Aspergillus saitoiを用いた小豆麹の調製について 誌名 愛知県産業技術研究所研究報告 ISSN 13479296 山本, 晃司 著者 伊藤, 彰敏 北本, 則行 下末, 祥代 杉山, 友理恵 井上, 五郎 野田, 廣 巻/号 10号 掲載ページ p. 74-77 発行年月 2011年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所 Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat 7 4 愛 知 県 産 業 技 術 研 究 所 研 究 報 告 2011 研究論文 As p e r g i l l u ss a i t o iを用いた小豆麹の調製について 山本晃司':'1、 伊 藤 彰 敏 午 ¥ 北 本 則 行 中 l、 下末祥代;:2、 杉 山 友 理 恵 日 3 、井上五郎", 3 、野田 贋ネ 3 θ' r g i J J u ss a i t o i PreparationofAdzukiBeansKojiusingAsp K o j iYAMAMOTO': 、1, AkitoshiI T O ' "1, NoriyukiKITAMOTO、 : '1 SachiyoSHITASUE"'2, YurieSUGIYAMA* 3 , GoroINOUE 3 andHiroshiNODA*3 午 FoodReseachCenter, AITEC, 勺 SugiyamaJogakuenUniversity勺 , KoideBussanCo., L t d . * 3 小立を利用した新たな食品の開発を目的として、小立を黒麹菌で発酵した小豆麹の調製を行った。小豆 麹の胞子形成抑制、酵素活性、遊離アミノ酸、クエン畿、ブドウ糖を指標に製麹条件を検討した。その結 0 果、小立を黒麹菌で 30 C あるいは 35 C で 30 時間通気製麹した後に密閉環境にて 15~29 時間(合計 45 0 ~69 時間)製麹することで、胞子形成を抑制した小豆麹を調製できた O 小豆麹は、遊離アミノ酸を多く含 み、クエン酸による酸味と併せて発酵による特徴ある風味を有していた。 1.はじめに 通気栓をして 30~400C の温度で製麹した。また、密閉環 小豆は、あん、赤飯、しる粉などに用途が限られてお 境にて製麹を行う際は、通気栓をアルミホイルとサラン り、小豆を利用した発酵食品は殆ど存在しない。主な理 ラップで 2] 主に密封した。 由は、小豆のデ、ンプン粒子がタンパク質粒子に強固に取 2.4 酵素活性の測定 り固まれているため、微生物が小豆デ、ンフ。ンを利用する 小豆麹を 5g秤量し、 0.5%NaClを含む 10mM酢 酸 緩 ことが困難であるためと考えられる。近年、小豆の黒麹 衝液 ( pH5.0) 25mLを加え、 5Cで一晩抽出した。抽出 菌による発酵について井上らにより特許 No.5C)を用いてろ過したものを試験液とした。 液をろ紙( が出願された 1 ) 0 が、小互の黒麹菌で、の発酵に関する研究報告はない。そ α'ア ミ ラ ー ゼ 活 性 は α ・アミラーゼ活性測定キット のため、酵素活性を始めとして、小豆麹の性質が全く明 (キッコーマン(株))、グルコアミラーゼ活性は糖化力分別 らかになっていない。そこで、本研究では、小豆を黒麹 定量キット(キッコーマン(株))、酸性カルボキシベプチダ 菌で発酵(製麹)させる最適条件を米での黒麹菌による ーゼ活性は酸性カルボキシベプチダーゼ測定キット(キ 発 酵 の 報 告 ト 1) と比較し、検討することとした。良好な ッコーマン(株))を用いて測定した。酸性プロテアーゼ活 発酵の指標として、黒麹菌胞子形成の抑制、酵素活性、 性は国税庁所定分析法叶こ従って測定した。 遊離アミノ酸、クエン酸、ク。ルコースについて分析した。 2.5 クエン酸の定量 小豆麹を 5g秤量し、蒸留水を 45mL加えて、ストマ 2. 実 験 方 法 2 .1原 材 料 5分間抽出した。 ツカーで 60秒間均一化した後、室温で、 1 45μm のセルロースアセテートフィル 抽 出 液 を 孔 径 0. 原材料として、北海道十勝産の小豆(きたろまん)を ターでろ過したものを分析試料とした。 クエン酸を有機酸分析システム((株)島津製作所)を用 用いた。 2 . 2供 試 菌 いて定量した。分析条件は以下の通りである。 s p e r g i l l l l ss a i t o i IAM2210 (黒麹菌)胞 種麹菌として A カラム Shimadzu SCR101H 0倍量に増量して使用した。 子を可溶性デンプンで 1 検出器.電気伝導度検出器 2 .3小豆麹の調製 移動相 :4mMp.トルエンスルホン酸 責した。水切り後、圧力鍋にて 小豆を蒸留水に一晩浸 j 30分間蒸煮した。放冷後、黒麹菌の種麹をノト豆に対して 0.5%添加し、均一に撹持した。種麹を接種した蒸煮小豆 を 50gずつ広口培養フラスコ (300mL容)に分注し、 l食品工業技術センタ一 発酵技術室(現発酵バイオ技術室 緩 衝 液 4mMp-トルエンスルホン酸(lOOmMEDTA , 20mMB i sTr :i s ) 伊 流 速 :O .8mL/min 2 .6グルコースの定量 ' : ' 2椙山女学園大学 3 (株)小出物産 7 5 グノレコースはグ、ルコース測定キット(和光純薬工業 30Cの試験 Eと同様の外観であった。 0 3.2 小豆麹の酵素活性 (株))を用いて酵素法で定量した。 2 .7遊離アミノ酸分析 小豆麹の製麹時に黒麹菌が生産する酵素によって、デ 小豆麹 2 . 5 gを秤量し、熱水約 50mL を加えて加熱抽 ンプンやタンパク質が分解されて糖類による甘みやアミ 出し、抽出液をろ紙 ( N o . 2 )で、ろ過し 100mL に定容した。 ノ駿による旨味が新たに付与される。本研究では小吏麹 抽出液をクエン酸リチウム緩簡液 ( p H 2 . 2 )、 で 2 倍希釈後 を和用して発酵酒を造ることと、その風味を生かした飲 孔 箆 0. 45μm のセルロースアセテートフィルターでろ 料としての利用を目指した。そこで、小豆麹の風味形成 過し、アミノ酸自動分析装置 (L-8500型 日 立 計 測 器 サ に重要な黒麹菌の糖質分解酵素 ( α 岨アミラーゼ、グ、ノレコ した。 アミラーゼ)及びタンパク質分解酵素(酸性プロテアー ーピス(株))を用いて ゼ、酸性カノレボキシベプチダーゼ)の酵素活性を測定し、 3. 実験結果及び考繋 その結果を図 2に示した。 3 .1小豆麹の額製条件の検討 小笠麹の α 附アミラーゼ活性は試験区②を除いては、 黒麹菌による小立の発酵条件について、温度 3 条件 ( 3 0C、 35C、40C)、通気・密閉状態、 9条件からなる 0 0 0 30Cの試験肢の方が高く、 30C、35Cとも i 語気を継続し 0 0 0 た①と②の試験症で活性が高い傾向にあった。しかし、 27試験区で予備試験を行った。その結果、蒸煮後の小豆 この①と②の試験区で活性に大きな差はなかった。 45時 に種麹を接種して 30時間以上通気状態で製麹した場合、 間経過以降は、酵素生産が少ないあるいは、生産された 黒麹菌の胞子形成が始まり、経時的に胞子量が i 誘え、小 酵素が分解されていると推察された。一般に α 暢アミラー 豆が黒い胞子で覆いつくされた。また、 30時間以内通気 ゼは、 40Cまでは高い温度帯で多く生産されるが、黒麹 製麹した後、密閉製麹を行った場合、胞子形成が抑制さ 菌で識製した小豆麹においては、そのような領向は認め れ、自い菌糸に覆われた小笠麹となった。初期からの通 られなかった。また、小豆麹の α"アミラーゼ活性は、焼 気時間を 22時間以下と短くすると、黒麹菌の生育が悪 g ) 4)と比較して低かった。これは、小 酎用米麹 (160Ul かった。密閉製麹後に通気製麹を合計 70時間以上行っ 0 ンプン粒子がタンパク質に覆われているためデンプ てもアミノ態窒素生成量が増加しなかった。また、 40C ンが蒸煮工程で α化しにくく、基震となる α化デンプン で製麹したものもアミノ態窒素生成量が少なかった。こ が少ないためと推察された。 0 れらの結果を踏まえて本試験は、表 1I こ示した温度 2条 グノレコアミラーゼ活'性はすべての試験肢で焼酎用米麹 件、通気状態 4条件の計 8試験区で、行った。図 1(こ示し (280U/g) りに比べて高く、②の試験区以外は 30Cの試 たとおり小豆麹の外観は、①、②の試験区では黒く l J 包子 験区のほうが高い値となった。また、通気を継続した① 0 形成しており、通気時間の長い②の試験区は胞子量が多 と②の試験区で活性が高い傾向にあった。黒麹菌にとっ く、かなり濃い黒色となっていた。③、④の試験区では て、生育条件の良い通気を継続した試験区でよりグルコ 白い菌糸が小立をとりまいていた。③、窃の試験区は外 ースが必要となり、グ、ノレコアミラーゼ生産量が増えたと 観上大きな差はなかった。 35Cで製麹した試験区は、 推察された。以上の結果より、小豆麹は α ーアミラーゼ活 0 表 1 小笠麹の試験区 ③ む を 通気→密閉 通気一→密閉 30h→ 39h 30h→ 39h 30h →15h → 15h 3Oh 30C 35C 0 0 0 ( 3 0C) ① @ ③ ④ 7 6 愛知県産業技術研究所 5 0 研究報告 2011 1500 (閣制∞¥戸)川記如何 摺 0 聞3 0C ざ1000 2 5 1 出 t 盟]監 口35C 0 500 忠 O O ① ② ③ ④ ② ① ③ ④ グルコアミラーゼ、活性 α アミラーゼ活性 30000 20000 30C 口 35C 蒸 ! b J l 0 口 『 亙15000 担 O ① 官『 ② 300C 口35C 聞 0 掴 ③ 報 0 i b J l 210000 忠 O ④ ① 酸性プロテアーゼ活性 ② ③ ④ 酸性カルボキシベプチダーゼ活性 図 2 小豆麹の酵素活性 試験区: ①、②(通気製麹)、③、④(通気後密閉製麹) 錠岡田監 国3 0C ω やか議入H h m P¥﹄P) (﹄ つリワ 1 5 0 口3 5C 0 O ① ② ③ ④ 診 京 10 f く n 5 、コ 盟 且 ム h¥ O ① 監置 1 診 t ② ③ ④ グノレコース クエン酸 図 3 小豆麹のグ、ルコースとクエン酸 試験区: ①、②(通気製麹)、③、④(通気後密閉製麹) 性は低いが、グルコアミラーゼ活性は高かった。グルコ 2 0 . 2 % ) が精白米 ( 9 . 2 % ) に比べて多 のタンパク質量 ( アミラーゼにより生成したグ、ノレコースが黒麹菌に資化さ いためであると考えられた。温度の影響については、特 れなければ、小豆麹への甘み付与が期待できる。 に傾向が認められなかったが、通気を継続した①と②の 小豆麹の酸性プロテアーゼ活性は、焼酎屑米麹 試験区で活性が高くなる傾向にあった。黒麹菌の胞子形 ( 2 9, 000U/g) .1)I こ比べてかなり低い値であった。酸性プ 成にアミノ酸が必要なため酸性カノレボキシベプチダーゼ、 ロテアーゼ活性に対する温度の影響に関しては、②の試 活性が多く生産されたと推察された。 0Cの試験区の方が高く、通気を継続した① 験区以外は 3 3 . 2小豆麹の成分分析 0 と②の試験区でより活性が高かった。黒麹菌の胞子形成 小豆麹において、黒麹菌による発酵で生成するクエン にタンパク質分解物のアミノ酸、ペプチドが必要なため 酸は、デ、ンフ。ン酵素分解で、生成するグルコースとともに 酸性プロテアーゼが多く生産されたと推察された。 風味形成に重要な成分である。図 3に小豆麹についてク 酸性カルボキシベプチダーゼ活性は、焼酎用米麹 エン酸とグルコースを定量した結果を示した。クエン酸 ( 9, 240U/g) ")に比べて高い値となった。これは、小豆 量は、①、②の通気時間の長い試験区が③、④の密閉製 77 ノ j 、豆麹の遊離アミノ酸 表2 3 0C 3 5C 0 0 アミノ駿 (mg !100 g 2 アスパフギン絞 スレオニン セリン アスパラギン グ、ルタミン霊安 グノレタミン プロリン グリシン アラニン パリン システイン メチオニン イソロイシン ロイシン チロシン ブェニルアラニン トリブトファン リジン とスチジン アルギニン s 。 1 7 0 1 9 5 24 1 3 65 9 1 4 5 8 16 13 1 1 1 5 77 26 60 ( 18 ) 808 (GAB A) 合計 議 盆 42 21 24 72 25 30 O 258 250 25 15 58 8 1 3 6 8 17 10 1 1 6 71 28 7 1 ( 2 4 ) 982 試験臨: アミノ宮沢mg !1 0 0 g l 291 アスパフギン毅 1 0 7 スレオニン 1 0 4 セリン O アスパラギン 580 グルタミン霊堂 84 グルタミン 75 プロジン 46 グリシン 1 5 4 アラニン 1 0 3 パジン 23 システイン 70 メチオニン 1 0 8 イソロイシン 327 ロイシン 1 4 9 チロシン 235 フェニルアラニン 60 トジブ勺トファン 237 ジジン 88 ヒスチジン 277 アルギニン A) ( 8 6 ) (GAB t tき:it 3, 1 1 8 盛 1 5 6 64 66 O 374 8 1 48 30 1 1 3 5 2 2 1 48 5 4 2 0 1 94 1 5 0 4 1 1 5 9 5 1 1 7 9 ( 9 8 ) 1, 982 由 議 皇 36 18 18 O 204 1 1 9 O 1 3 67 1 1 1 2 8 9 20 20 16 7 61 30 43 ( 3 2 ) 712 66 29 26 O 258 173 O 18 33 8 1 5 8 6 13 1 1 10 6 54 27 39 ( 2 8 ) 800 226 9 0 1 0 3 O 459 5 3 7 5 5 3 1 5 5 1 0 8 2 1 7 9 9 0 319 1 4 5 233 54 297 1 1 7 292 ( 12 2 ) 2, 969 ③ 328 1 3 0 1 5 3 O 696 67 95 74 206 162 22 1 0 4 1 3 0 4 5 1 1 9 0 332 68 400 1 4 3 393 ( 9 8 ) 4 , 1 4 4 ①、母(通気製麹)、③、④(通気後密閉製麹) 麹を行った試験誌に比べて明らかに多く、 35Cで通気時 ためと考えられた。小豆麹中に遊離アミノ酸を多く蓄積 間が長いものが最もクエン酸最が多かった。③、④の密 させるには、密閉製麹によって胞子形成を抑えることが 閉製麹を行ったものは 30Cの試験院でクエン駿量が多 重要であった。酸性プロテアーゼ活性、酸性カノレボキシ かった。クエン畿発欝は好気的であり、密閉製麹を行っ ベプチダーゼ活性に大きな差はなかったが、 35Cで密閉 0 0 0 たものは、酸素量が制摂されクエン酸蚤が少なかったと 製麹することでより多くのアミノ酸を蓄積できることが 考えられた。③、④の密閉製趨を行った試験じまにおいて わかった。なお、発酵酒の麹として使用する場合は、ア も、クエン酸量は 1%以上あり、酸味は認められた。 ミノ酸は雑味となる可能性も有り、過剰に蓄積させる必 グ、ノレコース輩は、密閉製麹を行った試験区③、@で密 要はない。 閉時開が長いほど多くなる傾向にあった。また、密閉製 した試験底では 30Cに比べると 35Cの方が多くなる 0 4. 結び 0 傾向にあった。透気製麹を継続した試験臨①、②では、 小立を黒麹菌で、発酵した小豆麹の開発に取り組んだ。 グノレコアミラーゼ活性がかなり高いが、グノレコース量は 小立を累麹菌で発酵させる際に 30Cあるいは 35Cで 30 少ない。これは、黒麹菌の増殖及び路子形成にグノレコ一 時間通気製麹した後に密関環境にて 15~29 時間(合計 スが利用されたためと考えられた。 45~69 時間)製麹することで、路子形成を抑制した小豆 小豆には、タンパク繋が多く含まれ、黒麹菌の酸性プ 0 0 麹を調製できた。小立麹は、原料小豆に殆どない遊離ア ロテアーゼ活性、駿性カノレボキシベプチダーゼによって、 ミノ酸とクエン酸が築麹菌による発酵により生成し、新 タンパク 繋がペプチドやアミノ離に分解されて旨味が形 たな風味を手干していた。 F 成されることが期特できる。表 2 に小笠麹の遊離アミノ 文献 駿分析結果を示した。遊離アミノ酸量は、密閉製麹時間 が長いほど多い傾向にあり、 35C④の試験区が最も多か 1 ) 特簡 2008・263904 :小豆発酵食品 った。同じ温度条件の試験亙で比べると通気製麹を継続 2 ) 岩野君夫,三上重明,福田清治,能勢晶,推木敏 0 した試験匹のアミノ酸量は、密閉製麹した試験区の半分 日本醸造協会誌, 82,200 (1987) 以下となっていた。麹にすることで旨味のあるアミノ酸 3 ) 瀬戸口真治,山口巌,浜崎幸男 (グ、/レタミン酸、アスパラギン酸)がどの試験亙も多く 鹿児島県工業技 1988) 術センター研究報告 2, 13( 生成していた。タンパク質分解酵素の活性が高い通気を 4) 発酵と醸造血 (2003),光琳: 継続した試験区でアミノ酸最が低いのは、生成したアミ 5) 第 4 回改正富税庁所定分析法注解, ( 1990) ,日本醸 ノ畿の大部分が築麹磁の増殖及び胞子形成に利用された 造協会
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