StoMatch:腹部を用いた親しい人間における遠隔コミュニケーションの拡張

StoMatch:腹部を用いた親しい人間における遠隔コミュニケーションの拡張
手法
CPSF B2 山田駿 (guru)†
1.
はじめに
本 TERM における背景, 問題意識, 目的, それに対応
する既存の研究について述べる.
1.1 背景
近年,IT 技術の発展に伴いコンピュータや携帯電話を
利用したコミュニケーションツールが発達し, 遠隔地い
る人と頻繁にコミュニケーションが行われている. また,
ビデオチャット・SNS など新しいツールが発展するなか
で, コミュニケーションの質も変化し, まるでその場にい
るかのようなリアリティをもった遠隔コミュニケーショ
ンを求める人は増加傾向にある.
1.2 問題意識
2004 年に NTT がつながり感通信という通信コンセプ
トを提案した. 親しい関係にある人とのコミュニケーショ
ンにおいては, 明示的なメッセージよりもむしろ非明示
的な情報(動き方, 気配, 存在に伴う様々な背景情報)に
日常的に接することで相手を身近に感じたり, 安心感(つ
ながり感)が醸成されるという考え方である. このコン
セプトは, 遠隔コミュニケーションにおいてより強いつ
ながり感を醸成するためには, ノンバーバルなコミュニ
ケーションが重要であることを示唆している. 本 TERM
は, こうした研究を参考に, テキストや音声だけの遠隔
コミュニケーションではつながり感を高める・心的距離
を縮めるには限界がある, という問題意識のもとに発案
した.
親:興野悠太郎 (kyopan)‡
2.
本 TERM での作成物の方針
本 TERM では腹部の持つ特徴に着目し, それを用いた
コミュニケーションデバイスを作成する. 腹部に着目し
た理由としては常に変化するという環境的要因を含んで
いることがあげらえる. 上記した関連研究では意図して
動かしインタラクションすることができる反面, 使用し
ていない時には関係が断たれてしまう. 腹部は意図的に
動かすことも可能であれば, 無意識でも動くため, そのひ
とが「そこにいる」という感覚を与えられると考えた.
3.
StoMatch
本 TERM のプロトタイプとして腹部を用いた身体接
触システム StoMatch を提案する.
3.1 StoMatch モデル
これは腹部の情報をセンスしリアルタイムに枕型デバ
イスへ動きを伝達するシステムである. 腹部に巻きつけ,
常にその状態をセンシングするセンサを着用したセンダ
デバイスと, センダデバイスから受け取ったデータをも
とに腹部の動きを再現するレシーバデバイスから成る.
また, レシーバデバイスからのセンダデバイスへのイン
タラクションとして「つつき」機能を搭載する.
1.3 目的
親しい人との遠隔でのコミュニケーションにおいてよ
りつながり感を高める・心的な距離を縮める手法の研究・
拡張を本 TERM の目的とした.
1.4 関連研究
上記の問題意識は遠隔コミュニケーションの分野では
広く認知され, 様々なアプローチで研究が行われている.
本 TERM ではそうしたアプローチの中でも, 特に身体
接触を伴う手法にフォーカスをあてた. 身体接触を伴う
遠隔コミュニケーションの関連研究として, 遠隔でキス
をしている感覚を得られる Kissenger という研究, 通話
している時にスマートフォンにデバイスを装着し「指で
つつく」インタラクションを通じて遠隔の相手に感情を
伝える研究, 写真のフレームを握る強さによって相手の
写真フレームについて光の色を変え感情を伝える Lumi
Touch という研究があげられる. しかし, これらの研究は,
コミュニケーションのタイミングが限定的であり, より
日常に溶け込む自然なコミュニケーションとしては不十
分である.
† 慶應義塾大学 総合政策部
‡ 慶應義塾大学 政策・メディア研究科
図 1: StoMatch モデル
3.2 機能要件
本 TERM の機能要件は 3 点ある. 一つ目は, リアルタ
イムに常に腹部の情報をセンシングできることである.
二つ目は, 取得した情報をもとに再生することが可能で
あることである. 三つ目は実際にお互いがインタラクショ
ンし, つながり間を感じることができることである.
3.3 センダデバイス
センダデバイスは腰に巻きつけるウェアラブルデバイ
スである. センサを搭載し, 常に腹部の状態をセンシング
し, レシーバデバイスに送信する役割を果たす. 今回は,
腹部の動きを呼吸による上下動・体温・消化音の3つと
定義し, それぞれをセンシングする. 呼吸による上下動を
センスするために加速度センサ, 体温を感じるために温
度センサ, 腹部に耳を当てた時に聞こえる消化音をセン
スするために音センサを使用する. また, レシーバデバイ
スからのインタラクションとしてモータを搭載し, つつ
きスイッチが押された時に腹部が締め付けられるという
機能も搭載する.
5.
実装スケジュール
実装スケジュールを下記に示す.
3.4 レシーバデバイス
レシーバデバイスは頭部を当てて腹部の動きを体感す
るデバイスである. シリコンで筐体を作成し, 人肌に接
している質感を持つ. 常にセンダデバイスから腹部の情
報を受信し, 前節で定義した腹部の3つの動きを再現す
る役割を果たす. 腹部の上下動は内部にシリンダ状のエ
アポンプを搭載し, 内部の体積を変化させることで実現
する. 体温に関してはアルミヒータ, 消化音はスピーカに
よって再現する. さらに, センダへのインタラクションと
してつつきボタンを搭載する.
3.5 システム構成図
下記にシステム構成図を示す.
図 3: 実装スケジュール
6.
まとめ
遠距離での親しい人間間のコミュニケーション方法と
して StoMatch を提案した.
図 2: システム構成図
4.
評価指標
4.1 定量評価
ハードウェアの実装としてどれだけ実物を再現するこ
とができたか, 腹部の上下動・体温の2つについて検証
する. 腹部の上下動については実物の腹と同様にレシー
バデバイスに加速度センサを搭載し, 値の差分をとる. 体
温に関しても同様にレシーバデバイスが実際の体温を再
現できたかについて差分を計測する.
4.2 定性評価
定性評価としては以下の3つの観点から使用感に関す
るアンケート調査を実施する. ・相手とのつながり感は
高まったか・どうコミュニケーションを拡張したかに関
する質問(例:腹部を用いたコミュニケーションによっ
てどのような新規のコミュニケーションを行ったか)
・他
のコミュニケーションツールとの関係はどう変わったか