ちょっと待った! 男女共同参画社会基本法 - LEC東京リーガルマインド

特集
ちょっと待った!
男女共同参画社会基本法
∼科学的・生物学的見地から抜本的改正を∼
男女共同参画社会基本法が公布・施行されてから6年。
その施行後に起こった「男女共同参画推進に向けて」の数々の事象が、
物議をかもし出している。
「男女平等」、
憲法で謳われている「法の下に平等」
とは一体何を指すのか。
国家、
社会、
国民が求める真の「平等」のあり方を今一度考えるときに来ている。
馳浩氏
岩動孝一郎 氏
新井康允 氏
八木秀次 氏
橋本秀雄 氏
2005 June 法律文化 01
世界の男女共同参画の取り組み
いったが、男女共同参画推進についても、世界的一連の動きを受
けて積極的に国際的な活動に参加したり、
会議での議論や採択事
1945年に国際連合(以下、
国連)が組織され、
翌年には国連内に
項に対応したかたちにしたりするなど、
男女共同参画を推進するた
「婦人地位委員会」が設置された(資料1参照)。1975年に女性の
めの国内本部機構の構築・充実、
さまざまな法律の整備や制度の
地位向上を目指して「第1回世界女性会議」が開催されて以来、
こ
充実などを進めていった。特に1975年の「国際婦人年」を契機とし
れまで国連による世界女性会議は4回開催されており、
そのほかに
て、女性の地位向上のための国内本部機構として婦人問題企画
も、採択事項や宣言事項の検討などさまざまな活動が行われてい
推進本部を設置するなど、
男女共同参画に向けて女性の地位向上
る。
また、
ILO(国際労働機関)やUNESCO(国連教育科学文化機
の流れは大きく加速し始めた。
関)
などの国連機関およびOECD(経済協力開発機構)やEU(欧
その後、男女雇用機会均等法の成立、女子差別撤廃条約批准な
州連合)
などの国際機関でも、
男女共同参画を推進し、
各国の男女
どを経て、1999年6月に男女共同参画社会基本法(以下、基本法/
共同参画(KEYWORDS参照)の取り組みに大きな影響を与えた。
右頁・資料2参照)が公布・施行され、
わが国における男女共同参画
社会の形成に向けた目的、理念等が位置付けられた。翌年12月に
戦後の日本における男女共同参画の動き
基本法に基づく
「男女共同参画基本計画」
(4頁・資料3参照)が閣議
決定されて以降は、
現在に至るまで男女共同参画社会の形成のため
戦後、
わが国ではあらゆる分野でグローバル化が急速に進んで
の体制(4頁・資料4参照)が整えられ、
各施策が推進されている。
KEYWORDS
男女共同参画
別(ジェンダー)
」
と規定し、
これに敏感な視点などのかたちで使用されている。
女性も男性も、
性別にとらわれることなく、
個性と能力を最大限発揮できること。
※男女共同参画社会
男女が、
社会の対等な構成員として、
自らの意思によって社会のあらゆる分野
における活動に参画する機会が確保され、
もって男女が均等に政治的、経済
的、社会的および文化的利益を享受することができ、
かつ、共に責任を担うべ
き社会。
ジェンダー
1995年の第4回世界女性会議で採択された北京宣言および行動綱領におい
て、
生物学的な性別を示す「セックス」に対して、
社会的、
文化的に形成された、
地域や時代によって変化する性差、
性別を示す概念として使用されている。男
女共同参画社会基本法においては「ジェンダー」
という用語は使用されていな
いが、男女共同参画基本計画においては、
「社会的・文化的に形成された性
資料 1
男女平等・男女共同参画に関する国内外の取り組み
世界の動き
日本の動き
男女平等・男女共同参画推進に関する動き
国際連合憲章採択
1945
国際連合誕生
1946
国連に「婦人の地位委員会」設置
1950
婦人参政初の総選挙(女性議員39人誕生)
町村制・市制等改正(地方議会における女性参政権実現)
日本国憲法公布(男女平等の明文化)
〔昭和22年施行〕
労働省設置・婦人少年局発足
教育基本法公布・施行(教育の機会均等、男女共学)
労働基準法公布・施行(男女同一労働同一賃金、産前産後休暇などを制定)
刑法改正、施行(姦通罪廃止)
世界人権宣言採択
国連総会「人身売買及び他人の売春からの
搾取の禁止に関する条約」採択
主な法律の動き
衆議院議員選挙法改正、公布(初の女性参政権実現)
女子教育刷新要綱発表(大学・専門学校の男女共学)
1947
1948
※ジェンダーフリー
「社会的、
文化的に形成された性差(ジェンダー)
」を解消するという意味で、
言
い換えると、
「生物学的な性差以外は、男女の区別を認めない」ということで使
用されている。男女の社会的格差は、生物学的な違いというより、
ジェンダーに
よる偏見により生まれてきたとして、
これを撤廃しようという考え。画一的に男女
の違いをなくして人間の中性化を目指すという意味でも使用されることもある。
使用する人によりその意味や主張する内容はさまざま。北京宣言および行動
綱領や最近の国連婦人の地位委員会の年次会合の報告書などでは使われ
ていない。また、男女共同参画社会基本法・基本計画等においても使用され
ておらず、内閣府として定義を示すことはされていないが、地方公共団体にお
いて、性別による差別をなくすなど、基本法に照らして、定義している例も見ら
れる。
民法改正、公布・施行(家制度の廃止)
優生保護法公布・施行
第1回婦人週間開催
ILO総会「同一価値の労働についての男女労
1951 働者に対する同一報酬に関する条約(100号)
」
採択
1952
ILO総会「母性の保護に関する条約(103号)
」
採択
1953 国連総会「婦人の参政権に関する条約」採択
産休補助教員設置法施行
売春防止法公布〔昭和52年一部施行、昭和33年全面施行〕
1956
1959
1960
国民年金法公布・施行(母子・寡婦年金、母子福祉年金制度等創設)
ユネスコ総会「教育における差別防止に関す
る条約」採択
1961
所得税法改正・公布(配偶者控除制度創設)
国連総会「婚姻の同意、婚姻最低年齢及び婚
1962 姻の登録に関する条約」採択
ILO総会「労働時間の短縮に関する勧告」
1965
ILO総会「家庭責任をもつ婦人の雇用に関す
る勧告」採択
1967
国連総会「婦人に対する差別撤廃宣言」採択
ILO100号条約(男女同一労働同一賃金)批准
1972
1975
国連総会1975年を「国際婦人年※1」に決定
国際婦人年
第1回世界女性会議・国際婦人年世界会議
(メキシコシティ)
「世界行動計画」採択
02 法律文化 2005 June
日本初の女性大臣誕生(池田内閣・中山マサ厚生大臣)
学習指導要領改訂(中学に技術・家庭科新設、男女別修)
総理府に「婦人関係の諸問題に関する懇談会」設置
勤労婦人福祉法公布・施行(後の男女雇用機会均等法)
女子教職員・看護婦・保母などの育児休業に関する法律制定
衆参両院「国際婦人年にあたり、婦人の社会的地位の向上をはかる決議」採択
雇用保険法施行(妊娠・出産等による失業給付期間延長)
総理府に婦人問題企画推進本部設置
〔昭和51年施行〕
婦人問題企画推進会議開催 育児休業法公布(国公立の特定職対象)
41の女性団体が「国際婦人年日本大会の決議を実現するための連絡会」を結成
1976
国際婦人の十年(∼1985年)
総理府婦人問題推進本部「国内行動計画」策定
「婦人の政策決定参加を促進する特別活動推進要綱」策定
1977
1978
1979
行政機関における女性の登用等について婦人問題企画推進本部決定、事務次官 民法の一部を改正する法律施行(離婚復氏制度)
等会議で申し合せ
第1回婦人白書「婦人の現状と施策」発表
国連総会「女子差別撤廃条約(※2)」採択
婦人問題推進地域会議開催開始
国際人権規約A規約(経済的、社会的および文化的権利の享有についての男女
同等の権利の確保)批准
民法および家事審判法改正(配偶者の法廷相続分を1/3から1/2に引き上げ、寄与
分制度新設)
〔昭和56年施行〕
公営住宅法改正・施行(単身者も入居可能になる)
第2回世界女性会議・
「国連婦人の十年(※3)」
中間年世界会議(コペンハーゲン)
1980 「国連婦人の十年後半期行動プログラム」採択
同会議中に女子差別撤廃条約署名式(日本を
含む57カ国が署名)
ILO総会「第156号条約(家族的責任を有す
1981 る労働者の機会及び待遇の均等に関する条
約)
」採択
1982
婦人問題企画推進本部「国内行動計画後期重点目標」策定(女子差別撤廃条約の
批准に向けての国内法制等諸条件の整備が重点課題に。)
母子および寡婦福祉法施行(寡婦も母子家庭に準じた取り扱いになる)
国連総会「国際平和と協力促進への婦人の
参加に関する宣言」採択
「国連婦人の十年」の成果を検討し評価する
ための世界会議のための国連アジア太平洋
1984 経済社会委員会(ESCAP)地域政府間準備
会議(東京)
「家庭科教育に関する検討会議」が高等学校「家庭一般」を男女とも「選択必修」 国籍法および戸籍法改正(父母両系血統主義の採用、配偶者の帰化条件の男女
同一化)
〔昭和60年施行〕
とすることが適当であること等を報告
アジア・太平洋地域婦人国際シンポジウム開催
第1回日本女性会議開催
労働省婦人局設置
ILO総会「第156号条約(家族的責任を有す 「家庭科教育に関する検討会議」が高等学校「家庭一般」を男女とも「選択必修」
る労働者の機会及び待遇の均等に関する条 とすることが適当であること等を報告
約)
」採択
アジア・太平洋地域婦人国際シンポジウム開催
1985
第3回世界女性会議・
「国連婦人の十年」ナ 第1回日本女性会議開催
イロビ世界会議
「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」採択
婦人問題企画推進本部拡充:構成を全省庁に拡大、任務も拡充
婦人問題企画推進有識者会議開催
1986
1987
1988
児童福祉法施行令改正(男性保育職員の途を開く)
IOC、
オリンピック憲章の男女差別条項削除
女子差別撤廃条約履行状況に関するわが国
の報告書審議(第1回)
国民年金法等の一部改正、施行(サラリーマンの妻にも年金権確立等)
児童手当法改正、施行(第2子以降に支給対象範囲拡大)
所得税法改正、施行(配偶者特別控除制度の創設)
教育課程審議会答申、高等学校の家庭科男女必修を提言
「西暦2000年に向けての新国内行動計画」策定
婦人問題企画推進本部の参与の任務の拡充
農水省「農村漁村婦人の日」設定
労働基準法改正、施行(週40時間労働制の明記)
1989
新学習指導要領告示(家庭科教育における男女同一の教育課程の実現)
国連婦人の地位委員会拡大会期
国連経済社会理事会「婦人の地位向上のた
1990
めのナイロビ将来戦略に関する第1回見直し
と評価に伴う勧告及び結論」採択
農水省内に婦人対策連絡会議設置
1991
国民年金法改正(すべての女性の年金権確立)
〔昭和61年施行〕
男女雇用機会均等法公布〔昭和61年施行〕
労働基準法改正(母性保護措置の拡充等)
〔昭和61年施行〕
国籍法および戸籍法の一部改正施行(父系血統主義から父母両系血統主義等)
女子差別撤廃条約批准
厚生省「生活扶助基準」について男女差を完全是正
生涯学習振興施策推進体制等整備法施行
「西暦2000年に向けての新国内行動計画」改定
育児休業法公布(男女とも取得可能になる)
〔平成4年施行〕
農水省「農村漁村女性に関する中長期ビジョン」策定
婦人問題担当大臣の設置
1992
婦人問題企画推進本部「男女共同参画型社会づくりに向けての推進体制の整備につ 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)公布・施行
世界人権会議(ウィーン)
女性の人権擁護を強調した「ウィーン宣言及 いて」決定 保険婦助産婦看護婦法改正(男性保健士の途を開く)
中学校の技術・家庭科を男女必修実施
1993 び行動計画」採択
国連総会「女性に対する暴力の撤廃に関す
る宣言」採択
ILO総会「パートタイム」に関する条約採択
国際人口・開発会議(カイロ)
(リプロダクティ
1994 ブ・ヘルス/ライツの概念を行動計画に明記)
女子差別撤廃条約履行状況に関するわが国
の報告書審議(第2、3回)
1995
国連人権委員会「女性に対する暴力をなくす
決議」採択
第4回世界女性会議(北京)
「北京宣言及び行動綱領(※4)」採択
ILO総会「家内労働に関する条約」採択
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
※1
婚姻制度等に関する民法改正要綱試案の公表 高校家庭科男女必修
女子学生の就職問題に関する閣僚会議開催 労働基準法等改正、施行(週40時間労働制)
総理府に男女共同参画室、男女共同参画審議会、男女共同参画推進本部設置(「男
女共同参画社会」の用語に変更、構成員を事務次官から閣僚に格上げ)
エンゼルプランおよび新ゴールドプラン策定
国際連合誕生
育児・介護休業法改正(男女共通の介護休業制度の法制化等)
〔平成11年より介
護休業制度義務化〕
ILO第156号条約(家族的責任を有する男女労働者の機会及び待遇の均等に関
する条約)批准
法制審議会「民法改正案要綱」答申(選択的夫婦別氏制、離婚破綻主義採用、非嫡
出子均等相続)改正論高まる
男女共同参画推進連携会議(えがりてネットワーク)発足
男女共同参画審議会「男女共同参画ビジョン」答申
「男女共同参画2000年プラン」策定
農業者年金基金法改正、施行(農業経営に携わる配偶者の年金加入権)
優生保護法を改正し、母体保護法として公布・施行
男女共同参画社会の実現を促進するための方策に関する基本的事項」諮問
総理府「男女共同参画の現状と施策」発表
男女雇用機会均等法改正(募集・採用・昇進等の差別禁止等)
〔平成11年全面施行〕
労働基準法改正(女性の時間外・休日労働等の規制解消等)
〔平成11年全面施行〕
育児・介護休業法改正、公布(育児・介護を行う一定範囲の男女労働者の深夜業の制
限の権利を創設)
〔平成11年施行〕
労働省が「婦人週間」を「女性週間」に改める
男女共同参画審議会が「男女共同参画基本法について」答申
労働基準法改正(男女共通の時間外労働の限度の制限)
〔平成11年施行〕
男女共同参画審議会が「女性に対する暴力のない社会を目指して」答申
男女共同参画社会基本法公布・施行
食料・農業・農村基本法成立・施行(
「女性の参画の促進」を規定)
国連特別総会「女性2000年会議」
(ニューヨーク) 男女共同参画審議会が「女性に対する暴力に関する基本的方策について」と「男
女共同参画基本計画に当たっての基本的な考え方」答申
「男女共同参画基本計画」閣議決定
ストーカー行為等の規制等に関する法律公布・施行
中央省庁等改革に伴い、内閣府に男女共同参画局を設置、男女共同参画審議会 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律公布・施行〔平成14年
全面施行〕
を男女共同参画会議に改正
育児休業法改正(対象となる子の年齢の引上げ等)
〔平成14年全面施行〕
「女性国家公務員の採用・登用等の促進について」男女共同参画推進本部決定
「女性に対する暴力をなくす運動について」男女共同参画推進本部決定
「仕事と子育ての両立支援策の方針について」閣議決定(男女共同参画会議専門調査会で検討)
男女共同参画週間設置
男女共同参画会議影響調査専門調査会「ライフスタイルの選択と税制・社会保障
制度・雇用システム」について報告
女子差別撤廃条約履行状況に関する我が国 「女性のチャレンジ支援策の推進について」男女共同参画推進本部決定
の報告書審議(第4、5回)
国際婦人年:1972年の第27回国連総会において女性の地位向上のため世界規模の行動を行うべき
ことが提唱され、1975年を国際婦人年とすることが決定された。また、1976年∼1985年までの10年間を
「国連婦人の十年」とした。
※2 女子差別撤廃条約:1979年12月、第34回国連総会において採択され、1981年9月に発効。2004年3
月26日現在の締約国数は177カ国。わが国は1980年7月に署名、1985年6月に批准。締約国は、条約
の実施状況について、条約を批准してから1年以内に第1次報告を、
その後は少なくとも4年ごとに報告
を提出することとなっている。
※3 国際婦人の10年:1975年の第30回国連総会において1976年∼1985年を「国連婦人の十年−平
等・発展・平和」とすることが宣言された。
「国連婦人の十年」の中間に当たる1980年には、
コペンハー
所得税法の一部改正により配偶者特別控除の一部を廃止〔平成16年施行〕
ゲンで「国連婦人の十年中間年世界会議」
(第2回女性会議)が開かれ、
「国連婦人の十年」の最終年
に当たる1985年には、ナイロビで「国連婦人の十年世界会議」
(第3回世界会議)が開かれ、
「女性の地
位向上のためのナイロビ将来戦略」が採択された。
※4 北京宣言及び行動綱領:第4回世界女性会議で採択された。行動綱領は12の重大問題領域に沿って
女性のエンパワーメントのためのアジェンダを記している。具体的には、
〈1〉女性と貧困、
〈2〉女性の教育
と訓練、
〈3〉女性と健康、
〈4〉女性に対する暴力、
〈5〉女性と武力闘争、
〈6〉女性と経済、
〈7〉権力及び
意思決定における女性、
〈8〉女性の地位向上のための制度的な仕組み、
〈9〉女性の人権、
〈10〉女性と
メディア、
〈11〉女性と環境、
〈12〉女児から構成されている。
参考:『男女共同参画白書平成16年度版』編集部作成
2005 June 法律文化 03
混乱する男女共同参画
ることは、
本来の男女共同参画の目的からも逸脱している。
現在では、
各自治体も男女共同参画推進条例を見直す動きに出ており、
「ジェン
基本法の施行を受けて、
各自治体では基本法に基づき男女共同
ダーフリー」
ということばも使用を禁止するところが出てきている。
参画推進条例が制定された。
しかし、行き過ぎた男女共同参画の
推進が、
生来からある「男らしさ」「
、女らしさ」の意識や男女それぞ
性差について一人ひとりの正しい理解が必要
れの特性、性差をも取り払おうとする、
あるいは否定、無視するよう
な現象を引き起こしている(右頁・資料5参照)。ジェンダー(2頁・
男女共同参画は、
起きている事象をみても、
慣習や文化も複雑に
KEYWORDS参照)のみならず、科学的・生物学的な性差までも
絡むため、
公的機関、
法律がその過程、
基礎・方針づくりでどこまで
「ジェンダー」
ととらえて取り除こうとする考え方は、
俗に「ジェンダー
具体的に踏み込むのか、
どのような役割を果たすべきなのかといっ
フリー」
と言われ、
極端、
行き過ぎ、
と問題視されるようになっている。
た問題がある。だからこそ、
われわれ一人ひとりが、
科学的・生物学
確かに男性は狩猟・戦・仕事と、
女性は家を守るなど、
長い年月にわ
的な性差を正しく理解し、
それを踏まえて、
各個人が職場や地域等
たって固定観念と化され、
女性が仕事の面で能力があっても発揮す
でその個性と能力を十分に発揮する機会を保障され、
それによって
る場を与えられないなどの不当な性差別はあった。戦後もしばらくは
社会経済も進展させる仕組みづくりを考える必要がある。平等のあ
雇用等において、男性と同等の能力を持っていても「女性」というだ
り方、
とらえ方が混乱の様相を呈しているが、
今一度、
「法の下に平
けで参加の機会すら与えられないといった不当な扱い、
すなわち、
「性
等」
(右頁・資料6参照)、
男女平等はどうあるべきなのか、
よりよい男
差別」はあり、
このようなものは是正されてしかるべきである。
しかし
女共同参画社会をつくるためになすべきことなど、良識も踏まえ整
ながら、科学的・生物学的にも証明される「性差」まで矯正しようとす
理し、
考え直す所に来ている。
資料 2
男女共同参画社会基本法の仕組み
資料3
男女共同参画基本計画の11の重点目標
男女共同参画基本計画では、11の重点目標を掲げ、平成22年度までを
見越した施策の基本的方向と、平成17年度末までに実施する具体的施
策の内容が示されている。
基本理念
[男女共同参画社会をつくっていくための5本の柱]
①男女の人権の尊重(第3条)
②社会における制度又は慣行についての配慮(第4条)
③政策等の立案および決定への共同参画(第5条)
④家庭生活における活動と他の活動の両立(第6条)
⑤国際的協調(第7条)
【11の重点目標】
1. 政策・方針決定過程への女性の参画の拡大
2. 男女共同参画の視点に立った社会制度・慣行の見直し、意識の改革
3. 雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保
4. 農山漁村における男女共同参画の確立
責務
5. 男女の職業生活と家庭・地域生活の両立の支援
[国、地方公共団体および国民の役割]
6. 高齢者等が安心して暮らせる条件の整備
7. 女性に対するあらゆる暴力の根絶
国
地方公共団体
国民
基本理念に基づいた基本画の策定、
積極的改善措置 ※を含む総合的な施
策の策定・実施の責務。
(第8条)
国の施策に準じた施策および地域の
特性に応じた施策を策定し、実施を展
開する責務。
(第9条)
男女共同参画社会の形成に寄与する
よう努める責務。
(第10条)
8. 生涯を通じた女性の健康支援
9. メディアにおける女性の人権の尊重
10. 男女共同参画社会を推進し多様な選択を可能にする教育・学習の
充実
11. 地球社会の「平等・開発・平和」への貢献
施策の基本となる事項
・調査研究(第18条)
・政府の男女共同参画基本計画策定の義務.(第13条) ・年次報告等(第12条)
・国際的協調のための処置(第19条)
・都道府県男女共同参画計画の策定の義務(第14条) ・施策の策定等に当たっての配慮(第15条)
・地方公共団体および民間の団体に
・市町村男女共同参画計画の策定の努力義務(第14条) ・国民の理解の促進(第16条)
対する支援(第20条)
・苦情の処理等(第17条)
・法制上または財政上の措置(第11条)
※都道府県でも、男女共同参画基本計画を参考に、計画を策定すること
が求められている。
また、市町村は、男女共同参画基本計画と都道府県
の計画を参考に、計画を策定することが期待されている
※男女共同参画基本計画本文は内閣府男女共同参画局ホームページ
参照(http://www.gender.go.jp/)
男女共同参画社会の形成
※積極的改善措置:男女間の参画機会の格差を改善するために、必要な範囲で、男女いずれか一方に対し、必要な機会を与えること。
参考:『時の動き』2001年11月号 内閣府男女共同参画局ホームページ
(http://www.gender.go.jp/)
資料 4
参考:内閣府男女共同参画ホームページ(http://www.gender.go.jp/)
男女共同参画社会の形成の推進に関する推進体制図
男女共同参画推進本部
男女共同参画会議
○施策の円滑かつ効果的な推進
本部長:内閣総理大臣
○基本的な方針・政策・重要事項等についての調査審議
○政府の施策の実施状況の監視
○政府の施策が及ぼす影響の調査
副本部長:内閣官房長官
議長:内閣官房長官
男女共同参画推進連携会議
(えがりてネットワーク)
議員:各省大臣等
学識経験者
本部員:全閣僚
連携
男女共同参画担当官
(本部構成省庁関係局長等)
男女共同参画担当官会議
専門調査会
事務局
女性団体、
メディア、
経済界、教育界、
地方公共団体、有識者等
事務局
内閣府男女共同参画局
総合調整・推進
国際機関等
地方公共団体
関係行政機関
※内閣官房長官は、併せて男女共同参画担当大臣に命ぜられている。
出所:内閣府男女共同参画局ホームページ(http://www.gender.go.jp/)
04 法律文化 2005 June
資料 5
行き過ぎた男女共同参画推進として問題視されている事象
[男女混合名簿]
(男女の区別なく、50音順に並べた名簿)
各地の学校で作成されている。
[男女同室宿泊]
・2003年、静岡県沼津市の市立小学校9校が5年生(一部4年生と合同)を対象にした
夏の校外宿泊学習(高原教室)で男女の児童を同室に宿泊させた。
・2003年、宮城県仙台市の市立小学校33校が実施した5年生の宿泊学習で男女の児
童を同室に宿泊させていたことが分かる。
・2003年、山形市の市立小学校36校のうち19校が、5年生を対象とした校外で行う宿
泊学習などの際に、男女の児童を同じ部屋に宿泊させた。19校のうち、17校は4年生
についても行っていた。
[男女同室着替え]
2004年1月、川崎市内の一部の県立高校で、生徒が体操着に着替える際、男女が同じ
教室内で一緒に着替えていたことが分かる。
資料 6
【高校の男子校・女子高の男女共学化】
・2000年から2001年にかけて群馬県では、学校教育改革推進計画策定委員会で16
回に及ぶ議論を重ね、共学化へ向けた具体的な方針を打ち出す。
・2001年3月、宮城県は県立高校将来構想をにまとめ上げ、男女共学化の推進を積極
的に打ち出した。
・1994年から2003年までの間に福島県は22校すべての学校の共学化を実施。
[その他]
・2002年4月、文部科学省が、所管する財団法人日本女子社会教育会に委嘱して作
成させた子育て支援のパンフレット『新子育て支援 未来を育てる基本のき』に、鯉
のぼりやひな祭りを否定的にとらえた表現が載る。
・2004年10月に福岡県太宰府市がつくった観光複合施設「大宰府館」のトイレ表示板
が、男女共同参画を推進する立場から「男性は黒や青、女性は赤」といった固定観念
をなくす目的で男女の各デザインの色を共に黒で統一され、間違う利用者が相次ぐ。
法の下の平等と国家との関係
日本国憲法第14条
【1】すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地に
より、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
【2】華族その他の貴族の制度は、
これを認めない。
【3】栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現
にこれを有し、又は将来これを受けるものの一代に限り、
その効力を有する。
実質的平等
本来的平等
事実上不平等
強者の人権制約
国家の差別的介入を排除
国家の介入を要求
弱者の人権保障(社会権)
自由権的
■ 近代立憲主義憲法における平等観は、自然権思想と結び付いて成立
→人間はみな平等であるとの前提がとられていた
→その手段として、① 強者の人権制約(経済的自由権)
② 弱者の人権を積極的に保障
=
形式的平等
1 近代の平等観=機会の平等(形式的平等)
国家が自ら差別的な取扱いをすることを排除(自由権的な平等)
。
2 現代の平等観=条件の平等(実質的平等)
国家は単に自ら差別してはならないのみならず、現実に存在する不平等状態を積極
的に除去する任務をもつ(社会権的な平等)
。
実質的平等
=
形式的平等
法の下の平等の位置付け
社会権的
■ 資本主義の発展により、社会には社会的・経済的不平等が存在する
→形式的平等の保障のみでは真の人間平等は実現しない
3 日本国憲法における平等観
①強者の人権を制約する規定(22Ⅰ、29Ⅱ等の社会国家的公共の福祉)
と、②弱者
の人権を積極的に保障する規定(25以下)を設け、条件の平等(実質的平等)の保
障をも志向している。
出所:『C-Book 憲法Ⅱ総論・人権』
(東京リーガルマインド・2002)
[ウェブサイト]
○内閣府男女共同参画局ホームページ
(http://www.gender.go.jp/)
○ジェンダー法学会ホームページ
(http://wwwsoc.nii.ac.jp/genderlaw/FrameSet.htm)
○大沢真理Home Page
(http://www.iss.u-tokyo.ac.jp/~osawa/)
○林道義のホームページ
(http://www007.upp.so-net.ne.jp/rindou/)
○新井康允『ここまでわかった! 女の脳・男の脳―性差をめぐる最新報告』
(講
談社・1994)
○林道義『フェミニズムの害毒』
(草思社・1999)
○国立婦人教育会館女性学ジェンダー研究会(著)
『女性学教育・学習ハンド
ブック―ジェンダー・フリーな社会をめざして』
(有斐閣・1999)
○橋本秀雄『性のグラデーション』
(青弓社・2000)
○ジョン コラピント
(著)
、
その他『ブレンダと呼ばれた少年―ジョンズ・ホプキ
ンス病院で何が起きたのか』
(無名舎・2000)
○上野千鶴子『ラディカルに語れば…―上野千鶴子対談集』
(平凡社・
2001)
○山下泰子、
その他『男女共同参画推進条例のつくり方』
(ぎょうせい・2001)
○アラン ピーズ(著)
、その他『話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・
女脳が「謎」を解く』(主婦の友社・2002)
○上野千鶴子『差異の政治学』
(岩波書店・2002)
○大沢真理『21世紀の女性政策と男女共同参画社会基本法』
(ぎょうせい・
2002)
○大沢真理『男女共同参画社会をつくる』
(日本放送出版協会・2002)
○橋本秀雄『性を再考する―性の多様性概論』
(青弓社・2003)
○『Jurist No.1237 特集・ジェンダーと法』
(有斐閣・2003)
○伊藤公雄「ジェンダー・フリーとは「性差否定」ではなく「性差別の否定」で
ある」
(
『日本の論点2005』/文芸春秋・2004)
○田中冨久子『脳の進化学―男女の脳はなぜ違うのか』
(中公新書・2004)
○橋本秀雄『男でも女でもない性・完全版―インターセックス(半陰陽)を生き
る』
(青弓社・2004)
○林道義「本来の男女共同参画から逸脱した「性差否定」は思想統制である」
(
『日本の論点2005』/文芸春秋・2004)
○坂東真理子『男女共同参画社会へ 』
(勁草書房・2004)
○八木秀次「嘘から始まったジェンダーフリー」
(
『正論』平成17年2月号/扶
桑社・2004)
○内閣府(編集)
『男女共同参画白書平成16年版』
(国立印刷局・2004)
○内閣府男女共同参画局(編集)
『逐条解説 男女共同参画社会基本法』
(ぎょうせい・2004)
○『C-Book 憲法Ⅰ総論・人権』
(東京リーガルマインド・2002)
○『Jurist No.1266 特集2・男女共同参画法の成果と課題』
(有斐閣・2004)
○『View Point緊急臨時特集号・教育問題シリーズⅡ・ジェンダーフリーに待
った!』
(世界日報出版部・2004)
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2005 June 法律文化 05