PDFファイル

CML・ALL 集いの輪
慢性骨髄性白血病・急性リンパ性白血病の総合情報サイト
http://www.bms.co.jp/cml/
Beside you 第3回
大学院時代、CMLを発症した後輩を自らの手で救うことができなかった悔しさから、血液がんの臨床医になる
決心をした岡本先生。研究と治療の最前線を走り続ける専門家だからこそ気付くことができる大切なこととは?
主治医を信頼して、
あまり思い悩まずに
治療を続けて欲しい
慶應義塾大学医学部血液内科
教授・診療部長 岡本 真一郎 先生 岡本 真一郎 先生プロフィール
1979年3月 慶應義塾大学医学部卒業
1983年3月 慶應義塾大学医学部大学院卒業(医学博士)
1985年7月 米国 Emory大学(Division of Hematology/Oncology,Department of Medicine)Research
1988年4月 米国 Fred Hutchinson Cancer Research Center Clinical Fellow
1990年10月 東京大学医科学研究所病態薬理学研究部助手 同内科骨髄移植チーム Chief
1993年4月 慶應義塾大学専任講師
2002年4月 准教授
2005年10月 慶應義塾大学病院血液リウマチ内科診療科部長
2009年5月 教授
趣味はスキーと映画鑑賞。大学ではスキー部のキャプテンを務めた。
血液がんの専門医になられたきっかけを教えてください。
血液学の先生の講義が面白くて血液学を専攻したのですが、大学院
では造血幹細胞の基礎研究をしていました。
そのときに、4年後輩の
内科医がCMLになったのです。
当時は有効な薬などなく、唯一の治
療が骨髄移植。
それも、
日本ではほとんど行われていませんでした。
そ
こで、
シアトルの移植チームで骨髄移植を受けることになり、
当時とし
ては莫大な治療費を皆で集めて、成田空港北ウイングで旅立つ彼を
見送りました。
出国の階段のところで、
いつまでもいつまでも若き血
(慶應の応援歌)
を歌い続けた時のことを忘れることはできません。移
植は無事に終了したのですが、残念ながら2年後に再発し、今彼の笑
顔を見ることはできません。
自らの手で後輩を助けることが出来なかった悔しさから、血液がんの臨床医になる道を選んだのです。
CML・ALL 集いの輪
慢性骨髄性白血病・急性リンパ性白血病の総合情報サイト
http://www.bms.co.jp/cml/
Beside you 第3回
患者さんに告知するときに、気をつけていることはどんなことですか。
近年、効果的な経口薬が開発されたことで、CMLの治療は劇的に進
歩しました。移植も難しかった時代から白血病に取り組んできた医師
にとっては、飲み薬でよくぞここまで治療できるようになったと実感す
る部分が確かにあります。
そのため、告知するときも
「CMLですが、昔
と違っていい薬がありますよ」
と、短い会話で終わってしまいがちです。
しかし、昔の患者さんも、今の患者さんも、告知を受けたときのショッ
クは同じはずです。初めてCMLと言われ、悲しくて混乱している人に、
「昔と違って・・・」
などと言っても、励ましにはなりませんよね。医師は
そこに気をつけなければといけないと思います。
だから私は、外来診察室とは別の部屋で、病気のことや治療内容について、患者さんが理解できるよう
に時間をかけて説明するようにしています。
CMLの患者さんが療養生活をするうえで、大事なことは何でしょうか。
CMLは健診で見つかることが多く、
ほとんどの方が無症状の段階でCMLと診断されることになります。
ですから、
「CMLです」
と言われても、
「症状もなく元気なのに、
なぜ?」
と、
にわかには信じられないので
す。
また、
そういう状態ですから、薬を飲み続けなければならないことに抵抗感もあるでしょう。
しかし、何もしないと悪化していき、最終的に急性転化を起こしてしまいます。
そのことをよく理解して、
医師の指示通りに薬をきちんと飲むことがとても大事なのです。
また、副作用が現れた場合も勝手に量
を減らしたり、
中止したりせず、必ず医師や看護師に連絡していただきたいと思います。
CMLの患者さんが心安らかに、前向きに療養生活を続けられるよう、
アドバイスをお願いします。
経口薬が出る前は、骨髄移植やインターフェロン治療の指導を受け
るためにCMLの患者さんも入院する必要がありました。入院するの
は大変ですが、病棟で同じ病気の患者さんと知り合い、仲良くなって、
患者さん同士で情報交換をしたり、励まし合ったりできるという利
点もあったのです。
ところが、今は外来で治療できるようになったので、患者さん同士の
横のつながりができにくくなってしまいました。
長い闘病生活では、患者さん同士で話し合えることがとても大事で
す。辛い経験をシェアできる人がいることは、心の安らぎにつながり
ます。
病院で横のつながりができないなら、
患者会に入るのもひとつの手です。
癌や血液疾患の患者さん
の会がいくつもありますし、
CML患者さんだけが集う
「いずみの会」
もできました。
いろんな情報交換が
できますし、
自分ひとりが苦しんでいるわけではないことがわかるだけでも、
心の支えになると思います。
CML・ALL 集いの輪
慢性骨髄性白血病・急性リンパ性白血病の総合情報サイト
http://www.bms.co.jp/cml/
Beside you 第3回
患者さんがCMLに関する情報を調べるときのポイントを教えてください。
患者さんは病気のことを知りたいと思いますし、
自分が受けている治療が適切なものなのか、時流に
遅れてはいないかと気になることもあるでしょう。今はCMLに関する書籍がたくさん出ていますし、
イ
ンターネットでいろんな情報にアクセスすることもできるので、情報がなくて不安になるということは
ないと思いますが、逆に情報が氾濫しすぎて、正確な判断をするのが難しいかもしれません。怪しげな
療法の宣伝もあります。
また、学会で発表された動物実験レベルの研究成果が、新聞やインターネット等で
「●●大学が素晴
らしい治療を開発した」
というように報道されてしまうと、患者さんは過度な期待を抱いてしまいます。
それが近い将来の話なのか、
まだまだ先の見えないことなのかを見極めないと、期待が広がった分、
がっかりすることにもなりかねません。
とはいえ、気のすむまで調べることで安心が得られるなら、
それは悪いことではありません。
また、調べ
て疑問に思ったことを主治医に聞いてみてもいいと思います。
診察時間が短くても、患者さんが満足のいく医療を受けるコツを教えてください。
医師との面接時間が短いことに不満をもつ患者さんは多いと思います
が、現在の日本の医療システムでは、医師が1人の患者さんにかけられ
る時間はどうしても限られてしまいます。
それは、
とても残念なことです
が、医師個人の努力で解決できる問題ではないので、
その状況を受け
入れて、
むしろ、限られた時間をいかに有効に使うかを考えたほうがい
いと思います。
短い時間で言いたいことをうまく伝えるために、例えば診察前にメモし
ておいたり、紙に書いて医師に手渡してもいいでしょう。
また、
いろいろ
な不定愁訴があっても、
すべて訴えるより、新しく起きた症状を重点的
に伝えたほうが、医師は問題を把握しやすいのです。
医師は一人ひとりの患者さんに合わせてうまく接するように気をつけていますが、患者さんも医師とう
まくコミュニケーションする術を心得ていただくと、
いい会話ができて、結果的に満足度の高い診察が
うけられるのではないでしょうか。
患者さんがよりよい療養生活を送れるよう、
メッセージをお願いします。
主治医が忙しそうだとしても、何か気にかかることがあったら、遠慮しないで相談したほうがいいと思い
ます。病気がよくなってくると、子供を持ちたいとか、医療費が負担であるとか、
いろんな問題に目が向い
てくると思いますが、患者さんは
「命にかかわること以上のことを望んではいけないのではないか」
と自
分でブレーキをかけてしまう傾向があります。聞いても、医師から必ずしもよい答えが返ってくるとは限
りませんが、話し合いをしていくことが重要なのです。
そして、
あまり思い悩まずに、主治医を信頼して治
療を続けていただきたいと思います。