大都市近郊の地の利を生かして(PDF)

JAトップインタビュー
大都市近郊の
地の利を生かして
長嶋喜満
神奈川県JA神奈川県中央会 副会長
ブランド化の展開をはじめ、都市直結の強みを生かし
て、農業の大切さを伝え、地域に密着した活動に取り
組む等、住民の理解を得ることを目指します。
◆農業の価値を PR
ます。宅地化が進む中で都市農業を継続する
――神奈川県の農業にはどのような特徴があ
には、こうした農地を守らなければなりません。
りますか。
そのために、3 大都市圏を中心としたJAグ
全国を代表する都市農業県だと思います。
ループは長年にわたり、
「都市農業の振興・都
大消費地近郊に立地する利点を生かして施設
市農地の保全に向けた基本法」の制定を求め
園芸、観光農園など多様な農業が営まれてい
てきました。
「都市農業振興基本法案」として、
今国会での成立が待たれます。特に農地の分
散を防ぐため、相続税など税制面での対策が
必要です。
また、住民の方々に農業やJAについて、
もっと知ってもらうことも課題です。農家以外
はJAを利用できないと思っている人も少なく
ありません。あるいは、JAの経済事業や共
済事業のことは知っていても、JAが協同の
原則に基づいた組織であるということをご存
じなく、一般の株式会社と同じように見てい
る方も多く見受けられます。
都市の農家は小規模で、それだけで生活で
きません。さまざまな方法で収入を得て、そ
れによって農地を維持しているのです。一方
横浜市から歴史的建造物の認定を受けた「神奈川県産業
組合館」の一部を保存・復元した、JAグループ神奈川
ビル(JA神奈川県連広報局提供)
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で農地は農業生産だけでなく、災害時の避難
場所や緑の憩いの場を提供するなど多面的な
ながしま・よしみつ
平 成11年 J A さ が み 監 事 に 就
任。 平 成20年 同 J A 専 務 理 事
を 経 て、 平 成23年 代 表 理 事 組
合 長、 平 成26年 か ら は 同 J A
代表理事会長、JA神奈川県中
央会副会長に就任。現在、JA
神奈川県信連経営管理委員会副
会長等。
機能を持っています。そのことを都市住民に
28万部、ほかにコミュニティー紙を年間 2回、
訴え、農業と共存できる関係を強化する取り
230万部発行しています。
組みが、いま求められています。また、JAに
は信用・共済事業があるからこそ、さまざま
◆ブランド化で支援
な事業や地域活動ができるのです。そのこと
――神奈川県農業について、どのような将来
もしっかりPRしなければならないと思います。
ビジョンを描いていますか。
その意味で直売所の開設やさまざまなイベ
県内各地の農産物直売所が、消費者との交
ントの開催は重要な役割を果たしています。
流・生産者の顔が見える販売拠点として浸透
現在、県内13JAのうち11JAが直営の大型
しています。また小規模販売農家や女性農業
ファーマーズマーケットを持ち、その売上高
者、定年帰農者などの多様な担い手がやりが
は90億円に達しています。
いを持って農業を継続しています。
さらに、農業・JAを知ってもらうための広
県内の農産物・農家を支援するため、
「かな
報活動が大事です。神奈川県の中央会・連合
がわブランド」の登録拡大に取り組んでいます。
会には全国に先駆けてつくった「JA神奈川
県・全農かながわと連携して「かながわブラ
県連広報局」があり、地元テレビ局で、農業・
ンド振興協議会」を設置し、ブランド登録・
農村・JAの役割などを理解してもらうため
PR などを通じて県産農畜産物認知度向上、消
番組作りを続けています。また機関紙は毎月
費拡大対策を展開しています。また登録ブラ
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JAトップインタビュー
かながわブランド振興協議会では、県内のブランド農産
物のパンフレットを作成(JA神奈川県連広報局提供)
いつもにぎわっている、JAさがみの農産物直売所「わ
いわい市」
(JA神奈川県連広報局提供)
ンドの安心・安全を担保する仕組みを強化す
知ってもらうことだと思っています。農家はモ
るため、平成23年度から生産基準やマーク表
ノをつくることが仕事で、それが評価される
示の確認と現物審査を取り入れた新たな審査
とうれしいものです。
制度を導入し、かながわブランド品の品質と信
農産物は手をかけると、その分だけ応えて
頼性の確保に向けた取り組みを行っています。
くれます。それが直売所などで、身近にいる
現在82品が登録されています。
消費者から評価されるとやりがいが高まり、
都市化の中で農業を継続していくため環境
農業をやろうという気になるものです。金銭
保全型農業の推進にも取り組んでいます。化
面だけでなく、精神面の満足が得られる。こ
学肥料・農薬の使用量を慣行栽培より3 割減
れが1次産業のいいところだと思います。
らす技術を導入するエコファーマーや、県知
事と協定を締結する団体の登録を促進してい
◆全員が認知症研修
ます。
――地域との密着ではどのような取り組みを
このほか、観光農園も盛んで、梨やブドウ、
していますか。
イチゴ、温州ミカン、ブルーベリーなどの果
農産物直売所のほか、准組合員・地域住民
樹の収穫や、サツマイモの掘り取りなど、体
を巻き込んだ生活文化活動、健康管理活動な
験型農業が定着しています。こうしたさまざ
どです。このひとつに、認知症サポーターの
まな取り組みを通じて、900万の県民、消費者
養成があります。組合員の一層の高齢化と認
から、身近に農家があってよかった、地域に
知症高齢者の急増が想定されることから、J
農地があってよかったと思っていただけるよう
A役職員ひとりひとりが認知症の基礎知識を
な地域づくりをしたいと思っています。
理解し、認知症の人やその家族の応援者とな
るため、平成25年度から 3 か年をめどに、J
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◆農業の魅力発信を
Aグループ神奈川の全役職員が認知症サポー
――担い手対策はどのように考えますか。
ターになるよう取り組んでいます。平成26年
JAさがみの組合長だったころは青年部の
12月現在、1万3,500人を超えるサポーターが
若者と積極的に話し合う機会を持ちました。
誕生し、平成27年度中には全JA・連合会で
その中から感じたことですが、担い手となる
の研修を行う見込みです。
農業の後継者を確保するには、農業の魅力を
高齢者や障害のある人などの「孤立死・孤
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持つことが大切だと思っています。
出身JAであるJAさがみでは、平成24年
度からCS(顧客満足度)改善運動に取り組ん
できました。各事業所に「CS リーダー」を置
のコーチング」「日次振り返りミーティング」
「職員間の連絡ノート」の 4 つの活動を中心に
職場の雰囲気を改善しました。その結果、職
訪問活動を通じた地域見守り活動は、事故の未然防止に
も役立っている(JA神奈川県連広報局提供)
員が利用者の目線で業務に取り組むようになり、
さまざまな改善が進みました。
独死」を防ぐため、神奈川県からの申し入れ
また、人材の育成では、組織縦割りの弊害
を受け、
「地域見守り活動」に関する協定を結
を改め、横糸を通すようにするべきだと考え
びました。JAの地域貢献、新たなファンづく
ています。JAの仕事をするまでは、当然な
りなどをアピールする観点から積極的に協力し、
がら、職員は農業に関する技術や知識を備え
県内13JA全てが協定を結び、現在、神奈川
ていると思っていましたが、意外とそうでない
県が推進する地域見守り活動の一翼を担って
ことが分かりました。
います。
これは組織の縦割りに問題があるのではな
いかと思っています。JAは総合事業を営む
◆感謝の念を忘れず
組織です。収益管理の意識を持ち、特に営農・
――JAの事業・活動を展開する上で、いま
経済部門を横糸でつなぎ、広く深い知識を
どのような職員が求められていますか。
持っていただきたいと思っています。
平成26年度から各JAにおける人材育成の
(撮影・JA神奈川県連広報局 曽根清貴)
一層の充実に向け、
「求められる職員像」をつ
くるよう働きかけています。具体的には、能
力を高める総合的な職員教育を通じて、人材
育成を進めることを目指します。JA内部で行
う職員教育内容を見直すとともに、中央会・
連合会が実施している研修にどのように派遣
したら効果的な教育ができるかなど、職員教
育体系の見直しを進めています。
私は常々職員に言っていますが、人は1 人
では何もできません。みんなが助け合ってこ
そできるのだと。何かを達成した場合、
「神さ
ま、仏さま、おかげさま」という気持ちを忘
れないようにしていただきたい。仕事で目標
を達成した場合、それは周囲の人たちのバッ
クアップがあったからという謙譲の気持ちを
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JAトップインタビュー
き、
「CS 改善ミーティング」
「上司から部下へ