中小企業における資金調達の方策について

平 成 25 年 度 証 券 ゼ ミ ナ ー ル 大 会
第 3 テーマ B ブロック
中小企業における資金調達の方策について
関西学院大学
阿萬ゼミナール 門利班
1
目次
序章
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
第 1章
中小企業の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
第 1節
中小企業の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
第 2節
中小企業の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
第 2章
中小企業における資金調達の現状・方策・・・・・・・・9
第 1節
民 間 金 融 機 関 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 10
第 2節
様 々 な 資 金 調 達 手 段 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 13
第 3章
中 小 企 業 に お け る 公 的 支 援 と 信 用 保 証 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14
第 1節
中 小 企 業 金 融 円 滑 化 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14
第 2節
日 本 政 策 金 融 公 庫 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 16
第 3節
信 用 保 証 協 会 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 18
第 4節
米 国 に お け る 公 的 支 援 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 21
第 4章
新 し い 資 金 調 達 方 法 ABL ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 22
第 1節
ABL の 特 徴 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 22
第 2節
ABL 導 入 の メ リ ッ ト ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 24
第 3節
ABL の 有 効 性 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25
第4節
ABL 普 及 の 課 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 26
第 5節
ABL 課 題 へ の 改 善 策 提 案 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 27
第 6節
ABL の 補 完 策 資 本 性 ロ ー ン ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 35
終章
お わ り に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 38
参 考 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 39
2
序章
はじめに
今年の夏、流行したドラマに「半沢直樹」というものがある。この
ドラマは、まだまだ会社としては存続できるはずだった主人公の父が
5
銀行からの融資を断られ、自殺してしまい、その復讐をするために主
人公がその銀行に入るという物語である。このドラマは世間で大きな
反響を浴びたが、それと同時に中小企業がいかに資金繰りに困ってい
るかが伺える。
リーマンショックを発端とする世界金融危機、そして日本に大きな
10
被害をもたらした東日本大震災の影響を大きく受け、経済は委縮した
状況が続いていた。昨年の衆院選で自民党が政権を取戻し、安倍内閣
に は 大 き な 期 待 が 寄 せ ら れ 、そ の 政 策 は ア ベ ノ ミ ク ス と 名 付 け ら れ た 。
しかし、その効果は中小企業にはまだ見られていないというのが国民
の実感である。期限付きで設けられた中小企業金融円滑化法も昨年度
15
末に期限切れを迎え、一時は希望が見えかけた中小企業は再び厳しい
局面に立たされている。そのような中小企業が資金調達を円滑に行う
のは困難な状況にある。その現状と打開策を本稿において述べていき
たい。
第 1 章では中小企業の定義や現状など中小企業がどういったもので、
20
企業としての役割はどのようなものか、またどのような問題が中小企
業にはあるのかについて触れる。第 2 章では第 1 章の現状の中でも中
小企業の民間の資金調達の形について述べる。そして第 3 章で我々は
そうした資金調達の中で政府や地方自治体がどのように支援してきた
かを述べる。そして、最後の4章では上で述べた現状を踏まえ、中小
25
企 業 が こ れ か ら 資 金 調 達 す る 中 で 、ABL を 中 心 と し た 手 法 が 最 適 で あ
るという提案をする。
30
3
第 1章 中 小 企 業 の 現 状
第 1節
中小企業の定義
まず、中小企業金融を論じるに当たり、日本における中小企業の定
義について確認したい。中小企業基本法第2条により従業員と資本金
5
を 基 準 と し た 中 小 企 業 の 範 囲 が 定 め ら れ て い る 1 。( 図 1 - 1) し か し 、
一口に中小企業といってもその形態は非常に多様であり、それぞれが
独立した企業である。
図 1- 1
10
15
業種
資 本 金( 左 側 )/ 従 業 員 数( 右 側 )
卸売業
1 億 円 以 下 / 100 人 以 下
小売業
5000 万 円 以 下 / 50 人 以 下
サービス業
5000 万 円 以 下 / 100 人 以 下
製造業他
3 億 円 以 下 / 300 人 以 下
( 注 ) 1. 資 本 金 基 準 も し く は 従 業 員 基 準 の ど ち ら か を 満 た せ ば よ い 。
2. 従 業 員 は 常 時 使 用 す る 従 業 員 を 指 す 。
3. 個 人 企 業 は 従 業 員 数 の 基 準 が 適 用 さ れ る
(出所)中小企業基本法より筆者作成
1999 年 の 中 小 企 業 基 本 法 改 正 に よ り 中 小 企 業 の 定 義 が 改 定 さ れ た
20
だけでなく、中小企業政策の理念も大幅に変更された。それまでは、
「大企業と中小企業との間にある生産性や賃金等の格差を是正するこ
と 」を 理 念 と し て 掲 げ て い た が 、
「独立した中小企業の多様で活力のあ
る成長発展」へと転換した。つまり、中小企業を画一的に「弱者」と
25
してマイナスイメージで捉えるのではなく、機動性、柔軟性、創造性
1
なお、上記に挙げた中小企業の定義は、中小企業政策における基本的な政策
対象の範囲を定めた「原則」であり、法律や制度によって「中小企業」として
扱われている範囲が異なることがある。例えば、法人税法における中小企業軽
減税率の摘要範囲は、資本 1 億円以下の企業が対象である。
4
を発揮する「日本経済のダイナミズムの源泉」と捉えるようになった
の で あ る 2。
では、中小企業が日本経済に占めるウェートはどうなのかを見ていき
たい。
総 務 省 「 事 業 者 ・ 企 業 統 計 調 査 」( 2009) に よ れ ば 、 民 間 非 一 次 産
5
業 で み た 中 小 企 業 数 は 、約 420.1 万 社 で あ り 、全 体 に 占 め る 構 成 比 は 、
99.7% 従 業 員 数 の 7 割 で あ る 。ま た 、経 済 産 業 省「 工 業 統 計 表 」
( 2008)
によれば、製造業の出荷額に占める中小企業のウェートは約 5 割を占
めており、労働人口やGDPの大部分を構成している。サービス業や
10
製造業、輸出産業のサプライチェーンでも至極重要な役割を果たして
いる。このことを考えても、中小企業の動向は我が国に大きな影響を
与える存在であり、経済的基盤を形成する存在であるといえよう。
また、ストックベースで大きな割合を占めているだけでなく、雇用
の創出、特に不況期における雇用の創出や転職市場でも大きな役割を
15
担っている。労働市場は中小企業によって支えられていると言っても
過言ではない。
第2節
中小企業の現状
我が国の経済は、米国のリーマンブラザーズに端を発する世界的金
20
融危機による景気後退から着実に持ち直してきているものの、自律的
回復といえる状況には至っていない。
まず、我が国の企業の負債・資本構成を見てみると米国と比して負
債 の 割 合 が 大 き く 、 中 で も 借 入 の 比 率 が 大 き い 。( 図 1-2) 我 が 国 の 企
業にとって、借入による資金調達の役割は大きいと言える。
25
特に社債発行等直接金融市場へアクセスを持つことが困難な 中小企
業にとって、借入は資金調達手段の中でも大きな役割を担っており、
この借入市場が、十分効率的に機能して、特に成長企業が適正金利に
2
藪下史郎, 武士俣友生「中小企業金融入門」第 2 版参照。
5
よる適時かつ適量の安定的な資金調達できるような環境が整備される
ことが重要である。
( 図 1-2)
7.1%
20.9%
56.0%
27.9% 5.6%
16.0%
43.0%
米国
23.6%
日本
0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0%120.0%
5
借入
日本
27.9%
米国
7.1%
債権
5.6%
20.9%
株式
43.0%
56.0%
その他計
23.6%
16.0%
軸ラベル
民間非金融法人企業の負債構成
(2013)
借入
債権
株式
その他計
( 注 )「 そ の 他 計 」 は 、 金 融 負 債 合 計 か ら 、「 借 入 」、「 債 券 」、「 株 式 ・
出資金」を控除した残差。
(出所)日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」より筆者作成
近年、中小企業の業況は持ち直しの動きが見られるがその水準自体
10
は依然として低く、厳しい状況が続いている。中小企業の経営環境が
未だ厳しく大企業と比して資金調達手段は限定的なものとなる。なぜ
中小企業の資金繰りは大企業より厳しいのか。この問題を考えるに当
たり金融面での大企業と中小企業の差異に着目しながら考察していく。
財 務 省 「 法 人 企 業 統 計 年 報 」( 2012) を 用 い て 企 業 の 資 金 調 達 構 造
15
を見てみると中小企業では自己資本比率は低く借入金の割合が高い。
中 小 企 業 の「 自 己 資 本 」お よ び「 自 己 資 本 比 率 」は 平 成 11 年 度 以 降 に
ついてはともに改善傾向にあり、大企業との格差は縮小してきている
ものの、依然として格差が大きい。大企業は多様な資金調達手段を活
用しているのに対して中小企業の資金調達は借入金(間接金融)に依
6
存している。それは、株式や社債の発行等により市場から資金を直接
調 達 す る 手 段( 直 接 金 融 )が 中 小 企 業 に は 利 用 し づ ら い と 考 え ら れ る 。
こ の 原 因 と し て 第 一 に 「 情 報 の 非 対 称 性 3」 の 問 題 が あ る 。 つ ま り 、
貸し手(金融機関)は借り手(中小企業)の情報を借り手と同レヴェ
5
ルに把握するのは困難ということである。大企業は、企業情報を広く
開示しており金融機関は融資判断する際に情報を入手し易く、更に、
会計審査が会社法で義務付けられているのに対して中小企業は企業情
報をあまり開示しておらずまた、会計審査を受けていない分、企業状
態が不透明でリスクが高いと判断されがちである。
10
第二に貸し手における規模の経済性が働くためと考えられる。例え
ば銀行融資であれば融資金額が大きくなればなるほど、融資を実行す
るために必要な審査費用等の貸出しあたりコストは低下する。そのた
め、融資金額が相対的に大きい大企業を優先しがちである。
第三に担保不足が挙げられる。情報の非対称性の問題を解決するの
15
が担保である。十分な担保があれば、情報の非対称性は問題にならな
い。しかし、そもそも不動産を持っている企業が少ない。経営状態は
良好だが担保不足で銀行から借りられず、高利の商工ローンなどから
借りる中小企業も出ている。
第四に信用割当の問題が挙げられる。信用割当とは、金融市場での
20
金利が何らかの理由により、資金の需給が一致する水準よりも低い水
準に決定されている場合に、その金利水準ではすべての資金需要者に
は信用が行き渡らないため、価格メカニズムとは異なる形で 割当が行
われることである。例えば、銀行が信用度の高い大企業に融資を優先
すると、金融引締めのしわ寄せは信用度の低い中小企業が受けること
25
になるのである。
これからは資金調達を金融機関に頼って会社経営をしていく従来の
やり方では生き残っていくのは難しくなってきており、独自の資金調
達をすることも必要になってきている。
3 市 場 に「 情 報 の 非 対 称 性 」が 存 在 す る 場 合 、そ の 市 場 で は さ ま ざ ま な 問 題 が 生
ず る 。「 逆 選 択 」 や 「 モ ラ ル ・ ハ ザ ー ド 」 等 は そ の 代 表 例 と さ れ て い る 。
7
では、依存してきた民間金融機関による間接金融が難しくなってき
たことで中小企業は直接金融を取り入れるべきかに関して現状を踏ま
えながら述べていきたい。
直接金融の場合は不特定多数の投資家が資金提供者になるが 、投資
5
家は配当や値上がり益等を期待して投資するため、投資家の利益につ
ながると判断される企業でなければ直接金融による資金調達は厳しい。
また、銀行などから借り入れる以外の方法、直接金融が浸透していな
い 理 由 と し て 次 の よ う な こ と が 挙 げ ら れ る 。例 え ば 、
「 株 式・社 債 の 発
行 基 準 に 満 ち て い な い こ と 」 や 「 経 営 者 の 理 解 不 足 」、「 企 業 の 信 用 力
10
不 足 」、「 方 法 の ノ ウ ハ ウ 不 足 」 で あ る 。
また、先述のように我が国の中小企業の資金調達は借入金(間接金
融)に依存している。そのため、金融機関の自己資本比率や最低基準
等 を 定 め た「 BIS 規 制 」に 関 し て も 目 を 向 け た い と 思 う 。同 法 は 、2006
年末に国際的な金融システムの複雑化や銀行業務におけるリスク管理
15
手法の高度化に対応した見直しのために改定された。大きく変更され
た点は、銀行の自己資本比率を算出するときの分母であるリスク・ア
セ ッ ト の 計 測 を よ り 精 緻 化 す る 点 で あ る 。従 来 の 信 用 リ ス ク 4 、市 場 リ
ス ク 5だ け で な く 、 オ ペ レ ー シ ョ ナ ル ・ リ ス ク 6( 以 下 オ ペ リ ス ク ) も
リスク・アセットを算出する際に考慮されるようになった。
20
また、信用リスク及びオペリスクの計測には、各々の銀行に三つの
選択肢が与えられる。その選択肢は、次の通りである。①「標準的手
法 」②「 内 部 格 付 け Ⅰ( デ フ ォ ル ト 確 率 を 銀 行 が 推 計 )」③「 内 部 格 付
け Ⅱ( デ フ ォ ル ト 確 率 に 加 え 損 失 率 も 銀 行 が 推 計 )」こ れ ら の う ち 、標
準的手法では、中小企業および個人向け貸出債権のリスク・ウェート
25
は 100% か ら 75% へ 、 住 宅 ロ ー ン に つ い て は 50% か ら 35% へ 引 き 下
げられた。これは、小口融資が中心のため一定の分散効果が働くとい
う考えによるものである。単純に考えれば、リスク・ウェートが軽減
4
5
6
債権の元利金が約定通りに回収できなくなる危険性。
市場価格が変動することにより生じる危険性。
事務的ミスや不正行為などによって損失を被る危険性。
8
された分、中小企業向け貸出しが行いやすくなると考えられるが、オ
ペリスクも加味されるようになったので銀行にとって必ずしも中小企
業向け貸出しを増やそうとする誘因にはならないと考えられる。
また、内部格付け手法では借手の予想デフォルト確率、デフォルト
5
時の損失率、デフォルト時の与信額をもとに、各々の銀行が分散効果
を反映したリスク・ウェート関数を使って所要自己資本額を独自に求
める。
以 上 の よ う に 2006 年 末 に 改 定 さ れ た 現 行 の BIS 規 制 は リ ス ク ・ ア
セットをより正確に計測すると共に、中小企業への「貸し渋り」が 生
10
じ な い よ う に 配 慮 さ れ て い る と い え よ う 7。
第 2章
中小企業における資金調達の現状・方策
中小企業の自己資本比率は大企業と比べ低水準で推移しており、企
業 経 営 の 難 し さ が 伺 え る 8 。資 金 調 達 構 造 か ら も 、こ の こ と は 明 ら か で 、
15
大企業が社債や株式の発行という直接金融で資金調達を行う割合が高
いのに対し、中小企業は金融機関などからの借入という間接金融によ
る資金調達の割合が高くなっている。なぜならば株式や社債の発行と
い う 直 接 金 融 に よ る 資 金 調 達 は 、多 額 の 資 金 を 調 達 で き る と い う 傍 ら 、
導入には多額の資金がかかり、常に会社の財務情報を開示する必要が
20
あるため専門的な知識を持つ人材を置く必要があるが、中小企業には
そのような人材を置く余裕がない場合が多い。他にも、資金の提供者
である投資家は利子や配当、値上がり益を目的にしている場合がほと
んどで、投資家が利益を見込めると判断した一部の企業でないと資金
調達が困難であるということがある。そのため、中小企業において直
25
接金融を主に利用することは困難であり、間接金融を利用する割合が
依然として高い。近年では、中小ベンチャー向けの新興証券市場が創
造されてはいるが、中小企業が直接金融で資金調達を行うには未だ高
い壁がある。
7
8
藪下史郎, 武士俣友生「中小企業金融入門」第 2 版参照。
「 中 小 企 業 白 書 」( 2013 年 ) 参 照 。
9
間接金融による資金調達は、民間の金融機関からの資金調達と、政
府系金融機関からの資金調達に、大きく 2 つに分けられる。民間の金
融機関の場合は、私企業でもあるため、利潤を追求することが求めら
れる。それに対し、政府系の金融機関の場合は公的なものであり、企
5
業の支援という側面も持つため、一定の基準さえ満たせば財務状況の
悪い企業の借入も可能であり、長期的かつ低金利は政府系金融機関な
らではのものである。よって、民間の金融機関から融資を受けること
が で き る 企 業 に お い て も 、政 府 系 金 融 機 関 を 利 用 す る 企 業 も み ら れ る 。
金融機関からの借入には担保が必要となる。担保としては不 動産や
10
個人保証が挙げられるが、不動産に関しては、バブル崩壊による地価
の下落で依然として低水準で推移しており、評価額が低いことで思い
通りの資金調達が困難な状況である。個人保証に関しても、企業がデ
フォルトを起こした場合には保証人の財産が失われるため、連鎖した
倒産や、保証人の再起が不可能になるということがあり、担保として
15
最適な方法であるとはいえない。
(出所)財務省『企業統計年報特集』より筆者作成
第 1節
民間金融機関
中小企業は資金調達において間接金融の割合が高いということは先
20
ほども述べたが、中でも民間の金融機関との関わりは重要 である。し
かしながら、中小企業においては貸手側の金融機関と借手側 の企業と
10
の情報格差が存在することや、金融機関において貸し出す上 でのコス
トの割合が高いこと、貸倒率が高いことが、金融機関にとって障壁と
なっている。
ここから、大規模金融機関と地域金融機関に分けて見ていく。
5
I. 大 規 模 金 融 機 関
メガバンクをはじめとする金融機関の多くは大企業への融資を行っ
ており、小規模額の融資を希望する中小企業に対しての融資件数、融
資額はとりわけ少ない。これには融資するに当たり、融資額に対して
10
の企業の調査費用やモニタリングコストなど貸出に伴う費用の割合が、
大企業より高くなり効率が悪いことも影響している。また、全国展開
する金融機関の地方部における店舗数が少ないことで、企業側の使い
勝 手 が 悪 く 、 大 規 模 金 融 機 関 と の 取 引 が な い と い っ た こ と も あ る 9。
中小企業に対して、目を向けることが少なかった大規模金融機関で
15
あるが、日本においては貯蓄に多くの個人資産が回っており、投資に
資金が回らないという現状があるため、メガバンクが通常の融資基準
を満たさない企業においても、個々に企業の成長性を判断することで
融資を行っているという実例も存在するが、数はまだまだ少なく、融
資を受けられる対象の企業も限られている。
20
II. 地 域 金 融 機 関
中小企業が安定した資金調達を行っていくうえでなくてはならない
存在であり、中小企業とともに地域経済を支えている存在である。
ここで中小企業と地域金融機関を述べる上で外すことができ ないメ
25
インバンクとリレーションシップバンキングについて述べていく。
・メインバンク
メ ガ バ ン ク で 全 都 道 府 県 に 店 舗 を 持 つ の は み ず ほ 銀 行 の み で あ る (メ ガ バ ン
ク 各 行 HP よ り )。
9
11
日本の企業は複数の金融機関と取引を行っているのが一般的であり、
その取引金融機関との関わりには濃淡がある。そして主に特定の 1 行
と借入、預入、手形取引、取引先の紹介などを行っており、企業側に
経営の陰りが見えた時には追加融資を依頼し、さらにはその金融機関
5
から役員の派遣を依頼し、再建を図るといった親密な取引を行う金融
機関のことを指す。大企業においては、金融自由化に伴い直接金融に
よる資金調達を基盤とし、メインバンクを持たない場合もあるが、そ
れができない中小企業においては 9 割以上の企業がメインバンクを持
つ 10 。
10
・リレーションシップバンキング
中小企業と金融機関における長期的かつ継続的な取引において定常
情報を基盤とした融資方法であり、情報の非対称性を克服した資金調
達を可能にする。両者間で頻繁にやりとりを行っているため、数字と
15
して表れない情報まで金融機関は得ることができ、金融機関において
リスクを低減した融資を可能とするとともに、企業にとっても金融機
関から経営的な指摘などを受けることができ、両者にとってメリット
があるとされる。金融庁もこのリレーションシップバンキングを強化
することを推奨しており、今後もさらなる発展が見込まれる。
20
中小企業は特定の金融機関と長期的かつ継続的に取引を行う。メイ
ンバンクの多くは地域金融機関であり、メインバンクに対する満足度
も高いことから、メインバンクを持つことで円滑な資金調達がなされ
て い る と 考 え る こ と が で き る 。企 業 の 取 引 銀 行 は 複 数 あ る こ と が 多 く 、
25
複数行から融資を受けることで多額の資金調達を可能とするという意
味合いがあり、一概には言えないが借入依存度が増すことで債務不履
行の危険性が増すと考えられる。
10
中 小 企 業 庁 HP 参 照 。
12
中小企業の資金調達として、リレーションシップ下においては、一
般的に適切な資金調達が行われているといえる。なぜならば、金融機
関と親密な関係をもつことにより、金融機関側が企業の体力を把握で
きているため、適切額の融資を提案することや、中小企業に経営上の
5
助言を与えることが行われているからである。
第 2節
多様な資金調達方法
金融機関による融資以外にも様々な資金調達方策がとられている。
こ こ で は ロ ー ン 担 保 証 券 で あ る CLO と 少 人 数 私 募 債 、 シ ン ジ ケ ー ト
10
ローンの有効性と普及の障害となっているものについて述べていく。
1.
CLO( Collateralized Loan Obligation: ロ ー ン 担 保 証 券 )
CLO と は 金 融 機 関 の リ ス ク 資 産 の 圧 縮 の た め の ツ ー ル と し て 用 い
られており、金融機関にとって貸付債権のオフバランス化、保有する
信用リスクの市場への移転、新たなフィービジネスの開拓という点に
15
メリットがある。企業にとっては資金調達手段の多様化や資金調達コ
ストの低減といったほかに直接金融への足掛かりとしての役割も期待
されている。投資家にも多数の債権を集積することでリスク分散がさ
れ、モニタリングコストは低く、格付機関による評価がなされている
ため、個別企業に対する投資よりも投資が行いやすい。
20
近 年 で は 自 治 体 が 中 心 と な り 中 小 企 業 向 け 金 融 に CLO を 活 用 す る
事例が増えている。背景には中小企業向けに安定した資金調達を可能
にする手段の導入や成長力のある企業を直接金融に結びつけるための
インフラづくり、中小企業の育成・地域経済の活性化などがあげられ
る 。 東 京 都 の 実 施 (2000 年 )が 歯 切 り と な り 、 大 阪 や 千 葉 、 福 岡 な ど で
25
も 行 わ れ て お り 、複 数 の 自 治 体 が 連 携 し て 広 域 CLO に 取 り 組 む 事 例 や 、
政 府 系 金 融 機 関 に よ る も の も 実 施 さ れ て い る 。自 治 体 主 導 の CLO は 中
小企業の資金調達手段として定着しつつあるといえる。
しかしながら、導入コストがかかり、ハイリスク企業への融資を証
券化することは現状困難であるため、利用できる企業は優良企業に限
13
ら れ る が 、 今 後 一 層 の 拡 大 が 期 待 さ れ る 11 。 ま た 、 行 政 の 信 用 補 完 な
ど仕組みを支えていく政策が必要である。
2. 少 人 数 私 募 債
少 人 数 私 募 債 は 社 債 の 購 入 者 が 50 人 未 満 で あ り 、社 債 1 口 の 最 低 金
5
額 が 50 分 の 1 よ り 大 き い こ と 、引 受 対 象 者 は 発 行 企 業 の 縁 故 者 か つ 金
融プロがいないことという条件がある。資金繰りが楽になること、利
息が経費計上になること、担保が不要であること、決算の公開義務が
ないこと、届出・告知義務の免除や社債権の発行が不要な ど、容易に
10
資 金 調 達 が 可 能 で あ る 12 。 し か し な が ら 、 債 権 者 が 縁 故 者 に 限 ら れ て
いることなどからも、投資というよりは支援という面が大きく、多額
の資金調達は困難である。
3. シ ン ジ ケ ー ト ロ ー ン
15
シンジケートローンとは、企業の資金調達ニーズに対し複数の金融
機関が協調してシンジケート団を組成し、一つの融資計画書に基づき
同一条件で融資を行うというものである。シンジケートローンは金融
機 関 か ら の 「借 入 取 引 」で あ る た め 設 備 投 資 資 金 と い っ た 高 額 か つ 長 期
的な調達を行う場合のみならず、コミットメントラインのような短期
20
融資枠の組成においても有効な手段である。
第 3章
中小企業における公的支援と信用保証
第1節
中小企業金融円滑化法
中小企業金融円滑化法(以下、金融円滑化法とする)は中小企業や
25
住宅ローンの借り手が金融機関に返済負担の軽減を申し入れた際に、
できる限り貸付条件の変更等を行うよう努めることなどを内容とする
法 律 で あ る 。 こ の 法 律 が 制 定 さ れ た 背 景 と し て は 2008 年 秋 以 降 の 金
融 危 機 ・ 景 気 低 迷 に よ る 中 小 企 業 の 資 金 繰 り 悪 化 等 で あ り 、 2009 年
11 藪 下 史 郎 ,
12
武士俣友生「中小企業金融」第 2 版参照。
「資金調達手法と会計・税務」参照。
14
12 月 に 約 2 年 間 の 時 限 立 法 と し て 施 行 さ れ た 。そ し て 二 度 に わ た っ て
延 長 さ れ 、 2013 年 3 月 末 を も っ て 終 了 し た 。
では実際金融円滑化法が中小企業金融に与えた影響を見ていく。下
図を見ると分かるように、金融円滑化法制定後より、非常に高い実行
5
率となっており、金融機関の貸付条件変更などにより、法律の目的通
り中小企業への歩み寄りが行われたと言える。
図 3- 1
各期間における貸付条件変更等の申込件数の推移
(出所)金融庁「中小企業円滑化法の施行状況の推移」より引用
10
しかしながら、金融円滑法によって実際に中小企業の経営状況は改
善されたのだろうか。帝国データバンク「金融円滑化法利用後倒産件
数 の 動 向 調 査 」 に よ る と 、 2013 年 9 月 に は 倒 産 件 数 は 61 件 に 上 り 、
月別として過去最多となっており、金融円滑化法利用後にもかかわら
ず中小企業の倒産件数は増加している。金融円滑化法により 中小企業
15
に対し返済猶予を与えたものの、中小企業の倒産を先延ばしにしたに
すぎず、根本的な問題解決にはならなかったと考えられる。
金 融 円 滑 化 法 は 2013 年 3 月 末 で 期 限 切 れ と な り 、 政 府 は そ の 後 も
貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めるべきであると呼びかけて
いるが、中小企業にはさらに困難な状況となることが予期される。そ
20
こで次節以降、今後の中小企業における資金調達法を述べていく。
15
第 2節
日本政策金融公庫
日 本 政 策 金 融 公 庫 と は 、図 3- 3 の よ う に 、
「 国 民 生 活 事 業 部 門 」、
「中
小企業事業部門」及び「農林水産事業部門」の三つの部門により、運
営 さ れ て い る 。こ の う ち 、中 小 企 業 へ の 融 資 事 業 に つ い て は 、
「国民生
5
活 事 業 部 門 」、
「 中 小 企 業 事 業 部 門 」の 二 部 門 が 行 っ て い る 。
「国民生活
事業部門」は、個人事業や中小零細企業など、中小企業の中でも小規
模企業を取り扱っているのに対し、
「 中 小 企 業 事 業 部 門 」は 、中 小 企 業
で も 比 較 的 規 模 が 大 き い 中 堅 企 業 の 長 期 の 資 金 を 取 り 扱 っ て い る 13 。
( 図 3- 3)
10
(出 所 )「 税 理 士 が 知 っ て お き た い 50 の ポ イ ン ト 資 金 調 達 」 よ り 筆 者 作 成
日本政策金融公庫の融資制度は、普通貸付制度を基本として、セー
フティーネット貸付、特別貸付、食品貸付、生活衛生貸付制度によっ
て構成されており、実に様々な融資形態がある。特に日本政策金融公
15
庫は政府系機関であるため、国民から「存在意義があって必要だ」と
感じてもらうことが存続するために必要である。
「 創 業 融 資 」は 存 在 意
義をアピールするために有効であるといえるので、とても注力してい
る。
また売上高減少や経営悪化による資金調達が困難な企業に対しての
20
融資制度であるセーフティーネット貸付融資はリーマンショックで損
13
「 税 理 士 が 知 っ て お き た い 50 の ポ イ ン ト 資 金 調 達 」 よ り 作 成 。
16
失 を 受 け た 中 小 企 業 を 支 援 し 、リ ー マ ン シ ョ ッ ク 前 の 貸 付 残 高 は 6000
億 前 後 だ っ た の に 対 し 、リ ー マ ン シ ョ ッ ク 後 の 2009 年 で は 、最 高 で 1
兆 4000 億 超 ま で 増 え 、 不 況 の 中 で も 手 厚 く 融 資 し て い る こ と が 分 か
る 14 。
現 在 日 本 政 策 金 融 公 庫 の 融 資 先 数 は 約 100 万 社 に も の ぼ り 、 1 企 業
5
あ た り の 平 均 融 資 残 高 は 647 万 円 と 小 口 融 資 が 主 体 と な っ て い る 。 日
本 の 小 規 模 企 業 (社 員 20 人 以 下 (卸 売 業 、小 売 業 、飲 食 店 、サ ー ビ ス 業
は 5 人 以 下 )の 企 業 )の 数 は 、約 366 万 社 と い わ れ て い る た め 、3.6 社 に
1 社が日本政策融資金融金庫の国民生活事業部門の融資を利用してい
10
ることになる。
確かに上で述べたように充実した融資制度が整えられているが、民
間ではとても太刀打ちできない長期・低利の融資で民業を圧迫してい
る と い う 声 も 少 な く な い 15 。 医 療 ・ 介 護 や 環 境 、 農 業 の 6 次 産 業 化 と
いう成長分野は、地域経済にとっても大変重要である。地銀も地域経
15
済の特性に合わせて、ノウハウを蓄積しており、民間でも十分に融資
できる分野は広がっているのである。つまり今後日本政策金融公庫な
どの公的金融機関は民間の補完に徹していく必要がある。また 、融資
手法としても上で新規事業への融資が増えていると述べたが、家族構
成やあまり事業とは関係ない部分への確認などが多く、あまり事業内
20
容、事業者の熱意には興味を持っていない。公庫がこうした硬直した
融資姿勢を頑なに守っているのは、長い不況の影響で、巧妙に練られ
た事業計画や決算データに基づき融資を受けたあげく、実際には全く
違う使途に用立てる申し込み者などの貸し倒れが多いからである。
さらに問題なのは、
「 公 庫 職 員 は 新 規 事 業 へ の 審 査 能 力 に つ い て 、専
25
門的な指導、訓練は受けていない」という点である。とりわけ景気の
牽 引 役 と 目 さ れ る IT( 情 報 技 術 )、 通 信 な ど の 先 端 分 野 に お い て は お
14
日 本 銀 行 「 短 観 」、 日 本 政 策 金 融 公 庫 資 料 参 照 。
15 谷 正 明( 全 国 地 方 銀 行 協 会 会 長 )
「日本経済新聞」
( 2013
年 10 月 26 日 )昨 年
8 月 に 全 国 地 方 銀 行 協 会 が 会 員 64 行 向 け に 実 施 し た ア ン ケ ー ト で は 600 件 に
のぼる「民事圧迫事例」が報告されている。これらは政府系と競合して取引先
を取られたといった事例がほとんどである。
17
手上げ状態になっている。これが民間の銀行ならば手堅い安定した銀
行となるかもしれないが、これは政府のデフレ脱出、不況突破の日本
経済再生という経済運営を底支えする金融機関の話である。閣議決定
された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」では、ビジネスへのチ
5
ャレンジの支援として、起業・創業や第 2 創業を目指す、特に女性や
若者への支援、ベンチャー創出などを大きく謳っている。これらの政
策を実現するには、事業を起こし、必要なお金の工面をする公庫の役
割がきわめて大きい。公庫は今後なるべく民間が融資できるところは
民間に任せながら規模を縮小しつつ、民間が融資しにくい新規事業に
10
ついてより力を入れていくべきである。その中で政府、国民の危機感
をしっかり受け止め、融資審査の優先順位を、事業本位、経営者の熱
意本位、それらで裏付けられた将来性本位にシフトしていかなければ
ならない。
15
第 3節
信用保証協会
企業が民間金融機関から資金調達を行う場合には、各金融機関が直
接融資するプロパー貸付と、信用保証協会の保障付きの貸付の二種類
がある。ただし、企業の信用力が低い中小企業場合の場合には、金融
機関もすぐにはプロパー貸付には応じないため、信用保証協会の保証
20
付きの融資制度による調達が一般的な調達方法となっている。
「 信 用 保 証 協 会 」 は 、 信 用 保 証 協 会 法 (昭 和 28 年 8 月 10 日 法 律 第
19 号 )に 基 づ き 、 中 小 企 業 者 の 金 融 円 滑 化 の た め に 設 立 さ れ た 公 的 機
関 で あ る 16 。 保 証 協 会 は 、 信 用 力 の 低 い 中 小 企 業 の 信 用 力 を 補 完 す る
ため、融資の保証を引き受け、中小企業の資金調達の円滑化を手助け
25
している。具体的には中小企業が金融機関から融資を受ける際に、信
用保証協会がその中小企業から保証料の支払いを受けることによって、
融 資 の 保 証 を 引 き 受 け る 仕 組 み に な っ て い る ( 図 3- 4)。
47 法 人 、市 を 単 位 と し て 5
法 人 (横 浜 、川 崎 、名 古 屋 、岐 阜 、大 阪 )、全 国 で あ わ せ て 52 の 法 人 が 設 け ら れ
ている。
16 現 在 、信 用 保 証 協 会 は 、各 都 道 府 県 を 単 位 と し て
18
( 図 3- 4)
)
( 出 所 ) 一 般 社 団 法 人 全 国 信 用 保 証 協 会 連 合 会 HP よ り 筆 者 作 成
現在、中小企業・小規模事業者 1 人に係る保証限度額は、中小企業
信用保険における普通保険の限度額 2 億円(組合 4 億円)と無担保保
5
険 の 限 度 額 8,000 万 円 ( 組 合 も 同 額 ) を 合 わ せ た 2 億 8,000 万 円 ( 組
合 4 億 8,000 万 円 ) と な っ て い る 。 こ れ ら 一 般 保 証 に 係 る 保 証 限 度 額
とは別枠で、中小企業信用保険の特例措置等に基づき各種の政策目的
により創設された別枠保証に係る限度額が設けられている。 なお、信
用保証協会利用するメリット、デメリットは以下の通りである(図 3
10
- 5)。
( 図 3- 5)
メリット
・信 用 保 証 協 会 の保 証 さえ付 けば、銀 行 から融 資 を受 けやすくなる 17 。
・長 期 (5 年 以 上 )の融 資 が受 けやすくなる。
・金 利 が、信 用 保 証 協 会 の保 証 なしで借 りる場 合 より安 くなる場 合 が多 い。
デメリット
・信 用 保 証 協 会 へ支 払 う保 証 料 がかかる。
・信 用 力 が低 いと判 断 される可 能 性 がある。
( 出 所 ) 株 式 会 社 フ ィ ナ ン シ ャ ル ・ イ ン ス テ ィ チ ュ ー ト HP よ り 筆 者 作 成
17 信 用 保 証 協 会 が 保 証 す る か ど う か の 審 査 も る が 、 そ れ は 銀 行 の 審 査 よ り ゆ る
い。
( し か し 、ま れ に 信 用 保 証 協 会 の 保 証 が 付 い て も 、銀 行 の 考 え に よ っ て 融 資
を 実 行 し な い 場 合 が あ る 。)
19
信用保証協会を利用できる中小企業は、同協会が設ける企業規模要
件 ・ 業 歴 要 件 ・ 所 在 地 要 件 18 全 て を 満 た し て い れ ば 、 信 用 保 証 協 会 を
利用することが可能である。
な お 、企 業 規 模 と し て は 、下 表 (図 3-6)の 資 本 金 要 件・従 業 員 要 件 い
5
ずれか一方が該当していれば、信用保証協会を利用できる。
( 図 3-6)
注:家族従業員・臨時の使用人・役員は従業員に含まない。
(出所)税理士が知っておきたい50のポイントより筆者作成
現 在 信 用 保 証 協 会 は 2012 年 12 月 末 で 約 32 兆 円 の 保 障 債 務 残 高 が
10
あ る 。 こ れ は 、 銀 行 112 行 の 2013 年 3 月 期 単 独 決 算 の 中 小 企 業 等 貸
出 金 残 高 273 兆 の 約 11.7% に 相 当 す る 。信 用 保 証 制 度 は 、中 小 企 業 の
資金制約を緩和するという重要な役割を果たしており、また補助金や
政府機関の直接貸付に比べて民業補完的であるなど、中小企業向け政
15
策 金 融 と し て の 長 所 を 有 し て も い る 。 2013 年 3 月 末 に 金 融 円 滑 化 法
が期限切れを迎えたことで、またセーフティーネットとしての信用保
証制度の重要性が再び増してくる可能性もある。これほどの手厚い保
証や上で述べた政府による貸出や支援はとても手厚いように見える。
し か し な が ら 政 府 の 財 政 赤 字 が 1000 兆 を 超 え る 中 、 国 際 的 に も 極
20
めて手厚い公的な、直接、間接の中小企業支援策が現在の形のまま永
18
業 歴・所 在 地 の 要 件 と し て 以 下 の も の を 全 て 満 た し て い れ ば 、信 用 保 証 協 会
を 利 用 で き る 。 1.各 地 方 の 信 用 保 証 協 会 の 管 轄 地 内 に 店 舗 ・ 事 務 所 ・ 営 業 所 ・
工 場 が あ る 。 2.原 則 と し て 1 年 以 上 引 き 続 き 同 一 事 業 を 営 む 。 3.営 業 に 係 る 納
期の到来した住民税を納付している。信用保証協会を利用できない業種は遊興
娯 楽 業 ( パ チ ン コ 店 な ど )、 風 俗 業 、 4 金 融 業 、 農 林 漁 業 な ど で あ る 。
20
遠に持続できるとは考えにくく、信用保証制度への過度な依存が継続
すれば、モラルハザードの発生や財政コストの増加、貸出市場の歪み
な ど の 負 の 影 響 が 大 き く な る 懸 念 が あ る 19 。 こ う し た 問 題 に 企 業 及 び
銀行も、遅かれ早かれ現在の制度の終息に備える必要がある。
5
第 4節
米国における公的支援
米国中小企業の資金調達においては、借入金の割合は低く、自己資
本の割合が高い。銀行融資の利用が少ないのは、中小企業にとって銀
行から融資を受けることが困難であり、直接金融や、そして今から述
10
べる公的支援の存在が欠かせないと考えられる。公的支援には連邦政
府 の 主 体 で あ る SBA(Small Business Administration) に よ る も の と
自治体によるものの大きく 2 つに分けられる。
SBA は 事 業 へ の 資 金 提 供 、経 営 者 の 育 成 、連 邦 調 達 、中 小 企 業 の 権
利 擁 護 を 4 つ の 支 柱 と し て お り 、 2016 年 ま で の 事 業 目 標 と し て ① 企
15
業 の 成 長 と 雇 用 の 創 出 、② 中 小 企 業 の ニ ー ズ を 満 た す SBA の 確 立 、③
中 小 企 業 の 代 弁 者 と し て の 貢 献 を 掲 げ て い る 。そ の 中 心 が 7(a)ロ ー ン
20 で あ り 最 も 返 済 期 間 が 長 く 利 率 も 低 い た め 、 民 間 金 融 機 関 が 積 極 的
でない長期融資分野で重要な役割を果たす。中小企業の長期融資の 3
分 の 1 は SBA に よ る 融 資 と さ れ て い る 。日 本 の 信 用 保 証 協 会 と 比 較 す
20
る と 規 模 は 10 分 の 1 ほ ど で あ る が 、 資 金 を 早 急 に 調 達 で き る 「 SBA
Express 21 」と い っ た 制 度 な ど も 整 っ て お り 、利 用 件 数 、保 証 付 き 融 資
金 額 は 増 加 傾 向 に あ る 。 SBA は 今 後 、 さ ら な る 発 展 が 見 込 ま れ る 。
自治体による支援においては、雇用の創出に重きが置かれているた
19 日 銀 が 集 計 し た 銀 行 の 自 己 審 査 の 状 況 を 見 る と 、
「 そ の 他 要 注 意 先 」と 呼 ば れ
る「 不 良 債 権 予 備 軍 」は 、11 年 3 月 末 で 44 兆 3000 億 で あ る 。5 年 前 と 比 較 し
て 約 1.5 倍 に 拡 大 し て い る 。 本 来 は 、 不 良 債 権 と な る は ず の 債 権 が 、 円 滑 化 等
の 影 響 に よ る 顕 著 化 し て い な い 可 能 性 が 否 め な い「 日 本 経 済 新 聞 」
( 2011 年 10
月 10 日 朝 刊 )
20 民 間 金 融 機 関 の 中 小 企 業 向 け 融 資 を 保 証 す る も の 。
21 7(a)ロ ー ン プ ロ グ ラ ム の 手 続 き の 簡 略 化 を 図 っ た も の 。SBA の 審 査 は 金 融 機
関 の 書 類 に よ っ て 36 時 間 以 内 に 行 わ れ る 。 補 償 限 度 額 、 補 償 割 合 は 通 常 よ り
低く、融資金利は高く設定されている。
21
め、家族経営の企業などは対象とされない制度も多い。自治体による
公的支援は社会政策という面が大きいといえる。
第4章
5
新 し い 資 金 調 達 方 法 ABL
経 済 産 業 省 は 、ABL( Asset based lending;動 産・売 掛 金 担 保 融 資 )
を「企業の事業そのものに着目し、事業に基づくさまざまな資産の価
値を見極めて行う貸出」と定義している。つまり、売掛金や在庫等を
担 保 に 資 金 を 貸 し 出 す 金 融 手 法 で あ る 。ABL は 、売 掛 金 や 在 庫 等 を 頻
繁にモニタリングし、一時的な業績悪化時や事業拡張時の資金供給を
10
可能にする。不動産担保や保証人への過度な依存からの脱却を促す金
融 手 法 で あ る が 、日 本 に お い て は 、未 成 熟 で あ り「 評 価・管 理・処 分 」
の強化は必須事項である。我々は、昨今の不況で資金繰りが困難にな
る 中 で 、積 極 的 な 利 用 が 期 待 で き 今 後 有 効 な 資 金 調 達 手 段 と し て ABL
を 推 奨 し た い 。 で は 、 ABL に 関 し て 具 体 的 に 述 べ て い く 。
15
第 1節
ABL の 特 徴
で は 、 具 体 的 に 従 来 の 金 融 手 法 と の 差 異 に 重 点 を 置 き な が ら 、 ABL
の金融手法について見ていきたい。
第一に、土地や建物といった不動産ではなく、売掛債権や在庫等の
20
資産を担保に貸し付けるという点である。日本銀行「日本銀行統計」
( 2010) に よ れ ば 、 金 融 機 関 の 貸 出 金 の 担 保 内 訳 は 、 担 保 が 約 20% 、
保 証 が 36% と な っ て お り 、担 保 の 大 部 分 が 不 動 産 で あ る 22 。
( 図 4- 1)
不動産担保への依存度が大きすぎると、担保不動産の価値が、特に中
小企業の資金調達を制約することになる。
22 日 本 銀 行 と 取 引 の あ る 国 内 銀 行 の 銀 行 勘 定 の 計 数 。 海 外 店 勘 定 を 含 む 。 地 方
銀行Ⅱ(相互銀行を含む)を含む。整理回収機構、紀伊預金管理銀行、日本承
継銀行、第二日本承継銀行、ゆうちょ銀行、信託子会社、外銀信託を除く。
22
(図4-1)
金融機関の貸出金の担保内訳
不動産・財団
抵当
有価証券担保 17%
1%
信用
44%
保証
36%
その他担保
2%
( 出 所 ) 日 本 銀 行 「 日 本 銀 行 統 計 2010」 よ り 筆 者 作 成
一方、不動産担保と同様大きな割合を占める「保証」に関しては、
経営者個人やその家族等を保証人とすることが、依然広く行われてい
5
る。このような個人保証では、保全力が個人の財産に依存しているた
め、担保力としては大きな金額は望めない。個人保証には、情報の非
対称性が大きい中小企業金融において、経営者から一定のコミットメ
ントを引き出すために用いられてきた側面もある。
しかし、バブル崩壊後から近年までの不動産価格下落に伴い、その
10
価値に依存した貸付の多くが不良債権化した。また、企業によっては
担保となる不動産を持たないために、金融機関からの貸付を受けられ
な い と い っ た 事 態 も 問 題 視 さ れ て き た 23 。 こ う し た 中 で 、 ABL は 、 不
動産以外の資産を担保として扱う点で新しいといえよう。
第二に、貸付先企業全体の信用リスクよりも、企業が持っている売
15
掛金や在庫自体の価値に重きを置く点である。これまでの不動産担保
を用いた貸付においても、不動産の価値がどの程度のものか、その価
値が今後上昇するかが、与信判断に影響していた。しかし、こうした
貸付では、負債比率、利益率などを見た上で、企業がキャッシュフロ
ーを生み続け、存続し続けるかが最終的な与信判断の基準であった。
20
企業全体の信用リスクが最も重要視されていたのである。
23
「 ABL 研 究 会
報 告 書 」( 平 成 18 年 3 月 ) 参 照 。
23
こ れ に 対 し て 、ABL で は 、企 業 の 存 続 可 能 性 よ り も 、担 保 と な る 資
産自体の価値自体が、与信判断の基準となる。
第 2節
ABL 導 入 の メ リ ッ ト
ABL を 導 入 す る こ と で 得 ら れ る メ リ ッ ト を 貸 手 側 と 借 手 側 双 方 か
5
ら考察していく。まず、貸し手(金融機関)のメリットについて述べ
る 24 。
①融資手法の多様化
貸 し 手 は 在 庫・売 掛 金 等 の 推 移 や 変 動 を 通 じ て 借 り 手 の 経 営 状 況 を 適
10
時適切に把握することが可能となり、従来以上に借り手の商流や事業
の特性を理解できるようになる。結果として貸し手は借り手の事業価
値を見極めて融資することが可能となり、不動産担保や個人保証だけ
では信用補完が十分できない企業に対しても融資を拡大できるチャン
スが広がる。
15
②モニタリングによる借り手の業況チェック、業態悪化の早期把握
貸し手は担保取得した在庫・売掛金等の推移について定期的に報告
を受け、その内容をモニタリングすることにより、借り手の経営実態
をタイムリーに把握できるようになる。結果として貸し手は借り手の
事業活動の変調の予兆を早期に発見できることとなる。
20
③事業収益資産の担保化による貸し倒れリスクの分散や軽減
平 常 時 に は 、在 庫・売 掛 金 等 の 事 業 収 益 資 産 は 借 り 手 の 経 営 実 態 を は
かるバロメーターとして活用できる。加えて、有事の際は当該資産の
担保処分により貸し倒れリスクの分散・軽減を図ることができる。
④企業の事業活動の実態を把握することが可能となり、企業の目利き
25
力が向上する。
以 上 の と お り 、 ABL の 取 組 み に よ り 貸 し 手 は 従 来 以 上 に 借 り 手 の 事
業を理解できるようになると考えられる。結果としてコンサルティン
24
ト ゥ ル ー バ グ ル ー プ ホ ー ル デ ィ ン グ ス 株 式 会 社 の HP 参 照 。
24
グ機能に求められる企業の目利き能力の向上が期待できる。次に借り
手(事業会社)のメリットについて述べていく。
①資金調達手段の多様化
創 業 期 や 事 業 の 拡 大・転 換 期 と い っ た 、従 来 型 の 融 資 で は 十 分 な 資 金
5
を確保しにくいライフサイクル局面にある企業にも、資金調達の可能
性が広がる。
②不動産担保・個人保証に偏重しない資金調達手段の確保
不動産を保有しない中小企業などにも融資を受けられる可能性が広
がる。
10
③貸し手による借り手の事業活動への理解が深まり、リレーション強
化につながる。
こ の よ う に 、貸 し 手 側 が 借 り 手 側 の 事 業 を よ り 深 く 理 解 で き る よ う に
なれば、借り手はタイムリーかつ過不足のない資金供給とともに的確
な経営アドバイスを受けることも可能となる。結果として資金調達の
15
安定化のみならず、経営管理の改善・効率化が図られる可能性も高ま
る。
以 上 の と お り 、 ABL は 従 来 の 不 動 産 担 保 や 個 人 保 証 を 主 体 と し た 融
資と比べて、貸し手と借り手の間のコミュニケーションや協力関係が
より緊密となる点に特徴があり、両者間に存在する情報の非対称性を
20
緩 和 す る 融 資 手 法 と い え る 。し た が っ て 、ABL の 取 組 み は 単 な る 融 資
機会の拡大にとどまらず、リレーションシップバンキングの推進や地
域経済の活性化にも役立つと考えられる。
第 3節
25
ABL の 有 効 性
成 長 段 階 の 中 小 企 業 に お い て 、ABL は 、事 業 収 益 資 産 に 着 目 し 、こ
れを評価・管理して、その大きさに応じて与信枠を設定する手法であ
るため、景気変動による不良債権の発生度合い等に左右される金融機
関全体の融資スタンスや不動産価値の変動の影響を受ける度合いが小
さい。仮に、不動産価値が上昇しなくとも、企業の事業規模や収益性
30
に応じて、成長のために必要な資金量の確保を含めて、適時、安定的
25
な資金調達を可能にするメリットがある。
ま た 、ABL の 導 入 は 、希 薄 化 が 進 む 金 融 機 関 と 中 小 企 業 の 関 係 の 歯
止 め と な る 可 能 性 が あ る 。担 保 価 値 の 綿 密 な モ ニ タ リ ン グ が ABL の 特
徴だが、モニタリングに伴って金融機関と企業は頻繁に接触する。ま
5
た、売掛金の方が、在庫よりも頻繁にモニタリングされる。資産状況
の把握を通じて、売掛金や在庫といった資産の価値だけでなく、取引
先がどの程度期日通りに売掛金を払っているかなど、企業経営自身に
影響する様々な情報を入手することができる。
ま た 、 ABL の 対 象 は 、 自 己 資 本 比 率 が 低 い 企 業 が 多 い 25 。 業 績 が 悪 化
10
する、事業の拡張によってレバレッジが高くなるなどの理由から、通
常の貸付が認められずに金融機関との関係を打ち切られてしまう企業
が 、ABL に よ っ て 新 た な 資 金 調 達 先 を 見 つ け る 場 合 も 出 て く る 。こ の
ように、自己資本比率などの財務指標が悪化して既存の借入が難しく
な っ た 企 業 で も 、金 融 機 関 へ の 頻 繁 な 情 報 提 供 を 通 じ て 、ABL で 円 滑
15
な資金調達を行うことができる。これは、金融機関と中小企業の関係
が 全 般 的 に 希 薄 化 す る 状 況 下 で 、ABL の も た ら す 大 き な メ リ ッ ト と 考
えられる。
第 4節
ABL 普 及 の 課 題
近 年 、 我 々 は 「 ABL」 と い う 活 字 を 目 に す る 機 会 が 徐 々 に 増 え て き
20
ているように思われるが、中小企業における動産担保融資活用は決し
て 進 ん で い る と は 言 え な い 状 況 で あ る 。 ABL を 促 進 す る た め に は 、
様 々 な イ ン フ ラ や 環 境 が 未 整 備 で あ る と の 指 摘 が あ る 。ABL が 積 極 的
に活用されている米国の状況を踏まえて考えてみると①「動産評価シ
25
ス テ ム 」、 ② 「 A B L 管 理 体 制 」、 ③ 「 処 分 市 場 」、 ④ 「 関 連 法 制 度 」、
⑤「 商 慣 習 」、⑥「 プ レ ー ヤ ー 」と い っ た イ ン フ ラ 整 備 が 必 要 で あ る と
考 え ら れ る 26 。
( 図 4- 2)そ れ ぞ れ 説 明 し て い く と ① は 、実 地 調 査 や 評
価が効率的に行える参考情報データベース等がない。②は、融資と担
25
26
「 ABL 研 究 会 報 告 書 」( 平 成 1 8 年 3 月 ) を 参 考 に 作 成 。
26
保 の 一 体 管 理 が 可 能 な シ ス テ ム の 構 築 や 、ABL 関 連 の ノ ウ ハ ウ の 蓄 積
の体制が未整備である。③は、動産の評価・処分ができるマーケット
が 限 ら れ る 。④ は 、ABL の 活 用 範 囲 が 広 が る 包 括 担 保 制 や 動 産 特 性 を
鑑み、保全・執行関連の手当がされていない。⑤は、動産・債権の担
5
保提供を行い、資金調達を受けることに関する抵抗感が強い。⑥は、
ABL を 実 施 す る 金 融 機 関 ・ 評 価 ・ 処 分 会 社 が ま だ 少 な い 。次 節 か ら 具
体的に①から⑥に関しての解決案を提案していく。
①動産評価
システム
図 4-2
⑥プレー
ヤー
②ABL管
理体制
ABLを取
り巻く課題
⑤商慣習
③処分市場
④関連法制
度
( 出 所 ) ABL 研 究 会 報 告 書 ( 平 成 18 年 3 月 ) よ り 筆 者 作 成
10
第 5節
ABL 課 題 へ の 改 善 策 提 案
まず、①「動産評価システム」について述べていく。現在、動産担
保の評価段階での問題として金融機関内で評価するノウハウや体制が
整っていないという問題がある。動産担保評価を金融機関自身で行う
15
ことは金融機関内にノウハウ、専門知識を持つ人材が不足しており、
難しいのが現状である。そういった場合、金融機関は外部機関に評価
を委託することになりうるが、当該機関としては「トゥルーバグルー
プホールディングス」や「ゴードンブラザーズ」などの評価会社が挙
げられる。金融機関自身で評価を行うのに比べて費用は低くなるが、
20
この評価コストの問題はやはり軽視できない。そこで我々はクラウド
27
基盤で動産評価情報を管理するデータベースシステムを活用していき
たいと考える。
こ の シ ス テ ム の 構 築 に つ い て 、 NPO 法 人 日 本 動 産 鑑 定 27 と 株 式 会 社
電 通 国 際 情 報 サ ー ビ ス ( ISID) が 動 産 評 価 情 報 サ ー ビ ス の 提 供 で 業 務
5
提 携 し 計 画 さ れ た シ ス テ ム 28 を 紹 介 す る 。
〈 事 例 〉 日 本 動 産 鑑 定 と ISID と の 提 携 事 業
VCF プ ラ ッ ト フ ォ ー ム
(出所)株式会社電通国際情報サービスホームページを参考に筆者作成
このシステムの流れとしては、
10
①中小企業が金融機関に融資依頼をする。
②金融機関が日本動産鑑定に動産評価依頼をする。
③ 日 本 動 産 鑑 定 が 価 格 デ ー タ 提 供 会 社( デ ィ ス カ ウ ン ト ス ト ア 、問 屋 、
商 社 等 )の 情 報 を 元 に 動 産 評 価 鑑 定 書 を 作 成 し 、金 融 機 関 に 提 出 す る 。
④日本動産鑑定がクラウド基盤に動産価格データ、ノウハウを提供す
15
る。
⑤評価を元に金融機関が中小企業への融資枠を設定する。
(随時、中小企業、金融機関はクラウドを利用して動産価格情報を享
受できる)
というものである。
27
28
動産鑑定評価業務や買取処分窓口業務、管理業務を行う特定非営利法人。
2 社 は 2013 年 5 月 に 業 務 提 携 を 発 表 。
28
こ の デ ー タ ベ ー ス シ ス テ ム に よ り 、過 去 の ABL 実 施 時 の 動 産 価 格 情
報などがデータベースに蓄積されていくため、動産の項目に合った参
考 評 価 額 を 提 供 す る こ と が 可 能 と な る 。結 果 と し て 評 価 業 務 の 効 率 化 、
簡略化が進みコストが削減されるというメリットがある。このデータ
5
ベースを評価会社にも提供する形にすれば、評価が簡略化したことに
よって評価会社業界へ進出する企業が増加し、競争することにより
ABL 普 及 に 繋 が る と 考 え ら れ る 。そ し て 評 価 コ ス ト が 下 が る と 、ABL
を実行する金融機関が増加すると考えられる。
現在はまだ計画段階であり、実行されていない事例ではあるが、こ
10
のような動産評価情報のデータベース化を推進すべきであると考える。
もちろん様々な品目の参考評価額を設定するには膨大なデータが必要
であり、時間はかかるかもしれない。しかし、ここに農林水産省や経
済産業省なども情報提供介入して共同でデータベースを開発すれば、
より迅速に有用なシステムが完成すると我々は考えた。
15
次 に 、②「 ABL 管 理 体 制 」に つ い て 述 べ て い く 。ABL を 行 う 上 で 動
産担保管理は重要な事柄である。なぜなら担保となる動産の管理をし
っかり行われなければ融資元となる金融機関の損失に直結することと
なるからである。現状では、金融機関の担当者の訪問による在庫の調
査が行われていることが多いが、それにはリアルタイムで情報をつか
20
めないことや、調査において漏れが発生することで、正確な情報がつ
かめていないということが実務ではある。企業と融資を行っている金
融機関との情報の非対称性は、金融機関にとって担保の実態をつかめ
ていないということになるため、最悪の場合に担保が担保の役目を果
たさないということになる。そのようなことにならないためにも、し
25
っかりとした情報の共有が大切である。
こ こ で 、IT の 活 用 に よ る ネ ッ ト ワ ー ク シ ス テ ム の 利 用 と 金 融 機 関 の
担当者による訪問を組み合わせることで、金融機関はリアルタイムで
情報を管理しつつ、担当者が直接目で確認することで情報の正確性を
保てることのできるシステムを提案したい。
29
ここで提案するシステムにおけるネットワークシステムの活用とい
うのは、企業が在庫管理に利用しているシステムを、融資を行う金融
機関の閲覧を可能にするというものであり、企業に大きな負担がかか
るものではない。しかしながら、金融機関が閲覧できる在庫状況は企
5
業 が 入 力 し た も の で あ る た め 、確 実 性 と い う 面 で は 欠 け る 情 報 で あ る 。
そこを、金融機関の担当者が定期的に訪問し在庫状況を確認すること
で情報の非対称性を解消するという考えである。このシステムでは、
企業側の手間を最小限にし、かつコストも抑えつつもより正確な情報
を得ることを可能にする。
10
企業にとって、負担がかからないということが最大のメリットであ
る 。負 担 が 大 き い と ABL の 導 入 の 障 壁 と な っ て し ま う 。し か し な が ら 、
在庫管理がしっかりできなければできないほど融資を行う金融機関側
のリスクは高まることとなるため、負担の少なさとしっかりとした在
庫管理の両立が必要であり、既存のシステムを金融機関に開示という
15
方 策 を と っ た 。在 庫 状 況 を 金 融 機 関 に 開 示 す る こ と は ABL を 利 用 し て
いく上で避けられないところなので金融機関が求めている情報のみを
開示するので理解を求めたい。
金融機関にとっては、ネットワークシステムと訪問を併用すること
でコストを抑えつつも正確な在庫情報を把握できるというメリットが
20
ある。また提要により把握の漏れを防ぐことができることから金融機
関 に と っ て も ABL に お け る 在 庫 管 理 の 課 題 を 克 服 で き る 方 策 で あ る
と考える。
次に、③「処分市場」について述べていく。金融機関にとっては処
分市場へのアクセスは大きな課題の1つである。一般的に流動性が高
25
く保存がきく自動車、鉄・非鉄・貴金属・地金、天然素材、ブランド
品、冷凍水産物、穀物などの処分は容易であるが、そうでないものも
多く存在する。
そこで、処分においては3つのパターンに分けて考えたい。
Ⅰ .処 分 を 急 が な い 場 合 (公 正 市 場 価 格 : Fair Market Value)
30
この場合においては、ブランドとしてではなく製品として価値が確
立しており、価値が目減りしない場合において有効な方策である。通
常の取引において決定される価格で売却するため、売手が なんら強制
されることなく、必要な時間をかけて買手を見つけ売却する方法。
5
Ⅱ .一 定 期 間 内 に 売 却 す る 場 合 (通 常 処 分 価 格 : Orderly Liquidation
Value)
債務者の破綻によりブランドイメージが損なわれるため、価格はあ
る程度低下することを前提に、半年から 1 年程度の期間内に買手を見
つけ売却する方法。時間的な余裕を持つため、既存の販売チャネルや
10
一般事業者を介して売却することを想定しており、最も合意的な売却
方法であると考える。
Ⅲ .即 座 に 処 分 が 求 め ら れ る 場 合 (強 制 処 分 価 格 : Forced Liquidation
Value)
時間の経過とともに品質が低下する場合や、保管場所が確保できな
15
く、新たな保管場所を設けるにはコストがかかる場合などに用いられ
る方法。限られた時間内にオークションなどを用いて強制的に売却を
行うため、通常処分価格と比較しても安価での処分となる。
在 庫 を 担 保 と し て の ABL の 場 合 、処 分 の あ り 方 で 企 業 の 行 方 が 変 わ
20
ってくると考える。適切に処分がなされた場合には、当該企業は規模
を縮小しての企業活動が可能になることもある一方で、金融機関が融
資残高の回収のみを目標に強制的に担保の売却を行うと、担保の大方
を処分してしまうことになりかねなく、その場合は企業活動を存続し
ていくことが困難な状況になる。
25
不動産担保の融資の場合には、企業が活動する場所を取り上げられ
て し ま う こ と に な る と 、存 続 が ほ ぼ 不 可 能 だ 。不 動 産 の 一 部 を 売 却 し 、
企業活動を続けるということも可能であるが、不可能であるケースも
多い。動産担保の場合には担保となっている動産を必要分だけ売却で
きるため、債務不履行を起こした際も、融資残高によっては全てを手
31
放す必要はなく、適切な処分がなされれば企業の存続・再起が可能で
ある。
市場が巨大化した際には、新たな処分市場としてのマッチングの場
の 創 造 が 望 ま し い と 考 え る が 、ABL の 利 用 件 数 は ま だ ま だ 少 な い 。そ
5
の う え 、処 分 に 至 る ケ ー ス は わ ず か で あ る た め 、ABL 市 場 が 巨 大 化 し
てからの課題であると考える。現状は既存の処分方法を最適に活用す
ることで対応していくべきである。
次 に 、④ ABL 関 連 法 制 度 に つ い て 述 べ て い く 。関 連 法 制 度 と し て 下
記のものが挙げられる。
10
平成10年 債権譲渡登記制度
平成17年 動産譲渡登記制度
平成19年 流動資産担保融資保証制度
平成19年 電子記録債権法
な お 、近 年 の 動 き と し て は 、動 産 譲 渡 登 記 制 度 の 検 証( 新 成 長 戦 略 )、
15
債 権 法 改 正( 法 制 審 議 会 民 法( 債 権 法 )部 会 ) - 債 権 譲 渡 の 対 抗 要 件 、
将 来 債 権 譲 渡 な ど が あ る 29 。
し か し 、ABL は 、実 務 ・ 判 例 の 積 み 重 ね に よ り 行 わ れ て い る の が 現
状 で あ り 、今 後 は 、担 保 法 ・ 倒 産 法 等 の 改 正 局 面 に お い て 、 ABL を 位
置づけることを検討する局面にきていると思われる。今後も動産鑑定
20
士制度をはじめ、より広範囲での法整備が必要である
また、ここで「流動資産担保融資保証制度」に関して触れておく。
流 動 資 産 担 保 融 資 保 証( 略 称 : ABL 保 証 )制 度 と は 、中 小 企 業 が 保 有
している売掛債権や棚卸資産を担保として金融機関が融資を行う際、
各 都 道 府 県 の 信 用 保 証 協 会 が 信 用 保 証 を 行 う 制 度 の こ と で あ る 。 ABL
25
が 事 実 上 存 在 し な か っ た 2007 年 8 月 か ら 開 始 さ れ た 本 制 度 に よ り 、
地 域 金 融 機 関 を 中 心 と し て ABL に 取 り 組 み や す い 環 境 を 政 府 自 ら リ
ス ク を 取 る 形 で 実 現 し た 。 2011 年 末 3 月 ま で に 、 売 掛 債 権 担 保 で 約
29
「 ABL の 概 要 と 課 題 」( 経 済 産 業 省 ) を 参 照 。
32
2.2 兆 円 、 在 庫 担 保 で 約 4800 億 円 の 融 資 が 同 制 度 を 利 用 し て な さ れ 、
10 年 度 に 813 億 の 予 算 が 計 上 さ れ て い る 。
担保の保証となるのは「売掛債権」と「棚卸債権」の二つである。
売掛債権とは、売掛金や割賦販売代金債権、運送料債権、診療報酬債
5
権、工事請負代金債権などのことを指すが、売掛先が国内の事業者や
官公庁であることが条件になっている。借り入れは、商品の納入や役
務の提供が完了した後はもちろん、一定の範囲内で契約が成立した段
階からもできるようになっている。
ABL 制 度 を 活 用 し て 金 融 機 関 か ら 借 り 入 れ を 行 う 場 合 、借 入 限 度 額
10
は 2 億 5,000 万 円 と な っ て い る が 、 各 都 道 府 県 の 信 用 保 証 協 会 が 保 証
す る 保 証 割 合 は 80% と な っ て い る た め 、 仮 に 金 融 機 関 か ら 2 億 5,000
万 円 を 借 り た と し て も 、 保 証 限 度 額 は 2 億 円 と な る 。 80% 保 障 の 意 味
は担保融資である緊張感を貸手に持たせるためである。
ま た 、借 入 可 能 な 額 は 、売 掛 債 権 や 棚 卸 資 産 の 価 額 と 同 額 で は な い 。
15
金融機関と保証協会の審査によって売掛先、棚卸資産の内容ごとに設
定された掛目を、売掛債権および棚卸資産の価額に乗じた金額となっ
て お り 、掛 目 は 売 掛 債 権 の 場 合 70% か ら 100% だ 。棚 卸 資 産 の 場 合 は 、
原 則 と し て 30% と な っ て い る が 、 上 限 を 70% と し て 引 き 上 げ る こ と
も可能になっている。
20
上の第三章にも書いたように一般的な信用保証は減らしつつも、そ
の 過 程 で ABL を 普 及 さ せ る 仕 組 み を 確 立 さ せ て い く べ き と 我 々 は 考
え た 。そ う し た 中 で 、現 在 信 用 保 証 協 会 が 行 っ て い る ABL 保 証 制 度 は
非常に有効的である。
次に、⑤「商慣習」について述べていく。現状では、動産・債権を
25
担保として提供し、資金調達を行うことは商慣習として定着していな
く、当該担保拠出に対する抵抗感は一般的に強い。こうした抵抗感を
払 拭 し て い く こ と が 求 め ら れ る 。 貸 し 手 側 ・ 借 り 手 側 双 方 で ABL が
「通常の与信の一形態」として認識されるよう、地道な啓蒙活動と事
案 蓄 積 を 行 う 必 要 が あ る と 考 え る 。こ れ ら は 、ABL の 認 知 度 向 上 に も
30
つながると思われる。例えば、経済産業省や中小企業庁等の公的機関
33
と 各 金 融 機 関 に よ る ABL の 認 知 度 向 上 に 向 け た 説 明 会 や セ ミ ナ ー な
ど 一 層 の 努 力 が 期 待 さ れ る 。2006 年 8 月 に 国 民 生 活 金 融 公 庫 が 融 資 先
企 業 に 実 施 し た ア ン ケ ー ト (回 答 4418 件 )で は 、「 在 庫 担 保 融 資 」 を 知
ら な い と 回 答 し た 企 業 が 全 体 の 7 割 を 超 え る 結 果 と な っ た 30 。 ま た 、
5
中 小 企 業 白 書 に お け る 2006 年 10 月 時 点 で の 調 査 ( 回 答 約 7,500 件 )
で は 、 ABL を 知 ら な い と 回 答 し た 企 業 は 3 割 強 で あ っ た 31 。 こ う し た
認知度の低さゆえ、在庫を担保にすることで取引先にマイナスイメー
ジ を 与 え て し ま う の で は な い か と い う 懸 念 も あ る 32 。
次に、⑥「プレーヤー」について述べていく。物件評価や管理等の
10
ア ウ ト ソ ー ス 先 や 処 分 の 委 託 先 と い っ た ABL イ ン フ ラ を 構 成 す る 外
部 業 者 へ の ア ク セ ス が 容 易 な こ と が 重 要 で あ る 。プ レ ー ヤ ー と し て は 、
商社、リース、倉庫会社、運送会社等が考えられるがここでは商社に
焦点を当てて述べていきたい。
「 畜 産 か ら ワ イ ン 」ま で 幅 広 い 物 的 担 保
を 対 象 と す る ABL で は 、 商 社 が ABL 市 場 に お け る 新 た な プ レ ー ヤ ー
15
となりうる可能性がある。商社は時代に合わせて変幻自在に稼ぎ方を
変えながら、利益を出し続け、その環境適応能力には目を見張るもの
がある。多くの日本企業が変化に対応しきれず、今までの稼ぎ方が通
用しなくなりつつある中で、場所やジャンルを問わず、稼ぎ方を変え
な が ら 利 益 を 出 し 続 け て き た の が 商 社 で あ る 。な ら ば 、ABL に お い て
20
も、その蓄積されたあらゆるものを管理し自己の物流ネットワークを
駆使することで役割を果たせるはずである。
さ ら に 、ABL の 普 及 促 進 す る 上 で 、我 々 が 注 目 し た 商 社 の 機 能 に「 情
報 調 査 機 能 」と「 市 場 開 拓 機 能 」が あ る 。JFTC( 一 般 社 団 法 人
日本
貿 易 会 )に よ れ ば 、
「 情 報 調 査 機 能 」と は 、グ ロ ー バ ル な ネ ッ ト ワ ー ク
25
を 通 じ て 、世 界 各 地 の 政 治 経 済 情 報 、産 業・企 業 情 報 、先 端 技 術 情 報 、
市場・マーケティング情報、地域情報、法律・税務情報など広範多岐
30 斉 藤 ・松 原 [2007]
31 植 杉 [2007]
32 江 口 [2007]
34
に わ た る 情 報 を 収 集・分 析 し 、経 営 戦 略 の 立 案 や 事 業 計 画 の 策 定 、日 々
のビジネス活動推進などを行う機能である。
そして、
「 市 場 開 拓 機 能 」と は 、グ ロ ー バ ル に 張 り 巡 ら さ れ た ネ ッ ト
ワークを通じて、世界市場の情報収集・分析を行い、需要と供給をマ
5
ッチングさせることにより、グローバルな市場開拓を進めます。新た
な市場の創造、新技術の紹介や導入先企業の発掘、取引先が開発した
新規商品の販売支援など、さまざまなタイプの市場を開拓する機能で
あ る 。当 該 機 能 は 、ABL イ ン フ ラ 構 成 す る 外 部 業 者 と し て 適 し た も の
だと思われる。また、これらの機能のほかに商社には「目利き能力」
10
がある。商社はこれまでにあらゆる物の売買に携わってきた実績を根
拠とし、多種多様な担保物件に関する「目利き能力」がある。 商社は
国内外で多岐にわたる産業に関わっており、また、原材料確保から、
生産、流通、最終消費と川上から川下まで長い経路に関わっている。
幅広い分野で産業固有及び、産業横断的な課題やニーズを知り得る立
15
場 に あ る と い え る 33 。 な ら ば 、 金 融 機 関 の 依 頼 を 受 け て か ら 初 め て 担
保物件の情報収集や処分市場の調査を行う必要のある外部機関よりも、
敏速かつ能率的に、低コストで担保評価を行えると思われる。また、
企業がデフォルトした際には、商社自身が在庫担保を「処分」する能
力を有しているので自ら行った「評価」に対して、信頼性を高めるこ
20
とにつながる。これにより、金融機関のリスクを大幅に低下させ、ロ
ーン金利の低減が期待できると思われる。
第 6節
ABL の 補 完 策 資 本 性 ロ ー ン
企業の中には在庫、動産などの担保をもたない中小企業もある。そ
25
ういった企業では上で述べたようなABLを使った融資は行うことが
できない。そういった企業に対しては無担保、無保証で借入が可能な
資本性ローンを我々は推奨したい。
33
「 図 解 入 門 業 界 研 究 最 新 総 合 商 社 の 動 向 と カ ラ ク リ が よ ー く わ か る 本 」を 参
考に作成。
35
資本性ローンは、日本政策金融公庫の融資特例制度で、民間金融機
関 が 融 資 し に く い 創 業 、 新 事 業 展 開 (ベ ン チ ャ ー を 含 む )や 事 業 再 生 に
取り組む中小企業、小規模事業者や農林水産者が財務体質の強化を図
るために資本性資金を供給することができる制度である。中小企業向
5
け融資額は数千万から 3 億円の間となっている。
資本性ローンが普通の融資と大きく異なる点は、最初に融資を受け
た時点から「劣後」的な扱いになっているということである 。そのた
め 、 10 年 、 15 年 の 長 期 に わ た っ て 元 本 返 済 を す る 必 要 が な く 、 株 式
発行などによって得られる資本に近い性格を持つ。そのため、会計処
10
理上は通常の借入金と同様に負債として計上されるが、金融検査上で
は自己資本とみなすことができるのである。自己資本比率が上がれば
債 務 者 区 分 を 格 上 げ す る こ と が 可 能 に な り 、不 良 債 権 額 や 貸 倒 引 当 金 、
直接償却額の削減につながる。つまり、資本性ローンの効力はただ単
に、融資するだけでなく、金融機関の貸し渋り、貸し剥がしを防止す
15
るという面を持つ。
資本性ローンのもう一つの大きな特徴として借入金の利率が利益率
によって変化するという点である。利率は通常の概念と違い、利益率
の低いほうが低金利になり、利益率の高いほうが高金利になるという
際立った特徴がある
20
日本政策金融公庫の資料を見ると「適用利率」について、次のよう
に説明されている。
図 3-6
成功判定区分
区分方法
A
売上高償却前経常利益率5%超
9.95%
7.60%
B
売上高償却前経常利益率0%以上5%以下
5.6%
4.35%
C
売上高償却前経常利益率0%未満
0.40%
0.40%
適用利率(期間15年) 適用期間(期間10年)
(出所)日本政策金融公庫ホームページより筆者作成
日本政策金融公庫(中小企業事業)によると、大まかに分けて、減
25
価 償 却 費 な ど を 差 し 引 か な い 経 常 利 益 率 を 基 準 と し て 、 そ れ が 5% を
超 え る 程 度 に 良 い 業 績 の 場 合 は 、最 高 約 10% の 金 利 、少 し 程 度 の 黒 字
36
の 場 合 は 、 5% 前 後 の 金 利 、 赤 字 の 場 合 は 、 ほ ぼ 金 利 ゼ ロ と い う こ と
になる。
つまり、適用利率が「企業の成功度合い」によって決まるというこ
とになる。
5
資本性ローンはその名の通り、基本的には「資本」として 資金を調
達する。
「 資 本 」と し て 資 金 を 調 達 し た 場 合 に は 、当 然 資 金 提 供 者 に リ
ターンを払う必要があり、それは株式と同じように「配当」というこ
とになる。資本性ローンは、長期借入金でありながら自己資金とみな
さ れ る た め 、「 金 利 」 と し て 支 払 う 資 金 の 性 質 は 、「 配 当 」 に 近 い も の
10
になるということだ。
「 業 績 が 良 く な れ ば 、高 い 金 利 」と い う の は 、
「好
業績なのでたくさん配当」という考え方に通じている。
また「配当」と「利息」とでは、利率は同じでも、企業にとっての
負 担 は 大 違 い で あ る 。な ぜ な ら 、
「 配 当 」は 利 益 に か か る 税 金 を 払 っ た
後の金から支払うが、
「 利 息 」は 、利 益 か ら 控 除 さ れ 、そ の 分 支 払 う 税
15
金を減らす効果がある。つまり節税効果が期待できるということだ。
しかしながら、一般的に赤字企業は、高い金利を払わないと資金調
達できないが、
「 資 本 性 ロ ー ン 」で は 、ほ ぼ ゼ ロ 金 利 で 調 達 で き る た め 、
「モラルハザード」を起こしかねないという問題がある。それに関し
ては、3 期連続して成功判定「C」に区分された場合には、日本政策
20
金融公庫の経営改善指導を受け入れる約束をさせるなどして対策を打
っている。
資 本 性 ロ ー ン は 、平 成 20 年 4 月 に よ り 始 ま っ た 新 し い 融 資 手 法 で あ
る が 、着 実 に そ の 融 資 実 績 を 伸 ば し て い る 。平 成 21 年 1 月 よ り 農 林 水
産 業 者 向 け 、平 成 25 年 3 月 よ り 小 規 模 事 業 者 向 け (国 民 生 活 事 業 )で も
25
2000 万 円 ま で の 融 資 で 取 扱 い を 開 始 す る な ど 制 度 も 充 実 し て き て い
る 。昨 年 の 平 成 24 年 度 で は 、取 扱 い 会 社 727 社 (対 前 年 比 141% )、融
資 残 高 467 億 円 (同 177% )と な っ て い る 。
図 3-7
37
(出 所 )日 本 政 策 金 融 公 庫 H P
終章
5
おわりに
東日本大震災から2年、日本はアベノミクスによる円高是正、デフ
レ脱却など我が国は新たな局面を迎え、岐路に立っている。 我が国の
中小企業は借入に過度に依存し、不動産担保による資金調達は佳境を
迎 え て い る 。そ の た め 、資 金 調 達 の 多 様 化 が 求 め ら れ て い る の で あ る 。
そ の よ う な 中 で 、ABL は 、不 動 産 に 依 存 し な い 新 た な 資 金 調 達 と し て
10
近年注目されている。我が国においては、政府系金融機関による取り
組みを端緒として、民間部門が単独で実施を始めたところであり、普
及にはまだ時間を要する。
し か し 、ABL 普 及 に 向 け た 官 民 の 取 り 組 み に は 目 覚 ま し い も の が あ
る。不良債権の減少と景気回復に伴い、中小企業に対する貸し渋りは
15
減少したとは言え、依然、中小企業金融には、様々な問題が残る。そ
れ ら を 解 決 す る 上 で 、 ABL は 有 効 な の か 、 検 討 し て き た 。
バブル崩壊以降近年まで、土地の価格は下落し、また不動産を持た
な い 企 業 は 資 金 調 達 に 苦 戦 を 強 い ら れ て き た 。 し か し 、 ABL は 土 地 、
建物といった不動産ではなく、売掛金や在庫といった資産を担保に貸
20
し付けを行い、貸付先企業全体の信用リスクよりも、企業が持ってい
る 売 掛 金 や 在 庫 自 体 に 価 値 の 重 き を 置 く 点 で 新 し い 。ま た 、ABL を 導
入することで融資先の中小企業だけでなくインフラを担う企業など周
辺企業も活性化されると思われる。留意すべき点は、担保を持たない
38
企 業 や ベ ン チ ャ ー 企 業 が ABL の 対 象 と な ら な い 可 能 性 が あ る こ と で
あ る 。そ こ で 、我 々 は 、新 規 性 、チ ャ レ ン ジ 性 が 高 い と 認 め ら れ る「 新
規 分 野 等 挑 戦 事 業 」に 取 り 組 む 法 人 を 支 援 す る た め 、 借 入 金 の 一 部 を
自己資本とみなすことができる「資本性ローン」を補完的役割で提案
5
し た 。い ず れ に せ よ 、ABL の 貸 付 手 法 は 、企 業 が 金 融 機 関 に 緊 密 な 情
報提供を行うことで、成長途上にある企業、一時的に業績不振に陥っ
た 企 業 に 対 す る 資 金 制 約 を 緩 和 す る 役 割 が 期 待 さ れ る 。 今 後 ABL が 、
中小企業金融における新たな風となることに期待する。
10
参考文献リスト
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15
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金 城 亜 紀 (2011)『 事 業 会 社 の た め の A B L 入 門 』 日 本 経 済 新 聞 出 版 社
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20
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日 本 公 認 会 計 士 協 会 東 京 会 (2005)『 資 金 調 達 手 法 と 会 計 ・ 税 務 』 税 務 研 究 会 出
版局
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経 済 産 業 省 (2008)ABL の ご 案 内 在 庫 や 売 掛 金 を 活 用 し た 新 た な 方 法
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