中小企業への貸出手法の考察―ABL(Asset-based Lending)の活用― 相馬一天(日本経済大学) 中小企業の資金調達手段として ABL(Asset-based Lending)が着目されている。ABL は、 事業収益資産である売掛債権や在庫等を担保として、主として極度額内でリボルビング型 の短期運転資金を提供する融資である。 本稿は ABL の普及を阻害している要因を明らかにすることを目的とする。先行研究から ABL に対する金融機関の課題を設定し、次の三つの点から検討する。 第一に、日本の ABL の特徴と課題をまとめた。日本の金融機関と中小企業との取引は、 一行取引よりも複数行取引が多いと捉えられている。中小企業は何らかの尺度によって金 融機関を選択することが可能となっている。ABL では、在庫、売掛金、手形および預金を 一体的に担保として有する場合を除き、複数行取引の企業から流動資産担保から企図した 金額を回収するのは困難である。例えば、売掛債権のみ担保とした場合、当該債権の入金 口座が他行である場合、回収が困難となってしまう。つまり、一行取引または流動資産一 体型の担保に依らない ABL は回収面で課題を残していると言えよう。 第二に、集合動産担保や債権譲渡担保等担保の課題に対する金融機関等の近年の取組み を整理し、検討した。本来、流動性資産担保に依存した融資であり、担保のモニタリング が十分に行われている前提であれば、企図した金額の回収面に問題はない筈である。しか しながら、例えば、動産担保の場合、企業が破綻の直前になるとうわさが先行すると動産 の買い手は消極的になることから担保の価値が急速に減少し、金融機関は担保による貸出 金の回収が困難になるケースがある。こうしたケースに対しては、担保評価を行う専門業 者や資産処分業者による合理的な価格での処分が期待されている。 第三に、財務や商流に関わる情報の非対称性についての課題を検討した。中小企業の財 務諸表は、必ずしも中小企業の実態を表していない場合がある。金融機関では、そうした 財務諸表を実態に合わせて修正することがある。経営者や財務担当者からのヒアリングに より財務諸表を精査し、修正するのである。この他、ABL では財務諸表の精査、コベナン ツのモニタリングおよび担保のモニタリングに対する取引コストの増加が課題となってお り、取引コストの解消が求められている。
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