2015/6/9 ソフトマター工学・第7回 2015年6月9日(火) 界面の熱力学(2) 九州大学大学院工学研究院機械工学部門 准教授 山口 哲生 1 本日のおはなし 1.前回の復習 -界面張力,表面張力 -界面に対するギブス-デュエムの式 -過剰吸着量 2.ラプラス圧 3.濡れ 4.まとめ 2 1 2015/6/9 界面張力,表面張力 界面張力(Interfacial tension) 界面上に閉じた2次元領域を考える.領域内部では,界面 の面積をできるだけ小さくしようとして,領域の境界線を 内側に引っ張りこもうとしている. 圧力のときと同様に,界面の面積をΔAだけ変化させると きに行なう仕事は, W A , ここでγを界面張力(表面の場合には表面張力(surface tension))とよぶ. 右の例では,引っ張る力との間に以下の関係が成立する. f 2a 3 界面に対するギブス-デュエムの式 示量性から出発すると,以下の式を示すことができる. G A (T , i , A) Ag A (T , i ) gA :界面の単位面積あたりの 自由エネルギー g A (T , i ) (T , i ) S A, A T i 相Ⅰ i N Ai A T 界面 G A (T , i , A) A 相Ⅱ VⅠ A VⅡ Ad S A dT N Ai di i :界面に対するギブス-デュエムの式 4 2 2015/6/9 界面活性剤の添加によって界面張力は低下する 界面活性剤の種類をaで表す.界面に対するギブス-デュエムの式より, Ad S A dT N Aa d a 温度一定とすると, N Aa a A a T a Na :過剰吸着量 A :界面活性剤の場合, Γa > 0 もし界面活性剤濃度が非常に小さいならば,バルクではミセルなどの 会合体を作らずに分子分散すると考えられる.この場合,バルクでの界 面活性剤の化学ポテンシャルは以下のように書くことができる. a (T , na ) a0 (T ) k BT ln na na: バルクにおける界面活性剤濃度 これを用いると a k T a B na na T a T na T 5 界面活性剤の添加によって界面張力は低下する(2) この式によれば,界面活性剤のように過剰吸着量Γが正の場合,界面活性 剤の添加(バルクへのnaの増加)によって界面張力は低下する. ラングミュアの吸着式(Langmuir’s adsorption equation )によると, a na S ns na ΓS: 飽和吸着量 これを積分することで, 0 S k BT ln1 na ns という式が得られる. ※界面活性剤濃度が大きくなると, 右図のようにミセル化が起こり, 界面張力はほぼ一定となる. 臨界ミセル濃度 6 3 2015/6/9 3.ラプラス圧 右の図のような系の全自由エネルギーは 次の式で与えられる. Gtot PI (Vtot 4 r 3 4 r 3 ) PII 4 r 2 3 3 平衡条件 Gtot 0 r PII PI 2 r より, が成り立つ. Ⅰ 圧力 PⅠ PⅡ Ⅱ r この圧力差のことを ラプラス圧(Laplace Pressure)と呼ぶ. P PII PI 2 r ラプラス圧は,界面(表面)ができるだけ小さ くなろうとするときに,界面張力(表面張力) がその内側を締め付けることによって生じる. 7 8 4 2015/6/9 ラプラス圧(2) 力をベースにした導出も可能である. 右の図において,x方向の力の釣り合いを 考える. γ ( P P) r 2 P r 2 2 r 0 P P + ΔP 2 r x P それでは,右図のようにシャボン玉の場合 にはΔPはどのように書けるだろうか? (答え) P P P P 4 r r なぜだか分かりますか? 9 ラプラス圧(3) ラプラス圧は,界面が完全な球でなくても 発生する.その場合,以下のように書ける. P C C 1 1 R1 R2 R1, R2:2つの方向の曲率半径 例:2枚のガラスに液体をはさんだとき, ガラス板同士を引き離すのに要する力 1 1 2 P C ( ) R H /2 H Fpull P P P R H 2 R 2 P R H 2 例えば,水を半径1cmの領域の広げ,ガラ ス板の間隔が5μmだったとすると, Fpull 10 N となる. 10 5 2015/6/9 毛管長 毛管長とは,重力が無視できなくなる 特徴的な長さ.具体的に数式で表現 すると,以下のようになる. Lc 1 / g z Patm (純水の場合,Lc ≒2mm) z = z(x) ここでは,右図のように板に濡れる液 体に関する力の釣り合いから,具体的 に毛管長の表式を導出する. P( z ) Patm 2 z g z x 2 Lc P (z ) O 2z P gz :高さz での液体内部の圧力 atm x 2 z z0 exp( x) を仮定すると x g / 11 不完全な濡れ・完全な濡れ 水をプラスチックの板上に落とすと,しばしば 右図のような水滴を作り,基板上を広がらない. このような状況を,不完全な濡れ(partial wetting)という. 液体の表面張力をγ,液体と基板との界面張力 をγSL,基板と気体との界面張力をγSVとする と,x方向の力の釣り合いから以下の式を導く ことができる. SV cos SL θ:接触角 γ θ γSV γSL これをヤング-デュプレの式(Young-Dupré equation)と呼ぶ. SL となる状況が生じ もし SV た場合,液体はどのように振舞うのだろうか? 12 6 2015/6/9 不完全な濡れ・完全な濡れ(2) その場合,液体は基板上をどんどん広がってし まう.この状態のことを,完全な濡れ(prefect wetting)という. 完全な濡れ,不完全な濡れは拡張係数 (spreading coefficient)を用いて特徴づけること ができる. S SV ( SL ) S 0 :完全な濡れ S 0 :不完全な濡れ 13 濡れの動力学 銭湯や温泉の天井に水滴がぎっしりついているの を見た事があるだろうか?レイリー-テイラー不 安定性(Rayleigh-Taylor instability)として知 られているこの現象を,今から説明してみたい. 予備知識:潤滑近似(Lubrication approximation) 非圧縮流体のNavier-Stokes方程式において,慣性項を 無視する. P v Stokes 近似 z v 0 Z方向の変化に比べ,x,y方向の変化がゆるやか だとすると,以下のように近似できる. v v v v P 2x 2x 2x 2x , x y z z x 2 vy P P 2 , 0 y z z 2 2 2 O x 2 14 7 2015/6/9 濡れの動力学(2) z 潤滑近似の式および境界条件 v x (0) 0, v x ( h) 0 z O x を用いると, vx ( z ) 1 P z ( z 2h) 2 x となる.また,以下のように流量Qを定義する. Q( x) h 0 h 3 P dzv x ( z ) 3 x さらに流量の保存則を考慮すると以下のような 方程式を導くことができる. h( x, t ) Q( x, t ) 1 3 P( x, t ) h ( x, t ) t x 3 x x 15 濡れの動力学(3) まず,地面の水たまりの形状変化について考える. P( x, t ) gh( x, t ) を用いると, 2 h ( x, t ) z 2 z = h(x,t) O x h 1 3 h 3h h ( g 3 ) t 3 x x x h( x, t ) h0 h(t ) exp(iqx) を仮定し,変化が微小であることを仮定すると,以 下の式を導くことができる. h 3 h(t ) 0 q 2 2 q 2 h(t ) t 3 右辺の係数は正であるので,どんなモードも時間とともに減衰 従って,表面にうねりができたとしても解消される. 16 8 2015/6/9 濡れの動力学(3) 次に,天井に張り付いた水膜について考える. 重力の向きが逆になるので,圧力に関する式は 以下のようになる. O 2 h ( x, t ) P( x, t ) gh( x, t ) z 2 x z = h(x,t) 以下,同様な議論を繰り返すと,以下の式を導くことができる. h 3 h(t ) 0 q 2 2 q 2 h(t ) t 3 今度は,波数によって正負が異なる. ⇒ q > κ のモードは 減衰, q < κ のモードは 成長. 特に,成長速度が最大となるモードは,特性時間 (q) が最小となるqに相当し, q* このような解析のことを,線形 安定性解析(Linear Stability Analysis)という. 3 1 3 2 2 h0 q ( q 2 ) 2 , * 2 2 1 , * 12 g 2 h03 2 となる. つまり,自発的に界面が 不安定となる. 17 3.本日のまとめと次回の予告 本日のまとめ 参考図書:表面張力の物理学 本日は, -ラプラス圧 -完全濡れ・不完全濡れ -レイリー-テイラー不安定性 について学んだ. 次回の予告 次回は以下のような内容のお話をする予定. -接着・粘着の力学 18 9
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