幾何学特論 I レポート課題 島川和久 平成 27 年 5 月 18 日 1 加群と凖同型 以下では,加群は可換環 R 上の加群を指すものとする。とくに,R が体のときはベクト ル空間である。 レポート問題 1. 加群の凖同型の系列 f1 f2 f3 f4 A1 −→ A1 −→ A3 −→ A4 −→ A5 が完全(Im fi = Ker fi+1 , 1 ≤ i ≤ 3)であるとする。以下を示せ。 (a) A3 = 0 のとき,f1 は全射,f4 は単射である。 (b) f2 = 0, f4 = 0 のとき,f3 は同型射である。 (c) f4 が単射,f1 が全射のとき, A3 = 0 である。 2. (五項補題)加群の圏における可換図式 f A /B g /C m l f′ / B′ /D / C′ /E q g′ k p n A′ h / D′ h′ / E′ k′ において各行が完全系列であり,m, p は同型射,l は全射,q は単射であるとする。こ のとき,n は同型射であることを示せ。 3. 加群の圏における可換図式 ··· / G3n−3 λ3n−3 / G3n−2 ϕ3n−3 ··· / H3n−3 µ3n−3 λ3n−2 / G3n−1 λ3n−1 / G3n ϕ3n−2 / H3n−2 µ3n−2 ϕ3n−1 / H3n−1 µ3n−1 λ3n / G3n+1 / H3n / G3n+2 ϕ3n+1 ϕ3n λ3n+1 µ3n / H3n+1 µ3n+1 / ··· ϕ3n+2 / H3n+2 / ··· において各行は完全系列であり,すべての k で ϕ3k は同型射であるとする。このと き,次は完全系列である。 ρ σ τ ρ · · · → G3n−2 − → H3n−2 ⊕ G3n−1 − → H3n−1 − → G3n+1 − → H3n+1 ⊕ G3n+2 → · · · ただし,ρ = (ϕ3n−2 , −λ3n−2 ),σ = µ3n−2 + ϕ3n−1 ,τ = λ3n ◦ ϕ−1 3n ◦ µ3n−1 とする。 1 4. (六角形補題)加群と凖同型からなる図式 ′ f G3 a❇o H1 ❇ = ❇❇ ′ ❇ ⑤ ⑤ ❇❇ λ2 g ′ ⑤⑤ µ1 ⑤⑤ ❇❇h ❇❇ ⑤ ⑤ ❇❇ ⑤ ⑤ ❇❇ ⑤ ❇! ⑤⑤ ⑤⑤ ⑤ } ν1 ν2 / G2 / H0 G0 ❇ a❇❇ = ❇❇ ⑤ ⑤ ❇❇ λ1 µ2 ⑤⑤ ❇❇ ⑤⑤ ❇ ⑤ ⑤ ❇❇ ⑤⑤ ⑤⑤ g ❇❇❇ ❇ ⑤⑤ h }⑤⑤ ! H2 o G1 f において,各三角形は可換,f, f ′ は同相写像であり,Ker λ2 = Im λ1 ,Ker µ2 = Im µ1 , および ν2 ◦ ν1 = 0 が成り立つとする。このとき,次の関係式が成り立つことを示せ。 h ◦ f −1 ◦ g = −h′ ◦ f ′ 2 −1 ◦ g′ ホモロジー代数の初歩 2 解説 全ての n で,dn+1 ◦ dn = 0 であるような加群の系列 K = {C n (K), dn }: dn dn+1 ··· − → C n (K) −→ C n+1 (K) −−−→ C n+2 (K) − → ··· をコチェイン複体とよぶ。 K = {C n (K), dn } および L = {C n (L), dn } がコチェイン複体であるとき,すべての n で dn ◦ f n = f n+1 ◦ dn が成り立つような凖同型 f n : C n (K) → C n (L) の族 f = {f n } を K から L へのコチェイ ン写像とよぶ。各レベルで合成をとることによりコチェイン写像の合成が自然に定義され, コチェイン複体とコチェイン写像は圏を構成する。 定義 2.1. コチェイン複体 K = {C n (K), dn } に対し,Z n (K) = Ker dn を C の n 次元輪 体群,B n (K) = Im dn−1 を n 次元境界輪体群とよぶ。定義から B n (K) は Z n (K) の部分 加群であり,商加群 H n (K) = Z n (K)/B n (K) が定義される。これを K の n 次元コホモロジー群とよび,次数つき加群 {H n (K)} を H(K) で表す。 コチェイン写像 f = {f n } : K → L はコホモロジー群の間の凖同型 H n (f ) : H n (K) → H n (L) を誘導し,H(f ) = {H n (f )} は次数付き加群 H(K) から H(L) への射となる。明らかに, 対応 K 7→ H(K) はコチェイン複体の圏から次数付き加群の圏への関手である。 定義 2.2. f, g : K → L がコチェイン写像であるとき,条件 dn−1 ◦ Φn + Φn+1 ◦ dn = g n − f n を満たす凖同型 Φn : C n (K) → C n−1 (L) の族 Φ = {Φn } が存在するとき,f と g は(コ チェイン)ホモトピックであるといい,Φ を f と g の間の(コチェイン)ホモトピーとよぶ。 命題 2.3. 二つのコチェイン写像 f と g がホモトピックであるとき,H(f ) = H(g) が成り 立つ。 i j コチェイン複体の圏における系列 0 → K − →L− → M → 0 は,加群の系列 jn in 0 → C n (K) −→ C n (L) −→ C n (M ) → 0 がすべて完全であるとき,コチェイン複体の短完全系列とよばれる。 i および j はコチェイン写像だから,次の系列を誘導する。 i∗ j∗ H n (K) − → H n (L) −→ H n (M ), 3 n∈Z 次の可換図式を考えよう。 .. . x dn+1 .. . x dn+1 in+1 j n+1 .. . x n+1 d 0 −−−−→ C n+1 (K) −−−−→ C n+1 (L) −−−−→ C n+1 (M ) −−−−→ 0 x x x n dn dn d 0 −−−−→ in C n (K) −−−−→ x n−1 d jn C n (L) −−−−→ x n−1 d C n (M ) −−−−→ 0 x n−1 d .. .. .. . . . n n n n ′ H (M ) = Z (M )/B (M ) の元 z = [c](c ∈ Z (M ))と c ∈ (j n )−1 (c) に対し, [(in+1 )−1 (dn (c′ ))] ∈ Z n+1 (K)/B n+1 (K) = H n+1 (K) は c, c′ の選び方に依らず一意的に定まる元である。そこで,d∗ (z) = [(in+1 )−1 (dn (c′ ))] と おくことにより,連結凖同型 ∆ : H n (M ) → H n+1 (K) が定義される。 i j 定理 2.4. コチェイン複体の完全系列 0 → K − →L− → M → 0 から誘導される系列 ∆ j∗ i∗ ∆ i∗ ··· − → H n (K) − → H n (L) −→ H n (M ) − → H n+1 (K) − → ··· は加群の完全系列である。(これをコホモロジー完全系列とよぶ) 定義 2.5. 次数付き加群 K = {K n } において各 K n が有限生成なら,K は有限生成である という。また,有限個の n を除いて K n = 0 であれば,K は有界であるという。有限生成 かつ有界な次数付き加群 K = {K n } のオイラー数を次で定義する。 n X (−1)n rank K n P 補注 2.6. K が次数付きベクトル空間の場合は, χ(K) = n (−1)n dim K n である。 χ(K) = レポート問題 1. C = {C n , dn } がコチェイン複体のとき,すべての n で B n (C) は Z n (C) の部分加群 となることを示せ。 2. 命題 2.3 を示せ。 3. ベクトル空間の短完全系列 0 → U → V → W → 0 において,U および W の次元が 有限であれば V の次元も有限であり, dim V = dim U + dim W が成り立つ。 4. K = {C n (K), dn } をベクトル空間のコチェイン複体とする。次数付きベクトル空間と して K が有限生成かつ有界であるとき,次が成り立つことを示せ。 χ(H(K)) = χ(K) ヒント:次の二つの短完全系列に着目せよ。 0 → B n (K) → Z n (K) → H n (K) → 0, 4 dn 0 → Z n (K) → C n (K) −→ B n+1 (K) → 0
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