トリプル四重極GC-MS SCION TQを用いた 野菜抽出液中の

トリプル四重極GC‐MS SCION TQを用いた
野菜抽出液中の農薬258成分一斉分析
要旨
トリプル四重極ガスクロマトグラフ質量分析計 SCION
TQを用いた、容易な条件設定と精度の高い測定結果
を両立可能な残留農薬一斉分析について紹介します。
SCION TQでは、多成分一斉分析用に新しく開発され
た化合物ベーススキャンニング機能により、分析/解
析メソッドのセットアップを手軽で迅速に行うことが可
能になります。
さらに、SCION TQは高速スキャン(14,000Da/sec)機
能とマルチアクシスノイズキャンセリングデザインを採
用することで、多成分一斉分析時でも高感度で精度
の高い結果を得ることができます。
はじめに
現在、農作物に使用される農薬はおよそ1,000種類と
言われており、世界中の消費者とって食品中の残留
農薬に対する懸念は増加する傾向にあります。
国際的な食品中の残留農薬分析法はモニタリング・プ
ログラムとして確立されています。 しかし、多様なマト
リクスを含んだ試料に含まれる数多くの農薬を効率良
く分析するために、感度・精度・スループットを向上さ
せるために測定担当者は日々分析条件のさらなる効
率化を検討しています。
Innovation with Integrity
GC-MS/MSを用いたマルチプルリアクションモニタリ
ング(MRM)モード測定は、複雑な食品のマトリックス
中の残留農薬分析に最適な手法です。[1]
MRMモードでは、最初の四重極(Q1)で目的の前駆イ
オン(プリカーサーイオン)を単離します。第2の四重極
(コリジョンセル:Q2)でアルゴンガスとの衝突誘起分
離(CID)が行われ、イオン(プロダクトイオン)が生成し
ます。続く第3の四重極(Q3)によって生成したプロダ
クトイオンを単離します。
MRMモードはマトリクス由来のバックグランドを大幅に
低減することで選択性を向上させ効率の良い微量分
析を可能にします。
このアプリケーションノートではパプリカをQuEChERS
法(Quick Easy Cheap Effective Rugged Safe)で前処
理した抽出溶液に258農薬を添加し、GC-MS/MS法で
測定した結果を紹介します。
化合物ベーススキャニングを使用した分析/解析条件
のセットアップは極めて容易で、高感度分析・良好な
検量線の直線性や精度の良い結果を得ることができ
ました。
GAS CHROMATOGRAPHY
前処理法
258種類の農薬標準は、各々10ppmの50-60農薬を含
む5種類の混合標準溶液を用いて調製しました。(溶
媒 1:1=ヘキサン:アセトン)
地元のスーパーマーケットで購入した野菜(パプリカ)
をQuEChERS法で抽出し、最終のアセトニトリル抽出
液をエアーで乾燥後、9:1=ヘキサン:アセトン溶液に
て再溶解しました。検量線溶液はマトリックスマッチし
た標準溶液を用いました。 GC-MS/MS分析は、
451GC及び8400 オートサンプラーを装備したSCION
TQ GC-MS/MSを用いました。
(測定条件)
GC、オートサンプラー条件
インジェクター: Pulsed Splitless (psi, 0.2 min); 260℃,
2 μL,
カラム: BR-5ms Cat.#:BR86377
30 m × 0.25 mm ID × 0.25 μm
キャリアガス: He, 1.5 mL/min
オーブン温度: 90℃(3 min)~20℃/min~150℃~
5℃/min~300℃
測定時間: 40 min
MS トランスファーライン温度: 300℃
MS条件
イオン化: EI, -70 eV
イオンソース温度: 250 ℃
エミッション電流: 80 μA
マニホールド温度: 40℃ (fixed)
アクティブフォーカスQ0: 135℃ (fixed) with Helium
コリジョンガス: Argon (3 psi)
MRMメソッド設定
SCIONに使用されるMSワークステーション8 は、残留
農薬を効率良く測定するために開発された画期的な
化合物ベーススキャンニング機能を搭載しています。
約900種類の農薬を含む有害化学物質のMRM条件が
2,500以上登録されているMRMライブラリーはプリイン
ストールされています。エディタ画面からMRMライブラ
リーへは容易にアクセス可能で、各化合物のMRM条
件が自動入力されます。
各化合物の保持時間と取り込み時間範囲を決定する
ための予備測定を行った後、各化合物のピークの幅
に基づいて、必要なデータポイントを考慮し、スキャン
タイムは各化合物ごとにソフトウェアによって自動的に
計算されます。(図1)
化合物ベーススキャンニングでは測定メソッドと解析メ
ソッドがリンクしているので解析メソッド作成が容易で
す。定量操作を行う時に、改めて各化合物の保持時
間や取り込み時間範囲等のパラメーターを入力したり
変更する作業はもはや必要ありません。
結果
図2は、塩素系、有機リン系とピレスロイド系を含む
258農薬のトータルイオンクロマトグラムを示します。
全農薬は5.95分から34.7分の間に溶出しています。各
農薬とも定量イオンと確認イオンのMRM設定を行って
いるにもかかわらず、化合物ベーススキャンニングで
測定条件の最適化を行うことにより、各農薬のピーク
は十分なデータポイント(15以上)が得られています。
各農薬の定量下限は0.1-0.5ppbであり、50ppbまで良
好な直線性が得られています。 検量線の例と0.1ppb
のクロマトグラムを図3に示します。
図1 化合物ベーススキャンニングのメソッド設定画面
農薬分析時にはマトリックス効果への注意が必要で
す。マトリックスの影響でピーク強度が実際よりも大き
くなったり、ピークが確認できなくなったりする可能性
があります。
また、溶媒とマトリックスの関係にも注意をする必要が
あります。マトリックスの影響が懸念されるサンプルで
はマトリクスマッチング法が有効です。このレポートで
は、QuEChERS処理した溶液に農薬の標準試料を添
加して測定を行いました。
代表的な農薬の検量線の結果を表1に示します。全
ての農薬で直線性が0.996以上、各濃度での面積値
のレスポンスファクターのバラつき(RSD)が12%以下と
良好な結果が得られました。これは、SCION TQの優
れた測定精度を示します。
EU当局が定めた農薬測定方法[4]では、定性確認に、
定量イオンと確認イオンの面積値の比率を確認する
ことがうたわれています。 図4は、フォスメット0.5ppbの
定量イオンと確認イオンのクロマトグラムを示します。
マトリックスが含まれているにもかかわらず、0.5~
100ppbまでの全ての濃度範囲で定量イオンと確認イ
オンの比率は0.65±0.02と良好な結果が得られました。
結論
化合物ベーススキャンニングを用いることにより残留
農薬一斉分析メソッドと解析メソッド設定にかかる作
業を大幅に効率化できます。超高感度で生産性が高
いSCION TQを使用することにより、極めて良好な感
度と直線性が得られ、さらにシステムの頑健さも証明
されました。
図2 パプリカ抽出液に258農薬(20ppb)を
添加したトータルイオンクロマトグラム
図3 トリフルラリン、ヘキサクロロベンゼン、δ-BHCの
検量線(0.1-100ppb)と.1ppbのMRMクロマトグラム
表1 代表的な農薬の検量線結果
2
% Response
Factor RSD
Pesticides
Linear Range
r
Acrinathrin
b-BHC
d-BHC
0.5-100
0.1-100
0.1-100
0.999
0.998
0.998
12
8.6
8.9
d-BHC(Lindane)
Dichlorvos
0.1-100
0.1-100
0.998
0.999
8.9
7.0
Diofenolan
Halfenprox
HCB(Hexachlorobenzene)
Procymidone
Pyridaphenthion
Tefluthrin
Trifluralin
0.1-50
0.5-100
0.1-100
0.1-50
0.1-100
0.1-50
0.1-100
0.996
0.999
0.999
0.996
0.998
0.998
0.998
12
6.8
5.1
12
8.6
7.9
10
(参考文献)
[1] J.L.M. Vidal, F.J.A Liebanas, M.J.G. Rodriquez, A.G Frenich and J.L.F. Moreno, Rapid Coommun. Mass Spectrum, 20(2006), 365‐375.
[2] M. Anastassiades, S. J. Lehotay, D. Stajnbaher, F.J. Schenck,
J. AOAC Int. 86 (2003), 412‐31.
[3] J.W. Wong, K Zhang, K. Tech, D.G. Hayward, C.M. Makovi,
A.J. Krynisky, F.J. Schenck, K. Barerjee, S. Dasgupta, D. Brown, J. Agric. Food Chem, 58 (2010) 5868‐83.
[4] European Committee for Standardization/Technical Committee CEN/TC 275. Foods of plant origin‐determination of pesticide residues using GC‐MS and/or LC‐MS/MS following acetonitrile extraction/partitioning and cleanup by dispersive
SPE‐QuEChERS‐method. prEN 15662;European Committee
for Standardization: Brussels, Belgium, 2007.
キーワード:
農薬、MRM、化合物ベーススキャンニング
装置:
SCION TQ
図4 フォスメット定量イオンと確認イオンのクロマトグラム
(濃度:0.5ppb)
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