第 60 回日本透析医学会学術集会・総会 母乳の不思議 モーニングセミナー 1 何故、母乳栄養児に 貧血 が少ないのか 司会 秋葉 隆 先生 演者 東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター血液浄化療法科 教授 日時:平成27年 川上 浩 先生 共立女子大学大学院 家政学研究科 教授 6 月 27日( 土 )7: 3 0 ∼ 8 :15 会場:パシフィコ横浜 第 6 会場(会議センター 502) 〒220-0012 横浜市西区みなとみらい1-1-1 TEL 045 -221-2155 共催:第 60 回日本透析医学会学術集会・総会 / 鳥居薬品株式会社 母乳の不思議 何故、母乳栄養児に貧血が少ないのか 母乳は、新生児の発育に必要不可欠な栄養素が、過 LF 結 合鉄は、生体内の様々な生 理作用との関連で 不足なく含まれる完全栄養物であるといわれている。 研究されている。その一つが貧血改善効果であり、貧血 育児 用 調 製 乳には 鉄 が 8 ∼12μg/mL となるように 傾向にある成人女性に LF 結合鉄を12 週間投与したと 配合されているが、母乳の鉄濃度はわずか 0.2 ∼ 0.5 ころ、ヘモグロビン値等の有意な改善が認められた。興 μg/mLであり、育児用調製乳の10 分の1以下と格段に 味深いことに、これらの貧血指標は正常域まで改善す 少ない。しかしながら、健康な母親の母乳を飲んでいる ると、これを超えて上昇することはなかった。すなわち、 新生 児には、鉄 欠乏性貧血がほとんど観察されない。 LF は鉄 欠 乏状 態では消化 管からの鉄吸収を促 進し、 母乳栄養 児は、少ない母乳中の鉄をどのようにして最 充足すると抑制することで、体内への鉄 供 給をコント 大限に活用しているのだろうか。この謎を解き明かす一 ロールしている。さらに、悪心・嘔吐などの自覚症状は つの鍵が、ラクトフェリン(以下、LF)という鉄結合性の 全くみられなかった。 糖タンパク質である。LF は、母乳栄養児の細菌感染率 また、小腸上皮細胞の刷子縁膜受容体を介して取り が人工栄養児に比べて低いことから、母乳中の感染予 込まれた LF は、核へ移行してカスパーゼ1の発現を高 防成分を探索する研究の中で発見された。 め、IL-18 の産 生を亢進させることも報告されている。 LF はトランスフェリンファミリーに分 類され、3 価の さらに、IL-6 等の炎症性サイトカインの産生を抑制し、 鉄との結合能が血清中のトランスフェリン(以下、TF) 抗炎症作用を有することも知られている。 の約 30 倍と極めて高い。ヒト以外の哺 乳類(サル、ウ このように、1939 年に初めて乳から発見された LF シ、マウス等)の乳にも含まれ、最も多いのがヒトの初 は、70 年間以 上の長い歴 史の中で多くの研究がなさ 乳である。動 物 種による違いもみられ、ウサギ、イヌ、 れ、現在では様々な生理作用に期待が寄せられている。 ラット等の乳には LF は存 在せず、その代わりに TF が 本セミナーでは、その中でもLFによる鉄吸収調節作用、 含まれることは興味深い。 および免疫調節作用を中心に解説する。 また、この LF の存 在は乳中に限ったものではない。 乳児から成人の膵液、涙、唾液などの外分泌液や、好中 球にも含まれている。特に消化管内では、膵液や胆汁を 通じて絶えず LF が分泌され、3 価の鉄の吸収に関与す The 60th Annual Meeting of the Japanese Society for Dialysis Therapy るともいわれている。 共立女子大学大学院 家政学研究科 教授 川上 浩 (かわかみ ひろし) 先生 学歴 受賞歴 1982 年 東京大学農学部 農芸化学科 卒業 1988 年∼1990 年 米国カリフォルニア大学デービス校栄養学部 1993 年 農学博士(東京大学) 職歴 2002 年 日本農芸化学会 Bioscience, Biotechnology & Biochemistry「論文賞」 2013 年 日本酪農科学会「学会賞」 学会活動 1982 年 雪印乳業株式会社 技術研究所 国際酪農連盟(International Dairy Federation)日本国内委員会 委員 1999 年 同社 栄養科学研究所 主査 日本酪農科学会 評議員 広報渉外委員長 2005 年 同社 技術研究所 主幹 腸溶性ラクトフェリン研究会 理事 2007年 共立女子大学 准教授 日本栄養食糧学会,日本農芸化学会,日本食品免疫学会,日本動物細胞工学会 会員 2009 年 共立女子大学 大学院 教授 2009 年 東京大学 大学院 非常勤講師
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