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第7課 原子、分子のエネルギー準位
平成16年11月29日
講義のファイルは
http//www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html
に置いてあります。質問は
[email protected]
レポート提出は出題の次の授業が原則ですが、それ以降でも構いま
せん。単位が欲しい人は5つ以上のレポートを提出して下さい。とにか
く全部のレポートを頑張って出した人には良い点が与えられます。
M2、B4で単位認定を急ぐ人は申し出て下さい。
7.1.電子配列
(configuration)
原子内の電子を、いくつかの量子数で指定する。
n:主量子数 (principal quantum number)
l:方位量子数 (azymuthal quantum number)
m:磁気量子数 (magnetic quantum number)
主量子数は殻(shell)と、例えばK-シェル、呼ばれることもある。
主量子数 n
方位量子数 l
1(K)
0(s)
2(L)
0(s)
3(M)
1(p)
0(s)
1(p)
磁気量子数 m
0
0
-1
0
1
0
-1
0
1
スピン
↑↓
↑↓
↑↓
↑↓
↑↓
↑↓
↑↓
↑↓
↑↓
3(M)(続き)
主量子数 n
この先は、
2(d)
方位量子数 l
n=4(N), 5(O),6(P)…
磁気量子数 m
-2
-1
0
1
2
スピン
↑↓
↑↓
↑↓
↑↓
↑↓
同じnでも、l小(遠心力ポテンシャル低い)では中心付近にたまるので
他の電子の遮蔽効果が弱くなり、エネルギーレベルが下がる。
-⇒ n+l(エル)がレベルの目安。
(nl)レベルをエネルギーの低い順にならべると、
nl
1s
2s
2p
3s
3p
4s
3d
4p
5s
n+l
1
2
3
3
4
4
5
5
5
4d …….
………..
実際、原子の基底状態の電子配列 は上の式に従って決まっている。
H
He
1s
(1s)2
Li
Be
(1s)22s
B
(1s)2(2s)2
C
N
(1s)2(2s)22p (1s)2(2s)2(2p) 2 (1s)2(2s)2(2p) 3
O
F
Ne
(1s)2(2s)2(2p) 4 (1s)2(2s)2(2p) 5 (1s)2(2s)2(2p) 6
(続き)
Na
(下線のあるCrとCuのところで飛びがある)
Mg
..(2p) 6(3s) ..(2p) 6(3s)2
Al
Si
P
S
Cl
Ar
….(3s)23p ….. (3s)2(3p) 2 ….. (3s)2(3p) 3 ….. (3s)2(3p) 4 ….. (3s)2(3p) 5 ….. (3s)2(3p) 6
K
Ca
…(3p) 64s
…(3p) 6 (4s)2
Sc
Ti
V
Cr
Mn
…(3p) 63d(4s)2 …(3p) 6 (3d)2 (4s)2 …(3p) 6 (3d)3 (4s)2 …(3p) 6 (3d)5 4s …(3p) 6 (3d)5 (4s)2
Fe
Co
Ni
Cu
…(3p) 6 (3d)6 (4s)2 …(3p) 6 (3d)7 (4s)2 …(3p) 6 (3d)8 (4s)2 …(3p) 6 (3d)10 4s
Zn
…(3p) 6 (3d)10 4s
7.2.項 (term), 準位 (level), 状態 (state),
スペクトル線 (line)、multiplet
k個の電子を持つ原子では、まずk個の電子状態のセットを指定する。これが、
電子配列である。そのk個の状態から作られる合成角運動量をL、Sとした時に、
共通のLとSを持つ状態の組を項(term)と呼ぶ。
総角運動量Jは、LとSのベクトル合成 L+S である。一般には原子のエネル
ギー準位はJの値により分裂する。これを、準位(level)と呼ぶ。
最後に、JのZ成分Mまで指定すると原子の量子状態は完全にきまる。これを
状態(state)と呼ぶ。
名前
量子数
状態数
電子配列 ( configuration)
(n1l1) (n2l2)………(nklk)
項 ( term )
(n1l1) (n2l2)………(nklk) SL
準位 (level)
(n1l1) (n2l2)………(nklk) SLJ
2J+1
状態 ( state)
(n1l1) (n2l2)………(nklk) SLJM
1
S= s1+ s2+ s3 + ……… + sk
J=S+L、
M=MJ
(2S+1)(2L+1)
L= l1+ l2+ l3 + ………. + lk
項(term)
準位(level)
multiplet
状態(state)
line
合成軌道角運動量L=∑lの名前は、
L=
1
2
3
4
S
P
D
F
スペクトル線 (line)
準位(level)間の遷移
multiplet
項(term)間の遷移の全体
項 (Term)
最外殻の電子は通常共通の主量子数を持っている。殻のエネルギー準位
は、 L=Σlによって分裂する。これを項 (term) と呼ぶ。
項は(n1l1) (n2l2)………(nklk) SL で指定される。
多電子系: L=Σl, S=Σs, J=L+S (LS結合)
g L・S(LS相互作用 )  (2S+1) 準位
S<Lの場合
(2L+1) 準位
S>Lの場合
項の決定法:
通常、内側の殻(shell)はL=0,S=0の状態で閉じている。最も外側の殻に属
する電子だけでLとSを決める。その電子は同じ(n、l)を持つかどうかで扱いが
少し異なる。
例1 p電子(l=1)+d電子(l=2)
2つの軌道角運動量lが異なる(不等価電子) ので
L=1+2  L=3 (F), 2(D), 1(P)
S= 1/2+1/2  S = 1, 0
2S+1L
= 1P, 1D, 1F, 3P, 3D, 3F (SとLの任意の組み合わせ)
例2 2個のp電子 (l=1)
等価電子[ 同じ(n,l) ]にはパウリ排他率の考慮が必要。
2つのp電子は同じml(=1,0、-1)とms(=1/2、-1/2)
を持つことが出来ない。
まず、可能な組み合わせを↑(ms=+1/2), ↓(ms= - 1/2) を使い、表にする。
+1
↑↓
↑
↑
↓
↓
↑
↑
↓
↓
ml
0
‐1
↑
↓
↑
↓
↑
↓
↑
↓
↑↓
↑
↑
↓
↓
↑
↓
↑
↓
↑↓
Σ ml =ML
2
1
1
1
1
0
0
0
0
0
-1
-1
-1
-1
-2
Σms=MS
0
1
0
0
-1
1
0
0
-1
0
1
0
0
-1
-0
( ml ms)
( 1, 1/2) ( 1, -1/2)
( 1, 1/2) ( 0, 1/2)
( 1, 1/2) ( 0, -1/2)
( 1, -1/2) ( 0, 1/2)
( 1, -1/2) ( 0, -1/2)
( 1, 1/2) (-1 , 1/2)
( 1, 1/2) (-1 , -1/2)
(1, -1/2) (-1 , 1/2)
(1, -1/2) (-1 , -1/2)
(0, 1/2) ( 0, -1/2)
( 0, 1/2) (-1, 1/2)
( 0, 1/2) (-1, - 1/2)
( 0, -1/2) (-1, 1/2)
( 0, -1/2) (-1, -1/2)
(-1, 1/2) (-1, - 1/2)
前頁の表から、p電子2個には計15個の独立な状態があることが判る。L,Sの固有
関数も計15個で、前頁15個関数の一次結合で表わされる。
Σ ml =MLの列を見ると、最大が2で、そのMS=0である。これじさあいは、L=2、S=
0の状態が出来ていることを意味する。(L=1,0から、 ML =2は生じないし、L=3
が出来れば、 ML=3があるはず。)そこで、L=2,S=0状態に寄与し得る関数に○
をつける。実際にはMs=0で、ML=2,1,0、-1、-2を一つずつ選ぶ。
+1
↑↓
↑
↑
↓
↓
↑
↑
↓
↓
ml
0
‐1
↑
↓
↑
↓
↑
↓
↑
↓
↑↓
↑
↑
↓
↓
↑
↓
↑
↓
↑↓
Σ ml =ML
2
1
1
1
1
0
0
0
0
0
-1
-1
-1
-1
-2
Σms=MS
0
1
0
0
-1
1
0
0
-1
0
1
0
0
-1
-0
○
×
○
×
×
×
○
×
×
△
×
○
×
×
○
1D
(L=2、 S=0)
3P (L=1, S=1)
1S
(L=0, S=0)
ところで、( ml ms)= ( 1, 1/2) ( 1, -1/2) は(L、S)の固有関数でもあるので、
(L,S)の次の固有関数を作る際にはこれはもう使えない。残った中で(ML, MS)
の最大値を探すと、 (ML, MS) =(1,1)があるので、L=1,S=1状態がある
ことが判る。そこで (ML, MS) =(1,1) (1,0) (1,-1) (0,1) (0,0) (0,-1) (-1,1) (-1,0) (-1,-1)
となる( ml ms)9組に×印をつける。
最後には(ML, MS) =(0,0)が一組だけ残る。したがって、これはL=0,S
=0を表わすと考える。
このようにして、 2個の等価p電子からは (L,S)=(2,0)、(1,
1)、(0,0)の項が出来ることが分かった。(2,1)や(1,0)
はできない。
項は
2S+1L
(L,S)
2S+1L
という形で表記する。
(2,0) (1,1) (0,0)
1D
3P
1S
各項はさらに、J=L+Sにしたがって分裂する。
である。
準位 (level)
項(term)は異なる J 毎に準位 (level) へと分裂する。前の例で、
1D
項(L=2,S=0)は、J=L+S=2+0=2のみだが、
3P項(L=1,S=1)は、J=L+S=1+1=2,1,0が
存在する。
準位は、S,L,Jが指定され、2S+1LJの形で表記される。
従って、2個の等価p電子の系から生じる準位は、
電子配列
(configuration)
項
準位
状態
(term)
(level)
(state)
1S
(2p)2
1D
1D
3P
1S
JM=0
0
1D
2
3P
2
3P
1
3P
0
JM=2,1,0,-1,-2
JM=2,1,0,-1,-2
JM=1,0,-1
JM=0
項(term) がJの違いで準位(level)へと分裂することを
微細構造 ( fine structure) と呼ぶ。
また、2準位以上を多重項と呼ぶ。
S状態ではLS結合J=0なので、微細構造はない。
7.3.エネルギー準位と天体スペクトル線
(i) 水素原子
p
水素原子のエネルギー準位 E
2πp a=nh
: 量子条件
K=p2/2m=e2/2(4πεo)a
a
: ビリアル
 p2/m=(nh/2π)2 /(a2m) =e2/ (4πεo) a
1  2 2 m e2


a  n h  4
1
e2
m e4
1
h L
E


2
2
24  a
24 2  n
n2
詳しい値は以下のように与えられる。



h L  2  1
3 


E
1


n  J  1 4n 
n2 



2


( hνL =13.6 eV )
左の式にはLもSも入っていない。
従って、水素原子には項による準
位の分裂がない。主量子数で決ま
る殻(shell)から、項を飛ばして、い
きなりJによる分裂、微細構造、に
なるという特殊な構造を示す。
水素のエネルギー準位
殻(shell)
項(term)
2D
2P
2S
n=3(M殻)
2D
5/2
2D
(3s), (3p), (3d)
n=2(L殻)
2P
3/2
2P
2P
1/2
2S
2P
3/2
3/2
1/2
2S
(2s), (2p)
n=1(K殻)
準位(level)
2S
2P
2S
(1s)
項が分裂していない
のが珍しい
1/2
2S
1/2
1/2
微細構造
Lが違うから違う項
に属す。普通はJが
同じでも準位は違う。
水素は特別。
水素のスペクトル線
水素のエネルギー準位
自由
バルマー系列(Balmer)
H α: n=3  n=2
電子
n= 2
β: n=4  n=2
Hα Hβ Hγ
hνL =13.6 eV
γ : n=5  n=2
ライマン系列(Lyman)
n= 1
Lyα LyβLyγ
Lyman α: n=2  n=1
β: n=3  n=1
γ : n=4  n=1
n1
Lyman
n2
n3
Balmer Paschen
n4
Brackett
ライマンα線
Lyα (ライマン アルファ線):H (水素原子)
2p 2P3/2
1215.668 A
2p 2P1/2
1215.674 A
1s 2S1/2
2s
2S
1/2
Two Photon
A(2S)=8.23/s
共鳴線( resonance line)の最初の例。
共鳴線=基底状態 ――>遷移可能な第1励起状態。
通常最も強い。A(2P)=4.7 108 / sec で短時間で放出される。
吸収もされやすく,したがって、高温ガス星雲内ではLyαフォトンは1S
状態のH原子により、散乱を受けながら拡散していく。
(ii) s型原子
アルカリ金属、Li, Na, K, Sc,..、のように閉殻の外にs電子が1つ付加。
電離エネルギーが低い。
存在比は小さいが、電離しやすいので、Te < 5000 K (K型より晩期 ) では
KとNa が電子の主な供給源である。
電離エネルギー
Eion(eV)
30
Li(2s)
5.4
25
Na(3s)
5.1
K (4s)
4.3
Rb(5s)
4.2
Cs (6s)
3.9
He
電離エネルギー
元素
Ne
20
Ar
15
H
10
B
5
Na Al
Li
K
0
0
5
10
15
原子番号
20
25
30
(s)型例1:Na
(1s)2(2s)2(2p) 6 (3s) 2S1/2
Na
基底状態
3s電子 ――> L=0, S=1/2, J=1/2  2S1/2
第1励起状態
3p電子 ――> L=1, S=1/2, J=1/2,  2P1/2
――> L=1, S=1/2, J=3/2,  2P3/2
(4s) 2S1/2
2P
項(term)
S=1/2, L=1
(3p) 2P3/ 2 準 位 (level) S=1/2,L=1,J=3/2
g=4
(3p) 2P1/ 2 準 位 (level) S=1/2,L=1,J=1/2
g=2
D line (multiplet)
2S
D1 line
5889 A
項(term)
S=1/2, L=0
(3s) 2S1/2準 位 (level) S=1/2,L=0,J=1/2
D2 line
5895 A
g=2
(s)型例2: Ca II
Ca II 基底状態の電子配列は (1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (4s) 2S
その上に、
(1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (3d) 2D
と
(1s)2(2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (4s) 2P
がある。
(4p) 2P3/2
(4p) 2P1/2
CaII triplet
8498
8542
8662
3933
3968
K線
H線
(4s) 2S1/2
(3d) 2D5/2
(3d) 2D3/2
7291
7323
G型星吸収線
Mg b
g
Hβ
Hγ
D
Hα
B
CaII
triplet
K, H
A
(iii)
(p)2型
例1:NII
Ground -level = (1s)2(2s)2 (2p)2
(p)2 型 なので、 1D, 3P, 1S 項 (term) が出来る。
NII
(2p)2
3P
1S
0
3070
5754
3062
1D
2
6583
6548
3P
2
3P
1
3P
0
22μ
76μ
(p)2型例2:OIII
(2p)2
1D, 3P, 1S
1S
0
2331
4363
2321
1D
2
5007
4959
3P
2
3P
1
3P
0
52μ
88μ
(p)3型
例1:
OII
(2p)3
2P
1/2
2P
3/2
7319
7330
2D
3/2
2D
5/2
3728
7318
7329
3726
2470
4S
3/2
2470
(p)3型 例2: SII
SII (3p)3
2P
3/2
2P
1/2
10370
10336
A=0.08/s A=0.16/s
A=0.18/s
10286
A=0.13/s
2D
5/2
2D
3/2
6730
4S
10320
3/2
6716
4076
4068
A=0.09/s
A=0.22/s
問題7
平成16年 11月29日
天文学部生はなるべく7-Bを選ぶよう。
問題 7-A
等価p電子が3個の場合に、 4S, 2P, 2D 項が現れることを示せ。やり方はp2の
場合に習えばよい。等価p電子が4個の場合、5個の場合はどうか?
問題 7-B
電離領域での、エネルギー基底状態と励起状態との間の遷移を下図のように考
える。
数密度(cm-3)
統計重み
励起状態
N2
g2
衝突励起
Ne・N1 ・C12
衝突落下
自然放出
Ne・N2 ・C21
N2 ・A21
N1
g1
基底状態
すると、平衡の式は、Ne・N1 ・C12 =Ne・N2 ・C21 +N2 ・A21
N 2 N eC12
1


N1
A21 1  N eC21
A21
8.629 106 1, 2
 cm 3 s1 
C21 



g2
T1 2
8.629 106 1, 2
g
C12 

exp  E
 2 C21exp  E
kT
kT
g1
g1
T1 2




 cm 3 s1 


惑星状星雲やHII領域からはOIIの強い輝線が出る。禁制線[OII]3726と[OII]3729に
ついて上の数値をあたると、以下の通りである。また、電離領域の温度(電子の運動
温度)は多くの場合T=8000-12000Kである。
[OII]3726
準位2(上)
準位1(下)
2D
3/2
4S
3/2
[OII]3729
g=4
2D
5/2
g=6
g=4
4S
3/2
g=4
Ω(1,2)
0.588
0.882
A21 (s-1)
1.8×10-4
4.2×10-5
(1) 輝線強度 I はN2・A21・hνに比例すると考えて、2本の輝線の強度比
R=( I3729 / I3726 ) をNe(cm-3)の関数として表わせ。
(2) Ne0、Ne∞の時のRを表わせ。その物理的な意味を考えよ。
(3) 縦軸にR、横軸に log10 Ne (cm-3) をとってグラフにせよ。(1<Ne<105)
(4) 下の表はHII領域と惑星状星雲で観測されたライン強度比Rの値である。
各天体でT=10000Kと仮定して、グラフからNe(cm-3)を求めよ。
(1-2桁程度でよい)
天体名
HII領域
NGC1976A
R
0.50
M8(Hourglass) 0.65
NGC7000
惑星状星雲
NGC7027
1.38
0.48
NGC3587
1.34
IC418
0.37