歩行障害に対する脳神経外科的治療 - TOHO Univ.講座・研究室一覧サイト

歩行障害に対する
脳神経外科的治療
市民公開講座
脳深部刺激療法(DBS)
パーキンソン病、ジストニア
髄液シャント術
水頭症
バクロフェン髄腔内投与療法(ITB)
痙縮
脳深部刺激療法/DBSとは・・・
DBS = Deep Brain Stimulation
脳の深部(視床、淡蒼
球、視床下核)に、機
能改善を目的として微
弱な電気インパルスを
放出する電極を脳に
埋め込む治療法。
脳深部刺激療法の刺激部位(ターゲット)
手術効果が期待できるパーキンソン病の状態は・・・
「パーキンソン病の定位脳手術の適応と手技の確立に
関する多施設共同研究」班の手術適応指針
①L-DOPAに対する効果がある。
②十分な薬物治療が行われている。
③Hoehn&Yarh Stage:
On period; 1-3
Off period; 3-5
④全身状態が良好である。
⑤知能が正常である。
⑥情動的に安定している。
⑦画像上、著明な脳委縮のないこと。
⑧本人の同意が得られる。
定位脳手術装置を装着
標的の位置を測定
7
穿頭術
リード植込み
リード植込み
電極間隔が1.5ミリ
電極間隔が0.5ミリ
直径:1.27mm
材質:ポリウレタン
刺激装置
体内用パルスジェネレーター
(IPG=implantable pulse generator)
寸法:55×60×10(mm)
重量:49g
材料: チタン
電気回路と電池が内臓
単純レントゲン写真
CTスキャン
DBSの留意点
 電池寿命により、入れ替え手術が必要(電
池寿命は数年程度、使用条件による)
 刺激により神経活動を活発化させるので
はなく刺激電流により刺激部位をシビレさ
せ機能麻痺を誘発
 手術は安全だが、リスク0%ではないこと
– 1-2%の脳内出血(症状の持続は0.5%)
– 感染3-4%、抗生剤の使用。時に材料の
抜去が必要である
脳深部刺激療法で改善が期待できる症状
 振戦
 筋固縮
 無動・寡動
 姿勢反射障害
 薬剤の副作用
◇髄液シャント術(短絡術)
水頭症
特発性正常圧水頭症
(iNPH: Idiopathic Normal
Pressure Hydrocephalus )
– 髄液は体の中で一番透
き通っている液体
(99%水)です。
– 脳室と呼ばれる風船の
ような脳の中心部の部
屋の中で髄液が作られ
ます。
– 脳室内で作られた髄液
は脳と脊髄の周りを循
環して静脈に吸収され
ます。
– 髄液は1日に約450ml産
生され、2,3回入れ替
わっています。
水頭症とは
何らかの原因で髄液の流れや吸収が妨
げられると脳室に髄液が溜まってパンパン
になり、脳室が大きくなり脳を圧迫する。
頭蓋内圧が高くなって、様々な症状が出
てくる。
頭蓋内圧が正常範囲(150~180㎜H2O)
でありながら、脳室拡大と神経症状が現れ
る場合がある(高齢者)。
脳萎縮? 水頭症?
・脳室拡大
・高位円蓋部
のくも膜下腔
狭小化(脳溝
消失)
・シルビウス
裂拡大
INPHの画像所見の特徴
特発性正常圧水頭症 アルツハイマー病
頭頂部の脳溝と脳室拡大の程度が
相関していない
血管性痴呆
頭頂部の脳溝と脳室拡大の程
度が相関している
• 脳室の拡大。シルビウス裂の拡大。
• 高位円蓋部の髄液腔の狭小化。
• MRI上の脳室周囲および深部白質変化は健常者に比べて高頻度
で強いが必須の所見ではない。
正常圧水頭症は高齢者に多く発症
特発性正常圧水頭症:原因が不明で、先行
疾患が明らかでないために見過ごされる
可能性がある。
続発性正常圧水頭症:くも膜下出血の後に
多く、先行疾患が明らかなため的確に治
療されている。
水頭症の治療
◇髄液シャント術(短絡術)
なぜ、iNPHになるの?
何らかの原因で、髄液循環がスムースでなくなる
脳室や髄液腔(クモ膜下腔)が拡大すると周囲の
脳組織を 圧迫したり、血流が悪くなる。
歩行障害・認知症・尿失禁といった症状が進行す
る。
高血圧・糖尿病などが
INPHになる危険因子
特発性正常圧水頭症が
注目されてきたのは
• 高齢者の増加
• 歩行障害、認知症、尿失禁といった
症状の改善によって介護度が軽減
可能
• シャント有効例の選択が高い確率
で可能となり装置も改良された。
特発性正常圧水頭症:iNPH
三徴候の頻度は?
歩行障害(94~100%)、認知症(69~98%)、尿失禁(54~83%)
INPHの画像所見の特徴
特発性正常圧水頭症 アルツハイマー病
頭頂部の脳溝と脳室拡大の程度が
相関していない
血管性痴呆
頭頂部の脳溝と脳室拡大の程
度が相関している
• 脳室の拡大。シルビウス裂の拡大。
• 高位円蓋部の髄液腔の狭小化。
• MRI上の脳室周囲および深部白質変化は健常者に比べて高頻度
で強いが必須の所見ではない。
特発性正常圧水頭症:iNPH
髄液排除試験≪タップテスト≫
症状
+
脳室拡大+
CSF
タップテスト
歩行障害などの
症状の改善が得
られたら髄液シャ
ントが有効とわか
ります。
・30mlほどの髄液を排出
シャント前後での変化
シャント術前
シャント術後
脳室の容積の低下とともにシルビウス裂の容積も低下した。
iNPH術後の短期, 長期予後は
わかっているか?
早期改善率:歩行障害80〜90%, 痴呆30〜80%,
尿失禁20〜80%
術後3ヶ月〜5年の追跡では、シャント効果は短期(3ヶ
月〜2年)で31〜100%、長期(3年〜5年)で67〜91%
とする報告(1,2,3)があり、高齢者であっても長期間効果
の持続する例も多い。
(1) Krauss JK ら, 1996 (2) Raftopoulos C ら, 1994
(3) Mori Kら, 2001
バクロフェン髄腔内投与療法
(ITB療法)
脳から脊髄のどこか(あるいは両方)を壊してし
まう病気で生じる痙縮(けいしゅく)に対する新しい
治療法です。痙縮とは筋肉に力がはいりすぎて棒
のようになり、動きにくかったり、勝手に動いてしま
う状態で、医学的には反射が過度に亢進してし
まった状態とされます。 わずかな刺激で筋肉に異
常な力がはいり、動きにくいだけでなく、突っ張っ
た筋肉に強い痛みやシビレ感がみられることもあ
ります。日常生活動作が障害され、生活の質
(QOL)の低下を生じます。
ITB療法は、バクロ
フェンという薬を体内に
埋め込んだ持続注入ポ
ンプから脊髄の周囲へ
持続的に直接投与する
ことにより、痙縮をやわ
らげる方法。
内服薬では、薬の作
用部位である脊髄へ移
行しづらく効果が不充
分なために直接脊髄周
囲へ投与するITB療法
が開発された。
バクロフェンの作用
筋肉を動かす際には、動かすだけでなく、余計な動きを
させないように指令する物質(GABA《ギャバ》という抑制
性の神経伝達物質)が脊髄で働き、スムーズな動きがで
きる。痙縮(けいしゅく)
では、そのバランスが
崩れ、筋肉が過度に
緊張したり、余計な筋
肉が緊張したりする。
バクロフェンは
GABAと同様に働き、
バランスを取り戻すこ
とで痙縮をやわらげる。
ITB療法の効果
1.固くなった下肢の筋肉・間接をやわらかく、動
かしやすくする。
2.筋肉のけいれん(攣縮:スパズム)をおさえる。
3.胸やおなかの締め付け感をおさえ、呼吸を楽
にする。
4.痙縮による痛みをやわらげる。
5.筋肉の突っ張り感や痛みで生じていた睡眠障
害を改善。
6.日常生活動作の改善。
≪まとめ≫
•脳深部刺激療法(DBS):パーキンソン病の
歩行障害を改善する
•髄液シャント術:歩行障害、認知症、尿失
禁といった特発性正常圧水頭症(iNPH)
の症状を改善する。
•バクロフェン髄腔内投与療法(ITB療法):
痙縮による歩行障害を改善する。