様式 3 学 位 論 文 要 旨 研究題目 Augmentation of Immune Checkpoint Cancer Immunotherapy with IL-18 (免疫チェックポイント抑制剤の抗腫瘍作用に対する IL-18 の増強効果) 兵庫医科大学大学院医学研究科 医科学 専攻 高次神経制御 系 整形外科 学 (指導教授 吉矢 晋一) 氏 名 馬 智峰 ウイルス感染やがんに対して防御的な働きを持つリンパ球の働きをコントロール、抑制する分子 (免疫チェックポイント;CTLA4, PD-1, PD-L1 など)の存在が明らかにされ、それらを標的とす るがん治療薬が開発され、実用化されている。現在は悪性黒色腫など一部のがんに適用が限られ ているが、新しいがん治療法として大きな期待が寄せられている。しかしながら、現在のところ、 この免疫治療薬の奏効率は限定的であること、自己免疫様の有害事象を引き起こすことなどから その奏効率の増大、適用の拡大とともに有害事象の低減など、いっそうの発展、改良が求められ ている。 IL-18 は動物実験で抗腫瘍物質としての作用が認められたことから、IL-18 によるがん治療研究も 行われ、Phase II の治療研究も行われたが、わずかの効果しか得られなかったのでこの研究は 中止された。しかし IL-18 に関する研究で IL-18 は抗腫瘍作用を持つ CD8 陽性 T, NK,γδT 細胞 などのエフェクター細胞を効率よく増殖させる作用を持つことがわかり、免疫チェックポイント 阻害薬の効果を増強する可能性が示唆されるにいたった。この研究では CT26大腸がん細胞を移 入したがん腹膜播種モデルを用いて IL-18 と免疫チェックポイント阻害薬との併用による治療効 果について検討を加えるとともに、IL-18 の作用機序の解析を試みた。 このモデルマウスに IL-18、抗 CTLA4 抗体、抗 PD-L1抗体を様々な組み合わせで投与、腹腔内 腫瘤の増殖、腹水貯留、生存率などに及ぼす効果について検討を加えたところ、阻害薬単独、あ るいは抗 CTLA4 抗体、抗 PD-L1抗体の組み合わせによる治療に比べて阻害薬と IL-18 を併用で 治療した場合ははるかに大きな治療効果をもたらした。IL-18 の作用機序について考察したとこ ろ、がん microenvironment における NK,CD8+T 細胞などのエフェクター細胞の増加と免疫抑制性 の Treg の減少が観察された。また asialoGM1 抗体や抗 CD8抗体を投与して NK 細胞や CD8+T 細 胞を除くと IL-18 と阻害剤の組み合わせによる治療効果が失われたことから、この治療法におけ る自然免疫の重要さが示唆された。免疫チェックポイント阻害薬によるヒトのがん治療において は60-70%の患者に皮膚、腸、肝臓、内分泌組織など多くの組織に有害事象が認められるが、 本研究においては IL-18 による有害事象の増悪化は認められなかった。これらの結果は IL-18 の がん治療応用の有益性を示唆している。
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