医療ツーリズムの現場から分かった 成功のカギと今後の課題 病院 亀田総合病院 (千葉県鴨川市) 医療ツーリズムに成功している医療機関はどのような方針、体制で臨んでいるのか。 また、 どのような課題を抱えて いるのか。編集部では医療機関にアンケートを実施し、 その結果から現場の実情を探ってみた。 30年の経験とノウハウの蓄積で 外国人から信頼を得る治療を提供 亀田総合病院は房総半島の先端近くに位置し、 医療機関へのアンケート調査から 拡大に必要な課題が浮き彫りになった タッフを入れたり、スマホのアプリで対応したりと独 東京都心から電車でもバスでも2時間ほどかかるが、 自の取り組みも見られた。 いつも各科は診療を待つ人々でいっぱいだ。乳が 編集部は医療ツーリズムに積極的な全国の主要 医療ツーリズムの問題点として、ある施設では んなどでの先進的な治療が特徴で関東を中心に広 康診断に加えPET-CT、胃カメラ、大腸カメラなど 病院やクリニックの計43医療機関を対象に、アン 「国のしっかりした政策が見えない。医療通訳にし く患者が通ってくるが、近年は中国からの検査・ を組み入れ、1泊2日で40万円、2泊3日で45万円。 ケート調査を実施し、そのうち13の医療機関から ても資格すらない。本気で取り組むなら、現場任 治 療 希 望 者が 右 肩 上 がりで 伸び 続けている。 さらにオプションとして頭 部のMRIや 冠 動 脈の 回答を得た。浮き彫りになった課題は、紹介業者 せにせずにそのような体制づくりを進めてほしい」 と 2014年は健診で91人、入院で40人を受け入れた。 3DCT、24時間心電図なども選べ、55万円ほどに を含めた患者の集め方と言葉の問題だった。 指摘していた。 そこには、ブームに乗るといったことではなく、長 なることもあるという。もちろん、これらは病院の 年の積み重ねが生かされている。 検査料だけで渡航費や宿泊費は入っていない。 同病院が国際的な取り組みを始めたのは1980 「当院に中国から来る方々は約70%が個人で来 年代にさかのぼる。天津を中心に中国と交流を持 ます。一方、紹介業者ともお付き合いはありますが、 この分野に特化した業者、さらに現地での業者な ち、中国から医師、看護師、事務方の研修を受 大手旅行会社や当院と信頼関係ができている会 ど、さまざまだった。 け入れたり、同病院から北京や蘇州などの病院に 社だけにしています」 。以前に紹介業者経由の受 医師チームを派遣して心臓手術などを施したりして け入れをしたとき、トラブルがあったからだ。 「業者 きた。医療技術を通しての交流は続き、03年には から何でもOKと言われて来院した方がいましたが、 院内に国際関係部を設立し、米国や欧州との結 そんな約束はしていませんでした。我々はフェース・ 逆に紹介業者を利用しない施設からは、信用 び付きも含めて取り組みを強化した。 トゥー・フェースの医療を目指しているので、メール 性の問題と中間マージンで患者負担費用が高くな そして、11年には経営管理本部企画部直属に中 や電話でコミュニケーションを取りながら納得した 国人スタッフも備えた中国事業統括室を設立し、本 上で来院してもらっています」 。 格的に中国からの患者受け入れに乗り出したのだ。 呉室長は医療ツーリズム成功のカギについてこ サービスを誇大表現し、来日後にトラブルになった 呉海松室長 (心臓外科医) は取り組みのきっかけを う述べる。 「外国からの患者さまを受け入れるのは りするという。また、直前にキャンセルになり、赤 話す。 食事、宗教などの面も加わり、とても難しい。ブー 字が出てしまうこともある。ある施設からは 「真面目 「医療ツーリズムというテーマが出てきたので、長 ムだからとすぐにできることではありません。我々は く国際交流してきた当院としても何かできるのでは 30年の経験があることと、医療通訳ができる専門 と、まず10年にテスト的に中国からの健診希望者 スタッフがいることで、医師としても安心して施術が るのでは」 との声もあった。 の受け入れを始めたのです。最初の年に23人来ま できる体制が整っています」 。 「海外へのPRはしていますか」の問いには 「は した。我々の予想を上回る数でした。ニーズがある い」 と 「いいえ」 は半々だった。内容はホームページ ことが分かったので、より整った受け入れ態勢をつ 外国人の人間ドック、 治療・疾患の受け入れ状況 の外国語表記が多かったが、来院外国人に現地 くろうと新しい部署ができました」 。 「紹介業者の利用の有無」 では、 「はい」 が 「いい え」 より若干多かった。利用しているとした施設に 業者名を聞いたところ、回答は大手旅行企業から また、 「現地での必要に応じて個人的に紹介が ある」 といったブローカー的な個人業者もいることも 紹介業者を利用しているか? いいえ 46% 分かった。 はい 54% ることを懸念する声が聞かれた。信用性の問題と しては、業者が客集めのために日本で受けられる な業者にとっては、そんなにうまみのある領域では なく、単に病院に客を紹介しているだけになってい 語のパンフレットを渡して、帰国後に口コミで評判 を広げてもらおうという作戦もあった。 言葉の問題はどの施設も感じており、中国人ス 12 海外へPRしているか? いいえ 50% はい 50% 外国人の人間ドック、治療・疾患の受け入れ状況 外国人の人間ドックの平均月間受け入れ数(人) 24.2 健診者は次の年には51人になり、14年には91 外国人の人間ドックの1人当たりの平均費用(円) 230,322 人になった。中国人健診者の目当てはPET-CTを 外国人の治療・疾患の平均月間受け入れ数(人) 119.2 組み入れたVIPコース。血液検査など一般的な健 2015.4 2015.4 南国リゾートの雰囲気のある亀田総合病院 外国人の人間ドック 平均月間受け入れ数 (人) 外国人の人間ドックの 1人当たりの平均費用 (円) 外国人の治療・疾患の 平均月間受け入れ数 (人) 10(人数制限あり) 約400,000 140(日本国内在住を含む。外来は延べ 患者数、入院は実患者数を用いて計算) 医療ツーリズムの現場から分かった成功のカギと今後の課題 13
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