血液の不思議

赤血球の不思議
~赤血の変形と集合~
高分子物理化学研究室(担当:外山吉治)
血液はおよそ 55%の液体成分と 45%の細胞成分から成ります。液体成分は血漿と呼ばれ
塩やフィブリノゲンなどの蛋白質を含む水溶液です。一方、細胞成分は赤血球、白血球、
血小板から構成されています。その中で赤血球は最も多く、体積で血液の 40%から 45%と
細胞成分の大部分を占めています。その主な働きは、肺から得た酸素を各組織に供給し、
組織で生成された二酸化炭素を肺まで運ぶことです。赤血球は薄い膜でおおわれた真ん中
がくぼんだ直径約8μm の扁平な円板形をしています。血漿の浸透圧は 0.9%程度の食塩水
の浸透圧と等しく、赤血球をこれより低い濃度の食塩水に入れると、赤血球の中に水が入
り込んで球形になり、やがて膜が破れ中のヘモグロビンが溶け出す“溶血”を引き起こし
ます。また、赤血球は血漿中で“連銭”と呼ばれるコインを積み重ねたような集合体を形
成します。集合体の形成には血漿蛋白質の一つであるフィブリノゲンが深く関与し、その
濃度が集合体の形成に大きな影響を与えます。この一日体験化学教室では、浸透圧による
赤血球の変形と血漿中で形成される赤血球集合を顕微鏡で観察し、溶血の程度を分光光度
計で測定してみましょう。
試薬および試料
 馬血液
 蒸留水
 塩化ナトリウム(NaCl)
 リン酸二水素カリウム(KH2PO4)
 リン酸水素二カリウム(K2HPO4)
 食塩水(0.9% NaCl, 285 mOsm)
 リン酸緩衝液(KH2PO4, K2HPO4, pH=7.4)
 生理的リン酸緩衝液(PBS)( NaCl, KH2PO4, K2HPO4, 285 mOsm, pH=7.4)
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器具および装置
実験で用いる器具類




オートピペット
試験管
メスシリンダー
スライドグラス
 遠心チューブ
pH メーター
溶液の pH を測定するための電気化
学的計器。
pH 目盛の校正は 2 種の pH
既知の緩衝溶液(pH 4.01 および 6.86)
によって行なう.
顕微鏡
 プレパラートを顕微鏡のステージにセットする。
 10倍の対物レンズを用いてピントを合わせる。
 続いて 40 倍の対物レンズに切り替えて微調整つ
まみでピントを調整する。
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分光光度計
色々な波長の光が試料を透過する強度を測定することが出来る装置
1. 赤血球への浸透圧の影響
赤血球は生体内と等しい浸透圧の溶液(等張溶液)中では、中心が窪んだ円盤形をして
いますが、それより低い浸透圧の溶液(低張溶液)中では水が赤血球内に流入し球形にな
ります。さらに、浸透圧を下げると赤血球はやがて破裂(溶血)します。浸透圧の異なる
溶液中に赤血球を懸濁させ、溶血の程度を分光光度計を用いて測定します。
①
②
③
④
⑤
⑥
等張リン酸緩衝液の調製:2倍濃度のリン酸緩衝液 50ml と 2 倍濃度の食塩水
50ml を混合する。
低張リン酸緩衝液の調製:2倍濃度のリン酸緩衝液 50ml と 1 倍濃度の食塩水
50ml を混合する。
緩衝溶液の pH 測定:pH メータの校正し、調製した 2 種類の緩衝溶液をバイア
ル瓶に採り pH を測定する。
蒸留水、低張及び等張リン酸緩衝液のそれぞれ 10ml に牛血液を 100μl 加えて転
倒混和して、10 分間放置する
再び転倒混和して 2000rpm で 10 分間遠心分離を行い、上澄みを採取する。
上澄み 4ml を分光高度計用セルに入れ波長 400nm から 800nm までの吸収スペ
クトルを測定する。
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2. 集合体の観察
①
顕微鏡観察用試料の調製:
牛血漿 500μl に牛血液を 50μl 加える。
馬血漿 500μl に馬血液を 50μl 加える。
等張リン酸緩衝液 500μl に馬血液を 50μl 加える。
低張リン酸緩衝液 500μl に馬血液を 50μl 加える。
②
プレパラートの作製:
ホールスライドガラスに試料を 50μl 滴下して、カバーガラスをかける。
血液は生命の維持になくてはならないものです。体内に酸素や栄養素を運ぶ役割を担う
ため、スムーズに血管内を流れる必要があります。一方ケガなどにより出血した場合は、
血液の流失を防ぐため、速やかに凝固し傷口をふさぐ必要があります。この様に血液は流
動と凝固を絶妙のバランスで保っています。血液には、まだまだナゾにつつまれた部分が
沢山あります。今日、実際に血液に触れていかがでしたか?これまで以上に血液に興味を
持っていただけたら幸いです。
MEMO
実験の分類:生物物理
実験の種類:顕微鏡観察、分光測定
募集人員:8 人程度
所要時間:約 4 時間
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