高校サークルだより121 - 北海道地区数学教育協議会

北海道地区数学教育協議会
2015.8.15発行
高校サークルだより123号
高校サークル事務局 http://www.ami-do.jp/highschool.html
(文責:成田收)
1
全道大会 (札幌清田小学校) が開かれました
7 月 28 日(火)29 日(水)の両日、札幌市立清田緑小学校で数教協全道数学教育研究大会が開か
れました。
高校関係では、大会記念講演の講師、数教協委員長の伊藤潤一さんによる、わくわく講座(高校)
「子どもと楽しむ幾何の授業」があり、含蓄の深い、つい微笑んでしまう話をたっぷり聞くことがで
きました。さらに、全体会で、記念講演を聞いた後、高校分科会が開かれ、氏家英夫「替え歌で覚え
る解の公式」、渡邊勝「『トマ・ピケティ21 世紀の資本』にみる数学教材」、真鍋和弘「幾何学入門」
「矛盾に関する論理学の『ある定理』について」、黒田正弘「課題研究で学んだ問題を、ゲームを通
して数学のすばらしさを知る」、澤尻知徳「位置ベクトル」、成田收「塩遊びで 2 次曲線」(授業ビデ
オ検討)、平岩恒逸「札幌開成中等教育学校の授業風景」などのレポートを検討しました。
2
全国大会 (みちのく仙台大会) に参加してきました
全国大会は 8 月 2 日(日)∼4 日(火)猛暑の仙台市で行われました。1 日目の講座「整数」(小
林俊道氏)、2 日目の分科会「数学アラカルト」、3 日目のサロン「多面体の元素と DNA」
(佐藤郁郎
氏)に参加してきました。
また、私は参加しませんでしたが、氏家さんが 2 日目の「数と式・2 次関数・整数・順列・組合せ」
に参加し、1 次の不定方程式の解法についての画期的な方法を知ることができました。
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高校サークル 9 月例会 案内
2015 年 9 月 5 日(土)
大通高校 2 F 会議室 札幌市中央区北 2 条西11丁目
13:00 受 付 13:30 ∼18:00 レポート検討
19:00 ∼ 交流会
申込み 9 月 4 日(金)までに
http://www.ami-do.jp/highschool.html へ連絡を下さい。
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4.1
全道大会内容紹介
わくわく講座(高校)伊藤潤一 「子どもと楽しむ幾何の授業」
たくさんの話題がありましたがここでは 1 つだけ紹介します。
ザビエルの竹ひごです。
竹ひご 3 本と輪ゴムがあれば三角形ができます。もう一本竹
ひごをたすと四角形もできます。6 本の竹ひごと輪ゴムで四面
体を作ることもできる便利なものです。
竹ひごで作った三角形と、プラスチックの小さな輪に輪ゴム
を 3 本つけたものを用意し、3 本の輪ゴムを三角形の頂点にかけ
ると、中央の輪の位置は重心を示します。輪ゴムを 4
本にして竹ひごの四角形の頂点に 1 つずつかけると輪
の位置は四角形の重心になります。さらに、竹ひごの
四面体の頂点にかけると四面体の重心を目で見ること
ができます。
3 本の輪ゴムを 1 つのプラスチックの輪に通し、3 本の輪ゴムにさらに 1 つずつ輪をつけます。こ
の 3 個の輪を竹ひごの三角形のそれぞれの辺にあたる竹ひごに通します。すると図のようになります
が。このとき、中央の輪の位置は何を示しているのでしょう。これが問題です。
この点は
△KBC : △KCA : △KAB = a2 : b2 : c2
になる点で、ルモアーヌ (Lemoine) 点ま
たは疑似重心と呼ばれる点だということ
です。
△KBC : △KCA : △KAB = a2 : b2 : c2 となることは、つぎのようにするとわかります。
上の図のように各点に名前をつけます。また、三角形の頂角をそれぞれ、α , β , γ とします。
−→ −→ −→ −
→
K は均衡点なので、KD + KE + KF = 0 となります。
−→ −→ −
→
ここで、KE + KG = 0 となる点、G を取ると、四角形 KDGF は平行四辺形になります。
四角形 AFKE は向かい合う 2 つの角が直角となっている四角形ですから、円に内接する四角形で
す。したがって、∠FKG = α であることがわかります。同様の議論で ∠DKG = γ となることなどか
したがって、△ABC
S
ら、図に示すような角度がわかります。
△KFG となりますから、この相似比を 1 : k とします。
すると、KD = ka , KE = kb , KF = kc となります。
したがって、
△KBC : △KCA : △KAB =
1 2 1 2 1 2
ka : kb : kc = a2 : b2 : c2
2
2
2
2
となることがわかります。
4.2
高校分科会報告 真鍋和弘(高校サークル)
はじめに
参加者は 12 名、全部で7本のレポートが報告されました。2日間にわたり伊藤潤一数教協委員長
も参加されるなど、活発な討論が続きました。冒頭に氏家英夫さんから学力テスト体制に触れて、
「学
力とは何か」を中心に基調報告がありました。「関心・意欲・態度は人格的なことがらであり、大事
なものだからこそ、学校や教師がそれを(数値で)評価してはいけない」「成果が計測可能で誰にで
もわかち伝えることができる組織された教育内容(のみを学力を測る対象とすべきである)」など鋭
い指摘がありました。(注:括弧内は筆者による)
4.2.1
氏家英夫「替え歌で覚える解の公式」
教室に替え歌が流れると、生徒たちがとてもフレンドリーになると氏家さんは
強調します。替え歌を氏家さんが歌う場面をビデオで観賞しました。今回は浦島
太郎の曲で歌う2次方程式の「解の公式の歌」と、アルプス1万尺の曲で歌う2
次式の「平方完成の歌」が紹介されました。公式を歌で覚えると、テストの結果
が格段に良くなるそうです。
4.3
渡邊勝「『トマ・ピケティ21 世紀の資本』にみる数学教材」
フランスのエコール・ノルマル(高等師範学校)出身の経済学者が書いたベス
トセラー『21世紀の資本』から数学教材を2つ紹介していただきました。
渡邊さんは、この本が数式をほとんど使わないで、統計資料によって資本蓄積の
歴史的展開を述べていることに興味をそそられたそうです。レポートには「叩き
台」としての授業プランも載っています。
1 つめは世界人口の増加の数学的取り扱いです。西暦0年の 2000 万人から、西暦 2000 年の 61 億
人までの人口増加の様子が渡邊さん作成のグラフからよく分かります。授業プランでは離散変化から
連続変化へと移行することで、対数関数や指数関数、それらの微分方程式までが扱われていて感心し
ました。
2つめは、ピケティ氏の「資本主義の第2法則」β= s/g について、漸化式と数列の収束に関する
ものです。ここでβはある国の資本/所得比率、s は貯蓄率、gは成長率を表します。この部分は筆者
の力ではうまく要約できませんが、資本主義の本質を理解するには、ある程度の数学的素養が必要な
ことが高校生や大学生にもわかるようにプランが構成されています。十分に時間をとって渡邊さんか
ら詳しいお話を聞きたいなと思いました。
3
4.3.1
真鍋和弘「幾何学入門」「矛盾に関する論理学の『ある定理』について」
予定にはなかった論理学の「ある定理」について簡単に指摘しま
した。最近、安倍政権の「安保法制」が大きな話題になっています。
彼らは「フルスペック(全部)の集団的自衛権は違憲だが、限定的
な集団的自衛権は合憲」だと主張します。ここで「限定的な」とい
う用語がきちんと定義できなければ、上の命題は論理学的に矛盾し
ます。ここで「ある定理」とは「命題論理では矛盾命題から任意の
命題が導かれる」というものです。
法律も一つの論理体系ですから、上の論法を認めるなら「すべての法律は合憲でありかつ違憲であ
る」というおかしな結果となります。
幾何学入門は現在、時間講師で教えている札幌英藍高校での選択科目「数学に親しむ」(2単位)
の報告です。第 1 章は幾何学で、一刀切り、折り紙と無理数、折り紙と 2 次曲線、コンパスによる作
図、Haga 折り、ピックの定理、一筆書きなどを生徒と一緒に楽しみながら授業しました。今回は、
√
参加者に 1 : 2 のシルバー長方形の折り方、正3角形の折り方、封筒による正4面体の作成、正方
形の1辺を奇数等分する Haga 折りなどを体験してもらいました。詳しい内容は「高校サークルだよ
り 122」を参照してください。第2章は数論、第3章は解析学を予定しています。
4.3.2
黒田正弘「課題研究で学んだ問題を、ゲームを通して数学のすばらしさを知る」
3 年生の選択数学科目「実用数学」(2単位)の中でおこなった
クイズ・ゲームの実践報告です。クイズの問題は 20 問あり、いず
れもこれまで生徒が取り組んだ課題研究の中からの出題です。今回
とくに黒田さんが紹介してくれた課題研究は、サイコロを使った確
率ゲームとバーコードの秘密の2つです。「誰が 1 番か?」という
確率ゲームは、2 個のサイコロを振るとき目の和がいくつの時が確率が最大となるか?を考えさせる
ゲームです。実際の授業では、和が7と9の時がともに最大となったそうです。
バーコードの秘密では、読み取り違い防止のために用いられているチェクデジットのしくみを学びま
した。バーコードの下についている数の末尾の数がチェクデジットです。みんなで各商品についてい
るバーコードから、チェクデジットの数字が9になることを確かめました。
4.3.3
澤尻知徳「位置ベクトルについて」
澤尻さんがベクトルを教えるとき毎回説明しづらいと感じる項目
が「位置ベクトル」だということです。矢線ベクトルとしてベクト
ルを考えるとき、矢線の始点をどこに置くかということは、本来ベ
クトルの定義からは意味のないことです。しかし位置ベクトルでは、
ある固定された点 O を始点とするベクトルを考えることが必要と
なり、そこで生徒たちが混乱するのではないかということです。
位置ベクトルのところで直線や円を表すベクトル方程式が登場しますが、ベクトル方程式がなぜこ
4
れらの図形を表すのか、生徒はそのイメージがつかめないということも議論になりました。
ベクトル方程式の中のパラメータtを時間だと思えば、点の運動の軌跡として図形が認識できると
いう意見も出されました。この分野の研究は今まで実践報告が少なく、今回は口頭での報告だったの
で、いずれ誰かがレポートしてくれることを期待したいと思います。
4.3.4
成田收「塩遊びで 2 次曲線」(授業ビデオ検討)
生涯学習センター「ちえりあ」での市民、高校生対象の講座「ら
くらく数学塾」のとりくみが授業ビデオを交えて報告されました。
講座の参加者は一般が 7 名、札幌大通高校生が 13 名です。これまで
に、数で遊ぶ、一刀切り、紋切り、塩の幾何学、ピタゴラスの三角
形、ピタゴラス数などを学びました。今回の成田さんの報告は、塩
の幾何学の数理的な部分(特に楕円の取り扱い)についての検討で
す。
ビデオの中で成田さんが塩が楕円をつくる理由を説明していると、一般参加者の I さんから「楕円
の右端の点 B はどのような位置にあるのか?」という質問が出されました。成田さんがプロジェク
ターの図を示しながら詳細に説明を続けていると、I さんは「もっと簡単に、楕円の両端 A、B はそ
れぞれ小さい円と大きい円の中心にある」と主張しました。成田さんは最初その意味がよく分かりま
せんでしたが、講座の最後になってやっとその意味が了解できたということです。高校生より大人の
参加者の意識が高いことが感じられました。詳しい内容は「高校サークルだより 122」を参照してく
ださい。
4.3.5
平岩恒逸「札幌開成中等教育学校の授業風景」」
今年度新たに開校した公立の中高一貫校での数学の授業のようす
をビデオにより観賞しました。将来の海外留学を目的とする「国際
バカロレア(IB)」の資格認定を申請中とのことで人気も高く、道
内のマスコミからも注目されています。ビデオから、生徒たちが班
別に分かれて討論したり、意見を発表し合う様子がうかがわれまし
た。平岩さんによると、数学では数教協の実践が多く取り入れられ
ているということです。同校の英語による数学や理科の授業など、
今後の動向に注目したいと思います。
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全国大会内容紹介
5
5.1
講座(高校)「整数」 小林 俊道
発見のある授業を目指してー整数ー
縦横の長さがわかっている長方形の場合、例えば、縦 4cm、横 6cm の長方形であれば、これを正
方形で敷き詰めるためには、正方形の 1 辺は 2cm でよいことがわかります。
次に、縦、横の長さがわからない長方形の折り紙を渡して、これを正方形で敷き詰めるための折り
線をつけることを課題とします。
すると、図のように三角形に折って、正方形を作り、これを取り除いた長方形を想像し、そこから
また三角形を折り、最大の正方形を取り除くことを続け、最後に残った長方形が正方形になるまで、
この操作を続けると、正方形で敷き詰めることができます。
この場合は、縦横が 12:19 の長方形であることがわかります。
この操作は、次のユーク
リッドの互除法を実行して
いることと同じです。
19 = 12 × 1 + 7
12 = 7 × 1 + 5
7=5×1+2
5=2×2+1
2 = 1 × 2 したがって、
19 × 12 の長方形から 1 つ正方形を取り除き、残りの長方形が 12 × 7
12 × 7 の長方形から 1 つ正方形を取り除き、残りの長方形が 7 × 5
7 × 5 の長方形から 1 つ正方形を取り除き、残りの長方形が 5 × 2
5 × 2 の長方形から 2 つ正方形を取り除き、残りの長方形が 2 × 1
2 × 1 の長方形から 2 つ正方形を取り除き、長方形が残らない
という正方形を取り除く操作は、
7
12
5 7
2 5
1
19
=1+
,
=1+ ,
=1+ ,
= 2 + の計算と同じで、
12
12
7
7 5
5 2
2
連分数による表示、
19
1
1
7
1
1
1
1
= 1+
= 1+
= 1+ = 1+
= 1+
= 1+
= 1+
12
12
12
5
1
1
1
1
1+
1+
1+
1+
1+
7
7
7
2
1
1
1+
1+
1+
5
5
5
1
2+
2
2
とも同じであることがわかる、としています。
すなわち、長方形の正方形によるしきつめを考えることによって、発見的にユークリッドの互除法
のアルゴリズムと連分数表示の意味が理解でき、最大公約数の意味もしっかりとイメージ化されるこ
とを示しています。
学んだ生徒達も。すっきりわかったと感想を述べています。
また、この他にも、不定方程式、合同式など話題満載でした。
6
5.2
数学アラカルトレポート 竹内俊力
「数学的折り紙による教材開発ー『一刀切り』を題材として」
福井大学の大学院生である竹内さんが、福井大学附属中学校の 2 年生 39 名に行った一刀切りの授
業のビデオ紹介です。
フーディーニの星形 5 角形の一刀切りを「手品」として最初に見せ、
「どのようにしたらいいのか?」
という疑問を持たせ、その後、正三角形、星形、正方形、一般三角形、一般凸四角形の一刀切りに進
むという授業です。ビデオでは、生徒達が楽しそうに星形の一刀切りに挑戦している姿が映し出され
ていました。
5.3
数学アラカルトレポート 宇佐見直英
「ピタゴラスの三角形 自由自在」
一般の m : n (m, n; 整数) の直角三角形をもとに、三辺の長さが整数の直角三角形を作ることがで
きます。
例として、m : n = 2 : 1 の場合を図に示してあります。斜辺(点線部分)は
√
3 で整数ではありま
せんが、実線部分は 2 : 1 の整数になっています。
ここで、m : n の直角三角形を積み上げます。まず、m 列 m 段(この場合は 2 列 2 段)に積み上
げたものを作り、これを A とします。その隣に、m : n の直角三角形を 90◦ 回転して、n 列 n 段(こ
の場合は 1 列 1 段))積みます。これを B とします。A, B のセットを逆さにしたものを、上にのせ
ます。さらに、B を 2 倍したもの(2B )をぴったり貼り付けます。この 2B を折り返して直角の部
分 T が重なる点を R とすると、三角形 PQR の辺は、すべて m, n の整数倍から作られることがわか
ります。
三角形 PQR は辺の長さが整数になっている直角三角形です。(この場合は 3 : 4 : 5)
m : n の場合を計算してみると、三角形 PQR の辺の長さは m2 − n2 : 2mn : m2 + n2 になっている
ことがわかります。
というわけで、自由に 3 辺の長さが整数である直角三角形を作ることができます。また、できあ
がった直角三角形の角度は、もとの m : n の直角三角形の角度の 2 倍になっていますから、好みの角
の 3 辺の長さが整数の直角三角形を作ることができます。
これが、宇佐見さんの今年の成果です。
7
5.4
数学アラカルトレポート 藤崎巽
「線対称図形作成ゲーム 3ペントミノ+1ドミノ」
5 つの立方体を次のようにつなげた 3 種類のペントミノと 1 つのドミノを組み合わせて線対称な図
形を組むパズルの紹介です。
なかなか難しく、私には与えられた 25 分間で 1 つも見つけることができませんでした。
藤崎さんによると、すでに 45 種類の解答が見つかっており、さらに新種の解答を探索しているとい
うことです。会場に集まった 25 名の中で、この時間で見つけられた人は、3 人くらいだったようで
す。この記事を書いている最中に、1 つだけ見つけました。
5.5
数学アラカルトレポート 成田收
「塩遊びで 2 次曲線(授業ビデオ検討)」
授業ビデオで扱われているのは、札幌市生涯学習センター「ちえりあ」において、一般市民、高校
生対象の数学講座としておなわれた、「らくらく数楽塾」での「塩が教える幾何学ー楕円編ー」のよ
うすです。
円盤の中心からはずれた位置に小さな円の穴を空けておき、これに塩を振りかけ、もうこれ以上は塩
が乗らないところまで乗せると、美しい楕円が現れます。このことを、受講者に、穴の空いた円盤を
構成する 2 つの円を、乗りこえることができない壁と考え、大きな穴と小さな穴の間の空間にできた
部屋の中に、大きくふくらもうとする大きさ可変の円があり、この円は力を加えると、円形を崩すこ
となく小さくなることができるものとします。この円を、部屋の壁に押しつけ、一番狭い通路を通り
抜けさせるとき、この円の中心が作る軌跡が塩の作る楕円と同じであることを解説しています。
このときのキーワードは塩の山の図形を作る点は部屋を構成する二つの円から「等距離」にあること
です。『等距離=円』です。(円は乱暴ですが、円の中心から円の周囲までの距離=等距離です。)
このとき、授業ビデオでは、軌跡の右端の点 B の位置が問題となりました。これが、受講者の間
8
の議論で、円 F1 の右端の点 D と円 F2 の右端の点 T の中点であることが明らかにされていくようす
が再現されています。
したがって、この塩の山の図形を考える手段として、「ふくらもうとする大きさ可変の円」のモデ
ルは一定程度優れていることが解ります。
しかし、もしこの方法が本当に優れているとしたら、楕円の性質である、長軸と短軸について線対
称であることや、中心について点対称であることなどもこの方法で示すことができることが条件と
なるのではないかと思います。
この点に関して、今回は、長軸について線対称であること、F1 , F2 の中点に関して、長軸の両端
の点が対象であることは示すことができましたが、短軸について線対称であること、したがって、中
心について点対称であることについては明快な方法がないことが課題であることが議論されました。
5.6
数学アラカルトレポート 西谷優一
「FACEBOOK で数学」
西谷さんは、FACEBOOK を利用して「気の利いた数学の問題」を楽しむネットワークを作って
います。
考えついた解答を交流し合うばかりではなく、感想や、ちょっとしたつぶやきを含めて楽しい交流
の輪が広がっているようです。
今回は、そこで取りあげた「楽しい問題」を 11 題紹介してくれました。
ここでは、その中から、次の 3 題を紹介します。
問題4 図形 S と図形 T の面積をそれぞれ a, b, c, d で表してください。何か発見はありますか。
9
問題6 下の図で、左側にある楕円を、その接線 ℓ について対称移動したら、ちょうど x 軸に
接する形になりました。
角 α を求めて下さい。
問題8 図形 A は放物線です。これを点線で切り取って、移しかえて図形 B を作りました。
この図形 B を 1 本の曲線(直線部分を含んでもよい)で切り分けて、2 つの図形にします。
それを移しかえてもとの図形 A に修復して下さい。
いずれも味わい深い問題です。
5.7
数学サロン 佐藤郁郎
「多面体の元素と DNA」
前半と後半で中心となる大きな話題が 1 つずつ、前半は佐藤さんが関わって発見したもので、後半
は佐藤さん自身が発見したものだということです。
一つ目は、空間を埋め尽くす多面体についてです。この多面体は、下の図に見るように、立方体、
六角柱、菱形十二面体、長菱形十二面体、切頂八面体の 5 種類の平行多面体に限るということは、18
世紀に証明されていたということです。また、空間を埋め尽くす多面体はこの 5 種類以下には単純化
されないものと信じられていました。
10
ところが、2008 年になって、これらの平行多面体がたった 1 種類の多面体ペンタヘドロンによっ
て構成されていることが発見されました。木工の模型作りの名人中川宏さんの発見を契機にして、今
回のサロンの講師である佐藤郁郎さんや秋山仁さんなどがかかわり、最終的にすべての空間充填多面
体がペンタヘドロンで構成されることがつきとめられたということです。今回は、その数学的背景に
ついて教えていただきました。
ペンタドロン:ペンタドロンで組まれた立方体, 六角柱, 切頂八面体, 菱形十二面体, 長菱形十二面体
二つ目は、すべての準正多面体を映し出す遺伝子の発見です。
(次元が上がった多胞体についても)
遺伝子が ATGAAAGCAAGCGCTAATTAA のように、ATG がスタート、TGA, TAA,TAG などが
ストップをあらわし、3 つずつでタンパク質合成の種類を表すように、佐藤さんは多面体に対して、
(0,1,0) のような遺伝子操作を加えていくことによって多面体を構成します。最初の 0 はスタートと、
頂点の周りの切り取りを意味し、2 つめの 1 が辺を含む長方形の切り口で切り取ることを意味し、3
つめはストップを意味するということをあらわします。0 か 1 かは、真ん中で切る (0) か、真ん中よ
り浅く切る (1) かを表すということです。また、これから、切り出そうとする材料となる多面体を
{3,3} のように表し、これは、1 つの頂点に 3 角形が 3 つ集まっている正四面体を表すことにします。
すると、{3,3}(0,1,0) は正四面体を、はじめに頂点の周りに辺の中心を通る深さで切り、その後、
辺を含み真ん中より浅い深さで切りますから、最初の操作で、正八面体になることまでは想像できま
すが、次の操作が何を生むかは、私には想像できません。しかし、このように、遺伝子と同じような
操作をすることによって生まれる準正多面体については、その面の数、辺の数、頂点の数を帰納的に
計算することができるということです。もうじき、佐藤さんの論文が受理されて、そのコピーを読む
ことができるようになるそうです。そのときが楽しみです。
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