上腕足首間脈波伝搬速度(baPWV)の10年間の縦断

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第 14 回 臨床血圧脈波研究会 フィーチャリングセッション 1 - ②
上腕足首間脈波伝搬速度
(baPWV)
の 10 年間の縦断研究から
−動脈硬化危険因子重積による検討からの解析−
福井敏樹(NTT 西日本高松診療所予防医療センタ所長)
圧と相関がある。baPWV 値のほうが CAVI 値に比べて
baPWV 値の有用性に関する
横断的研究
動脈硬化危険因子との相関が顕著で、メタボリックシン
ドロームの有無の差異においても baPWV 値のほうが優
これまで、われわれの施設では、人間ドックや健診受
れていたので、少なくとも生活習慣改善への指導には
診者を対象に横断研究を中心として、上腕足首間脈波伝
baPWV 値のほうが使用しやすい 4)。
搬速度(brachial-ankle pulse wave velocity;baPWV)値
の有用性について多くの報告を続けてきた。主な報告は
以下の通りである。
・軽症糖尿病患者において baPWV 値はすでに上昇してお
baPWV値と動脈硬化危険因子に
関する10年間の経年的変化の検討
われわれの施設における baPWV 値の測定が 10 年以上
り、なかでも尿中微量アルブミン陽性の軽症糖尿病患者
を経過し、今回改めて、この間の測定データを解析し、
では baPWV 値が有意に高値を示す 1)。
後向きに検討を行った。
・動脈硬化の危険因子の重積に伴い baPWV 値は上昇する。
わ れ わ れ の 施 設 の 人 間 ド ッ ク お よ び 健 診 を 受 診 し、
ただし、baPWV 値は種々の因子(血圧、性別、脈拍、体
baPWV 値を測定した(form ABI/PWV にて)延べ 22 ,377
格等)によって影響を受けるため、それに注意して結果
名のうち、初年度と 9 年後の検査をともに実施していた
2)
を解釈する必要がある
(図 1)
。
713 名(男性 626 名、女性 87 名)を対象とした。女性の人
・動脈硬化危険因子を喫煙以外には認めない男性におい
て、baPWV 値による喫煙の影響を検出するのは難しい 3)。
・baPWV 値 と cardio-ankle vascular index(CAVI)値 を
直接比較検討した。血圧の影響を抑えた CAVI 値でも血
数が少なかったので、男性について、baPWV 値の 10 年
間の変化量と、初年度の動脈硬化危険因子(肥満、高血圧
症、糖尿病、脂質異常症)の重積との関連を検討した結果
を報告したい(図 2)5)。
対象者のほとんどが同一企業に勤務しており、毎年人
間ドックレベルの健診を受け続けている集団である。ハ
図 1 ● 動脈硬化リスクファクターの重積における
baPWV の増加(文献 2 より引用)
(cm/sec)
3,000
2,000
イリスク群であっても、脳・心血管イベント発症などに
より脱落している者はほとんどいない。薬物治療など介
入の有無については 10 年前にさかのぼってのデータが
残っていないので考慮できなかった。
n=1,433
r=0.390
p<0.0001
初年度の動脈硬化危険因子の数でみると、やはり数が
多いほど、10 年目の baPWV 値が大きくなっている。と
平均年齢
47.3歳
ころが、baPWV の変化量で比較すると、危険因子の数が
多いほど変化量が少ない傾向にあるという、予測とは違っ
baPWV
た結果が得られた(ただし統計的な有意差はなかった)
。
集団の特性上、ハイリスク群に対しては濃厚な介入が行
われた可能性はあり、本人への生活改善への行動変容も
1,000
十分促され、それが増悪の伸びを抑制したと推測できる。
この結果を、われわれの施設での動脈硬化危険因子を
0
n=443
n=557
n=276
n=127
n=30
1,318±10 1,420±10 1,530±19 1,625±25 1,728±52
0
1
2
動脈硬化危険因子数
24
3
4 (個)
もたない者における baPWV 値の推移に、初年度危険因子
が 4 の者の値を照合してみると、40 歳代半ばにしてすで
にかなり大きな値を示し、危険因子をもたない者に比べ
て値に大きな差を認めていることになる(図 3)
。おそらく
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フィーチャリングセッション 1
フィーチャリングセッション1②
図 2 ● 動脈硬化リスクファクター数別の 10 年間の baPWV の変化(男性 626 名)
(文献 5 より引用)
baPWV
1,700
1,600
(cm/sec)
180
リスク 0
リスク 1
リスク 2
リスク 3
リスク 4
160
1,500
1,400
120
100
80
60
40
1,300
1,200
n=626
140
∆ baPWV
(cm/sec)
1,800
20
初年度
0
10年目
n=169
n=207
n=145
n=85
n=20
0
1
2
3
4
初年度平均年齢47.1歳
初年度 baPWV
リスク 0
1,287 ± 12
リスク 1
1,387 ± 16
リスク 2
1,447 ± 19
リスク 3
1,513 ± 21
リスク 4
1,576 ± 43
average ± SE(cm/sec)
20 歳代ではまだあまり健康状態に大きな差がない集団だ
と考えられるので、20 歳代∼ 40 歳代半ばまでのより早期
10 年目 baPWV
1,413 ± 16
1,505 ± 19
1,536 ± 24
1,561 ± 29
1,599 ± 44
る baPWV 値により、動脈硬化の危険因子が多いほど動脈
硬化が進展しやすいことがわかる。動脈硬化危険因子を
重ねもつ者は、40 歳代半ばにはかなり動脈硬化が進んだ
状態になっていることも確認された。そして 40 歳代半ば
からの 10 年間の変化から、10 年間の指導や治療などの介
入により、加齢による変化を抑制しうる可能性もあるこ
(cm/sec)
1,600
この間のアプローチが重要!
**
**
1,500
baPWV
これらの検討から、大血管のスティフネスの指標であ
∆ baPWV
126 ± 12
117 ± 14
89 ± 17
48 ± 24
23 ± 41
図 3 ● 男性各年代別健常者(動脈硬化危険因子なし)にお
ける baPWV 値の推移(横断データ)
の介入が重要であることが示唆される。
動脈硬化対策は、40 歳以前の
早期介入と継続的な検査による
フォローアップが重要
(個)
初年度リスク数
**
**
**
**
1,400
**
**
1,300
**
1,200
1,100
1,000
初年度リスク 0
初年度リスク 4
p<0.01
**
n=86
n=168
n=430
n=746
n=28
20 歳代
30 歳代
40 歳代
50 歳代
60 歳代
年齢
とが見出された。すなわち、動脈硬化対策は、40 歳以前
の早期から介入を開始し、ずっと継続することが重要で
あろうと考えられる。
今後はさらに、baPWV 値の変化量に寄与する因子の分
析などについて検討を続けたい。
文献
1) 福井敏樹 , ほか . 軽症 2 型糖尿病における baPWV/ABI 測定の意義 . 健康
医学 2003 ; 18 : 159 -62 .
2) Fukui T, et al. Attention for the Interpretation of Measurements of
Brachial-Ankle Pulse Wave Velocity. Ningen Dock 2005 ; 19 : 29 -32 .
3) 福井敏樹 , ほか . 喫煙の影響は脈波伝播速度で検出可能か . 人間ドック
2006 ; 21 : 58 -62 .
4) 福 井 敏 樹 , ほ か . 動 脈 硬 化 検 査 に お け る 上 腕 足 首 間 脈 波 伝 播 速 度
(baPWV)と心臓足首血管指数(CAVI)値の比較 . 人間ドック 2008 ; 23 :
70 -6 .
5) 福井敏樹 , ほか . 上腕足首間脈波伝播速度(baPWV)の 10 年間の縦断研究
から−動脈硬化危険因子重積による検討からの解析− . 第 36 回日本高血
圧学会総会プログラム・抄録集 . 2013 ; p289 .
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