消える、
という仕組み。
mono
パイロットの前身である並
木製作所が創業したのは大正
7年。パイロットといえば大
正7年に発売された、木製軸
に 金ペンを取り付けた国産
初の万年筆である﹁パイロッ
Pilot FRIXION BALL 0.5
これがラッカナイトで、その
美しい光沢と耐日光性に優れ
た素材と、蒔絵万年筆は海外
で高く評価され、やがて有名な
ダンヒル・ナミキという万年筆
の誕生につながる。
パイロットは、このように
創業時から筆記具に革命を
起こしてきたブランドだ。万
年筆からシャープペンシル、
ボールペンという歴史の中
でも数多くの突出したアイ
デアでモノ作りを続けてき
た。そしてデジタル化の波に
よって売り上げに陰りが見
えてきた筆記具の世界に、突
如として現れたのが﹃フリク
ション﹄なのである。
消えるインキのフリクショ
ンシリーズは、昨年、世界累
計販売本数 億本を突破した。
年以上前に同社のある研究
者が、紅葉の一夜にして色が
変わる大自然の力を、研究室
のビーカーの中で再現したい、
と考えたことがすべての発端
だった。その思いは1975
年に﹁温度変化によって色が
変わるインキ﹂の基本技術を
開発したことで一旦は結実す
るが、文房具メーカーの技術
者にとって新技術が筆記具に
採用されないことには、研究
が完遂したとは言えなかった
のである。この色が変わる
〝メ
タモインキ〟から約 年にわ
たって、同社技術者の苦闘の
歴史が始まる。開発過程では
30
30
トペン﹂が有名。そもそも万
年筆のペン先の先端には硬い
金属が必要であり、海外の質
のいい万年筆のペン先にはイ
リジウムという金属が使われ
ていた。創業者の並木良輔は
同社創業前に、耐摩耗性に優
れたイリジウムとオスミュウ
ムの混合原鉱であるイリドス
ミン鉱を北海道に発見し、苦
心してその処理加工に成功し
ていた。筆から万年筆へと筆
記具が移行しつつあった当時
の日本で、金ペン先は100
%輸入に頼っていたが、並木
良輔はそれを純国産で生産で
きるようにしたのである。
同社開発の技術としてもう
ひとつ有名なのは、ラッカナ
イトという特許技術。実は万
年筆の軸材となるエボナイト
には大きな問題があった。そ
れは日光に長期間さらすと黄
褐色に変色するという欠点で、
その対策として少量のカーボ
ンブラックをエボナイトに練
り込み、軸表面に漆を塗ると
いう新しい技術を開発した。
中に注ぐ液体の温度で色が変
わる紙コップ、米国のグラス
メーカーと共同開発した絵柄
が変わるグラス、偽造防止に
採用されたオリンピック・チ
ケット、色が変わる玩具など
さまざまな製品が生まれたが、
それらはパイロットの筆記具
ではなかった。 世紀になっ
てようやく極緻細な新顔料の
開発に成功し、2005年に
﹁フリクションインキ﹂が遂に
誕生したのである。
おそらく、このインキの開
発が他社で始まっていたら、
フリクションの歴史
1975 年 温度変化で色が変わる
メタモインキの開発成功。特許取得。
1976年 メタモインキを使った
世界初の商品である、紙コップ﹁魔法
のコップ﹂を発売。
1984年
指先でこするだけで変
色可能なメタモインキを印刷に採用。
ロス五輪の入場チケット偽造防止の
ために活用された。
1985年
温度の変化で色が変わ
る玩具﹁メルちゃんまほうのフライ
DEこんがり﹂を発売。鍋に冷水を入
れ、温度の変化でエビフライがキツネ
色になる仕組み。
1988年 メモリータイプのメタ
モインキを新開発。約 ℃まで温度変
化の幅をコントロールする技術の実
用化に成功。
用途が飛躍的に広がった。
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2007年
フリクションボールを
日本で発売
2014年
﹁フリクション﹂シリー
ズが世界累計販売本数 億本を突破。
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イロットには創業以来の社風
として、技術開発や研究に対
する高い忍耐力があったか
らだ。普通の企業で 年も同
じ研究を続けさせるのには、
高いハードルが存在するも
の。しかも筆記具はデジタル
化という逆風にさらされて
いた業界だった。
日本で初めての純国産万年
筆を生み出したブランドだか
らこそ、これだけの忍耐と、世
を驚かす技術をものにできた
のかもしれない。1000種
以上の化合物を試験して生ま
れたフリクションインキ。次
世代の可能性は、まだまだこ
んなものじゃない。
2005年
温度変化の幅を 度前
後︵
℃∼ ℃︶まで拡大すること
に成功。進化した筆記用具用メタモイ
ンキ﹁フリクションインキ﹂が誕生し
た。
2002 年 メタモインキを使った
最初の筆記具﹁イリュージョン﹂を発
売。黒で書いた文字が赤や青に変わる
筆記具だった。
2001年 メタモインキを使った
筆記具の研究開発に本格的に着手。極
緻細な新顔料の開発成功。
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2006年 ヨーロッパでフリクショ
ンボールを先行発売し、爆発的なヒッ
トを記録。
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30
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消えるインキのボールペンは
世の中に誕生していなかった
かもしれない。なぜならば、
パ
Pilot FRIXION POINT 04
国産初の万年筆ブランドから生まれた
筆記具の歴史を変える発明品。
同社製品第一号にして、
国産初の万年筆
「パイロットペン」
。
構造
は木製軸に14金ペン先でインキスポイト供給式だった。
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20
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早くから宣伝広告の重要性に気
が付いていたパイロット。
大正
時代の
「山は富士、
万年筆はパイ
ロット」
の広告。
浮輪印は絶対不
沈と業界の水先案内人
(Pilot)
としての願い。
-
フリクションインキは当初、
既成物質を利用して開発が進められていたが
最終的にはこの世のどこにも存在しない
オリジナルの化合物を1000種類以上作り続け
ようやく期待以上の温度の幅を有する
新しい変色温度調整剤の開発に成功した。
オンリージャパンの世界に誇る発明だ。
mono
パイロット
「フリクション」
に
関する問い合わせは
パイロットお客様相談室
☎03-3538-3780
http://www.pilot.co.jp
現在の東京・日本橋にあっ
た創立当時の並木製作所
(現パイロット)
本社。
浮輪
印にPilotの商標はすでに
看板に使われている。
パイロットの創業者である並木良輔
(左)
と、
和田正雄
(右)
。
ふたりの
出会いは有明丸という船の中。
Pilotというブランドに繋がる逸話だ。
(design series)
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Pilot FRIXION BALL 4
Pilot FRIXION BALL 3
Pilot FRIXION BALL KNOCK
0.5㎜の 4 色ペン。
価格864円
0.5㎜の 3 色ペン。
価格648円
0.5㎜。
価格248円
Pilot FRIXION POINT 04
Pilot FRIXION BALL
Pilot FRIXION BALL KNOCK
0.4㎜。
価格237円
0.5㎜。
価格216円
0.5㎜。
価格248円
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