ASEAN の域外戦略と東アジアの多層的地域統合 大庭三枝 東京理科大学 現在東アジアは、 「中国の台頭」と称される中国のプレゼンスの増大と、アメリカのこの地域 へのコミットメントの実質的な後退という長期的趨勢が明らかになってきている。そうした中、 日本は日米同盟に加え、日豪、日米韓などとの安全保障協力を強化する動きとともに、日本の 安全保障分野における役割分担に関する積極的姿勢を明確にしつつある。すなわち、東アジア においてパワー・バランスの変化に伴う地域秩序の変容が見られる。 このような東アジア地域秩序の変容の中で、様々な側面における地域統合も進みつつあるこ とも見逃すことは出来ない。東アジア地域統合プロセスにおいては、上記の日米中という大国 と共に、ASEAN/ASEAN 諸国の動向が重要な鍵を握っている。ASEAN 諸国は、東アジア地 域秩序の変容に各国個別に対応しつつも、ASEAN として共同体形成の動きを進めている。さら に、ASEAN は、EAS、ASEAN+3、ARF、ASEAN などの広域地域制度において中核的位置を 占め、東アジア地域統合プロセスにおける「接着剤」として機能してきた。また、東アジア域 内経済の欧米市場への依存度は、その水準は低くはないものの、以前よりは低下し、域内の経 済的結合度の高まりが見られる。また、TPP、RCEP、ASEAN 経済共同体に代表される広域経 済圏形成へ向けた試みが、相互に関連しながらも進められている。ASEAN/ASEAN 諸国の思 惑と動向は、広域経済圏形成に関しても、そのあり方を決定づける要因となっている。 こうした中で、ASEAN/ASEAN 諸国は、アメリカ、中国、日本などの主要な域外国に対し て、どの域外国とも関係強化を進めるというバランス外交を展開してきた。そのバランス外交 は、特に2000年代に、政治・安全保障から経済、開発協力に至るまでの様々なパートナー シップ関係の構築を通じて進められた。TAC の域外国の加盟や ASEAN+1の FTA はその一部 に位置づけられる。こうした ASEAN のバランス外交は、東アジアの制度的な地域統合を 「ASEAN の中心性」を軸にして展開させるのに大きく寄与したのである。 本報告は、このような ASEAN のバランス外交とそれによって大きく規定されてきた東アジ アの地域統合の展開について改めて整理する。その上で、現在、東アジアにおけるパワー・バ ランスが大きく変化し、中国の南シナ海における活動の活発化により域内の緊張の度合いがま す2010年代に入ってから、ASEAN/ASEAN 諸国のバランス外交がどのように変容しつつ あるのか、また、東アジア地域統合における ASEAN/ASEAN 諸国における位置づけはどのよ うに変化しているのか、について考察を加える。「ASEAN の中心性」の前提となっている 「ASEAN の一体性」に揺らぎはみられるが、ASEAN 諸国はそれぞれの外交的立場の安定を追 求しつつ、ASEAN としてのバランス外交の維持に当面務めるのではないかとみられる。
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