牛飼いから経営者に

巻頭言
牛飼いから経営者に
雪印乳業株式会社
社外取締役
日和佐 信子
食品安全委員会は、20カ月以下、特定危険部位
をもたれていたのか、実に心もとない状況であっ
の除去を条件として、アメリカ産と国内産とでは
た。生産の現場は食品のスタート地点である。そ
リスクに大きな差はないという評価結果をまとめ
こで安全が確保できなければ先はない。飼育記録
た。承認されれば輸入が再開される。リスクに大
をつけ、いつどのような飼料を与えたか、罹患し
きな差はないと評価されたことが報道されると、
た病気と与えた薬剤などが、きちんと説明できる
いっせいに時期尚早、外交で成果を上げるためな
ようにする必要がある。抗生物質による耐性菌が
ら国民の安全を売るのかといった声があがった。
問題になっている。そのような知識も深めてほし
BSEほどいろいろな糸がからみあってひどく複
い。
雑になってしまった問題は他にないような気がす
る。
トレーサビリティが義務づけられた。アクセス
してみて半生が沖縄でも宮城県産、宮城で半分い
BSEで大混乱になった状況の中で消費者に安
ても山形牛になっているのを見ると、表示に違反
心してもらうために、全頭検査、特定危険部位の
しているわけではないが、やはり「そんなものな
除去、在庫になった国産牛の買い上げ、の三つの
のだ」という、期待を裏切られたような感じがし
方策がとられた。しかし、不幸にもそれは逆の効
た。そして牛肉は値段とおいしさが一致しない。
果を生み出してしまった。規制を強化することは
3品を試してみた。好みもあるのだろうが4等級
安全を確保することにつながると考えられがちだ
より2等級の方がおいしかった。肥育した牛がど
が、必要以上に規制を強くすればそれだけそこに
のようにして売られ、消費されているのか、一度
は危険性があるのだと受け止められるのである。
くらいは追いかけてみてはどうか。生産者も出荷
全頭検査はまさにその良い例といえる。そうして
したらそれで終わりではなく、どのように最終消
いったん決めたことはそれが不必要となっても止
費されているかを知ることによって、改善するこ
めることが難しくなる。危険性に対して適切な規
とやさらに充実していくことなどが見えてくると
制をかけるのが望ましいやり方なのである。
思う。
この大混乱があって、わが国の食品安全行政は
輸入量は徐々に増えていくだろう。その中でど
食品安全基本法の制定、食品安全委員会の設置と
うしたら消費者の手に取ってもらえるのか。「牛
抜本的に改革された。食品の安全は生産から加工、
飼い」の感性はとても大切だと思う。それに加え
流通、消費までのすべての行程で確保されなくて
て経営者として厳しく見直していくことが重要だ
はならないとされたのである。この行程の中で一
と思う。ブランド志向でいけば買える人だけの国
番遅れていたのが生産の現場だと思う。BSEが
産牛になってしまう。健康志向からいえばいつま
発生したとき、肉骨粉という言葉を初めて聞いた
でも「さし」の入った牛肉が多くの消費者に指示
と生産者からいわれた。イギリスでは大変な問題
されるとは思えない。国産への信頼が強い今の状
になっていたのだが、BSEに関する情報がどれ
況の中でこそ、安心で健康な国産牛の振興に一層
だけ生産者のところにいっていたのか、また関心
の努力が期待される。
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