vol.32

vol.
2015 年
監 修/東海大学医学部専門診療学系皮膚科学
責任編集/高木皮膚科診療所 編 集/東海大学医学部専門診療学系皮膚科学
三重大学大学院医学系研究科皮膚科学
福岡大学医学部皮膚科学教室 教 授
院 長
准教授
准教授
教 授
小澤
高橋
馬渕
山中
今福
明
英俊
智生
恵一
信一
32
先生
先生
先生
先生
先生
Promising Leader's Research in Psoriasis
尋常性乾癬における
CD146/MCAM 陽性Th17細胞の免疫病理学的解析
昭和大学医学部皮膚科学講座 小林 香映 先生
Special Information for Calcipotriol
尋常性乾癬治療における外用療法:
系統的レビューおよびネットワーク・メタ解析
Topical therapies for the treatment of plaque psoriasis: systematic review and network meta-analyses.
Samarasekera EJ, et al. : Br J Dermatol. 2013 ; 168(5): 954-967.
高木皮膚科診療所 院長 高橋 英俊
先生
佐山 浩二 先生
Comments from Opinion Leader in Psoriasis
Academic Meetings on Psoriasis
愛媛大学大学院医学系研究科皮膚科学 教授 馬渕 智生 先生
東海大学医学部専門診療学系皮膚科学 准教授 Report
Information
第29回 日本乾癬学会学術大会
第114回 日本皮膚科学会総会
第31回 日本臨床皮膚科医会総会・臨床学術大会
第30回 日本乾癬学会学術大会
Promising Leader's Research in Psoriasis
尋常性乾癬における
CD146/MCAM 陽性Th17細胞の
免疫病理学的解析
小林 香映 先生
昭和大学医学部皮膚科学講座 研究の意義と位置づけ
研究により得られた成果
Th17細胞はIL-17を産生するhelper T細胞で、自己免疫疾
今回の検討では、乾癬患者 3 4 名の皮膚生検組織による各
患や炎症性疾患の病態形成に関与している。特に乾癬では、
種 免 疫 染 色(CD3、CD4、CD8、CCR6、CD1 4 6、IL-1 7、
抗IL-17製剤による著明な治療効果が確認され、IL-17の強
CD6 8、CD3 1)を行った。IL-1 7 陽性細胞数および CD1 4 6 陽
力な関与が示唆されている。動物実験において、Th17細胞が
性細胞数は重症度と相関を示し(それぞれr=0.398、r=0.424)
IL-17やIL-22を分泌することで、Stat3を介し異常な角化細胞
(図1)、IL-17陽性細胞数とCD146陽性細胞数にも相関を認
の増殖を導き、乾癬の特異的な病態を形成すると考えられてい
めた(r=0.610)
(図2)。一方で、CD68陽性細胞数および毛細
るが、ヒトでの病態に関しては不明な点が多い。ヒトTh17細
血管数と重症度の相関は明らかではなかった。
胞では特異的マーカーとしてほぼ全ての細胞にCCR6が発現し
以上の結果より、Th17細胞はIL-17陽性、CD146陽性が多い
ている。一方、その他のマーカーとして知られているCD161
傾向にあることが示唆された。そして、末梢血フローサイトメト
とCD146(MCAM)は一部の細胞が発現している 1)。
リーの解析と今回の皮膚組織内の解析で同様の結果が得られた。
また、乾癬患者の末梢血 effector memory CD4 陽性 T 細胞分
乾癬の病態生理として、末梢血中の活性化型のCD146陽性
画においてCCR6とCD1 4 6 を共発現している CD4 陽性T細胞
Th17細胞が乾癬病変部に移行し、病状を悪化させている可能
がIL-1 7 産生能を最も有し、乾癬の重症度と相関性があること
性が考えられる。臨床的には、活性化型の CD1 4 6 陽性 Th1 7
を見出している 2)。
細胞を標的とした治療が Th1 7 関連疾患においてやはり有効
そこで、本研究では乾癬患者の皮膚生検組織を用いて、乾癬の
であるという結論により近づいた結果となった。
重症度とTh17細胞との関連性を解析し、さらに重症度とTh17細胞
誘導性樹状細胞や、毛細血管の増生との関連性も併せて検討した。
ゴールまでに残された課題
乾癬患者皮膚組織内のTh17細胞はIL-17陽性、CD146陽性
が多い傾向にあることが示唆されたが、今後は、同一患者の末
乾癬の重症度と組織中のIL-17陽性細胞および
CD146陽性細胞の相関
図1
(%)
18
梢血でも同様な結果を得ることができるかを検討することで、
治療反応性や治療のタイミングにおいて、臨床的な意義が得ら
れると考えられる。
乾癬の重症度とIL-17陽性細胞の相関
また、蛍光免疫染色を用いて各種抗体の重層染色を行うこと
IL-17陽性細胞の割合
16
14
で、同一細胞において共発現しているマーカーの同定やその頻
r = 0.398
p<0.05
12
10
度をより正確に検討できると考えており、今後の課題としたい。
1)Kamiyama T, et al. : J Dermatol. 2012 ; 39(10): 838-842.
2)Iwamoto S, et al. : Proceedings of the Japanese Society for Immunology
2014 ; 43 : 182.
8
6
4
2
0
CD146陽性細胞の割合
(%)
30
5
10
15
PASIスコア
20
25
30
(%)
18
乾癬の重症度とCD146陽性細胞の相関
16
25
r = 0.424
20
p<0.05
15
10
14
12
10
r = 0.610
8
p<0.05
6
4
2
5
0
図 2 組織中のIL-17陽性細胞とCD146陽性細胞の相関
IL-17陽性細胞の割合
0
0
0
5
10
15
PASIスコア
20
25
30
t-test
0
5
10
15
20
CD146陽性細胞の割合
25
30(%)
t-test
Special Information for Calcipotriol
尋常性乾癬治療における外用療法:
系統的レビューおよびネットワーク・メタ解析
Topical therapies for the treatment of plaque psoriasis: systematic review and network meta-analyses.
Samarasekera EJ, et al. : Br J Dermatol. 2013 ; 168(5): 954-967.
高木皮膚科診療所 院長 乾癬は慢性炎症性皮膚疾患で、一般的に生命を脅かすことは
ないものの、身体的、精神的および社会的な健康状態に深刻な影
響を及ぼす。近年、生物学的製剤の登場により重症患者の治療
はめざましく進歩しているが、乾癬治療の基礎(基本)は、外用療
法である。本論文は、慢性尋常性乾癬における外用療法に関す
るエビデンス(文献)を要約し、有効性、忍容性および安全性を比
較し、費用対効果モデリングを提供することを目的としている。
英国で認可された外用療法の無作為化試験データを抽出し
(1)体幹・四肢、
(2)頭皮について層別化し系統的レビューお
よびメタ解析を行った。主要評価項目は、
「病変消失」または「ほ
ぼ病変消失」状態の達成度で、評価に含められた治療薬は、ビタ
ミンDおよびビタミンD誘導体(以下、VD誘導体)
、potentまた
はvery potentコルチコステロイド(以下、Stまたはステロイド)
、
TCF(VD誘導体+potent Stの合剤)
、
またはTCA(am/pm)
(TCF
の有効成分を別々に適用;一方を朝に、一方を夕方に適用)
、ター
ル、ジスラノール※およびレチノイド※であった。解析は、多群間、
ランダム効果ロジスティック回帰モデルを用いて実施し、パラメ
ータはMarkov chain Monte Carlo Simulationにより推定した。
体幹・四肢の乾癬48件、頭皮の乾癬17件が解析に組み入れ
られ(合計患者数22,028例)、乾癬重症度は中等度以上が大半
であった。(1)体幹・四肢(2)頭皮の乾癬のメタ解析では、
potent St(単独使用またはVD誘導体との併用を含む)および
very potent Stが各治療薬における「病変消失」または「ほぼ病
変消失」状態達成の上位を占め、コールタールおよびレチノ
イドはプラセボと同等であった。体幹・四肢の乾癬において、
異なる治療薬間の治療反応オッズを比較したところ、TCFと
TCA(am/pm)間の比較を含め、ほとんどの治療薬間において
有意差は認められなかった。
表1
治療責任医師の評価に基づく
体幹・四肢の乾癬に対する各治療法の絶対奏効率
賦形剤
1日1回
適用(%)
タザロ ジスラ
テン ノール
potent
TCA
コール ビタミン
ステロ
TCF
(am/pm)
タール D誘導体
イド
9.70 27.30 42.80 12.20 43.50 47.90
1日2回
12.50
適用(%)
−
−
−
54.90 54.20 62.40 65.40
70.90 67.90
−
78.20
Samarasekera EJ, et al. : Br J Dermatol. 2013 ; 168(5): 954-967.より作表
Comments from Opinion Leader in Psoriasis
また、同じ治療薬間において適用回数別での比較をしたとこ
ろ、体幹・四肢の乾癬では、1日2回適用は1日1回適用より
効果的である傾向が認められたが、頭皮の乾癬では投与回数の
増加が有効性向上に繋がったという一貫した傾向は認められな
かった(表1、2)。
本メタ解析の結果によると、体幹・四肢の乾癬では、very
potent St(1日2回適用)が最も効果的な治療選択肢となるが、
very potent Stは多くの皮膚科医がその局所副作用(皮膚萎縮)
を懸念しており、投与中止となったSt投与患者のほとんどにお
いて皮膚萎縮が発現している事実に照らしても大多数の患者の
治療選択肢としては考慮できない。結論としては、potent St
とVD誘導体の併用(TCF製剤として1日1回適用または各々
の併用療法)が最も効果的な治療法であり、これらの適用方法
の間に有意差はないことが示されたとしている。
なお、Stの忍容性またはStによる皮膚萎縮についてはデータ
が限られており、有意差は認められなかった。本論文の結論と
して、Stは最大8週間継続的に使用した場合、および最大52週
間間欠的に使用した場合に乾癬において非常に有効であると
結ばれている。
しかし、本結果を、外用療法の治療の中軸である軽度~中等
度の乾癬患者に対して一般化して論じることはできない。ほと
んどの試験期間が短期で真のリスクを算出するには検出力が
不十分であり、また、ステロイド性萎縮の有無が主要転帰の
試験は少ない。さらに、皮疹寛解の達成に重点を置き、再発率、
再発時に治療を再開する最適な時期など、乾癬に関する重要転
帰に関するデータは非常に限られているとして、今後の検討課
題についても考察を行っている。
※本邦未承認 表2
very
potent
ステロ
イド
高橋 英俊 先生
治療責任医師の評価に基づく
頭皮の乾癬に対する各治療法の絶対奏効率
賦形剤
コール
タール
多剤療法
ビタミンD
誘導体
potent
ステロイド
TCF
very
potent
ステロイド
1日1回
適用(%)
18.09
18.92
34.59
56.75
64.24
69.26
1日2回
適用(%)
11.26
−
34.89
49.31
−
78.35
Samarasekera EJ, et al. : Br J Dermatol. 2013 ; 168(5): 954-967.より作表
佐山 浩二 先生
愛媛大学大学院医学系研究科皮膚科学 教授 近年さまざまな生物学的製剤を乾 癬 治療に用いることができるようになり、PASI clearも期待できるなど乾 癬 治療は激変している。
しかし外用療法は乾癬治療の基本であり、この論文では尋常性乾癬患者
(中等度以上)における外用療法に関するエビデンス
(文献)の要約を
通してその有効性、安全性を再度見直している
(メタ解析)。ビタミンD 誘導体
(以下、VD 誘導体)、ステロイド
(以下、St)、あるいはその合 剤
などの有 効 性が比 較されている。特筆すべきはやはりVD 誘導 体とpotent St の合 剤の効果であろう。合 剤 1 回 /日の外用は、VD 誘導
体とpotent St 外用薬を朝夕に塗り分けた場 合、および very potent St 1 回 /日外用と有効性に差がなかった。現実的に乾癬患者さん
が長期に 2 回 /日外用することは難しい場 合が多く、1 回 /日外用で同等の効果が得られるのであればそれにこしたことはない。安 全 性に
関しては有意な差はないものの、殆どの試験期間が短期であり、今後長期間の観察研究が必要である。また、医師と患者では評価に大き
な差があった点も心にとめておくべきである。
Academic Meetings on Psoriasis
東海大学医学部専門診療学系皮膚科学 准教授 馬渕
智生 先生
Report
第29回 日本乾癬学会学術大会
佐野 栄紀 先生(高知大学医学部皮膚科学講座 教授)
[会場]高知市文化プラザかるぽーと [日時]
2014年9月19日(金)
~ 20日(土)
[会長]
第29回日本乾癬学会学術大会が高知で開催された。高知では第21回学術大会が2006年に開催されており、前回の学会にも参加され
た先生も多いのではなかろうか。今大会は「乾癬、もっと深く -Psoriasis, more than skin deep-」というテーマのもと、特別講演、教育プ
ログラムに加え、
「乾癬本音トーク」と銘打たれたシンポジウムなども企画され、2 日間にわたって 4 会場をフルに使用しての内容の濃い学会
であった。
Information
第114回 日本皮膚科学会総会
[会場]パシフィコ横浜 神奈川県横浜市 [日時]2015年5月29日(金)~ 31日(日)
[URL]http://jda114.jp/
会 頭:和歌山県立医科大学皮膚科学教室 教授 古川 福実 先生
事務局長:和歌山県立医科大学皮膚科学教室 准教授 山本 有紀 先生
第31回 日本臨床皮膚科医会総会・臨床学術大会
[会場]オホーツク・文化交流センター(エコーセンター 2000)
網走セントラルホテル 北海道網走市
[日時]2015年6月20 日(土)~ 21日(日) [URL]http://conv-s.com/jocd31/
会 頭:網走皮膚科クリニック 院長 川嶋 利瑞 先生
事務局長:芝木皮ふ科医院 院長 芝木 晃彦 先生
第30回 日本乾癬学会学術大会
[会場]ウェスティンナゴヤキャッスル 愛知県名古屋市 [日時]2015年 9 月 4 日
(金)~ 5 日
(土)
[URL]http://www.cs-oto.com/jspr30/
会 長:名古屋市立大学大学院医学研究科加齢・環境皮膚科学 教授 森田 明理 先生
事務局長:名古屋市立大学大学院医学研究科加齢・環境皮膚科学 講師 新谷 洋一 先生
第4回 2014年度 日本乾癬学会「鳥居・帝國乾癬研究奨励賞」
日本乾癬学会の審査委員会による厳正な審査の結果、下記の先生方が受賞されました。
❶研究奨励部門
1)森実 真 先生(岡山大学皮膚科) 「乾癬病変部角化細胞で産生されるアミロイドA蛋白に関する解析」
❷国外学会発表助成部門
発表学会名;73rd Annual Meetings of Society for
1)鈴木 健晋 先生(浜松医科大学皮膚科) Investigative Dermatology
2)倉繁 祐太 先生(東海大学皮膚科) 発表学会名;3rd Eastern Asia Dermatology Congress
❸学会発表部門
基礎および臨床研究部門
1)大湖 健太郎 先生(高知大学皮膚科)「IL-36シグナルを介した表皮細胞-樹状細胞間クロストークによる
乾癬発症機序の解明」
2 )小林 香映 先生(昭和大学皮膚科)「尋常性乾癬におけるCD146/MCAM陽性Th17細胞の
免疫病理学的解析」
症例報告部門
1)三宅 智子 先生
(姫路聖マリア病院皮膚科)
「顆粒球吸着療法が奏功した疱疹状膿痂疹の
炎症性サイトカインと病態の検討」
2 )富永 千春 先生(兵庫医大皮膚科)「IL36RN 欠損症における高齢発症の膿胞性乾癬」
2015 年 2 月作成
GT9.5-1502P
DOV TC 039A