StarMAP5 による 1825N1 彗星の検証 和久田俊一 1月の例会で天体位置推算・描画アプリ「StarMAP5」作成について報告しましたが、 その後の経過を報告します。 このたび、 摂動計算の組み込みが完了したので、文政八年の彗星出現記録を検証しました。 昨年末の ML6622 以来2ヶ月余りを要しましたが、信頼できる結果が得られるようになり ました。 文 政 八 年 九 月 二 日 夜 (1825.10.13 20 時 30 分 JST)、 彗星は南東(辰巳)の低空、高度 10 度に在り、夜半 23 時 JST に はほぼ南、高度 22°に達し、尾は 天頂よりやや東方向に 5~6 度 の長さに伸びていたと推測しま す。彗星は 23h30m JST に南中 し、その時尾はほぼ天頂に向き ま す 。( 尾 の 長 さ は 、 実 長 を 0.2AU と仮定すると約 7°になる が、ラブジョイ彗星に当てはめ るとやや長過ぎるようで、今回 0.15AU として推算すると 5.4°となる。実際には個々の彗星毎、太陽との距離により予測で きない変化をするので、正確に計算できる「位置」に比べるとあくまでも目安です) 彗星の軌道要素は JPL Small-Body Database Browser から引用しました。尾は、太陽 の反対方向 0.15AU に 0.005AU 間隔で分布した 30 個の天体として位置計算したものをプ ロットして表現しています。ダストテイルは太陽の反対方向ではありませんが、1/17 のラ ブジョイ彗星画像との比較から、違いは数度以内(実測 1°20′)であることが確かめられたの で、歴史記録の検証には問題な いと思います。 左図で南天の描画は 1825 年 10 月 13 日 14 時 TT における森 町の状況です。また、次ページ の全天図は同時刻の浜松・雄踏 のもので、位置計算アプリ SOLEX との比較検証のために 載せました。南天図は方位・高 度表示ですが、全天図は赤経・ 赤緯表示です。赤経・赤緯は日 周光行差を含む測心視位置で、 方位・高度は大気差を補正して おりません。彗星の赤経赤緯ラベルが青色になっているのは、位置推算が摂動を加算して実 行されていることを示します。 (浜松・雄踏)彗星は表示時刻の前後 365 日の軌跡を青色の 点で、10 日毎の位置が数字で示してあります。負数は表示の時刻に対して過去を表します。 なお、オレンジの点線は黄道です。 星図左下の数字は月の位相情報で、Phase:位相、D:太陽からの離角、χ:月の明縁方向角、 q:極頂対角、V:明縁の天頂方向角です。 SOLEX との差異は次のとおりです。R.A/DC (StarMAP5 - SOLEX) 太陽:0.001sec/-0.02″ 水星:0.002/-0.01 金星:0.001/0.01 火星:0.0/0.02 木星:0.012/-0.05 土星:0.005/-0.04 天王星:0.058/-0.04 海王星:-0.125/0.1 月:0.095/-0.24 C/1825 N1:-0.003/0.10 1 月例会の進捗状況報告での不具合 ①月の位相描画 ②彗星の光行差補正 ③ 恒星の固有運動補正 ④恒星の日周光行 差補正は解決しました。現在、推算可能 期間は JPL DE431 暦と同じ-13,200~ +17,191 に 対 応 し て い ま す 。( 但 し IAU2006 歳差章動理論は数百年が適用 範囲なので、それ以外の期間では精度を 落とした計算式による)恒星は、改訂ヒ ッパルコスカタログから 5.2 等級より明 るい 2,004 星を抽出し て描画しています。 見てくれは貧弱です が、市販のアプリには ない、自作の持ち味を 出したつもりです。 ≪つぶやき≫ ハードルは高かった が、無学な自分でも天 体暦に近いレベルの推 算ができるようになっ た。それは、インター ネットの開示情報が活 用できたからで、特に IAU SOFA、パリ天文 台(IMCCE)のウェブサイトが有益であった。関係国の納税者に感謝しつつ勉強させて頂い た。 参考資料 IAU SOFA Board: SOFA(Standards of Fundamental Astronomy) software collection 富山商船高等専門学校: 「電子航海暦について」およびプログラムソースコード 海上保安庁: 「平成 11 年 天体位置表」 Aldo Vitagliano: SOLEX 11.0L (フリーソフトウェア)
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