「流氷域における 流出油拡散の数値モデルに関する研究」 指導教官 山口 一 教授 (共同指導 生産技術研究所 林 昌奎助教授) 10772 寺嶋 健 背景 • サハリン北東部で油田開発 • 結氷地域であるため流出事故の危険性 Asahi.comより抜粋 NOAAによる画像 油流出事故 迅速な対応により損害が軽減 –油を効率的に回収する –油の分布状況を予測 油の移流拡散予測の必要性 油移流拡散数値モデルが有効 既存の油拡散モデル 油全体を一 つの塊 油全体を小さな油 塊の集合 連続体モデル 個別要素モデル •油の分裂に対応し •計算機の能力上 ていない 実用的ではない •どれも開水面の移 流拡散のみを扱う 油を溶質として 扱う 濃度拡散モデル •油には複雑に力がかかる →濃度拡散のみで考える のには無理がある 限定された条件 油移流拡散モデルはまだ発展途上で開発の余地 本研究の目的 • 開水面、氷海両方に対応した油の 移流拡散数値モデルの構築 – 氷の力学的モデルと連成計算が可能(世界 初) – 油にかかる力を考える力学的モデル – 油の物性変化(乳化,蒸発)を取り入れられる モデルの構築 油のモデル化 油にかかる力の定式化 油のモデル化 直線直交格子 油シート 北側の辺 西側の辺 N W 東側の辺 S 南側の辺 E 油辺部 辺部幅 油シート 辺部長さ 辺部 辺部厚さ 辺部鉛直 断面積 (一定) 油にかかる力(開水面) 大気 辺 油 表面張力 水 付加質量:油底面で働くせん断により 引きずられる水を考えている 圧力による力 せん断力 付加質量 油にかかる力(氷下面) 大気 氷 氷 油 辺 水 圧力による力 表面張力 せん断力 形状抗力 付加質量 • 拡散に関する力 •氷下面 •開水面 大気 •拡散力 ー表面張力 ー圧力による力 •反拡散力 ー圧力による力 油 ーせん断力 ー付加質量 •移流に関する力 –せん断力 •拡散力 水 •反拡散力 ー表面張力 ーせん断力 ー形状抗力 ー付加質量 氷 油 水 表面張力(Fst) 開水面の場合 Fst 水 l 氷下面の場合 油 l Fst 水 Fst l l : 油膜先端部の長さ :表面張力 油 圧力による力(Fp) 大気 Pw 水 Fp P dS o So oS P dS w Sw wS Po Fp 油 Po :油による圧力 Pw :水による圧力 Sw:水による圧力の働く面積 So :油による圧力の働く面積 せん断力(Ff)、形状抗力(Fd) 氷 水 せん断力 A 油 形状抗力 S (乱流を仮定) 1 2 Ffw Surel CDf 2 S :接する面積 :密度 1 2 Fd Aurel CD 2 A :接する面積 :密度 urel :相対速度 urel :相対速度 CDf :摩擦係数 CD :抗力係数 油の物性変化の扱い •油の流出から経過した時間を表すパラメータ emtを導入 •乳化(エマルジョン化)、蒸発などによる物性変化 をemtの関数として取り入れる 1タイムステップ毎にその関数を用いて物性変化 •emtが異なる油が混合する場合 体積に重みを付けて平均 計算に用いるパラメータの チューニング • 開水面の計算に用いるパラメータ 付加質量(水)の厚さ D 油辺部の鉛直断面積 水‐油間の摩擦係数 Aos [m] [m2 ] Cfw • 氷下面での計算に用いるパラメータ 水‐油間の抗力係数 氷‐油間の摩擦係数 Cdw Cfi それぞれのパラメータの持つ傾向を加味し、 実験データに合うようにチューニング パラメータチューニング ー開水面の場合ー 静止水面上の平面拡散実験 (海上技術安全研究所1981-1983) 大気 初速度=0 10.2[cm] 油 初期厚さ 使用油種 B重油 密度 動粘度 0.91 [g/cm3] 0.001 [m2/s] 水 h=1[cm]~20[cm] パラメータの影響 水-油間の摩擦係数Cfwの拡散速度に与える影響ー 拡散速度[c m/ s] 5.0 Cfw=0.0002 Cfw=0.002 Cfw=0.02 Cfw=0.2 4.0 速度減少大 Cfw増加 3.0 2.0 1.0 0.0 1 10 100 1000 時間[s] Cfwが増加→せん断力(反拡散力)が増加 パラメータの影響 拡散速度[cm/s] ー油辺部鉛直断面積Aosの拡散速度に与える影響ー 5 Aos=0.0001 Aos=0.01 Aos=0.1 4 3 Aos増加 2 1 0 1 10 100 1000 時間[s] Aosが増加すると収束していく速度が減少 パラメータの影響 拡散速度[cm/s] ー付加質量の厚さDの拡散速度に与える影響ー 8 7 6 5 4 3 2 1 0 D=0.005[m] D=0.01[m] D増加 D=0.05[m] D=0.1[m] D=1[m] 1 10 時間[s] 100 1000 D増加→全体的に速度変化が抑えられる チューニング後の結果 拡散速度 [cm/s] チューニング後:Cfw=0.2, Aos=0.05[m2], D=0.1[m] 5.0 4.0 Cfw=0.2[non], Aos=0.05[m^2] ,D=0.1[m] 実験値 計算値 3.0 2.0 1.0 0.0 1 実験値 10 100 1000 時間 [s] チューニングにより、計算結果が実験値に合致 初期条件の異なるケースでの 実験値と計算値の比較 拡散速度 [cm/s] •初期条件のみ変える 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 -1.0 1 •同じパラメータの値を用いる Cfw=0.2[non], Aos=0.05[m^2] ,D=0.1[m] 実験値 10 100 時間 [s] 1000 10000 •計算値が実験値に合致 パラメータチューニング ー氷下面の場合ー 氷下面の平面拡散実験 (Izumiyama et al. (2002)) 海上技術安全研究所氷海試験水槽 大気 氷 物性値 油種 密度 粘度 表面張力 油 機械油10番 3 0.893 g/cm 0.129 Pa・s 0.0262 N/m 水 実験条件 油を一定時間注入 油流量 2.717・10-5 m3/s 油流出時間 600 s パラメータの影響 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 Cdw=0.1 Cdw=1 Cdw=10 0 200 400 600 時間[s] 800 1000 拡散半径[m] 拡散半径[m] ー水-油間の抗力係数Cdwの拡散半径に与える影響ー ー水‐氷間の摩擦係数Cfiの拡散半径に与える影響ー 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 Cfi=0.0001 Cfi=0.001 Cfi=0.01 Cfi=0.1 Cfi=1 0 200 400 600 時間[s] •Cfi,Cdwは拡散にはほとんど影響しない •氷の下では圧力による力と表面張力が支配 800 1000 拡散半径[m] 計算結果と実験結果の比較 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 計算値 実験値 計算値 0 200 400 600 時間[s] •計算値が実験値と合致 実験値 800 1000 開水面と氷下面での拡散の比較 2.5 開水面 拡散半径[m] 2 1.5 海水面 氷下面 1 氷下面 0.5 0 0 200 400 600 800 1000 時間[s] •氷下面では開水面と比べ多くの反拡散力 •氷下面では開水面より拡散半径は小さくなる 開水面の拡散 氷下面の拡散 大気 大気 氷 油 油 水 水 氷が全く存在しない 氷で満たされている 実海域では氷がまばらに存在 実海域に適応するには不十分 氷の下面への油の浸透 ① 油 大気 油 ② 大気 氷 氷 表面張力 水 水 圧力による力 ③ 油 大気 氷 表面張力 ④ 油 大気 氷 水 圧力による力 水 氷がまばらにある場合油に働く力 氷 氷 氷 辺 水 油 氷 氷 氷 :形状抗力 :せん断力 氷 氷 氷 :表面張力 氷密接度Cn • 氷密接度Cn 海域における氷の面積の占める割合 Cn=0 Cn=0.5 Cn=0.8 氷がまばらにある場合の計算 • 氷の密接度を変化させ、拡散に与える影響を見 ていく 計算設定 氷厚=0.5[m](油は氷の下面には入り込めない) 氷密接度Cn=0(開水面), 0.6, 0.8,1(氷の下面) 油 大気 氷 油 氷 水 氷 氷 氷 水 氷密接度(Cn)の拡散に与える影響 Cn=1 Cn=0.8 Cn=0.6 Cn=0 (Open Water) 4.3 拡散半径増加 4.1 Cn=0.8 Cn=0.6 開水面 拡散半径[m] 3.9 3.7 3.5 密接度増加 3.3 3.1 Cn=1 2.9 2.7 2.5 0 200 400 600 800 時間[s] •Cn=1のときは拡散しない •氷により油が排除される影響で 密接度が増加すると拡散半径も増加 1000 本研究の成果 • 開水面、氷海両方に対応したモデルを構築した • 本数値モデルは開水面と氷の下での平面拡散 に関しては実験値と合う良好な結果を得た • 計算に必要なパラメータをチューニングし、決定 した • 油の物性変化を取り入れることを可能なモデ ルを構築した • 本数値モデルは拡散のみならず、移流も取り入 れた 問題点と今後の課題 •油内部の運動を考慮していない •単純拡散のみでしか、チューニングを行っていない →移流を含めたケースでのチューニングも必要 •今回は実験結果と比較的一致したが、時間の関係 上一部のケースのみでモデルを検証 様々なケースで計算し、モデルのチューンアップ
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