新しい硬さ試験

加工技術データファイル
データファイル通信 Vol0026
新しい硬さ試験(押込み硬さ試験)
(株)アカシ
小島
光司
1.はじめに
工業的に使用される材料は、その使用用途に対し十分な効果を発揮できるように機能性
材料化されており、それらを使用する分野も多方面に拡大し機能性材料も多種多様化して
います。
材料の機械的特性の評価試験方法としては、様々な方法が挙げられます。
硬さ試験方法は簡便で非破壊的な材料の試験方法として広く用いられ、中でも微小領域
における試験方法としては小さな試験力を用いたビッカース硬さ試験方法(俗に微小硬さ
試験またはマイクロビッカース硬さ試験)が一般的に知られています。
最近の機能性材料は電子機器の発展に象徴されるように微細構造化傾向にあり、それに
伴いμmオーダー寸法の材料特性を評価する必要性が増えています。それをかなえるため
に試験機として、押込み硬さ試験機(ユニバーサル硬度計、超微小硬度計、マルテンス硬
さ試験機など呼び名で呼ばれ、極小領域ではナノ・インデンテーション呼ばれる試験)が
商品化されています。
従来のビッカース硬さ試験方法は圧子押し込み後に試料表面を形成されるくぼみの大き
さを試験機に装備された光学顕微鏡で観察し、くぼみの対角線長さから硬さ値を求めてい
ます。この方法では前述したようなμmオーダー寸法の試料の硬さ試験を行おうとした場
合、硬さ試験に用いる試験力は、その条件より小さくすることになり、それにより形成さ
れるくぼみは小さくなり(対角線長さで数∼0.数μm)、くぼみ測定の精度が十分に得ら
れません。押込み硬さではこの不具合を補うため圧子駆動部に変位計を装備し、加えた試
験力と圧子の押し込み深さを測定することで材料特性を示すことのできる構造となってい
ます。
また、押込み硬さ試験の特長としては圧子押し込み過程での負荷する試験力(F)と押し込
み深さ(h)を連続的に測定し、押し込み深さ−試験力グラフ(図2)を表示することができ
ます。この曲線からは、塑性(Plastic)、弾性(Elastic)、クリープ(Creep)変形量の他、金属
材料のヤング率と関連性をもつとされている押し込み係数(Indentation Modulus)等を求め
ることができます。
主な試験機の仕様としては、
試験力:0.098mN(0.01gf)∼980.7mN(100gf)
設定自由
侵入量測定:0∼20μm、最小単位 0.1nm(ビッカースくぼみに換算すると d=140μm 相
当)
試験プロセス:負荷速度、保持時間、除荷速度を任意に設定可能
これに PC+データ処理ソフトなどが一体となっています。
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圧子
試験片の塑性変形残留くぼみの表面
試験片の最大押込み
および負荷時の表面
図1
Test Force
押込み時の変形
③Maximun test force
h1
②Increasing
④Hold
h2
Creep
⑤Decreasing
①Zero-point
⑥Test force = 0
h3
Plastic Disp.
図2
hr
Elastic
Disp.
Indentation
Displacement
試験力―侵入量曲線
2.規格
商品として既に数多く販売されていますが、規格が制定されたのは最近です。
ISO 14577 :2002 Metallic materials - Instrumented indentation test for hardness and
materials parameters
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・part 1 :Test method
・part 2 :Verification and calibration of testing machines
・Part 3 :Calibration of reference blocks
*この ISO 規格は上述の微小領域に制限せず、今までのブリネル、ビッカース、ロック
ウェルの試験力領域での試験を意識して作成されています。
JIS Z 2255 :2003 超微小負荷硬さ試験方法(Method for ultra-low loading hardness test)
3.材料特性
グラフより視覚的にスタート∼h1の曲線の傾きにより材料の剛性を見ることができま
す。また、h1∼h2の長短よりクリープ特性を知ることができる。h2∼h3の量によ
り弾性回復の大小が比較できる。などの今までの硬さ試験では、見ることの出来ない材料
の押込み時の挙動の比較が可能となります。また、硬さではないがそれぞれのhi のデータ
より、その変形量を分解して見ることができます。(図2
参照)
h1:(弾性変形+塑性変形)による深さ
h2:(弾性変形+塑性変形+クリープ変形)による深さ
h3:(塑性変形+クリープ変形)による深さ
(弾性回復による)
hr:弾性回復初期の曲線の傾き(接線)より得られる深さ
より、hi:押し込み深さhは試験をするときの力Pの大きさによって変化するので、
押し込み深さIとして正規化します。
弾性変形
Ie=I2−I3
塑性変形
Ip=I1−I2+I3
クリープ変形
Ic=I2−I1
4.硬さ及び各種係数
・HM(マルテンス硬さ)(旧 HU:ユニバーサル硬さ)
マルテンス硬さは負荷した試験力(F)とくぼみの表面積 A(h)との商と定義され、くぼみ表
面積 A(h)は圧子押し込み深さ(h)から算出します。
圧子はビッカース圧子とバーコビッチ圧子(軸芯対する面角が 65.03°)が紹介され、それ
ぞれ算出式は①式、②式となります。
HM =
F
F
=
A S ( h ) 26 .43 × h 2
・・・・・①式
HM =
F
F
=
A S ( h ) 26 .43 × h 2
・・・・・②式
F=Fmax、h=h2
を代入します。
上記、算出式の F は最大試験力で単位は(N)となります。また、算出式の h は最大圧子押
込み深さで単位は(mm)となります。マルテンス硬さの単位は(N/mm2)となっています。
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同じ式を使用して、h=hrを代入した可塑性硬さ HUplast があり、この値は通常のビ
ッカース硬さ(Hv)に近い値が取得できると言われています。
・HMS(マルテンス硬さ)
荷重・くぼみ深さ曲線の傾きから求める方法。深さ方向に硬さが均一な場合で、ゼロ点
のバラツキ、表面粗さ、振動などの影響が少なくなります。負荷曲線の 50%Fmax.と
90%Fmax.の間の2点データを使用します。
h = m× F
HMs =
1
2
m AS (h) / h 2
As (h)
h2
・HIT(押込み硬さ)
半永久的な変形あるいは損傷に対する抵抗を測定する値。
H IT =
Fmax:最大負荷試験力
Fmax
Ap
AP
:圧子と試験片が接している投影面積
Ap = 24 .50 × hc 2
ビッカース圧子
Ap = 23 .96 × hc
バーコビッチ圧子
2
hc = hmax − ε ( hmax − hr )
この場合
ε=3/4
・EIT(押込み弾性率)
材料のヤング率に対応する値
E IT =
Er =
υs、υi:試料、圧子のポアソン比
1 − (ν S ) 2
Er:押込み接点の減少弾性率
1
1 − (ν i ) 2
−
Er
Ei
π
2C A P
Ei:圧子の弾性率(DIA
AP
1.14×10^6)
=4.950×hc
ビッカース圧子
=4.895×hc
バーコビッチ圧子
C=dh/dF 接点のコンプライアンス、Fmax 時除荷曲線
・CIT(押込みクリープ)
試験力を一定にしてくぼみ深さの変化を測定する値。
C IT =
h2 − h1
× 100
h1
・RIT(押込みリラクゼーション)
押込み深さを一定にして試験力の変化を測定する値。
RIT =
F1 − F2
× 100
F1
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など各種の特性値が用意されています。いずれもまだ利用実績のないものであるが、今
後材料特性を示す特性値として期待できます。
なお、上記の特性値のうち試験機に搭載されているものは、マルテンス硬さ HM(ユニ
バーサル硬さ HU)、可塑性硬さ HUplast、押込み弾性率 EIT(押込み係数 Y HU)などがあ
ります。
5. 用途、応用
現在上記に示す試験機は、薄膜(特にハードコーティング、TiN、TiC、DLC 等)の評価
に多く用いられています。それ以外にも、材料の性質から光学的にくぼみの見えないもの
であったり、弾性体でくぼみが除荷とともに元に戻ってしまう材料など微小領域で押込み
試験でなくては試験できないような材料の評価に役立ちます。押込む先端(圧子)は色々
な形状のものに交換可能であるため、球面圧子による試験やフラット圧子を用いた微小領
域の圧縮試験など活用方法もあります。一方、試験条件では、ステップ的に負荷をする試
験方法や繰り返し負荷動作をする試験方法を用意する試験機もあり、今までの硬さの常識
を超えた微小領域での材料特性の評価方法の可能性を膨らませています。
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