分子ジャイロスコープの設計とダイナミクス 河野 裕彦(東北大院理) 【序】近年、単分子単位で制御された機械的運動を実現す る分子マシンの設計・合成が注目されている。また、その ような分子の集積化によって新たな機能をもつデバイスを 作る試みも進んでいる。その1つとして有望視されている 分子ジャイロスコープは、外部骨格(固定子)によって保 護された回転子をもつ。近年、瀬高らは中央のフェニレン 回転子が頑強な3つのシラアルカン鎖で囲まれた結晶性分 子ジャイロスコープを合成した[1] (図1のF原子がHで置き 換わったもの)。結晶中でも回転子の周囲に広い空間を保持 図 1 分子ジャイロスコープ RotF (* 印 するため、回転障壁が小さい。温度を上げると回転子の高 の 4 原子で回転子の二面角を定義) 速回転のために複屈折性が急激に低下し、新たな光学材料 として期待されている。我々は、密度汎関数強束縛(DFTB) 法を用いて、周期境界条件の下、その構造と回転動力学に 関する理論計算を行い、障壁が1 kcal/mol以下で、室温でも ナノ秒以下の時間スケールで回転していると結論づけた[2]。 【フッ素導入体の構造·動力学およびテラヘルツ波制御】 将来的には高速な回転制御(スイッチング)のために電 磁パルスを利用することが考えられる。すでに、瀬高らは、 図2 回転子の二面角に対するポテンシ 図1の回転子の片側がフッ素で置換された双極子モーメン ャル曲線 トをもつ分子を合成し、結晶化することに成功した[3]。 DFTB計算によれば、図2に示した回転子の二面角に対するポテンシャル曲線からわかるように、こ の系はAとBの2つの安定構造を有し、それらの間の回転障壁は5.6 kcal/molと4.5 kcal/molであった。 動力学計算からは室温でも約3ナノ秒に1回の割合で高速で回転しているという結果が得られた。 我々は、すでに、テラヘルツ光を照射した際にどの程度のエネルギーを回転子が吸収し、そのエ ネルギーがどのように固定子に流れていくかなどをDFTB/MDで調べ始めている。自由エネルギーが 各化学種の物質量と化学ポテンシャルの積の和で表せることを真似れば[4]、全エネルギーを各原子 のエネルギーに分割できる。この原子分割エネルギー解析法を用いて、回転子や固定子の機能を評 価した。どのような部位を導入すれば新しい機能が発現するかなど、設計から機能評価まで理論が 果たす役割は、今後ますます大きくなるはずである。 [1] W. Setaka, S. Ohmizu, C. Kabuto, M. Kira, Chem. Lett. 36, 1076 (2007). [2] A. B. Marahatta, M. Kanno, K. Hoki, W. Setaka, S. Irle, and H. Kono, J. Phys. Chem. C 116, 24845 (2012). [3] W. Setaka, S. Ohmizu, and M. Kira, Chem. Lett. 39, 468 (2010). [4] S. Ohmura, H. Kono, T. Oyamada, T. Kato, K. Nakai and S. Koseki, J. Chem. Phys. 141,114105 (2014).
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