http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/ Title Author(s) Citation Issue

 Title
Author(s)
脳性麻痺児の歩行におけるけりだし強化に関する研究
石原, みさ子
Citation
Issue Date
URL
2015-03
http://hdl.handle.net/10466/14464
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
大阪府立大学大学院
総合リハビリテーション学研究科
博士論文
脳性麻痺児の歩行における
けりだし強化に関する研究
Increased push-off improves gait in children with cerebral palsy
2015 年 3 月
石原
みさ子
目次
Ⅰ.
要約
1
Ⅱ.
第1章
1. 緒言
4
Ⅲ.
Ⅳ.
Ⅴ.
2.
3.
研究方法
結果
5
10
4.
考察
18
1.
緒言
21
2.
3.
研究方法
結果
21
23
4.
考察
27
1.
2.
緒言
研究方法
29
30
3.
結果
31
4.
考察
37
1.
緒言
2.
研究方法
39
40
3.
4.
結果
考察
43
45
第2章
第3章
第4章
Ⅵ.
まとめ
48
Ⅶ
文献
50
Ⅶ.
謝辞
54
Ⅰ. 要約 1. 研究の学術的背景 脳性麻痺(CP)児・者は,中枢神経損傷により,異常な筋緊張の分布や選択
的な運動コントロールの欠如などの一次障害に加え,筋の短縮や異常な骨成長
のために,代償的な運動パターンを習得しながら動作を獲得していくことが多
い。これらの問題に対し,従来の理学療法の多くは筋緊張のコントロールと持
続的ストレッチングを中心に実施されてきた。 CP 児・者を取り巻く世界的な環境は 1990 年代後半から大きく様変わりを示し
始めた。国ごとに定められていた CP の定義を,2004 年の国際ワークショップで
国際的に統一を図る事が試みられ,脳の非進行性の病変による,運動と姿勢そ
して活動に制限を呈する症候群であり,障害は成長の要素が加わって複雑に変
化をしていくものとされた。痙縮の増強などを理由に禁忌とされていた筋力ト
レーニングだが,健常児の約 50%程度の筋力しか発揮できない CP 児の著しい下
肢筋力低下を解決すべきだと,歩行可能な CP 児・者には積極的に取り入れられ
るようになってきた。 我が国の臨床場面では,歩行可能または歩行獲得を目指している CP 児の足関
節は,直接的な治療の対象とされることが多く,可動性が著しく乏しい尖足を
問題とし,立位台や下肢装具を利用した持続的ストレッチを実施する事で可動
性の増大をはかる事が多い。さらに,2010 年 10 月よりボツリヌス毒素を注射す
るボトックス治療が保険適応になった事から,筋緊張の亢進した状態を緩和す
るための積極的治療として取り入れられるようになり,国際的には筋力増強に
目が向けられている中,未だに可動性の増大を課題にすることが多い。 2. 研究の着想の経緯 歩行可能な CP 児・者においても,筋力は健常児・者より弱く筋容量も小さく,
下肢筋の弱化や選択的随意運動の障害は遠位部ほど強く出現することが分かっ
ている。また,小児期の足関節は運動力学的に股・膝関節と比べて未成熟であ
ることが指摘されている。CP 児・者の足関節は,疾患的な問題と発達学的な問
題を持つため,日常生活で足関節を十分に活用してない。しかし,足関節をト
1
レーニングする事で歩行機能が改善できるとする報告も散見されるようになっ
てきた。正常歩行において足関節底屈筋は,歩行の立脚中期から後期にかけて
体幹の支持性と下肢の振り出しに貢献している。そこで,近位部に対するトレ
ーニングや足関節の可動性を拡大するよりも,足関節底屈筋をトレーニングの
対象とすることで,抗重力伸展活動の改善やけりだしの強化による推進力生成
につながり,歩行機能改善に対する効果が高いと考えた。 3. 研究の概略 第 1 章では,7 週間の足関節底屈筋トレーニングの介入が,CP 児・者の歩行
機能を改善するかどうかについて,ABA’のシングルケースデザインで検討した。
国内における CP 児・者の歩行に関する先行文献は,症例報告が多く客観的な指
標による変化の検討は散見する程度である。そこで,CP 児・者の歩行の特徴と
介入による変化を,歩行能力を示す時間距離変数と歩行効率を示す COP 変数を
用いて表現することを試みた。CP 児・者の日常生活動作の中で十分に行なわれ
ることのない足関節底屈筋の反復運動をトレーニングとして行なうことで,CP
児・者の非効率な歩行が,歩幅などを含む歩行能力・歩行効率を有意に改善し
た。症例数は 3 例と少ないが客観的データとともに足関節底屈筋トレーニング
の有用性と“量の取り組み”の必要性を示すことができた。 一般に,足関節底屈筋の関与が多い強いけりだし歩行は,股関節の負担を軽
減すると言われている。もし CP 児・者の歩行においてもけりだしを改善するこ
とができれば,股関節に生じる二次障害を予防することができ,歩行機能の維
持につながる可能性があると考えた。そこで第 2 章では,CP 児の歩行のけりだ
しにおける足関節の運動力学的関与がどれほどであるのかを明らかにすること
を目的に行った。第 3 章では,股関節に依存した歩容を示す CP 児も強いけりだ
し歩行を短時間で習得し,足関節と股関節の運動力学的関係を即時的に変化さ
せることができるのかを検討した。さらに第 4 章では,足関節底屈筋トレーニ
ングを 12 週間実施することで,足関節底屈筋の関与の多い歩容に変化させるこ
とができるのかどうかを足関節と股関節の運動力学的変化を指標に検討した。 正常な運動パターンを未経験な CP 児・者が反復運動による筋の活性化や筋力
増強だけで歩行機能を改善させることは容易ではない。しかし,足関節底屈筋
2
をトレーニングすることにより,歩行機能の改善や歩行の推進力への関与の増
加が確認できた。また,CP 児の歩行にも足関節と股関節には相互作用の関係性
の存在が確認できた。 4. まとめ CP 児にとって,独歩の獲得や歩行という移動手段の保持は非常に実用的で特
徴的な意味がある。しかし,非効率な歩行を行う CP 児・者は股関節の過使用・
誤使用により股関節に痛みや変形性股関節症が生じ,青年期や成人期に歩行能
力は退化し失うとされている。歩行機能低下に対する対策は,環境に働きかけ
るとし,機能改善のための介入については言及されていない。しかし,今回の
研究結果は,CP 児・者の運動学習には量が必要であり,適切に足関節底屈筋を
機能させ歩行を変化させることができれば,歩行機能の維持につながる可能性
を示した。また足関節底屈筋トレーニングは,片麻痺 CP 児の足関節でのけりだ
し増加に働くばかりではなく股関節の過用を抑制する可能性を示した。足関節
底屈筋に焦点を絞った自己トレーニングの継続と足関節戦略を強調した歩行を
継続することで歩行能力の維持と社会参加の促進の一助になると期待している。 キーワード: 脳性麻痺児・足関節底屈筋・歩行・推進力 Key words: children with cerebral palsy, plantar-flexor, gait, power generation 3
Ⅱ. 第 1 章 足関節底屈筋トレーニングは脳性麻痺児者の歩行を改善する 1. 緒言 健常児の 50%程度の筋力しか発揮することができない 1)CP 児の著しい筋力低
下に対して,この問題を解決すべきだとする報告が 1990 年後半から見られるよ
うになった。Damiano ら 2)が CP 児に対して週 3 回 6 週間にわたって最大等張性
収縮力の 65%の負荷で大腿四頭筋の筋力増強を行なった報告では,有意な筋力増
強と歩容改善が確認された。前記の研究以後,CP 児に対する筋力トレーニング
が運動学的な変化をもたらし,歩行機能の向上につながるとする研究報告が相
次いでいる 3,4)。筋緊張が増加するという悪影響が懸念されていたが臨床上の問
題は生じない 2,5)ことが確認されている。つまり,従来は禁忌とすらされてきた
筋力トレーニングが,CP 児の異常な歩行パターン改善に効果が期待され,運動
療法の転換期にさしかかっていると言える。 いったん独歩を獲得した CP 児の約 45%が 18 歳以降に歩行機能を失う 4)ことか
らも分かるように,成人 CP(以下,CP 者)の歩行機能の維持および改善は,CP
児のそれ以上に難しい。CP 者(平均 31 歳,23~44 歳)に対して下肢筋力トレー
ニングを行なった研究では,筋力と粗大運動能力および歩行速度の改善を報告
している 3)。この研究では成人期以降の CP 者への筋力トレーニング適応の可能
性を示しているものの,膝・股関節周囲筋の結果が報告されているのみであり,
足関節周囲筋の結果は触れていない。CP 児・者の足関節背屈筋力は健常者に比べ
て約 50%,底屈筋力は約 35%と言われ 6),麻痺の程度に関係なく CP 児は歩行のた
めの推進力を股関節で生成し,足関節は歩行中の推進力に十分関与していない
関節である 7)。このため,歩行の推進力を生み出す底屈筋群へのトレーニング効
果は,検討の必要性が非常に高い。Engsberg らは痙直型 CP 児に 12 週間足関節
筋力トレーニングを行い,筋力増強だけでなく機能,歩行スピード,QOL が改善
したと報告した
8)
。McNee らの研究では,10 週間の足関節底屈筋力増強訓練を
CP 児に行ったところ,足関節底屈筋の筋容量は増大し歩行パターンや歩行機能
の改善は見られたが統計学的有意差には至っていなかった。足関節底屈筋だけ
を対象にしたトレーニングプログラムでは効果が限局されるが,痙直型 CP 児の
4
筋成長不全を改善し,運動学習の効果だけでなく,筋肥大による随意筋の筋力
増強につながる 9)としている。 足関節底屈筋は,特に歩行周期における立脚中期と後期にかけて身体の姿勢
制御と前方への推進力を提供している 10)。そこで,CP 児・者への足関節底屈筋
トレーニングが歩行機能を改善すると仮説し検討を行なった。足関節底屈筋ト
レーニングにより改善する機序として以下の 2 つを仮定した。第一に,足底屈
-膝伸展結合(plantar flexion knee-extension couple)11)が回復し,姿勢制御
のための過剰で非効率な運動代償が減少する。立脚期に下腿の前傾がゆっくり
と生じるように足関節底屈筋が働くと,足部のレバーアームに作用する床反力
は膝の前方を通り,膝の伸展モーメントを生成する。このモーメントにより膝
伸展筋の活動を必要とせずに,膝関節の安定性を提供することができる。一般
にこのモーメントが足底屈-膝伸展結合と呼ばれる
11)
。第二に,姿勢制御の安
定化と推進力増加により,踵から足趾方向への安定した重心移動が生じるよう
になる。 2. 研究方法 1)対象 歩行機能の維持改善を目的に通院している CP 児・者のうち以下の 4 条件を満
たす 3 名を対象とした。1,裸足で 10m以上の連続歩行が可能で更衣等の身の回
りのことを自分で行なっている。2,著明な感覚障害が無い。3,口頭指示の理
解が可能で指示を理解し興味を持って取り組むことが出来る。4,本研究に対し
保護者の協力が得られる。 本人および保護者に研究について説明し書面にて了解を得た。なお,本研究
は研究倫理委員会で了承された(09-101)。 (1)症例 1 9 歳(小学 3 年生)の痙直型両麻痺男児。身長 123 ㎝・体重 24 ㎏・足関節背
屈(膝伸展位)右 0°・左 10°,底屈左右 35°。脳性麻痺児のための粗大運動
能力システム(Gross Motor Functional Classification System for Cerebral Palsy : GMFCS)レベルⅢ。地域の普通学級に通学中。在胎 35 週,1995g で出生。
生後 7 ヶ月(修正 5 ヶ月)のときに発達の遅れと脳室周囲白質軟化症を指摘さ
5
れた。生後 11 ヶ月目から Vojta 訓練を開始。ハムストリングスに生じた非神経
学的な筋の短縮による膝の伸展制限(特に右)は十分に改善せず,平成 21 年 8
月両側ハムストリングス延長術を他院で実施した。右下肢は膝屈曲,股関節内
転内旋傾向が強く,治療課題が多い下肢(affected side : AS)であった。左
下肢は術前から他側より支持性があり機能が良好な下肢(better side : BS)
であった。股関節伸展方向の動きは理解できているが,十分に再現は出来ない。
下肢の関節可動域は全て最終域に抵抗感を有する。立脚期を通して足関節の動
きは正常な歩行パターンに類似するが,膝・股関節を過度に屈曲を示す「見か
け尖足」歩行
12)
を示し,前傾した下腿を起こしきれないため荷重時に踵が接地
することはない。 (2)症例 2 12 歳(中学 1 年生)の左右差が著明(右が AS)な痙直型両麻痺男児。身長 164
㎝・体重 48.5 ㎏・足関節背屈(膝伸展位)右-5°・左 10°,底屈左 40°・右
30°。GMFCS レベルⅡ。地域の普通学級に通学中。在胎 40 週。2904gで出生。
切迫仮死。定頚は 4 ヶ月で獲得したが,坐位獲得や四つ這いの獲得に時間を要
した。2 歳頃から歩くようになった。この時磁気共鳴画像(magnetic resonance image: MRI)で脳萎縮を指摘され,理学療法を開始した。右足の尖足および膝
屈曲位での歩行を改善するために,平成 21 年 3 月に右アキレス腱延長術および
右ハムストリングス延長術を他院で実施。平成 21 年 8 月,歩容の改善を希望し
て来院,週 1 回外来理学療法(Physical Therapy:PT)を開始した。下部体幹の
持続的な抗重力伸展活動が乏しく,動作に伴う右上肢の引き込みが目立った。
術後も右尖足の十分な改善が得られず,膝に得た可動性を利用して右膝を後方
に押し付け,股関節を屈曲位に保ったままの歩容を示していた。左足関節は底
背屈運動が可能で,10 秒ほどの片脚起立が可能である。 (3)症例 3 21 歳痙直型両麻痺女性。身長 165cm・体重 52.0kg・足関節背屈(膝伸展位)
右 0°・左-5°,底屈左右 40°。下肢に著明な可動域制限を有し静止立位は困
難だが,独歩可能(GMFCS レベルⅡ)。障害者の自立支援を応援する非営利団体
が運営する会社でクッキーの製作販売をしている。在胎 40 週。3020gで出生。
検診では発達の遅れを指摘されることなく過ごし,伝い歩きを始めた頃に CP の
6
診断を受けた。5 歳時に腸腰筋の延長術を受け,しばらく外来通院をしていた。
小・中学校は地域の普通学級で過ごしていたが,高校からは特別支援学校へ通
い,卒業後は 1 年間全寮制の職業訓練学校に通っていた。歩行機能の維持を目
的に来院し,平成 20 年春より PT フォローを開始した。両股関節に著明な可動
域制限(特に左:AS),両変形性膝関節症,足関節の著しい可動域制限,足部の
代償的な過剰な運動性と変形を有しているが,痛みの訴えはない。股関節屈曲・
内旋位をとっている右下肢(BS)は,体幹の回旋と骨盤の挙上・回旋を利用し
振り出している。頻繁に転倒しているがクラッチの使用には消極的である。 2) 研究デザイン ABA’によるシングルケースデザインを設定した。独立変数は足関節底屈筋ト
レーニングであり,従属変数は歩行機能に関するパラメータを評価測定した。 ベースライン(A)は,外来 PT および従来行っていた自主トレーニング(上
肢体幹筋力トレーニング)を行い,7 週間データを計測した。介入期(B)は,従
来通りの取り組みの他に足関節底屈筋トレーニングを週 3 回行い,7 週間データ
を計測した。後介入(Post Intervention:PI)期(A’)を 7 週間設定し,通常
の外来 PT を行なった。それぞれの期間で外来 PT 実施前に歩行に関するパラメ
ータのデータ計測を行なった。時間距離変数は 2~3 週に 1 回,足圧中心(Center of pressure:COP)は毎回計測した。外来 PT は従来どおり実施した(週 1 回,
1 回 60 分)。全ての研究は平成 22 年 3 月から 8 月の間に実施した。 (1) 足関節底屈筋トレーニングプログラム (図 1) 介入期に実施した足関節底屈筋トレーニングは週 3 回,7 週間自宅で自主的に
実施できる内容のものを指導した。 プログラムは休憩を入れながら 1 日 1 回 50 分程度で出来るものを設定した。 ①:ウォーミングアップとして壁もたれ立位で下肢屈筋群のストレッチを行
い,筋の柔軟性向上を図る。(5~10 分) ② : 長 坐 位 を と り エ ラ ス テ ィ ッ ク バ ン ド ( Thera-Band, The Hygenic Corporation, USA)を用いて足関節底屈方向への抵抗運動を左右それぞ
れに 20 回ずつ5セット繰り返し行なう。 ③:高這い位になり膝・足関節を荷重下で屈曲・伸展を繰り返し 20 回ずつ 5
7
セット行なう。 ④:壁を支持した状態で,踵上げトレーニングを 20 回ずつ 5 セット。 ⑤:クールダウンとして壁もたれ立位を行なった。(5~10 分) 実施状況を確認することを目的にチェックリストを作成し自分で記入させた
(母親には実施状況をチェックするように依頼した)。また,自主トレーニング
内容を正しく実施できているかどうかを外来 PT 実施時に評価した。 a
c
d
b
図1. 足関節底屈筋トレーニングプログラム (1 回/日. 3 日/週)
図1. ⾜足関節底屈筋トレーニングプログラム (1回/⽇日 3⽇日/週)
a 壁もたれ立位(ウォーミングアップ・クールダウン)
b エラスティックバンドを用いた抵抗運動
c 高這い位での膝・足関節の屈曲伸展運動
d 踵上げトレーニング
3)評価項目 歩行機能に関連したパラメータは,歩行能力として時間距離変数を,歩行効
8
率として COP 変数を測定した。 (1) 歩行能力 助走・追走区間のある平坦な直線路で中間 10m の平常歩行による歩行時間と
歩数を計測した。さらにケーデンス,歩幅を算出した。Abel らによると,健常
児(10 名,10.5±2.5 歳,5~14 歳)の歩行速度,歩幅および歩行率の平均値は
それぞれ 66.6m/min, 0.540m, 123step/min であった 4)。 (2) 歩行効率 COP は足圧分布測定システム(ニッタ株式会社 F-Scan)を用いて,市販のバ
レーシューズにセンサーシートを装着し 10m 歩行路で平常歩行を行ないサンプ
リング周波数 50Hz で計測した。測定は 4 回行ない第 2・第 3 試行の歩行路中央
部 3 歩行周期を分析対象とした。なお歩行中の転倒防止のために複数の測定者
が近位監視しバランスを崩した時には介助ができるようにした。計測中に大き
な動揺が生じた時には次の試行のデータを利用した。 解析ソフトから算出された COP 座標データに基づき次の 3 指標(図 2)を定義
した。 進行方向
⾜足底⻑⾧長(100%)
COP移動量量
逆行率(%):
進行方向に逆行した時間。
1立脚時間で正規化。
Heel Point
1立脚時間(
%)
健常者のCOP指標の例例
図 2. COP 指標 成⼈人CP者のCOP指標の例例
Heel Point(%)
:1 立脚期中に観察された COP の最踵側座標点から Y 座標(進行
方向)を足底長で正規化し表示した。なお踵側を 0 とした。 9
COP 移動量(%):1 立脚期中に COP が Heel Point から進行方向へ変位した長さ で,足底長で正規化し表示した。 COP 逆行率(%)
:COP が進行方向に逆行した時間で,1立脚期時間で正規化し表
示した。 Heel Point と COP 移動量は足関節及び足部の運動性を示す変数,逆行率は歩
行の非効率性を表す変数と定義した。Heel Point がより踵側へ移行し COP 移動
量が増加すること,COP 逆行率が低下することを改善と捉えた。健常児・者(4
名,25±14.5 歳,8~48 歳)に対して行ったパイロット研究では,踵接地時に
は踵から足底長全体の 14.2±1.6%に Heel Point があり,足先に向けて 66.2±
3.9%の移動量がある。ほぼ一方向性の軌跡を示し,逆行率は 9.4±4.2%であった。 4)データ分析 データは 2standard-deviation band method(以下 2SD 解析)を用いて分析し
た。2SD 解析はベースラインのデータが少ない(10 個以下)場合に利用され 13,14),
ベースラインのデータにばらつきがある場合に有効であると言われている。2 連
続以上のデータポイントがベースライン期の平均値±2SD(標準偏差)の値より
大きいもしくは小さい場合は,統計学的な有意差(p<0.05)があるとみなす 13)。 3. 結果 全症例が足関節底屈筋トレーニングプログラムを脱落無く実施した。 介入により全症例の歩行機能に有意な改善が見られた。 1) 症例 1 歩行能力(図 3)は,歩行時間および歩幅が介入期で改善傾向を示し・PI 期
で有意に改善した。歩行効率(図 4)におけるベースライン期の Heel Point 平
均値は BS が 65.7%,AS が 68.3%であった。COP 移動量平均値は BS が 27.8%,AS
が 20.5%,COP 逆行率平均値は BS が 32.5%,AS が 37.5%であった。歩行効率は,
左右ともに統計学的に有意な改善は示さなかった。AS(affected side)は,介入
期で逆行率のばらつきが大きくなった。しかし BS (better side)は,介入期・
PI 期で Heel Point が踵側へと移行し,COP 移動量は改善傾向を示した。逆行率
は変化を認めなかった。 10
18
0.5
平均歩幅(m)
時間(
sec.)
16
14
12
0.45
0.4
0.35
0.3
10
ケーデンス(
steps/m in)
160
140
120
100
80
図3. 症例1の歩行能力および2SD解析の結果 実線:ベースライン期の平均値
点線:±2SD
結果は2standard-deviation band methodを用いてベースライン期と介入期・
後介入期の変化を比較。
2つの連続したデータポイントがベースライン期の平均値±2SDの値より
大きいもしくは小さい場合は統計学的な有意差(p<0.05)がある。
11
COP逆行率
Heel Point
100
70
90
60
70
逆行率(%)
heel point(%)
80
60
50
40
50
40
30
20
30
20
10
10
0
0
70
100
60
90
80
逆行率(
%)
50
heel point(%)
70
60
50
40
40
30
30
20
20
10
10
0
0
COP移動量
60
移動量(%)
50
40
30
20
10
図4. 症例1の歩行効率および2SD解析の結果
実線: ベースライン期の平均値
点線: ±2SD
0
■:臨床的に機能が良好 □:臨床的に課題が多い
60
移動量(
%)
50
40
30
20
10
0
結果は2standard-deviation band methodを用い
てベースライン期と介入期・後介入期の変化を
比較。
2つの連続したデータポイントがベースライン期の
平均値±2SDの値より大きいもしくは小さい場合は
統計学的な有意差(p<0.05)がある。
12
12
0.7
平均歩幅(
m)
時間(sec.)
11
10
9
8
0.6
0.5
7
6
0.4
ケーデンス(steps/m in)
130
120
110
100
90
図5. 症例2の歩行能力および2SD解析の結果 実線:ベースライン期の平均値
点線:±2SD
13
COP逆行率
Heel Point
50
40
40
逆行率(%)
heel point(%)
30
30
20
20
10
10
0
0
50
40
40
逆行率(%)
heelpoint(%)
30
30
20
20
10
10
0
0
COP移動量
80
70
移動量(%)
60
図6. 症例2の歩行効率および2SD解析の結果
50
40
30
20
実線: ベースライン期の平均値
点線: ±2SD
10
■:臨床的に機能が良好 □:臨床的に課題が多い
0
80
70
移動量(
%)
60
50
40
30
20
10
0
14
0.55
平均歩幅(
m)
時間(sec.)
20
15
10
0.5
0.45
0.4
0.35
ケーデンス(steps/m in)
5
0.3
130
125
120
115
110
105
100
95
90
85
80
図7. 症例3の歩行能力および2SD解析の結果 実線:ベースライン期の平均値
点線:±2SD
15
COP逆行率
Heel Point
60
70
60
逆行率(%)
H eel P oint(%)
50
40
30
50
40
30
20
20
10
10
0
0
70
60
60
50
逆行率(%)
H eel P oint(%)
50
40
30
40
30
20
20
10
10
0
0
COP移動量
60
移動量(%)
50
図8. 症例3の歩行効率および2SD解析の結果
40
30
20
実線: ベースライン期の平均値
点線: ±2SD
10
0
■:臨床的に機能が良好 □:臨床的に課題が多い
60
移動量(%)
50
40
30
20
10
0
16
2) 症例 2
介入期の全ての歩行能力(図 5)指標が改善傾向にあり,歩行時間は有意に改
善した。しかし,PI 期では,有意な改善の持続は得られなかった。歩行効率(図
6)におけるベースライン期の Heel Point 平均値は BS が 28.6%AS が 32.2%であ
った。COP 移動量平均値は BS が 55.2%AS が 48.2%,COP 逆行率平均値は BS が
20.2%AS が 16.3%であった。歩行効率は,BS の Heel Point が踵側へと移行し,
逆行率が有意に改善した。AS では,介入期・PI 期の Heel Point が有意に踵側
へ移行したが,介入期の移動量に有意な改善がなく,PI 期でわずかに改善を示
した。逆行率には有意な改善はなかった。
3) 症例 3
歩行能力(図 7)は,介入期に変化はなく PI 期においても有意な変化を認め
なかった。歩行効率(図 8)におけるベースライン期の Heel Point 平均値は BS
が 36.8%,AS が 37.1%であった。COP 移動量平均値は BS が 41.7%,AS が 29.7%COP
逆行率平均値は BS が 26.6%AS が 39.2%であった。歩行効率は,介入期・PI 期で
BS の Heel Point が有意に踵側へ移行し,COP 移動量が有意に改善した。AS の
Heel Point と移動量は介入期後半で改善傾向を示したが,PI 期で有意に前足部
へ移行し COP 移動量が減少した。逆行率は AS,BS どちらも有意な変化を認めな
かった。
4. 考察
7 週間の足関節底屈筋トレーニングが歩行機能を改善するという仮説を,歩行
能力を示す時間距離変数と歩行効率を示す COP 変数を用いて ABA’のシングルケ
ースデザインで検討した。その結果,2 症例は,歩行能力と歩行効率に有意な改
善,1 症例は歩行効率に有意な改善を示し,仮説を支持する結果となった。
CP に対する筋力トレーニングの効果は,即時的な効果だけではなく持続性が
ある 16) と言われている。12 週間の足関節筋力トレーニングを行なった研究では,
筋力の増強を認めるが足関節可動域や痙縮には統計学的有意差は生じなかった。
トレーニング期間を 12 週間にすることで神経・筋の両方の肥大要素が期待でき,
筋力増強だけでなく機能,歩行スピード,QOL が改善し 6 週間トレーニングを行
った他の研究より有意な効果があったとしている 8) 。
17
CP は脳損傷により痙性麻痺と中枢性筋力低下が生じ, 痙性麻痺が筋の短縮と硬
化に,中枢性筋力低下が筋萎縮につながる。これらの筋の特徴を持つ CP 児・者
の運動機能を高めるためには一定の活動状態が必要であり,神経成熟には活動
依存性で豊富な刺激が必要である
17)
と言われている。また,筋容量は活性化の
程度に依存しているため,CP 児の下肢筋は健常者の 50%程度の筋容量しかない
18)
。10 週間の足関節底屈筋筋力トレーニングを CP 児に行った研究 9) では,足関
節底屈筋の筋容量が有意に増大した。歩行パターンや歩幅・歩行スピード・機
能にも改善は見られたが統計学的有意差にはいたっていなかった。しかし,本
研究では CP 児・者の日常生活動作の中で十分に行なわれることのない足関節底
屈筋の反復運動をトレーニングとして行なうことで,歩幅などを含む歩行能
力・歩行効率を有意に改善することが出来た。硬化に,中枢性筋力低下が筋萎
縮につながる。これらの筋の特徴を持つ CP 児・者の運動機能を高めるためには
一定の活動状態が必要であり,神経成熟には活動依存性で豊富な刺激が必要で
ある
17)
と言われている。また,筋容量は活性化の程度に依存しているため,CP
児の下肢筋は健常者の 50%程度の筋容量しかない
18)
。10 週間の足関節底屈筋筋
力トレーニングを CP 児に行った研究 9) では,足関節底屈筋の筋容量が有意に増
大した。歩行パターンや歩幅・歩行スピード・機能にも改善は見られたが統計
学的有意差にはいたっていなかった。しかし,本研究では CP 児・者の日常生活
動作の中で十分に行なわれることのない足関節底屈筋の反復運動をトレーニン
グとして行なうことで,歩幅などを含む歩行能力・歩行効率を有意に改善する
ことが出来た。
症例 1 の Heel Point が踵側へ移行傾向にあることは,足関節底屈筋による抗
重力伸展活動が強化され下腿の前傾が改善したことが推察される。さらに足底
内の重心移動が向上し,COP 移動量が増加傾向を示したと考えた。これらは足底
屈-膝伸展結合の改善により下肢の支持機能が向上し,歩幅を延長させること
につながったと推察した。PI 期における歩幅の有意な延長とケーデンスの増加
傾向が 10m歩行時間の短縮につながった。歩幅の有意な延長は,膝・股関節の
可動域の拡大が考えられ,この背景には筋緊張の改善により交叉性運動が容易
になったことが示唆される。一方,介入期の AS の COP 逆行率のばらつきは歩行
スピードの変化に対応できなかったためと推察した。PI 期で COP 逆行率のばら
18
つきが小さくなったことでリズミカルな歩行を可能にし,ケーデンスの増加傾
向につながったと考える。
症例 2 は足関節底屈筋トレーニングが即時的に効果を示した。介入期では歩
幅とケーデンスの増加傾向が相まって 10m歩行時間の短縮につながった。BS の
有意な COP 逆行率の減少が歩行をスムーズにした反面,AS では歩行スピードに
対応しきれず COP 逆行率のばらつきが増大したと考える。PI 期に AS の Heel
Point が有意に踵側へ移行した背景の1つには,荷重時における足関節の可動性
改善が推察される。2 つ目には立脚中期以降に股関節を屈曲し膝の伸展を利用し
た足底接地期が生じた可能性が挙げられる。計測を開始する 1 年ほど前に行な
った観血的な介入で膝の運動性は増加したが尖足は改善せず,立脚期には異常
な足底屈-膝伸展結合が生じ下腿を前方へ送ることが出来ない。そのために行
った努力性の歩行が PI 期の歩行時間延長に関与した可能性がある。
症例 3 では,足関節底屈筋トレーニングを通して踵上げという運動に気づき,
歩容改善に対する関心が高まるという心理的変化が観察された。PI 期の AS で
COP 移動量及び Heel Point に有意な増悪を認めた。この増悪が,歩幅及びケー
デンスの減少傾向につながった。幼少時に下肢のアライメント調整を目的に手
術を行なったが,成長に伴い著しいアライメント不良を有した本症例の歩行機
能を変化させることは困難であった。しかし本研究では介入期の BS で COP 移動
量及び逆行率に有意な改善,AS にも改善傾向を認めた。18 歳以上の成人 CP 者
に対して坐位で 8 週間の漸増抵抗運動を行なった研究では,繰り返し行なった
トレーニング動作は上達したが,筋力も歩行も改善しなかった。歩行機能を改
善するためには,歩行に焦点を絞って機能的で目的に直結した内容が適切では
ないかと考察されている 19) 。
今回の研究では,歩行効率を検討する指標として COP 変数を用いた。CP 児・
者は,足部の運動性・前方への推進力・姿勢制御に問題を有するため,接地時
の点が Heel Point ではなく,1 立脚期中に進行方向と逆の軌跡が繰り返し生じ
ること,前足部のみに軌跡が生じることがある。そこで足部の運動性を捉える
指標として COP 移動量と Heel Point を,歩行の非効率性を捉える指標として COP
逆行率を用い検討した。既に報告した個人内左右比較結果では AS の逆行率が高
く,Heel Point が前側(足趾側)に位置し,移動量が小さい事が明らかとなっ
19
ており
20.21)
,単肢下肢機能を評価する指標として有用性が高いことが示唆され
る。また,症例 3 の結果からは, COP 変数は時間距離変数に表れない微細な機
能変化を捉えることの出来る指標である可能性が示唆され,臨床的変化を鋭敏
に反映すると期待される。しかし,同一症例内でのばらつきが大きく,評価結
果の妥当性について今後検討していく必要がある。
本研究の限界として以下の 2 つがあげられる。トレーニング開始後 3~5 週間
で筋が活性化されて筋力が増強し,その後に筋肥大が続くといわれている 9) 。そ
のため介入期間を 6 週以上と設定する研究が多い。今回の研究では筋が活性化
し肥大する時間を考慮し,介入期間を 7 週間とした。しかし,十分に筋肥大が
生じパフォーマンスに反映され安定した状態になるまで計測するには,介入期
間をより長く設定し再検討すべきかもしれない。また,本研究では足関節底屈
の反復運動による直接的な介入効果の測定を実施していない。今後は筋が活性
化されたことでもたらされる筋容量を測定しトレーニング効果をさらに明確に
していきたい。
20
Ⅲ. 第 2 章 脳性麻痺児・者の歩行における股関節と足関節の運動力学的関係 1. 緒言 歩行可能な脳性麻痺(CP)児・者でも筋力は健常児・者より弱く筋容量も小さ
い 1.9.22)と言われている。下肢の選択的随意運動の障害や筋の弱化も遠位ほど強
く出現する 1)。そのため CP 児・者は,足関節を十分に活用していないと考えられ
る。しかし,足関節底屈筋トレーニングをすることで,歩行機能が改善する 23)
という報告のほか,筋容量が増加する 9)と報告されている。健常成人では,強い
けりだし歩行をすると,足関節底屈力積が増加すると同時に股関節のモーメン
トや力積が減少し,足関節と股関節にはトレードオフの関係がある 24)と言われ
ている。 CP 者に見られる変形性股関節症は,股関節の過用や誤用によって助長される
二次障害の 1 つであり,歩行機能を失う原因の 1 つである。いったん独歩を獲
得した CP 児・者の 44.8%は 18 歳以降に歩行能力を失う 25)。25 歳までに歩行機
能を失うものの多くは非効率さによることが多く,45 歳までに歩行機能を失う
者の多くは関節痛が主な原因である 26)。正常歩行分析の結果から,歩行におけ
る力源は立脚初期の股関節伸展筋と後期の足関節底屈筋と股関節屈筋の働きと
される 27)。足関節底屈運動による強いけりだしは,歩行時の重心を前方と上方
へ推進し,支持脚が重心を前方へ押し出す時の股関節伸展モーメントを減少さ
せることにつながり,さらには股関節屈曲モーメントやパワーも減少させるこ
とにつながる 28)と言われている。CP 児・者の歩行のけりだしを改善することは
股関節への負担を軽減し,歩行機能の維持につながる可能性があると考えた。 そこでまず,CP 児・者の歩行中のけりだしにおいて,足関節の運動力学的関
わりがどれほどであるのかを明らかにする必要があると考え,本研究では,片
麻痺 CP 児・者における歩行時の足関節と股関節の運動力学的関係を明らかにす
ることを目的とした。 2. 研究方法 1)対象 21
地域の普通学級に通学している 10m以上の連続歩行が可能な片麻痺 CP 児・者
3 名(14,13,10 歳の男子)と年齢を合わせた健常児・者 3 名(コントロール群)
を対象とした(表 2-1)。 本人および保護者に研究について説明し書面にて了解を得た。本研究は大阪
府立大学総合リハビリテーション学部研究倫理委員会で了承された(2011P02)。 2)方法および計測 計測には 3 次元動作解析装置 Motion Capture( Motion Analysis 社製),床反
力計(AMTI 社製)2 枚,赤外線カメラ 10 台(サンプリング周波数 200HZ)を用
いた。対象者に反射マーカーをヘレンレイズマーカーセットに従って貼付し,
床反力計の上を歩く練習を十分に行わせた後,裸足での通常歩行を記録した。
データの処理にはオルソトラック(ver.6.5.3)を用いた。歩行は左右それぞれ
の接地時から接地時までを一歩行周期とし,矢状面での下肢関節可動域および
運動力学的指標として足関節と股関節における矢状面の関節モーメントと関節
パワーを算出し,それぞれを体重で正規化した。関節モーメントはピーク値を
算出した(Nm/Kg)。関節パワー(W/Kg)29)は Eng らのプロトコールに従い,立脚
初期の股関節伸展筋による推進力を H1,股関節の制動力 H2,股関節屈筋による
22
推進力 H3 とした。足関節でも同様に,下腿三頭筋による制動力 A1,下腿三頭筋
による推進力 A2 とした(図 2-1)。それぞれのピーク値および足関節・股関節パ
ワーピーク比(A2/H3 比)を算出した。A2/H3 比は,けりだしにおける足関節底
屈と股関節屈曲の関与の割合を示し,足関節の寄与率が股関節に対して高い程
高値を示す。 Ankle
Power (W)
Moment (Nm)
Hip
A1
図22--11.. 11歩行周�期における一般的な下肢関節のモーメントとパワーデータのグラフ
足関節底屈�・股関節伸展モーメントは正の値。
HH11は股関節伸展パワー生成、HH22は股関節屈�曲パワー制動、HH33は股関節屈�曲パワー生成を示す。
AA11は足関節底屈�筋によるパワー制動、AA22は足関節底屈�筋によるパワー生成を示す。
統計学的検討には,健常児・者の非利き下肢データ(コントロール群)および
片麻痺 CP 児・者の麻痺側および非麻痺側データを対象者ごとに左右 5 歩行周期
分用いた。年齢を合わせたコントロール群と CP 児・者の比較を,Kruskal-Wallis
の検定および Steel-Dwass の多重比較により行った。有意水準は 5%未満とした。 3. 結果 同年齢ごとにコントロール群及び CP 児の非麻痺側・麻痺側で比較検討を行っ
た。足関節底屈モーメントピーク値は 14 歳及び 13 歳では有意差は無く,10 歳
でコントロール群に比較して非麻痺側,麻痺側の順で有意に低値を示した。股
関節屈曲モーメントは,14 歳及び 13 歳はコントロール群に比べて有意に高値を
示した。10 歳では麻痺側は高値を示すが,有意差は示さなかった(図 2-2)。 A2 パワーピーク値は,14 歳では有意差は示さなかった。しかし,13 歳及び 23
*:
**:
(
0
-0.4
*
*
-0.8
-1.2
*
*
*
*
*
健常児
-1.6
非麻痺側
麻痺側
図2-2. けりだしにおけるモーメントピーク値
グラフは平均値±1標準偏差を示す。
足関節底屈モーメントピーク値は10歳でコントロール群に比較して非麻痺側,麻痺側の順で有意に低値を示した。
股関節屈曲モーメントは,14歳及び13歳はコントロール群に比べて有意に高値を示した。
24
*:
**:
8
**
6
*
4
*
*
**
*
2
*
*
0
健常児
14Y
13Y
10Y
非麻痺側
麻痺側
図2-3. けりだしにおけるパワーピーク値
グラフは平均値±1標準偏差を示す。
A2パワーピーク値は,13歳及び10歳では,非麻痺側,麻痺側の順コントロール群より有意に低値を示した。
H3パワーピーク値では,14歳及び13歳で非麻痺側,麻痺側の順で有意に高値を示した。
25
*: vs control
**: vs uninvolved side p<0.05 A2/H3power ratio
12 8 *
*
*
4 *
*
**
健常児
*
0 14Y 13Y 非麻痺側
10Y 麻痺側
図2-4. A2/H3比 グラフは平均値±1標準偏差を示す。 A2/H3比は全ての年齢でコントロール群に比べて,非麻痺側,麻痺側は有意に低値を示し, 麻痺側は非麻痺側より低値を示す傾向にあった。 26
10 歳では,非麻痺側,麻痺側の順コントロール群より有意に低値を示した。
H3 パワーピーク値では,14 歳及び 13 歳で非麻痺側,麻痺側の順で有意に高値
を示した。10 歳では有意差は示さなかった(図 2-3)。
A2/H3 比は全ての年齢でコントロール群に比べて,非麻痺側,麻痺側は有意に
低値を示し,麻痺側は非麻痺側より低値を示す傾向にあった(図 2-4)。
4.
考察
本研究は片麻痺 CP 児・者 3 名を対象に,歩行時の足関節と股関節の運動力学
的関係を明らかにするため,けりだしにおけるモーメントピーク値およびパワ
ーピーク値について,コントロール群の非利き下肢及び片麻痺 CP 児・者の非麻
痺側・麻痺側との比較を行った。けりだしにおける足関節底屈と股関節屈曲の
関与の割合を示す A2/H3 比の結果は,コントロール群に対して CP 児・者の足関
節の寄与率は有意に低く,麻痺側は非麻痺側よりも低いことを示した。つまり,
CP 児・者の歩行において足関節は推進力としての機能を十分に発揮せず,股関節
を過用していることがうかがえた。
神経機構の成熟は活動依存性である 17)と言われ,豊富な活動量が必要である。
しかし CP 児・者の足関節は,疾患的特徴である下肢の選択的随意運動における
股関節の有意性と発達学的な成熟の遅さのため,十分に活用されていない。ま
た臨床場面において,歩行時に下肢に支持性を持たせるため,または尖足を改
善するために装具を装着することがある。装具の着用は運動性を制限すること
が多いため,より一層運動のチャンスを失う。 使えないそして使わない足関節
は歩行機能に見合うだけの成熟には至らず,股関節を過用することが考えられ
る。
Raid ら 7)は,片麻痺 CP 児の歩行における主なエネルギー生成は両側ともに足
関節から股関節にシフトしていることを指摘し,股関節に対しては積極的に筋
力訓練を行い,足関節に対しては協調性の改善を奨励している。しかし, CP 児・
者の足関節底屈筋のトレーニングは,筋容量の増加や歩行機能の改善につなが
る 9.23)。足関節底屈筋をトレーニングする,つまり筋の柔軟性の増加や活性化及
び筋力の強化だけではなく,運動方向の学習,パフォーマンスに応じた足関節
底屈運動のタイミングの学習,荷重下での足底内での重心移動の学習などを促
27
す。これによりけりだしが改善され,さらにパフォーマンスの中でその動作が
繰り返されることで,股関節への負担の軽減につながり,歩行機能を維持する
可能性があると考える。Raid らのように CP 児・者の運動力学特徴を強化するだ
けではなく,足関節に対して積極的に介入し問題を解決していく取り組みが必
要であると考える。歩行機能を維持することは,単に運動機能の維持を意味す
るのではなく CP 児・者にとっては 移動手段の選択肢を増やし QOL 拡大につな
がる大切な要素である。
本研究の限界の 1 つは,対象症例が 3 組にとどまった事,加えて年齢をマッ
チさせたコントロール群の歩行にも特徴があり,今回の結果が CP 児・者の一般
的特徴であるとするためには,さらなる症例数の検討が必要である。また,モ
ーメントやパワーは歩行速度との関連も指摘されているため,実験条件として
は歩行速度を一定にすることがより望ましい。しかし CP 児・者にとって,歩行
速度やケーデンスを一定にコントロールすることは難しく,CP 児・者の研究を
行う上で避けがたい限界の 1 つと考えられた。
28
Ⅳ.
第3章
脳性麻痺児・者における「けりだし」強化が足関節と股関節に与える即時効果
1.
緒言
歩行時の立脚中期から遊脚初期にかけて 2 つの戦略がある 28)。1 つは足関節戦
略で,健常な若者の歩行に多くみられ,足関節底屈を利用したけりだしが推進
力に貢献する。もう 1 つは股関節屈曲筋戦略であり,主に股関節屈曲筋群の働
きが前方への推進力と下肢の振出しに貢献する。筋骨格モデルによるシミュレ
ーション研究において,歩行時の腸腰筋の出力低下は腓腹筋の出力増加につな
がり,逆に腓腹筋の出力低下は腸腰筋の出力増加につながると指摘されている
30)
。健常者に強いけりだし歩行をするように,簡単な指示を伝え短時間の練習を
行うと,足関節底屈モーメントピーク値やパワーピーク値に変化はないが,足
関節底屈力積は 27%増加し,股関節の屈曲モーメントピーク値や力積,パワー
ピーク値が即時的に減少した
24)
。また,股関節周囲筋の機能回復の不十分さを
足関節で代償している人工股関節全置換術患者に,弱いけりだし歩行をさせる
ことで股関節の機能回復につなげることが出来ると報告されている 31)。つまり,
足関節と股関節には相互補完の関係があり,足関節戦略と股関節戦略はトレー
ドオフの関係にある 24)。
股関節の痛みは, 歩行を日常生活の移動手段としていた CP 者が歩行機能を失
う原因の 1 つとされている。股関節の痛みは,臼蓋形成不全などの未発達な状
態の股関節での運動や異常な筋緊張の分布下での股関節の運動を繰り返す過用
や誤用により生じる。CP 児・者の歩行においても,足関節底屈と股関節屈曲の
間にトレードオフの関係が成立し,即時的に変化を生じさせることができるの
であれば,日々の歩行の中でけりだしを強化することで股関節にかかる力学的
負担を軽減させる可能性がある。しかし,トレードオフの関係性は,正常な相
反神経支配を受けている健常人や整形外科疾患患者に対しては言及されている
が,中枢神経系患者については言及されていない。
そこで本研究では,CP 児・者において,短時間の練習で強いけりだし歩行が
足関節と股関節に即時的に変化をもたらすのかどうかを検討することを目的と
した。
29
2.
研究方法
1) 対象
対象者は地域の普通学級に通学している 10m以上の連続歩行が可能な(11 歳
と 14 歳の男子)右片麻痺 CP 児・者 2 名とした(表 3-1)。対象者および保護者
に対し,本研究の趣旨を書面および口頭にて説明し同意を得た。本研究計画は
大阪府立大学総合リハビリテー ション学部研究倫理委 員会の承認を受けた
(2011P02)。
表3-1 症例
症例1
症例2
年齢(歳)
14
11
身長(cm)
168
150
体重(kg)
51
46
Ⅱ
Ⅰ
右
背屈-15
背屈-5
左
なし
なし
右
3
3
左
1+
0
*1
GMFCS
足関節ROM制限*2
足関節底屈筋MAS*3
PT実施歴
幼少時から継続して月3回程
幼少時のみ外来通院にて実施。
度,外来通院にて実施.
使用装具
右:プラスチック短下肢装具・
夜間装具
なし
手術歴
右:アキレス腱延長術,
ハムストリングス延長術
なし
GMFCS*1: Gross Motor Functional Classification System
足関節ROM制限*2: 膝伸展位にて他動的可動域を計測
足関節底屈筋MAS*3: Modified Ashworth Scale 背臥位にて測定
2) 方法
歩行分析には 3 次元動作解析装置 Motion Capture( Motion Analysis 社製),
床反力計(AMTI 社製),赤外線カメラ 10 台(サンプリング周波数 200Hz)を用
いた。ヘレンレイズマーカーセットに従って対象者に反射マーカーを貼付した
後,床反力計の上を歩く練習を十分に行わせた。
計測条件は通常歩行と強いけりだし歩行の 2 条件とし,各条件とも成功試行
30
を 5 回記録した。通常歩行計測の後,Lewis らの方法
24)
に従って強いけりだし
歩行の計測を行った。口頭指示は,「けりだしの際に,いつもより足でしっかり
と床をけりだして歩いてください」と伝え,練習を 10 分程度行った後,計測を
実施した。
歩行解析ソフト Ortho Trak(ver.6.5.3)を用いて,歩行速度,歩幅,下肢関
節可動域,および運動力学的指標として関節モーメントと関節パワーを算出し
た。歩行は左右それぞれの接地時から接地時までを 1 歩行周期とした。矢状面
での下肢関節可動域,足関節と股関節における矢状面の関節モーメントピーク
値と関節パワーピーク値を算出した。足関節底屈モーメントは,歩行周期の 30%
を基準に立脚期前半と後半にわけ 7),それぞれのピーク値を算出した。関節パワ
ーは歩行周期に出現するピークカーブについて,Eng らのプロトコール
29)
に従
い,立脚初期の股関節伸展筋による推進力を H1,股関節の制動力 H2,股関節屈
筋による推進力 H3 とした。足関節でも同様に,下腿三頭筋による制動力を A1,
下腿三頭筋による推進力を A2 とし,それぞれのピーク値および足関節・股関節
パワー比(A2/H3 比)を算出した。A2/H3 比はけりだしにおける足関節底屈と股
関節屈曲の関与の割合を示し,足関節の寄与率が股関節に対して高い程高値を
示す。 強いけりだし歩行は足関節に底屈運動を促通し,歩行時の重心を前方と
上方へ推進させる作用がある。この動作は支持脚が重心を前方へ押し出す時の
股関節伸展モーメントを減少させ,さらには股関節屈曲モーメントやパワーも
減少させることにつながるといわれている 24)。
関節モーメント(Nm)と関節パワー(W)は体重(kg)で正規化し,分析には被
験者ごとに左右 5 歩行周期分の平均値を使用した。
通常歩行と強いけりだし歩行それぞれにおける歩行速度,歩幅,関節モーメ
ント,関節パワー,A2/H3 比の平均値の比較には,Mann-Whitney 検定を行った。
有意水準は 5%とした。
3.結果
矢状面の下肢関節の角度変化・関節モーメント・関節パワーについて,症例 1
の結果を図 3-1 に,症例 2 を図 3-2 に示す。症例 1,2 に共通した歩容の特徴は
麻痺側(右)で尖足を示し,足関節モーメントは 2 峰性のカーブを示した点で
31
あった。症例 1 の非麻痺側は尖足歩行を示し,症例 2 の非麻痺側は健常児・者
に類似した角度変化を呈していた。強いけりだし歩行の指示に対して,症例 1
は歩行周期 60%から 80%にかけて足関節底屈角度を増加させた歩容を示してい
た(図 3-1 破線)。症例 2 では大きな変化は示さなかった。
通常歩行と強いけりだし歩行の歩行速度,歩幅,関節モーメント,関節パワ
ーの麻痺側は表 3-2 に示す。強いけりだし歩行では通常歩行に比べ,症例 2 で
足関節底屈方向のモーメント,パワーともに微増したものの,股関節伸展モー
メント,屈曲モーメント及び屈筋パワー(H3)は著変なく,A2/H3 比は約 3.3 か
ら 3.7 への増加に留まった。一方,症例 1 は股関節伸展モーメントが有意に増
加し,股関節屈曲モーメント絶対値および股関節屈筋パワー(H3)も増加を認
めた。対して足関節は底屈方向のモーメント,パワーともに減少傾向であり,
A2/H3 比は 1.9 から 1.3 へ減少した。
非麻痺側は表 3-3 に示すように,症例 1,2 ともに股関節伸展モーメントもし
くは屈曲モーメントの絶対値の増加を認め,関節パワーでは H3,A2 ともに増加
(症例 1),ともに著変なし(症例 2)であった。非麻痺側の A2/H3 比は,二症
例ともに麻痺側に比べて値が大きく,けりだしにおける足関節の運動力学的な
寄与率の高さが示された。しかし,強いけりだし条件下での有意な増加は認め
なかった。
32
右
股関節
屈曲
角度(°)
左
股関節
屈曲
屈曲
左
膝関節
屈曲
膝関節
右
足関節
背屈
80
80
50
50
50
70
70
40
40
40
40
60
60
30
30
50
50
30
30
40
40
20
20
20
20
30
30
10
20
20
10
10
0
0
0
20
40
60
80
100
-20
0
-10
20
40
60
80
100
股関節
伸展
股関節
伸展
20
40
60
80
100
1
1
0.5
0.5
0
0
膝関節
0
20
40
60
80
-0.5
-1
-1
20
40
60
80
100
20
伸展
1
1
0.5
0.5
40
60
80
100
股関節
20
40
60
80
100
0
-0.5
-0.5
-1
-1
20
40
60
80
100
3
2
2
2
2
1
1
0
0
H3
H1
1
0
-2
0
0
0
-1
20
40
H2
60
80
0
100
-1
歩行周期 (%)
通常歩行
強いけりだし歩行
同年齢者の平均±2標準偏差
-2
20
40
H2
60
80
100
20
40
60
80
-30
-40
-40
-1
-2
-2
歩行周期 (%)
-3
足関節
20
2
1.5
1.5
1
1
0.5
0.5
40
60
80
60
80
100
足関節
底屈
2
0
20
40
60
80
100
40
60
80
100
4
3
A2
1
0
0
-3
歩行周期 (%)
100
20
40
A1
A2
2
1
-1 0
40
足関節
5
4
-2
-3
20
足関節
5
2
20
0
-0.5
3
0
100
-1
歩行周期 (%)
0
-10 0
0
3
3
1
100
-30
膝関節
3
H3
80
-0.5
膝関節
股関節
H1
4
60
-20
底屈
膝関節
40
-20
0
4
20
0
0
0
100
-0.5
-10 0
-10 0
0
10
0
-20
伸展
1.5
10
0
-10 0
-20
-20
1.5
0
足関節
背屈
60
50
-10
関節パワー
(W/Kg)
左
60
10
関節モーメント
(Nm/Kg)
右
60
80
歩行周期 (%)
100
-1 0
-2
-3
-4
-4
-5
-5
20
40
A1
60
80
100
歩行周期 (%)
図3-1. 症例1(右片麻痺) 1歩行周期における下肢角度変化・関節モーメント・関節パワー
関節角度・関節モーメント・関節パワーの各波形は5歩行周期の平均を示す.H1は股関節伸展パワー生成、H2は股関節屈曲パワー制動、H3は股関節屈曲パワー生成を示す.A1は足関節底屈筋によるパワー制動、A2は足
関節底屈筋によるパワー生成を示す.両側で尖足を示し,足関節モーメントは 2峰性のカーブを示した.強いけりだし歩行の指示に対して,歩行周期 60%から80%にかけて足関節底屈角度を増加させた歩容に変化し
た.
33
右
股関節
屈曲
角度(°)
左
股関節
屈曲
左
膝関節
屈曲
右
膝関節
屈曲
背屈
左
足関節
背屈
60
60
80
80
50
50
50
50
70
70
40
40
40
40
60
60
50
30
30
50
30
30
40
40
20
20
20
20
30
30
10
20
20
10
10
10
0
0
0
-10
20
40
60
80
100
-20
-10
0
20
40
60
80
100
股関節
伸展
0
股関節
伸展
1
1
0.5
0.5
0
0
20
40
60
80
100
-1
-1
60
80
100
20
40
60
80
-10 0
-10 0
膝関節
20
40
60
80
100
1
0.5
0.5
0
0
20
40
膝関節
伸展
1
0
0
-0.5
40
60
80
0
100
100
-0.5
-0.5
-1
-1
20
40
80
100
40
60
80
100
-20
-30
-30
-40
-40
2
1.5
1.5
1
1
0.5
0.5
40
60
80
3
2
2
H1
H1
H3
1
1
0
0
H3
2
2
3
1
1
2
1
20
40
60
80
100
0
0
-1
20
40
60
80
-1
H2
-2
歩行周期 (%)
40
60
80
100
0
20
歩行周期 (%)
-3
40
60
80
100
-1
歩行周期 (%)
-2
歩行周期 (%)
0
-1 0
-2
100
-2
H2
-2
20
-1
0
-3
-3
80
100
60
80
100
80
100
足関節
20
40
足関節
足関節
5
5
3
60
-0.5
膝関節
3
0
0
0
100
4
3
4
3
40
0
20
-0.5
膝関節
股関節
4
20
底屈
足関節
2
0
股関節
関節パワー
(W/Kg)
0
-10 0
-20
0
4
20
底屈
60
足関節
10
0
-20
0
-0.5
20
伸展
1.5
10
0
-10 0
-20
-20
1.5
関節モーメント
(Nm/Kg)
右
A2
20
40
A1
60
A2
2
1
80
歩行周期 (%)
100
0
-1 0
-2
-3
-4
-4
-5
-5
20
40
60
A1
歩行周期 (%)
図3-2. 症例2(右片麻痺) 1歩行周期における下肢角度変化・関節モーメント・関節パワー
通常歩行
強いけりだし歩行
同年齢者の平均±2標準偏差
関節角度・関節モーメント・関節パワーの各波形は5歩行周期の平均を示す.H1は股関節伸展パワー生成、H2は股関節屈曲パワー制動、H3は股関節屈曲パワー生成を示す.A1は足関節底屈筋による
パワー制動、A2は足関節底屈筋によるパワー生成を示す.麻痺側(右)で尖足を示し,足関節モーメントは2峰性のカーブを示した.非麻痺側は健常児・者に類似した角度変化を呈した.強いけり
34
表3-2 通常歩行と強いけりだし歩行の比較 (右・麻痺側)
症例1
歩行時間・距離因子
関節モーメント
(Nm/kg)
速度(m/s)
歩幅(m)
股関節伸展
股関節屈曲
足関節背屈
関節パワー
(W/kg)
股関節
足関節
A2/H3パワーピーク比 (A2/H3比)
c
強いけりだし歩行
通常歩行
強いけりだし歩行
1.27 ± 0.04
1.20 ± 0.05
1.38 ± 0.04*
1.31 ± 0.02*
1.21 ± 0.03
1.15 ± 0.06
1.18 ± 0.05
1.15 ± 0.02
立脚期前半
b
立脚期後半
0.35
-0.40
0.09
1.68
1.07
±
±
±
±
±
0.07
0.07
0.04
0.07
0.16
0.47
-0.34
0.11
1.73
0.94
±
±
±
±
±
0.13*
0.07
0.45
0.09
0.13
0.75
-0.32
0.043
0.84
0.89
±
±
±
±
±
0.12
0.02
0.03
0.10
0.05
0.79
-0.32
0.07
0.82
0.92
±
±
±
±
±
0.14
0.05
0.02
0.06
0.09
H1
H2
H3
A1
A2
0.54
-0.31
0.58
-0.49
1.03
±
±
±
±
±
0.15
0.10
0.18
0.16
0.34
0.72
-0.33
0.74
-0.33
0.90
±
±
±
±
±
0.42
0.08
0.17
0.22
0.27
1.64
-0.30
0.77
-0.65
2.37
±
±
±
±
±
0.25
0.06
0.21
0.20
0.35
1.67
-0.47
0.77
-0.77
2.81
±
±
±
±
±
0.42
0.13*
0.16
0.41
1.06
a
足関節底屈
症例2
通常歩行
1.90 ± 0.81
1.31 ± 0.66
3.28 ± 1.02
a 歩行周期0%から30%まで
b 歩行周期30%から立脚期終了まで
c けりだしにおける股関節屈曲による推進力(H3)に対する足関節底屈筋による推進力(A2)の割合を示す.足関節の寄与率が高い程、高値を示す.
3.70 ± 1.20
* P<0.05
** P<0.01
強いけりだし歩行では通常歩行に比べて,症例1では股関節伸展モーメントが有意に増加し,股関節屈曲モーメント絶対値および股関節屈筋パワー(H3)も増加.
足関節は底屈方向のモーメント,パワーともに減少傾向で,A2/H3比は1.9から1.3へ減少した.症例2では,足関節底屈方向のモーメント,パワーともに微増したが,
股関節伸展モーメント,屈曲モーメント及び屈筋パワー(H3)は著変なく,A2/H3比は約3.3から3.7への増加に留まった.
35
表3-3 通常歩行と強いけりだし歩行の比較 (左・非麻痺側)
症例1
歩行時間・距離因子
関節モーメント
(Nm/kg)
速度(m/s)
歩幅(m)
股関節伸展
股関節屈曲
足関節背屈
足関節底屈
関節パワー
(W/kg)
股関節
足関節
A2/H3パワーピーク比 (A2/H3比)
c
症例2
通常歩行
強いけりだし歩行
通常歩行
強いけりだし歩行
1.26 ± 0.03
1.20 ± 0.03
1.40 ± 0.03*
1.32 ± 0.03*
1.20 ± 0.05
1.13 ± 0.08
1.19 ± 0.07
1.15 ± 0.04
立脚期前半a
b
立脚期後半
1.13
-0.20
0.05
1.47
1.09
±
±
±
±
±
0.19
0.09
0.03
0.10
0.06
1.22
-0.26
0.1
1.51
1.07
±
±
±
±
±
0.20
0.06
0.02**
0.09
0.08
0.71
-0.34
-0.07
0.49
1.16
±
±
±
±
±
0.12
0.09
0.10
0.12
0.08
0.66
-0.48
-0.07
0.45
1.13
±
±
±
±
±
0.09
0.04*
0.14
0.10
0.08
H1
H2
H3
A1
A2
2.65
-0.32
0.56
-0.33
1.56
±
±
±
±
±
0.37
0.15
0.18
0.21
0.24
3.91
-0.34
0.63
-0.93
1.69
±
±
±
±
±
0.99*
0.14
0.24
0.28
0.38
1.07
-0.65
0.66
-0.79
4.02
±
±
±
±
±
0.27
0.13
0.05
0.10
0.98
0.83
-0.82
0.63
-0.90
4.00
±
±
±
±
±
0.32
0.13
0.16
0.17
1.08
3.04 ± 0.98
3.00 ± 1.20
6.13 ± 1.36
a 歩行周期0%から30%まで
b 歩行周期30%から立脚期終了まで
c けりだしにおける股関節屈曲による推進力(H3)に対する足関節底屈筋による推進力(A2)の割合を示す.足関節の寄与率が高い程、高値を示す.
強いけりだし歩行では通常歩行に比べて,症例1,2ともに股関節伸展モーメントもしくは屈曲モーメントの絶対値が増加.
関節パワーではH3,A2ともに増加(症例1),H3,A2ともに著変なし(症例2).麻痺側のA2/H3比は,二症例ともに麻痺側に比べて値が大きく,
けりだしにおける足関節の運動力学的な寄与率の高さが示されたが,強いけりだし条件下での有意な増加は認めなかった.
36
6.46 ± 1.16
* P<0.05
** P<0.01
4. 考察
日常的に歩行を移動手段にしている片麻痺 CP 児・者を対象に,歩行時のけり
だしを強化した場合,股関節に対する足関節の寄与率(A2/H3 比)が即時的に増
加し,足関節と股関節の運動力学的パラメータは反比例の関係を示すとする仮
説の下,本研究を実施した。しかし今回の研究結果では,即時的な強いけりだ
し歩行の変化は一症例の足関節角度に観察されたが,A2/H3 比の有意な増加は示
されなかった。その上,股関節伸展モーメントの有意な増加が観察され,股関
節モーメント値の減少にはつながらなかった。
健常成人や整形外科疾患患者で報告される結果と異なった理由として以下の
3 点が考えられる。まず 1 つ目は,CP 児・者にとって歩行パターンを変えるこ
とは難しいという点が挙げられる。CP 児・者の足関節底屈筋をトレーニングす
ることで歩行機能の改善が確認された 23) ことから,今回の研究では強いけりだ
し歩行をすることで足関節底屈筋が賦活され股関節での推進力関与が減少し,
A2/H3 比が増加する,つまり股関節への負担を抑制できると仮説をたてた。しか
し,症例 1 では,強いけりだし歩行の指示に対して,立脚後期における足関節
底屈角度の増加および,歩行速度,歩幅の増加として反応したものの,股関節
伸展モーメントピーク値が有意に増加した。これらは,強いけりだし歩行を遂
行するために歩行パターンを変化させたが,足関節での活動ではなく股関節で
の代償で行っていたことを示している。高齢期になると足関節底屈モーメント
とパワーの減少を股関節筋により代償していること 33) や,プレスイングで股関
節伸展モーメントを増加させて歩行速度をあげていること 34) が報告されている。
このように,加齢による足関節底屈筋力の低下は,股関節屈曲戦略への移行に
より補完されると考えられる。遠位部ほど筋の弱化がみられる CP 児・者におい
ても,股関節屈筋及び伸展筋を主な推進力としているが,足関節戦略を経た高
齢者や整形外科疾患患者群とは異なり,CP 児・者は足関節底屈筋を利用したけ
りだしを経験していない。また,歩行における足関節底屈筋は,支持性と推進
力を提供するために,ミッドスタンスで遠心性収縮,ターミナルスタンスで等
尺性収縮,プレスイングで求心性収縮と筋収縮形態を素早く変化させており,
遠位部ほど選択的随意運動が障害されている CP 児・者にとっては難しい課題で
ある。これらの理由により,先天性の疾患である CP 児・者では歩行パターンを
37
容易に変化させることが難しかったと推察される。
2 つ目は口頭指示による学習の困難さがあげられる。CP 児・者の理学療法場
面では,まず運動により生じる感覚の変化に気づくことから始まる。1 つのパフ
ォーマンスを改善するためには複数のプロセスに分解し,繰り返し運動学習を
することが多い。今回の結果は,CP 児・者にとってシンプルな課題でも口頭指
示を受けて理解し,短時間の自主訓練でパフォーマンスを適切に変化させるこ
とは容易ではない事を示唆している。
3 つ目は,CP 児・者にとって約 10 分間の練習時間が運動学習に不十分であっ
た可能性がある。健常成人
24)
や整形外科疾患患者
31)
では,短時間の練習で強い
けりだし歩行の遂行が可能で足関節と股関節に即時的に効果が生じたが,本研
究結果は CP 児・者に即時的な変化は期待できないことを示唆している。
研究限界は多々あるが,第 1 には症例の少なさが挙げられる。今回の結果が
CP 児・者の一般的特徴であるとするためには,さらなる症例数の検討が必要で
ある。また,強いけりだし歩行の条件下では歩行速度の増加を伴う場合があり
(症例 1),速度上昇によるモーメント変化を含んでいる可能性もある。しかし
CP 児・者が歩行速度やケーデンスを一定にコントロールすることは難しく,CP
児・者を対象とする場合の限界である。
健常成人や整形外科疾患患者では,けりだし強化により股関節と足関節に即
時的な変化が生じ,それらにトレードオフの関係があるとされているが,CP 児・
者では足関節での関与を増加させた強いけりだし歩行の習得は困難で,期待さ
れた足関節と股関節のトレードオフの関係性は示さなかった。足関節と股関節
のトレードオフの関係性を検証するためには,長期間の介入によるけりだし強
化が必要であると考える。
38
Ⅴ. 第 4 章 足関節底屈筋トレーニングによる脳性麻痺児の歩行の推進力の変化 1. 緒言 痙直型脳性麻痺(CP)児にとって,独歩が可能であることは社会参加を促す
上で重要な機能の1つである
1,9,22,34)
。しかし歩行能力を獲得したとしても,CP
児の筋は重篤に弱化しており,筋容量は小さく,筋力も弱い。また下肢筋の弱
化や選択的随意運動の障害は遠位部ほど強く出現するため 1,9,22),CP 児は歩行に
おいて立脚中期から遊脚初期にかけてのけりだし(push-off)が困難となる。
さらに,青年期や成人期には,歩行におけるこれらの運動学的および身体的な
要因のために,関節拘縮・変形,関節痛などの二次障害が生じる可能性がある。
歩行可能な CP 児の多くは,青年期や成人期に移動能力を含む機能の退化が生じ
る 35)。 一般に歩行中のけりだしには 2 つの戦略(図 4-1)があり 28),1)足関節戦略
は,足関節底屈を利用したけりだしが推進力に貢献,2)股関節屈曲筋戦略は,
主に股関節屈曲筋群の働きが推進力と下肢の振出しに貢献する。骨格モデルに
よるシミュレーション研究では,歩行時の腸腰筋の出力低下は腓腹筋の出力増
加につながり,逆に腓腹筋の出力低下は腸腰筋の出力増加につながると指摘さ
れている 30)。 図 4-1 けりだしにおける 2 つの戦略 Exerc Sport Sci Rev 2003. 31:102-108 改変 Lewis らによる臨床研究では,健常者に強いけりだし歩行を指示した場合,股関
節の屈曲モーメントピーク値,パワーピーク値が即時的に減少した。つまり,
歩行の推進力を生成する上で足関節と股関節は,相互補完の関係つまりトレー
39
ドオフの関係にある
24,31)
。以上より足関節底屈筋トレーニングは,股関節屈曲
筋戦略に依存している CP 児・者の歩行時の推進力に変化を生じさせる事ができ
ると仮説をたてた。もし,CP 児・者にも足関節と股関節にトレードオフの関係
が成立するのであれば,足関節底屈筋を強化すれば股関節の誤使用や過使用が
予防できるだけではなく歩行機能を維持する事につながると期待できる。 本研究の目的は,痙直型片麻痺 CP 児に対し足関節底屈筋強化を行えば,股関
節屈曲と足関節底屈の間にトレードオフの関係が成立するのかどうか検討する
ことである。 2. 研究方法 1) 対象 対象者は地域の普通学級に通学し,月に1回以上理学療法を受けている 3 人
の痙直型片麻痺 CP 児とした。CP 児の取り込み条件は,(1)10m以上の歩行が可
能,(2)粗大運動機能分類システム(Gross Motor Function Classification System, GMFCS)レベルⅠ及びⅡ,(3)9 歳以上 15 歳以下,(4) 6 か月以内に観
血手術やボトックス治療を行っていない,(5)麻痺側足関節背屈の修正アシュワ
ーススケール(MSA)のグレード1または 236),(6)視覚・聴覚に問題がない,そし
て(7)簡単な口頭指示が理解できる者とした。被験者については表 4-1 に示した。
対象者および保護者に対し,本研究の趣旨を書面および口頭にて説明し同意
を得た。本研究計画は大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究倫理委員
会の承認を受けた(2011P02)。 表4- 1 .症例紹介
年齢,才
性別
麻痺側
G M FC S level
足関節可動域制限
右
左
装具
術歴
M AS grade (足関節背屈)
右
左
歩行開始月齢
通常の理学療法頻度
症例 1
9
男
左
II
-
背屈 - 5°
-
-
1
1+
18
1回/月
症例 2
10
男
右
I
背屈 - 5°
-
-
-
1+
1
14
3回/月
症例 3
13
男
右
II
背屈 - 15°
-
Plastic A FO
あり*
2
1+
22
4回/月
略語: A FO , ankle-foot o rthosis; G M FC S , G ross M otor F unction C lassification S ystem ; M A S , M odified A sh w orth S cale.
*3年前にアキレス腱及びハムストリングス延長術
40
2)トレーニングプログラム 介入として実施した足関節底屈筋トレーニングプログラム 21)は,休憩を入れ
ながら 1 日 1 回 50 分程度でできる運動で構成した。課題 1:ウォーミングアッ
プとして,5~10 分間,立位で壁もたれ立位をとり,下肢屈筋群のストレッチン
グを行い筋の柔軟性向上を図る。その後,課題 2:足関節底屈の抵抗運動をエラ
スティックバンド(Thera-Band, Hygenic Corporation, USA)を用いて左右そ
れぞれ 20 回ずつ 5 セット,課題 3:高這い位をとり,下肢への荷重量を調節し
ながら足関節底屈運動を伴う下肢の伸展運動を 20 回ずつ 5 セット,課題 4:壁
を支持して立位をとり踵上げトレーニングを 20 回ずつ 5 セット実施。最後にク
ールダウンとして壁もたれ立位(課題 1)の実施を組み合わせた(図 4-2)。 実施状況を確認するためにチェックリストを作成し,実施状況及び自主トレ
ーニングを適切に行っているかの確認と負荷量の調整を月に 1 回行った。 3) 方法及び計測 (1) 方法: 1 回目の計測(トレーニング前)の後,週に 3 回 12 週間,足関節底屈筋トレ
ーニングプログラム 21)を自宅で行い,その後 2 回目の計測(トレーニング後)
を行いそれぞれの結果の比較検討を行った。なお,介入期間 12 週間は神経学的
要素と筋肥大の要素 8)の両方を考慮して設定した。 (2) 計測: 歩行分析には赤外線カメラ 10 台(サンプリング周波数 200Hz)からなる 3 次
元動作解析装置 Motion Capture( Motion Analysis 社)を利用した。運動力学デ
ータは 10m歩行路の中央部に埋め込まれた床反力計(OR6-7-2000; AMTI 社,日
本)で計測した。ヘレンへイズマーカーセット 37)に従って対象者に反射マーカ
ーを貼付した後,床反力計の上を歩く練習を十分に行わせた。 裸足で自由速度
での歩行を計測した。 データの処理には歩行解析ソフト Ortho Trak(ナックイメージテクノロジー
社,日本)を用いて,歩行速度,歩幅,および運動力学的指標として関節パワ 41
A 1
課題
課題 32C
D
課題 4
B 23
課題
図
4-2 足関節底屈筋トレーニングプログラム
図4-1
課題1:ウォーミングアップとして,5~10分間,立位で壁もたれ立位をとり,下肢屈筋群
のストレッチングを行い筋の柔軟性向上を図る。課題2:
足関節底屈の抵抗運動をエラ
スティックバンドを用いて左右それぞれ20回ずつ5セット,課題3:
高這い位をとり,下肢
への荷重量を調節しながら足関節底屈運動を伴う下肢の伸展運動を20回ずつ5セット,
課題4:壁を支持して立位をとり踵上げトレーニングを20回ずつ5セット。最後にクール
ダウンとして壁もたれ立位(
課題1)
。
ーを算出した。歩行は左右それぞれの接地時から接地時までを 1 歩行周期とし
た。関節パワーは歩行周期に出現するピークカーブについて,Eng らのプロトコ
ール 29)に従い立脚初期の股関節伸展筋による推進力を H1,股関節の制動力 H2,
股関節屈筋による推進力 H3 とし,足関節でも同様に,下腿三頭筋による制動力
を A1,下腿三頭筋による推進力を A2 とした。図 4-3 に症例 2 の結果を例として
示す。それぞれのピーク値および足関節・股関節パワー比(A2/H3 比)31)を算出
した。A2/H3 比は,けりだしにおける足関節底屈と股関節屈曲の関与の割合を示
し,足関節の寄与率が股関節に対して高い程高値を示す。関節パワー(W)は体
重(kg)で正規化した。 分析には被験者ごとに左右 5 歩行周期分の値を使用した。対象者の麻痺側お
よ び 非 麻 痺 側 の ト レ ー ニ ン グ 前 後 の 値 を , Mann-Whitny の U 検 定 (SPSS 42
Statistics Standard Grad Pack 21.0; IBM,日本)を行い,有意水準は 5%とし
た。 左
Left
Right
右
A2
A2
足関節
A1
A1
H3
H3
股関節
H1
H1
H2
H2
図図4-2
4-3 歩行における足関節と股関節のパワー
実線は5歩行周期の平均値、破線は±標準偏差を示す。
グレーの帯は同年齢の子どもの結果±標準偏差を示す。
立脚初期の股関節伸展筋による推進力をH 1,股関節の制動力H 2,股関節屈筋による推進力H3,
足関節は下腿三頭筋による制動力をA1,下腿三頭筋による推進力をA2。
3. 結果 3 症例全員がトレーニングプログラムを完了した。疼痛などの報告もなかった。
1) 時空間パラメータ 歩行スピードと歩幅に関する結果は表 4-2 に示した。歩行スピードと麻痺側
の歩幅はすべての症例において,トレーニング前後の結果に有意差はなかった。
しかし,
症例 2 の非麻痺側の歩幅はトレーニング後に有意に増加した(P<0.01)。 表 44--22:: 底屈�筋トレーニング前後の歩行スピードと歩幅 症例
歩行スピード,, ccmm// ss
麻痺側歩幅,, ccmm
非麻痺側歩幅,, ccmm
11
22
33
11
22
33
11
22
33
平均値(SD)
2)運動力学変数 43
トレーニング前 トレーニング後
112211..
113311..
114466..
110033..
111177..
113366..
110033..
111133..
113399..
77
44
77
88
22
99
00
66
33
(( 33.. 22))
(( 44.. 33))
(( 1111.. 66))
(( 33.. 44))
(( 1122.. 33))
(( 1133.. 66))
(( 44.. 66))
(( 22.. 66))
(( 1111.. 11))
110088..
113399..
114455..
110044..
112211..
114400..
110055..
112288..
114433..
66
77
22
77
88
55
22
55
55
(( 1177.. 11))
(( 66.. 88))
(( 99.. 77))
(( 33.. 77))
(( 77.. 00))
(( 55.. 33))
(( 55.. 44))
(( 33.. 99))
(( 44.. 11))
P値
00..
00..
00..
00..
00..
00..
00..
00..
00..
117733
007766
991177
991177
660022
991177
660000
000099
334477
両側の足関節と股関節のパワーピーク値を表 4-3 に示した。A2 パワーピーク 値は,症例 3 の両側(麻痺側,P<0.05; 非麻痺側,P< 0.01)症例 2 の麻痺側
(P<0.01)で有意に増加した。 症例 2 では,非麻痺側の H3 パワーピーク値は有意に減少(P<0.01),しかし
麻痺側は有意に増加(P<0.01)した。症例 1 では,非麻痺側の H3 パワーピーク
値も有意に減少(P<0.05)した。 表4-3: 底屈筋トレーニング前後の足関節と股関節のパワーピーク値
症例
1
2
3
1
2
3
1
2
3
1
2
3
麻痺側
A2
非麻痺側
パワーピーク値, W /kg
麻痺側
H3
非麻痺側
トレーニング前
1.16
(0.24)
1.74
(0.27)
0.29
(0.18)
2.32
(0.11)
2.78
(0.29)
2.55
(0.22)
0.48
(0.16)
1.06
(0.13)
1.73
(0.73)
0.55
(0.07)
1.11
(0.06)
0.81
(0.14)
トレーニング後
1.25
(0.70)
4.60
(2.29)
0.54
(0.16)
1.80
(0.70)
2.92
(1.42)
3.63
(0.77)
0.35
(0.14)
1.44
(0.18)
1.59
(0.48)
0.38
(0.11)
0.71
(0.26)
0.77
(0.22)
P値
0.754
0.009
0.047
0.465
0.917
0.009
0.117
0.009
0.465
0.047
0.009
0.465
平均値 (SD ) 略語: A 2, 足関節底屈筋によるエネルギー生成; H 3, 股関節屈筋によるエネルギー生成
図 4-4 は症例ごとの A2/H3 比を示した。症例 2 及び 3 の両側で A2/H3 比は有
意に増加した。麻痺側の A2/H3 比平均値はトレーニング前に比べてトレーニン
グ後は有意に増加した(症例 2:1.66 [SD, 0.22] ~ 3.66 [SD, 1.24], P < 0.05; 症例 3: 0.17 [SD, 0.09] ~ 0.37 [SD, 0.15], P < 0.05)。さらに非麻痺側の
A2/H3 比平均値もトレーニング後は有意に増加した(症例 2: 2.52 [SD, 0.32] ~ 3.92 [SD 1.06], P < 0.05; 症例 3: 3.21 [SD, 0.60] ~ 4.87 [SD, 0.84], P < 0.05)。 症例 1
症例 2
non
非麻痺側
A/S
麻痺側
6
6
6
症例 3
*
*
3
3
3
*
*
0
0
Before
トレーニング前
After
トレーニング後
Before
トレーニング前
0
After
トレーニング後
図4-4 底屈筋トレーニング前後のA 2/H 3比
Before
トレーニング前
After
トレーニング後
44
4. 考察 痙直型 CP 児の歩行におけるけりだしの推進力の生成は足関節ではなく股関節
に依存している
38,39)
。今回の被験者においても観察されたこの現象は,股関節
の過使用につながり,関節拘縮や関節痛などの二次障害に発展する。このため,
多くの CP 児・者は歩行能力の維持が難しく,社会参加が制限されていく 40)。一
般に,健常者の歩行における推進力の生成には股関節と足関節の間に補完的な
24.31)
機能があると言われている
。また足関節底屈筋は,歩行の立脚中期から後
期にかけての支持性と推進力に関与している
10)
。これらより,足関節底屈筋ト
レーニングをすると,股関節屈曲戦略優位に歩行している CP 児・者が足関節に
よるけりだしの推進力を改善することができるという仮説を立てた。そして,
痙直型片麻痺 CP 児が足関節底屈筋トレーニングをすることで歩行における足関
節と股関節の間にトレードオフの関係性を示すのかどうかを調べることが目的
である。症例数が少なく,不完全な研究デザインのため予備的な研究ではあっ
たが,今回の研究結果は仮説を支持していた。 足関節で強いけりだし歩行をすると,股関節のパワーピーク値(H3)が減少
すると報告されている
24,31)
。症例 2 の非麻痺側で,股関節と足関節の間にトレ
ードオフの関係性が観察された(表 4-3)。一方麻痺側では,股関節パワーピー
ク値(H3)は有意に減少しなかったが,足関節パワーピーク値(A2)が有意に
増加した(表 4-3)。その結果 A2/H3 比が有意な変化を示した。一般に,片麻痺
CP 児は非麻痺側で麻痺側の機能不全を代償する傾向にある 7)。そのため,症例 2
の介入による変化は先行研究
29,30)
が示すトレードオフの関係性とは違う関係性
を示した。麻痺側の底屈筋が効率の良いけりだしになるように関与したため,
介入後の麻痺側 A2/H3 比が有意に増加したと推測する。これはトレーニング後
に非麻痺側の歩幅が有意に増加したことからも説明できる(表 4-2)。介入によ
り麻痺側が効率のいいけりだしをするようになると,股関節の過剰な代償的な
活動が抑制され H3 パワーピーク値が減少する。その結果非麻痺側の A2/H3 比が
有意に増加した。 症例 3 では,トレーニング後に両側の A2/H3 比が有意に増加した。これは症
例 2 の麻痺側と類似したパターンで,A2 パワーピーク値の有意な増加が影響し
45
ている。しかし,症例 3 の非麻痺側の歩幅には有意な増加はなかった。股関節
の代償運動は減少したが,麻痺側足関節が十分に推進力を提供しなかったため
と推測する。この結果の理由の 1 つに麻痺側足関節の可動性の制限が考えられ
る。足関節に可動性の制限のある症例は,歩行におけるけりだしの際に股関節
屈曲筋戦略に強く依存しがちである。そのため,12 週間の足関節底屈筋トレー
ニングプログラムは,股関節の運動量を減らすことよりも足関節の運動量を増
加させることに効果的なのかもしれない。これらより,痙直型片麻痺児・者に
生じるトレードオフの関係性は,機能が良好であれば股関節へ影響をおよぼし,
股関節のパワーピーク値を小さくすることができる。しかし,機能に課題が多
い場合は股関節のパワーピーク値を下げるよりもまず足関節のパワーピーク値
を増やすことをしていると推測している。 今回の研究にはいくつかの限界がある。第一にコントロールグループを設定
していないことと症例数が少ない事がある。さらに,症例1が示すように,理
学療法士の関与の頻度が関係しているのかもしれない。そして,介入による足
関節底屈筋力の変化を直接検討していないこと。また,底屈筋トレーニングに
よる短期間の影響にのみ着目したことなどが挙げられる。今後は片麻痺 CP 児の
みではなく両麻痺 CP 児も入れて症例数を増やし研究デザインを改良して,介入
による長期間効果の検討もしたいと考えている。 足関節底屈筋トレーニングは,先行研究で示されたのとある程度同様に,片
麻痺 CP 児の足関節でのけりだし増加に働くばかりではなく股関節の過用を抑制
することができた 24,30)。また今回の結果は片麻痺 CP 児・者が移動能力を自分自
身で管理することができることを示唆している。日本では,片麻痺 CP 児・者は
両麻痺 CP 児・者や四肢麻痺 CP 児・者に比べて青年期や成人期になって移動能
力の著しい悪化をきたすことが少ないとされているため,理学療法の頻度が減
少する傾向にある。足関節底屈筋に焦点を絞った自己トレーニングの継続と足
関節戦略を強調した歩行を継続することで歩行能力の維持と社会参加の促進の
一助になると信じている。 5. 結語 今回の研究は 3 人中 2 人の痙直型 CP 児で足関節底屈筋トレーニングを行うと,
46
歩行におけるけりだしにおいて足関節と股関節の間にトレードオフの関係性を
示すことを確認した。この情報は,CP 児の 治療プログラムを理学療法士が検討
する際に役立つものである。 47
Ⅵ. まとめ
足関節は臨床場面で直接治療対象とされる事の多い関節である。CP 児・者の
足関節は,選択的なそしてコントロールされた運動再現が困難という疾患的特
徴と,成熟するのに時間を要する発達上の問題をあわせ持っている。そのため,
CP 児・者の日常生活で十分に活用される事がないために廃用の要素も合わせも
つ事になる。さらに,筋容量が小さく筋力の弱い CP 児・者の下肢筋では成長に
伴う体重増加に対して十分な支持性を発揮する事ができず,歩行機能を失って
いく症例も多い。 歩行の立脚期から後期にかけて体幹の支持性と下肢の振り出しに貢献してい
る足関節底屈筋をトレーニングすることは,歩行機能改善に効果が高いと考え
た。 第 1 章の研究では,歩行機能の指標として足関節底屈筋トレーニングの効
果を検討した。9 歳と 12 歳の症例では,歩行機能への即時的な効果や効果の持
続性があった。変形を有した 21 歳の症例では,BS では運動学習の効果はあった
が歩行能力への影響は乏しかった。正常な運動パターンを未経験な CP 児・者が,
筋の反復運動による筋の活性化と筋力増強だけで歩行機能を改善することは容
易でない。そのため従来は機能障害を改善させることを目的に,運動麻痺の“質”
が注目されていた。しかし,学習した運動機能を生活スキルとして活用してい
くためには運動を繰り返し行う“量”の取り組みの必要性を示唆できた。客観
的な指標を用いて非効率な歩行と介入による変化を示した。 第 2 章から 4 章の研究では,客観的なデータを示される事の少ない CP の歩行
を,三次元動作解析装置を用いて運動力学的に検討した。けりだしにおける足
関節底屈と股関節屈曲の関与の割合を示す指標である A2/H3 比の結果より,CP
児・者の歩行では,足関節より股関節が主な推進力であることが示された。麻
痺側だけではなく非麻痺側においてもその傾向がある。CP 児・者は成長に伴っ
て股関節に問題を有し歩行機能を失っていくことが多いが,けりだしを強化す
ることで股関節優位の推進力生成に変化を生じさせ改善につながるのではない
かと考えた。足関節と股関節に即時的な変化は生じなかったが,12 週間の介入
により股関節に依存した歩行から足関節での推進力生成による歩行へ移行でき
る可能性を示唆した。強いけりだし歩行は,股関節過用により生じる二次障害
を予防する事ができ,歩行機能の維持につなげられる可能性も考えられる。 CP 児・者が運動機能を健常児・者よりも早期に喪失する原因は,活動量が乏
しく成長に応じた筋量にまで十分に増加しないこと,さらに遂行しようとする
運動(課題)に見合う筋肉量を満たさないこと 18)が,指摘されている。健常高
齢者は筋量の減少(サルコペニア)により機能低下が生じるが,高齢者の歩行
48
では,加齢により生じた足関節底屈筋力の低下のため,歩行の推進力を足関節
から股関節屈曲戦略への移行により補完している。これは,CP 児と同様の現象
であるものの,足関節戦略の歩行を経験した高齢健常者と異なり,CP 児は足関
節底屈筋を利用したけりだしを経験していない。そのため,運動の質の変化を
もたらす運動学習は自主訓練のみでは不十分であり,理学療法士等の専門家の
指導のもと,取り組む必要があると考えられる。 CP 児に対する筋力トレーニン
グの目的は,短期的には活動に見合うだけの筋の予備量増加を図ること,さら
に長期的には活動に見合う十分な筋肉量を維持すること 18)であり,機能的なこ
とは個別に対応する必要がある。 今回の研究結果は,CP 児・者の運動学習には量が必要であり,適切に足関節
底屈筋を機能させ歩行を変化させることができれば,歩行機能の維持につなが
る可能性を示した。また足関節底屈筋トレーニングを行うと,片麻痺 CP 児の歩
行のけりだしにおいても,足関節と股関節の間にトレードオフの関係性を示す
ことを確認した。さらに,足関節でのけりだし増加に働くばかりではなく股関
節の過用を抑制する可能性も示した。 足関節底屈筋に焦点を絞った自己トレーニングの継続と足関節戦略を強調し
た歩行を継続することは,歩行能力の維持の一助になると期待している。 小児リハビリテーションでは,政策においても臨床の取り組みにおいても予
防の概念が定着していない。しかし,運動機能を適切に高めることにより,歩
行機能を維持できる可能性があり,予防という概念を CP 児の治療にも考慮して
いきたい。 今後は片麻痺及び両麻痺 CP 児の症例数を増やし研究デザインを改良して,介
入による長期間効果の検討もしたいと考えている。また,足関節底屈筋の活動
を筋電図などでの計測により検討していきたい。 49
Ⅵ.
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謝辞
本研究を進めるにあたり,多くの先生方に御指導,御助言を賜りました。
大阪府立大学総合リハビリテーション学研究科の樋口由美教授には長い期間
を通して本研究に全面的なご指導をいただき,研究を進めることができました。
心から感謝申し上げます。また大阪府立大学総合リハビリテーション学研究科
の奥田邦晴教授には歩行分析について,米津亮准教授には小児分野のリハビリ
テーションについて,さらには論文作成上の心得について多くのご教示をいた
だきました。心から感謝申し上げます。同志社大学スポーツ健康科学部の中村
康雄教授には三次元動作解析装置での計測方法やデータ処理の方法などをご教
授頂きました。心から感謝申し上げます。ヨゼフ整肢園の江平知子先生には本
研究の対象となりそうな症例をご紹介いただきました。深く感謝申し上げます。
そして本研究に同意いただき貴重なるデータを御提供下さいました全ての脳性
麻痺児・者の皆様及びそのご家族の皆様,そして常に温かく激励くださいまし
た大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科の皆様に心より感謝申
し上げます。
今後は,脳性麻痺児・者がより適切に歩行能力の維持拡大を図り快適な生活
が送れるように臨床活動に力を注ぐとともに,引き続き脳性麻痺児・者の歩行
機能に関する研究を続けてまいります。
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