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2015/4/17
医薬化学I
SBO55;
合成抗菌剤と抗生物質
抗生物質
微生物によって生産される抗微生物物質(狭義)
微生物によって生産される化学療法薬(広義)
化学療法薬
微生物あるいはがん細胞に対して,その発育や増殖を
阻止し,あるいは死滅させる作用のある化学物質
合成抗菌剤
化学療法剤の始まり 化学療法剤の歩みにおける三つの発見
NH2
OH
サルバルサンの創製 P. Ehrlichと秦佐八郎
抗梅毒薬
1901~1910年
(岡山大医出身)
As
As
HO
NH2
プロントジルの創製
1935年
G. Domagk
抗グラム陽性菌薬
ペニシリンの発見
1928~1940年
A. Fleming
抗菌抗生物質の最初
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サルバルサン(有機ヒ素化合物)
毒性を持つヒ素化合物で副作用が強いため、今日では医療用としては使用されない。
ヒ素は二重結合を作りにくいことが知
られており、この構造式には疑問が持
たれていた。2005年にBやCのようなヒ
素3員環や5員環を含む多量体構造が
正しいとの説が発表された。生体内で
は酸化されて分解し、単量体として作
用する。
プロントジルからサルファ剤へ
活性本体
還元的開裂
サルファ剤; プロントジル
スルファミン
サルファ剤はグラム陽性球菌や
グラム陰性球菌ともに有効
スルファジアジン; 初期のサルファ剤。難水溶性で尿路結石
を起こしやすい。
スルファメトキサゾール; 不活性化(アセチル化)を受けにくい
持続型サルファ剤
スルフィソキサゾール; 高水溶性の短時間作用型サルファ剤
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サルファ剤の作用機構
サルファ剤は代謝機構剤。
葉酸の構成成分であるPABA(p-ア
ミノ安息香酸)に化学構造が類似
しており,細菌の葉酸生合成を
阻害する。
その結果細菌の分裂に必要な核
酸塩基合成ができなくなり細菌
増殖が阻害される。ヒトは葉酸
を外部から摂取し,葉酸生合成
経路をもっていない。
葉酸はビタミンB9とも呼ば
れ、水溶性ビタミンっであ
り,補酵素として作用する。
アミノ酸および核酸の代謝
に用いられている。
抗生物質の探索研究
20世紀は抗生物質発見・医薬応用
の時代であった。
1929年
ペニシリンの発見
1940年
ペニシリンの大量生産
アクチノマイシンの発見
1943年
ストレプトマイシンの発見
1948年
ネオマイシンの発見
1940年~60年
テトラサイクリン、
マクロライドの発見
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天然由来および合成βラクタム系抗生物質の基本骨格
βラクタム系抗生物質の作用機作
細菌類の細胞は細胞壁の厚い膜で覆われている。βラクタム抗生物質は細胞壁の
生合成過程(トランスペプチダーゼ)を特異的に阻害する。
阻害
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ペニシリンの生合成
HOOC
L-2-アミノアジピン酸(L-Aad)
2-オキソグルタル酸
NH2
SH
O
HOOC
L-Val
COOH
HOOC
O
NH2
L-Cys
NH2
アセチルCoA
COOH
H
N
N
H
O
O
H
CH3
HOOC
CH3
COOH
H
S
N
H
CH3
N
イソペニシリンN
CH3
O
COOH
L-Aad-L-Cys-D-Val
フェニルアセチルCoA
NH2
HOOC
O
H
H
N
H
O
S
N
O
セファロスポリンC
H
H
S
N
H
OCOCH3
N
COOH
CH3
CH3
O
COOH
ペニシリンG
ペニシリンの発見
Alexander Fleming (1881-1955)
Penicillium nonatumが生産する抗ブドウ球菌(Staphylococci)物質
ペニシリン(1928)
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)
低生産性の
抗菌作用,毒性なし ため単離で
きなかった
ペニシリンの再発見
Howard Flory (1898-1968) & Ernst Chain (1906-1979)
ペニシリン研究再開(1938)
粗精製ペニシリン(2%)がブドウ球菌感染マウスに有効(1940)
ペニシリンの臨床試験(1941)
O
ペニシリン発酵法の改良と大量培養(1941)
N
ペニシリンGの構造決定(1945)
H
H
H
S
N
髄膜炎菌・・・細菌性髄膜炎(第一選択薬)
肺炎球菌,溶血レンサ球菌
注射薬
CH3
CH3
O
COOH
ベンジルペニシリン(ペニシリンG)
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ペニシリンの改良
ベンジルペニシリンの特性
・グラム陽性菌,グラム陰性球菌に有効 → グラム陰性桿菌に無効
・酸性で不安定 → 経口投与では無効
・ペニシリナーゼによる分解
O
H
ペニシリンアシラーゼ
H
S
N
H
N
H
H
S
H2N
CH3
CH3
N
CH3
CH3
O
O
COOH
COOH
6-アミノペニシラン酸
(6-APA)
ベンジルペニシリン
生合成ペニシリン
O
CH2COOH
H
H
S
N
H
フェニル酢酸
CH3
N
CH3
O
COOH
ベンジルペニシリン
Penicillium
chrysogenum
ペニシリン生産菌
O
O
CH2COOH
O
フェノキシ酢酸
H
H
S
N
H
N
CH3
CH3
O
COOH
フェノキシメチルペニシリン
耐酸性 → 経口投与可能
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半合成ペニシリン
OCH3
H
H
S
CO NH
CH3
N
OCH3
ペニシリナーゼ
抵抗性
CH3
O
COOH
メチシリン(1962)
H
H
S
H2N
N
O
H
CH3
O
化学修飾
COOH
H
S
N
H
CH3
NH2
広域
経口
CH3
N
CH3
O
COOH
6-アミノペニシラン酸
(6-APA)
アンピシリン(1962)
HO
O
H
H
S
N
H
NH2
広域
経口
CH3
N
CH3
O
COOH
アモキシシリン(1970)
抗生物質の探索展開
セファロスポリンの発見
セファマイシンの発見
セフェム骨格
NH2
HOOC
O
H
H
N
H
NH2
S
N
OCOCH3
O
HOOC
O
H3CO
H
N
H
S
N
COOH
OCONH2
O
COOH
セファロスポリンC(1955)
Acremonium chrysogenum
ベンジルペニシリンより低毒性
ペニシリナーゼ抵抗性
セファマイシンC (1971)
Streptomyces clavuligerus
グラム陰性菌・陽性菌に有効
β-ラクタマーゼに極めて安定
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蛋白質合成阻害剤
タンパク質合成系は生命の維持活動に必須の代謝系であり、ここに作用する薬剤は
強力な抗菌作用を示す(副作用も多く伴いやすい)。
タンパク質合成系阻害剤としては、1)アミノグリコシド系、 2)テトラサイクリン
系、 3)マクロライド系、 4)クロラムフェニコール系が存在する。
1)
1)
1)
2)
4)
1)
3)
アミノグリコシド系抗生物質
放線菌から単離された、アミノ糖のグリコシド結合を有するアミノ配糖体。
グラム陽性菌、グラム陰性菌、結核菌、放線菌に有効。嫌気性菌には無効
30Sリボソーム或いは50Sリボソームサブユニットに結合して、蛋白質合成を阻害
X
X
ストレプトマイシン
カナマイシン
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テトラサイクリン系抗生物質
放線菌から単離された、四環性化合物である。グラム陽性菌、緑膿菌を除いた
グラム陰性菌に有効。 リボソーム30Sサブユニットに結合し、アミノアシル
tRNAがリボソーム上のA部位に結合するのを阻害する。
X
テトラサイクリン
マクロライド系抗生物質
放線菌から単離された、中環状ラクトンにジメチルアミノ糖や中性糖が結合した配
糖体。リボソーム50Sサブユニットの23SrRNAに結合しペプチド転位反応を阻害する。
活性はマイルドだが、一般に副作用が少ない。
エリスロマイシン
X
クラリスロマイシン; エリスロマイシンとは異なり、ク
ラリスロマイシンは酸に対して安定で、コーティングな
どで胃酸から保護しなくても経口投与できる。
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クロラムフェニコール系抗生物質
放線菌から単離された、塩素含有有機化合物。リボソーム50Sサブユニットの
23SrRNAに結合し、ペプチド転位反応を阻害する。もともとは放線菌の発酵により
生産していたが今日化学合成により生産されている。
クロラムフェニコール
X
クロラムフェニコールの合成
アミノ基
の保護
ケトンα位
臭素化
MeerweinponndorfVerley還元
アミノ基の
アシル化
アミドの加水
分解とd-カン
ファースルホ
ン酸による
光学分割
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キノロン系合成抗菌薬
近年、化学療法剤の中で、キノロン系合成抗菌薬がβラクタムを凌ぐ勢いで開発研
究が成されている。
O
OH
キノロン剤は、ピリドンカルボン酸を基本骨格とする薬剤の総称。
ノルフロキサシン以降のものをニューキノロン、それ以前のものを
オールドキノロンと区別して使い分けをされる。
O
N
R
初期のキノロン系製剤(ナリジクス酸、ピロミド酸等)は、グラム陰性菌へ抗菌力を示すも
のの、抗菌スペクトルは狭く、代謝を受け失活し、血中濃度が低いのが弱点であった。
しかし尿中排泄がよく、尿路感染症治療にはかなり使われてきた。
開発当初は主に尿路系疾患に使われたキノロン系抗菌剤が、抗菌活性に必須のピリド
ンカルボン酸部分を基本骨格として残した上で、各種の構造変換を行い、いわゆるNQ
が開発された。
NQは、抗菌スペクトルの拡大、抗菌力の増強、吸収性の向上等のオールドキ
ノロンの弱点をほぼ解消し、従来の他の抗菌剤が適用されていた範囲にまで使
用されるようになり、その効能・効果は抗菌剤の代表的な第 3世代セフェム系
製剤にも匹敵し、現在では広い領域で繁用されるようになった。
キノロン系合成抗菌薬の開発変遷
キノロン剤は、基本構造により4っ
つに分類できる。
1)ナフチリジンタイプ、
2)ピリドピリミジンタイプ、
3)シンノリンタイプ、
4)キノリンタイプである。
近年の、抗菌力のアップした
ニューキノロンにおいては、キノリ
ンタイプの化合物が圧倒的に多い。
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ニューキノロン系合成抗菌薬の例
ニューキノロンとして、10品目程度が上市されている。
O
OH
F
O
N
N
HN
ノルフロキサシン
シプロフロキサシン
オフロキサシン
レボフロキサシン
キノロン剤の作用機作
● DNAジャイレース
細菌細胞は動物細胞より小さいので、かさばるDNAをスーパーコイル(超螺旋)化し効率よく収納する機構がある。細
菌細胞の長さを 1μm とすれば、そのDNAは約 1㎜で、およそ 1,000倍程長いDNAを細胞の中に詰め込まなければな
らない。 そのために染色体DNAをよりコンパクトな超螺旋構造(スーパーコイル構造)にして折りたたむ。この超螺旋
形成に関与する酵素がDNAジャイレースで、細菌の生存には必須である。
●トポイソメラーゼ
2本鎖DNAの超螺旋構造の変化及び維持を行う酵素。DNA鎖の片方あるいは両方を切断し、すぐに再結合を行う
活性がある。トポイソメラーゼにはⅠ型とⅡ型があり、DNA鎖の片方を切断するタイプをⅠ型、両方を切断するタイプを
Ⅱ型と分類する。 細菌においてはⅡ型トポイソメラーゼが生育に不可欠とされている。このⅡ型トポイソメラーゼには、
DNAジャイレースとトポイソメラーゼⅣ(トポⅣ)がある。これらの2つの酵素はDNAの複製に関与し、DNA鎖の切断と
再結合の触媒反応の作用を示す。
①DNAジャイレースは、DNAの超螺旋構造の切断と再合成により、DNAの複製を進行し、 2つの娘DNAを複製する。
②複製された直後の 2つの娘DNAをトポイソメラーゼⅣは分離(分割)し、複製を完了させる作用を有している。
NQは、DNAジャイレースとトポイソメラーゼⅣの両酵素を標的とし、どちらかの酵素に強く作用する。
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キノロン剤の作用機作
キノロン系抗菌薬の使用上の注意
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キノロン剤の合成 (エノキサシン)
抗菌剤の耐性出現
ペニシリン耐性菌の出現
ブドウ球菌のペニシリナーゼ生産性獲得による耐性化
O
H H
S
N
H
N
CH3
CH3
O
COOH
ロンドンの病院内で分離されたペニシリン耐性ブドウ球菌
1946年
15%
1947年
40%
1948年
60%
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薬剤耐性菌の発生機構
・突然変異により耐性遺伝子が発生し,耐性変異株が薬剤の選択圧で増加する
ストレプトマイシン耐性結核菌(リボソーム変異)
キノロン耐性(DNAジャイレース変異)
ホスホマイシン耐性(薬剤能動輸送系変異)
試験管内における耐性変異株作成
・薬剤使用前に存在していた少数の耐性菌株が薬剤の選択圧で増加する
セファロスポリナーゼ高生産グラム陰性桿菌
・感受性菌が外来性の耐性遺伝子を受け入れる
Rプラスミドの接合伝達
薬剤耐性プラスミドの形質導入
・既存の耐性遺伝子の変異により,高度な耐性菌に変化する
第3世代セフェムを分解するβ-ラクタマーゼ生産グラム陰性菌
薬剤耐性菌の耐性機構
・酵素による薬剤の不活性化
・薬剤標的分子の変化による感受性低下
・薬剤の細胞外への能動排出
・薬剤透過性の低下
・薬剤標的酵素の代替酵素生産
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細菌酵素による薬剤不活性化
β-ラクタム系抗生物質
HO
HO
O
O
H H
H H
S
N
H
NH2
N
CH3
NH2
CH3
N
H
O C HN
O
OH
COOH
S
CH3
CH3
COOH
β-ラクタマーゼ
ペニシリン系親和性・・・ペニシリナーゼ
セファロスポリン系親和性・・・セファロスポリナーゼ
セリンβ-ラクタマーゼ
ペニシリナーゼ型・・・グラム陽性菌,伝達性(プラスミド,トランスポゾン)
セファロスポリナーゼ型・・・グラム陰性菌
基質拡張型(ESBL)・・・プラスミド性(グラム陰性菌)
メタロβ-ラクタマーゼ
モノバクタムを除くほとんどのβ-ラクタムを分解
Bacillus属,グラム陰性嫌気性菌 → 緑膿菌,腸内細菌
耐性菌によるクロラムフェニコールのアセチル化
O2N
OH
O
N
H
OH
O2N
CHCl2
OCOCH3
O
N
H
OCOCH3
CHCl2
クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ
グラム陰性菌・・・Rプラスミド
黄色ブドウ球菌・・・非伝達性プラスミド
Proteus属・・・染色体上
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アミノグリコシド系抗菌薬の酵素的修飾による不活性化
HO
HO
H2N
OH
O
HO
HO
OH
O
H2N
O
6'
3
カナマイシンの6'位のアセチル化
O
NH2
HO
HO
H2N
アミノグリコシドアセチルトランスフェラーゼ
(AAC)
NHCOCH
OH
O
3' OPO3H2
HO
HO
OH
O
H2N
アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ
(APH)
OH
O
NH2
カナマイシンの3'位のリン酸化
O
NH2
NH2
N
N
HO
HO
H2N
OH 4'
O
HO
O
OH
O
H2N
HO
O
O P O
N
N
O
NH2OH
カナマイシンの4'位のアデニリル化
O
NH2
アミノグリコシド
アデニリルトランスフェラーゼ
(AAD)
OH OH
薬剤標的分子の変化による感受性低下
アミノグリコシド系抗生物質耐性
結核菌
リボソーム30Sサブユニットの構成タンパク質変異
大腸菌(試験管内)
リボソーム30Sサブユニットの構成タンパク質変異(ストレプトマイシン,カナマイシン)
リボソーム50Sサブユニットの構成タンパク質変異(ゲンタマイシン)
バンコマイシン耐性
腸球菌(VRE)
vanA(プラスミドTn1546上),vanB(主に染色体Tn1547上)
ペプチドグリカンのD-Ala-D-Ala → D-Ala-D-Lac
vanC(染色体上)
ペプチドグリカンのD-Ala-D-Ala → D-Ala-D-Ser
キノロン系抗菌薬耐性
黄色ブドウ球菌,大腸菌
DNAジャイレースのAサブユニットおよびトポイソメラーゼⅣの変異
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