第3回講義メモ

15 年度「比較経済史」第3回講義 Resume
17 世紀ーオランダの覇権と後進国イギリスの台頭へ
2015/04/19
(はじめに)
11・12 ~ 14 世紀は地中海イタリア諸国と北欧のバルト海諸国が中心。15 ~ 16 世紀はイベリア半島のスペ
イン&ポルトガルが中心。17 ~ 18 世紀は西ヨーロッパのオランダ・イギリス・フランスなどが中心とな
って(ヨーロッパを中心とした)世界経済が展開する。
ブローデルいうところに「長期の 16 世紀」を契機に、世界の経済は西ヨーロッパを中核とする資本主義
経済システムが形成され、イタリア諸国・北欧のバルト海諸国及びスペイン・ポルトガルは半辺境化し、
中核地域の資本主義システムに従属して行く。
本日のテーマは、17 世紀「彗星のような興隆」を遂げ、世界貿易を支配したオランダが、僅か 1 世紀
足らずの覇権に終わり、その後永らく経済的停滞に陥った。しかし逆に当時ヨーロッパにあって、中核地
域(スペイン、特にオランダ)に原料を輸出し工業製品や奢侈品を輸入するという典型的な後進国(=周
辺国)であったイギリスが、18 世紀になるとオランダに代って中核地域となり覇権を獲得し、その後 19
世紀末まで世界に君臨することが出来たのは何故か、という問題である。
《補足》
「覇権の交代」というテーマは歴史家のみならず多く研究者が取り組んで来た。邦訳のある著名なもので
は、P.ケネディ『大国の興亡』(草思社)、P.C.キンドルバーガー『経済大国興亡史』(岩波書店)、D.S.ラ
ンデス『強国論:冨と覇権の世界史』(三笠書房)等々がある。それぞれに説得力があり、この3冊は読み
物としても傑出している。最も体系的なのは I.ウオラースティン『世界システム論Ⅰ-Ⅳ』(名古屋大学
出版会)である。
1.歴史概観
16 世紀の終わり頃からスペインにかわってオランダが「彗星のような興隆」(当時の人々の評価)をし、17
世紀前半「黄金時代」を迎える。
☆ 1568 ‐ 1648 年八十年戦争/ 1572 年独立戦争開始/ 1579 年ユレヒト同盟/ 1581 年オランダ独立宣言、
/ 1581 年ネーデルランド共和国成立( 北部7州独立ー中心ホラント州 Holland・ウィルレム1世)/ 1588
年アントウェルペン (ネーデルランド南部) 陥落→商人・手工業者: 北部へ移住→アムステルダムの台頭
/ 1602 年オランダ東インド会社設立/ジブラルタルにイスパニア艦隊を破る/ 1619 年ジャワ島にバタビ
ア市を建設し香料貿易の実権を握る/ 1621 年西インド会社設立/ 1630-54 年ブラジルのバイア地方を占
領大規模な砂糖プランテーション展開/1651 年イギリス・クロムエル航海条例/ 1652-54 年第1次蘭英戦争
(65-67 年第2次蘭英戦争・72 ~ 74 年第3次蘭英)/ 1667-68 年蘭仏戦争/ 1672 年ルイ 14 世オランダに
進入/ 1674 年英・オランダとウエストミンスター条約締結(オランダの海上権喪失)⇒オランダの衰退
/ 1795 年フランス軍の侵入によってオランダ共和国は崩壊
2.オランダ繁栄の外的諸原因
オランダの繁栄を築いたのは何と言っても“貿易”である。
1)、1500 ~ 1650 年にかけてヨーロッパは持続的な人口増加→食料需要増大→農業危機と続いた。この時
期オランダは東欧産の穀物を一手に取り扱い、穀物「中継貿易」によって膨大な利益をものにした。
2)、ヨーロッパ随一の商船隊を擁していた。
3)、当時イベリア半島とイタリア、さらにハンザ゙貿易圏の中間にオランダが位置していたため、交通・
通信の中間点として、アントウエルペンの陥落後アムステルダムが台頭し、そこを起点に国内に商業、金
融、さらには工業の勃興が見られた。
4)、新大陸の銀の流入
スペインは食糧不足をオランダの中継貿易に依存した。また、造船用の木材、ピッチ、タール及び帆布、
ロープ製造用の大麻も必要でありこれらもオランダの中継貿易に依存した。その対価として銀が支払われ、
オランダは大量に流入する銀を背景にアムステルダムを国際金融のセンターに押し上げるとともに、東イ
ンド会社の胡椒の支払いに充てた。
5)、海軍力と火砲の軍事力を背景とした、東西貿易の独占
*1602 年( 1799 年廃止) オランダ東インド会社設立/香料の原産地: モルッカ諸島、ジャワ島征服→ポル
トガル、スペイン、イギリスを締め出し東方貿易を独占、東アジア・極東の諸都市に商館を設け三国間貿
易でも巨富を得る。
3.オランダ繁栄の内的諸要因ーアムステルダム周辺での諸工業の発展
1)、毛織物工業の優位
オランダが繁栄した真の原因は諸工業の発展にあった。特に主要貿易商品であったライデンの「毛織物」
を中心とする織物工業はその技術的水準で当時のヨーロッパで抜きん出ていた。
2)、重要産業としての漁業の発展
漁業は貿易、海運業、工業と並んでオランダの重要な産業であった。
3)、農業革命(フランドル農法)
フランドル地方で試みられた新しい農法=フランドル農法(→イギリスに伝わり「農業革命」)によって、
国内的にも農業生産力の向上があった。
4)、中継加工貿易(トラフィーク貿易)⇒オランダ型産業構造の典型
オランダの繁栄を良きにつけ悪しけにつけ特徴付けるのは「仲継貿易」による繁栄と並んで、それに関
連した「加工貿易工業 Trafiek」( 精塩、精糖、石鹸、染色、造船、醸造、タバコ加工等)である。
4.オランダの衰退
17 世紀後半からオダンダ経済は停滞を始めるー衰退の諸原因
1)、バルト海地方との穀物貿易の衰退
2)、イギリス(1651&1660 年)・フランス(1664&1673 年)のオランダ仲継貿易の締め出しと両国の世界貿易
への進出が著しくなりはじめる(1588 年イギリスの制海権掌握)。
3)、「前期的」な都市貴族(ヘレント)層が都市を支配していたため、オランダではイギリスと比較する
とギルド制の規制が厳しく、国内工業の衰退を招く一因となった。
4)、鰊漁場が南下し同時に不漁時代が始まったことも大きい。
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5.オランダ経済の問題点(経済構造=貿易加工型経済構造)
1)、自立した「国民経済」の建設を怠り加工貿易工業にのみ集中したこと。仲継貿易と加工貿易工業によ
る貿易加工型経済構造
2)、また、国民経済建設のための生産力基盤の整備を怠った。オランダは貿易商人= 都市貴族の支配・連
合によって成り立っており、国内工業育成の為の「保護関税」に反対した。
3)、さらに、1645 年にはブラジルも放棄し植民地建設の熱意もなかった。1664 年ニューアムステルダム植
民地イギリスに征服さる、1674 年イギリスとの間で「ウエストミンスター条約」締結によってオランダ
の海上権は衰退していった。
Ⅱ.後進国イギリスの台頭ー 15 世紀以降イギリスの貿易構造及び生産構造(社会構造)に変化の兆しが
現れる
1.歴史の概観
1485 年百年戦争終結、続く 1455 ~ 1485 年バラ戦争/ 1485 年ヘンリー 7 世によるチュウーダー絶対王政成立
/1588 年英海軍スペインの無敵艦隊を撃破/ 1600 年イギリス東インド会社設立/ 1642 年ピューリタン革
命・1688 名誉革命/ 1760 年代~産業革命開始
2.イギリス経済の転換期-後進国イギリスの台頭
「15 世紀」はイギリス経済の重要な転換点であるといわれる
1)貿易構造の転換
①イギリスはスペインと並んでヨーロッパにおける羊毛生産国で、それまでは原料を先進工業国であるス
ペイン、オランダに輸出していた。しかし 15 世紀を境に、それまでの羊毛貿易を外国人の手から取り戻
し、毛織物製品の輸出に係わる商人が国王より特許を得て「マーチェントアドベンチャラーズ」を組織す
る。
②さらに 16 ~ 17 世紀になると、次第に単なる羊毛原料としてではなく、半加工の白地広幅織をオランダ
に輸出するようになる。しかしここで注目しなければならないのは、原料にせよ半製品としてにせよ、羊
毛の海外への輸出が減って、国内での需要が増えて行くことである。
2)生産構造の転換
③ 14 世紀の農業危機に続き、15 世紀も農業生産は全体的に低下し、国内の穀物取引も減少した。⇒工業
へシフトし始める
④中世都市も衰退し、外国貿易も衰退(領主的貨幣経済の衰退と領主層の経済困窮)
3.イギリス経済の転換
1)このような一見経済的衰退現象の中で、農村を中心にイギリス経済は大きく転換(農民的貨幣経済の成
立と農民の繁栄)して行った:農奴制の廃止、地代の引き下げ、商品売買の自由の獲得→独立自営農民(ヨ
ーマン))の成立、物価下落、農業日雇い賃金の上昇「イギリス農業労働者の黄金時代」(ロジャーズ)/
農民の間に広範に「民富」(comonweal)が形成される!それがやがて「資本の原始的蓄積」がおこなわれ
る場合の資金的な原資となった。
2)都市の衰退の背後で農村の繁栄:農業生産力の高まりの中で農・工の分離(社会的分業の展開)がおこ
り、中世都市を支えていた遠隔地市場圏に対抗して農村を中心に「局地的市場圏(Localmarket Area)」が
成立。
【参考文献】
石坂昭雄『オランダ型貿易国家の構造』未来社
大塚久雄「オランダ型貿易国家の形成」『西洋経済史講座 Ⅳ』岩波書店
大塚久雄『国民経済ーその歴史的考察』講談社学術文庫
栗原福也「オランダ経済の興亡」『講座西洋経済史 Ⅰ』同文舘
I.ウオラースティン『近代世界システム:1600 ~ 1750』名古屋大学出版会
田口一夫『ニシンが築いた国オランダ―海の技術史を読む』成山堂書店
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