天然有機化合物の構造を理解するための 立体化学

天然有機化合物の構造を理解するための
立体化学
天然物医薬品化学 第4章 天然物質と立体化学 P101~
問2l-メントールに関する記述のうち、正しいのはど
れか。
構造訂正!
1. l-メントールは不斉炭素原子を4つ持つ。
2. AはBのエナンチオマーである。
3. BはCのジアステレオマーである。
4. CはAの環を反転させたものである。
5. l-メントールの最も安定な配座はCである。
薬学教育モデル・コアカリキュラム
C3 化学物質の性質と反応
(1)化学物質の基本的性質
GI0 【有機化合物の立体構造】
構造異性体と立体異性体の違いについて説明できる。
不斉と光学活性の関係を概説できる。
エナンチオマーとジアステレオマーについて説明できる。
ラセミ体とメソ体について説明できる。
絶対配置の表示法を説明できる。
炭素ー炭素二重結合の立体異性(cis, trans, E, Z異性)に
ついて説明できる。
7. Fischer投影式とNewman投影式を用いて有機化合物の
構造を書くことができる。
8. 立体配座とその安定性について説明できる。
1.
2.
3.
4.
5.
6.
立体化学の歴史
炭素四面体説(不斉炭素原子)
1874年 van’t Hoff & Le Bel
1865年 Kekulé ベンゼン構造
酒石酸分子の鏡像異性体の発見
1848年 Pasteur
1818年 Wöhler 尿素合成
光学活性物質の発見
1812年 Biot
実像
鏡像
不斉炭素原子:ある炭素原子に結合している4個の原子ないしは原子団
(リガンド)を全て相異する炭素原子
立体異性体:構造式は同一であるが,原子の空間的配列が異なる異性体
鏡像異性体:立体異性体の中でも互いに右手と左手,実像と鏡像の関係に
ある一対(エナンチオマー)
構造異性体:分子を構成する原子間の結合の種類あるいは配列順序が異なる
4
4.1.1 立体配置と立体配座
Configuration & Conformation
OH
メントール
1.(-)-menthol のエナンチオマーは?
2.(-)-menthol のジアステレオマーは?
3.(-)-menthol のエピマーは?
1.(-)-menthol のエナンチオマーは? → 鏡像異性体の関係
2.(-)-menthol のジアステレオマーは?→ 互いに鏡像関係にない立体異性体
3.(-)-menthol のエピマーは? → 1個の不斉炭素のみの立体配置の異なる
一対のジアステレオマー
OH
(-)-menthol
OH
(-)-isomenthol
OH
(-)-neomenthol
OH
(-)-neoisomenthol
エピマー
OH
(+)-menthol
エナンチオマー
OH
(+)-isomenthol
OH
(+)-neomenthol
ジアステレオマー
OH
(+)-neoisomenthol
4.1.1 立体配置と立体配座
CH3
OH
OH
H3C
CH3
(-)-menthol
14.6 kcal/mol
17.3 kcal/mol
4.2 立体配置異性体
鏡像異性体
HOH2C
H
対掌体
エナンチオマー(enantiomer)
CHO
CHO
C
C
HO
OH
H
CH2OH
鏡 面
(+) 右旋性
(dextrorotatory)
(-) 左旋性
(laevorotatory)
偏光面の回転方向
右旋性 ≒ (+) ≒ d
左旋性 ≒ (-) ≒ l
キラル(chiral)とアキラル(achiral)
光学活性物質による偏光面の回転
旋光=平面(直線)偏光を回転すること
光学活性物質=旋光性物質(キラル)
右旋性:dextrorotatory (+)
時計方向
左旋性:levorotatory (-)
反時計方向
d-カンフルの立体化学 P104
O
2個の不斉炭素
d-camphor
樟脳油
l-camphor
ヨモギギク
分子内に対称面あり!
4.2.2-3 Fischer投影式
Fischer投影式
くさび型表示
一個の不斉炭素をもつ分子の立体異性体
L-
D-
スレオースとエリスロース
Fischer投影式
L
L
二個以上の不斉炭素をもつ分子の立体異性体
D
D
メソ体
酒石酸
4.2.3
表示法 糖やアミノ酸
D/L
1 CHO
R1
CHO
H
OH 2-D
* OH
HO
R2
CH2OH
H
OH 4-D
D
D-(+)-glyceraldehyde
H
* OH 5-D
H
X
H
H
3-L
COOH
H
* NH
2
COOH
* OH
H
CH2OH
CH
3
D-(+)-serine
D-(-)-lactic acid
6 CH2OH
D-(+)-glucose
絶対配置 D/L
酸化度R1>R2
1 CHO
R1
X
CHO
H
HO
* H
HO
H
H
2-L
OH 3-D
COOH
H2N
* H
R2
CH2OH
HO
H
4-L
CH2OH
L
L-(-)-glyceraldehyde
HO
* H
5-L
L-(-)-serine
6 CH2OH
L-(-)-glucose
COOH
* H
HO
CH
3
L-(+)-lactic acid
4.2.4 R/S 表示法
2
CHO
4
H
C
OH
1
> CHO >
CH2OH
R
H
>
R rectus 右
OH
C
3 CH2OH
H
(O)
O
C
>
H
O
H
D-glyceraldehyde
S
2
NH2
COOH
1
> COOH >
CH2OH
H
>
4
H2N
C
H
C
3 CH2OH
C
O
H
H
(O)
O
O
L-serine
3
NH2
> CH2SH >
COOH
>
R
H
COOH
1
4
H2N
C
2
H
CH2SH
L-cysteine
C
H
S
H
C
O
O
O
S sinister 左
優位規則
1)原子番号の大きい方が優位。
2)同位体の場合は質量数大きい方が優位。
3)二重結合、三重結合は他端の原子を重複して単結合に展開する。
C
C
C
C
(C)
(C)
(C)
C
C
C
(C)
4)
C
O
(C)
C
C
N
C
O
(O)
(C)
(C)
(C)
C
(C)
(N)
N
(N)
phantom atom(0)
N
H
5) 芳香環
(C)
(C)
(C)
(C)
(C)
(C)
6)
4.2.5 幾何異性体 E/Z 表示法
二重結合の回転障害によって生じる異性体
trans/cis と E/Z (entgegen/zusammen)
4.2.5 幾何異性体 E/Z 表示法
trans/cis と E/Z (entgegen/zusammen)
シス/トランス cis/trans
β
β
OH
H
H
OH
α
trans -1,2-cyclopentane-diol
α
H
H
H
H
HO
HO
cis -decalin
H
H
cis -1,3-cyclopentane-diol
相対配置 α/β
trans -decalin
4.2.6 軸不斉(アトロプ異性)アレン異性体
allene
S
不斉炭素をもたない分子の光学異性体
R
軸不斉
4.2.6 軸不斉
アトロプ異性体
biphenyl
R
S
不斉炭素をもたない分子の光学異性体
軸不斉
4.2.6 軸不斉
3
3
3
3
3
3
Gomisin A
五味子のタンニン
アトロプ異性体
4.3 立体配座異性
4.3.1 配座異性体(conformational isomer)とNewman投影式
木挽台
staggered f orm
H
H
ねじれ形(安定)
H
H
C
C
H
H
Newman 投影式
H
H
H
H
H
H
eclipsed f orm
H
重なり形(不安定)
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
単結合(C-C)の回転によって生じ、互いに重ね合わせられない
特定の配置も持つ分子の空間配置!
n-butaneの安定配座
Conformational Energy
Energy (kcal/mol)
22.0
16.0
10.0
4.0
-180
二面角 dihedral angle
-135
-90
-45
0
45
90
C(1)-C(2)-C(8)-C(9)(degrees)
3
3
anti
180
Gauche
±60
eclipsed
0
135
180
(-)-ephedrineの安定配座
(-)-ephedrine
Conformational Energy
Energy (kcal/mol)
84.0
Anti Φ=180
69.0
3
54.0
39.0
-180
3
-135
-90
-45
0
45
90
O(11)-C(7)-C(8)-N(9)(degrees)
135
180
4.3.3 環状化合物の配座異性体
アキシャルaxial (a)
エクァトリアルequatorial (e)
問1 日本薬局方に収載されているエフェドリン((1R,2S)-2methylamino-1-phenylpropane-1-ol)の正しい構造はどれか。
S
S
S
R
R
S
3
3
3
3
R
R
3
3
3
(1R,2S)-2-methylamino-1-phenylpropane-1-ol
3
問2l-メントールに関する記述のうち、正しいのはど
れか。
1. l-メントールは不斉炭素原子を4つ持つ。
2. AはBのエナンチオマーである。
3. BはCのジアステレオマーである。
4. CはAの環を反転させたものである。
5. l-メントールの最も安定な配座はCである。
5
1
2
1S,2R,5S
1R,2S,5R
1R,2S,5R
5R
1. l-メントールは不斉炭素原子を4つ3つ持つ。
2. AはBのエナンチオマーである。
3. BはCのジアステレオマー配座異性体である。
4. CはAの環を反転させたものエナンチオマーで
ある。
5. l-メントールの最も安定な配座はC Bである。
3
1R
2S
問3 AとBが互いに立体配座(コンフォメーション)異性体
でないのはどれか。
立体配座:単結合周りの回転により生じる,分子内の原子や
置換基の空間的配置
幾何異性体:二重結合の回転障害によって生じる異性体
問4
AとBが互いにジアステレオマーの関係にあるのはどれか。
エナンチオマー
R R S
エピマー
エナンチオマー
R S S
ジアステレオマー:エナンチオマー以外の立体異性体!
エピマー:複数の不斉炭素を持つ化合物において,1か所の立体
配置だけが逆であるジアステレオマー!