論 文 メッシュシート状ならびにロープ状の超高分子量

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太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第167号(2014):河野 他
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◇論 文◇
メッシュシート状ならびにロープ状の超高分子量
ポリエチレン繊維で補強した RCはりのせん断特性
Shear Properties of RC Beams Reinforced with
Mesh- or Rope-shaped Ultrahigh Molecular Weight
Polyethylene Fibers
河
野
克
哉*,
奥
山
幸
成***, 濱 野
KONO, Katsuya*;
口
哲
生**,
陽***
KAWAGUCHI, Tetsuo**;
OKUYAMA, Yukinari***;
要
川
HAMANO, Akira***
旨
超高分子量ポリエチレン(以下, PE)のようなスーパー繊維は, 軽量かつ優れた力学的性質と
耐腐食性を有することから, 工業的に広く用いられている. しかしながら, 現在のところ, こ
れらのスーパー繊維を補強材としたコンクリートの用途では, その適用が限られている. その
一方で, 連続繊維補強材はコンクリートへの適用の可能性があるため, 以前から多くの関心を
引き起こしてきた材料である. そこで本研究においては, メッシュシート状ならびにロープ状
の連続 PE 繊維で補強した RC はり供試体を作製して載荷試験を行うことで, せん断耐力ならび
にポストピーク挙動の改善に効果があることを明らかにした.
キーワード:超高分子量ポリエチレン(PE), スーパー繊維, メッシュシート, ロープ,
R Cはり, せん断耐力
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* 中央研究所 第2研究部 TBC チーム TBC Team, Central Research Laboratory
** 株式会社 太平洋コンサルタント Taiheiyo Consultant Co., Ltd.
*** 東洋紡株式会社 Toyobo Co., Ltd.
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ABSTRACT
Super fibers such as ultrahigh molecular weight polyethylene (PE) are widely used in
industry for their light weight and excellent mechanical and corrosion properties.
However, concrete reinforced with these super fibers has only limited application. On the
other hand, continuous fiber composites have been a focus of interest as a potential
reinforcing material for concrete. The authors prepared RC beam specimens reinforced
with mesh- or rope-shaped PE fibers and carried out loading tests on them to find their
effects in improving shear carrying capacity and post peak behavior.
Keywords:Ultrahigh molecular weight polyethylene (PE), Super fiber, Mesh, Rope,
RC beam, Shear carrying capacity
1.1 背景と目的
有機系スーパー繊維は, 鋼材料に匹敵する高強
度・高弾性率を有するだけでなく耐食性・軽量性・
施工性などの優れた特徴をもった新素材である. し
かしながら, コンクリートに対するスーパー繊維の
適用は, まだ限られているのが現状である.
新設のコンクリートに対する繊維の利用としては,
短繊維の形状として均一に分散混入する方法 (短繊
維補強) や連続繊維を合成樹脂で棒状や格子状とし
て部分配置する方法 (連続繊維補強)が挙げられる.
本研究は, 連続繊維補強材にスーパー繊維を用い
ることを検討したものである. 様々なスーパー繊維
のなかでも超高分子量ポリエチレン(以下, PE) 繊
維に着目するとともに, メッシュシート状やロープ
状の新しい形態にてコンクリート部材のせん断補強
材として適用することを試みた. すなわち, メッシ
ュシート状やロープ状に加工された連続 PE 繊維を
補強材に適用した RC はり部材を載荷試験すること
で, その力学特性を評価した.
トの引張弾性率と引張強度の関係をまとめたもので
あ る . こ の図 か ら , スー パ ー繊 維と は , 鋼 繊維
(Steel)の引張強度2GPaと汎用有機繊維であるポリ
ビニールアルコール繊維 (PVA) の引張弾性率 50GPa
を超える高い性能をもつような素材であることがわ
かる.
Table 1は, PE繊維(商品名:ダイニーマ®)の物性
を示したものである. PE 繊維は, 高強度・高弾性
率・軽量性・衝撃吸収性・高耐久性・負膨張性など
を主な特長として, ロープ・釣糸・コード・ネット・
防護手袋などに適用されている2).
300
tensile modulus (GPa)
1.は じ め に
PBO
Steel
PE
Basalt
100
PVA
50
1.2 スーパー繊維の概要
一般に高強度・高弾性率を有する繊維は汎用の繊
維と区別してスーパー繊維と呼ばれている. 現在の
ところ, スーパー繊維に関する厳密な定義はないも
のの, おおむね引張強度が 2GPa 以上かつ引張弾性
率が 50GPa以上となる繊維がスーパー繊維に該当す
る1). Fig.1は, 市販されている各種繊維フィラメン
Into the category
of super-fiber
200
PAR
Para-aramid
PP
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
Tensile strength (GPa)
Fig. 1
Relationship between tensile modulus and
tensile strength of various fibers
(各種繊維の引張弾性率と引張強度の関係)
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2.実 験 方 法
2.1 使用材料ならびに配合
Table 2 は, RC はりのせん断補強材に用いた連
続PE 繊維の種類, 形状および物性を示したもので
あり, 本研究ではメッシュシート状 (商品名:サイ
バーメッシュ®)ならびにロープ状の2種類の形態の
ものを検討した. これらの連続繊維は, いずれも
Table 1
Table 1 に示すような PE フィラメント繊維素材から
作製されたものである. また, コンクリートに用い
た材料は, Table 3に示すように水 (以下, W), 普通
ポルトランドセメント(以下, C ), 山砂 (以下, S ),
砕石 (以下, G ), AE減水剤 (以下, WRA) および AE剤
(以下,AE)とし, Table 4 に示した配合にて普通強
度のコンクリートからなる RCはりを作製した.
Properties of PE filament
(PEフィラメントの物性)
Filament
decitex
(dtex)
Diameter
(mm)
Density
(g/cm3)
Tensile
strength
(GPa)
Tensile
modulus
(GPa)
Elongation
at break
(%)
Melting
point
(°C)
Thermal
expansion
coefficient
(/℃)
1.1
0.012
0.97
2.6~3.5
79~123
3~5
155
-12×10-5
Table 2
Type
Continuous PE fiber used for this study
(本研究で用いた連続 PE繊維)
Shape and property
[Fiber] Width: 2mm, Thick: 0.13mm
[Sheet] Mesh spacing: 10×10mm, Thick: 0.27mm, Maximum tensile load: 1.28kN / 5 pieces of fiber
Braided type, Diameter: 4mm, Maximum tensile load: 7.85kN
Mesh-sheet
Rope
Table 3
Concrete materials used for this study
(本研究で用いたコンクリート材料)
Material
Water
Cement
Type
-
Ordinary Portland cement
Symbol
W
C
Fine aggregate
Land sand
S
Coarse aggregate
Crushed stone
G
Admixture
Water reducing agent
Air entraining agent
WRA
AE
Table 4
Characteristics
Tap water
Density: 3.16g/cm3, Specific surface area: 3300cm3/g
SSD particle density: 2.59g/cm3, Absorption: 1.77%,
Fineness modulus: 2.52
SSD particle density: 2.64g/cm3, Absorption: 0.60%,
Maximum size: 20mm
Complex of lignin sulfonic acid compound and polyol
Alkyle ether type anion surfactant
Mix proportions and properties of concrete used for this study
(本研究で用いたコンクリートの配合ならびに物性)
W/C
s/a
Unit contents (kg/m3)
(%)
(%)
W
C
S
G
WRA
AE
55.0
46.0
165
300
828
991
C×0.5% C×0.003%
s/a:Sand percentage, fc’:Compressive strength (Water curing, 18d)
Slump
(cm)
13.0
Air
(%)
4.5
f’c
(N/mm2)
30.4
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2.2 RCはりの概要
RC はりの形状, 配筋および連続 PE 繊維の配置方
法を Fig.2 な ら び に F i g . 3 に示した. PEメッシュ
シート(寸法 175×500mm)で補強する場合, Fig.2(a)
ならびに(b), Fig. 3(a)に示すようにせん断スパン
内の側面のかぶりに1枚 (片側スパンで2枚, 両側
スパンで計4枚)( 以下, M1), 2枚重ね (片側スパ
ンで4枚, 両側スパンで計8枚)(以下, M2)となる
(a) RC beam with PE mesh-sheet (M1)
(PE メッシュシートを用いた RC はり(M1))
(b) RC beam with PE mesh-sheet (M2)
(PE メッシュシートを用いた RC はり(M2))
(c) RC beam with PE rope (R100)
(PE ロープを用いた RC はり(R100))
(d) RC beam with PE rope (R50)
(PE ロープを用いた RC はり(R50))
a=500
200
a=500
100
b=150
d=175
h=200
100
D22 SD345
L=1400
70
(mm)
(e) RC beam without shear reinforcing (N)
(せん断補強材を用いていない RC はり(N))
Fig. 2
Detail of RC beams reinforced by continuous PE fiber
(連続 PE繊維で補強された RCはりの詳細)
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よ う に 主 鉄 筋 (D22 SD345 × 2 本 , 引 張 鉄 筋 比
pw = 2.95% )ならびに組立鉄筋 (D10 SD295A×2本)に
固定した. また PEロープで補強する場合, Fig.2(c)
ならびに(d), Fig.3(b)に示すようにせん断スパン
内の主鉄筋ならびに組立鉄筋にピッチ100mm( 以下,
R100), 50 mm(以下, R50 ) となるように巻き立てた.
なお, Fig.2(e)に示すようにせん断スパン内に補強
材を配置していないRCはり(以下, N)も用意した.
PEロープのいずれを用いた場合も, PEによる補強量
が増えるほど (シート枚数が増加するほど, ロープ
巻立てピッチが減少するほど), ピーク荷重は向上
し, ピーク以降の急激な荷重低下も抑制された. な
お, 補強量が少ない RC はり M1ならびに R100 では,
連続 PE 繊維によるピーク荷重の向上は明確ではな
いものの, ポストピーク挙動の改善には寄与できて
いることがわかった.
2.3 RCはりの載荷試験方法
RC はりは, 材齢18日まで湿潤養生を行った後,
等モーメント区間 200mm, せん断スパン有効高さ比
a/d= 2.86 となるように耐圧機にて静的2点集中荷
重を作用させた. 荷重をロードセルで検出しながら,
はり中央たわみを高感度変位計にて測定した.
3.2 曲げひび割れ発生荷重ならびに終局荷重
Table 5 は, PEメッシュシートならびに PE ロープ
で補強した RC はりの載荷試験結果をまとめたもの
である. 曲げひび割れ発生荷重 Pcr は, 連続 PE 繊維
の種類, 補強量および有無によらず, ほぼ一定とな
った. 終局荷重 Pu については, 無補強の RC はり N
にくらべて, M2の場合に 1.70倍, R50の場合に1.52
倍で補強効果が認められる. なお, 無補強はり N の
終局荷重の試験値 Pu, N は, 以下の式(1)から求めた
無補強はりの計算値Pcalとくらべて1.17倍で等しくな
らず, 無補強はりのPcalに対してM2の場合は2.01倍,
R50の場合は1.79倍のせん断耐荷力となった.
3.実験結果ならびに考察
3.1 RCはりの荷重-たわみ曲線
Fig.4(a)ならびに(b)は, PEメッシュシートなら
びに PE ロープで補強した RC はりの荷重-たわみ曲
線を示したものである. PEメッシュシートならびに
(a) RC beam with PE mesh-sheet
(PE メッシュシートを用いた RC はり)
(b) RC beam with PE rope
(PE ロープを用いた RC はり)
Fig. 3
Arrangement of continuous PE fiber
(連続 PE繊維の配置)
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なお, 表中に示したせん断耐荷力Pcalは, 式(1)の
普通コンクリートを用いたせん断補強筋がないRCは
りのせん断耐力算定式3)から求めたものである.
Vc =0.2・fc’1/3・pw1/3・(103/d)1/4・{0.75+1.4/(a/d)}・bd
(a) RC beam with PE mesh-sheet
(PE メッシュシートを用いた RC はり)
(b) RC beam with PE rope
(PE ロープを用いた RC はり)
Fig. 4 Load-deflection curves of RC beams
reinforced by continuous PE fiber
(連続 PE繊維で補強したRCはりの
荷重-たわみ曲線)
Table 5
(1)
ここで, Vc:せん断耐力〔N〕
fc’:コンクリートの圧縮強度〔N/mm2〕
pw:軸方向引張鉄筋比〔%〕
d:有効高さ〔mm〕
a:せん断スパン〔mm〕
b:幅〔mm〕
3.3 RCはりのひび割れ状況
Fig.5 は, PEメッシュシートならびに PE ロープで
補強した RC はりと無補強の RC はりをそれぞれ載荷
した後のひび割れ状況を示したものである. いずれ
の RC はりも斜めひび割れによって最終的な破壊に
至っており(図中に太線で示したひび割れ), PEに
よる補強量が増えることで, 支点と載荷点を結んだ
斜めひび割れの発生角度が低下している. メッシュ
シートならびにロープのいずれの連続 PE 繊維によ
っても斜めひび割れの拡大が抑制され, 斜めひび割
れ発生後も耐力を保持できるようなアーチ機構が形
成されたものと考える. なお, PEロープで補強した
R50 では上述した斜めひび割れ角度が低下すること
で主鉄筋に沿った形でひび割れが進展しており, ロ
ープ材と鋼材との結束が弱く, ずれを生じたものと
思われる. このため, ロープ材は鋼材との結束を強
固にすることで, さらに耐力向上に寄与できる可能
性がある.
Loading test results of RC beams reinforced by continuous PE fiber
(連続 PE繊維で補強された RCはりの載荷試験結果)
Pu
Pcr
Pcf=Pu-Pu,N
Pu/Pcal
(kN)
(kN)
(kN)
M1
15.4
101
1.37 [1.07]
7.0
M2
16.1
160
2.01 [1.70]
66.0
R100
15.4
88.4
1.11 [0.94]
-5.6
R50
16.8
143
1.79 [1.52]
49.0
N
17.5
94.0
1.17 [1.00]
0.0
* Pcr:Flexural crack initiation load, Pu:Ultimate failure load, Pcal:Calculated value of ultimate failure load (=2
×Vc=79.8), Pcf:Load share of continuous PE fiber, Pu,N:Experimental value of ultimate failure load of RC
beam without shear reinforcing
], where Pu/Pcal
** Comparison values of Pu/Pcal of RC beam with continuous PE fiber are shown in parentheses [
of RC beam without shear reinforcing equals one.
Type of RC beam
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(a) RC beam with PE mesh-sheet (M1)
(PE メッシュシートを用いた RC はり(M1))
(b) RC beam with PE mesh-sheet (M2)
(PE メッシュシートを用いた RC はり(M2))
(c) RC beam with PE rope (R100)
(PE ロープを用いた RC はり(R100))
(d) RC beam with PE rope (R50)
(PE ロープを用いた RC はり(R50))
(e) RC beam without shear reinforcing (N)
(せん断補強材を用いていない RC はり(N))
Fig. 5
Crack of RC Beams reinforced by continuous PE fiber after loading
(連続 PE 繊維で補強された RC はりの載荷後のひび割れ性状)
4.ま と め
メッシュシート状やロープ状に加工された連続
PE 繊維をせん断補強材に適用した普通 RC はりの力
学特性について, 本研究で得られた成果をまとめる
と以下のとおりである.
(1) メッシュシート状ならびにロープ状のいずれの
連続 PE 繊維を用いた場合でも, RC はりのピー
ク以降の急激な荷重低下が抑制できるようにな
り, さらにそれらの補強量が増すことでピーク
荷重も向上できるようになった.
(2) メッシュシート状ならびにロープ状のいずれの
連続 PE 繊維によっても斜めひび割れの拡大が
抑制され, 斜めひび割れ発生後も耐力を保持で
きるようなアーチ機構が形成された.
(3) メッシュシート状ならびにロープ状のいずれの
連続 PE 繊維も RC はり部材のせん断補強 (ポス
トピーク挙動の改善ならびにせん断耐力の向
上)に有効となった. なお, ロープ状の場合に
は軸方向鉄筋との結束部分でずれを生じる場合
もあるため, 強固な結束とすることでせん断補
強の効率も向上できると考えられる.
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参 考 文 献
1) 日本化学繊維協会ホームページ. http://www.
jcfa. gr. jp/fiber/super/, (accessed 2014.9.30)
2) 大田康雄. 高強度ポリエチレン繊維「ダイニーマ®」.
繊維と工業,2010,66(3),p.91-97.
3) 二羽淳一郎,山田一宇,横沢和夫,岡村 甫. せん
断補強鉄筋を用いない RC はりのせん断強度式の
再評価. 土木学会論文集,1986,372,p.167-176.